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ここにあるのは、だれかが実際に調べ、考え、作ってきたことを集めたメモです。気になったら、ページの下の「参考にした情報源」から、もとの本や記事、それを生み出した人たちに、直接ふれてみてください。このメモには書ききれないおもしろさが、そこにあります。

かさぶたの したでは、なにが おきて いるの?

かさぶたの下で、皮膚の細胞はどう傷を覆うのか ── はがしたくなる理由と、はがさないほうがいい理由

かさぶた(痂皮)の下で細胞が傷を覆う ── 1962〜63年の「乾燥か湿潤か」の実験

分野:からだ

きずが なおりかけると、かさぶたが できます。ちょっと うきあがって いると、つい はがしたく なりますよね。

でも、おうちの ひとには「はがさないで」と いわれます。かさぶたの したで、なにが おきて いるのでしょうか。むかしの ひとたちが しらべた じっけんも、いっしょに 見て みましょう。

かさぶたは、浮いてくるとつい爪でつつきたくなります。けれども、はがすと血がにじんだり、治りが遅くなったりすることがあります。

かさぶたの正体は、血を止めた栓が乾いて固まったものです。その下で皮膚の細胞が進んでいくのですが、1960年代には「かさぶたは治りを助けるのか、遅らせるのか」を、ブタや人で調べる研究が出ました。その話までを、資料から整理します。

かさぶたは、止血のために傷口にできた血栓が乾燥して固まったものである[1]。その下では、表皮の細胞が傷の上を移動して覆っていく[1]。

1962年、ブタの浅い傷でかさぶたを作らせないと上皮化が速まる、との報告が出た[2]。翌1963年には人の前腕で同様の試験があり、条件によって見え方が異なった[5]。このメモでは、かさぶたの成り立ち、下の細胞の動き、この実験、いまの湿潤環境の考え方を整理する。

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1. かさぶたって、なにで できて いるの?

1. かさぶたは、血を止めた栓が乾いたもの

1. 血が止まってから、痂皮ができるまで

きずが できると、まず 血が でます。すると 血の なかの ちいさな つぶが、あなに くっついて、ふたを します。この つぶを 血小板けっしょうばんと いいます[1]。

そこへ、あみの ような ものも できて、ふたを しっかり とめます。これは、けがを して すうふんの うちに はじまると いわれて います[1]。

この ふたが そとに でて かわくと、かたく なります。それが かさぶたです[1]。

つまり、かさぶたは 「血が とまった あとの すがた」 です。

まず栓ができる

けがをして数分以内に、血の中の血小板が傷ついた場所にくっつき、穴をふさぎにかかります。続いて、フィブリンという線維が網のように張られ、血小板どうしをつなぎとめる、と説明されています[1]。

乾くとかさぶたになる

外にはみ出した血の塊が乾いて固まったものが、かさぶた(痂皮)です[1]。血が止まっただけではまだ完成ではなく、乾いたあとの姿がかさぶた、と考えると分かりやすいです。

受傷から数分以内に、血小板が損傷部位へ粘着・凝集し、フィブリンが網状の構造で血栓を安定させる[1]。血液の塊が創面の外側で乾燥・硬化したものが痂皮、すなわちかさぶたである[1]。

止血が完了した時点はかさぶたの完成を意味しない。乾燥の程度が痂皮の大きさや硬さにも影響し、乾いた環境では大きく硬い痂皮ができやすいとされる[1]。

2. かさぶたの したで、さいぼうは どう すすむ?

2. 下では、皮膚の細胞が「くぐって」進んでいる

2. 痂皮の下で、表皮の細胞が傷を覆っていく

かさぶたの したでは、皮膚ひふの いちばん そとがわの 細胞さいぼうが、きずの ふちから ひろがって いきます。かさぶたの したに もぐる ように すすむと いわれて います[1]。

けあなや 汗あせの でる くだの なかに のこった 細胞さいぼうからも、あたらしい ひふが ひろがる と、1962ねんの ろんぶんの しょうかいに あります[2]。

縁からだけではない

傷がふさがるとき、表皮の細胞は、肉が盛り上がってくる面の上を、かさぶたの下にとどまりながら移動していきます[1]。細胞が供給される場所は、傷の縁の表皮だけではありません。1962年の論文の紹介には、傷の中に残った毛包や汗腺の管からも新しい表皮が広がる、と書かれています[2]。

全体で3〜5日ほど

人の前腕の浅い傷を調べた1968年の研究では、細胞の移動から角化まで、全体で3〜5日ほどかかったと報告されています[4]。ごく浅い傷での話で、すり傷や深い傷では日数がちがいます。

Wound healing の解説では、ケラチノサイトは肉芽組織の上を、痂皮の下にとどまりながら移動するとされる[1]。再上皮化の供給源は創縁の表皮に限らず、創内に残る毛包・汗腺管からも起こる[2]。

Odland & Ross(1968)は、ヒト前腕の浅い創で、表皮の移動・分化・角化の全過程に3〜5日を要したと報告した。基底膜は、創底のフィブリン網に接する表皮で形成されるとした[4]。ごく浅い創での所見であり、擦過創や深い創にそのまま当てはまるとは限らない。

3. かさぶたが ないほうが、はやく なおる?

3. 1962年、ブタの実験で「かさぶたは治りを遅らせる」と報告された

3. Winter(1962)── 湿らせた傷のほうが速く覆われた実験

1962ねん、ジョージ・ウィンターと いう けんきゅうしゃは、わかい ブタの せなかに あさい きずを つくって、くらべて みました。実験じっけんは ブタで した[2]。

ひとつは、ふつうに かさぶたが できる きず。もうひとつは、うすい まくで おおって、しめった ままに した きずです。

すると、まくで おおった ほうが はやく ひふが おおわれた、と ほうこくされました[3]。この ろんぶんの しょうかいには、「かわいた かさぶたが、ひふが ひろがるのを おそくする」と あります[2]。

ただし、これは ブタの ほうこくです。ひとで おなじだと いえる わけでは ありません。

ブタの背中の傷で比べた

1962年、ジョージ・ウィンターは、若いブタの背中につけた浅い傷で、かさぶたの有無による表皮の広がり方を比べました。ポリマーの膜で覆って湿らせたままにした傷のほうが、かさぶたのできた傷より上皮化が速かった、と報告されています[3]。

この論文の紹介には、浅い傷を普通ならおおう乾いたかさぶたが上皮化を遅らせ、かさぶたの形成を防ぐと上皮化の速さが大きく上がる、という趣旨が書かれています[2]。

ブタの結果を人にそのまま当てはめない

これはブタの浅い傷での報告です。人の傷でも同じ大きさの差が出るとは、この報告だけでは言えません。だから翌年、人でも試されたのです。

Winter(1962)は、若いブタの背部の浅い創で、ポリマー膜で被覆した湿潤創が、痂皮形成を許した創より速く上皮化したと報告した[3]。論文の紹介では、通常は浅い創を覆う乾燥した痂皮が上皮化を遅らせ、痂皮形成を防げば上皮化速度が顕著に上がる、と述べる[2]。

ブタでの所見であり、ヒトへの外挿はこの報告単独ではできない。要旨レベルの確認であり、実験の細部までは確かめていない。

4. ひとで しらべたら、どうだった?

4. 翌1963年、人での試験は「差は小さい」と読める結果に

4. 1963年の追試 ── Hinman & Maibach とZahir

つぎの とし、ヒンマンさんと マイバッハさんは、ひとの うでの ちいさな きずで しらべました[5]。

ポリエチレンで おおった きずは、5にちめには なおりが すすんで いました。でも 7にちめには、かさぶたの きずも、おおった きずも、ぜんぶ なおって いたと、しょうかいされて います[5]。

ブタでは「かさぶたが ないほうが はやい」。ひとでは「とちゅうは ちがっても、7にちめには おなじ」。どうして ちがって 見えたのでしょうか。

人の腕の小さな傷で

1963年に、ヒンマンとマイバッハは、人の前腕につけた小さな傷を調べました。ポリエチレンで覆った傷は、5日目には治りが進んでいましたが、7日目には、かさぶたのできた傷も覆った傷も、すべて治っていたと紹介されています[5]。参加した人は少なく、個人差も大きかったといわれ、小さな浅い傷での話でもあります。

見え方が割れた

同じ1963年には、Zahirがモルモットの傷でかさぶたの影響を調べた論文も出ています[6]。この論文の結論は、ここでは扱いません。

ブタでは「かさぶたは遅い」、人では「途中は差があっても、7日目には同じ」。研究ごとに見え方がちがっていた、と読めます。その理由までは、ここで見た資料からは分かりません。

Hinman & Maibach(1963, Nature)は、要約によれば、ヒト前腕の小さな創で、ポリエチレンで閉鎖した創が5日目に治癒が進んでいたが、7日目には痂皮創も閉鎖創も全て治癒していたと紹介されている[5]。被験者は少数で個人差も大きく、小さく浅い創での所見であり、一般化はできない。

Zahir(1963, Nature 199:1013)はモルモットの創で痂皮の影響を調べたが、結論の詳細はここでは扱わない[6]。Winterのブタでの結果と併せると、研究ごとに見え方は割れているが、その理由は今回の資料からは分からない。

5. いまは、きずを どう 考えて いるの?

5. いまの医療は「清潔で湿った環境」を大切にする立場

5. 湿潤環境の考え方 ── 日本皮膚科学会ガイドラインと家庭での注意

いま、おいしゃさんの あいだでは、きずの ひょうめんを きれいで しめった ままに する かんがえが あります[7]。

でも、これは おいしゃさんや かんごしさん むけの はなしです。おうちで、じぶんで きめては いけません。

きずが いたい、はれる、あつい、なかなか なおらない ときは、おとなに はなして、びょういんで 見て もらって ください。

「洗う・消毒しない・乾かさない」

日本皮膚科学会の創傷・褥瘡・熱傷のガイドライン(2018)は、清潔な湿潤環境を保つ立場をとっている、と紹介されています[7]。一般向けには、「洗う・消毒しない・乾かさない」という言葉で広まりました。

ただし、これは医療者向けの指針の話です。傷の深さや汚れ、場所で最適な手当ては変わります。自分で決めず、気になるときは大人や医師に相談してください。

この1960年代の実験は、その後の湿潤の考え方につながる最初期の報告のひとつとして読める、というのが、ここでの見方です。

日本皮膚科学会の創傷・褥瘡・熱傷ガイドライン(2018)は清潔な湿潤環境の維持を推す立場とされ、一般には「洗う・消毒しない・乾かさない」の3原則で紹介される[7]。

これは医療者向けの指針であり、家庭での自己判断を促すものではない。創の深さ、汚染、部位により適切な処置は異なる。気になる症状は保護者や医師に相談してほしい。1962年の実験が現在の湿潤療法に直接つながる、と言い切れる根拠は今回の資料にはない。

6. かさぶたが とれた あとは?

6. かさぶたが取れても、傷あとは1年かけて強くなる

6. 増殖期から成熟期へ ── 傷あとの強度の回復

かさぶたが とれたら、おしまいでは ありません。きずの したでは、細胞さいぼうが ふえて、あたらしい ひふの もとが できて いきます。これは、けがの 2〜3にち あとから はじまる と いわれます[1]。

きずあとの つよさは、3しゅうかんで もとの 5ぶんの 1くらい、1ねん たつと 8わりくらいに なる そうです[1]。

だから、とれた ばかりの ところは、まだ やわらかいです。ていねいに あつかって あげましょう。

取れてからも工事は続く

けがの2〜3日後から、線維芽細胞が傷の場所に入ってきて、組織を作る段階が始まると説明されています[1]。かさぶたが取れるころには、表面は新しい皮膚で覆われていますが、中では作り替えが続いています。

傷あとの強さは、3週間で元の約20%、12か月で約80%まで戻るとされます[1]。1年以上かかることもあります。

受傷後2〜3日ごろから線維芽細胞が創部に進入し、増殖期が始まる[1]。コラーゲンの引張強度は3週間で約20%、12か月で約80%に達し、成熟期は1年以上続くことがある[1]。

痂皮が脱落した時点で表面の再上皮化は概ね完了していても、真皮側の強度回復は長く続く。この数値も二次的解説の記述である。

じぶんでも しらべて みたく なったら

自分でも調べてみたくなったら

自分でも調べてみたくなったら

ちいさな きずが できて、かさぶたが できたら、はがさずに、かさぶたの かたちを かみに えんぴつで かきます。すうじつ おきに おなじ ように かいて、ならべて みましょう。ふちの ようすが かわるか 見て みます。

いたい、はれて あつい ときは、はかる まえに おとなに はなして ください。

今日できること:小さな擦り傷やかさぶたが手元にあれば、はがさずに、数日おきに形や色を紙に写して日付つきで書き留めます。縁の様子が変わっていくかを見ます。痛みや腫れがあるときは、記録より先に大人に相談します。

資料を読むなら:日本語の事典項目[7]が入口になります。1962年の論文の書誌情報は、PubMedで確認できます[2]。

日本語では、湿潤療法の事典項目[7]が入口になる。一次資料は英語で、Winter(1962)[2]とHinman & Maibach(1963)[5]は PubMed で書誌情報を、Odland & Ross(1968)[4]は PubMed Central で全文を読める。

調べる論点は2つある。Zahir(1963)の結論は何だったか。湿潤の優位は、ヒトの浅い傷でどの程度確かめられているか。

しらべた もとの じょうほう

参考にした情報源

参考にした情報源と、その使い方

出典について:英語の解説記事、論文の要旨、日本語の事典項目を突き合わせた。何に使ったかは項目の最後に書いている。論文の本文は一部しか読めていない。

  1. Wikipedia「Wound healing」。https://en.wikipedia.org/wiki/Wound_healing (止血、かさぶた、細胞の移動、傷あとの強さについて)
  2. Winter GD, Nature 193:293-4 (1962)(PubMedの書誌情報)。https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/14007593/ (表皮の供給源、乾いたかさぶたと上皮化について)
  3. Wikipedia「George D. Winter」。https://en.wikipedia.org/wiki/George_D._Winter (ブタでの実験の紹介について)
  4. Odland G, Ross R, J Cell Biol 39:135 (1968)。https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC2107509 (人の浅い傷で表皮の再生にかかる日数について)
  5. Hinman CD, Maibach H, Nature (1963)(PubMedの書誌情報)。https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/14087904/ (人の前腕の小さな傷での比較について)
  6. Zahir M, Nature 199:1013 (1963)。https://www.nature.com/articles/1991013a0 (モルモットの傷の研究があったことについて)
  7. コトバンク「湿潤療法」。https://kotobank.jp/word/湿潤療法 (湿潤療法の考え方と3原則について)

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