1. わたげは、なにで できて いるの?
1. 綿毛の正体は、約100本の毛と、ごく軽い種
1. 冠毛と種子 ── 約100本の毛と、約0.6 mgの散布単位
わたげと よばれて いる ところは、ほんとうは かんもうと いう 名前です。かんもうは、たねの ねもとに ついて います[1]。
かんもうが ついた たねは、1つで 0.6ミリグラムほどです。1円玉の おもさの、1600ぶんの 1くらい。ほとんど おもさが ありません[2]。
かんもうは、およそ 100本の 細い 毛で できて います[2]。
2. すきまが あるのに、空気を うける?
2. スカスカのほうが、空気を強く受ける
2. 抗力 ── 詰まった円盤の4倍以上とされる値
すきまが たくさん あれば、空気は そのまま ぬけて いきそうです。すると、おちる とき ふわっと ささえて くれそうも ありません。
ところが、しらべた 人たちは、同じ 大きさの ぴったりした 円ばんと くらべました。かんもうの ほうが、空気から うける 力が 4ばい いじょう 大きかった と ほうこくされて います[3]。
空気を うける 力が 大きいほど、ゆっくり おちます。すきまが あるほうが とぶのに ぐあいが いい、という ふしぎな はなしです。
詰まった円盤との比べ合い
穴のあいていない円盤なら、空気は正面からぶつかって、横へ逃げるしかありません。すき間だらけの冠毛のほうが、空気の力を受けにくいように思えます。
2018年、エディンバラ大学などの研究チームがNature誌に報告した結果は、その逆でした。冠毛は、同じ面積のぴったり詰まった円盤より、4倍以上の抗力(空気から受ける力)を生むというのです[3]。抗力が大きいほど落ちる速さは小さくなるので、飛ぶのに有利です。
この「4倍以上」は、論文の要約や報道で確かめた数字です。有料の本文までは読んでいないので、「報告されている」という強さで書きます。
3. うしろに うかぶ 空気の わ
3. 綿毛の後ろに浮かぶ「分離渦輪」
3. 分離渦輪 ── 冠毛の後ろにできる、安定した空気の輪
2018ねんに、ふしぎな ことが わかりました。かんもうの うしろに、空気で できた わが うかぶ のです。
この わは、かんもうから すこし はなれた ところで、くるくる まわりながら とどまります[3]。すきまを ぬけた 空気が つくると いわれます[4]。
水の 中で スプーンを すっと ひくと できる 小さな うずに 少し にて います。ただし ほんとうは、空気の わは、たんぽぽが おちる かぎり 同じ ばしょに ついて いく とされます。
すき間を通った空気が作る輪
研究チームは、冠毛の後ろに「分離渦輪」という空気の渦の輪ができることを見つけました。冠毛から離れた位置に、くるくる回る空気のかたまりが浮かび、飛んでいる間、ほぼ一定の距離を保ちます[3]。
論文の要旨によると、この輪は、冠毛のすき間を空気が通り抜けることでできます。円盤の形と、すき間の割合(多孔度)が鍵で、同じ多孔度の人工の円盤でも、同じ流れが再現されました[4]。冠毛のすき間の大きさは、輪を安定させながら、空気から受ける力を大きくし、材料は少なくするように、ちょうどよく調整されているように見える、とも書かれています[4]。
国内の研究室の説明
宇都宮大学の流体工学研究室も、冠毛の後ろに渦輪ができ、この渦輪でタンポポが長い距離を飛べていると考えられている、と説明しています[5]。
Nature 562(2018)の報告では、冠毛の後流に、冠毛から離れて安定に存在する再循環流の輪、分離渦輪が見つかった[3]。論文要旨によると、この輪は冠毛のすき間を通り抜ける流れが原因でできる。円盤の形と多孔度が要点で、同じ多孔度の人工円盤でも同様の流れが再現された[4]。
要旨は、冠毛の多孔度が、渦を安定させつつ空力的な負荷を最大に、材料を最小にするように精密に調整されているように見える、と述べる。渦輪によって冠毛は安定した姿勢を保ち、落下速度が小さくなるため、上昇気流を活かして飛べる[4]。
国内では、宇都宮大学の流体工学研究室が、冠毛の後流にできる渦輪によって長距離飛行をしていると考えられる、と紹介している[5]。所属や著者の細部、レイノルズ数などの数値は論文本文で確かめていないため、ここでは触れない。
4. あめの 日は、わたげが とじる
4. 湿ると閉じて、飛び出しにくくなる冠毛
4. 湿度応答 ── 冠毛が閉じ、落下速度が2〜3倍になる
あめの 日に とんでも、とおくへ いけません。じつは、しめった とき、かんもうは とじて しまう ことが あります[2]。
とじると、空気を うける 力が 小さく なります。すると、おちる はやさが 2ばいから 3ばいに なった と いう じっけんが あります[2]。
しめった 日は、たねが おやの 花から はなれにくく なる ことも わかりました[2]。とばない 日を えらんで いるように 見えます。
湿度で開き具合が変わる
2022年のeLife誌の研究では、湿度が高いと、花の組織が半径方向にふくらんで、冠毛が閉じることが示されました。閉じると空気から受ける力の係数が下がり、落ちる速度は上がります[2]。
ミストで1時間ぬらすと、冠毛の開き角は約100〜150度小さくなり、落下速度は2〜3倍になりました[2]。ぬれた種は、親の花から離れにくくもなりました。試した風速の範囲で、離れる数が有意に減ったといいます[2]。
計算で見えた効果
飛び立つときだけ冠毛が閉じている条件でモデル計算をすると、散布距離の中央値は4.3 mから6.6 mに伸びました。約1.5倍です。ただしこれは計算の結果で、実際のタンポポの飛距離ではありません[2]。
5. とおくへ いく ときは、なにが たすける?
5. 遠くへ運ぶのは、横風より上昇気流
5. 長距離散布 ── 上昇気流の役割と、伝えられる距離
わたげが 空に のぼる とき、たすけて くれる のは、下から 上へ ふく 風です。じょうしょう気りゅうと よばれます[6]。
よこから ふく 強い 風は、たねを 花から はなす きっかけに なります。でも、とおくまで はこぶ 力は、上へ ふく 風の ほうが 大切だと かんがえられて います[6]。
とんだ あと、おやの たんぽぽから 1キロメートル いじょう はなれる ことも ある と いわれます。ただし、これは 科学ブログの 話で、たしかな 数では ありません[7]。
飛び出しと、遠くへ行く力は別
1990年代からの散布の研究をまとめた論文の要旨は、強い水平の風は種が離れるきっかけとして、対流による上昇気流は長距離の飛行にとって、それぞれ大切だろうと述べます[6]。
渦輪でゆっくり落ちる冠毛は、上昇気流に乗ったままでいられます[4]。空気の輪が、飛行を長く続けさせるための土台のようになっているわけです。
どれくらい飛ぶのか
飛んだ種が、親の株から1 km以上離れることもあるという説明が、科学ブログにあります[7]。ただし、これは二次資料で、原典の数値は確かめていません。「とされる」くらいの強さで受け取るのが安全です。
Tackenbergらの散布研究の要旨は、高い水平風速による離脱は散布の開始に、対流性の上昇気流は長距離飛行に重要と考えられる、とする。論文ページは取得できず、検索結果の要旨で確かめた範囲である[6]。
渦輪により冠毛の姿勢と落下速度が安定するので、上昇気流を活かせる[4]。距離については、科学ブログが「親株から1 km以上」と述べ、あわせてシミュレーションで0.05%超が100 m超に散布された、という値を挙げる。0.05%は約2000粒に1粒(1÷0.0005=2000)にあたる[7]。
いずれも二次資料の記述で、原論文の値ではない。日本の在来種の冠毛や散布距離の一次資料は見つからず、ここまではセイヨウタンポポ中心の研究で、在来種で同じかどうかは分かっていない。
6. わたげを 見つけたら やって みよう
6. 落ちる速さを、目で比べてみる
6. 出口 ── 落下を観察する方法と、原典の読みどころ
たんぽぽの わたげを 見つけたら、たねが ついて いる ほうを 上に もって、風の ない 部屋で 手を はなして みましょう。ゆっくり おちる 様子が 見られます。
ティッシュを 小さく まるめて 用意して、わたげと 同じ 高さから おとして みましょう。わたげの ほうが ゆっくり 見えたら、すきまの おかげかも しれません。
ぬれた わたげを おとす のは やめて おきましょう。しめった 日の わたげが とじる ことを、考えるだけで だいじょうぶです。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
出典について:日本植物生理学会のQ&A、eLife誌の論文(PMC)、Nature論文の要旨と報道、大学の研究室の解説、科学ブログを使った。何に使ったかは、それぞれの項目の最後に書いている。
- 日本植物生理学会 みんなのひろば Q&A。https://jspp.org/hiroba/q_and_a/detail.html?id=4706 (綿毛の専門の呼び名と、種子との位置関係について)
- Environmental morphing enables informed dispersal of the dandelion diaspore. eLife (2022). https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9797189/ (冠毛の本数、種の質量、湿度で閉じる実験、散布モデルについて)
- Nature Asia ハイライト(2018年のNature論文の要約)。https://www.natureasia.com/ja-jp/nature/pr-highlights/12734 (分離渦輪の発見と、4倍以上の抗力について。二次資料)
- A separated vortex ring underlies the flight of the dandelion. Nature 562 (2018), 論文要旨(Oxford ORA)。https://ora.ox.ac.uk/objects/uuid:471cf032-5f4c-4f87-b5d0-3bd7c7fc64b3 (渦輪ができる仕組みと、多孔度の調整について。要旨のみ)
- 宇都宮大学 流体工学研究室「タンポポ」。https://www.mech.utsunomiya-u.ac.jp/fel/tanpopo.html (国内研究室による渦輪の説明について)
- Tackenberg et al. (2003) Plant Biology の要旨。https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1055/s-2003-44789 (上昇気流と長距離散布について。要旨のみ)
- awkward botany「The Flight of the Dandelion」。https://awkwardbotany.com/2019/06/19/the-flight-of-the-dandelion/ (すき間の割合と、飛距離の目安について。二次資料)
なおした ところ
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