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ここにあるのは、だれかが実際に調べ、考え、作ってきたことを集めたメモです。気になったら、ページの下の「参考にした情報源」から、もとの本や記事、それを生み出した人たちに、直接ふれてみてください。このメモには書ききれないおもしろさが、そこにあります。

おなじ かみなのに、どうして 1300ねん もつ ものと、ぼろぼろに なる ものが あるの?

和紙は洋紙より長持ちするといわれるのはなぜか ── 繊維・作り方・酸の3つを見る

和紙が長持ちするとされる理由 ── 繊維・叩解・酸性度から、洋紙の酸性紙問題まで

分野:技術

ならの 正倉院しょうそういんには、1300ねんくらい まえの 戸籍こせきが のこって いると いいます[1]。

ところが、としょかんの ほんの なかには、とくに 1940ねんから 50ねんごろの ものが、いたんで いた と いいます[2]。おなじ「かみ」なのに、なにが ちがうのでしょう。

奈良の正倉院には、約1300年前の702年につくられた戸籍が残っているといいます[1]。ところが、図書館にある洋紙の本のなかには、とくに1940〜50年代の資料で、劣化が目立ったものがあります[2]。

同じ「紙」なのに、寿命がこれほど違うのはなぜでしょうか。和紙が長持ちするといわれる理由を、原料、作り方、酸の3つから見ていきます。

岐阜県富加町の資料によれば、奈良の正倉院には702年(大宝2年)の戸籍が現存する[1]。一方、東京都立図書館は、酸性紙資料の調査で1940〜50年代のものの劣化が特に顕著だったと述べる[2]。

本稿は、この差を原料・作り方・酸性度の3点で整理し、洋紙が酸性紙の問題を経て中性紙へ向かった経緯を追う。寿命の年数は業界解説の目安であり、実測値ではない点も併せて確認する。

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1. ふるい かみは、どこに のこって いるの?

1. 1300年前の戸籍と、崩れる本

1. 702年の戸籍と、1940〜50年代に劣化が目立った紙 ── 寿命の差の入口

1300ねんくらい まえ、702ねんに つくられた 戸籍こせきが、ならの 正倉院しょうそういんに のこって います[1]。

いっぽう、としょかんの しらべでは、1940ねんから 50ねんごろの しりょうが、とくに いたんで いたそうです[2]。

この ふたつの ちがいを、これから 3つの ことで みて いきます。

702年(大宝2年)につくられた戸籍が、約1300年たった今も奈良の正倉院に残っています[1]。戸籍の紙の材質は、参照した町の資料には書かれていません。ここでは「紙がこれほど長く残った例がある」ことだけを受け取っておきます。

いっぽう東京都立図書館の調査では、1940〜50年代の資料の劣化がとくに目立ちました[2]。これは古さの話で、当時の紙が酸性紙だったことに関わります。次の章から、原料、作り方、酸の順に理由をたどります。

富加町の資料は、702年(大宝2年)の美濃国の戸籍が奈良の正倉院に残り、約1300年前のものとして現存する最古の戸籍だと説明する[1]。ただし資料は紙の材質(楮か否か)を記していないため、本稿では「和紙の実例」とは断定せず、長期に残った紙の一例として扱う。

対して東京都立図書館は、酸性紙資料の調査で1940〜50年代のものの劣化が顕著だったと報告する[2]。年代の話であり、酸性紙という材料の性質の問題として次章以降で扱う。

2. なにから つくるの? ── げんりょうの ちがい

2. 木の皮と、木の幹 ── 原料の違い

2. 靭皮繊維と木材パルプ ── 原料の違いと繊維の長さ

わしは、楮こうぞという きの かわから とる、しろい ぶぶんから つくります[3]。ようしは、きの みきの ぶぶんを こまかく した ものが もとです。

楮こうぞの 繊維せんいは ほそ ながく、ようしの ものより ずっと ながいと いわれます[4][3]。ながい ひもを くんだ あみは、みじかい いとくずを かためた ものより ちぎれにくい、と かんがえると わかりやすいです。

ただし、かみは ひもの あみでは ありません。ちいさな せんいが からまって できて います。

和紙の主な原料は、楮・三椏(みつまた)・雁皮がんぴなどの木の、皮から取る白皮(靭皮)の繊維です。洋紙は、木の幹の木質部からつくる木材パルプが主体です[3]。

楮の繊維は細長く、洋紙に比べてかなり長いといわれます。そのため、薄くても強い紙になり、寿命も比較的長いとされます[4][3]。

繊維が長いと、からみ合う場所が増えて、引っぱられても切れにくくなる。そう考えると納得しやすい話です。

紙への道の解説は、和紙が楮・三椏・雁皮などの白皮から取った非木材パルプ(靭皮繊維)を主原料とするのに対し、洋紙は木の内側の木質部を原料とする木材繊維が主体だと整理する[3]。

繊維の長さについては、アワガミ(阿波和紙)の説明で楮の繊維は細長く、洋紙に比べて格段に長いため、薄くとも強靭で寿命が比較的長いとされる[4][3]。

ここまでが「もとの材料」の違いである。次に、その繊維をどう扱うかを見る。

3. つくりかたは、どう ちがうの?

3. 繊維をほぐす手仕事 ── 傷めない作り方

3. 穏やかな叩解と流し漉き ── 繊維を切らない工程

わしを つくる ときは、げんりょうの せんいを、おだやかに ほぐします。てで ていねいに あつかうので、せんいが きれる ことが ほとんど ないと、ぎょうかいの かいせつでは せつめい されて います[5]。

たとえば、ぎふけんの ほんみのがみは、楮こうぞだけで つくり、流し漉きながしずきと いう やりかたで すきます。できた かみは、いたに はって、おひさまで かわかします[6]。

この わざは、2014ねんに ユネスコの むけい ぶんか いさんに とうろく されました[6]。

紙をつくる前に、原料の繊維をほぐす作業を叩解(こうかい)といいます。和紙ではこれを穏やかな手仕事で行うため、繊維の傷みが少なく、切断もほとんどなく、繊維の丈夫さがそのまま保たれる、と業界の解説では説明されています[5]。

たとえば岐阜県の本美濃紙は、楮の繊維だけを使い、日本独特の流し漉きで漉いて、板に貼って天日で乾かします。漉くときは前後だけでなく左右にも動かし、繊維を整然と並べます[6]。

この技術は、2014年に「和紙:日本の手漉和紙技術」としてユネスコの無形文化遺産に登録されました[6]。ただし、ここで挙げた手作業が、寿命の差の原因としてどこまで効いているかは、資料の説明を紹介するにとどめます。

紙への道のコラムは、和紙が繊維の長い靭皮繊維を使い、しかも原料の叩解を温和な手仕事で処理するため、損傷や繊維の切断がほとんどなく、自然のままの丈夫さを保つと業界解説の立場から説明する[5]。

文化遺産オンラインによれば、本美濃紙は楮の繊維のみを用いて流し漉きで漉き、板に貼りつけて天日乾燥する。縦ゆりに横ゆりを加え、左右にも動かして繊維を整然と並べる[6]。なお、流し漉きでは、トロロアオイの根の粘液(ネリ)が繊維を水中で均等に分散させると説明される[4]。

この技術は2014年に「和紙:日本の手漉和紙技術」としてユネスコ無形文化遺産に登録された[6]。ただし、手作業のどの要素がどの程度寿命に効くかを実験で示した資料は、本稿では確認できていない。

4. ようしの かみは、どうして いたむの?

4. 洋紙の中の酸 ── 酸性紙が崩れるわけ

4. 硫酸バンドと酸性紙 ── セルロースが切れる仕組み

ようしは、インクが にじまないように、まつやにから つくる ざいりょうを まぜます。それを かみに くっつけるために、アルミニウムを ふくむ くすりを つかいました[2]。

これが みずと はんのうして、酸さんが できます。さんが、かみの せんいを すこしずつ きって、かみが もろく なります[2]。

こうした つくりかたは、1850ねんごろから、おうべいで ふつうに なりました[7]。わしの ほうは、すくときの さんの つよさが、アルカリから ちゅうせいの あたりに あるのが よい ところと いわれます[5]。

洋紙では、インクがにじまないようにするためのロジンサイズ(松やにを使った薬品)を紙に定着させるのに、硫酸アルミニウム(硫酸バンド)を使ってきました[5]。これが水分と反応して硫酸ができ、紙のセルロース(繊維の主成分)を分解して劣化させます。これが酸性紙です[2]。

酸性の抄紙法は、1850年ごろから欧米で一般的になったとされます。紙をつくるときの酸性の強さ(pH)は、酸性紙で4〜6、中性紙で7〜8ほどです[7][8]。和紙は漉くときのpHがアルカリ〜中性にあることが、保存性の利点だと説明されています[5]。

原料の繊維が長くても、酸で繊維そのものが切られていくと、長持ちしません。長い繊維という材料と、繊維を切らない環境が、そろって働くことになります。

東京都立図書館の説明では、洋紙はにじみ止め(ロジンサイズ)を定着させるために硫酸アルミニウム(硫酸バンド)を使い[5]、これが水分と反応して硫酸を生じて紙を酸性にし、セルロースを傷めて劣化させる[2]。これが酸性紙である。

この酸性の抄紙法は1850年ごろから欧米で一般的になったとされる[7]。抄紙pHは酸性紙で4〜6、中性紙で7〜8ほど[8]。対して和紙は、漉くときの酸性度(pH)がアルカリから中性にあることが保存性の利点とされる[5]。

つまり寿命の差は、繊維の長さだけでなく、紙の中の酸が繊維を切り続けるかどうかにも関わる、と整理できる。

5. ようしは、どう かわって きたの?

5. 中性紙への転換と、酸を抜く手当て

5. 炭酸カルシウムへの転換と脱酸性化 ── 洋紙側の対応

1982ねんごろ、「百ねんごに、ほんが ぼろぼろに なる」と いう はなしが、しんぶんや テレビでも とりあげられました[8]。

そこで ようしも、さんの でない つくりかたに かわって いきました。まぜる こなを、炭酸たんさんカルシウムに かえるなどして、ちゅうせいの かみが つくれるように なりました[8]。

すでに さんせいに なって しまった ほんは、さんを ちゅうわする てあてを します。すると、いのちが 3ばいから 5ばいに のびると いわれます[2]。

1982年ごろから、「百年後、本はボロボロ」「古書・文献が消える」といった話が、マスコミでも取り上げられました[8]。洋紙の側も、対策を進めました。

中性の抄紙では、紙に混ぜる粉(填料)を、クレーから炭酸カルシウムに替えました[8]。

すでに酸性になった資料には、酸を中和する脱酸性化処置があります。これで寿命が3〜5倍にのびるといわれます[2]。洋紙は、材料の見直しと手当ての両方で、長持ちを目指してきたことになります。

紙の基礎講座によれば、中性抄紙では填料をクレーから炭酸カルシウムへ切り替えた。1982年ごろからは「百年後、本はボロボロ」などとマスコミでも取り上げられた[8]。

すでに酸性になった資料には、酸を中和する脱酸性化処置がある。東京都立図書館は、脱酸によって寿命が3〜5倍にのびるといわれると説明する[2]。

洋紙の側も、原料と工程を見直してきたことを確認しておく。

6. なんねん もつのか、ほんとうに わかるの?

6. 「1000年」は目安 ── 数字との付き合い方

6. 寿命の数字は目安にすぎず、そのまま断定できない理由

「さんせいの かみは 100ねん、ちゅうせいは 300から 400ねん、わしは 1000ねん」と いう かぞえかたが あります[5]。

けれど これは、しらべて はかった かずでは なく、めやすと して いわれて いる ものです。ほんとうに なんねん もつかは、かみの つくりかたや、おかれた ばしょでも かわります。

紙の寿命は、酸性紙が約100年、中性紙が約300〜400年、和紙は1000年、と語られることがあります[5]。ただし、これは業界の解説にある目安で、実際に測った数字の原典は確認できていません。「和紙は1000年もつ」と言い切るのは避けたほうがよさそうです。

長持ちの理由は、原料・作り方・酸の3つが重なった結果、と読むのがよさそうです。

紙への道のコラムは、寿命の目安を酸性紙約100年、中性紙約300〜400年、和紙1000年と紹介する[5]。ただし、これは業界解説の目安で、実測の原典は確認できていない。「1000年もつ」とは断定せず、言われている数字として読むのが妥当である。

寿命の差は、原料(長い繊維)、工程(繊維を傷めない)、酸性度(酸が繊維を切らない)の3点が重なったものと整理できる。どれか1つだけの効果を切り分けた実験は、確認できていない。

自分でも しらべて みたく なったら

自分でも調べてみたくなったら

自分でも調べてみたくなったら

いえで できる こと

  • おうちに わしの はがきや ふうとうが あれば、ひかりに すかして、コピーようしと くらべて みましょう。せんいの ようすは、どう ちがうでしょうか。
  • ふるい ほんの ページの いろを、あたらしい ほんと ならべて みましょう。ページを むりに おらないで くださいね。

でかけて できる こと

  • ちかくの としょかんの ひとに、「ふるい ほんは どうやって まもって いますか」と きいて みましょう。

家でできること

  • 和紙のはがきや封筒があれば、光に透かして、コピー用紙と見くらべてみましょう。繊維のからみ方に違いが見えるでしょうか。
  • 古い本の紙の色を、新しい本と並べてみましょう。折ったり破いたりしないよう、そっと扱ってください。

出かけてできること

  • 図書館で、古い資料をどう守っているかを聞いてみましょう。

公式の情報

  • 東京都立図書館の酸性紙資料の脱酸性化処置のページが、出典の中では読みやすい入口です。

資料を読むなら

  • 東京都立図書館の脱酸性化処置のページは、酸性紙が劣化する仕組み、1940〜50年代の劣化、脱酸の効果(3〜5倍)を1か所で確認できる[2]。
  • 紙への道のコラムと基礎講座は、pHの違いと中性紙への転換の経緯を扱う[5][8]。

自分で確かめるなら

  • 「和紙1000年・洋紙100年」の寿命の数字は、業界解説の目安である。実測の原典があるか探してみる価値がある[5]。
  • 中性紙の普及の状況や、和紙が修復にどう使われているかは、国立国会図書館や修復の専門機関の資料で調べてみるとよい。

しらべた もとの じょうほう

参考にした情報源

参考にした情報源と、その使い方

本文で使った事実を確かめた資料の一覧です。寿命の年数は業界解説の目安を含むため、詳しくは各資料を確認してください。

  1. 富加町「奈良正倉院に残る最古の戸籍」 https://www.town.tomika.gifu.jp/docs/271.html (702年の戸籍が正倉院に残ること)
  2. 東京都立図書館「酸性紙資料の脱酸性化処置」 https://www.library.metro.tokyo.lg.jp/guide/about_us/collection_conservation/conservation/deoxidation/index.html (酸性紙が劣化する仕組み・1940〜50年代の劣化・脱酸の効果)
  3. 紙への道「和紙の知識(4) 和紙と洋紙との比較」 https://dtp-bbs.com/road-to-the-paper/japanese-paper/about-japanese-paper-004.html (原料の違い・楮の繊維の長さと寿命)
  4. アワガミ「和紙の原材料」 https://www.awagami.or.jp/iroha/material/index.html (楮の繊維の長さ・ネリの役目)
  5. 紙への道「コラム(93) 紙、特に和紙の寿命はなぜ長いのでしょうか」 https://dtp-bbs.com/road-to-the-paper/column/column-093.html (穏やかな叩解・ロジンサイズ・漉くときのpH・寿命の目安。年数は実測でない)
  6. 文化遺産オンライン「本美濃紙」 https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/221884 (本美濃紙の作り方・ユネスコ無形文化遺産登録)
  7. 紙への道「コラム(14)」 https://dtp-bbs.com/road-to-the-paper/column/column-014.html (酸性の抄紙法が1850年ごろ広まったこと)
  8. 紙への道「紙の基礎講座(8-2) 酸性紙、中性紙とは」 https://dtp-bbs.com/road-to-the-paper/basic-lecture-of-the-paper/basic-lecture-of-the-paper-008-2.html (pHの目安・炭酸カルシウムへの転換・1982年ごろの報道)

なおした ところ

更新履歴

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