1. アルミニウムは なにも しなくても さびにくいのに、どうして まくを つくるの?
1. アルミは何もしなくても膜に守られるのに、なぜ電気で膜を作るのか
1. 自然の酸化膜と陽極酸化皮膜 ── 薄い自然の膜を電気で育てる理由
アルミニウムは、くうきの なかに おいて おくだけでも、ひょうめんが さんそと むすびついて、とても うすい まくが できます。この まくが、なかが さびて いくのを ふせぎます[6]。
アルマイトは、この まくを、電気の ちからで じぶんから あつく そだてた ものです[1]。あつく した まくは、かたく なって、すり へりにくく なります[6]。
では、なんの ために、こんな まくを つくり はじめたのでしょう。
アルミニウムは、空気中に置いておくだけでも、表面が酸素と結びついて酸化アルミニウムの薄い膜ができます。この膜が、内部へ錆が進むのを防ぎます[6]。
アルマイトは、この自然にできる膜を、電気の力で人の手によって厚く育てたものです。アルミニウムを陽極(プラスの極)にして電気分解し、表面を酸化させて、酸化アルミニウムの膜を作ります[1]。
陽極酸化でできた膜は非常に硬く、すり減りにくいとされます。硬さや厚さは処理の条件でも変わります。三重県の研究所の実験では、電解の時間と膜の厚さが比例し、電解時間が長いほど摩耗に強くなりました(硫酸15%、10〜40分、この条件での一例)[6]。ただし、酸性の液の中では膜の穴が少しずつ溶けるので、無限に厚くはできません[4]。
それにしても、だれが、何のためにこんな膜を作りはじめたのでしょうか。
アルミ鍋の表面にあるアルマイトは、実はアルミが空気中で自然に作る膜を、人工的に厚くしたものだ。アルミニウムは空気中でも酸素と結びつき、表面に酸化アルミニウムの薄い膜ができる。この膜が母材を保護し、内部への急激な腐食を防ぐ[6]。
陽極酸化(アルマイト処理)は、アルミニウムを陽極にして電解し、表面に酸化アルミニウムの耐食性皮膜を作る処理である[1]。この皮膜は非常に硬く、耐摩耗性に優れる[6]。硬さや厚さは電解条件にも左右される。三重県工業研究所の実験(硫酸15%、283K、3A/dm²、10〜40分)では、電解時間と皮膜厚さが比例し、時間が長いほど摩耗に強くなった[6]。
ただし、膜はいくらでも厚くなるわけではない。酸性の電解液は、成長した細孔を同時に溶かすため、厚さには限界がある[4]。では、この皮膜はもともと何を目指して作られたのか。
2. はじめは、電気を とおさない うすい カバーを さがして いた
2. はじめは「電気を通さない薄いカバー」を探す研究だった
2. 絶縁被覆の探索から生まれた ── 理研の植木栄とシュウ酸浴
電気で うごく きかいでは、電気を ひつような ところだけに ながす ひつようが あります。そのため、きんぞくを、うすい 電気を とおさない もので おおう ひつようが ありました[3]。
1923ねんごろ、りけんで、アルミニウムの まくを その カバーに できないかと かんがえた けんきゅうしゃが いました。さがして いく うちに、しゅうさんと いう えきを つかうと よいと わかりました[2]。
この ほうほうで できた ものに つけられた なまえが、アルマイトです[1]。
ところが、この まくには、ある ひみつが ありました。
電気で動く機械では、電流を必要な所だけに流さなければなりません。そのため、金属を薄くて熱に強い絶縁物で覆う必要がありました。アルマイトは、もともとそんな電気絶縁の被覆を作ろうとして生まれたものです[3]。
1923年(大正12)ごろ、理研で、植木栄が、電気分解で得られるアルミニウムなどの酸化皮膜を、絶縁材料として有望だと考えました。当時あまり知られていなかったシュウ酸の液が最適だと見つけ、同じ年の12月28日には、防錆の特許を出願しています(鯨井恒太郎らと)[2]。アルマイトは、このとき生まれた商標名です[1]。
ところが、できたての膜には、絶縁にとっては困る性質がありました。それが「穴」です。
3. けんびきょうで 見ると、まくは はちの すの ように あなが ならんで いた
3. 顕微鏡で見ると、膜には穴が蜂の巣のように並んでいた
3. ポーラス層とバリヤー層 ── 電圧が穴の間隔を決める
ストローを たくさん、たてに ならべた ところを おもいうかべて ください。アルマイトの まくの なかは、それに にた つくりだと いわれます。ただし ほんとうの あなは、ストローよりも ずっと ずっと ほそい あなです。
あなの ある ぶぶんの したには、あなの ない うすい ぶぶんが あります。この うすい ぶぶんが、なかの アルミニウムを まもって います[4]。
あなの あいだは、かけた 電気の つよさで きまります。つよい 電気を かけるほど、あなの あいだは ひろく なります[4]。
これらの あなが、こまる ことにも、やくに たつ ことにも なります。
研究では、膜の中の姿を「理想的なモデル」として描いています。正六角柱の小部屋(セル)が蜂の巣のようにすき間なく並び、各セルの中央に、素地に垂直な円柱状の細い穴(細孔)があります。穴のある「ポーラス層」の下に、穴のない薄い「バリヤー層」が重なる2層で、このバリヤー層がアルミニウムの素地と外の世界を隔てています。実際の膜は、穴が曲がったり不規則になったりします[4]。
膜は次のように育つと説明されています。まず均一な薄いバリヤー膜ができます。ある厚さで不均一な溶け方が起き、無数の小さなくぼみができ、その一部が穴へと育って、厚いポーラス層になります。素地のアルミニウムが酸化アルミニウムに変わると体積が膨らむので、膜の表面は処理する前の表面より高くなります[4]。
穴の中心どうしの間隔は、かける電圧に比例します(約2.5ナノメートル/ボルト)。硫酸の液で規則正しく並ぶのは19〜25ボルトのときで、計算すると間隔は約50〜60ナノメートルです[4]。
電圧が穴の間隔を決める、という点に注目してください。この「穴」が、膜にとって悩みの種にも、強みにもなります。
顕微鏡で見ると、アルマイト皮膜は一枚の平らな膜ではない。理想的なモデルでは、正六角柱状のセルが蜂の巣状に配列し、各セルの中央に素地に垂直な円柱状の細孔がある。細孔のある領域をポーラス層、底部の薄い酸化皮膜をバリヤー層とよび、素地と外界を隔てるのはバリヤー層である。ただし六角形の境界は実際には観察されず、細孔も曲がったり不規則になったりする[4]。
成長は、均一な薄いバリヤー皮膜から始まる。ある厚さで不均一な溶解が起き、微細なピットが無数にできる。そのうち一部のピットが、電解質と電圧に応じた大きさの細孔へと優先的に育つ。素地のアルミニウムが酸化アルミニウムに変わると体積が増えるため、皮膜の表面は処理前の表面より高くなる[4]。
では、この構造の寸法は何で決まるのか。規則的な皮膜では、細孔の中心間隔は電圧に比例し(約2.5nm/V)、バリヤー層の厚さも電圧に比例する(約1.0〜1.2nm/V)。規則化する電圧は、硫酸が19〜25V、シュウ酸が40V、リン酸が160〜195V程度である[4]。ここから計算すると、硫酸では間隔が約50〜60nm、バリヤー層が約20〜30nm、シュウ酸では間隔が約100nmになる(筆者の計算値)。
電解したての皮膜は、せいぜい頭髪の太さほどの厚さだと宮田は述べている(当時の目安で、現在の標準値ではない)[3]。この穴だらけの層が、絶縁には何を引き起こしたのか。
4. あなが あると、なにが こまるの? さんかくじょうぎを かさねて にた はなし
4. 穴があると何が困るのか ── 三角定規を重ねて煮た逸話
4. 孔の弱点と封孔 ── 沸騰水が細孔を埋める
できたての まくは、しっけの おおい ところでは、電気を とおさない はずが とおして しまうと、りけんの けんきゅうしゃは かたって います。しおや さんが ついた 水に ふれると、あなから なかの きんぞくが さびる ことも ありました[3]。
あつく 見えても、あなを ふさがないと、なかを まもって いるのは、いちばん したの うすい ぶぶんだけです[4]。その けんきゅうしゃは、あなを ふさぐ たいさくとして、1927ねんに すいじょうきを あてる しょりを はじめた そうです[3]。
りけんの しょうかいには、こんな はなしも あります。しょりの とちゅうで、さんかくじょうぎを かさねたまま にたら、かさなった ところが はんとうめいの きいろに なり、まだらに なりました。さんや つよい アルカリの えきに つけても、きいろい ところだけ かわらなかったと いいます[2]。
ふっとうした 水に つけると、まくの いちぶが 水と むすびついて、あなが うまる のだと せつめい されて います[4]。これを ふうこうと いいます。1929ねんには、じょうきで ふうこうする ほうほうが とっきょに なりました[2]。
あなは ふさぐだけでは ありません。つぎは、あなを つかう はなしです。
できたての膜について、理研の宮田聰は、湿気の多い所では絶縁しなくなること、塩や酸に出会うと穴から地金(下のアルミニウム)が錆びることを説明しています。穴をふさぐ対策として、1927年(昭和2)に水蒸気処理を始めたと語っています[3]。
理研の紹介には、こんな逸話も載っています。処理中の三角定規を重ねたまま煮出すと、重なっていた部分が半透明の黄色になってまだらになった。酸や強いアルカリの液に浸けても、黄色い部分だけは何も変化せず、耐食性や強度が上がっていることが分かった。高圧の水蒸気で穴をなくす「蒸気封孔法」は、1929年に特許登録されています。1934年には理研アルマイト工業株式会社が設立されました[2]。
穴がふさがる仕組みは、研究では次のように説明されています。陽極酸化したアルミニウムを沸騰水に浸すと、水を含んだ酸化物ができて穴が埋まり、耐食性が格段に上がります。見かけが厚くても、封孔しなければ、素地と外の世界を隔てるのは底の薄いバリヤー層だけで、高い耐食性は期待できません。硫酸やシュウ酸の膜は封孔しやすい一方、リン酸の膜は水を含みにくいと報告されています[4]。
ところで、穴は「ふさぐ」だけのものでしょうか。
孔の問題について、宮田は具体的に述べている。できたての皮膜は、湿気の多い所では絶縁せず、塩や酸に出会うと孔から地金がさびる。「どうしてもこの孔を填めなければならない」と考え、1927年(昭和2)に対策として水蒸気処理を始めた[3]。
理研の紹介には、封孔の発見にまつわる逸話もある。処理中の三角定規を重ねたまま煮出すと、重なっていた部分の皮膜が半透明に黄変し、まだらになった。酸や強アルカリ液でも黄色い部分だけは変化せず、耐食性や強度の向上が分かった。高圧水蒸気で孔を失わせる蒸気封孔法は1929年に特許登録され、1934年に理研アルマイト工業が設立された[2]。なお、宮田自身の1927年の水蒸気処理と、この逸話との前後関係は、資料からは分からない。
封孔の原理は、研究では水和として説明される。沸騰水に浸すと水和酸化物が析出して細孔が充填され、耐食性が格段に向上する。逆に、封孔しなければ、皮膜が厚く見えても、素地と外界を隔てるのは薄いバリヤー層だけで、高い耐食性は期待できない。硫酸・シュウ酸皮膜は封孔しやすいが、リン酸皮膜は水和が起こりにくい[4]。
孔は欠陥であり、同時に資源でもある。次の章では、孔を積極的に使う例を見る。
5. あなは、いろを しまう いれものにも なる
5. 穴は、色をしまう入れ物にもなる
5. 着色と応用 ── 細孔に色素を吸着させ、封孔で閉じこめる
アルマイトの まくの あなに、いろの もとを すわせてから、あなを ふさぐと、いろを しっかり しまって おけます。これが、いろ つきの アルマイトです[5]。
おおいた けんの けんきゅうじょは、むかしから ある あいぞめの あいを つかって、いろを つける ほうほうで、とっきょを とりました[5]。
アルマイトは、なべや べんとうばこ から たてものまで、ひろく つかわれて います[2]。
アルマイト皮膜には、ナノメートルの大きさの穴があるので、色素を穴に吸着させ、そのあと封孔して色を安定して閉じこめる方法があります(カラーアルマイト)[5]。大分県の産業科学技術センターは、伝統的な天然の藍を使って染める方法を、特許出願し、共同で取得しました[5]。
皮膜そのものの色は、使う液で変わります。硫酸の膜は無色透明、シュウ酸の膜は薄い黄色、リン酸の膜は薄い灰色です。工業では、電圧が低く、安く、速く膜が育つ硫酸が圧倒的に多く使われています[4]。
用途は鍋や弁当箱、レコード盤、建築物、美術工芸品まで広がりました[2]。宮田は、穴の多い膜が空気の湿り気で電気をためる量が変わることを使い、「湿り計」が作られたことも語っています[3]。1995年には、増田らが穴をほぼ完全な蜂の巣状に並べる方法を報告したとされ、穴の並びを使うナノテクノロジーへと研究は進んでいます[4]。
電気を通さない薄いカバーを探していた研究が、穴の使い道を広げていったのです。
細孔を欠陥でなく利点として使う代表が着色である。皮膜にはナノメートルサイズの細孔があるため、色素を細孔に吸着させたうえで封孔処理をすると、色を安定して閉じこめられる(カラーアルマイト)。大分県産業科学技術センターは、伝統的な天然の藍を用いる方法を特許出願し、共同取得している[5]。
皮膜の地の色は電解液で異なる。硫酸皮膜は無色透明、シュウ酸皮膜は薄黄色、リン酸皮膜は薄灰色である。工業的に硫酸が圧倒的に多いのは、電圧が低く、高電流で速く成長し、安価だからである。0℃付近の低温の硫酸なら硬い皮膜が得られる[4]。
用途は、弁当箱やレコード盤から建築物、美術工芸品まで広がった[2]。宮田によれば、多孔性の膜は空気の湿り気に応じて蓄電作用が増減するので「湿り計」に使われた。また陽極処理は電解コンデンサの製造に使われ、1932年に東京芝浦電気へ実施権が譲渡された[3]。
研究面でも、1995年に増田らが長時間の自己規則化陽極酸化と皮膜除去を経る2段階法でほぼ完全な蜂の巣状の細孔配列を得たとされ(原論文は未確認の紹介)、のちにナノインプリントで細孔位置を先に決める方法も開発された[4]。絶縁被覆を探す中で生まれた皮膜の構造は、約100年後、ナノテクノロジーの材料にも使われている。
自分でも しらべて みたく なったら
自分でも調べてみたくなったら
自分でも調べてみたくなったら
家で さがして みよう
おうちに アルミニウムの なべや べんとうばこが あれば、つかった あと、さめてから、ひょうめんを よく 見て みましょう。つやや 色は どうでしょう。色の ついた ものが あれば、色が どんな ふうに ついて いるか 見て みて ください。ほかの きんぞくの ものと、見た めを くらべても おもしろいです。
よんで みたい もの
りけんの ホームページには、アルマイトの はなしが のって います。
家の中で探す
アルミ製の鍋や弁当箱が家にあれば、使い終えて冷めてから、表面の色やつやを観察してみましょう。色つきのものがあれば、色のむらや、傷のつき方も見てみてください。ほかの金属の道具と並べると、見た目の違いも分かります。
読んでみたい資料
理研のウェブサイトに、アルマイトの歴史が紹介されています。宮田聰の「アルマイトからの発展」も公開されていて、当時の様子を本人の言葉で読めます。
見る・比べる
家のアルミ製品(鍋・弁当箱など)の表面を観察し、色の有無・つや・傷の入り方を記録する。色つきの製品があれば、色素を細孔に吸着させて着色する方法を思い出しながら見る。
原典にあたる
理研ヒストリア「アルマイト」と、宮田聰「アルマイトからの発展」(理研の100年の資料)で、発明の経緯と封孔の対策を本人の言葉で読める。構造と電圧の関係は、表面技術69巻12号(2018)の解説論文に、比例式と数値がまとまっている。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
今回は、発明の経緯は理研の紹介と宮田聰の記録、皮膜の構造・封孔・着色は学会誌の解説論文と大分県の研究機関の資料、膜の硬さは三重県の研究所の報告を突き合わせた。
- コトバンク「アルマイト」(精選版 日本国語大辞典ほか) https://kotobank.jp/ (アルマイトの定義・商標名)
- 理化学研究所 理研ヒストリア「アルマイト」 https://www.riken.jp/pr/historia/almite/index.html (発明の経緯・三角定規の逸話・用途)
- 宮田聰「アルマイトからの発展」(理研の100年 資料) https://www.riken.jp/medialibrary/riken/pr/publications/anniv/riken_w/riken_w_6.pdf (絶縁被覆の目的・孔の問題・応用)
- 菊地竜也ほか「アルミニウムのポーラス型アノード酸化皮膜」表面技術 69(12), 2018 https://eprints.lib.hokudai.ac.jp/repo/huscap/all/76067/J.%20Surface%20Finish.%20Soc.%20Jpn%2069_554.pdf (構造・電圧と間隔・封孔・電解液)
- 大分県産業科学技術センター ポスター「伝統的藍染料を用いた新しいカラーアルマイト」 https://www.oita-ri.jp/wp-content/uploads/ポスター(伝統的藍染料を用いた新しいカラーアルマイト).pdf (着色の方法)
- 樋尾・金森 三重県工業研究所 研究報告 No.37(2013) https://www.pref.mie.lg.jp/common/content/000172117.pdf (自然の酸化膜・膜の厚さと耐摩耗)
なおした ところ
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