1. おゆが さめるのは、ねつが にげるから?
1. 熱が逃げていく道は3つある
1. 保温の基本構造 ── 二重の壁と熱の3経路
おゆが さめるのは、おゆの ねつが、まわりの くうきや ものに うつって いくからです。ねつが にげる みちは、ぜんぶで 3つ あります。
まほうびんは、ないがわと そとがわの 2まいの かべで できて います。その あいだから くうきを ぬいて、ねつの みちを へらす、というのが、いちばんの くふうです[1]。
3つの みちを、ひとつずつ、みて いきましょう。
お湯が冷めるのは、お湯の熱が外へ移っていくからです。熱が移る道は、伝導・対流・放射の3つに分けられます。
魔法びんは、内側と外側の二重の壁の間を真空にして、内側の壁には銀めっきをして、この3つを同時に抑えようとする容器です[1]。ふつうのコップは、この3つの熱の移動を魔法びんほどには防げません。
3つの道を、1つずつ減らしていく順に見てみます。
魔法びんは、内外二層の容器の間を真空にし、内壁を銀めっきして、伝導・放射・対流という熱の3つの移動経路を抑える構造である[1]。ただ、どれかの対策が弱ければ、そこから熱は逃げやすい。
ふつうのコップにお湯を入れたとき、熱は壁を伝わり(伝導)、まわりの空気の動きで運ばれ(対流)、光のようにも飛んでいく(放射)。魔法びんは、この3つに1つずつ対策を当てた製品と見ることができる。
では、真空はどの2つを防ぎ、なぜ3つ目には別の手が要るのか。
2. くうきが なければ、ねつは はこばれない
2. 空気をぬくと、熱の道が2つふさがる
2. 真空が防ぐもの ── 伝導と対流
くうきも、ねつを はこびます。くうきの なかでは、ねつが つたわります。あつい おゆの ちかくの くうきの つぶが うごいて、つぎの つぶに ぶつかり、バケツリレーの ように ねつが とおくへ はこばれます。
まほうびんの かべの あいだは、ほとんど くうきが ありません。バケツを わたす ひとが ほとんど いない ので、ねつが はこばれにくく なります[2]。
ただし ほんとうは、ねつが ぜんぶ ゼロに なる わけでは ありません。まだ、のこって いる みちが あります。
熱を運ぶのは、空気のような気体の分子です。分子が熱いものにぶつかって勢いをもらい、別の分子にぶつかって渡していく。この受け渡しが、気体を通した熱の伝わり方(伝導と対流)です。
魔法びんの二重の壁の間は、高い真空になっています。熱を運ぶ分子がほとんどいないので、内側と外側の間で、気体を通した熱の移動がほとんど起きません[2]。
ただし、熱の移動がゼロになるわけではありません。まだ、真空を通り抜けてくる熱があります。
二重の壁の間は高真空にされており、熱を運ぶ気体分子がほとんど存在しない。そのため、気体を介する熱の移動、つまり気体分子どうしの衝突による伝導と、気体の流れによる対流が抑えられる[2]。
断熱の効果は、熱の移動が「ゼロ」になることではなく、大きく減ることである。真空の層があっても、熱が伝わる経路は他に残る。
その1つが放射で、これは真空でも防げない。次に、放射をどうふさぐかを見る。
3. ひかりの ような ねつは、どう ふせぐの?
3. 光のような熱は、鏡のような銀めっきではね返す
3. 放射と銀めっき ── 光沢面が放射を抑える理由
ストーブの まえに たつと、かおが ぽかぽか します。ストーブと かおの あいだの くうきが あたためられたわけでは ないのに、ねつが とどきます。これが、ひかりの ような ねつの おくられかた、ほうしゃ です。
まほうびんの かべの あいだが からっぽでも、ほうしゃの ねつは とおりぬけます。そこで、かべの おもてを、かがみの ように ぴかぴかの ぎんいろに します。ぴかぴかの ものは、ほうしゃを だしたり うけとったり しにくい せいしつが あります[3]。
ただし ほんとうは、ぎんめっきでも、ほうしゃが ぜんぶ ゼロに なる わけでは ありません。へらして いる のです。
4. それでも ねつは、どこから にげるの?
4. 真空のない口のまわりから、熱は逃げる
4. 残る熱損失 ── 首と栓
まほうびんにも、かべが つながって いる ところが あります。それが、くちの まわりです。ここには しんくうが ありません。ねつの おおくは、くちと ふたの ところから にげる と いわれます[4]。
だから まほうびんの くちは、ほそく なって います。にげる みちを、せまく する ためです。
ここまで、まほうびんの しくみを みてきました。では、この ようきを さいしょに つくった ひとは、なにに つかおうと して いたのでしょう。
5. まほうびんは、もともと なんの ために?
5. 魔法びんの原型は、液体水素を守る実験容器だった
5. デュワーの真空容器 ── 液化ガスの研究から
1892ねん、イギリスの おうりつけんきゅうじょで、デュワーと いう かがくしゃが、ガラスの ようきを ふたつ かさねて、あいだの くうきを へらした ようきを つくりました[5]。
ねらいは、えきたいに した ガスを たもつ ことでした。えきたいの ガスは、つくるのに おかねが かかります。だから、じょうはつさせずに ながく もたせたいと、かんがえたのです。
1898ねんには、デュワーは えきたいの すいそを はじめて つくりました[5]。その けんきゅうに つかわれた ぎんいろの ようきは、いまも かがくはくぶつかんに あります[6]。
この ようきが、どうして うちの いえに くる ことに なったので しょうか。
6. どうして いえの どうぐに なったの?
6. 特許を取らなかったデュワーと、商品にしたドイツの職人
6. 特許の不在と商品化 ── 1904年のブルガー
デュワーは、この ようきの とっきょを とりませんでした。そのあと 1904ねんに、ドイツの かいしゃが この ようきを しょうひんに しました[4]。
1904ねん、ドイツの ガラスの しょくにん、ラインホルト・ブルガーが、ふたえの ガラスの ようきを きんぞくの ケースに いれて、せかいで はじめての「ガラスの まほうびん」を しょうひんに しました[2]。
「テルモス」と いう なまえも、この ころ しょうひょうと して とうろくされました。デュワーは、さいばんを おこしましたが、まけたと いわれます[4]。
7. にほんでは、どこで つくられたの?
7. 日本の魔法びんは、大阪の電球の技術とつながっていた
7. 日本への導入と大阪 ── 電球の真空技術
にほんに まほうびんが はいって きたのは、めいじの おわりごろ だと いわれます。ドイツから ゆにゅう されたそうです[7]。
こくさんの だいいちごうは、1912ねん。おおさかの てんまは、ガラスの しごとの ちゅうしんでした。でんきゅうを つくる しんくうの ぎじゅつが、まほうびんの なかびんを つくる ぎじゅつに つうじた ので、おおさかで さかんに なりました[7]。
ぞうじるしの マホービンも、1918ねんに、なかびんを つくる「いちかわきょうだいしょうかい」と して、おおさかで はじまりました[7]。
日本に魔法びんが入ってきたのは、明治の終わりごろ、ドイツからと説明されます。輸入の年については、資料によって1907年・1908年・1911年とずれがあります[7]。
国産の第1号は1912年です。大阪の天満はガラス工業の中心で、電球づくりの真空の技術が、ガラス製魔法びんの中びんづくりに通じました。そのため、魔法びんづくりが大阪で盛んになったといわれます[7]。
象印マホービンは、1918年に、中びんを作る会社「市川兄弟商会」として大阪で始まりました[7]。電球の職人の技術が、お湯を保つ道具に生きたことになります。
日本への輸入時期は、大阪観光局の資料では1908年にドイツからとされ、他の資料は1907年、1911年とする。年は食い違うが、明治の終わりごろに入ってきたと見てよい[7]。
国産第1号は1912年である。大阪の天満は当時ガラス工業の中心で、電球製造の真空技術が、ガラス製魔法びんの真空の中びんづくりと通じるところが多かった。そのため、魔法びんの製造が大阪で盛んになったと説明される[7]。
象印マホービンも、1918年に中びん製造の「市川兄弟商会」として大阪で創業した[7]。電球づくりで使われた技術が、魔法びんの製造にも生かされた例である。
ただ、ガラス製の魔法びんには、割れやすいという弱点があった。
8. われない まほうびんは、どう できたの?
8. 割れるガラスからステンレスへ ── 性能を試す方法もある
8. ステンレス製の登場と保温性能の試験
ガラスの まほうびんは、おとすと われて しまいます。そこで 1978ねん、サーモスの まえの がいしゃ(にほんさんそ)が、ステンレスで できた こうしんくうの まほうびんを つくりました[2]。「せかいで はじめて」と、この がいしゃは いって います。
いまの まほうびんは、ちゃんと あったかいか どうかを しらべる きまりも あります。ふっとうした おゆを いれて、95どに なったら ふたを しめます。へやの おんど 20ど ぐらいで 6じかん おいて、せいひんに かかれた おんど いじょうを たもてるか、みるのです[8]。
この しくみは、うちゅうでも つかわれます。えきたいさんそや えきたいすいそを いれる タンクにも、しんくうの だんねつが つかわれ、ジャクサが ぞうじるしや タイガーに つくって もらった ことも あるそうです[3]。
ガラス製の魔法びんは、落とすと割れやすいという弱点がありました。1978年に、サーモスの前身の会社(日本酸素)が、高真空のステンレス製魔法びんを開発しています[2]。「世界初」というのは、この会社の説明です。
保温の性能は、消費者庁の品質表示のガイドにある試験で確かめられます。沸騰した湯を入れて95℃(±1℃)になったら栓をし、室温20℃(±2℃)で6時間置いて、製品に表示された温度以上を保てるかを見ます[8]。表示の温度は、製品ごとに違います。
真空断熱は、宇宙にも使われます。液体酸素や液体水素のタンクにも真空断熱が使われ、JAXAが象印やタイガーに製造を依頼したこともあるそうです[3]。液体水素を守るために生まれた容器の考え方が、ロケットの燃料タンクへ戻っていったわけです。
ガラス製は割れやすい。この弱点に対して、1978年にサーモスの前身の日本酸素が、高真空のステンレス製魔法びんを開発した[2]。「世界初」は同社の説明であり、ここでは「〜とされる」の範囲にとどめる。
保温性能の試験は、消費者庁の家庭用品品質表示ガイドに定められている。沸騰水を入れて95℃±1℃になったら栓をし、室温20℃±2℃で6時間放置したあと、表示温度以上を保つかを確かめる[8]。表示温度は製品ごとに異なるため、数値を一律には言えない。
用途は宇宙にも広がった。液体酸素・液体水素のタンクに真空断熱が使われ、JAXAが象印やタイガーに製造を依頼した例がある[3]。液体水素を保つ容器として生まれた真空断熱が、家庭を経て、再び液体水素を保つ用途に戻ったことになる。
自分でも しらべて みたく なったら
自分でも調べてみたくなったら
自分でも調べてみたくなったら
今日できること
おうちの ステンレスの すいとうが あれば、おうちの ひとと いっしょに、ぬるめの おゆを いれて、ふたの まわりと からだの ほうを さわって くらべて みましょう。さわる ところで、あたたかさが ちがうか、みて みます。あつい おゆは つかわないで ください。
出かけてできること
おみせで、まほうびんや すいとうの ラベルを さがして みましょう。ほおんの じかんや おんどが かいて あるか みて みます。
こうしきの 情報
かがくはくぶつかんの ホームページや、まほうびんの ほんに、まほうびんの はなしが のって います。
今日できること
ステンレスの水筒があれば、大人と一緒に、ぬるめのお湯を入れて、外側の胴と、口や栓のまわりを触り比べてみてください。場所によって温かさが違うか、観察します。熱いお湯は使わないでください。
出かけてできること
お店で、魔法びんや水筒の表示を探してみてください。保温の時間や温度が書かれているか、製品ごとに違うかを見比べると、上の試験のことを思い出せます。
公式情報
消費者庁の家庭用品品質表示のページや、科学博物館の資料に、魔法びんの性能の考え方や歴史が載っています。
今日できること
ステンレス製の水筒に、ぬるめのお湯を入れ、胴の外側と口・栓の周辺の温度を、少し待ってから触って比べる。胴と口・栓の周辺の温度の違いを観察できる。ただし温度の違いだけでは、熱が逃げた量までは比べられない。やけどに注意し、熱湯は使わない。
出かけてできること
店頭で複数の水筒の保温表示(時間・温度)を見比べ、製品ごとの違いや、表示の条件を確認する。
公式情報
英国王立研究所(Royal Institution)や英国の科学博物館グループには、デュワーの容器についての解説や所蔵品の記録がある。消費者庁の品質表示ガイドと合わせて読むと、発明と性能試験の両方が分かる。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
魔法びんの構造は百科事典とメーカー担当者の説明、歴史は英国王立研究所と英語版の解説、日本の歴史は大阪観光局の解説を使った。輸入の年などは資料によってずれがあるため、本文では幅を持たせて書いた。
- 魔法瓶(コトバンク) https://kotobank.jp/word/魔法瓶 (基本構造)
- BE-PAL サーモス紹介 https://www.bepal.net/?p=651962 (真空の役目・ブルガー・ステンレス製)
- Vacuum flask(Wikipedia英語版) https://en.wikipedia.org/wiki/Vacuum_flask (3経路・首から逃げる熱・特許)
- James Dewar's vacuum flask(Royal Institution) https://rigb.org/node/3131 (デュワーの容器)
- Collection flask for liquid hydrogen(Science Museum Group) https://collection.sciencemuseumgroup.org.uk/objects/co2780/collection-flask-for-liquid-hydrogen (所蔵品)
- 大阪観光局 象印特集 https://osaka-info.jp/special/zojirushi/ (日本への導入・大阪)
- 家庭用品品質表示ガイド 魔法瓶(消費者庁) https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/household_goods/guide/zakka/zakka_01.html (保温性能の試験)
なおした ところ
更新履歴
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