1. ちゃいろは、なにが かわった もの?
1. 茶色の正体は、果肉の成分が変わったもの
1. 褐変の原因 ── ポリフェノール類の酸化
ちゃいろく なった ところは、りんごの なかに もともと あった せいぶんが、かわった ものだと いわれて います[1]。その せいぶんの なまえは、ポリフェノールです。
ポリフェノールが、くうきの なかの さんそと くっついて かわると、ちゃいろい いろに なります[1]。てつが さびて あかちゃける ときと、すこし にて います。ただ、ほんとうは ちがう しくみで、りんごでは、あとで でて くる 「こうそ」も はたらきます。
もともと入っていた成分が変わる
農研機構の発表では、りんごの果肉が茶色くなる原因は「果肉中のポリフェノール成分の酸化」とされています[2]。外から汚れがついたのではなく、果肉の中にもともとあった成分が、空気中の酸素とかかわって別のものに変わるのです。
鉄が酸素に触れて赤茶色にさびる様子に、少し似ています。ただし、りんごの場合は「酵素」という道具がかかわる点が違います。その話は次の章で出てきます。
2. きる まえは、なぜ ちゃいろく ならないの?
2. 切る前は、なぜ茶色くならないのか
2. 細胞の区画化 ── 切断が接触を起こす
きる まえの りんごは、しろくて つやが あります。おなじ ポリフェノールも、こうそも、ちゃんと はいって いるのに、いろは かわりません。
りんごの なかは、とても ちいさな へやが たくさん ならんだ ような つくりです。この へやを 「さいぼう」と いいます。ポリフェノールと こうそは、ふだん、べつの ばしょに いて、あえないと かんがえられて います。
ナイフで きったり、ぶつけたり すると、へやの しきりが こわれます。すると ふたつが であって、ちゃいろく なって いきます[1]。たとえるなら、はなれて おいて あった ふたつの ざいりょうが、まぜられた ときに はじめて うごき だす ようすです。ただ、ほんとうの りんごの なかは、もっと ふくざつです。
ふだんは「別の部屋」にいる
切る前のりんごでも、ポリフェノールも酵素も果肉の細胞の中にあります。それでも色が変わらないのは、細胞の中でこの二つが、ふだんは出会わないようになっているためと説明されます[1]。
切る、むく、ぶつける
包丁で切るだけでなく、皮をむく、ぶつけて傷をつけるなどして細胞が傷つくと(「部屋」や「仕切り」は、しくみを分かりやすくするためのたとえです)、酵素とポリフェノールが直接触れ合います。そこに酸素があると、反応が進みます[1][3]。りんごでは、クロロゲン酸などがこの反応の材料になると、総説に書かれています[3]。
切った直後は白いのに、少しして色がつくのは、反応が進む時間が必要だからです。ぶつけたところが、あとから茶色く見えるのも同じ理由だと考えられます。
3. ちゃいろく なった りんごは、たべて いいの?
3. 茶色くなったりんごは食べてよいのか
3. 褐変と食味・安全性
あおもりの りんごの たいさくを している ところの せつめいでは、ちゃいろく なる ことじたいは、あじの もんだいでは なく、みため が きに なる だけ、と かかれて います[4]。
ただし、これは 「きって しばらく おいて ちゃいろく なった」 ばあいの はなしです。なんにちも おいて いたんだり、かびが はえたり した ものは、ちがいます。においや ようすが おかしいと おもったら、おうちの 人に みて もらいましょう。
見た目の問題
青森県りんご対策協議会のサイトは、褐変は食味的には問題がなく、見た目が気になるかどうかの話だと説明しています[4]。
傷んだものは別の話
これは、切ってすぐの色の変化についての説明です。長く置いて傷んだり、カビが生えたりしたものは別なので、においや見た目がいつもと違うときは食べずに、大人に相談したほうが安心です。
4. ちゃいろく なるのを、とめる ほうほうは?
4. 「材料・道具・酸素」のどれを止めるか
4. 褐変の制御 ── 加熱・pH・酸素・基質・阻害剤
りんごが きって ちゃいろく なるのには、ポリフェノール、こうそ、さんそ、の みっつが かかわって います。だから、どれか ひとつを じゃまできれば、ちゃいろく なりにくく なります。
おうちで よく つかわれるのは、おすを まぜた みずや、レモンの しるを まぜた みずに つける ほうほうです。すっぱいと、こうその はたらきが よわく なると いわれて います[1]。ほかにも、ねつを くわえて こうそを はたらけなくする、さんそを のぞく、こうその はたらきを じゃまする くすりを くわえる、という ほうほうも あります。
しおみずに つけると いい、とも よく きき ます。ただ、その わけは ひとつの こどもむけの しりょうの せつめいで、「しおの ナトリウムが ポリフェノールの まわりを まもり、こうそを はたらきにくく する」と かかれて いる だけです[6]。
三つのうち一つを止める
りんごの褐変にはポリフェノール、酵素、酸素がかかわるので、どれか一つを止めれば茶色くなりにくくなります。ほかにも、反応をじゃまする方法があります。花王健康科学研究会の解説には、加熱して酵素の働きをなくす、pHを下げて酵素反応を抑える、酸素を除く、ポリフェノールを除く、阻害剤を加える、といった方法が挙がっています[1]。
家庭でできること
家庭では、pHを下げる方法として酢水やレモン水に浸す方法がよく使われます[1]。ラップで包んで空気を減らすのは、酸素を除く方法の仲間と考えられます。
塩水については、ナトリウムイオンがポリフェノール類の周りに壁をつくって酵素の働きを抑える、と説明する一般向けの資料があります[6]。ただ、この説明は一つの資料しか確認できていないので、「そう説明されている」という段階にとどめます。
ジュースの場合
工場では、りんごジュースを加熱殺菌すると同時にアスコルビン酸(ビタミンC)を加えて、褐変を抑えているそうです[1]。ビタミンCが効く理由は資料によって説明の仕方が違うので、ここでは「褐変を抑える目的で使われる」とだけ書きます[7]。
褐変の制御法として、加熱による酵素の失活、pHの低下による酵素反応の抑制、酸素の除去、ポリフェノールの除去、阻害剤の添加が知られる[1]。家庭の酢水・レモン水は、pHを下げる方法に当たる。工業的には、りんごジュースの加熱殺菌と同時にアスコルビン酸を添加する方法が用いられている[1]。
ビタミンCについては、近畿化学協会のQ&Aがポリフェノール酸化酵素の活性阻害として説明する[7]が、生じたキノンを還元して元に戻すという説明もあるため、作用機構の断定は避ける。塩水については、Naイオンがポリフェノール類の周囲に壁をつくり酵素の働きを抑える、との説明が一般向け資料に見られる[6]が、根拠はこの資料に限られるため、確立した機構とは書かない。
5. ちゃいろく ならない りんごは あるの?
5. 切っても茶色くならないりんご「千雪」
5. 「千雪」と褐変の遺伝的背景(2022年の発表)
あります。あおもりけんで うまれた 「千雪」という りんごは、きっても、すりおろしても、いろが かわりにくい といわれて います[5]。
ほかの りんごよりも、こうその はたらきが とても よわく、ポリフェノールも すくない ため、ちゃいろく ならないと せつめいされて います[5]。
つまり、ちゃいろく なる みっつの ざいりょうの うち、ふたつが へって いる ようすです。りんごの なかまでも、すがたが ちがう ことが わかります。
1983年の交配から生まれた品種
「千雪」は、青森県りんご試験場で1983年(昭和58年)に「金星」と「マヘ7」をかけ合わせ、育った苗の中から選ばれて育成された品種です[5]。切ってもすりおろしても果肉が変色しにくい点が特徴です。
酵素も、材料も少ない
千雪は、ほかの品種に比べてポリフェノール酸化酵素の働きがとても弱く、ポリフェノールの量も少ないため、切っても変色しないことが分かったと紹介されています[5]。第4章の「三つのうちどれを止めるか」で言えば、千雪は酵素の力と材料の量の両方が、もともと小さいことになります。
染色体の3か所
2022年1月、農研機構と青森県産業技術センターは、褐変しやすさに関わる染色体の領域が3か所あると発表しました。第5染色体の領域はポリフェノール酸化酵素の働きに、第16・第17染色体の領域はポリフェノール類の量に、それぞれ関係する領域と一致したそうです[2]。
この発表の時点で、褐変しない品種として登録されていたのは、世界で「あおり27」(千雪の登録名)と「Eden」の2品種だけでした。今も同じかどうかは、この資料からは分かりません[2]。
「千雪」(品種登録名あおり27、2008年登録)は、青森県りんご試験場で1983年(昭和58年)に「金星」と「マヘ7」を交配して得た実生から選抜・育成された[5]。他品種に比べてPPO活性がとても弱く、ポリフェノール含有量も少ないため、切断・すりおろしでも果肉が変色しにくいことが報告されている[5]。第4章の整理に当てはめれば、酵素の活性と基質の量がともに低い品種といえる。
2022年1月20日、農研機構と青森県産業技術センターは、褐変のしやすさに関わる染色体領域が第5・第16・第17染色体の3か所にあると発表した。第5染色体の領域はPPOの働きに関わる領域と、第16・第17染色体の領域はポリフェノール類含有量に関わる領域と一致していた[2]。発表時点で、褐変しない品種として登録されているのは世界で「あおり27」と「Eden」の2品種のみであり、この数が現在も同じとは限らない[2]。
褐変耐性の個体を選抜できるようになるという点が、この発表の育種上の意義として挙げられている[2]。品種ごとの褐変の速さの違いは、青森県りんご対策協議会の資料にも、千雪は褐変がなく、彩香は褐変が高いという形で書かれている[4]。
自分でも しらべて みたく なったら
自分でも調べてみたくなったら
自分でも調べてみたくなったら
きょう できること
りんごを きるのは、おうちの 人と いっしょに して ください。おなじ りんごから、おなじ くらいの あつさに うすく きって、よっつ ならべます。ひとつは なにも しない。ひとつは おすか レモンの しるを すこし まぜた みずに くぐらせる。ひとつは しおみずに くぐらせる。もう ひとつは ラップで ぴったり つつむ。
おなじ ばしょに おいて、さいしょの 1じかんは 10 ぷんごとに ながめて みましょう。どれが いちばん はやく ちゃいろく なりますか。ほんとうに じゃまが できたかは、じぶんの めで たしかめられます。
もっと しりたく なったら
おうちの 人や がっこうの 先生に、おみせで ちがう しゅるいの りんごを みつけたら、きって いろの かわりかたを くらべて みても おもしろいです。
今日できること
皮をむいた同じりんごから、同じくらいの厚さで四切れ作り、並べて比べてみましょう。切る作業は、大人と一緒にしてください。①何もしない ②酢水かレモン水にくぐらせる ③薄い塩水にくぐらせる ④ラップでぴったり包む、の四つです。
同じ場所に置き、最初の1時間は10分ごとに眺めて、色の変わり方を言葉で書き留めます。どれが一番早く茶色くなるかで、家庭の方法がどこまで効くのかを、自分の目で確かめられます。結果は、りんごの品種や切り方でも変わるので、一回の結果だけでは決めつけないようにしましょう。
もっと知りたくなったら
お店で品種の違うりんごを見つけたら、切ってから色が変わる速さを比べてみるのもよいでしょう。農研機構や青森県の公式サイトには、品種や研究の情報が載っています。
家でできる比較
切る作業は大人と一緒に行うこと。皮をむいたりんごを薄く切り、①無処理 ②酢水またはレモン水 ③薄い塩水 ④ラップで密閉、の4条件を用意する。同じ場所に置き、10分おきに1時間、色の変化を記録し、どの処理が遅らせるかを比べる。塩水の効果の説明は限られた資料に基づくため、自分の観察と資料の説明が合うかも確かめられる。品種や切ってからの時間などの条件をそろえることが、比較の前提になる。
資料を読むなら
褐変の機構は、Enzymatic browning: The role of substrates in polyphenol oxidase mediated browning(PMC、英語の総説)で詳しく扱われている。日本語では、花王健康科学研究会の「食品の褐変とその制御」と、農研機構の2022年1月20日のプレスリリースが読みやすい。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
本文の参照番号は、下のリストの番号に対応します。ビタミンC・塩水の作用は一般向け資料に基づき、断定を避けています。
- 花王健康科学研究会「食品の褐変とその制御」 https://www.kao.com/jp/healthscience/report/report066/report066_03/ (褐変の仕組み・防ぎ方・ジュースの製造)
- 農研機構プレスリリース(2022年1月20日)「りんごの褐変しやすさに関わる染色体領域」 https://www.naro.go.jp/publicity_report/press/laboratory/nifts/149533.html (褐変の原因・染色体領域・登録品種)
- Enzymatic browning: The role of substrates in polyphenol oxidase mediated browning(PMC10637886) https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10637886/ (PPOの化学・基質)
- 青森りんご公式サイト「りんごが茶色く変色するのはなぜ?」 https://www.aomori-ringo.or.jp/20220407/5625/ (食味・品種による違い)
- みんなの農業広場「切ってもすりおろしても果肉が変色しないリンゴ千雪」 https://www.jeinou.com/technology/2020/10/02/091300.html (千雪の育成と特徴)
- こどもの科学「塩水にリンゴをつけると茶色にならないのはなぜ?」 https://www.kodomonokagaku.com/read/hatena/5055/ (塩水の説明。単一の一般向け資料)
- 近畿化学協会 化学Q&A Q56 http://kinki.chemistry.or.jp/pre/a-56.html (ビタミンCの説明)
なおした ところ
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