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ここに書いてあることは、誰かが実際に手を動かして調べ、考え、作り上げてきたものを拾い集めています。専門の本や論文、作品、そしてそれを生み出した人たち。気になったことがあれば、ぜひそのおおもとに直接ふれてみてください。このメモには書ききれない熱を、感じてもらえると思います。

エンジンの あぶらは、なにから できるの?

エンジンオイルは何からできているのか ── 原油から基油、添加剤まで

エンジンオイルの作り方 ── 原油から基油、粘度指数、添加剤まで

分野:技術

1883年、イギリスの技師ぎしタワーさんは、機械きかいの まわる ぼうを ささえる ぶひんに、あぶらを さす ほうほうを しらべて いました。あなに きの ふたを しても、あぶらが ふたを おしだして しまった、と つたえられて います。

あぶらは、ただ ぬれて いた だけなのでしょうか。エンジンの あぶらは、なにから、どうやって つくるのでしょう。げんゆから じゅんばんに たどります。

1883年、イギリスの技師ビーチャム・タワーは、鉄道の車軸を支える部品(軸受)に、いちばんよい油のさし方を調べていました。軸受に開けた穴から油があふれ、木の栓をしても押し出された、と伝えられています[2]。

油は、ただ金属をぬらしていただけなのでしょうか。エンジンオイルも、同じ仕事をしています。この油は、何から、どうやってつくられるのでしょうか。原油から基油、添加剤まで、資料を突き合わせてたどります。

1883年、英国機械学会の委員会に頼まれた技師ビーチャム・タワーは、鉄道の車軸を受ける軸受への給油法を調べていた。軸受に開けた穴から油があふれ、木の栓をしても押し出された、と伝えられる[2]。

油は金属の表面をぬらしていただけなのか。現代のエンジンオイルも、同じ仕事を受け持つ。その油を、原油からどうつくるのか。減圧蒸留、溶剤による精製、粘度指数、添加剤までを、公的機関・業界・NASAの資料を突き合わせてたどる。

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1. あぶらの しごとは、なに?

1. 油の仕事は、金属と金属を「膜」で離すこと

1. 1883年のタワーの実験 ── 油は金属を隔てる膜だった

きかいの なかでは、金属きんぞくと 金属きんぞくが こすれあって います。なにも なければ、すぐに すりへって しまいます。そこで あぶらを さします。

ぬれた ゆかで くつが つるっと すべる とき、くつと ゆかの あいだには、みずの うすい まくが できて います。あぶらも、うすい まくを つくって、金属きんぞくどうしを はなして います。ただし ほんとうは、くつの みずは ころぶ もとです。あぶらの まくは、すりへらない ための ものです。

ふたが おしだされた、と つたえられる あなを しらべると、なかには とても おおきな ちからが かかって いました。あぶらの まくが、ちからを うけとめて いたのです。

この まくが うすく なりすぎても、ぶあつく なりすぎても、こまります。まくの ようすを きめるのは、あぶらの「粘ねばり」です。

タワーは、英国機械学会の委員会に頼まれて、給油の方法を調べていました[2]。穴に栓をしても油が栓を押し出すので、軸受の中に圧力計をつなぐと、そこには高い圧力ができていました。NASAの資料は、油の膜があることが、この圧力の測定から見つかったと書いています[1]。

油は、金属の表面をぬらしているだけではありませんでした。金属と金属のあいだに薄い膜をつくり、間に入って重さを支えていたのです。ぬれた床で靴がすべるとき、靴と床のあいだに水の薄い膜があるのと似ています。ただし本当は、水の膜は転ぶ原因で、油の膜は金属がすり減らないようにするためのものです。

3年後の1886年、オズボーン・レイノルズが、タワーの実験を理論で説明する論文を出しました[1]。

NASAの資料によると、面と面が膜で完全に離れているときは、接触のようすを油の物性、なかでも粘度が決めます。ここで油の粘りの出番になります[1]。

タワーは、英国機械学会の委員会に頼まれ、鉄道の車軸受に給油する最善の方法を調べていた。軸受に開けた1/2インチ(約1.3cm)の穴から油があふれ、木の栓をしても押し出された、という逸話が伝わる[2]。圧力計をつなぐと、軸受の内側には高い圧力ができていた。NASAの資料(Hamrock & Dowson, 1983)は、油の膜の存在が、圧力の測定から検出されたと記す[1]。

1886年、オズボーン・レイノルズが、この実験を理論で説明した論文を出した。題名は「潤滑の理論と、タワー氏の実験へのその応用(オリーブ油の粘度の実験的決定を含む)」で、粘度を実験で決めた油はオリーブ油だった[1]。石油系のエンジンオイルの話ではないが、膜を理論で扱う出発点になった。

同じ資料によれば、面と面が完全に膜で隔てられる流体潤滑では、接触の振る舞いを潤滑油の物性、とくに粘度が決める。もっと薄い膜しかできない境界潤滑では、膜の物理的・化学的な性質が決め、粘度はあまり効かない[1]。粘りが効く場面と効かない場面がある、ということだ。

ENEOSの石油便覧は、潤滑油を、こすれ合う二つの固体の間で摩擦や摩耗を減らすために使う、油を主成分とする液体の潤滑剤を指すとしている。資料はこれを、機械にとって欠かせないものとして扱っている[3]。膜をつくる油の粘りは、どう決まるのか。まず、その油は何からとれるのかを見る。

2. エンジンの あぶらは、げんゆの どのくらい?

2. 原油からは、ほんの少ししかとれない

2. 1バレルの約0.9% ── 潤滑油は原油のごく一部

アメリカの しらべです。げんゆを バケツ 100ぱい ぶん あつめて、いろいろな ものに わけます。きかいに つかう あぶらは、ぜんぶ あわせても、バケツ 1ぱい ぶんに すこし たりません。

おなじ げんゆから、ガソリンは 50ばい くらい とれます。エンジンの あぶらの もとは、とても すくない のです。

どうして すくないのでしょう。つぎの 3ばんめと 4ばんめの おはなしで、とりだしかたを 見ます。

アメリカのエネルギー情報局(EIA)によると、2023年の平均で、42ガロン(約159L)の原油1バレルから得られる潤滑油は0.38ガロンでした。ガソリンは19.57ガロンです[4]。潤滑油はガソリンの約50分の1、原油の約0.9%で、およそ100分の1になります。

この数字には、エンジンオイルだけでなく、グリースや工場の機械の油も入っています。アメリカの製油所の数字なので、日本のものではありません。

日本では、潤滑油は2022年度に約217万kL売られ、そのうちエンジン油は約58万kL、全体の約27%でした[3]。

原油から出発して、これほど少ないのはなぜでしょうか。エンジンオイルの材料は、原油の中の「重い部分」だけです。それをどう取り出すのかを見ます。

米国EIAによれば、2023年の米国の製油所の平均で、42ガロンの原油1バレルから得られる潤滑油は0.38ガロン、ガソリンは19.57ガロンだった[4]。潤滑油の割合は、0.38÷42で約0.9%(約110分の1)。ガソリンは潤滑油の約51倍になる(19.57÷0.38≒51.5)。

注意が要る数字だ。米国のデータであり、日本の製油所の割合ではない。「潤滑油」にはグリースや工業用の油も含まれ、エンジンオイルだけの数字でもない。分母を製品の合計(約44.65ガロン)にすると約0.85%になるので、割合は分母の取り方でも動く[4]。

日本の潤滑油の年間販売量は2022年度で約217万kL。そのうちエンジン油は約58万kL(約27%)で、ガソリンエンジン油が17%、ディーゼルエンジン油が10%だった[3]。

この少なさは、原油の全部が潤滑油に向くわけではないことと、向く部分の中でも使えない成分が多いことから来る。前者は3章、後者は4章で見る。

3. あつくしすぎると、こげて しまう

3. 空気を減らして、低い温度で蒸発させる

3. 減圧蒸留 ── 熱分解せずに、重い留分を分ける

げんゆを あつくして、かるい ものから じゅんに わけます。ガソリンなどが とれた あとにも、おもい ぶぶんが のこります。ここに、あぶらの もとが まだ はいって います。

でも、そのまま もっと あつくすると、こげて こわれて しまいます。

そこで、くうきを ぬいて、きあつを ひくく します。ひくい きあつでは、ひくい おんどでも、ぐつぐつ わきやすく なります。こげない おんどで、おもい ぶぶんを わけられます。

この やりかたを、「減圧げんあつ蒸留じょうりゅう」と いいます。

原油を熱して軽いものから順に分ける常圧蒸留については、プラスチックの作り方のメモで見ました。潤滑油の材料は、その残りにあります。ふつうの圧力で蒸留したあとの残り(常圧残油)には、潤滑油の原料になる重い部分がまだ入っています。

ただし、この残りをふつうの圧力のままもっと熱すると、油そのものが壊れてしまいます[5]。そこで、蒸留塔の中を真空に近い低い圧力にします。圧力を下げると、沸点が下がります。高い山の上で、水が100℃より低い温度で沸くのと同じ理由です。

こうして壊れない温度で、重い部分をいくつかの潤滑油の留分に分けます[6]。ここまでが、材料集めです。

常圧蒸留の残油(常圧残油)には、潤滑油の原料になる高沸点の留分がまだ含まれている。ただし、その温度域までさらに熱すると残油が熱分解し、実用的でない。そこで塔内を減圧して沸点を下げ、熱分解の起こらない温度で分別する。これが減圧蒸留で、塔内圧は水銀柱で10〜60mmほどとされる(大気圧は約760mm)[5]。常圧蒸留はプラスチックの作り方のメモで扱ったので、ここは、その残りをさらに減圧で分ける段階から始める。

ENEOSの石油便覧では、潤滑油基油の製造は次の流れになる。常圧残油を減圧蒸留で数種の潤滑油留分に分け、減圧残油からはアスファルト分を溶剤脱れきで分ける。そのあと、溶剤抽出、水素化仕上げ、脱ろうを経て、調合に進む[6]。次の章で、この「あと」の工程を見る。

4. まず、いらない ぶぶんを すてる

4. 悪い性質の成分を取り除く

4. 溶剤抽出と脱ろう ── 足す前に捨てる、収率は3〜5割強

わけた おもい あぶらの なかには、わるい せいしつの ものが まざって います。エンジンの あぶらに するには、これを とりのぞきます。

ひとつは、おんどで ねばりが かわりやすい ぶぶんです。もうひとつは、ろうそくの ロウの なかまで、さむいと かたまる ぶぶんです。ロウの なかまは、ひやして かたまらせて とりのぞきます。

きれいに して いくと、のこるのは、もとの 3わりから 5わりちょっと ぐらいです。すてる ぶぶんの ほうが おおいのです。

分けた重い油には、エンジンの中で困る成分が混ざっています。そのため、まず取り除きます。

溶剤で洗うように抽出して、温度による粘りの変わり方が大きい成分や、酸化しやすい成分を除きます。次に、油を冷やして、冷えると固まるロウの成分を結晶にして、物理的に分けます。最後に水素を使って、色や硫黄分などを整えます[6][7]。

ロウの成分は、ろうそくのロウと同じ仲間のパラフィンです。プラスチックの作り方のメモでは材料の側でしたが、ここでは取り除く側です。

それぞれの工程で残る割合(収率)は、溶剤抽出が50〜70%、脱ろうが70〜80%、水素化仕上げが90〜95%とされています[7]。これを自分で掛け合わせると、およそ3割から5割強しか残らない計算になります。良いものを足す前に、悪い性質のものをたくさん捨てて、基油ができます。

JXTG Technical Review(2017)によれば、溶剤抽出では、粘度と温度の関係が悪い芳香族分、酸化しやすい多環芳香族、硫黄分、窒素分などを取り除く。代表的な溶剤はフルフラールだ。脱ろうでは、融点の高いノルマルパラフィンを低温で結晶化させ、物理的に分離して、低温での流れやすさを高める。溶剤はMEK-トルエン混合溶剤が代表的である。最後に、残った極性成分を水素化仕上げで除く[7]。工程の順は、脱ろうと仕上げが逆になる場合もある。

取り除くのは、汚れというより、温度で粘りが大きく変わる成分と、冷えて固まる成分だ。ノルマルパラフィンは、ろうそくのロウの成分と同じ直鎖状の炭化水素で、プラスチックの作り方のメモで見た材料の側とは反対に、ここでは除く側に回る。

溶剤精製法では不要な成分を捨てるため、原料からの基油の収率は低い。目安は、溶剤抽出で50〜70%、溶剤脱ろうで70〜80%、水素化仕上げで90〜95%だ[7]。3つを掛け合わせると、0.5×0.7×0.9≒0.32から、0.7×0.8×0.95≒0.53まで開く。基油として残るのは、留分のおよそ3割から5割強になる。これは論文が合計を述べたものではなく、自分の掛け算による概算だ。各段階の収率は、原料の性状や基油の粘度グレードでも変わる[7]。

5. さむい あさも、あつい はしりも

5. 温度で変わる粘りを、どう測るか

5. 粘度指数とSAEの数字 ── 温度で変わり過ぎない油の物差し

エンジンの あぶらは、さむい ふゆの あさに、うごきだします。そのあと、はしって、とても あつく なります。

あぶらの ねばりは、おんどで かわります。さむいと かたく なり、あつくなると うすく なります。かたすぎると、うごかしにくいです。うすすぎると、まくが うすく なって しまいます。

そこで 1929年に、おんどで どれだけ かわるかを あらわす ものさしが つくられました。「粘度ねんど指数しすう」と いいます。かわりにくい ほど、かずが おおきく なります。

油は、冷えると固くなり、熱くなると薄くなります。冬の始動のときは、固い油が動きにくくて、燃費が悪くなることが知られています。夏の高温では、油の膜が薄くなって、すり減りやすくなります[8]。エンジンオイルは、この両方を避けなければなりません。

この変わり方を1つの数字で表そうと、1929年に、アメリカのスタンダード石油開発会社の2人(ディーンとデイビス)が提案したのが、粘度指数です。ペンシルベニア産の原油からとった油を100、メキシコ湾岸産の原油からとった油を0として、温度による粘りの変わりにくさを比べます[10]。原油の産地によって、温度で粘りが変わる度合いがちがっていた、ということです。

今の油の粘りの等級は、SAE(米国自動車技術者協会)が決めています。規格の一例では、0Wは−35℃での粘りの上限が決まっていて、20は100℃での粘りの範囲が決まっています[9]。Wは冬(winter)です。粘りのメモで見た0W-20のように、数字が2つあるのは、寒いときと熱いときの両方で決まりがあるからです。1つの油で、どう両方を満たすのでしょうか。

問題は両端にある。冬の始動時には粘性抵抗が大きく、燃費が悪くなる。夏の高温時には、油膜が薄くなって摩耗が増える。粘りは、寒いときと熱いときで違いが出る[8]。

SAEが自動車エンジン用の軽質潤滑油の最初の公式規格(Specification No.26)を出したのは、1911年6月だという[9]。粘りの等級づけは、それほど昔からの課題だった。

温度変化を1つの数字にしたのが粘度指数(VI)だ。1929年、スタンダード石油開発会社(ニュージャージー)のDeanとDavisが提案した。ペンシルベニア産原油から分けた留分(H系列)を100、メキシコ湾岸産原油から分けた留分(L系列)を0として、温度による粘度変化のしにくさを比べる[10]。数値は、100が上限ではない。計算は、40℃と100℃の動粘度を基準油と比べて行う(ASTM D2270)。

二次資料(Wikipedia)に載るSAE J300の一例では、0Wの冷間クランキング粘度が−35℃で最大6,200mPa·s、ポンピング粘度が−40℃で最大60,000mPa·s。非冬季グレード20は、100℃の動粘度が6.9以上9.3未満mm²/sだ[9]。Wはwinterで、0Wは「粘度0」ではなく低温性能の等級。規格は改訂される。粘りのメモで0W-20の意味は見たので、ここでは、なぜ2つの数字が要るのかに進む。

6. かわりにくくする ふたつの みち

6. 粘りを保つ、2つの道

6. 基油を磨くか、ほどける鎖を足すか ── 粘度指数を上げる2つの道

ひとつめの みちは、もとの あぶらを、もっと きれいに する ことです。きれいに した あぶらほど、おんどで かわりにくく なります。

ふたつめの みちは、ながい ひもの ような つぶを、すこし くわえる ことです。さむい ときは、ひもが まるまって います。あたたかく なると、ひもが のびて ひろがり、あぶらが うすく なりすぎるのを ふせぎます。ただし ほんとうは、ひもが じぶんで うごくのでは ありません。あたたかい ほど あぶらに とけやすく なって、ひろがる、と せつめいされます。

この つぶを くわえた あぶらが、さむい あさにも、あつい ひにも つかえる あぶらの もとです。

1つめの道は、基油そのものをよくすることです。溶剤で精製した基油(グループI)の粘度指数は、95〜100前後です。もっと精製した基油や、分子の形を作りかえた基油ほど、温度による粘りの変わり方が小さくなります。3段階(ふつう・よりきれい・分子から作りかえ)に分かれ、いちばん上の段の例では、粘度指数は125前後になります[7]。

この、いちばん上の段の基油は、石油からできているのに「合成油」と呼ばれることがあります。1999年に、アメリカの広告審査機関がそういう表示に合理的な根拠があるとした、と業界誌が伝えています[11]。「合成」という言葉の意味は、国や時代でずれることがあるようです。

2つめの道 ── 糸のようにほどける添加剤

もう1つの道は、粘度指数向上剤という添加剤です。長いひものような分子(高分子)が、油に混ざっています。寒いとひもは丸まり、熱くなるとほどけて広がります。広がったひもは、油の流れにくさを増やし、熱で薄くなり過ぎるのを抑えます[12]。ただし本当は、ひもが自分で動くのではなく、高温では油に溶けやすくなって、鎖が伸びるのだと説明されています[8]。

この添加剤のおかげで、基油の粘度指数が低くても、熱いときの粘りの落ち込みを小さくできます[12]。寒いときは丸まっているので、固くなり過ぎにくくなります。

基油の側の道。APIは基油をグループIからVに分ける。I〜IIIが鉱油系で、Iは溶剤精製、IIは水素化精製、IIIは水素化分解由来だ。IIIまで進むほど、酸化安定性や粘度温度特性が向上する[7]。粘度指数の目安は、溶剤精製のグループIで日本が100前後、海外が95前後。1960年代に市場へ出たグループIIでも100前後。グループIIIの一例(100℃動粘度4mm²/s)は125前後だ[7]。ただしグループの区切りは、表記が資料でわずかにずれる(VIの下限は80〜119とも80〜120とも書かれる)。

グループIIIは、石油由来でも分子構造を作り替えるため、「合成油」と呼ばれることがある。業界誌(Lubes'N'Greases、2014)は、1999年3月に米国の広告審査機関NADが、水素化異性化した石油系基油をカストロール社が「合成」と表示することに合理的な根拠があるとした、と伝える。これで世界に広がったとされる[11]。裁判ではなく広告の自主審査の判断で、国によって「合成」の定義は異なる。

添加剤の側の道

もう1つが、粘度指数向上剤(VII)だ。丸まった状態で油に浮かぶポリマーが、油温が高くなるとほどけ、基油との相互作用で粘度を上げる。基油の粘度指数が低くても、高温での粘度低下を抑えられる[12]。三洋化成の解説では、高温ではポリマーの溶解性が上がり、分子鎖が伸びて広がる。低温では溶解性が下がって糸まり状になる。冬の始動時の燃費悪化と、夏の高温時の油膜の薄化による摩耗の両方を抑える方向に働く[8]。代表例は、OCP(エチレン・プロピレン共重合体)とPMA(ポリメタクリル酸エステル)である。

設計には折り合いがある。分子量を小さくすればせん断安定性は上がるが、粘度指数は低くなる[8]。長い鎖は、強い力でこすられると切れやすい、という話と読める。

この添加剤が、寒い側と熱い側の両方にまたがるマルチグレード油を可能にした。マルチグレード油は、1950年代ごろに最初の製品が出たといわれる(企業ブログ1件による)[13]。

7. まぜて、しあげる

7. 混ぜて、添加剤を足して仕上げる

7. 調合と添加剤 ── 清浄分散剤、偶然見つかったZDDP

できた あぶらの もとを、かたい あぶらと やわらかい あぶらに わけて、ちょうど いい わりあいで まぜます。これで ねばりが きまります。

そこに、はたらきものの ざいりょうを すこし くわえます。くるまの あぶらは、ほとんどが もとの あぶらで、くすりは 100の うち 5から 25くらい、と いわれます。

くすりの ひとつは、ちいさな よごれが くっついて おおきく ならないように、ばらばらの まま ういて いられるように します。もうひとつ、むかし、さびどめの つもりで いれたら、すりへりも へる ことが わかった くすりが あります。

基油は、粘りのちがう油を決まった割合でタンクに入れて混ぜ、目的の粘りに合わせます。基油は約40℃に温めておき、混ぜる時間は30分から2時間ほどです。添加剤が入る高級品は、添加剤を計って、基油で薄めてから調合タンクに入れます[14]。

自動車用の潤滑油には、添加剤が5〜25%入ります。ほとんどは基油ですが、油だけではありません[3]。

清浄分散剤は、エンジンの中で熱のせいで必ず出る小さなスラッジ(汚れの固まり)が、集まって大きな粒にならないよう、油の中に散らしておきます[16]。

摩耗防止剤のZDDP(ジアルキルジチオリン酸亜鉛)は、1940年代にほぼ偶然に見つかりました。もともとは錆止めとして入れられ、あとから摩耗を減らす働きがわかったのです。金属の表面で分解して、薄くて固い膜(トライボフィルム)をつくります。70年以上使われているのに、どう働くかは2015年の研究までよく分かっていませんでした[17]。

粘度の異なる基油を、計算した割合で調合タンクにポンプで送り、撹拌して均一にする(タンクブレンド)。基油は約40℃に温め、撹拌は30分〜2時間ほど。添加剤入りの高級品は、添加剤を計量して基油で薄めてから移す。オートブレンダ方式では、40〜50℃に温めた基油と添加剤を自動混合機に送る[14]。原油からこの粘度の油がそのまま出てくるのではなく、混ぜて合わせている。

自動車用の潤滑油には5〜25%の添加剤が配合され、工業用は5%以下だ[3]。エンジンオイル用の目安(業界サイトの一例)は、清浄分散剤2〜10%、酸化防止剤0.1〜1%、粘度指数向上剤2〜20%、流動点降下剤0.05〜0.5%、消泡剤1〜1,000ppm(0.0001〜0.1%)だ[15]。これらは油の種類で大きく変わる幅であり、標準値ではない。

清浄分散剤は、清浄剤(金属面の汚れをとり、酸性物質を中和する)と分散剤(スラッジなどを油の中に散らして、固まらせない)の組み合わせだ。エンジンでは熱で小さなスラッジが必ず出るので、それが集まって大きな粒にならないよう保つ[16]。洗い流すだけではなく、集まらせないことが仕事の大きな部分になる。

摩耗防止剤ZDDPは、1940年代にほぼ偶然に見つかった。もともとは錆止めとして入れられ、後に摩耗を減らす働きがあると分かった。表面で分解してトライボフィルムをつくる。70年以上使われているのに、働き方は2015年の研究(Science誌、ペンシルベニア大学とExxonMobil)までよく分かっていなかった[17]。1章で見たとおり、ごく薄い膜しかできない境界潤滑では、粘度より膜の性質が効く。ZDDPが表面につくる薄くて固い膜は、この境界潤滑の場面で働く添加剤として説明されることが多い。

8. かんの すうじを 見て みよう

8. 缶の数字を見てから、資料へ

8. 缶の表示と資料 ── 数字の由来と、使い終わった油の行方

おうちの 人と いっしょに、おうちに ある くるまや バイクの あぶらの 缶かんや、カタログの ひょうじを 見て みましょう。「0W-20」のように、2つの 数が 書いて あります。この 2つの わけは、5ばんめの おはなしに あります。

見る だけに します。あけたり、さわって ためしたり しません。どれを つかうかは、くるまの せつめいしょや、おみせの 人が きめる ことです。

家にある車・バイクの缶や、カタログで、エンジンオイルの表示を、おうちの人と見てみましょう。0W-20のように、数字が2つ並んでいます。意味は粘りのメモにあります。見るだけにして、缶を開けたり、中身を触ったりはしません。どれを使うかは、車の説明書や、お店の人の案内で決まります。

資料を読むなら、NASAの「Lubrication Background」[1]は、油膜の考え方がまとまっています。

もうひとつの疑問は、使い終わった油がどこへ行くのかです。ENEOSの石油便覧によれば、日本では2019年度に、廃潤滑油が約60万kL回収されました。そのうち約53万kLは、再生重油という燃料として、もう一度使われたと推定されています[3]。

缶やカタログの表示を、資料と照らし合わせる。0W-20のように2つ並ぶ数字は、5章の低温側の規格と100℃側の動粘度の範囲に対応する(意味は粘りのメモ)[9]。見るだけにして、缶を開けたり、中身を触ったりはしない。どの油を選ぶかは、車の説明書と販売店の案内に従うことで、このメモでは扱わない。

原典に当たるなら、NASAのHamrock & Dowson「Lubrication Background」(1983)[1]に、流体潤滑・境界潤滑の区別と、タワーからレイノルズまでの流れがある。JXTG Technical Reviewの基油の論文[7]には、工程ごとの収率とグループの定義の表が載る。ENEOSの石油便覧[6][3]は、製造工程と用途の全体を見せてくれる。

使い終わった油の行方も、調べる価値がある。日本では2019年度に廃潤滑油が約60万kL回収され、約53万kLが再生重油という燃料として使われたと推定される(エンジンオイルに戻る、という意味ではない)[3]。

しらべた もとの じょうほう

参考にした情報源

参考にした情報源と、その使い方

このメモは、下にあげた公開情報をもとに書いています。文章や図を無断で転載してはいません。もっと正確に知りたいときは、必ず下の出典にあたってください。リンク先の内容や、リンク先で起きたことについて、当サイトは責任を負いません。

  1. Hamrock, B. J. and Dowson, D., NASA TM-81692 “Lubrication Background” (1983). https://ntrs.nasa.gov/api/citations/19830011888/downloads/19830011888.pdf (圧力の測定から油膜の存在が検出されたこと、レイノルズ1886年の論文、流体潤滑と境界潤滑)
  2. ASME Journal of Tribology “A Brief History of the Theory of Hydrodynamic Lubrication”(タワー1883年の実験の解説)。 https://asmedigitalcollection.asme.org/tribology/article-pdf/109/1/18/5818605/2_1.pdf (タワーの依頼の経緯と、栓が押し出された逸話)
  3. ENEOS 石油便覧 第2編第2章第1節「潤滑油 総説」。 https://www.eneos.co.jp/binran/part02/chapter02/section01.html (潤滑油の定義、日本の販売量、添加剤の割合、廃潤滑油の回収量)
  4. U.S. EIA “Refining crude oil - inputs and outputs”. https://www.eia.gov/energyexplained/oil-and-petroleum-products/refining-crude-oil-inputs-and-outputs.php (米国の製油所で、原油1バレルから得られる製品の量。2023年のデータ)
  5. JOGMEC 石油・天然ガス用語辞典「減圧蒸留」。 https://journal.jogmec.go.jp/oilgas/termsearch/list/kikuke/reduced-distillation.html (減圧蒸留の目的と、塔内圧の目安)
  6. ENEOS 石油便覧 第1編第2章第3節「石油製品の製造工程」。 https://www.eneos.co.jp/binran/part01/chapter02/section03.html (潤滑油基油の製造の流れ)
  7. 田川一生「潤滑油基油の品質と世界動向」、JXTG Technical Review 59(3), 2017. https://www.eneos.co.jp/company/rd/technical_review/pdf/vol59_no03_08.pdf (溶剤抽出・脱ろうの目的、収率、基油のグループと粘度指数)
  8. 三洋化成 SANYO CHEMICAL MAGAZINE「省燃費型エンジンオイル用粘度指数向上剤」。 https://www.sanyo-chemical.co.jp/magazine/archives/1488 (冬の始動時と夏の高温時の問題、高分子の広がりと糸まり状、分子量とせん断安定性の折り合い)
  9. Wikipedia “SAE J300”. https://en.wikipedia.org/wiki/SAE_J300 (1911年の最初の規格、0Wと20の数値の一例。Wikipediaという二次資料で、規格本体は確認していない)
  10. Zakarian, J. “Proposals to Improve the Viscosity Index Method, ASTM D2270”, STLE Annual Meeting 2019. STLE 2019 講演資料(PDF) (1929年の粘度指数の提案と、基準の油)
  11. Swedberg, “Automotive”, Lubes'N'Greases, 2014. https://www.lubesngreases.com/magazine/20_4/automotive-49/ (1999年の「合成油」表示の判断)
  12. シェル ルブリカンツ・ジャパン「潤滑油に使われる添加剤~粘度指数向上剤~」。 https://shell-lubes.co.jp/lubes-grease/lubricants-grease-guide/lg-guide-basics/324/ (粘度指数向上剤のしくみ)
  13. TDX Ltd “What is multi-grade oil?”. https://www.tdxltd.co.nz/blog/multi-grade-oil (マルチグレード油の登場の時期)
  14. ジュンツウネット21「潤滑油のブレンド方法」。 https://www.juntsu.co.jp/qa/qa0103.php (タンクブレンドとオートブレンダの手順)
  15. ジュンツウネット21「潤滑油添加剤の種類・用途」。 https://www.juntsu.co.jp/tenkazai/t_kaisetsu.php (添加剤の種類と配合量の目安)
  16. シェル ルブリカンツ・ジャパン「潤滑油に使われる添加剤~清浄分散剤~」。 https://shell-lubes.co.jp/lubes-grease/lubes-technology/tech-additive/240/ (清浄剤と分散剤のはたらき)
  17. Phys.org (2015) “Long-standing mysteries of anti-wear motor oil additive”(Science誌の研究の紹介)。 https://phys.org/news/2015-03-long-standing-mysteries-anti-wear-motor-oil.html (ZDDPが1940年代に見つかった経緯と、2015年の研究)

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