このサイトは、ほんの入り口です

ここに書いてあることは、誰かが実際に手を動かして調べ、考え、作り上げてきたものを拾い集めています。専門の本や論文、作品、そしてそれを生み出した人たち。気になったことがあれば、ぜひそのおおもとに直接ふれてみてください。このメモには書ききれない熱を、感じてもらえると思います。

かわの みずは しょっぱく ないのに、うみは どうして しょっぱいの?

海の塩は川が運んだ。でも、地球の年齢は測れなかった ── 川の水と海の水のちがい

海の塩は川が運んだのに、なぜ地球の年齢は測れなかったのか ── 川と海の水のちがい

分野:自然

かわの 水を なめても、しょっぱく ない。でも、その かわが ながれこむ 海は、しょっぱい。かわは ずっと 海へ 水を はこんで いるのに、どうして 海だけが しょっぱいのだろう。

むかし、海の しおを かぞえて、地球の としを しらべようと した 人が いた。ところが、こたえは 大きく まちがって いた。そのわけを さがすと、かわと 海の ちがいや、秋に かわへ もどる サケの ふしぎまで 見えて くる。

川の水をなめても、しょっぱくない。ところが、その川が流れこむ海は、しょっぱい。川は毎日海に水を運んでいるのに、どうして海だけが塩辛いのだろう。

昔、海の塩の量から地球の年齢を測ろうとした人がいた。ところが、答えは大きくはずれた。そのはずれ方を手がかりに、川の水と海の水のちがい、川が海に入る場所で起きること、秋の川に帰ってくるサケの体のしくみまで見ていく。

1715年、彗星の研究で知られる天文学者エドモンド・ハレーは、海の塩を数えれば地球の年齢がわかる、と王立協会の論文集で提案した[7]。川は岩から塩を溶かして海へ運び、海の水は蒸発するとき塩を残していく。塩は増える一方のはずだからだ。180年ほどあとに、アイルランドの地質学者ジョン・ジョリーが実際に計算し、8千万〜1億年ほどという答えを出した[9]。いまの地球の年齢は約45億4千万年とされる[11]。答えは、約50分の1だった。

計算はどこでずれたのか。ずれの理由をたどると、川の水と海の水の成分のちがい、川が海に入る場所で起きること、秋の川に帰ってくるサケの体のしくみまで、話がつながっていく。

読み方を切り替えられます。画面の上にある「よみかた」のボタンで、小学校低学年むけ・小学校高学年むけ・中学生むけの3つの書き方に切り替わります。むずかしいと思ったら、いつでもやさしい方に戻ってください。選んだ読み方はブラウザが覚えているので、次に別の記事を開いたときも同じ読み方で始まります。

1. かわの 水にも、しおは はいって いるの?

1. 川の水にも、塩は入っている

1. 川の水にも塩は入っている ── 世界平均で約120ppm、海水の約300分の1

海の 水は、1リットルに しおなどの とけた ものが やく35グラム はいって いる[2]。かわの 水は、世界の へいきんで 1リットルに やく0.12グラム。1円玉(1グラム)の 8ぶんの 1くらいだ[1]。海は、かわの 300ばいくらい こい。

かわの 水を なめて しょっぱく ないのは、うすい から。でも、ゼロでは ない。雨が 岩を ちょっとずつ とかして、その とけた ものが かわに はいり、海へ はこばれて いく[2][3]。

かわは 毎日 海に 水を 入れつづけて いる。それなのに、海は どうして あふれ ないのだろう。

海の水と川の水を、溶けているものの量で比べる。アメリカ地質調査所(USGS)の説明では、海水には1キログラムあたり約35グラム(約3.5%)の塩分が含まれる[2]。世界の川の平均は、1963年の論文で、1リットルあたり約0.12グラム(0.012%)とされている[1]。海水は川の水の約300倍、濃い。

川の水をなめても塩味がしないのは、薄いからだ。でも、ゼロではない。同じ論文は、世界の川が1年に海へ運ぶ溶けた物質を約39億トンと見積もっている[1]。出どころは陸の岩だ。雨水は空気中の二酸化炭素を少し溶かして弱い酸性になり、岩を少しずつ分解して、成分を水に溶かしだす。それが川に集まって海へ流れる[2][3]。海底の熱水がふき出す場所も、海に成分を足している[3]。

川は海に水を足し続けている。それなのに、海はあふれない。水はどこへ出ていくのだろう。

ここでいう「塩」は、食卓の食塩だけでなく、水に溶けている成分(イオン)の全体をさす。アメリカ地質調査所(USGS)の説明では、海水の塩分は平均で約35‰、重さで約3.5%だ[2]。リビングストン(Livingstone)が1963年にまとめた世界の川の平均は、溶けている成分の合計が約120ppm(0.012%)だ[1]。海水は川の水の約300倍濃い。

川の水をなめて塩味がしないのは、この薄さのためだ。ただ、ゼロではない。同じ論文は、世界の川が1年に海へ運ぶ溶けた物質を約39億トンと見積もっている[1]。出どころは陸の岩だ。雨水は空気中の二酸化炭素を少し溶かして弱い酸性になり、岩を化学的に分解して、成分をイオンとして水に移す。それが小さな流れから大きな川に集まり、海に着く[2][3]。海底の熱水の噴き出し口も、海に成分を足している[3]。

川は、水を海へ足し続けている。それなのに、海はあふれない。水はどこへ出ていくのか。

2. 海に 入った 水は、どこへ いくの?

2. 海の水は空へ帰る ── 蒸発と、出口のない湖

2. 海から空へ出ていく水 ── 川の約10倍の蒸発と、出口のない湖

海の 水は、おひさまに あたためられて じょうはつして、空へ のぼって いく。せんたくものが かわく とき、水が 空気の 中へ きえて いくのと おなじだ。

1年に 海から 空へ のぼる 水は、かわが はこんで くる 水の 10ばい くらい ある[4][5]。だから、海は あふれない。

ここが 大じな ところ。空へ のぼるのは 水だけで、しおは のぼれない。海に のこる。

出口の ない みずうみでは、これが もっと はっきり 見える。死海(しかい)は、かわが 入って くるのに 水の 出口が ない みずうみで、しおの こさが 海の 10ばいぐらい ある。人が ぷかぷか うくほど、水が こいんだ[6]。

この ことを 300年ぐらい 前に 本に 書いた 人が いる。つぎの 章で あいに いこう。

国土交通省の資料では、世界の年降水量は約57.7万立方キロメートル。そのうち陸の上が約11.9万で、陸に降った分の約7.4万は蒸発し、残る約4.5万が川や地下水として海へ流れ出る[4]。海の上に降るのは、差し引きで約45.8万になる(日本海事広報協会は「約46万」と書く[5])。

出入りが釣り合っているとすると、海は年に約50万立方キロメートルの水を空へ返している計算になる(海に降る約46万+川から入る約4.5万)。川が運ぶ水は、その約1割だ。海があふれないのは、川から入った分を、蒸発が空へ返しているからだと考えられる。

蒸発で空へ出ていくのは水だけで、塩は海に残る。川は流れこむのに、水の出口が蒸発しかない湖も、同じ理由で塩辛くなる。死海は出口の川がない湖で、塩分は約34%(2011年)と、海の約10倍ある[6]。1715年のハレーは、海と、こうした湖を、同じ理由で説明した[7]。

国土交通省の資料では、世界の年降水量は約57.7万km³、そのうち陸上が約11.9万km³で、陸に降った分の約7.4万km³は蒸発散で失われ、残る約4.5万km³が表流水・地下水として流出する[4]。海の上に降る分は、差し引きで約45.8万km³になる(日本海事広報協会は「約46万km³」[5])。

出入りが釣り合っているとすれば、海は年に約50万km³の水を空へ返している計算になる(降水約46万+川から入る約4.5万)。これは資料の数字を足した推定で、資料が直接示す値ではない。川が運ぶ水は、海から蒸発する水の約1割にあたる。川から水が入り続けても海があふれないのは、この蒸発が出口になっているからだと考えられる。

蒸発で空へ出ていくのは水だけで、溶けていた塩は海に残る。同じ理屈は、出口のない湖に、もっとはっきり出る。死海は、川が流れこむのに出口の川がなく、水は蒸発でしか出ていかない。塩分は約34%(2011年)で、海の約9.6倍にあたる[6]。1715年のハレーは、海と、こうした出口のない湖の塩辛さを、同じ理由で説明した[7]。

3. 海の しおで、地球の としが わかる?

3. ハレーの「塩の時計」と、ジョリーの計算がずれた理由

3. ハレーの「塩の時計」と、ジョリーの計算 ── 8千万年か、45億年か

1715年、ハレーと いう 星の 学者が、こう 考えた。「かわは しおを はこぶ。海の 水は じょうはつしても、しおは のこる。それなら、海の しおの りょうを、かわが 1年に はこぶ りょうで われば、海が できてから 何年か わかる はずだ」。

ハレーは、計算に つかう 数字を もって いなかった。180年ぐらい あとに、ジョン・ジョリーと いう 学者が、ほんとうに 計算した。こたえは、8千万年から 1おく年 ぐらい。ところが 地球の としは、およそ 45おく年。こたえは 50ぶんの 1だった。

計算の どこが まちがって いたのだろう。

1715年、彗星の研究で知られる天文学者ハレーは、王立協会の論文集に、海の塩辛さの原因と、それを使って世界の年齢を見つける提案を書いた。川は塩の粒を運び、海から蒸発するのは塩の混じらない水だけだから、海の塩は増え続ける。昔と今の塩辛さを比べれば、増える速さがわかる、という考えだ[7][8]。

ハレーには、昔の測定値も、川が運ぶ塩の量のデータもなかった。実際に計算した人が現れたのは、180年ほどあとだ。アイルランドの地質学者ジョン・ジョリーは、1890年代の終わりに、川が1年に海へ運ぶナトリウムの量を求め、海全体のナトリウムの量をそれで割った。答えは8千万〜1億年ほどになった[9][10]。

いまの地球の年齢は、約45億4千万年とされる[11]。ジョリーの答えは、その約50分の1だった。のちに、同じ方法を200年近く前にハレーが提案していたことが指摘された(1910年)[9]。計算のどこがずれたのだろう。

1715年、彗星の研究で知られる天文学者エドモンド・ハレーは、王立協会の論文集に短い報告を出した。題名は、海と、川の出ていかないいくつかの湖が塩辛い原因についての報告、そしてそれを手がかりに世界の年齢を見つける提案、といった意味になる[7]。川は塩の粒を運び、海から蒸発するのは塩の混じらない水だけだから、塩は増え続ける。ならば、昔と今の塩辛さを比べれば増える速さがわかり、海の年齢がわかる。結果を見るのは後の世代になる、という趣旨のことも書いている[8]。

ハレーには、昔の測定値も、川が運ぶ塩の量のデータもなかった。実際に計算したのは、アイルランドの地質学者ジョン・ジョリーだ。1890年代の終わりに、大英帝国各地の川の水の成分を集め、川が1年に海へ運ぶナトリウムの量を求めて、海全体のナトリウムの量をそれで割った[10]。答えは、8千万〜1億年ほどだった。資料によって、8千万〜9千万年[9]、9千万〜1億年[10]と書かれている。

地球の年齢は、地球最古の鉛鉱石と隕鉄の鉛同位体の比から、約45億4千万年とされる[11]。ジョリーの答えは、その約50分の1だった。同じ方法を約200年前にハレーが提案していたことは、1910年に指摘されている[9]。

割り算の形は単純だ。ずれたのは、割り算の前に置いた前提のほうだった。

4. どこで、ずれたの? ── しおは、海から でて いく

4. ずれの正体は、塩が海から出ていくことだった

4. どこでずれたのか ── 塩の滞在時間と、川と海の成分表のちがい

ジョリーの 計算は、「かわが はこんだ しおは、ぜんぶ 海に のこって、ふえつづける」と 考えて いた。でも 本当は、海から でて いく しおも ある[10]。

たとえば、おみせに たとえて みよう。お客さんが 入って くる。おなじ くらい 出ても いく。おみせの 中の 人数は かわらない。ずっと いすわる お客さんも いれば、すぐ 出て いく お客さんも いる。ただし 本当は、しおの せいぶんは 人では なくて、とても 小さな つぶ だ。

海の 中では、水は 3千年ぐらいで 空へ でて いく。ところが ナトリウムという しおの せいぶんは、5千万年ぐらいも 海に いすわる[12]。1万ばいより もっと 大きな ちがいだ。ジョリーの こたえは、地球の としでは なくて、この いすわる 時間に ちかかった[10]。

かわの 水と 海の 水は、中に とけて いる ものの 顔ぶれも ちがう。かわは、岩から とけた カルシウムが おおい。海は、ナトリウムと えんそが おおい。カルシウムは 海から すぐ 出て いき、ナトリウムと えんそは 海に いすわるから だ[13]。

では、かわの 水は、海に 入る ところで どうなるのだろう。

ジョリーの計算は、川が運んだ塩はすべて海に残り、増え続けると考えていた。でも実際には、ナトリウムなどは、鉱物になって沈んだり、波しぶきになったりして、海から出ていくことがある[10]。USGSも、海の生きものに取り除かれる成分があると説明している[2]。

出入りが釣り合っているとき、成分ひとつが海にいる平均の時間を「滞在時間」という。海洋学の教科書では、ナトリウムが約5,500万年、塩化物イオンが約8,700万年、水の分子は約3,100年だ[12]。同じ海の中でも、水は数千年で入れかわるのに、ナトリウムは数千万年。1万倍以上のちがいがある。数字は資料で差があるが、ジョリーの答えは、ナトリウムの滞在時間に近い[10]。地球の年齢のつもりで出した数字は、海でナトリウムが過ごす時間に近かったわけだ。

いまの数字で同じ計算をしても、5千万年ほどになる(概算。海の水の量、ナトリウムの割合、川の水の量とナトリウム濃度は、下の出典の値を使った)。

川の水と海の水の顔ぶれも、まったくちがう。川の水は、溶けているものの約半分が炭酸水素イオンで、次に多いのがカルシウムだ[1]。海水では、塩化物イオン(塩素)とナトリウムで約85%を占め[3]、炭酸水素イオンは1%に満たない[13]。カルシウムは沈殿しやすく、生きものにも取りこまれて、海から比較的早く出ていく。ナトリウムと塩素は、取り除くしくみが少なく、海に居座る[13][2]。海の水は、川が運んだ成分のうち、居座るものが濃くなった水、といえる。

では、成分のちがう二つの水は、出会う場所で、どうなるのか。

ジョリーの計算は、川が運んだ塩はすべて海に残り、増え続けるという前提に立っていた。実際には、ナトリウムなどの成分は、鉱物の沈殿や波しぶき(海塩粒子)などで海から出ていく[10]。USGSも、海の生物に取り除かれる成分があると説明している[2]。

出入りが釣り合っている(定常状態)と仮定して、成分ひとつが海にいる平均の時間を、滞在時間という。「量 ÷ 出入りの速さ」で求める。海洋学の教科書には、ナトリウムが約5,500万年、塩化物イオンが約8,700万年、水の分子が約3,100年とある[12]。同じ海の中で、水は数千年で入れかわり、ナトリウムは数千万年とどまる。1万倍以上のちがいだ。数字は資料でずれるが、ジョリーの答えは、ナトリウムの滞在時間に近い[10]。地球の年齢を測ったつもりが、ナトリウムが海で過ごす時間に近い数字を出していた。

今の数字で、ジョリーと同じ割り算をしてみる。海水の量は、地球の水約14億km³の約97.5%[4]から約13.7億km³。密度を約1.025とすると、重さは約1.4×1021kg。ナトリウムは塩分の30.6%[13]、つまり海水1kgに約10.7gなので、総量は約1.5×1019kgになる。川が運ぶ水は年に約4.5万km³(約4.5×1016kg)[4]、ナトリウム濃度は6.3ppm[1]だから、年に約2.8×1011kgを運ぶ。割ると、約5,300万年。川の水には、雨に混じって海から戻った塩も含まれる[1]ので大まかな計算だが、ジョリーの数字と同じ程度で、滞在時間の教科書の値とも近い。

川の水と海水で、溶けている成分に占める割合が主な5成分
成分世界の川の平均(溶けている成分の合計を100として)海水(同)
炭酸水素イオン48.71未満
カルシウム12.51.2
硫酸イオン9.37.7
ナトリウム5.330.6
塩素(塩化物イオン)6.555.0

川の値は、リビングストンの平均(各成分のppm÷合計約120ppm)[1]、海水の値は主な成分の重さの割合[13]から求めた。川の水にはシリカ(ケイ素の化合物)も約11%含まれるが、表からは省いた。

川の水の主役は、岩から溶けたカルシウムと炭酸水素イオンで、海水の主役はナトリウムと塩化物イオン(塩素)だ。カルシウムは沈殿しやすく、生物にも取りこまれて、海から比較的早く出ていく。ナトリウムと塩素は、海から取り除くしくみが少なく、居座る[13]。海水魚も、腸の中で炭酸カルシウムや炭酸マグネシウムを白い沈殿にして出しており、その量は海全体の炭素の出入りの3〜15%にあたるという試算がある[14]。海の水は、川が運んだ成分のうち、居座る成分が濃くなった水といえる。

では、成分のちがう二つの水は、出会う場所でどうなるのか。

5. かわが 海に 入る ところは どう なって いるの?

5. 川が海に入る場所 ── 塩水くさびと、さかのぼる海水

5. 川が海に入る場所 ── 汽水域と、潮とともに動く境目

かわと 海の 水は、出会った とたんに 「海」に なる わけでは ない。まざりあう 場所が あって、そこを 汽水域きすいいきと よぶ[15]。

海の 水は、かわの 水より おもい。だから、おもい 海の 水が 下に もぐりこみ、かるい かわの 水が 上を ながれる ところが ある。「しおみず くさび」と いう。あぶらが 水の 上に うくのと、すこし にて いる。ただし 本当は、あぶらと 水は まざらないけれど、しおみずと 真水は ゆっくり まざる[15]。

しおが みちる と、海の 水が かわを さかのぼる。しおが ひくと、もどる[16]。だから、かわと 海の さかいめは、線では なくて、しおと いっしょに うごく おびの ようなものだ。しおが みちたり ひいたり する わけは、「しおは、なぜ みちひき するのか」を 見て みよう。

この おびの 中には、マハゼの ように くらす 魚も いる。「マハゼは、なぜ よごれた 水に いるのに 上品な あじが するのか」にも 出て くる。

国土交通省の技術基準は、川から海に移り変わる場所を、いくつかに分けている。川の水と海水が混ざる部分を「汽水域」といい、塩分が0.5〜30‰の範囲の水域だ。川の河口から、潮の満ち引きで水位が変わる区間を「感潮区間」、塩水がさかのぼる区間を「塩水遡上区間」という[15]。国土技術政策総合研究所の用語解説も、満潮のときは塩水が川をさかのぼって流れが変わり、干潮になると元に戻る、と説明する[16]。川と海の境目は、線ではなく、潮とともに動く帯だ。潮が満ち引きするしくみは、「潮は、なぜ満ち引きするのか」で書いた。

川の水と海水は、重さがちがう。潮の力が弱く、川の水の量が多い川では、下に海水がくさびの形でもぐりこみ、その上を川の水が流れて、二つの間にはっきりした境目ができる。これが「塩水くさび」(弱混合型)だ。技術基準は、潮位の変動が小さい日本海側の、流量の大きい川に多いと書く。東日本の太平洋側は、境目が斜めになる緩混合型が多い。太平洋側の内海に流れこむ川は、潮位の変動が大きく、上下によく混ざる強混合型が多い[15]。

汽水域は、川の魚と海の魚の通り道にもなる。この帯にすむマハゼの話は、「マハゼは、なぜ汚れた水にいるのに上品な味がするのか」にある。

国土交通省の河川砂防技術基準(調査編)は、川から海へ移り変わる区域を区別している。汽水域は、川の水と海水がまじり合う部分で、塩分はおよそ0.5〜30‰の範囲にある。感潮区間は、河口から潮の満ち引きで水位が上下する区間。塩水遡上区間は、河口から塩水が川をさかのぼってくる区間だ[15]。国土技術政策総合研究所の用語解説も、満潮時に塩水が遡上して川の流れが変わり、干潮時に元に戻ると説明する[16]。川と海の境目は線ではなく、潮とともに動く帯になる。潮汐そのもののしくみは、「潮は、なぜ満ち引きするのか」で書いた。

淡水と海水は密度がちがい、混ざり方は、潮で出入りする水の量(タイダルプリズム)と、その間に川から流れこむ水の量の比で決まる。潮の力が弱く川の水量が多いと、下層にくさび状に遡上した塩水の上を淡水が流れ、間に明瞭な界面ができる。これが塩水くさび(弱混合型)で、技術基準は、潮位変動が小さい日本海側の、流量の大きい川に多いとしている。東日本の太平洋側は、塩分の等値線が斜めになる緩混合型が多い。太平洋側の内海に流入する川は、潮位変動が大きいため、鉛直方向によく混ざる強混合型となる場合が多い[15]。

同じ「川が海に入る」でも、川の水の量、潮の大きさ、海の形で、混ざり方が変わる。汽水域は、川の魚と海の魚の通り道でもある。この帯にすむマハゼは、「マハゼは、なぜ汚れた水にいるのに上品な味がするのか」で書いた。

6. 秋の かわに もどる サケは、どうして 川でも 海でも 生きられるの?

6. 秋の川に帰るサケ ── 川でも海でも生きる体

6. 秋の川に帰るサケ ── 川と海で切りかえる、塩の出し入れ

秋に なると、サケが 海から かわへ もどって くる。9月から 12月ごろ、生まれた かわを さかのぼる[17]。生まれた 子どもの サケは、つぎの 年の 春に かわを くだって 海へ 出る[17]。

ここに ふしぎが ある。かわの 水は うすくて、海の 水は こい。サケの 体の 中の しおの こさは、かわの 水より こく、海の 水より うすい。

かわの 中では、水が 体に 入りすぎる ので、うすい おしっこを たくさん 出す。海の 中では、水が 体から ぬけて いく ので、海の 水を のんで、えらから しおを 出す[14]。サケは この 2つの やりかたを きりかえて、かわでも 海でも 生きて いけるのだ。

かわと 海の あいだには、汽水域きすいいきの おびが ある。その おびを、サケは 体で とおりぬけて いる。

水産研究・教育機構によると、シロザケ(ふつう「サケ」と呼ぶ魚)は9〜12月に北日本の沿岸へ来て、川をさかのぼる。ふ化した稚魚は、翌年の3〜5月に川を下って海へ出る。戻ってくる主な群れは4年魚だ[17]。海に出た稚魚は、沿岸で1〜2か月ほど育ってから、遠い海へ向かう[18]。

川の水と海の水は、こんなにちがう。サケのような真骨魚類は、川でも海でも、体液の濃さをおよそ海水の3分の1に保つ。川の水よりずっと濃く、海水より薄い[14]。

川の中では、体の外のほうが薄いので、水が体に入りこむ。そこで薄い尿を大量に出し、エネルギーを使って鰓から塩を取りこむ。海の中では逆に、体から水が奪われるので、海水を飲み、鰓の塩類細胞で余分な塩を外へ出す[14]。川と海を行き来できるのは、この二通りを切りかえられる魚だ。ウミドリの鼻の腺やウミガメの目の腺も、同じしくみで塩を出している[14]。

川と海の間の汽水域の帯を、サケは体で通り抜けている。

水産研究・教育機構によると、シロザケ(ふつう「サケ」と呼ぶ魚)は9〜12月に北日本の沿岸にやって来て、川をさかのぼる。ふ化した稚魚は翌年の3〜5月に海へ下り、生まれた川へ戻ってくる親魚は4年魚が中心だ[17]。海に出た稚魚は、沿岸帯で1〜2か月成長してから、遠い海へ向かう[18]。

第1章から見てきた川の水と海の水は、塩分が約300倍ちがう。ところが、サケのような真骨魚類は、川でも海でも、体液のイオン濃度と浸透圧をおよそ海水の3分の1に保つ。淡水から海水へ移しても、体液の濃さはそれほど変わらない。ウナギの例では、浸透圧は淡水で328、海水で377ミリオスモル、海水そのものは1029ミリオスモルだ[14]。

川の中では、体の外のほうが薄いので、水が浸透圧で体に入りこむ。そこで薄い尿を大量に出し、エネルギーを使って鰓からNa+やCl−を取りこむ。海の中では逆に、体から水が奪われるので、海水を飲み、鰓にある塩類細胞(イオノサイト)で、ATPのエネルギーを使ってイオンを濃縮して外へ出す[14]。サケが川と海を行き来できるのは、この二通りのしくみを切りかえられるからだと説明される。同じ塩類細胞のしくみは、ウミドリの鼻腺やウミガメの涙腺にもある[14]。

川と海の間には、塩分が連続的に変わる汽水域の帯がある。サケは、その帯を体の中の切りかえで通り抜けている。

7. さらの 上で、海を つくって みよう

7. 皿の上で海を作り、河口の水位グラフを見る

7. 皿の上で海を作り、河口の水位グラフとハレーの原典を見る

海の 水が 空へ のぼって、しおが のこる ところを、うちで 見て みよう。おうちの 人と いっしょに やる。

  • 水 大さじ3に、食べる しおを 小さじの 4ぶんの 1 とかす(海と おなじ くらいの こさ)。ふかく ない さらに 入れて、ひあたりの いい 部屋に おく。数日で 水が へって、白い つぶが のこる。のまない。ペットや 小さい 子の 手が とどかない ところに おく。
  • ほそい コップに、水 100ミリリットルと 食べる しお 10グラムを とかし、絵の具で 色を つける。そこへ、色の ない 水を、スプーンの うらに あてて、すこしずつ そっと 入れる。色の ついた おもい しおみずが 下に のこり、水が 上に のれば、かわが 海に 入る ところの、ちいさな まねっこだ。海の 水より こくして あるので、うまく いくと 分かれる。にじ色の 水の 作り方は、中部電力の ページに ある[19]。まざったら、ゆっくり やりなおす。
安全のために

かわや 海の 水に 入って たしかめる ことは しない。かわの ようすを 見に いく ときは、おうちの 人と いっしょに、はしや ていぼうの 上から 見る。雨の あとや、水が ふえて いる ときは、近づかない。しおみずは のまない。

蒸発で塩が残るところと、二つの水が重なるところは、家の中で見られる。家の人といっしょにやる。

  • 水大さじ3に食塩を小さじ4分の1溶かす(海水と同じ3%ほど)。浅い皿に入れて日当たりのよい室内に置くと、数日で水が減り、白い粒が残る。飲まない。ペットや小さな子の手が届かない所に置く。
  • 細いコップに水100ミリリットルと食塩10グラムを溶かして絵の具で色をつけ、色のない水を、スプーンの背に当ててそっと注ぐ。海水より濃くしてあるので、うまくいくと層に分かれる。色のついた重い塩水が下に残り、水が上に乗れば、塩水くさびの小さな版だ。にじ色の水の作り方は、中部電力の教材にある[19]。
  • 国土交通省の「川の防災情報」で、河口にいちばん近い水位観測所と、上流の観測所の水位グラフを、1日ぶん並べて見る。河口に近い感潮区間では、潮で水位が変わる[15]。グラフの形がちがうかどうか比べてみる(観測所の位置や堰(せき)によっては、潮の影響が出ない川もある)[20]。
安全のために

川や海の水に入って確かめることはしない。河口や川べりを見に行くときは、大人といっしょに、橋や堤防の上から見る。雨のあとや増水しているときは近づかない。塩水は飲まない。

最初の問いの、蒸発による塩の残り方と、川と海のちがいは、次の方法で自分でも確かめられる。実験は大人といっしょにやる。

  • 皿の上で蒸発させる。水大さじ3に食塩を小さじ4分の1溶かす(海水と同じ3%ほど)。浅い皿に入れて、日当たりのよい室内に置くと、数日で水が減り、白い粒が残る。水だけが空気中に出て、塩は残る。飲まない。ペットや小さな子の手が届かない所に置く。
  • 塩水と真水を重ねる。細いコップに水100ミリリットルと食塩10グラムを溶かし、絵の具で色をつける。色のない水を、スプーンの背に当てて少しずつ注ぐ。海水(約3.5%)より濃く(約9%)してあるので、うまくいくと層に分かれる。教材は濃さの違う4色を重ねており、この方法は同じ条件の再現ではない。重い塩水が下に残り、水が上に乗れば、第5章の塩水くさびの小さな版だ。にじ色の水の作り方は、中部電力の教材にある[19]。混ざってしまったら、注ぎ方をゆっくりにしてやり直す。
  • 河口近くの水位グラフを見る。国土交通省の「川の防災情報」で、河口にいちばん近い水位観測所と、上流の観測所の水位グラフを、1日ぶん並べて見る[20]。感潮区間は潮汐で水位が変わる区間なので[15]、グラフの形がちがうかどうか比べられる。ただし、観測所の位置や堰(せき)によっては、潮の影響が出ない川もある。
  • 原典を読む。ハレーの1715年の報告は、王立協会のサイトにある(英語)[7]。リビングストンの論文には、世界の川の平均の表と、各地の川の分析値が載っている[1]。河川砂防技術基準の第14章には、弱混合・緩混合・強混合の塩分分布の図がある[15]。
安全のために

川や海の水に入って確かめることはしない。河口や川べりを見に行くときは、大人といっしょに、橋や堤防の上から見る。雨のあとや増水しているときは近づかない。塩水は飲まない。

しらべた もとの じょうほう

参考にした情報源

参考にした情報源と、その使い方

このメモは、下にあげた公開情報をもとに書いています。文章や図を無断で転載してはいません。もっと正確に知りたいときは、必ず下の出典にあたってください。リンク先の内容や、リンク先で起きたことについて、当サイトは責任を負いません。

出典について:アメリカ地質調査所(USGS)・アメリカ海洋大気庁(NOAA)・国土交通省・国土技術政策総合研究所・水産研究・教育機構・帯広開発建設部は公的機関のページです。リビングストンの論文はUSGSが出した報告書、ハレーの報告は王立協会が出した当時の論文集の記事です。Scientific American・Inference・Linda Hall Library は、ハレーとジョリーの経緯を紹介する解説記事、LibreTextsは大学の教科書、Wikipediaは百科事典サイトです。竹井氏の文書は東京大学の研究者による解説、中部電力のページは子ども向けの実験教材です。

  1. Livingstone, D. A. (1963) "Chemical Composition of Rivers and Lakes", Data of Geochemistry, U.S. Geological Survey Professional Paper 440-G。 https://pubs.usgs.gov/pp/0440g/report.pdf (世界の川の平均:合計約120ppm、炭酸水素58.4・カルシウム15.0・ナトリウム6.3・塩化物7.8ppmなど、川が海へ運ぶ溶けた物質は年約39億トン。要旨の表記は3.9 billion tons)
  2. アメリカ地質調査所(USGS)Water Science School「Why is the ocean salty?」。 https://www.usgs.gov/water-science-school/science/why-ocean-salty (海水の塩分は約35‰・約3.5%、塩分の出どころ、生物による除去)
  3. アメリカ海洋大気庁(NOAA)国立海洋局「Why is the ocean salty?」。 https://oceanservice.noaa.gov/facts/whysalty.html (陸の岩が主な出どころ、海底の熱水、塩化物イオンとナトリウムで約85%)
  4. 国土交通省『日本の水資源の現況』第1章「水の循環と水資源の賦存状況」(PDF)。 https://www.mlit.go.jp/common/001177455.pdf (地球上の水は約14億km³で約97.5%が海水等、世界の年降水量約577千km³・陸上約119千km³・陸の蒸発散約74千km³・流出約45千km³)
  5. 日本海事広報協会「海と船なるほど豆事典 地球の水の循環」。 https://www.kaijipr.or.jp/mamejiten/shizen/shizen_5.html (雨や雪が海におよそ46万km³、陸におよそ12万km³)
  6. Wikipedia「Dead Sea」。 https://en.wikipedia.org/wiki/Dead_Sea (出口の川がない塩湖、塩分34.2%(2011年)は海の約9.6倍、人が浮く)
  7. Halley, E. (1715) "A short account of the cause of the saltness of the ocean, and of the several lakes that emit no rivers; with a proposal, by help thereof, to discover the age of the world", Philosophical Transactions 29(344)。 https://royalsocietypublishing.org/rstl/article/29/344/296/110504/V-A-short-account-of-the-cause-of-the-saltness-of (ハレーの報告の題名。海と湖が塩辛い理由と、そこから世界の年齢を測る提案)
  8. Scientific American「Halley on the Age of the Ocean」。 https://www.scientificamerican.com/article/halley-on-the-age-of-the-ocean/ (川が塩を運び、蒸発するのは塩の混じらない水だけ、出口のない湖も同じ理由で塩辛くなる、という考え)
  9. Linda Hall Library「Scientist of the Day: John Joly」。 https://www.lindahall.org/about/news/scientist-of-the-day/john-joly/ (ジョリーがナトリウムから8千万〜9千万年と見積もったこと、1910年にハレーの先行提案が指摘されたこと)
  10. Bjornerud, M. "Reading Seawater", Inference: International Review of Science。 https://inference-review.com/article/reading-seawater (ジョリーが各地の川の成分から9千万〜1億年と見積もったこと、その数字がナトリウムの滞在時間に近いこと、前提がまちがっていた理由)
  11. アメリカ地質調査所(USGS)「Age of the Earth」。 https://pubs.usgs.gov/gip/geotime/age.html (地球の年齢は約45億4千万年、鉛の同位体による測定)
  12. Chamberlin, Shaw, Rich, Our World Ocean「8.9: Residence Time」(LibreTexts)。 https://geo.libretexts.org/…/8.09:_Residence_Time (滞在時間の定義、ナトリウム約55百万年・塩化物約87百万年・水約3,100年)
  13. Wikipedia「Seawater」。 https://en.wikipedia.org/wiki/Seawater (海水の塩分約3.5%、成分の重さの割合:塩素55%・ナトリウム30.6%・硫酸7.7%・カルシウム1.2%ほか、カルシウムは早く沈殿しナトリウムと塩素は滞在時間が長い)
  14. 竹井祥郎「魚類の体液調節のしくみ ─海水環境への適応機構─」(東京大学大気海洋研究所・saltscience.or.jp 掲載のPDF)。 https://www.saltscience.or.jp/images/2023/07/2-takei.pdf (真骨魚類の体液は海水の約3分の1、淡水と海水での水と塩の調節、塩類細胞、ウミドリ・ウミガメの塩類腺、腸での炭酸カルシウムの沈殿)
  15. 国土交通省「河川砂防技術基準 調査編 第14章 汽水域・河口域の環境調査」(PDF)。 https://www.mlit.go.jp/river/shishin_guideline/gijutsu/gijutsukijunn/chousa/pdf/14.pdf (汽水域・感潮区間・塩水遡上区間の定義、塩分0.5〜30‰、弱混合・緩混合・強混合と塩水くさび)
  16. 国土技術政策総合研究所「感潮」(河川用語解説)。 https://www.nilim.go.jp/lab/rcg/newhp/yougo/words/026/html/026_main.html (感潮区間で、満潮時に塩水が遡上して流れが変わり、干潮時に元に戻ること)
  17. 水産研究・教育機構「日本のサケ科魚類」。 https://www.fra.go.jp/shigen/salmon/salmonidae.html (シロザケの遡上は9〜12月、稚魚の降海は翌年3〜5月、主群は4年魚)
  18. 北海道開発局 帯広開発建設部「自然の中でのサケの一生」。 https://www.hkd.mlit.go.jp/ob/tisui/kds/pamphlet/kurashi/gyogyoukougyou/ctll1r000000bagi.html (海に出た稚魚が1〜2か月、沿岸で成長すること)
  19. 中部電力「教えて!よっしー先生 にじ色の水を作ろう!」。 https://www.chuden.co.jp/kids/teacher/teach_02/ (食塩の量を変えた色水を、少しずつそっと重ねる方法)
  20. 国土交通省「川の防災情報」。 https://www.river.go.jp/ (全国の川の水位・雨量などを見られるページ)

なおした ところ

更新履歴

更新履歴(改版の記録)

  •  初版を公開。

このサイトでは、公開した記事の本文は原則として書き直しません。誤りが見つかったときや、内容が古くなったときだけ手を入れ、その理由をこの欄に残します。