1. CDの 音は、ほんとうは 数の ならび
1. CDの音は、1秒に4万4100個の数字だった
1. CD-DAの音は離散的な数列 ── 44.1kHz・16ビット・2チャンネル
ゆるい さか道を、ノートに 書く ことを かんがえます。道にそって 1メートル すすむごとに 高さを はかって、数だけを 書きます。ノートに 数が ならびます。
CDは、これを 音で して います。1びょうの あいだに 44100かい、音の 大きさを はかります[5]。ステレオなので、右と 左で、それぞれ はかります。
ノートには、はかった ところの 数しか ありません。はかって いない ところの 音は、どこにも 書いて ないのです。
ただし 本当の 音は、とびとびでは なく、ずっと つながって います。
音を「数のノート」にする
空気のふるえである音は、なめらかに変わり続けます。これを、一定の間隔で大きさを測って数字にします。この「一定の間隔で測ること」を標本化(サンプリング)といいます[1]。
CDの規格では、1秒に44.1kHz、つまり4万4100回測ります。ステレオなので、左右それぞれです[5]。数は、2進数という、0と1だけで書く方法で表されます。
1秒でどれくらいの数になるか
1回の大きさは16ビット、つまり16個の0と1で表します。44100×16×2(左右)=1,411,200で、1秒の音がおよそ141万ビットになる計算です[5]。8ビットが1バイトなので、1秒で約17万6千バイトです。74分(4440秒)なら約7億8000万バイトです(計算による概算)。
数字しか書いていないノートから、本当に音が戻るのでしょうか。測っていない間の音は、どうなっているのでしょう。
2. はかって いない あいだの 音は、どうなるの?
2. 測っていない間の音を、どうやって戻すのか
2. 標本化定理 ── 最高周波数の2倍より速く測る条件とエイリアシング
答えは、「はかる はやさが たりて いれば、あいだも もどせる」です。
きまりは、2ばい。もとの 音の いちばん 高い ところの、2ばいより はやく はかれば いいのです[2]。
人が 聞ける いちばん 高い 音は、およそ 20000かい ゆれる 音と いわれます(人に よって ちがいます)[5]。その 2ばいは 40000かい。CDの 44100かいは、それより 少し 多くて、よゆうが あります。
はかる はやさが たりないと、高い 音が ひくい 音に ばけて しまい、くべつが つかなく なります[2]。
「2倍より速く」測れば足りる
標本化定理は、音に含まれる最高の周波数がB Hzなら、1/(2B)秒より短い間隔で測った値から、測っていない間の波形も理屈の上では復元できる、というものです[2]。言いかえると、最高周波数の2倍より速く測れば足ります。ただしCDは、大きさも16ビットの段階に丸めて記録するので、元の波形とぴったり同じにはなりません(4章)。
人が音として聞ける周波数は、およそ20Hzから20kHzとされます。年齢や個人でちがう目安です[5]。20kHzの2倍は40kHzで、CDの44.1kHzはそれを少し超えます。半分の22.05kHzまでの音を復元できると説明されます[4]。
足りないと、高い音が低い音に化ける
測る速さが足りないと、高い音が低い音と区別できなくなります。これをエイリアシング(折り返し雑音)といいます[2]。「2倍」は理屈の上の下限なので、実際の機器は余裕をもたせて作られます。
ところで、この「2倍でよい」という考えは、いったいだれが見つけたのでしょうか。
標本化定理は、信号に含まれる最高周波数がB Hzなら、1/(2B)秒より短い間隔で測った値の列から、理想的な標本化の条件では標本間の波形を理論上再構成できる、と述べる[2]。ただしCD-DAは振幅も16ビットに量子化するため、元の波形と完全には一致しない。可聴域の上限はおよそ20kHz(個人差・年齢差がある)なので[5]、必要な標本化周波数は40kHz超。CDの44.1kHzは、その上限20kHzの2.205倍にあたり、半分の22.05kHzまでが復元可能な範囲になる[4]。
測る速さがこの条件に足りないと、高い成分が低い成分に化けて区別できなくなる(エイリアシング)[2]。「2倍」は理論上の下限であり、実際の機器は余裕を見込んで設計される。この条件は、いつ、だれが、どこまで示したのだろうか。
3. 「2ばい」は、だれが 見つけたの?
3. 「2倍でよい」は、一人の発見ではなかった
3. 標本化定理の来歴 ── 小倉金之助(1920)からシャノン(1949)まで
この 考えは、1人の 人が 見つけた ものでは ありません。
日本の すうがく者、おぐら きんのすけ さんは、1920ねんの ろんぶんで この 考えを のべました[3]。そのあとも、ほかの 国の 人たちが、べつべつに 同じ ことを 考えて います。
ただし「おぐらさんが いちばん はじめに かんぺきに しょうめいした」と まで は、いえません。
1920年の日本の論文
歴史研究の論文によると、日本の数学者・小倉金之助が、1920年の論文で、この定理をホイッタカーという人の定理の逆として述べています[3]。
そのほか、ナイキストが1928年に、情報を送れる速さとの関係を論じました。コテルニコフが1933年、シャノンが1949年に、この定理を発表しました[3]。日本語の解説でも、これらの人たちが独立に取り組んだとされています[4]。
「最初の証明」と言えるのか
「小倉が最初に厳密に証明した」とよく言われます。しかし、ある歴史研究は、小倉は証明の方法のありかを示したにすぎないと述べています[3]。ですからここでは、「1920年に論文でこの考えを書いた、先駆けの一人」としておきます。
音を数にして送るPCMの考えは、英国人技術者のリーブスが1937年に思いついたとされます。当時は実用に至りませんでした[1]。では、数の「細かさ」は、どうやって決めるのでしょう。
標本化定理の来歴は、単一の発見者に帰せない。Ferreira & Higgins(2011)によれば、小倉金之助は1920年の論文で、ホイッタカーの定理の逆としてこの定理を述べた。ナイキストは1928年に伝送速度との関係を論じ、コテルニコフが1933年、シャノンが1949年に発表した[3]。日本語の解説も、複数の人物が独立に取り組んだと整理する[4]。
「小倉が最初の厳密な証明を与えた」という通説に対し、同論文は、小倉は証明の方法の所在を示したにとどまると述べる[3]。このため、本稿は「1920年に論文に記した先駆けの一人」にとどめる。一方、PCMの着想は、英国人技術者リーブスが1937年にフランスのITT勤務中に得て、1938年にフランスで特許を出願したが、当時は実用に至らなかった[1]。定理が示すのは測る「速さ」の条件であり、測った値をどれだけ細かい数にするかは、別の設計の問題として残る。
4. 音の 大きさは、どこまで 細かく はかるの?
4. 測った値を、何段階で丸めるか ── 量子化
4. 量子化と16ビット ── 65536段階と、ソニーとフィリップスの議論
1センチごとの 目もりの ものさしで 長さを はかると、どうなるでしょう。3.4センチも 3.6センチも、「3センチ」か「4センチ」に なって しまいます。
音の 大きさも、同じです。はかった 大きさを、きめた だんの いちばん ちかい ところに あわせます。これを「りょうしか」と いいます[1]。
CDは、65536だんかいに わけます[5]。目もりが とても 細かい ものさしです。ただし 本当の 音は、目もりの あいだにも あるので、ほんの 少し ずれは 出ます。
目盛りに丸める
標本化で測った大きさは、そのままでは細かすぎる数です。そこで、決まった段階の中で、いちばん近い値に丸めます。これが量子化です[1]。1cm刻みの定規で長さを測ると、3.4cmも3.6cmも整数に丸められるのと似ています。
CDは16ビットです。2を16回かけた65536段階で、音の大きさを表します[5]。14ビットなら16384段階なので、16ビットの目盛りはその4倍細かい計算です。
16ビットは、どうして選ばれたのか
解説記事によると、開発の途中で、ソニーはダイナミックレンジ(小さい音から大きい音までの幅)を理由に16ビットを支持し、フィリップスは14ビット案だったと説明されます[7]。CDは、フィリップスとソニーが共同開発し、日本では1982年10月に発売されました[6]。
速さ(標本化)と細かさ(量子化)が、数にする基本の2つのつまみです。ただし、これだけで音質のすべてが決まるわけではありません。
量子化は、標本化で得た振幅を、決まった段階のうち最も近い値に丸める操作で、ここで丸め誤差が必ず生じる[1]。CD-DAは16ビット、2¹⁶=65536段階。14ビットなら2¹⁴=16384段階で、16ビットは14ビットの4倍の細かさだ[5]。
ビット数の決定をめぐり、ソニーはダイナミックレンジを理由に16ビットを支持し、フィリップスは開発中の14ビットD/A変換器を理由に14ビット案だったと説明される[7]。44.1kHzについても、可聴域の2倍以上であることなど複数の事情で決まったと説明されるが、細部は資料により異なり、単一の理由には断定できない[7]。CDは両社の共同開発で、日本では1982年10月に発売された[6]。標本化周波数と量子化ビット数は、デジタル化の基本の2つのパラメータだが、音質のすべてをこの2つだけで説明することはできない。
5. 写真も、数の ならびに なる
5. 写真も同じ ── マス目に分けて、色を数にする
5. 画素と色数 ── 1200万画素と256×256×256色
モザイクタイルで えを かく ところを そうぞう して ください。小さな タイルを たて、よこに ならべて、1まいずつ 色を きめます。
デジタルの 写真も、にて います。たて、よこの マス目に わけて、1つ1つの 色を 数で あらわします[8]。この マス目を「がそ」と いいます。
音は、時間を 細かく 切って はかりました。写真は、場所を 細かく 切って はかります。
写真では、色を 数で あらわします。
写真は、マス目と色の数でできている
デジタル写真は、画面を縦横のマス目に分け、その1つ1つ(画素、ピクセル)の色を数で表します。1200万画素で縦横比が4:3なら、横4000×縦3000=1200万個のマス目です[8]。音で時間を細かく切ったように、写真では場所を細かく切ります。
色は、赤・緑・青の入り具合
色は、光の三原色の赤・緑・青(RGB)で表します。それぞれの入り具合を段階で表し、各色を256段階(8ビット)にすると、256×256×256=16,777,216、約1677万色になります。各色が「ある・ない」の2段階だけなら、2×2×2=8色です[8]。
1984年ごろのパソコンは16色しか出せませんでしたが、いまは1600万色以上を扱えます[8]。これは音でいう量子化の細かさです。
デジタル写真は、画像を縦横のマス目(画素)に分け、各画素の色を数で表す。1200万画素で縦横比4:3なら、横4000×縦3000=1,200万画素である[8]。これは空間方向の標本化にあたる。
色はRGBの加法混色で表し、各色の強さを量子化する。各色が2段階なら2³=8色、256段階(8ビット)なら256³=16,777,216色(約1677万色)、1画素は24ビットだ[8]。圧縮しないと仮定すれば、1200万画素は12,000,000×3バイト=約3600万バイトになる計算で、数にするほど量が増える。1984年ごろのパソコンは16色だったが、現在は1600万色以上を扱える[8]。音では時間方向の標本化と振幅の量子化だったものが、写真では空間方向の標本化と色の量子化に対応する。
6. 数に すると、なにが とくなの?
6. 数にすると得をすること ── コピーしても劣化せず、傷も直せる
6. 世代劣化と誤り訂正 ── CIRCが直せる傷の上限
ひとつ めの とく。コピーしても わるく なりません。
むかしの アナログの コピーは、きかいや せんの ざつ音で、コピーを かさねるほど 音が わるく なりました[9]。数なら、きかいが ただしく うごいて いれば、もとと 同じ 数の ならびを つくれます。
ふたつ めの とく。きずが ついても 直せます。CDは、数の ならびに、まちがいを 見つけて 直す くふうが 入って います[10]。ただし、どんな きずでも 直せる わけでは ありません。
コピーしても、数字は同じ
アナログのコピーは、ケーブルや機器の雑音などのため、コピーを重ねるごとに劣化します。これを世代劣化といいます。デジタルのコピーは、機器が正常なら元と同じ数字の列になり、コピーによる劣化がありません[9]。ただし、MP3のような不可逆圧縮を重ねて作り直すと、劣化は積み重なります[9]。「絶対に劣化しない」のではなく、「コピーでは劣化しない」が正確です。
傷が入っても、数字を直せる
CDの誤り訂正は、CIRC(クロスインターリーブ・リード・ソロモン符号)という方式です。ソニーが提供した方式で、傷や指紋に強いといわれます。一定の条件では、ディスクの上で約4000ビット、約2.5mm続く誤りまで訂正できると説明されています[10]。これは訂正できる上限の目安で、どんな傷でも直るわけではありません。
数にするという選択が、コピーも傷も強くした。この考え方は、音や写真のほかにも広がっています。
アナログ記録は、機器・ケーブルの雑音や帯域の制約から、コピーの世代を重ねるごとに劣化する(世代劣化)。デジタル記録は、機器が正常なら元と同じ数列を再生でき、実質的に世代劣化がない[9]。ただし、MP3などの不可逆圧縮を繰り返す再エンコードでは、劣化が累積する[9]。「デジタルは絶対に劣化しない」ではなく、「複製による劣化がない」と読むべきだ。
CDの誤り訂正はCIRC(Cross-Interleaved Reed–Solomon coding)で、ソニーが提供した方式とされる。一定の条件では、ディスク上で約4000ビット(約2.5mm)続くバースト誤りまで訂正できると説明される[10]。数列に冗長な情報を足しておくから傷から戻せるのであり、これは訂正可能な上限で、あらゆる傷が直るという意味ではない。標本化・量子化とは別の層の工夫が、デジタルの強みを支えている。
7. スマホの 写真を、ぐーんと 大きく してみよう
7. スマホの写真を拡大して、画素を探してみよう
7. 出口 ── 画素を目で見る観察と、資料の読みどころ
おうちの 人に ことわって、スマホで とった 写真を 1まい ひらきます。スマホが なければ、新聞の 写真を むしめがねで 見ても 同じです。ゆびで、ぐーんと 大きく して いきます。
ある ところで、なめらかな 色が、四角い マス目に 見えて きます。この 1つ1つが「がそ」です。となりの マスと、色が どう ちがうか 見て みましょう。
画面を 見るときは、目を ちかづけすぎず、ときどき 休みましょう。
スマホで撮った写真を1枚開き、指で拡大していきます。ある大きさから、なめらかに見えた色が、四角いマス目に分かれて見えてきます。これが画素です。
すぐ隣のマス同士で、色がどれくらいちがうかを見比べてみてください。見えるのはマスの並びと色の違いまでです。色が数で表される仕組みは、この記事や下の資料で確かめてください。スマホがなければ、印刷した写真や新聞の写真を虫めがねで見てもかまいません。目を画面に近づけすぎないこと、長時間見続けないことは守ってください。
もっと読みたくなったら、名古屋市科学館のデジタル画像の資料[8]や、日本語で書かれた標本化定理の解説[4]を開いてみてください。
スマホの写真を最大近くまで拡大すると、なめらかに見えた色の変化が、四角い画素の集まりとして見えてくる。観察できるのは画素の並びと隣り合う色の違いまでで、色が段階の数で表される仕組みは本稿や資料で確かめる。スマホがなければ、印刷写真や新聞写真を虫めがねで見てもよい。画面を近づけすぎない、長時間見続けない、といった安全面に注意する。
資料を読むなら、画素と色数は名古屋市科学館の資料[8]、定理の来歴は日本語解説[4]と、英語で書かれたFerreira & Higgins(2011)[3]が手がかりになる。ここで見た「数にする」考え方が、MP3のような圧縮では何を捨てて何を残すのかは、さらに調べる価値のある問いだ。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
出典について:大学・科学館の資料、論文、百科事典、解説記事を使った。何に使ったかは、それぞれの項目の最後に書いている。
- Pulse-code modulation(Wikipedia)。https://en.wikipedia.org/wiki/Pulse-code_modulation (標本化と量子化、PCMの着想の歴史について。二次資料)
- Nyquist–Shannon sampling theorem(Wikipedia)。https://en.wikipedia.org/wiki/Nyquist%E2%80%93Shannon_sampling_theorem (標本化定理とエイリアシングについて。二次資料)
- Ferreira, P. J. S. G. & Higgins, J. R. (2011) Interpolation and Sampling: Whittaker, Ogura and Their Followers, Journal of Fourier Analysis and Applications。https://sweet.ua.pt/pjf/PDF/Ferreira2011h.pdf (標本化定理の歴史と小倉金之助について。英語の論文)
- 標本化定理(Wikipedia日本語版)。https://ja.wikipedia.org/wiki/標本化定理 (定理の歴史とCDの44.1kHzの例について。二次資料)
- 宮崎大学 講義資料「情報とコミュニケーション」(2005年度)。https://www.cc.miyazaki-u.ac.jp/date333cs/lectures/2005ics/handout/ics050704handout.pdf (CDの標本化周波数・ビット数、可聴域について)
- Compact Disc(Wikipedia)。https://en.wikipedia.org/wiki/Compact_Disc (CDの開発と発売、収録時間について。二次資料)
- PC Watch 解説記事。https://pc.watch.impress.co.jp/docs/2004/1001/config020.htm (CDの16ビットをめぐる議論について。二次資料)
- 名古屋市科学館「デジタル画像」展示解説。https://www.ncsm.city.nagoya.jp/exhibit_files/pdf/S431.pdf (画素と色数について)
- Generation loss(Wikipedia)。https://en.wikipedia.org/wiki/Generation_loss (コピーによる劣化について。二次資料)
- Reed–Solomon error correction(Wikipedia)。https://en.wikipedia.org/wiki/Reed%E2%80%93Solomon_error_correction (CDの誤り訂正について。二次資料)
なおした ところ
更新履歴
更新履歴(改版の記録)
- 初版を公開。
このサイトでは、公開した記事の本文は原則として書き直しません。誤りが見つかったときや、内容が古くなったときだけ手を入れ、その理由をこの欄に残します。