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ここにあるのは、だれかが実際に調べ、考え、作ってきたことを集めたメモです。気になったら、ページの下の「参考にした情報源」から、もとの本や記事、それを生み出した人たちに、直接ふれてみてください。このメモには書ききれないおもしろさが、そこにあります。

ボールペンの インクは どうして たれないのに 書けるの?

ボールペンのインクはなぜ垂れないのに書けるのか ── 小さなボールと、インクの固さ

ボールペンのインクはなぜ出続け、なぜ漏れないのか ── ボールの回転と粘度 1,000〜20,000 mPa・s の設計

分野:技術

ボールペンを、ペン先を下にして ポケットに入れて おきます。それでも、インクは ぽたぽた たれません。

でも、紙に 当てて 書くと、インクは 出て きます。出ない ときと 出る ときは、どこが ちがうのでしょう。ペン先の 小さな ボールから 見て いきます。

ボールペンをペン先を下にしてポケットに入れておいても、インクはふつう垂れてきません。ところが、紙に当てて動かすと、線になって出てきます。

出ない状態と出る状態を分けているのは、ペン先の小さなボールと、インクの固さ(粘度)です。ボールの役目、インクの3つの種類、そして書けなくなる理由の順に見ていきます。

ボールペンは、ペン先を下に向けてポケットに入れても垂れず、紙に当てて動かすと途切れずに線になる。この両立を支えているのは、1mmに満たないボールの回転と、インクの粘度の設計だ[1][2][3]。

ボールの役目、油性・水性・ゲルの粘度の設計思想、ばね式の栓、書けなくなる原因を、メーカーの資料と学会誌の解説から順に整理する。

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1. ペン先の ボールは、なにを して いるの?

1. 線を引いているのは、回転するボール

1. ペン先の構造 ── 回転するボールがインクを紙へ運ぶ

ペン先を よく 見ると、先に 小さな 玉が ついて います。この 玉が「ボール」です。1ミリより 小さい ものです[2]。

書く とき、ボールは 紙に ふれて、ころころ 回ります。回った ボールに インクが つき、その インクが 紙に うつります[1]。

ボールが 回らないと、インクは 紙に 行きません。ボールペンの インクは、ボールが 回って はじめて 出るのです。

ボールペンのペン先は、薄い金属のパイプの先に、微細なボールを取りつけた形をしています。ボールの大きさは1mmに満たず、なめらかに回り続けるように、精密に作られるそうです[2]。

書くとき、ボールは紙にふれて転がります。回転するボールにインクがつき、それが紙に写って線になります[1]。

つまり、ペン先から液がしぼり出されているのではありません。ボールが回ることが、インクを紙へ運ぶ動きそのものです。

ペン先は、薄い金属パイプの先端に、1mmに満たないボールを組みつけた構造をしている。ボールが滑らかに回転を続けるには高い加工精度が必要で、精密に作られる[2]。

筆記の原理は、ボールの回転にある。ペン先のボールが回ると、ボールに付いたインクが紙に転写される[1]。ペン先からインクを押し出す仕組みではなく、ボールが運搬役になっている点が、次章以降の話の出発点になる。

2. 「こすぎて ながれない」から 生まれた ペン

2. 新聞のインクは、万年筆には濃すぎた

2. ビーローの着想 ── 速乾インクと、それを流せないペン先(1938年の英国特許)

ボールペンを 考えた 人の 1人に、ビーローという 人が います。

ビーローは、新聞の インクが すぐに かわいて、にじまない ことに 気づいた、と いわれて います[4]。そこで、この インクを 万年筆に 入れようと しました。

でも、新聞の インクは こすぎて、万年筆の ペン先を ながれませんでした。そこで、先に 自由に 回る ボールを つけた ペン先を 考えた、と いわれます。インクは、弟で 化学に くわしい 人と 作りました[4]。

ボールペンの考案者として知られるビーロー・ラースローは、新聞の印刷に使うインクが、すぐに乾いてにじまないことに気づいたと伝えられています[4]。

そこで万年筆に入れようとしましたが、印刷用のインクは濃すぎて、ペン先を流れませんでした。流れないのなら、流さずに運べばよい、ということでしょうか。彼は、受け座の中で自由に回るボールをもつペン先を考えました。インクは、化学者だった弟のジョルジュの協力で作られたそうです[4]。

イギリスでの特許は1938年です[4]。ただし、開発の年を1943年としている資料もあり、どの出来事を数えるかで年が分かれます[5]。

ボールペンの考案者の一人とされるビーロー・ラースローは、新聞印刷用のインクが速乾でにじまない点に着目した。しかしそのインクは、万年筆のペン先を流れないほど粘度が高かった。そこで彼は、ソケット内で自由に回転するボールを備えたペン先を考案し、化学者の弟ジョルジュの協力でインクを開発した、と伝えられている[4]。

年は資料で分かれる。英国特許は1938年(アルゼンチンでは1943年)とされ[4]、三菱鉛筆のFAQは1943年の開発と書く[5]。特許・開発・発売のどの時点を数えるかで、答えが変わる。動機の部分は伝記的な情報なので、複数の資料で確かめたい。

ここで押さえたいのは、「濃いインクを流そうとして流れなかった」ことが、「流さずにボールで運ぶ」設計の出発点になったという流れだ。

3. インクの 「こさ」は、どれくらい ちがうの?

3. 油性は水性の50倍から1000倍の粘度

3. 粘度の設計 ── 油性 1,000〜20,000 mPa・s、水性 20 mPa・s 以下

インクの ドロドロの ぐあいを「ねばりけ」と いい、むずかしい 言葉では「ねんど」(粘度ねんど)と いいます[3]。あぶらの インクは とても ドロドロで、みずの インクは サラサラです。

あぶらの インクの ドロドロは、みずの インクの、少なくとも 50ばいくらいです。ペンの しゅるいに よっては、もっと ちがいが 大きい ことも あります[3]。

ドロドロだと、ペン先から たれにくく、ペンの 中に そのまま 入れられます。かわりに、出る ぶんは 少なく、線が うすく なる ことも あります[3]。

サラサラだと、紙に つけば すっと 出ますが、にじんだり、ぶつけた ときに もれたり しやすく なります[3]。

あぶらの インクは、ボールが 回って 紙に うつった ぶんだけ、ペン先へ 来ます。みずの インクは、ペンの 中では 細い すきまを つたって ペン先へ 来ます。そして 紙に ふれると、紙の 中の 細い すきまが インクを すいこむ 力も はたらきます[3]。

インクの流れにくさは「粘度」で表します。単位はmPa・s(ミリパスカル秒)です。日本セルロース学会誌の解説によると、油性ボールペンのインクは粘度が1,000〜20,000 mPa・s、水性は20 mPa・s以下に調整されています[3]。

水性を20とすると、油性は1000÷20=50倍から、20000÷20=1000倍にあたります。ただし水性の値は「20以下」なので、実際の差は製品によって幅があります。

粘度が高い油性は、ペン先から漏れにくく、樹脂のチューブにそのまま入れられる簡単な構造ですみます。その反対に、出る量が少なく、ボールの回転が不安定になったり、線が薄くなったりしやすい面があります[3]。

低粘度の水性は、にじみやすく、衝撃や温度の上昇で漏れやすい性質があります[3]。

インクの届け方も違います。油性は、ボールが回って転写された分だけ、インクがペン先へ供給されます。水性は、ペン先と紙が接すれば毛細管現象でインクが供給されます[3]。

インクの粘度は、J-STAGEの解説(三菱鉛筆の研究者ら)によれば、油性ボールペン用が1,000〜20,000 mPa・s、水性が20 mPa・s以下に調整されている[3]。比は下限どうしで1000÷20=50倍、上限で20000÷20=1000倍だが、水性は「20以下」なので、実際の比は製品ごとに幅がある。

この差がそのまま設計の差になる。高粘度の油性は、ペン先から漏れにくく、樹脂チューブにインクを直接収められるため構造が簡素で済む。反面、供給量が少なく、ボール回転の不安定化や線の薄れが起きやすい。低粘度の水性はにじみやすく、衝撃や温度上昇で漏れやすい[3]。

供給の仕組みも異なる。油性は、ボールの回転で転写された分だけインクがペン先に供給される。水性は、ペン先と紙が接すれば毛細管現象でインクが供給される[3]。「ボールが回るから出る」は油性の説明であり、水性には毛細管現象が加わる、と分けて考える必要がある。

4. おいて おくと かたく、書くと ゆるむ インク

4. 力が加わると、ゆるむ ── ゲルインクとばねの栓

4. ゲルインクのチクソトロピー性(1984年発売)と、ばね式の栓

「ゲルインク」という ペンが あります。水の インクに、ドロドロに する ものを まぜて あります[3]。

この インクは、ふしぎな ことを します。書かない ときは、かたくて、たれません。書く ときは、ボールが 回る 力で ゆるんで、すべる ように 書けます。書いた あとは また かたく なって、にじみにくく なります[3]。

ゲルインクの ペンは、日本で 1984ねんに 売り出されました[5]。

ペンに よっては、ボールの うしろに ばねが あります。書かない ときは、ばねが ボールを おして、ペン先の すきまを ふさぎます。書く ときは、ばねが ちぢんで、すきまから インクが ながれます[1]。

ゲルインクは、水性インクに増粘剤を加えたものです。力が加わると粘度が下がる、チクソトロピー性という性質をもたせています[3]。

書いていないときは粘度が高いので、漏れにくい状態です。書くときは、ボールの回転する力で粘度が下がり、水性のようになめらかに書けます。書いたあとは粘度が上がって、にじみにくくなります[3]。

この性質は、色の粒が底にたまるのを抑える働きもあると説明されています[3]。ゲルインクは、日本で1984年に発売されました[5]。開発の年は資料により1982年(特許)とも1984年(発売)ともされるので、ここでは発売年で書いています。

インクの固さとは別に、ペン先の形にも工夫があります。シグノやジェットストリームなど一部のペンは、ボールの背面のばねが常にボールを押し、書かないときはペン先の隙間をふさいでインクの揮発を防ぎます。書くとばねが縮み、隙間からインクが流れます[1]。

ゲルインクは、水性インクに増粘剤を加え、力が加わると粘度が下がるチクソトロピー性を持たせたインクだ。静止時は高粘度で漏れにくく、筆記中はボールの回転力で粘度が下がって滑らかに書け、筆記後は粘度が戻ってにじみにくい[3]。この静止時の高粘度は、顔料など比重の大きい微粒子の沈降を抑える効果も持つ[3]。

日本で1984年に発売された[5]。開発年は資料で1982年(特許)と1984年(発売)に分かれるため、発売年として書く。

インク側の工夫とは別に、ペン先側にも仕組みがある。シグノ、ジェットストリームなど一部のペンは、ボール背面のばねが常にボールを押し、非筆記時はペン先の隙間を塞いでインクの揮発を防ぐ。筆記時はボールが押されてばねが縮み、隙間からインクが流れる[1]。

整理すると、漏れを防ぐ手段は、インク自体の粘度(油性・ゲル)、ばねによる物理的な封(一部のペン)の二つの系統がある。

5. インクが 出なく なるのは、どんな とき?

5. 書けなくなる3つの場面 ── 上向き・空気・回らないボール

5. 筆記不能の原因 ── 重力、混入した空気、ボールの回転停止

ボールペンを 上に 向けて 書くと、書けなく なる ことが あります。ペン先を 下に した ふつうの 向きなら、インクは 重力で ペン先の ほうへ 下がります。でも、ペン先を 水平より 上に すると、インクが ボールに つかなく なる ことが あります[1]。

ペンの 中に 空気が 入っても、ペン先と インクが はなれて、書けなく なります[1]。

もう 1つは、ボールが 回らない とき です。ボールが 回らないと、インクは 出ません。ペン先に きずが ある、紙の けが ボールの うらを ふさぐ、つるつるの 紙で ボールが すべる、書く 力が 弱い、などの 理由が あります[1]。

上を 向いても 書ける ペンも あります。ペンの 中の インクを おして、ペン先に 空気が 入らない ように して います[1]。

書けなくなるのは、大きく3つの場面です。

1つ目は、ペン先を水平より上に向けたときです。インクは重力でペン先へ向かいます。ペン先を下にした通常の向きなら問題ありませんが、水平より上に向けると、インクがボールに付かなくなります[1]。

2つ目は、ペンの中に空気が入ったときです。ペン先とインクが離れてしまい、ボールにインクが届きません[1]。

3つ目は、ボールが回らなくなったときです。ボールが回らないと、インクが出ません。原因として、ペン先の傷、紙の繊維がボールの裏の通り道を詰まらせること、つるつるの紙でボールが滑ること、筆圧が弱かったり紙が薄かったりして、ボールと紙の触れる面積が少ないことが挙げられています[1]。

三菱鉛筆のパワータンクは、上向きに書いても空気を巻き込まないよう、インクに圧力をかけていると紹介されています[1]。

三菱鉛筆の資料は、書けなくなる場面を整理している[1]。

第一に重力。インクは重力でペン先へ向かうので通常の向き(ペン先が下)では供給されるが、ペン先を水平より上に向けるとインクがボールに付かなくなる。第二に空気。ペン内に空気が入ると、ペン先とインクが離れて筆記できなくなる。

第三にボールの回転停止。ボールが回らなければ転写が起きず、インクは出ない。原因として、ペン先の傷、紙の繊維がボール裏の流路を詰まらせること、平滑な紙面でボールが滑ること、筆圧が弱い・紙が薄いなどでボールと紙の接触面積が小さいことが挙げられている。

対策として、パワータンクは、上向きに書いてもペン先が空気を巻き込まないよう、インクに圧力をかけている(同社の紹介)[1]。前章までの粘度の話と合わせると、重力・空気・回転という物理的な条件が、インクを出すか止めるかを決めていることになる。

6. 自分の ペンで、たしかめて みよう

6. 自分のペンで確かめる

6. 出口 ── 自分のペンと資料で確かめる

おうちの 人と いっしょに、ボールペンを 1本 用意します。紙を 手に 持って、上の ほうに かざし、ペン先を 上に 向けて 書いて みます。どこまで 書けて、いつ 書けなく なるでしょうか。

つぎに、ペン先を 下に 向けて、また 書いて みます。書けたら、ボールが 回る ところを 見て みましょう。

ペンが 何本か あるなら、ちがう ペンで くらべても いいですが、1本だけでも できます。ただし、書く ときは 紙の 上だけに しましょう。かべや ゆかには 書きません。

家にあるボールペンを1本用意すれば、次の2つを試せます(何本かあれば比べても楽しめます)。

1つ目は、紙を手に持って上にかざし、ペン先を上に向けて書くことです。何センチ書けるか、すぐに書けなくなるかを見ます。ペンによって差が出るかもしれません。

2つ目は、紙の種類を変えて書くことです。コピー用紙と、コート紙のチラシ(つるつるした紙)で、書きやすさは変わるでしょうか。書けないとき、ボールは回っているでしょうか。

もっと知りたいときは、三菱鉛筆の「お役立ち情報《ボールペン編》」と「ボールペンを科学する」が読みやすい資料です[1][2]。

手持ちのボールペンで、本記事の主張を一部確かめられる。ペン先を水平より上に向けて書き、書けなくなる角度と長さを調べる。紙を変え(コピー用紙と、コート紙のチラシなど)、書きやすさの差と、ボールの回転の有無を見る。油性・水性・ゲルの複数のペンで比べれば、粘度の設計の差が線の濃さや乾き方に出るかも観察できる。

資料としては、三菱鉛筆の「お役立ち情報《ボールペン編》」[1]と「ボールペンを科学する」[2]が、構造と原因を図つきで説明している。粘度の数値は、日本セルロース学会誌の解説[3]で確認できる。

この記事で扱わなかった点として、後端のゲル状の栓(インク追従体)や、ボールを支える座の寸法がある。これらは今回の資料では確認できなかったため書いていない。

しらべた もとの じょうほう

参考にした情報源

参考にした情報源と、その使い方

出典について:三菱鉛筆の公開資料、学会誌の解説、発明家殿堂の紹介ページを使った。何に使ったかは、それぞれの項目の最後に書いている。

  1. 三菱鉛筆「お役立ち情報《ボールペン編》」(2025年改版)。 https://www.mpuni.co.jp/customer/pdf/Ball%20Point%20Pen.pdf (ボールの回転と転写、書けなくなる原因、ばねの栓、パワータンクについて)
  2. 三菱鉛筆「ボールペンを科学する」。 https://www.mpuni.co.jp/jinji/unisci/pen/index.html (ペン先の構造とボールの大きさ、加工精度について)
  3. 日本セルロース学会誌『セルロースナノファイバーを紐解く』ボールペンの種類と特徴(J-STAGE)。 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsk/81/0/81_31/_pdf/-char/ja (油性・水性・ゲルの粘度と供給の仕組み、長所と短所について)
  4. National Inventors Hall of Fame「László Bíró」。 https://www.invent.org/inductees/laszlo-josef-biro (ビーローの着想と、特許の年について)
  5. 三菱鉛筆「よくあるご質問(歴史)」。 https://www.mpuni.co.jp/customer/ans_20.html (ゲルインクの発売年と、ボールペン開発の年について)

なおした ところ

更新履歴

更新履歴(改版の記録)

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