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カマキリは どうやって きょりを はかるの? くびと かまと たまごの ふしぎ

カマキリはどうやって獲物までの距離を測るのか ── 首、鎌、泡の卵、冬越し

カマキリは獲物までの距離をどう測るのか ── 3Dめがねの実験から、首・鎌・卵鞘・冬越しまで

分野:生きもの

あきの くさむらで、カマキリが じっと して います。こちらを むいたと おもったら、からだは そのまま、あたまだけが ゆっくり まわりました。

この むしは、えものが かまの とどく ところに いるか どうかを、どうやって しって いるのでしょう。このメモでは、めがねを つけた カマキリの けんきゅうから はじめて、くびの ひみつ、じっと まつ ひみつ、かまの はやさ、あわに つつまれた たまご、ふゆの こしかたまで、しらべて いきます。

秋の草むらで、カマキリがじっとしています。こちらを向いたと思ったら、体はそのままで、頭だけがゆっくり回りました。

この虫は、獲物が鎌の届くところにいるかどうかを、どうやって知るのでしょうか。このメモでは、小さな3Dめがねをかけたカマキリの実験から始めて、首のしくみ、じっと待つ狩り、鎌の速さ、泡につつまれた卵、雪の下での冬越しまでを、論文や図鑑でたどります。

秋の草むらで、カマキリがじっとしている。こちらを向いたと思ったら、体はそのままで、頭だけがゆっくり回る。

この虫は、獲物が鎌の届くところにいるかどうかを、どうやって知るのか。2016年には、カマキリの頭に3Dめがねを貼りつけて調べた論文が出た。このメモでは、その実験から始めて、首のつくり、待ち伏せの狩り、鎌の速さ、泡につつまれた卵鞘、雪の下での冬越しまでを、論文・図鑑・大学の資料でたどる。

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1. めがねを つけた カマキリは、なにを みたの?

1. 3Dめがねをかけたカマキリ ── 両目の見え方のずれで距離を知る

1. 3Dめがねをかけたカマキリ ── 両目の像のずれ(視差)から距離を測る

カマキリの あたまに、ちいさな 3Dめがねを つけた けんきゅうが あります。あおと みどりの ちいさな フィルターを、ミツロウで くっつけました[1]。

がめんの なかで、くろい まるが うごきます。みぎの めと ひだりの めに うつす まるの ばしょを、すこし ずらします。「まえに いる」ように みせると、カマキリは かまを ふりだす ことが おおく なりました。

ものが ちかいほど、みぎの めと ひだりの めに うつる ばしょの ずれは おおきく なります。カマキリは この ずれを つかって、きょりを しらべて いるようです。

2016年、イギリスのニューカッスル大学のチームが、カマキリの頭に小さな3Dめがねを貼りつけました。直径7ミリほどのしずく形の青と緑のフィルターを、ミツロウとロジンを混ぜたもので、左右の目の前に固定しています。実験に使われたのは、日本にはいない種(Sphodromantis lineola)のメスの成虫です[1]。

画面では、黒い円盤がうずまきを描きながら中心へ動きます。左右の目に見せる位置を少しずらして、「画面より手前にある」ように見せると、カマキリは前あしを振り出す回数が多くなりました。ずらさない場合や、奥にあるように見せた場合より、はっきり多かったそうです。カマキリが見ていたのは平らな画面ですが、めがねを通すと、届く距離に虫がいるように見えたのだと考えられます[1]。

近い物ほど、左右の目に映る位置のずれは大きくなります。このずれから距離を計算する見え方が、立体視です。カマキリの脳には、このずれに反応する神経細胞も見つかっています[2]。

ただし、この立体視は人と同じしくみではないようです。人は左右の像の明るさの模様を照らし合わせますが、カマキリは、明るさが変わる場所に注目する方式だと報告されています[3]。しかも、振り出すには、獲物が動いて見えることと、立体視で届く距離だと判断されることの両方が必要でした。この実験では、図形の動きがない刺激には、振り出しませんでした[4]。

2016年、イギリスのニューカッスル大学のチームが、カマキリの頭に小さな3Dめがねを貼りつけた。直径7ミリほどのしずく形の青と緑のフィルターを、ミツロウとロジンを混ぜたもので左右の目の前に固定する方法だ。赤い光はカマキリに見えにくいので、青と緑を使っている。実験に使われたのは、日本にはいない種(Sphodromantis lineola)のメスの成虫である[1]。

画面では、黒い円盤がうずまきを描きながら中心へ動く。左右の目に見せる像の位置を少しずらし、「画面より手前にある」ように見せると、カマキリが前あしを振り出す回数は、ずらさない場合や奥に見せた場合より有意に多かった(p<0.01)。画面までの距離は5、7、10センチで、調べた個体は6匹(5センチ)と4匹ずつ(7、10センチ)である。数は少ないが、平らな画面がめがねを通して「届く距離にある虫」に見えたと解釈できる[1]。

近い物ほど左右の目に映る位置のずれ(視差)は大きい。これを使って距離を出す見え方が立体視だ。カマキリでは1983年にプリズムを使った研究があったが、昆虫に立体映像を見せる方法がなく、その後30年ほど研究が進まなかったと論文は書いている[1]。2019年には、2種のカマキリの脳から、特定の視差と方向に反応する神経細胞が17個記録された[2]。

人の立体視とは、しくみがちがうらしい。人が左右の像の明るさの模様を照らし合わせるのに対し、カマキリは明るさが変化する場所に注目する方式で、動く標的の距離をとらえられるが、静止画で働く証拠はないと報告されている(2018年)[3]。さらに2019年の実験では、攻撃が起きるには、獲物が動いて見えること(図形の動き)と、立体視で届く距離だと判断されることの両方が必要で、この実験では、図形の動きがない刺激に対して攻撃は起きなかった[4]。では、動かない物までの距離は、どう測るのだろうか。

2. うごかない ものまでの きょりは?

2. 動かない物までの距離 ── 頭を横にゆらして見る

2. 動かない物までの距離 ── 頭の横ゆれ(ピアリング)と運動視差

カマキリの あかちゃんは、うごかない ものの あいだを えらんで うつる とき、たいてい いちばん ちかい ものを えらびます[5]。

その とき、あたまを みぎ ひだりに ゆらして みています。ちかい ものは、あたまを ゆらすと おおきく はやく ずれて みえ、とおい ものは あまり ずれません。この ちがいから、きょりを しるようです。

やってみよう

つくえの うえで、えんぴつを 1ぽんずつ りょうてに もちます。うでを のばして、えんぴつの さきと さきを ちょんと あわせて みます。つぎに、かたほうの めを とじて、もう1かい やって みます。さきを めに ちかづけないで ください。

止まっている物までの距離は、別の方法で測るようです。カマキリの幼虫は、見晴らしのよい場所から移ろうとして、距離のちがう止まった物の中から選べるとき、たいてい一番近い物を選びます。背景が横じまのときは選びやすく、縦じまのときは選びにくいという結果も出ています[5]。

このとき幼虫は、頭を左右にゆらします(ピアリングと呼ばれます)。頭を動かすと、近い物は目に映る位置が大きく速くずれ、遠い物はあまりずれません。このずれの大きさで距離を知ると考えられています。これを確かめるため、研究者は、幼虫が頭をゆらしている最中に、目の前の物をわざと動かしてみました。すると、頭の動きと物の見かけのずれの対応が、本当の距離とは合わなくなります。それでも幼虫は、この作られたずれを手がかりに判断してしまい、距離をまちがえました。この、ずれそのものにだまされる様子は、頭の横ゆれで生まれる見かけのずれが、距離の手がかりとして直接使われている証拠になります。この能力は、目が十分に発達していない生まれたての幼虫にもありました[5]。

やってみよう

机の上で、鉛筆を1本ずつ両手に持ち、腕をのばして、先どうしをちょんと合わせてみます。次に、片目をとじて、もう一度やってみます。頭を左右にゆらしながらやると、どうなるでしょうか。鉛筆の先を目に近づけないように気をつけてください。

止まっている物までの距離は、立体視とは別の手がかりで測るらしい。ポテザーとクラルの1995年の論文では、カマキリの幼虫(Polyspilota属と Tenodera 属の種)が、見晴らしのよい場所から移ろうとして距離のちがう止まった物から選べるとき、たいてい最も近い物を選んだ。背景が横じまのときに最も選びやすく、縦じまのときに最も選びにくい。縦の輪郭が距離の手がかりとして重要だったという[5]。

距離の測定には、頭を左右にゆらす動き(ピアリング)が直接関わっている。頭を動かしたとき、近い物は網膜上で大きく速くずれ、遠い物はあまりずれない(運動視差)。幼虫はこの差を使って距離を測っていると考えられている。これを確かめるため、研究者は、幼虫が頭をゆらしている最中に、目の前の物をわざと動かした。すると、頭の動きと物の見かけのずれの対応が、本当の距離とは合わなくなる。それでも幼虫は、この作られたずれを本物の手がかりとして受け取り、距離をまちがえた。ずれそのものにだまされたという結果は、頭の横ゆれで生まれる網膜像のずれが、距離の手がかりに直接使われている証拠になる。図形と背景の見分けにも、この差が使えるとされる。しかも、目の中心窩の特殊化が発達する前の、生まれたての幼虫にもこの行動が見られた[5]。

立体視は動く獲物が「届くかどうか」を判断し、頭のゆれは止まった物の距離を測る、という分担に見える(資料の結果からの読み取りである)。

やってみよう

机の上で、鉛筆を1本ずつ両手に持ち、腕をのばして先どうしを合わせてみる。次に片目をとじてもう一度やる。頭を左右にゆらしながらやると、どうなるか。鉛筆の先を目に近づけないこと。

3. くびは、どうして ぐるっと うごくの?

3. 首に見える部分の正体 ── 頭と前胸が、ほぼ同時に獲物へ向く

3. 首に見える部分の正体 ── 頭・前胸・腹が40ミリ秒以内にそろって回る

カマキリの くびに みえる ほそながい ところは、じつは むねの いちぶで、「前胸ぜんきょう」と いいます。カマキリは あたまが むねに かくれて いないので、あたまだけを じゆうに うごかせます[9]。

えものを みつけると、あたまと むねと おなかが、ほとんど おなじ ときに えものの ほうへ まわります[7]。からだを おおきく うごかさなくても、りょうほうの めを えものへ むけられます。

カマキリの「首」に見える細長い部分は、じつは胸の一部で、前胸といいます。頭は前胸におおわれず、自由に動きます[9]。首の部分には小さな硬い板があり、首を動かす筋肉がつく場所にもなっています[8]。上下左右に自在に頭を動かして、立体視で距離を測る、と自然保護団体の資料にも書かれています[10]。

日本の研究者が高速度カメラで調べると、獲物へ向くとき、頭、前胸、腹が、ほぼ同時に回っていました。動き出しの時刻の差は、40ミリ秒以下です。回る大きさもたがいに関係していました。向きは動き出す前に、視覚と体の位置の情報から決まっていると考えられています[7]。獲物の位置を目で計算し、頭と体をその方向に向け、立体視で距離を測り、鎌を出します。九州大学の研究者はこの流れを、こう説明しています[6]。

なぜ首が回るのか、という「なぜ」には、体を大きく動かさずに両目を獲物に向けられるから、と考えるのが自然です。これは資料から読み取った考えで、実験で調べた結果ではありません。

カマキリの「首」に見える細長い部分は前胸(胸の最初の節)で、その先に頭がつく。頭が前胸におおわれず自由に動く点は、他の昆虫とちがう特徴として図鑑や展示資料に挙げられている[9][13]。首のところには小さな硬い板が並び、首を動かす筋肉がつく場所にもなっている[8]。日本自然保護協会の資料は、頭を左右上下に自在に動かし、立体視で距離をはかると説明する[10]。

獲物へ向く動きを高速度カメラで撮影した研究(山脇ら、2011年)では、頭、前胸、腹の回転がどれも、始まる時刻の差が40ミリ秒以下で、回転の大きさも相関していた。研究者はこれを、動き出す前に視覚と体の位置の情報から決まっている、弾道的な(途中で修正しない)動きだと結論している[7]。山脇の別の報告は、カマキリがまず視覚で獲物とそれ以外を区別し、位置を計算して頭と体をその方向に向け、両眼立体視で距離を測り、距離と方向に応じて鎌の運動を制御すると整理している[6]。

「なぜ」の答えとしては、体全体を動かさずに両目を獲物へ向けられる点が、待ち伏せの狩りに都合がよいと考えられる。ただしこれは資料の説明からの推論である。

4. どうして じっと まてるの?

4. じっと待つ狩り ── 動くものに反応する目

4. 待ち伏せの狩り ── 動きに反応する視覚と、代謝の意外な結果

カマキリは、えものを おいかけずに、くるのを まつ、まちぶせの かりを する ことが おおいです。からだの いろが、まわりに とけこむ ことも あります[11]。

めも、うごく ものに よく はんのうします。この じっけんでは、かたちの うごきが ない ものには、かまを ふりだしませんでした[4]。うごいて、しかも かまが とどく ところに きた とき、ふりだす ようです。

カマキリは、獲物を追いかけず、来るのを待つ「待ち伏せ型」の捕食者で、周りにとけこむ体の色を使うことが多いとされます[11]。体の色は、緑型や褐色型など、種や個体でさまざまです[9]。

目のしくみも、待つ狩りに合っています。カマキリは適度な大きさの動く物ならたいてい反応し[13]、脳には小さな物の動きに強く反応する神経細胞があります[6]。この実験では、図形の動きがない刺激には鎌を出しませんでした。動いて、しかも届く距離にあると判断されたときに出しました[4]。「待つ」とは、届くまで出さない、ということでもあります。

では、じっとしているのは省エネな体だからでしょうか。アメリカの研究チームが、4種のカマキリの安静時の代謝を測りました。結果は、昆虫の平均的な予想と差がなく、同じ待ち伏せ型のクモより高いというものでした。体重の138%もの獲物を1度に食べたカマキリもいて、食べて6〜12時間で代謝は約2倍になりました[12]。省エネ体質だからとは、単純にはいえないようです。

カマキリは主に待ち伏せ型の捕食者で、しばしば周囲にとけこむ隠蔽色を使い、変形した前あしで獲物を打つ[11]。体色は種や個体で幅があり、緑型・褐色型のほか、赤褐色型なども知られる[9]。

視覚も待つ狩りに合っている。適度な大きさの動く物になら何にでも反応する[13]。脳の視葉には、小さな物体の動きに強く興奮する神経細胞(SFニューロン)がある[6]。行動でも、この実験では、図形の動きがない刺激に対して攻撃が起きなかった[4]。動きの検出と立体視という別々の系が両方働いて初めて攻撃が起きる、という報告である。

では、じっとしていられるのは代謝が低いからか。McCueらが4種のカマキリの安静時代謝(標準代謝率)を二酸化炭素の排出量で測ると、昆虫の平均的な回帰式から有意にずれておらず、同じ待ち伏せ型のクモより有意に高かった。体重の138%の餌を食べた個体もおり、給餌後6〜12時間で代謝は約2倍になり、その後4日ほどかけて戻った[12]。「低代謝だからじっとしていられる」という単純な説明は、この結果からは支持されない。

5. かまの ような まえあしは、なにが すごいの?

5. 鎌の形と速さ ── 目のそうじもする前あし

5. 捕獲肢(鎌)の構造と打ち出しの速さ ── 目の掃除にも使う前あし

カマキリの まえあしは、えものを つかまえる ための かたちです。とげが たくさん あって、えものを はさんで にがしません[8]。

かまを ふりだす はやさは、ある カマキリでは 0.06びょうから 0.3びょうほどです。えものが ゆっくりだと、ふりだす はやさも ゆっくりに なります[11]。

この まえあしは、あるく とき、くさを つかむ とき、めの そうじにも つかいます。めの そうじ ようの ブラシまで ついて います[13]。

カマキリの前あしは、獲物を捕まえるための形に変わっています。とげ、こぶ、毛などがあり[8]、2つの節でたたむように獲物をはさみます。カマキリの仲間はゴキブリの仲間と共通の祖先から、約2億年前に分かれたと考えられています[9]。普通のあしが、獲物をつかむ形へ変わっていったのでしょう。

速さも調べられています。マダガスカルにすむ大型のカマキリ(Polyspilota aeruginosa)では、鎌の先の節がのびる時間は、60〜290ミリ秒(0.06〜0.29秒)でした。獲物がゆっくりのときは、のびる動きもゆっくりになり、途中で止まることもありました。それでも、成功するかどうかは速さと関係がありませんでした[11]。獲物の動きに合わせて、動きを変えているのです。

この前あしは、狩りのほかにも使います。歩く、草をつかむ、感覚器官のそうじ(複眼のそうじ用のブラシがついています)、敵への反撃、体を大きく見せる威嚇です[13]。

前あしは捕獲肢に変形しており、腿節と脛節には可動の棘と固定した棘がある[11][8]。カマキリ目はゴキブリ目と共通の祖先から約2億年前に分岐したと、ゲノム情報を使った研究で示された(Misofら、2014年。図鑑からの引用)[9]。歩くための脚が捕獲の形に変わった、と考えるのが自然である。

速さについては、Rossoni と Niven(2020年)が、マダガスカルにすむ Polyspilota aeruginosa の打ち出しを高速度カメラで撮影した。脛節の伸展だけで60〜290ミリ秒かかり、最後の振り下ろし(スイープ)は中央値35ミリ秒だった。獲物が遅いほど伸展はゆっくりになり、約3割の打ち出しでは途中で20ミリ秒ほど止まった。それでも成功率は、打ち出しの長さや中断の有無と無関係だった。獲物の速さに合わせ、脛節の伸ばし方を調節していることになる[11]。

前あしは狩りだけの道具ではない。歩行、草をつかむこと、感覚器官の掃除(複眼の掃除用のブラシがある)、敵につかまれたときの反撃、横に開いて体を大きく見せる威嚇にも使われる[13]。

6. たまごは、どうして あわに つつまれて いるの?

6. 泡のような卵鞘 ── 空気を含んだスポンジ

6. 卵鞘の泡 ── 空気を含むスポンジ状の殻と、入りこむ寄生者

あきに、メスは たまごを うみます。たまごは、あわのような ものに つつまれて、かたまります。かたまった ものは、ふわふわの スポンジのようです。この ふくろを 卵鞘らんしょうと いいます[14]。

あわの なかには くうきが たくさん はいって いて、さむさや あつさ、ぶつかる ちからから、たまごを まもって いると いわれます[20]。

でも、この なかに はいりこむ むしも います。たまごに たまごを うむ ハチや、たまごを たべる むしです[13]。

関東では10〜11月ごろ、メスは卵を産みます。卵は、泡のようなものにつつまれて固まり、茶色の、大人の親指ほどの卵鞘になります。形は種類によってちがいます[14]。卵鞘はメスが作る泡状のもので、固まって丈夫なケースになります[16]。泡は固まると弾力のあるスポンジのようになり、たくさんの空気をふくむため、断熱の役目があるといわれます[18][19]。暑さ、寒さ、乾燥、湿気、衝撃から卵を守る、という説明もあります[20]。

ただし、卵鞘の断熱の強さを、内側と外側の温度を測って確かめた論文は、今回は見つけられませんでした。ナナフシの仲間の似た卵鞘では、寄生する虫と乾燥から守る利点があるのだろうと、研究者が考えています[15]。

泡は完全な守りではありません。卵に寄生するオナガアシブトコバチや、卵と卵鞘のからを食べるカマキリタマゴカツオブシムシなどが、卵鞘を利用します。これらの暮らしにはわかっていない点も残っています[13]。

関東では10〜11月ごろに産卵し、卵は翌年の4〜5月ごろにふ化する。卵鞘は茶褐色で、大人の親指ほどの厚いスポンジ状の塊であり、種類によって形がちがう[14]。卵鞘はメスが作る泡状の物質が固まったもので[16]、固まると弾力のあるスポンジ状になる。空気を多く含むため断熱性があるとされ[18][19]、暑さ・寒さ、乾燥・湿気、衝撃から卵を守るという解説もある[20]。

ただし、この断熱を、卵鞘の内外の温度を測って確かめた論文は今回見つけられなかった。近い構造の卵鞘をもつナナフシの仲間の論文(Goldbergら、2015年)は、寄生者と乾燥からの保護、産む植物の選択に利点があるのだろうと推測している[15]。

泡は完全な守りではない。貝塚市立自然遊学館の報告(岩崎、2002年)は、卵に産卵するオナガアシブトコバチ、卵と卵鞘の殻を食べるカマキリタマゴカツオブシムシ、クロヒゲブトカツオブシムシなどを挙げ、これらの生活史には不明な点が残るとしている[13]。

7. たまごの なかに あかちゃんは なんびき?

7. 卵鞘の中の赤ちゃん ── 100〜300個の並び方と、出てくる順序

7. 卵鞘の中身 ── 100〜300個の卵の並びと、ふ化のようす

ひとつの らんしょうには、100こから 300こぐらいの たまごが はいって いると いわれます。しゅるいや メスに よって ちがいます[17]。

メスは、たまごを じゅんばんに ならべながら、あわで つつんで いきます[15]。

はるに なると、あかちゃんが いっせいに うまれます。いとで ぶらさがって、うすい かわを ぬぐと、うごけるように なります[16]。でも、おとなに なれるのは、ほんの すうひきだけと いわれます[20]。

1つの卵鞘に入る卵の数は、資料によって幅があります。100〜200匹が一斉に生まれる[10]、オオカマキリで約200個[18]、300個ほど[17]、種類によって30〜300[16]、などです。オオカマキリのメスは、飼育すると卵鞘を3〜5個産み、1000個以上の卵を産むことになる、という説明もあります[17]。

たくさんの卵がどう入っているのでしょうか。ナナフシの仲間の卵鞘を報告した論文は、カマキリの卵鞘のように、卵を整然と並べる間とその後に、外側から覆いを塗って作る卵鞘があると、比べの中でふれています[15]。卵鞘の断面がどうなっているかは、図や写真で見てほしい部分です。

春に暖かくなると、幼虫が出てきます。まず糸で卵鞘の下にぶらさがり、体をつつんでいた膜を破って、体がかたまるのを待ちます[16]。この最初の姿は前幼虫と呼ばれます。野外で大人になれるのは、ほんの数匹だといわれます[20]。

1つの卵鞘に入る卵の数には幅がある。日本自然保護協会の資料では100〜200匹が一斉に生まれるとされ[10]、オオカマキリでは約200個[18]、300個ほど[17]とする資料もあり、種によって30〜300とする資料もある[16]。矢作川研究所の解説では、オオカマキリのメスは飼育下で卵鞘を3〜5個産み、卵の総数は1000個以上になる[17]。

卵の並べ方については、ナナフシの卵鞘の論文(Goldbergら、2015年)が、カマキリなどの卵鞘を、卵を秩序立てて並べる間とその後に、外側から被覆を施して作る例として、比較の中で挙げている[15]。卵鞘の内部の断面は、図や写真で確かめる価値がある。

春に気温が上がると、卵鞘から幼虫が出る。関東では4〜5月ごろである[14]。出てきた幼虫は、糸で卵鞘の下にぶらさがり、体を包む膜を破って、外皮が固まるまで待つ[16]。この最初の姿は前幼虫と呼ばれる。ふ化した幼虫の多くは脱皮に失敗したり天敵に食べられたりして、成虫になれるのはわずか数匹だという[20]。

8. ふゆは、どうやって こすの?

8. 冬の越し方 ── 卵で冬を越し、雪の下でもふ化する

8. 卵越冬と積雪 ── 「カマキリの雪予想」をめぐる食いちがい

カマキリの おとなは、あきの おわりまで いきて います。ふゆを こすのは、たまごです。ずかんには、オオカマキリは「たまごで ふゆを こす」と かいて あります[9]。

ゆきの したに うまっても、たまごは ぶじに うまれる ことが おおいと いう しらべも あります[21]。

図鑑では、オオカマキリの成虫は8月末〜11月に見られ、「卵越冬で年1化」とされています。つまり、1年に1世代で、冬を越すのは卵です[9]。例外もあります。サツマヒメカマキリは、3〜4齢の幼虫で冬を越します[9]。

雪については、「カマキリが高いところに産卵すると大雪になる」という言い伝えがあります。1997年の日経サイエンスで、酒井與喜夫さんと湯沢昭さんは、この言い伝えには信憑性があると報告しました[23]。いっぽう、弘前大学の安藤喜一名誉教授は、17年の研究をふまえ、卵の位置が積雪より高い傾向はなく、草や木の高さと関係していて、雪に埋もれても卵はふ化すると報告しています[21]。生命誌研究館のコラムによると、雪に約4か月埋もれた47個の卵鞘(約9000個の卵)のふ化率は約98%でした[22]。2つの結論は食いちがっています。

卵鞘を暖かい部屋に置くと、ふ化が早まって、えさが見つからなくなることがあります[16]。

図鑑(中峰、2017年)によると、オオカマキリの成虫は8月末〜11月に見られ、「卵越冬で年1化」とされる。日本自然保護協会の資料でも、成虫が活動するのは秋(10月)までである[9][10]。例外として、サツマヒメカマキリは3〜4齢の幼虫で越冬する[9]。

「カマキリが高い所に産卵すると大雪」という言い伝えについては、結論が食いちがっている。酒井與喜夫・湯沢昭は日経サイエンス(1997年5月号)で、この言い伝えには十分信憑性があると報告した[23]。一方、弘前大学の安藤喜一名誉教授は17年間の研究をまとめた『カマキリに学ぶ』(北隆館、2021年)で、卵が積雪より高い位置にある傾向はなく、卵の位置は産みつけられた草丈や樹高と相関し、雪に埋もれても卵はふ化に問題がないと述べる[21]。尾崎克久(生命誌研究館)のコラムは、安藤の調査として、約4か月雪に埋もれた卵鞘47個・約9000個の卵で、ふ化率が約98%だったと紹介している[22]。

卵鞘が雪の下でも育つこと自体は、後者の調査が示している。2つの結論が食いちがう理由を説明した資料は、見つからなかった。なお、卵鞘を暖かい室内に置くと、幼虫が早く出て餌が見つからなくなるとされる[16]。

9. じぶんでも しらべて みたく なったら

9. 自分でも調べてみたくなったら

9. 自分でも調べてみたくなったら

ふゆに、かれた くさや えだを、よく みて みましょう。カマキリの 卵鞘らんしょうが みつかる かもしれません[14]。

  • さわらないで、みるだけに しましょう。うちに もって かえると、あたたかくて ふゆの うちに あかちゃんが うまれて、たべる ものが なくなって しまいます[16]。
  • どんな くさや きに、どの たかさで ついて いたか、しゃしんや メモに のこしましょう。ちかくの くさの たかさと くらべて みましょう。
  • くるまの とおる みちや、みずべ、ひとの うちの にわには はいらないで ください。

かんがえて みましょう。ゆきが ふる ところでは、たまごの たかさと ゆきの ふかさに、かんけいが あるのでしょうか。

冬に、枯れた草や枝を見て回ると、卵鞘が見つかることがあります[14]。次のことをしてみるのはどうでしょう。

  • さわらずに、見るだけにします。持ち帰って暖かい部屋に置くと、冬のうちにふ化して、幼虫の食べ物が見つからなくなります[16]。
  • 何の草や木に、地面から何センチの高さでついていたかを、写真とメモに残します。近くの草の高さと比べると、「カマキリの雪予想」の話を、自分のデータで考えられます。
  • 道路、水辺、他人の敷地には入らないでください。

もうひとつ、ニューカッスル大学の3Dめがねの論文[1]は、インターネットで無料で読めます。図3にめがねをつけたカマキリと実験装置、図4に結果が載っています。

冬に、枯れた草や枝を見て回ると、卵鞘が見つかることがある[14]。観察の案を3つ挙げる。

  • さわらず、見るだけにする。持ち帰って暖かい部屋に置くと、冬のうちにふ化し、幼虫の餌が見つからなくなる[16]。
  • 植物の種類、地面からの高さ、向きを写真とメモに残し、近くの草や木の高さと比べる。卵の高さが雪の深さより草や木の高さに関係しているのかを、自分のデータで考えられる。
  • 道路、水辺、他人の敷地には入らない。

論文を読むなら、ニューカッスル大学のチームの Scientific Reports の論文[1]が、無料で読める。図3にめがねをつけたカマキリと実験装置、図4に結果がある。カマキリが「届く」と判断する条件を、図4から自分で読み取ってみるとよい。

しらべた もとの じょうほう

参考にした情報源

参考にした情報源と、その使い方

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  1. Nityananda, V., Tarawneh, G., Rosner, R., Nicolas, J., Crichton, S., Read, J. (2016) “Insect stereopsis demonstrated using a 3D insect cinema”. Scientific Reports 6: 18718. https://doi.org/10.1038/srep18718 https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4703989/ (3Dめがねの作り方、使ったカマキリの種類と数、画面の円盤、手前に見せたときに攻撃が増えたこと、立体視の研究史)
  2. Rosner, R., von Hadeln, J., Tarawneh, G., Read, J. C. A. (2019) “A neuronal correlate of insect stereopsis”. Nature Communications. https://doi.org/10.1038/s41467-019-10721-z https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6599392/ (2種のカマキリの脳で、特定の視差と方向に反応する神経細胞を17個記録したこと)
  3. Nityananda, V., Tarawneh, G., Henriksen, S., Umeton, D., Simmons, A., Read, J. C. A. (2018) “A Novel Form of Stereo Vision in the Praying Mantis”. Current Biology 28. https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0960982218300149 (カマキリの立体視が、明るさの変化する場所に注目する方式であること)
  4. Nityananda, V., O’Keeffe, J., Umeton, D., Simmons, A., Read, J. C. A. (2019) “Second-order cues to figure motion enable object detection during prey capture by praying mantises”. Proceedings of the National Academy of Sciences 116. https://doi.org/10.1073/pnas.1912310116 https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6936431/ (攻撃には、図形の動きと、立体視による「届く距離」の判断の両方が必要で、止まった獲物には攻撃しないこと)
  5. Poteser, M., Kral, K. (1995) “Visual distance discrimination between stationary targets in praying mantis: an index of the use of motion parallax”. Journal of Experimental Biology 198(10): 2127-2137. https://journals.biologists.com/jeb/article-abstract/198/10/2127/6869/Visual-Distance-Discrimination-Between-Stationary (幼虫が止まった物の中から最も近い物を選ぶこと、頭の横ゆれ、見かけのずれを変えると距離をまちがえること)
  6. 山脇兆史「捕食性昆虫における視覚情報処理と運動制御」(山田科学振興財団 研究報告、2002年)。 https://yamadazaidan.jp/wordpress/wp-content/uploads/2021/09/2002_yamawaki.pdf (獲物の検出から頭・体の向け直し、両眼立体視による距離の測定、鎌の制御までの流れ。小さな物体の動きに反応する神経細胞)
  7. Yamawaki, Y., Uno, K., Ikeda, R., Toh, Y. (2011) “Coordinated movements of the head and body during orienting behaviour in the praying mantis Tenodera aridifolia”. Journal of Insect Physiology. https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0022191011001144 (獲物へ向くときの頭・前胸・腹の回転が、ほぼ同時に始まること。Tenodera aridifolia は、オオカマキリの学名の1つとして論文で使われてきた名前)
  8. Brannoch, S. K., et al. (2017) “Manual of praying mantis morphology, nomenclature, and practices (Insecta, Mantodea)”. ZooKeys. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5673847/ (カマキリの体のつくりの解説書。首の小さな硬い板が筋肉のつく場所であること、前あしに棘などがあること)
  9. 中峰空(2017)『本州・四国・九州のカマキリ図鑑』Ver.2、NPO法人こどもとむしの会。 https://www.konchukan.net/pdf/kamakiri/HSK_kamakiri_zukan.pdf (前あしが捕獲肢であること、頭が前胸におおわれず動くこと、ゴキブリ目との関係、種ごとの成虫の時期と越冬のしかた、体色)
  10. 日本自然保護協会(NACS-J)「【配布資料】今日から始める自然観察『もっと知りたい!名ハンター・カマキリ』」(2022年)。 https://www.nacsj.or.jp/magazine/30876/ (頭を上下左右に動かして立体視で距離をはかること、一つの卵鞘から100〜200匹が生まれること、成虫の活動時期)
  11. Rossoni, S., Niven, J. E. (2020) “Prey speed influences the speed and structure of the raptorial strike of a ‘sit-and-wait’ predator”. Biology Letters 16(5): 20200098. https://doi.org/10.1098/rsbl.2020.0098 https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7280040/ (待ち伏せ型の捕食者であること、鎌の打ち出しの時間と獲物の速さとの関係)
  12. McCue, M. D., Salinas, I., Ramirez, G., Wilder, S. (2016) “The postabsorptive and postprandial metabolic rates of praying mantises: Comparisons across species, body masses, and meal sizes”. Journal of Insect Physiology. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/27568396/ (4種のカマキリの安静時代謝が昆虫の平均的な予想と差がないこと、体重の138%の食事、食後の代謝の変化)
  13. 岩崎拓(担当)「カマキリ展」貝塚市立自然遊学館特別展報告1(2002年)。 https://www.city.kaizuka.lg.jp/material/files/group/4/kamakiriten2002houkoku.pdf (前あしの使い道、動くものに反応すること、卵鞘を利用する昆虫)
  14. 日本自然保護協会(NACS-J)「【配布資料】今日からはじめる自然観察『カマキリの卵鞘を探してみよう』」(2012年)。 https://what-we-do.nacsj.or.jp/2012/10/1186/ (卵鞘の大きさ・色・形、産卵とふ化の時期、探し方)
  15. Goldberg, J., Bresseel, J., Constant, J., Kneubühler, B., Leubner, F., Michalik, P., Bradler, S. (2015) “Extreme convergence in egg-laying strategy across insect orders”. Scientific Reports 5. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4648384/ (ナナフシの卵鞘の論文。カマキリの卵鞘との比較、卵を秩序立てて並べて外側を覆うこと、卵鞘の利点の推測)
  16. Amateur Entomologists’ Society(イギリスのアマチュア昆虫学者の団体)“Praying Mantid caresheet”(飼育の手引き)。 https://www.amentsoc.org/insects/caresheets/praying-mantids.html (卵鞘が泡状のものから作られること、卵の数の幅、幼虫が糸でぶらさがること、暖かい室内でふ化が早まること)
  17. 矢作川研究所「オオカマキリの卵鞘」(生きもの解説)。 https://www.yahagigawa.jp/ikimono/entry-392.html (オオカマキリの卵鞘の卵の数、メスが産む卵鞘の数、卵で越冬すること)
  18. アマナ「カマキリの卵は どうして泡なのか」(自然・科学のトビラ、監修:岡島秀治 東京農業大学)。 https://nature-and-science.jp/mantis/index.html (泡が固まって弾力のあるスポンジ状になること、空気を含んで断熱になること、卵の数)
  19. 気候変動いきもの大調査「断熱素材でポカポカ冬越し カマキリの卵を探そう」。 https://ccbio.jp/topics/k020 (卵鞘が空気を多く含み断熱性があると説明されていること)
  20. 日本パークレンジャー協会「No.123 カマキリの卵の話」(2024年)。 https://www.japan-parkranger.com/column/wonder/no-123-カマキリの卵の話/ (卵鞘が暑さ寒さ・乾燥・湿気・衝撃から卵を守るという説明、成虫になれるのは数匹だということ)
  21. 弘前大学「安藤喜一名誉教授が執筆した『カマキリに学ぶ』が出版されました」(2021年)。 https://www.hirosaki-u.ac.jp/59080/ (「カマキリの雪予想」の検証結果、卵の位置と草丈・樹高との関係、雪に埋もれてもふ化すること、書籍の情報)
  22. 尾崎克久「カマキリは積雪量を予測していない」JT生命誌研究館(2009年、2021年に追記)。 https://www.brh.co.jp/salon/labdiary/2009/post_000019.php (雪に約4か月埋もれた卵鞘47個・卵約9000個のふ化率が約98%だったという調査の紹介)
  23. 酒井與喜夫・湯沢昭「『カマキリが高い所に産卵すると大雪』は本当か」日経サイエンス1997年5月号。 https://www.nikkei-science.com/page/magazine/9705/kamakiri.html (言い伝えには十分信憑性があるとした報告)

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