このサイトは、ほんの入り口です

ここにあるのは、だれかが実際に調べ、考え、作ってきたことを集めたメモです。気になったら、ページの下の「参考にした情報源」から、もとの本や記事、それを生み出した人たちに、直接ふれてみてください。このメモには書ききれないおもしろさが、そこにあります。

わゴムは、どうして のばすと あたたかく なるの?

輪ゴムを伸ばすと温かくなるのはなぜ? ── 分子の並び方から考える

ゴムの伸長による発熱とエントロピー弾性 ── ゴー(1805年)・ジュール(1859年)・グフ・ジュール効果

分野:自然

わゴムを くちびるに あてて、すばやく ぐいっと のばして みて ください。ほんの すこし、あたたかく なります。ゆっくり もどすと、ひんやり します。

ひを つかったわけでも、こすったわけでも ありません。わゴムの なかで、なにが おきて いるのでしょう。むかしの ひとが きづいた ことと、ふしぎな しかけを 見て いきます。

輪ゴムを唇やほほに当てて、素早く伸ばしてみると、ほんのり温かくなります。伸ばしきった状態から素早くゆるめると、今度は冷たく感じます[3]。

熱が出るのは、ゴムどうしがこすれるからではないようです。ゴムの中にある長い分子の並び方が変わるときに、熱が出入りするという説明があります。この記事では、その考え方と、200年以上前にこれを見つけた人たちの話、伸ばしたゴムを温めると縮むという不思議な性質を紹介します。

輪ゴムを急に伸ばすと温度が上がり、急にゆるめると下がる。この現象はゴムの分子鎖の配置の変化にともなうエントロピー変化で説明される[1]。

「こすれて熱が出る」という素朴な説明はこの現象には当てはまらない。この記事では、日本語の解説資料と英語の解説を突き合わせ、発熱の理屈、1805年のゴーと1859年のジュールによる観察、伸ばしたゴムを加熱すると縮むグフ・ジュール効果、1941年の統計理論をたどる。原論文は参照できておらず、二次資料に依拠する部分がある。

読み方を切り替えられます。画面の上にある「よみかた」のボタンで、小学校低学年むけ・小学校高学年むけ・中学生むけの3つの書き方に切り替わります。むずかしいと思ったら、いつでもやさしい方に戻ってください。選んだ読み方はブラウザが覚えているので、次に別の記事を開いたときも同じ読み方で始まります。

1. くちびるで たしかめると?

1. 唇に当てて、素早く伸ばす

1. 実験 ── 唇で温度変化を感じる

のばして いない わゴムを、くちびるか ほほに ちょんと あてます。そのまま、すばやく ひだりと みぎに のばします。あたたかく なるのが わかります[3]。

こんどは のばしきった ところから、すばやく ゆるめます。すると、つめたく なります。

あたたかさは、ほんの すこしです。「あつい」と いうほどでは ありません。ゴムに よっても ちがうようです。

伸ばしていない輪ゴムを唇かほほに軽く当て、そのまま素早く左右に引っ張ります。温度が上がるのが感じられます。次に、伸ばしきった状態から素早くゆるめると、温度が下がります[3]。

唇やほほを使うのは、指先よりも小さな温度の違いを感じやすいからだと考えられます。温まり方は「熱い」というほどではなく、ゴムの種類でも差があります。温度の変化は小さく、ゴムの種類や伸ばし方でも変わります。

大阪市の教育センターの研修資料には、伸ばさない輪ゴムを唇やほほに触れさせて素早く伸ばすと温度が上昇し、伸びきった状態から素早くゆるめると下がる、という手順が書かれている[3]。皮膚の中でも唇やほほは温度に敏感なため使われると考えられる(この点は資料の記述から推測したもので、資料が理由を述べているわけではない)。

変化の大きさは小さく、ゴムの種類や伸ばし方で異なる。本稿では具体的な温度の数値は原文で確認できていないため挙げない。

2. ゴムの なかで なにが おきて いるの?

2. 温かくなる理由は、長い分子の並び方の変化

2. 分子鎖の配向とエントロピーの減少

ゴムは、とても ながい ひもの ような ものが、たくさん からまって できて います。ひもの ような ものは「ぶんし」の つながりです。

ふだんの ゴムでは、この ひもが ぐちゃぐちゃに からまって います。ぐいっと のばすと、ひもが のばした ほうこうに かたよって、ならびかたの ぱたーんが へります[2]。

たとえば、たこ糸を なんぼんも くしゃっと ふくろに いれて、くちから ひっぱって そろえる ようすを おもいうかべて ください。ぐちゃぐちゃより、ひっぱる ほうこうに かたちが かたよった ほうが、ならびかたの ぱたーんは すくなく なります。ゴムの なかでも、ならびかたの えらび かたが へります。のばすと、ゴムの なかの ねつも ふえて、さわると あたたかく かんじます[1]。

ただし、たこ糸は ゴムの ぶんしを わかりやすく した たとえです。ほんとうの ぶんしは、もっと ちいさく、いつも ぷるぷる ゆれて います。

ゴムは、長い分子(分子鎖)が複雑に絡まった、無秩序な状態でできています。引っ張ると、分子鎖の形が伸ばした方向に偏り、とれる形の数が減ります。すると、もとの乱雑な状態に戻ろうとする傾向が、縮む力(張力)として現れます[2]。すべての分子がきれいに同じ向きに並ぶわけではありません。

大阪大学の解説では、伸ばすと分子がとれる形が限られるため、「形の乱雑さ(構造のエントロピー)」が減ると説明されています。急に伸ばすと熱が逃げる時間がないので、減った分は「分子の熱振動の激しさ」の増加として現れます。つまり温度の上昇です[1]。ゆるめるときは反対で、分子が乱雑な状態へ戻る分、熱を使うので冷えます。

ここで大事なのは、これが摩擦熱ではないことです。出典の説明は「分子どうしがこすれる」ではなく、分子の並び方の自由さが変わることに基づいています。

糸の束をたとえにすると、からまった糸をそろえるほど、糸の置き方の選択肢は減ります。ただし分子は熱で絶えず揺れているので、実際の様子は糸より複雑です。

ゴムは長い分子鎖が複雑に絡み合った無秩序な状態にあり、引っ張ると鎖の形が伸長方向に偏り、とりうる配置数が減る(全鎖が一様に整列するわけではない)。もとの乱雑な状態へ戻ろうとする傾向が張力として現れる、というのがエントロピー弾性の説明である[2]。

大阪大学の解説では、ゴムを伸長させると分子がとりうる微視的な構造が制限され、構造のエントロピーが減少する。短時間の伸縮は断熱過程とみなせるので系全体のエントロピーは保存され、構造エントロピーの減少分は熱振動のエントロピーの増加、すなわち温度上昇として現れる[1]。逆にゆるめると構造のエントロピーが増え、その分だけ熱振動が減って吸熱する。

この説明は摩擦を用いない。「分子どうしがこすれて発熱する」という理解は出典の記述と合わない[1]。

3. のばした ゴムを あたためると、どうなる?

3. 伸ばしたゴムを温めると縮む

3. グフ・ジュール効果 ── 加熱すると縮む

ふつうの ものは、あたためると のびます。てつの ぼうも、あたためると すこし のびます。

ところが、ひっぱって のばした ゴムを あたためると、ふつうと ぎゃくに、ちぢみます[5]。ほんとうに おきる ことですが、おうちでは、あぶないので ためさなくて だいじょうぶです。

ふつうに のばす ときは、ちぢむ ちからは、ぶんしが ちからを ためて いる ことよりも、ぶんしの ならびかたの ぐちゃぐちゃさが おおきく かんけい して います[4]。

ふつうの物は、温めると膨らみます。ところが、張力をかけて伸ばしたゴムを温めると、逆に縮みます。この性質は、後に述べる2人の名前をとって「グフ・ジュール効果」と呼ばれます[5]。

ゴムを温めると縮むことも、分子の並び方と関係しています。温めると分子の熱運動が激しくなり、そろった状態より乱雑な状態のほうが「ありえる形」が多いため、ゴムは乱雑なほう、つまり縮んだほうへ戻ろうとする力が強くなります。

英語の解説では、ゴムが力を出せるのは、ばねのように分子の結びつきにエネルギーを貯めているからではなく、理想気体と同じようにエントロピーの変化で決まるからだと説明されています[4]。通常の伸び方では、これが主な要因です(大きく伸ばすと、結合の変形も関わります)。ばねと似た「伸びたものが戻る」動きでも、仕組みが違うようです。

張力をかけて伸ばしたゴムを加熱すると、通常の物質のように膨張せず、収縮する。これがグフ・ジュール効果である[5]。逆に、伸ばしたゴムを急に離すと周囲より冷える点は、伸ばして急に緩めたときの吸熱と同じ説明で理解される[1]。

Rubber elasticity の解説は、エラストマーが仕事をする能力は、理想気体と同様にエントロピー変化だけで決まり、高分子の結合に蓄えられたポテンシャルエネルギーには依らない、と述べる[4]。ただしこれは通常の伸び方での理想的な記述で、高伸長では結合の変形も寄与する。つまりゴムの弾性は、金属ばねのような内部エネルギーの貯蔵とは、主な原因が異なると説明される。

加熱すると縮む理由は、温度が高いほど熱運動によるエントロピーの寄与が大きくなり、エントロピーの高い(乱雑で短い)状態への復元傾向が強まるためと解釈できる。これは資料の記述から筆者が組み立てた説明であり、資料自身の言葉ではない。

4. だれが さいしょに きづいたの?

4. 200年以上前の気づき ── ゴーとジュール

4. 1805年のゴーと1859年のジュール

いまから 200ねん いじょう まえ、ジョン・ゴーと いう ひとが、ゴムを のばすと おんどが かわる ことを しらべました。また、ひっぱった ゴムを あたためると ちぢむ ことも かきました[6]。1805ねんの ことと いわれます。

そのあと 1859ねんに、ジェームズ・ジュールと いう ひとが、のばした ときの おんどの あがりかたを、ていねいに はかりました[6]。

ゴーの ねんは、しりょうに よって すこし ばらばらです。ここでは 1805ねんと して います。

この現象を早くに書き残した人として、ジョン・ゴーの名前があがります。1805年ごろ、マンチェスターの学会の紀要に、ゴムを伸ばすと温度が変わることや、張力のかかったゴムを熱すると縮むことを発表したとされます[6]。ゴーの発表年は資料によって1802年・1805年・1806年とゆれていて、ここでは1805年としています。

その半世紀ほど後の1859年に、ジェームズ・ジュールが、ゴムを伸ばしたときの温度変化を初めて丁寧に測ったと紹介されています[6]。エネルギーの研究で知られるジュールが、輪ゴムのような身近な素材にも目を向けていたことになります。

現象の名前が2人から来ているのは、この2人の仕事がのちの説明の土台になったためです。

ジョン・ゴーは、マンチェスター文芸哲学協会の紀要(Memoirs of the Manchester Literary and Philosophical Society)で、ゴムを伸ばすと温度が変わること、張力下のゴムは熱すると縮むことを報告したとされる[6]。年は資料により1802・1805・1806とばらつく。ジュールが後年言及した内容に基づき、本稿では1805年とする。原論文は未確認である。

ジュールは1859年に、ゴムを伸ばしたときの温度変化を測定した[6]。エネルギーの仕事当量の研究で知られる人物が、身近な素材の熱的性質を精密に測ったことになる。

グフ・ジュール効果の名は、この2人に由来する[5]。

5. どうして そう なるのか、いつ わかったの?

5. 「エントロピー」に基づく理論が出たのは1941年

5. 統計理論の成立 ── 1941年のGuthとJames

ゴムが のびると あたたかく なる。この ふしぎな ことは、いつ わかったのでしょう。

1941ねんに、ぶんしの ならびかたの ぐちゃぐちゃさで せつめい する かんがえが だされました[4]。その かんがえが、いまの せつめいの もとに なって います。

ゴーの観察から130年以上たった1941年に、Eugene GuthとHubert Jamesが、ゴムの弾性がエントロピーに由来するという統計理論を提案しました[4]。

ゴムそのものは、それより前から使われています。ゴムを硫黄で固くして丈夫にする「加硫」は、19世紀の半ば(グッドイヤーが1838年ごろとされます)に見つかりました[4]。使い方が先に広がり、しくみの説明が後から追いついた例です。

ただし、加硫の年は資料によって表現がゆれるので、19世紀半ばくらいにとどめておきます。

ゴムの伸縮をエントロピーで説明する統計理論は、1941年のEugene GuthとHubert M. Jamesの提案が出発点とされる[4]。ゴーの報告から約130年後(1805年から1941年で136年)にあたる。

加硫(硫黄による架橋)はグッドイヤーが1838年ごろに見出したとされるが、大阪大学の資料は「19世紀半ば」と記しており[1]、年号は資料間で揺れる。したがって年は目安にとどめる。

本稿は天然ゴムの結晶化に伴う発熱には立ち入らなかった。それが効くかどうかはゴムの種類にも左右されるため、詳しくは各資料に当たってほしい。

自分でも しらべて みたく なったら

自分でも調べてみたくなったら

自分でも調べてみたくなったら

いちばん かんたんな のは、ほんとうに くちびるで たしかめる ことです。ゴムが きれて はねかえらないように、めから はなして もって、ちいさく のばして ください。めの ちかくで やっては いけません。

おもしろいのは、のばして すぐと、のばした まま すこし まった あとを くらべる ことです。のばした まま すこし まってから、ゴムを くちびるに あてて みましょう。のばした すぐあとも おなじように あてて、くらべます。あたたかさは どう かわって いるでしょう。

ゴムに よって、あたたかさが ちがうかも しれません。ふとい ゴムと ほそい ゴムで くらべて みると、なにか みつかる かも しれません。

家にある輪ゴムで、すぐに確かめられます。輪ゴムが切れると顔に当たって危ないので、目から離して持ち、小さく伸ばしてください。目の近くではやらないでください。

次のことを比べると、発見があるかもしれません。

  • 伸ばしてすぐと、伸ばしたまま少し待ったあと。どちらの場合も、輪ゴムを唇かほほに軽く当てて、温かさを比べてみましょう。
  • 太い輪ゴムと細い輪ゴム。伸び方や温かさに差が出るでしょうか。

資料を読むなら、大阪大学の解説([1][2])から入ると、日本語で流れをたどれます。

大阪大学の解説([1][2])は日本語で読める。Rubber elasticity と Gough–Joule effect の英語の解説([4][5])は、式と歴史的経緯が詳しい。ゴーとジュールの原論文は、今回参照していない。

身近な確認は、輪ゴムで自分でできる。目の近くで強く伸ばさず、切れて跳ね返る事故に注意する。伸ばした直後と、伸ばしたまま少し待った後で温かさを比べ、太さの異なるゴムでの違いも比べると、断熱過程の近似がどれだけ成り立つか(熱がどれくらい逃げるか)が見える。

しらべた もとの じょうほう

参考にした情報源

参考にした情報源と、その使い方

日本語の解説を主に、英語の解説を補助に使いました。原論文は参照していません。

  1. 大阪大学 理学研究科 ソフトマター研究室 研究報告(2015) https://www.chem.sci.osaka-u.ac.jp/lab/micro/report/rcst/2015/2015res06.html.ja.pdf (発熱・吸熱とエントロピーの説明)
  2. 大阪大学 理学研究科 ソフトマター研究室 研究報告(2018) https://www.chem.sci.osaka-u.ac.jp/lab/micro/report/rcst/2018/2018res09.html.ja.pdf (分子鎖の配向、温度変化の大きさ)
  3. 大阪市教育センター 理科研修資料「ゴムの伸縮」 https://www.osaka-c.ed.jp/kate/rika1/H19kensyuu/tyouki/gomu-sinsyuku.pdf (唇を使った確かめ方)
  4. Wikipedia, Rubber elasticity https://en.wikipedia.org/wiki/Rubber_elasticity (エントロピー弾性、1941年の理論、加硫)
  5. Wikipedia, Gough–Joule effect https://en.wikipedia.org/wiki/Gough%E2%80%93Joule_effect (加熱すると縮む性質)
  6. Richard Jones, Soft Machines https://softmachines.org/?p=2557 (ゴーとジュールの歴史)

なおした ところ

更新履歴

更新履歴(改版の記録)

  •  初版を公開。

このサイトでは、公開した記事の本文は原則として書き直しません。誤りが見つかったときや、内容が古くなったときだけ手を入れ、その理由をこの欄に残します。