1. カフェインを ぬいても、苦いの?
1. デカフェも苦い ── カフェインは主役ではない
1. カフェインの寄与は1〜2割 ── 2007年の推定
カフェインは、ねむけを さます はたらきで 知られて います。だから 苦さの もとも カフェインだと 思いがちです。
でも、カフェインを とりのぞいた コーヒーも、ふつうの コーヒーと にた 苦さが あると 発表されました[2]。カフェインで 苦い 味が うまれる 分は、ぜんぶの 1〜2わり ほどだと いわれます[1]。
では、のこりの 苦さは どこから 来るのでしょうか。
2. 苦い 味の もとは、いつ できるの?
2. 苦味のもとは、焙煎で生まれる
2. 生豆に乏しく焙煎で生じる ── クロロゲン酸の変化
コーヒーの 豆は、火を とおす 前は 緑色に 近く、「生豆」と よばれます。この ままでは 飲む コーヒーの 味には なりません。
豆を 火で いる ことを、焙煎と いいます。生豆には「クロロゲンさん」という ものが たくさん 入って いますが、焙煎すると へって いきます[4]。
へった 分は、べつの ものに かわります。その 中に、強い 苦さを もつ ものが あります。おもちが やけると こげて 味が かわるのと、すこし にて います。ただし 豆の 中で 起きる ことは、もちよりずっと ふくざつです。
生豆には、クロロゲン酸類という成分が多く含まれています。焙煎するとこれが減り[4]、減った分は別の物質に変わります。2007年の発表は、焙煎こそが苦味を生む最大の要因で、焙煎を強くするほど刺激が強くなりやすいと述べました[2]。
苦味の主役として挙げられたのは、クロロゲン酸ラクトン類とフェニルインダン類という2つの成分グループです[2]。どちらも焙煎した豆の中にあるもので、生豆にもともとあったものではない、という点がおもしろいところです。
パンを焼くと、焼き色がつく前とは別の香りと味になります。豆の中でも、熱で成分が組み変わる変化が起きます。ただし、パンとコーヒーで起きる反応が同じというわけではありません。
3. あさい いりかたと ふかい いりかたで、苦さが ちがう?
3. 浅煎りと深煎りでは、苦味の質がちがう
3. 煎り具合と成分の対応 ── ラクトン類とフェニルインダン類
豆の いり方が あさい ものを「あさいり」、ふかい ものを「ふかいり」と よびます。ふかいりは 色が こく、ほとんど 黒に 見えます。
2007年の 発表では、あさいりから 中くらいまでの 苦さは クロロゲンさんラクトンの なかまが 主な もとだと されました[2]。ふかいりでは、あとを ひく 強い 苦さの もとが ふえる と いわれます[2]。
ひとくちに 苦いと いっても、いり方で 苦さの ようすが かわるのです。
4. カフェインは、いり方で かわるの?
4. カフェインは焙煎してもあまり変わらない
4. 焙煎とカフェイン量 ── 成分ごとに運命が異なる
クロロゲンさんは 焙煎で へり、べつの ものに かわりました。では カフェインは どうでしょうか。
UCCの ページでは、カフェインが どれだけ 入って いるかは、いり方に あまり かんけいしない と されて います[3]。あさいりでも ふかいりでも、カフェインの りょうは 大きく かわらないと されて います。
「にがい コーヒーは カフェインが 多い」とは いえません。
クロロゲン酸類が焙煎で減って別の物質に変わる一方、カフェインは焙煎してもあまり変わりません。UCCの解説によると、焙煎度でカフェイン量は大きく変わらないとされています[3]。
だから「深煎りは苦いからカフェインが多い」とも「少ない」とも、この資料からは言えません。苦味の強さとカフェインの量は、別々の話です。
5. 舌は、どうやって 苦さを 感じるの?
5. 舌の「苦味受容体」が反応する
5. ヒトの苦味受容体 ── TAS2R43/46と2020年の報告
舌には、味を 感じとる 小さな しくみが あります。苦さを 感じとる ものは「苦味受容体」と いいます。人には 二十いくつか あります[7]。
2020年、ドイツの 研究チームが、コーヒーの 苦さに 主に はたらく 苦味受容体を しらべました。25この うち、おもに 2つ(TAS2R43と TAS2R46)が 反応しました[5]。
この 2つは、カフェインよりも、焙煎で できる ものに ずっと よく 反応すると 発表されました[6]。かぎが かぎあなに はまる ように、ものの 形と しくみが 合うと、スイッチが 入ると 考えられて います。
舌の苦味受容体は、苦味成分がくっつくとスイッチが入る、鍵穴のようなしくみです。ヒトには二十数種類あり、TAS2R43はコーヒーの複数の苦味成分を感じ分ける受容体の1つです[7]。
2020年、ライプニッツ食品システム生物学研究所とミュンヘン工科大学の研究が、アラビカ種のモザンビオシドとその焙煎生成物ベンガレンソールが、25種の苦味受容体のうち主にTAS2R43とTAS2R46に反応することを示しました[5]。
同じ論文は、この2つの受容体がカフェインよりもコーヒー特有の成分にずっと敏感だと報告しています[6]。同じ反応を得るのに、カフェインはずっと多く必要だということです。
2020年、ライプニッツ食品システム生物学研究所とミュンヘン工科大学は、アラビカ種のモザンビオシドとその焙煎生成物ベンガレンソールが、ヒトの苦味受容体25種のうち主にTAS2R43とTAS2R46に反応することを報告した[5](J. Agric. Food Chem. 68(24))。
同論文は、これらの受容体がカフェインよりも、モザンビオシド、ベンガレンソール、カフェストール、カフェオールにはるかに敏感に反応するとされる[6]。カフェインで同じ反応を得るのに必要な濃度が桁違いに高いという数字も出回るが、原文の数字は未確認のため、ここでは「ずっと多く必要」にとどめる。
ヒトの苦味受容体の総数は資料により25または26種とされるため、本文では「二十数種」とした[7]。
6. 苦さを 感じる しくみは、見えたの?
6. 2026年、受容体が苦い分子をつかむ姿が見えた
6. TAS2R43の立体構造 ── 2026年、クライオ電子顕微鏡による報告
2026年5月、アメリカの 大学の 研究チームが、TAS2R43が 苦い 分子を つかんで いる ところの 形を、とても 小さな ものを 大きく 見せる きかいで しらべて 発表しました[7]。
つかまれて いたのは、カフェインや、コーヒーの 苦さの もとに なる 分子でした。かぎと かぎあなの 話が、形として 見えた のです。
コーヒーの 苦さの ひみつは、まだ ぜんぶは わかっていません。これからも 新しい 発見が あるかも しれません。
2026年5月、アメリカのノースカロライナ大学(UNC)の研究チームが、クライオ電子顕微鏡という装置で、TAS2R43が苦い分子を結合した状態の構造を明らかにしたと発表しました。論文はNature Structural & Molecular Biologyに掲載されました[7]。
結合していたのは、カフェインやモザンビオシドなどです。鍵と鍵穴にたとえられていた話が、分子の形として観察されたことになります。
7. 苦さを もっと 知りたく なったら
7. 自分でも調べてみたくなったら
7. 出口 ── 豆の色を見る/原典を読む
おうちの 人と いっしょに、コーヒーの おみせや スーパーに 行って みましょう。あさいりと ふかいりの 豆が あったら、色を くらべて みます。ふかいりの ほうが 黒くて、てかてかして いるでしょうか。
もし ふくろに「あさいり」「ふかいり」と 書いて あれば、その ちがいも 見て みます。コーヒーを のむかは おうちの 人と 相談して、見るだけでも だいじょうぶです。
コーヒー豆を売っている店やスーパーで、浅煎りと深煎りの豆を見比べてみてください。色の濃さや、表面のつやのちがいがあるでしょうか。袋に焙煎度が書いてあれば、その言葉と豆の様子を対応させてみます。
飲むかどうかは、家の人と相談して決めてください。見るだけでも、焙煎で豆が変わることが伝わります。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
出典について:2007年・2020年の発表を紹介した記事、2020年の論文ページ、2026年の大学の発表、日本の企業2社の解説を使った。原著論文は本文の執筆時に確認できておらず、発表・報道・企業解説を通して読んだ内容である。
- ScienceDaily「Coffee's bitterness」(米国化学会の発表をもとにした記事, 2007)。https://www.sciencedaily.com/releases/2007/08/070821143629.htm (カフェインが占める苦味の割合について)
- EurekAlert!(米国化学会 2007年のニュースリリース)。https://www.eurekalert.org/news-releases/877914 (苦味成分と焙煎の関係について)
- UCC上島珈琲「コーヒーはなぜ苦いのか?」。https://www.ucc.co.jp/enjoy/brew/goodcofee_knowledge_12.html (焙煎度と苦味成分、カフェイン量について)
- 花王「コーヒー機能性成分の探求」。https://www.kao.com/jp/nutrition/about-cga/cga01/ (クロロゲン酸類が焙煎で減ることについて)
- ScienceDaily(2020, Journal of Agricultural and Food Chemistry 68(24) の紹介)。https://www.sciencedaily.com/releases/2020/06/200617121445.htm (苦味受容体TAS2R43/46の応答について)
- Lang et al., J. Agric. Food Chem. 2020, 68, 6692–6700。https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acs.jafc.0c01373 (受容体の感度について。要旨は確認、数値の原文は未確認)
- UNC Health Newsroom(2026年5月)。https://news.unchealthcare.org/2026/05/unc-scientists-reveal-molecular-details-that-make-coffee-taste-bitter/ (TAS2R43の構造と苦味受容体の数について)
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