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スニーカーは、どうして「こっそり 歩く」と いう 名前なの?

スニーカーは、なぜ「こっそり歩く」名前なの? ── ゴムの靴の歴史をたどる

スニーカーはなぜ「こっそり歩く」名前なのか ── ゴム底の靴の歴史と、1887年の呼び名

分野:歴史・文化

1887ねんの しんぶんに、こんな 意味の 文が のりました。こまって いる 先生ほど、子どもたちが くつを よぶ 名前「スニーカー」が ぴったりだと よく わかる、と いう ことです。

スニーカーは、「こっそり うごく」という ことばから できた 名前です。その くつの そこは、ゴムで できて います。でも、ゴムは もともと、くつには つかいにくい ざいりょうでした。ゴムが くつの そこに なるまでと、名前の ひみつを、たどって みましょう。

1887年9月2日、ニューヨークの新聞に、こんな意味の一文が載りました。困り果てた先生ほど、少年たちがテニスシューズにつけた名前「スニーカー」の的確さがよく分かる、というものです。

スニーカーは、「こっそり動く」という意味の動詞からできた名前で、その底はやわらかいゴムです。ところがゴムは、もとは靴に向かない素材でした。夏にはとけ、冬にはかたまるゴムが、どうやって靴の底になったのか。そして、なぜ子どもたちに「こっそり」と呼ばれたのか。順にたどります。

1887年9月2日、ニューヨーク・タイムズの小さな欄に、ボストンの教育雑誌から引かれた一文が載った。大意は、困り果てた先生こそ、少年たちがテニスシューズにつけた名前 sneakers の的確さを、よく理解できる、というものだ。

sneakers は、「こっそり動く」を意味する動詞 sneak から来た語で、その靴の底はゴムである。だがゴムは、もとは靴に向かない素材だった。夏にとけ、冬にかたまるゴムが、どういう経緯で靴底になったのか。そして「こっそり」の名は、広告の名文句だったのか、子どもたちの呼び名だったのか。資料の記述を突き合わせながら、たどる。

読み方を切り替えられます。画面の上にある「よみかた」のボタンで、小学校低学年むけ・小学校高学年むけ・中学生むけの3つの書き方に切り替わります。むずかしいと思ったら、いつでもやさしい方に戻ってください。選んだ読み方はブラウザが覚えているので、次に別の記事を開いたときも同じ読み方で始まります。

1. ゴムの くつは、なぜ とけたの?

1. 夏にとけて冬にかたまる ── ゴムの品物の大失敗

1. 加硫の前のゴム ── 1830年代のゴムブームと、返品の山

ゴムの 品ものが アメリカで 大人気に なったのは、いまから 190ねんほど まえ、1830ねんごろです。南アメリカから 来た ゴムの 品ものが 売れて、工場が つぎつぎに できました。

ところが、1834ねんの 夏、お店から 返品が つぎつぎに もどって きました。日なたに おいて おいた ゴムが、とけだして しまったのです[1]。

ゴムは、あつい 日には やわらかく ベタベタに なり、さむい 日には かちかちに こわばりました[2]。バターを 夏の 日なたと 冬の ベランダに おいた ときを 思い出して ください。ゴムも、そんな ところが ありました。ただし ほんとうの ゴムは、バターとは ちがう ものです。

これでは、夏も 冬も はいて 歩く くつには なりません。

1830年代のはじめ、アメリカのマサチューセッツ州で、南アメリカから来たゴムの品物が人気になり、工場が次々にできました。ところが1834年の夏までに、店には返品が相次ぎます。原因は、季節による温度の変化をくぐったゴムが、日なたでとけだしたことでした[1]。

もとのゴム(生ゴム)は、熱でやわらかく粘り、寒さでこわばる素材です[2]。靴の底は、夏の道の熱も冬の寒さも受けます。そのままでは、実用にならなかったわけです。

このゴムの大混乱をきっかけに、事業に失敗した商人が、ゴムの改良に打ちこむことになります。チャールズ・グッドイヤーです[1]。

1830年代前半、米国マサチューセッツ州で、南米産のゴムを使った品物が人気になり、工場が次々にできた。ところが1834年の夏までに返品が相次ぐ。原因は、季節の温度変化を経たゴムが日なたで溶けだしたことだった[1]。

生ゴムは、熱で柔らかく粘り、寒さでこわばる。歩く靴の底は、夏の路面の熱と冬の寒さの両方を受けるから、そのままでは実用品にならなかった[2]。

このゴムブームの崩壊を機に、事業に失敗した商人チャールズ・グッドイヤーが、ゴムの改良に打ちこんでいく。参考にした資料の1つは、この騒ぎが彼を「十字軍」のような取り組みへ向かわせたと、題名で表現している[1]。

2. ゴムを じょうぶに した ひみつは?

2. 硫黄と熱がゴムを変えた ── グッドイヤーの発見

2. 加硫の発見 ── 硫黄・熱・1844年の特許と、ハンコックとの先後

ゴムを つかえる ものに かえたのは、チャールズ・グッドイヤーと いう 人です。1839ねん、ゴムに 硫黄いおうを まぜて あつく すると、とけずに じょうぶな ゴムに なる ことを 見つけました[3]。

きっかけは、まぜた ゴムが あついストーブに ふれた ことだと、語りつがれて います。ただ、ほんとうに そうだったのかは、はっきり しない ところも ある 話です。ちゃんと できるように なるまでには、5ねんほど かかりました[2]。

どうして じょうぶに なるのでしょう。ゴムの 中には、長い ひもが たくさん ならんで いると 考えて ください。硫黄いおうは、ひもと ひもを つなぐ 橋のような はたらきを すると せつめいされて います[4]。つながって いると、ひもが すべって ばらばらに なりにくい のです。ただし これは わかりやすく した たとえで、ほんとうの ゴムは、目に 見えない ほど 小さな つぶが つながって できて います。

でも グッドイヤーは、とっきょの あらそいや しゃっきんで、お金もちには なれず、1860ねんに 59さいで なくなりました[3]。

グッドイヤーは、ゴムに硫黄を混ぜて熱すると、とけずに丈夫な状態になることを見つけました。1839年、マサチューセッツ州ウォーバーンでのことです[3]。よく語られるのは、硫黄を混ぜたゴムのかたまりが熱いストーブに触れて、とけないのに気づいたという場面です。ただしこの場面は「そう言われている」という留保つきで紹介される話で、資料によって「落とした」「置いた」と書きぶりが分かれます[2][3]。

1839年に完成したわけではなく、製法を整えるのに約5年かかり、1844年にアメリカの特許を取りました[2]。同じころ、イギリスでもトーマス・ハンコックが、硫黄を使う同じ方法の特許を1843年に取っていました。そのため、グッドイヤーはイギリスでは特許が取れませんでした[4]。

硫黄がゴムを変える仕組みは、ゴムの長い分子どうしを、硫黄の原子でつくった橋でつなぐことだと説明されています[4]。長いひも同士を、あちこちで結びつけるようなものです。ただし本当の分子は、目に見えないほど小さく、結びつきの数で性質が変わります。

グッドイヤー本人は、特許をめぐる争いと借金で、生涯ほとんど富を得られず、1860年に59歳で亡くなりました。今のタイヤの会社の名前は彼にちなんでいますが、本人が作った会社ではありません[3]。

グッドイヤーは、ゴムに硫黄を混ぜて熱すると、溶けない丈夫な状態になることを見つけた。年は1839年、場所はマサチューセッツ州ウォーバーンである[3]。よく語られるのは、硫黄を混ぜたゴムの塊を熱いストーブに落として(または置いて)、溶けないことに気づいたという場面だ。ただし資料はこれを「そう言われている(supposedly)」と留保しており、「落とした」「置いた」の書きぶりも分かれる[2][3]。

1839年は完成の年ではない。製法を整えるのに約5年かかり、1844年に米国特許を得た[2]。特許の日付は資料で食い違う(1844年6月15日とする資料と、1月30日とする資料がある)ので、ここでは年までにとどめる[2][4]。

同じ方法は英国でも特許になっている。トーマス・ハンコックが1843年に硫黄を使う加硫の英国特許を取っており、そのためグッドイヤーは英国で特許を取れなかった。ハンコックが独自に行き着いたのか、グッドイヤーの試料を見たのかは、歴史家の間で議論がある[4]。加硫(vulcanization)の名は、ローマ神話の火の神ヴァルカンにちなむ。命名者は資料によって書きぶりが異なるので、特定しない[4]。

仕組みは、ゴムの長い高分子鎖どうしを、硫黄の原子の鎖が橋かけ(架橋)でつなぐこと、と説明される。これが、熱で溶けにくく寒さでかたくなりにくい性質の理由とされる。ただし効き方は架橋の量や配合しだいで変わり、単純な一言では言い切れない[4]。

グッドイヤー本人は、特許紛争と借金で生涯ほとんど富を得られず、1860年に59歳で亡くなった。グッドイヤー社は1898年の創業で、名前を借りただけであり、本人は関わっていない[3]。

3. この くつは、だれの ための くつだったの?

3. お金持ちの遊びの靴として売り出された

3. 1868年の「クロッケー・サンダル」と、英国のプリムソル

じょうぶに なった ゴムは、あそびの くつの そこにも つかわれました。1868ねんごろ、じょうぶな ぬのと ゴムの そこの くつが、「クロッケー・サンダル」という 名前で 売り出されました。しばふの 上で する あそび、クロッケーの ための くつです[5]。

ねだんは 1足 6ドル。そのころは、お金もちの 人でないと 買えませんでした[5]。

イギリスでは、この くつを 「プリムソル」とも よびました。くつの まわりに ついた 色の 線が、船に ひかれた 線に にて いたから、と いわれて います[6]。

丈夫になったゴムは、遊びの世界でも使われました。1868年ごろ、丈夫なキャンバス地(厚い布)とゴム底の靴が「クロッケー・サンダル」の名で売り出されたと紹介されています。クロッケーは、芝生の上でするスポーツです[5]。

値段は1足6ドル。当時は、裕福な人でなければ買えない靴でした[5]。この靴の用途は、仕事ではなく、クロッケーやテニスのような遊びでした。

イギリスでは、ゴム底のキャンバス靴が海辺用の「サンドシューズ」と呼ばれ、1870年代ごろから「プリムソル」という愛称がつきました。靴の上の部分と底をつなぐ色つきの帯が、船の腹に引かれた喫水線(船が水に沈む深さの目印。プリムソル線)に似ていたから、という説明があります[6]。呼び始めた年は資料によって揺れるので、19世紀後半としておきます[7]。

加硫ゴムの靴底は、遊びの場でも使われた。1868年ごろ、丈夫なキャンバス地とゴム底の靴が「クロッケー・サンダル」の名で売り出されたと紹介されている。値段は1足6ドルで、当時は裕福な人でなければ買えなかった[5]。この靴の用途は、労働や通学ではなく、クロッケーやテニスといった遊びだった。

英国では、ゴム底キャンバス靴が海辺用の「サンドシューズ」と呼ばれ、1870年代から「プリムソル(plimsoll)」の愛称がついたとされる。上部と底をつなぐ色つきの帯が、船体の喫水線(プリムソル線)に似ていたことによる、という説明である[6]。年は資料で揺れ、1885年ごろとする記述もあるため、19世紀後半としておく[7]。

同じ靴に、国が違えば別の名前がつく。この点は最後の章でもう一度出てくる。

4. 「こっそり」の 名前は、だれが つけたの?

4. 「スニーカー」は、広告会社が名づけたのか

4. sneakers の古い用例 ── 1862・1883・1887年の記録と、1917年説

「スニーカー」は、「こっそり うごく」という ことば、スニークから できました。ゴムの そこの くつは、やわらかくて、足音が 小さかった のでしょう。1883ねんの 本にも、上が ぬので そこが ゴムの くつを、「スニークス」と よぶと 書かれて います[7]。

「スニーカー」という 名前は、1917ねんに こうこくの 会社の 人が つけた、という 話が ひろく 知られて きました。でも、1887ねんの 文が 見つかって、それより 30ねんも 前から、子どもたちが 使って いたらしい、と 書かれて います[8]。

先生が こまる ほど、足音の しない くつ。その 名前を 使って いたのは、こうこくの 人では なく、子どもたちの ほうだった ようです。

「スニーカー」は、こっそり動くという意味の動詞 sneak(スニーク)から来た言葉です。sneak という言葉そのものの生まれは、はっきりしないといわれます。動詞としての最も古い例は、16世紀末のシェイクスピアの劇にあります[7]。

靴の意味で古い記録は、いくつか残っています。1862年の本には、夜に見回る人がはくインド・ゴムの靴を、囚人たちが「sneaks」と呼ぶ、とあります。ただしこれは運動靴ではなく、ゴムのオーバーシューズだった可能性もあるので、スニーカーの起源とは言い切れません。1883年の本には、キャンバス地の上部とゴム底の靴が「sneaks」と呼ばれる、と書かれています[7]。

そして1887年9月2日のニューヨーク・タイムズに、この記事の冒頭の一文があります。ボストンの雑誌から引いたもので、先生がこまったときにこそ、男の子たちがテニスシューズにつけた「sneakers」という名前のぴったり具合がわかる、という内容です[7][8]。子どもたちが先生に気づかれず近づけるほど、靴底がやわらかかったから、と説明されています[8]。

「1917年に広告会社の人が名づけた」という説が、長く知られてきました。2010年にアンドルー・ニューマンが1887年の用例を見つけ、この説は否定されたと紹介されています。1917年より約30年早いことになります[8]。ただし、百科事典などには今もこの説を挙げるものがあります[5]。ここにある用例は、いずれもほかの人が引いた文をもとにした二次資料経由で、原紙や原本は直接読んでいません。1887年の例も「確認できる古い例の一つ」であって、これが最初だと決まったわけではありません。原文を読みたくなるところです。

sneakers は、動詞 sneak(こっそり動く)から来た語だ。sneak そのものの語源は「不明(doubtful origin)」とされ、動詞の最古例は16世紀末のシェイクスピア『ヘンリー四世 第1部』にある[7]。語源には古英語 snican 由来とする説明もあるが、OEDは結びつけていない。資料が割れているので、動詞 sneak 由来までにとどめる。

靴を指す例は、次の順で残っている[7]。

  1. 1862年:F. W. ロビンソン『Female Life in Prison』に、夜間の見回りの人がはく、インド・ゴム製の靴やオーバーシューズを、女性の囚人たちが「sneaks」と呼ぶという記述がある。ゴムのオーバーシューズの可能性もあり、運動靴の系譜とは言い切れない。
  2. 1883年:ジェームズ・グリーンウッド『In Strange Company』が、キャンバス地の上部とゴム底の靴を「sneaks」と呼ぶ、と書く。案内人の足もとの描写である。
  3. 1887年9月2日:ニューヨーク・タイムズ「Crisp Sayings」欄が、ボストンの教育雑誌(Boston Journal of Education とされる)の一文を引いた。困り果てた先生こそ、少年たちがテニスシューズにつけた名前 sneakers の的確さを理解できる、という内容。運動靴の意味の sneakers として確認できる古い例の一つで、これが初出だと断定はできない[8]。

「広告会社のヘンリー・マッキニーが1917年に名づけた」という通説は、2010年にアンドルー・ニューマンが1887年の用例を見つけたことで否定された、と紹介されている。約30年早い(1917−1887=30)。子どもたちが先生に気づかれずに近づけるほど靴底がやわらかかった、という文脈も伝わる[8]。ただし、百科事典などにはこの説を名づけ親説の一つとして挙げるものが今もあり[5]、通説と訂正の両方を知っておく必要がある。

ここに挙げた用例は、いずれも語源を論じた資料を通した引用(孫引き)である。1887年の原文やニューマンの発見の原典は、この記事では直接読んでいない。原典にあたって、1887年の一文の前後を読みたくなるところだ。

5. どうして みんなの くつに なったの?

5. 大量に作られ、ふだんの靴になった

5. 運動靴がふだんの靴になるまで ── 1916年の統合ブランドから、1970〜80年代の健康ブームまで

1916ねん、アメリカの ある 会社が、30ほどに 分かれて いた くつの 名前を ひとつに まとめました。そして ぬのの くつを、たくさん 作って 売りました[9]。

バスケットボールが ひろまると、運動の ための くつも 人気に なりました[10]。

1970ねんごろから、ジョギングなどで 体を うごかす ことを 楽しむ 人が ふえました。運動の くつは、ふだんの 服と いっしょに はく くつに なって いきました[11]。

1892年、アメリカで複数のゴム靴の会社が合併して、米国ゴム会社ができました。その靴部門は、約30ものブランド名で製品を出していました。1916年、この30ほどの名前を「Keds(ケッズ)」の1つにまとめ、キャンバス靴として売り出します。最初の候補は、ラテン語で足を意味する「Peds」でしたが、すでに商標があったといいます[9]。

本格的に大量に売られたのは1917年で、最初の大量販売のキャンバス靴とされます。ただし、この会社が「スニーカー」と名づけたわけではなく、ゴム底の靴の最初でもありません。1916年(名前の統合)と1917年(大量販売)も、別のできごとです[9]。

1891年に生まれたバスケットボールが広がると、庶民にも運動用の靴の需要が広がりました。1917年にはゴム底とキャンバス地のバスケットボール靴が作られ、1921年に入社した選手のチャック・テイラーが高校で普及に努め、名前入りの靴になりました[10]。

1970〜80年代には、ジョギングやエアロビクスがはやりました。運動や健康づくりが余暇としても楽しめる、と考える人が増え、運動靴が普段着の一部になっていきます[11]。

1892年、米国で複数のゴム靴会社が合併して米国ゴム会社ができ、その靴部門は1892〜1913年に約30のブランド名で製品を出していた。1916年に、この約30のブランド名を1つにまとめ、キャンバス靴を「Keds」の名で売り出した。当初の候補は「Peds」(ラテン語の足)だったが、すでに商標があった。1917年に本格的に大量販売され、最初の大量販売のキャンバス靴とされる[9]。1916年(ブランド統合)と1917年(量産の売り出し)は別のできごとである。前章のとおり、この会社が sneakers の名づけ親ではなく、ゴム底の靴の最初でもない。

1891年に発明されたバスケットボールの普及で、庶民にも運動用の靴の需要が広がった。1917年にはゴム底・キャンバス上部のバスケットボール靴が作られ、1921年入社のチャック・テイラー(セミプロ選手)が高校で普及活動を行った[10]。

1970〜80年代には、ジョギングやエアロビクスの流行で、運動や健康づくりが余暇としても楽しめると考える人が増え、運動靴が普段着の一部になっていった[11]。日常靴になった時期は1点に決めにくく、資料でも70〜80年代と幅がある。

6. 日本では、どう だったの?

6. 日本へ ── ズックと地下足袋

6. 日本のゴム底靴 ── 「ズック」の語源と1923年

日本では、うんどうぐつを 「ズック」と よぶ ことが あります。ズックは、もとは くつの 名前では なく、じょうぶな ぬのの 名前です。オランダ語の ことばから 来たと されて います[12]。

1923ねんには、日本でも ゴムの そこの じかたびが 売り出されました。たびの そこに、ゴムを はったのです[13]。その 年の 10月には、ゴムの そこの ぬのの くつも 作られ はじめ、学生の 間で、あっという間に ひろがりました[14]。

「ズック」は、オランダ語の doek(粗い麻織物)に由来する言葉です。太い糸で織った厚い布のことで、その布で作ったゴム底の運動靴も指します。もとは、靴ではなく布の名前でした[12]。

日本でゴム底が暮らしに入った例として、ブリヂストンの社史に、こんな話があります。1923年1月に、ゴム底の地下足袋が発売されました。創業者の兄がデパートで買った、アメリカ製のテニスシューズを参考に、ゴムを縫いつける作り方をやめて、接着剤で貼る方法にしたのです[13]。

同じ年の10月には、ゴム底の布靴(ズック靴)の製造が始まり、学生に急速に広まりました[14]。社史によれば、この会社の生産は、1923年の地下足袋約200万足から、1933年には地下足袋とゴム靴を合わせて約4,000万足になりました[14]。企業自身の記録で、ゴム靴だけの数字ではなく、日本全体の数字でもありません。

日本語の「ズック」は、オランダ語 doek(粗い麻織物)に由来し、太い亜麻糸や木綿糸の厚い平織りの布、またその布で作ったゴム底の運動靴を指す。靴の名ではなく、もとは布の名前だった[12]。

日本でゴム底が暮らしに入った一例を、ブリヂストンの社史から引く。同社のゴム底の地下足袋は1923年1月に発売された。創業者の兄がデパートで買った米国製テニスシューズを参考に、ゴムを縫いつけるのでなく、接着剤で貼る方法へ切り替えたと記される[13]。同年10月にはゴム底の布靴(ズック靴)の製造を始め、学生に急速に広まった[14]。

社史は、同社の生産が、1923年の地下足袋約200万足から、1933年には地下足袋とゴム靴を合わせた約4,000万足になったと記す(数の上では40÷2=20倍)[14]。ただし比べているのは地下足袋だけの数と合計の数で、ゴム靴同士の伸びではない。企業自身の記録で、日本全体の統計でもない。日本のスニーカーの起点と言い切る話でもなく、ゴム底の靴が暮らしに入っていく速さの一例として読みたい。

7. くつの 名前は、どこでも おなじ?

7. 靴の呼び名は、場所によってちがう

7. 呼び名の地域差 ── 米国・英国の例

アメリカでは、この くつを 「スニーカー」と よぶ 人も、「テニスシューズ」と よぶ 人も、 同じ くらい います[15]。イギリスでは 「プリムソル」や 「トレーナーズ」と よび、スコットランドには 「サニーズ」や 「ガティーズ」という よびなも あります[6][15]。

日本にも、スニーカー、うんどうぐつ、ズックと、いろいろな 言い方が あります。

アメリカのハーバード方言調査では、この靴の呼び名は「sneaker」が45.5%、「tennis shoe」が41.34%と、ほぼ半々でした。北東部では「sneakers」、南東部では「tennis shoes」が使われるなど、地域の差が大きいことも分かっています[15]。回答者はアメリカの人で、今の割合とは限りません。

イギリスでは「plimsoll」「trainers」が使われます。スコットランドには、「sand shoes(砂浜の靴)」から来た「sannies」や、ゴムに似た樹液 gutta-percha から来た「gutties」という呼び名もあります[6][15]。

日本語にも、「スニーカー」「運動靴」「ズック」のように、いくつもの言い方があります。「こっそり」の名も、数ある呼び名の1つです。

米国のハーバード方言調査では、sneaker が45.5%、tennis shoe が41.34%と拮抗していた。北東部は sneakers、南東部は tennis shoes と、地域差が大きい。回答は米国の人からのもので、今の割合とは限らない[15]。

英国では plimsoll や trainers が使われる。スコットランドには、sand shoes から来た sannies と、gutta-percha(ゴムに似た樹液)から来た gutties という呼び名もある[6][15]。plimsoll は船の線、gutties はゴムに似た樹液と、由来もさまざまだ。

日本語でも、スニーカー、運動靴、ズックと、複数の言い方がある。1887年に子どもたちが口にした「こっそり」の名は、こうした呼び名の1つとして、今も使われている。

8. じぶんでも たしかめて みたく なったら

8. 自分でも調べてみたくなったら

8. 自分でも調べてみたくなったら

やってみよう。おうちに ある くつの そこの ゴムを、指で ゆっくり おして みましょう。うんどうぐつ、うわばき、スリッパ。かたさは、どれも 同じでしょうか。

もう ひとつ。おうちの 人や、おじいさん、おばあさんに、「この くつの こと、なんて よぶ?」と 聞いて みましょう。人に よって、ちがう 名前が 出て くるかも しれません。

まず試せるのは、靴底の観察です。あわせて、呼び名も聞いてみましょう。

  • 家にある靴の底を、指で押してみましょう。運動靴、上履き、革靴では、かたさがちがうでしょうか。歩いたときの音も、まわりに気をつけて、ゆっくり聞きくらべます。理由までは分からなくても、感じたちがいをメモしておきます。
  • 家族や友だちに「この靴のこと、何と呼ぶ?」と聞いてみましょう。ふだんの呼び名は、人によってちがうでしょうか。

英語の記事ですが、1862・1883・1887年の用例を引いたブログ記事[7]には、原文の英語がそのまま載っています。英語が分かる人と、いっしょに読んでみるのもいいでしょう。

試せることが1つある。家にある靴の底のゴムを指で押し、かたさをくらべる。あわせて、床を歩いたときの音を聞きくらべる。音の出方の科学的な理由は、この記事では扱っていない。体感の観察として、感じた差を書きとめるだけでよい。

もう1つの入口は、呼び名と古い用例の読み比べである。

  1. 1862・1883・1887年の用例の原文。引用を集めたブログ記事[7]が入口になる。1887年のニューヨーク・タイムズの原本や、2010年のニューマンの発見の原典[8]を探して、一文の前後の文脈を読む。
  2. あなたの地域や家族は、この靴を何と呼ぶか。ハーバード方言調査の結果[15]と比べる。

しらべた ところ

参考にした情報源

参考にした情報源

出典について:ゴムの歴史を扱った郷土史協会・博物館の解説、加硫の百科事典的な解説、運動靴の歴史と名前の由来を扱った資料、日本語の辞書、企業の社史、方言調査の紹介記事を突き合わせて使った。何に使ったかは、それぞれの項目の最後に書いている。

  1. New England Historical Society "The Great India Rubber Panic Launches Charles Goodyear Into Crusade". https://newenglandhistoricalsociety.com/great-india-rubber-panic-launches-charles-goodyear-into-crusade/ (1830年代のゴム品の人気と1834年夏の返品について)
  2. Mass Moments "Charles Goodyear Receives Patent for Vulcanized Rubber". https://www.massmoments.org/moment-details/charles-goodyear-receives-patent-for-vulcanized-rubber.html (生ゴムの性質、加硫の発見と約5年の改良、1844年の特許について)
  3. Linda Hall Library "Scientist of the Day: Charles Goodyear". https://www.lindahall.org/about/news/scientist-of-the-day/charles-goodyear/ (1839年の発見の逸話とその留保、グッドイヤー本人の晩年、社名について)
  4. Wikipedia "Vulcanization". https://en.wikipedia.org/wiki/Vulcanization (硫黄による架橋の仕組み、ハンコックの英国特許、名前の由来について)
  5. Encyclopedia.com "Tennis Shoes". https://www.encyclopedia.com/sports-and-everyday-life/fashion-and-clothing/clothing-jewelry-and-personal-adornment/tennis-shoes (1868年のクロッケー・サンダルと値段、名づけ親説の紹介について)
  6. Wikipedia "Plimsoll shoe". https://en.wikipedia.org/wiki/Plimsoll_shoe (英国のサンドシューズとプリムソルの由来、sannies・gutties について)
  7. Grammarphobia Blog "On sneakers and plimsolls" (2017). https://grammarphobia.com/blog/2017/12/sneakers-plimsolls.html (1862・1883・1887年の用例、sneak の語源、プリムソルの年代について)
  8. Dennemeyer "Everyday IP: The history of sneakers". https://www.dennemeyer.com/blog/posts/everyday-ip-the-history-of-sneakers (1917年説と、2010年に見つかった1887年の用例について)
  9. Wikipedia "Keds". https://en.wikipedia.org/wiki/Keds (1916年のブランド統合と1917年の大量販売について)
  10. Wikipedia "Chuck Taylor All-Stars". https://en.wikipedia.org/wiki/Chuck_Taylor_All-Stars (バスケットボールの普及と運動靴について)
  11. Smithsonian Magazine "A Brief History of America's Obsession With Sneakers". https://www.smithsonianmag.com/innovation/brief-history-americas-obsession-sneakers-180969116/ (1970〜80年代の健康ブームと運動靴の日常化について)
  12. コトバンク「ズック」。 https://kotobank.jp/word/%E3%81%9A%E3%81%A4%E3%81%8F-3212729 (ズックの語源と意味について)
  13. ブリヂストン「ブリヂストン物語 第1章第3節」。 https://www.bridgestone.co.jp/corporate/history/story/01_03.html (1923年のゴム底の地下足袋と、接着方式への切りかえについて)
  14. ブリヂストン「ブリヂストン物語 第1章第4節」。 https://www.bridgestone.co.jp/corporate/history/story/01_04.html (1923年のゴム底布靴の製造開始と、生産量の伸びについて)
  15. Wordnik "The language of sneakers". https://blog.wordnik.com/the-language-of-sneakers (ハーバード方言調査の結果と地域による呼び名について)

なおした ところ

更新履歴

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