1. しおを かけると、うめから 水が 出るの?
1. 塩をまぶすと、梅から水が出る
1. 塩漬けの脱水 ── 白梅酢が出るまで
うめぼしを つくる ときは、まず、とれた うめに しおを まぶして、おもしを のせます。しばらくすると、うめから 水が 出て、うめは その 水に ひたります。この 水は「うめず」と よばれます[1]。
しおを かけただけで、水が 出るのは ふしぎです。しおには、まわりの 水を ひっぱり出す はたらきが ある、と かんがえると わかりやすいです。ただし ほんとうは、しおの こい ほうへ 水が うごく、というきまりが あります。
やさいでは、2%くらいの しおみずでも、水が ぬけると いわれて います[2]。
梅干しづくりでは、収穫した梅に塩をまぶして重石をのせます。すると塩の浸透圧と重さの力で、梅から水分が出てきて、梅はその水に浸ります。この水が白梅酢です[1]。
塩をかけただけで水が出るのは、塩が水を「引き出している」ように見えるからです。ただし正確には、塩の濃いほうへ水が動く、浸透という現象です。
塩事業センターの資料は、野菜について、濃度2%以上の食塩水なら野菜の中の水を吸い出せる、と説明しています。野菜の浸透圧が通常1.0MPa以下なのに対し、2%の食塩水は約1.5MPaで、この差が水を外へ引っぱるという説明です[2]。これは野菜の数値なので、梅にそのまま当てはめることはしません。
梅干しの製法では、梅に塩をまぶして重石をかけると、塩の浸透圧と荷重により梅から水分(白梅酢)が出て、梅は梅酢に浸る。その後、梅雨明けの土用に天日で干す。仕上がりの塩分は20%前後の白干しになる、と解説される[1]。
浸透圧の目安は、塩事業センターの解説が野菜で示している。濃度2%以上の食塩水は野菜から水を吸い出せ、野菜の浸透圧が通常1.0MPa以下であるのに対し、2%食塩水は約1.5MPaで、その差で細胞内の水が外へ引き出される[2]。ただしこれは野菜の値であり、梅の値ではない。梅の細胞の浸透圧を直接測った資料は、今回の調べでは見つかっていない。
梅干しの塩分は、伝統的には25〜30%、現代の基本的な製品は20%程度以下とされる[1]。この数値は漬け込み時の塩分の話で、後で出す食品成分表の値(可食部100g当たり)とは別の量である。
2. ほすと、どうして しわしわに なるの?
2. 水分が減って、しわが寄る
2. 食品成分表の水分と、干したときのしわ
つぎに、うめぼしを 天日に ほします。うめぼしを つくる 人の はなしでは、3日 ほど ほすと、だいぶ 水が ぬけて、しわが 出て くる そうです[4]。
なまの うめには、100グラムの 中に 水が 90.4グラム、うめぼしには 72.2グラム 入って います[3]。うめぼしの ほうが、水が 18グラムほど すくない ということです。
水が へって ちぢむと、しわが 出るように みえます。ただ、しわが できる くわしい しくみを 書いた ものは、見つかって いません。
塩漬けの次は、天日干しです。梅干しの製造元の解説によると、3日ほど干すとだいぶ水分が抜けて、しわが寄ってくるそうです[4]。
日本食品標準成分表(八訂)増補2023年には、可食部100gあたりの水分が、生の梅で90.4g、梅干し(塩漬)で72.2gと載っています[3]。100gの中の水分は、梅干しのほうが約18g少ないわけです。ただし梅干しには塩が入っているので、「水が18%減った」とは読めません。
水が抜けて表面が縮むのがしわの理由、と説明されることは多いのですが、しわの仕組みそのものを詳しく調べた資料は、今回は見つかっていません。水が抜けて表面が縮むことが、しわに関係していると考えられます。
成分表(八訂増補2023年)の可食部100g当たりの値は、生の梅で水分90.4g、梅干し(塩漬)で72.2gである[3]。差は18.2g(可食部100gあたり)だが、塩や酸を含めた組成の比なので、「水が18%減った」という意味ではない。同じ表で、梅干しの食塩相当量は18.2g、有機酸は4.3gである。
干す工程については、製造元の解説が、3日ほど干すと水分がだいぶ抜けてしわが寄ってくる、と述べている[4]。ただしこれは製造元の記述(一次の実測ではない)で、干す前後の水分の数値は得られていない。しわが寄る物理的な仕組み(果肉と皮の収縮の差など)には踏み込まず、ここでは「水が抜けて縮むことが関係していると考えられる」という推定にとどめる。
3. すっぱい もとは、なに?
3. 酸っぱさのもと ── 梅の有機酸
3. 梅の有機酸 ── クエン酸を主とする組成
うめの すっぱさの もとは、「ゆうきさん」と いう ものです。いちばん 多いのは「クエンさん」という すっぱい もとで、つぎが「リンゴさん」という すっぱい もとです[5]。
まだ 青い うめでは リンゴさんが 多く、じゅくすと クエンさんが ほとんどに なる、と いわれます。
うめぼし 100グラムには、ゆうきさんが 4.3グラム、しおは 18.2グラム 入って います[3]。しおの ほうが 4ばいより 多いのです。
4. したは、どうやって すっぱいと わかるの?
4. 舌は、どうやって「酸っぱい」を感じるのか
4. 酸味の受容体 ── H⁺とOTOP1
すっぱい あじは、水に とけた さんから 出る、ちいさな つぶ(すいそイオン)が つくります。この つぶを、舌の 中の 「あじの さいぼう」が、感じとります[7]。
つぶを 感じとる しくみは、OTOP1(オーとっぷわん)と いう ものだと、わかって きました。わりと ちかごろ わかった ことで、2010年だいの おわりごろと いわれます。
つまり、うめぼしを たべた とき、舌は 「つぶが 入って きたよ」と、あたまへ しらせて いるのです。
酸味は、食品の酸が水に溶けたときに出る水素イオン(H⁺)が起こします。舌の味細胞のうち、Ⅲ型と呼ばれる細胞に、H⁺だけを通すイオンチャネルOTOP1があり、これが酸味の受容体だと整理されています[7]。
この受容体が明らかになったのは、2019年ごろとされています。でも、酸っぱさの正体がわかったのは、意外と最近なのです。
一般には、梅干しをかじると、クエン酸などから出たH⁺が唾液に溶けて、味細胞のOTOP1を通ると説明されます。その信号が、脳に伝わって「酸っぱい」になる、と読めます。
酸味は、食品の酸が水に溶けて生じる水素イオン(H⁺)によって起こる。日本口腔診断学会誌の味覚の総説(2022)の表は、酸味の受容体をⅢ型味細胞のOTOP1(H⁺選択的イオンチャネル)と整理している[7]。
この受容体が特定されたのは2019年ごろとされる。ただしこの年号は検索要約で得たもので、原論文(2018〜2019年の報告)では確かめていない。書くなら原論文を読むのが確実である。
梅の酸のうち、水溶液中でH⁺を出す量と、舌が感じる強さの対応を直接示した資料は、今回は見つかっていない。ここでは「クエン酸などが出したH⁺をOTOP1が受け取る」という一般的な説明にとどめる。
5. うめずの ほうが すっぱいのは、なぜ?
5. 酸が半分の梅酢のほうが酸っぱい ── 塩がやわらげる説
5. 1969年の報文 ── 梅酢と梅干しの酸の量と味の食い違い
1969ねんの けんきゅうで、なら県の うめと、うめぼし、うめずの さんを しらべました。すると、うめぼしの ほうが、うめずより さんが 2ばいほど 多かったのです[6]。
でも、うめずの ほうが すっぱく かんじます。どうして でしょう。
この けんきゅうを した 人たちは、うめぼしには しおが 入って いて、その しおが すっぱさを やわらげるからだろう、と 考えました[6]。ただ、これは 考えた こと(すいそく)で、じっけんで たしかめた けつろん では ないようです。
1969年の報文が、この食い違いを取り上げています。奈良産の青梅・梅干し・梅酢の有機酸を分析すると、酸の主体はクエン酸とリンゴ酸で、梅酢より梅干しのほうが約2倍の酸を含んでいました[6]。
それなのに、梅酢のほうが酸っぱく感じられる。報文はその理由を、梅干しでは食塩が酸っぱみをやわらげる「相殺作用」があるからだろう、と考察しています[6]。
「〜だろう」という考えで、実験で確かめた結論とは書かれていません。1968年産の奈良の梅の分析ですから、今の品種にそのまま当てはまるとも限りません。塩が酸味をやわらげる現象を、現代の味覚研究で確かめた資料も、今回は見つかっていません。それでも、「量が多い=強く感じる」とは限らない、という例として面白い話です。
1969年の調理科学の報文は、奈良産の青梅・梅干し・梅酢の有機酸を分析した。含有量の多い酸は、梅の酸味の主体であるクエン酸、次いでリンゴ酸で、梅酢よりも梅干しのほうが約2倍量の酸を含んでいた[6]。
報文は、それでも梅酢のほうが酸っぱく感じるのは、梅干しでは食塩が酸っぱ味をやわらげる(いわゆる相殺作用を持つ)からであろう、と考察している[6]。「であろう」という推測であり、実験で確かめた結論ではない。1968年産の奈良の梅が対象であり、品種差も未確認である。
この現象を現代の味覚研究がどう説明するかは、今回の調べでは見つかっていない。OTOP1の話(4章)と結びつけるなら、塩が受容体や神経の応答にどう作用するかを調べた研究を、自分で探す必要がある。
6. じぶんでも たしかめて みたく なったら
6. 自分でも調べてみたくなったら
6. 自分でも調べてみたくなったら
おうちの 大根か きゅうりで、ためして みましょう。おなじ くらいの あつさに うすく 切って、はんぶんに わけ、おさらに 広げます。いっぽうだけ しおを ひとつまみ かけて、10ぷんほど たつと、水が にじみ出て きます。
しおを かけない ものと、見くらべて ください。さわると、しおを かけた ほうが やわらかく なって いるかも しれません。出た 水は、のまずに すてましょう。
家にある大根かきゅうりで、塩の脱水を見てみましょう。同じ厚さに薄く切り、半分ずつ2枚のお皿に分けて、一方にだけ塩をひとつまみかけます。
10分ほどおいて、皿にたまる水の量や、さわったときのやわらかさを比べます。先に「どちらが水が出るか」を予想して書いておくと、結果を読みやすくなります。出た水は飲まずに捨てます。
資料を読みたくなったら、1969年の報文(梅酢と梅干しの酸の分析)は、J-STAGEで公開されています[6]。
家庭では、薄切りの大根かきゅうりに塩をかけ、10分ほど後に出る水の量と手ざわりを、塩なしと比べる方法がある。先に予想を書き、結果が合わなくても記録する。ただし野菜の水分や厚さで差が出るので、同じ条件でそろえたい。出た水は飲まない。
しらべた ところ
参考にした情報源
参考にした情報源
出典について:百科事典の記述、業界団体の解説、製造元の説明、公的な成分表、研究団体の資料、1969年の報文、味覚の総説を突き合わせて使った。何に使ったかは項目の最後に書いた。
- Wikipedia(日本語)「梅干し」. https://ja.wikipedia.org/wiki/梅干し (梅と塩、重石、白梅酢、土用干し、塩分の目安について)
- 塩事業センター 塩百科「浸透圧・脱水作用」. https://www.shiojigyo.com/siohyakka/about/data/permeation.html (野菜と食塩水の浸透圧の差について)
- 文部科学省 食品成分データベース「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年」うめ(生)・梅干し(塩漬). https://fooddb.mext.go.jp/details/details.pl?ITEM_NO=7_07022_7 (水分・食塩相当量・有機酸の値について)
- 産直プライム(梅干しの製造・販売元の解説). https://sanchoku-prime.com/articles/grsp-umebosi-howto (天日干しでしわが寄る、という製造元の説明について)
- 一般財団法人 梅研究会「梅に含まれる成分とその作用」. https://www.umekenkyuukai.org/knowledge/nutrients.html (梅の有機酸の種類と量について)
- 代谷沢・井口和代「梅の有機酸に関する研究」調理科学 2(3), 1969. https://www.jstage.jst.go.jp/article/cookeryscience1968/2/3/2_179/_pdf/-char/ja (梅・梅干し・梅酢の酸の分析と、塩がやわらげるという考察について)
- 日本口腔診断学会誌 35(3), 173-182(2022)味覚の総説. https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsodom/35/3/35_173/_pdf/-char/ja (酸味の受容体OTOP1とⅢ型味細胞について)
なおした ところ
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