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ここにあるのは、だれかが実際に調べ、考え、作ってきたことを集めたメモです。気になったら、ページの下の「参考にした情報源」から、もとの本や記事、それを生み出した人たちに、直接ふれてみてください。このメモには書ききれないおもしろさが、そこにあります。

あくびは、どうして 人に うつるの?

あくびは、どうして人にうつるのでしょうか

伝染性のあくび ── 共感説と体温調節説は、どこまで確かか

分野:からだ

この 文しょうを 読んで いる とちゅうで、あくびが 出た 人は いませんか。

あくびは、人から 人へ うつります。でも、どうして うつるのかは、まだ はっきり して いません。分かって いる ことと、分かって いない ことを、見て いきます。

だれかがあくびをするのを見て、つられて出てしまった。そんな経験は、多くの人にあるのではないでしょうか。もしかすると、この文章を読んでいる今も、口が開きかけているかもしれません。

あくびがうつる仕組みは、じつはまだ決着していません。研究で見えてきたことと、意見が分かれていることを、順に見ていきます。

あくびは他人のあくびを見聞きするだけで誘発される。この伝染性のあくびについて、誘発の条件、現れる年齢、相手との親しさの影響、動物での報告、そして共感説と体温調節説の現状を、公開されている論文と総説にもとづいて整理する。

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1. 見なくても、うつるの?

1. 見なくても、読むだけでうつる

1. 誘発刺激 ── 見る・考える・読む

あくびは、人の あくびを 見ると うつりやすい、と いわれます。でも、見なくても 出る ことが あるようです。

1986年に、ある 研究者が、あくびに ついて 「考える」 ことや 「読む」 ことでも、あくびが 出たと 書きました[1]。

つまり、この 文しょうを 読むだけでも、うつる ことが あるのです。

考えたり読んだりするだけでも

1986年、心理学者のロバート・プロヴァインは、あくびを目で見た場合はもちろん、あくびについて「考える」ことや「読む」ことでも、あくびが誘われたと報告しました[1]。

あくびは、画像や映像を見る必要さえありません。文字を追っているだけでも、あくびが出ることがあるようです。

Provine(1986)は、あくびを視覚的に観察した場合が強い誘発刺激であることに加え、あくびについて「考える」「読む」ことでも、あくびが誘発されたと報告した[1]。

伝染性のあくびは、視覚だけでなく、言語的・認知的な刺激でも起こりうる。この性質は、あくびの誘発が単純な模倣ではなく、もっと広い仕組みに支えられている可能性を示唆する。ただし、その仕組みが何かは、以下で見るように、いまも決着していない。

2. 赤ちゃんには、うつらないの?

2. 何歳から、あくびはうつるのか

2. 発達の時期 ── 4〜5歳ごろという整理と、その幅

お母さんが あくびを するのを 赤ちゃんに 見せても、あくびは うつりにくい、と いう 研究が あります。ちかしい お母さんでも、同じでした[2]。

うつるように なるのは、4さいから 5さいごろから、と まとめる 本が あります[3]。

ただし、もっと 小さい 子でも うつる、と いう 研究も あります。何さいからなのかは、しらべ方で 答えが かわります。

赤ちゃんと、小さな子

乳児と、1歳ごろからの幼児にお母さんのあくびの映像を見せた研究では、あくびがうつった証拠は見つかりませんでした。親に1週間の記録をつけてもらっても、うつったという記載はありませんでした[2]。関係の深い相手のあくびでも、ごく幼い子にはうつりにくい、と論文は述べています。

「4〜5歳ごろ」には幅がある

ある総説は、伝染性のあくびは4〜5歳ごろから現れ、6〜34か月の子ではほとんど見られない、とまとめています[3]。一方、教室で2歳半から5歳半の129人を調べた研究は、もっと早くからうつると報告しています[3]。調べ方によって結果が分かれるため、「何歳から」とは言い切れません。

幼い子での伝染性あくびは、少なくとも見つかりにくい。Millen & Anderson(2011)では、乳児と幼児(12か月〜)に母親のあくび映像を見せても、伝染の証拠は得られず、親による1週間の記録にも伝染あくびの記載はなかった。論文は、強い情動的つながりのある相手であっても、ごく幼い子は伝染性のあくびを示さない、と述べる[2]。

総説では、伝染性のあくびは4〜5歳ごろから現れ、6〜34か月では感受性がごくわずかだと整理される[3]。他方、教室で2.5〜5.5歳の129人を調べた研究は、より早期からの伝染を報告している[3]。発現年齢は観察法や条件に左右されるため、「4歳から」と断定せず、幅をもって読むべきだろう。

3. なかよしの 人ほど、うつるの?

3. 親しい人のあくびほど、うつりやすい

3. 社会的近さの勾配 ── 血縁から他人へ

大人109人が てつだった 研究では、あくびは 家ぞく、ともだち、ちょっと 知って いる 人、知らない 人の じゅんに、うつりにくく なりました[4]。

あくびが うつる 時間も、親しい 人の ほうが はやい、と いう ことでした。

声だけの あくびでも、ともだちや 家ぞくの ほうが、知らない 人より うつりやすかった、と ほかの 研究は 書いて います[5]。

家族、友人、知人、他人の順

成人109人が協力した2011年の研究では、あくびがうつる割合は、血縁の人、友人、知人、他人の順に低くなりました。あくびがうつったかどうか、何回うつったか、うつるまでの遅れ方を予測したのは、調べた要因の中では人と人のつながりだけだった、と報告されています[4]。

顔が見えなくても

2020年の研究は、2010年から2019年にかけて観察した294件の声だけのあくびを、193組の、あくびをした人と反応した可能性のある人のデータから分析しました。視覚の手がかりがなく、声だけのあくびでも、友人や家族のあくびのほうが、他人のあくびより有意にうつりやすかったといいます[5]。

Norscia & Palagi(2011)は、成人109人を対象に、あくびの伝染率が血縁者、友人、知人、他人の順に低下することを報告した。伝染の有無・頻度・反応の遅れを予測したのは、調べた要因の中では社会的なつながりだけだった[4]。

Norscia ら(2020)は、2010〜2019年に観察した294件の音声のあくびを、193組の発信者・反応候補者のデータから解析し、視覚的手がかりのない音声のあくびでも、友人・家族に対する伝染が他人に対するより有意に高かったと報告する[5]。ただしこれは観察研究であり、なぜ親しさが効くのかまでは、この結果だけでは決まらない。

4. あくびは 気もちの しるしなの?

4. 「共感の印」という説は、決まったのか

4. 共感説の検証 ── 一貫しない証拠

親しい 人ほど うつる ことから、あくびは 「あいての 気もちに よりそう 心」、つまり きょうかんの しるし、と 考える 人が 出て きました。

2017年に、この 考えを たしかめた たくさんの 研究を、見わたして まとめた ものが 出ました。そこでは、「どちらとも 言えない」と いう 答えでした[7]。

じつは、あくびが 少ないと 言われた 子どもたちの 研究も あります。その 後の 日本の 研究では、目を 見やすく すると、あくびが うつりました[6]。だから、あくびの 多い 少ないで、人の 気もちを はかる ことは できません。

親しさと共感が結びついた

親しい人ほどうつるのなら、あくびは相手の気持ちに寄りそう心、つまり共感の表れではないか。そう考える研究者が出てきました。

2017年の総説は「決定的でない」と結論した

マッセンとギャラップは2017年、共感とのつながりを調べた研究を見渡しました。個人差、親しさ、性別の差、障害のある人を対象にしたもの、発達、脳の画像などです。そのうえで、証拠は一貫せず、共感の指標だと結論できる段階ではない、とまとめました[7]。

自閉スペクトラム症の子の研究

2007年に、自閉スペクトラム症の子は、あくびがうつる回数が少ないと報告した研究があります。ところが2013年の日本の研究では、目に注意が向くようにすると、この症状のある子も、症状のない子も、あくびの映像で、そうでない映像より多くあくびをしました[6]。少なかった理由は、共感の差というより、顔や目への注意の向け方が関係するのかもしれません。あくびの回数だけで、人の気持ちが分かるわけではありません。

親しさによる勾配は、共感説を支持する材料として引かれてきた。しかしMassen & Gallup(2017)の総説は、個人差、親密度、性差、障害、発達、脳画像の各領域を検討し、共感との関連には一貫せず決定的でない証拠のパターンがあると結論した[7]。

自閉スペクトラム症(ASD)の子で伝染あくびが少ないとする2007年の研究(ASD 24人・定型発達25人)があるが、Usui ら(2013)の日本の研究では、目に注意が向くよう調整した条件で、ASDの子も定型発達の子も、あくび映像で対照映像より多くあくびをした[6]。差は共感の有無ではなく、顔・目への注意の差である可能性が示されている。したがって、あくびの伝染しやすさから個人の共感性を推し量ることは、根拠が足りない。

5. どうぶつにも、うつるの?

5. 犬やチンパンジーでも、あくびはうつる

5. 動物での報告 ── 割れる結果

チンパンジーでも、あくびは うつります。どうぶつえんの 15頭に、あくびの えいぞうを 見せた 研究では、ふつうの えいぞうより、あくびが 多く 出ました[9]。

犬でも、あくびが うつると いう 研究が あります。でも 2020年の 研究では、かいぬしのような 親しい 人の あくびで 多く うつる、と いう ことは 見られませんでした[8]。

犬の あくびが 何の しるしなのかは、まだ 決まって いません。

チンパンジー

動物園にいる15頭のチンパンジーで、あくびの映像を見せる実験をした研究があります。あくびの映像は、対照の映像より多くあくびを誘いました。この研究では、オスのあくびのほうがメスのあくびよりうつりやすく、毛づくろいで測った仲のよさは影響しませんでした[9]。

犬

犬でも、あくびがうつるという研究があります。ただ、2020年の研究(過去の記録の再分析257頭、実験32頭)では、飼い主のような身近な相手や性別による偏りは見られず、共感を示す印とは言えないと結論されました[8]。

チンパンジー(動物園の15頭)でも、あくび映像は対照映像より多くの伝染あくびを誘発した。オスのあくびはメスのあくびよりうつりやすく、毛づくろいで測った関係性の良さは影響しなかった[9]。

イヌでは、Neilands ら(2020)が、再分析257頭と実験32頭にもとづき、伝染あくびは存在するが共感的な機構に媒介されていないと結論した。飼い主のような身近な相手や性別による偏りは見られなかった[8]。動物での結果は、種や方法によって異なる可能性がある。

6. 体の あつさと、かんけいが あるの?

6. もう一つの説 ── 頭を冷やすあくび

6. 体温調節説 ── 支持と、残る問い

もう 一つの 考えが あります。あくびは、脳のうの あつさを にがして、ひやす はたらきが ある、と いう 考えです。

アメリカの 町で、夏(およそ37度)と 冬(およそ22度)に、あくびの しゃしんを 見せる しらべが ありました。冬の ほうが、あくびの うつる 人が、およそ 2ばい だった、と いう ことです[10]。

ただし、これは 本人の 答えに たよった しらべです。「あくびは 頭を ひやす」と、言い切る ことは できません。

あくびは脳を冷やすのか

体温調節説は、脳が熱くなりすぎたことがあくびのきっかけになり、あくびには脳を冷やす働きがある、と考えます。2013年の総説は、5年ほどの研究がこの予測を支持し、反する報告は出ていない、とまとめました[10]。ただし、これは自然に出るあくびの説明が中心です。

夏より、冬のほうがうつる

アメリカ・アリゾナ州のトゥーソンで、道を歩く人にあくびの写真を見てもらう調査がありました。冬(約22℃)のほうが夏(約37℃)より、あくびをする人がほぼ2倍で、暑い夏はうつりにくかったそうです[10]。本人の申告による調査で、総説を通しての紹介です。

どちらかを否定するものではない

同じ総説は、社会的な伝染と体温の影響は、どちらか一方がもう一方を否定するものではない、とも述べています[10]。あくびがうつる理由は、共感、体温、あるいはそれ以外の何かも含めて、まだ決着していません。

体温調節説は、脳の過熱があくびの引き金となり、あくびが脳を冷やすと予測する。Gallup & Eldakar(2013)は、脳の冷却と熱の窓に関する具体的な予測が複数の研究で確かめられ、再現されたとした[10]。ただし議論の中心は自発性のあくびで、伝染あくびへの当てはめは議論中である。

同総説が紹介するアリゾナ州トゥーソンの歩行者調査では、冬(約22℃)は夏(約37℃)に比べ、あくびの写真を見てあくびしたと答えた人がほぼ2倍だった。自己申告にもとづく調査で、総説が紹介する内容である[10]。

総説は、社会的伝染と熱の効果は互いを否定しないとも述べる。共感説・体温調節説のいずれも、伝染あくびの全体を説明するには至っていない。

じぶんの あくびを 見て みよう

自分でも調べてみたくなったら

自分でも調べてみたくなったら

じぶんの まわりで 見つける

  • いつ 出たか、ひとこと 書く。 あくびが 出たら、その ときに 何を して いたかを、ノートに ひとこと 書いて みましょう。人の あくびを 見た あとか、ねむい ときか、あつかった ときか、見て みます。
  • あくびの ことを 家の 人と 話す。 あくびの 話を すると、まわりの 人も あくびが 出るか、そっと 見て みましょう。むりに 出させなくて かまいません。

今日できること

  • あくびが出た場面を書き留める。直前に人のあくびを見たか、暑かったか、眠かったかを1行だけ記録します。数日ためると、自分に多い場面が見えてくるかもしれません。
  • 説を、自分の体験に当てはめてみる。身近な人のあくびが自分にうつるかも、さりげなく観察してみましょう。共感説、体温説のどちらで説明できそうか、それとも別の理由がありそうかも考えてみましょう。答えは、まだ誰も持っていません。

自分で確かめてみる

  • あくびの記録をつける。出た場面(人のあくびを見た直後か、眠いときか、暑いか)を記録する。集まった記録は、どの説の予測とも一致するとは限らない。少ない記録から結論を出さない。
  • 論文の主張の強さを読み比べる。出典の[1]から[10]で、「示した」と「決定的でない」と書き分けられている箇所を探し、結論の言い方がどう違うか比べる。

資料を読むなら

Massen & Gallup(2017)は、共感との関連を扱った研究をまとめた英語の総説で、共感説がどこまで言えるかが分かる。Gallup & Eldakar(2013)は、体温調節説の英語の総説。

しらべた もとの じょうほう

参考にした情報源

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出典について:学術論文・総説の公開情報を使っています。

  1. Provine (1986) Yawning as a stereotyped action pattern and releasing stimulus, Ethology 72。 https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1111/j.1439-0310.1986.tb00611.x (考える・読むことでもあくびが誘われた点。要旨で確認)
  2. Millen & Anderson (2011) Biology Letters 7(3)。 https://royalsocietypublishing.org/doi/10.1098/rsbl.2010.0966 (幼い子の伝染あくびについて)
  3. Yawning and its physiological significance(PubMed Central)。 https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3678674/ (伝染あくびが現れる年齢の整理、教室での別の研究の紹介)
  4. Norscia & Palagi (2011) PLOS ONE。 https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371%2Fjournal.pone.0028472 (成人109人、相手との親しさとうつりやすさ)
  5. Norscia et al. (2020) Frontiers in Psychology。 https://www.frontiersin.org/journals/psychology/articles/10.3389/fpsyg.2020.00442/full (声だけのあくびと親しさ)
  6. Usui et al. (2013) Autism Research and Treatment(PubMed Central)。 https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3736493/ (自閉スペクトラム症の子と、目への注意についての研究)
  7. Massen & Gallup (2017) Neuroscience & Biobehavioral Reviews。 https://research-portal.uu.nl/en/publications/why-contagious-yawning-does-not-yet-equate-to-empathy/ (共感との関連についての総説)
  8. Neilands et al. (2020) Proceedings of the Royal Society B(PubMed Central)。 https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7031662/ (犬の伝染あくびについて)
  9. Massen, Vermunt & Sterck (2012) PLOS ONE。 https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371%2Fjournal.pone.0040697 (チンパンジーの伝染あくびについて)
  10. Gallup & Eldakar (2013) Frontiers in Neuroscience 6:188。 https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fnins.2012.00188/full (体温調節説と、夏・冬の調査の紹介)

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