1. 星が、はやすぎた
1. 星が、速すぎた
1. 回転曲線が予想と合わない
まず、まわる ものの 話から。
太陽の まわりを、たくさんの わく星が まわって います。 太陽に 近い わく星は 速く まわり、 遠い わく星は ゆっくり まわります。
これは、まん中の 太陽が 引っぱって いるからです。 遠く なるほど 引っぱる 力が よわく なるので、 ゆっくりで つりあいます。
さて、星が たくさん あつまった 銀河でも、 同じ ことが おきる はずです。 外がわの 星ほど、ゆっくり まわる はず。
ところが、じっさいに はかって みると、 外がわの 星も 速く まわって いたのです。
おかしいですね。 そんなに 速く まわったら、 星は 外へ とんで いって しまう はずです。
でも、とんで いって いません。 何かが、引きとめて いる のです。
まず、回るものの話から始めます。
太陽系では、太陽に近い惑星ほど速く回り、遠い惑星ほどゆっくり回ります。 水星は88日で一周しますが、海王星は165年かかります。
理由は簡単で、中心の太陽から離れるほど、引っぱる力が弱くなるからです。 弱い力でつなぎとめられる速さは、ゆっくりでなければなりません。 速すぎると、外へ飛び出してしまいます。
銀河でも同じはずだった
わたしたちの天の川銀河のような渦巻銀河は、 何千億もの星が集まった、渦を巻いた円盤です。 星の多くは中心近くに集まっています。 ということは、太陽系と同じで、外側の星ほどゆっくり回っているはずです。
ところが、実際に測ってみると、そうではありませんでした。
銀河の外側の星も、内側とほとんど変わらない速さで回っていたのです。
これは、かなり困ったことです。 見えている星やガスの重さだけでは、そんなに速く回る星をつなぎとめておけません。 計算どおりなら、外側の星は遠心力で銀河から飛び出していってしまいます。
でも、飛び出していません。銀河はちゃんと形を保っています。 ということは、見えていない何かが、引きとめていることになります。
出発点は、重力でつながれた系の回転速度です。
太陽系のように、質量が中心に集中している系では、 ケプラーの法則にしたがって、中心から遠い天体ほど公転速度が遅くなります。 距離を r とすると、公転速度は おおよそ 1/√r に比例して落ちていきます。
渦巻銀河でも、光っている物質(星やガス)の分布は中心に集中しています。 したがって、円盤の外側では回転速度が落ちていくはずでした。 横軸に中心からの距離、縦軸に回転速度を取ったグラフを 回転曲線といいます。予想される形は、外側で下がっていく曲線です。
観測された形
しかし実際に測られた回転曲線は、外側でほとんど下がりませんでした。 フラットな回転曲線です。
これが意味することは、はっきりしています。 外側の星がその速度で軌道を保つには、 その半径の内側に、見えている以上の質量が必要だということです。
可能性は、大きく2つあります。
- 光を出さない物質が、大量にある
- 重力の法則そのものが、大きなスケールでは違う形をしている
この記事では主に1の道をたどりますが、2を追う研究も続いています(第5章)。
2. 40年 早すぎた 人
2. 40年早すぎた指摘
2. ツビッキー1933 ── 早すぎた指摘
じつは、この ことに 気づいた 人は もっと 前に いました。
1933年、ツビッキーと いう 人が、 たくさんの ぎんがが あつまった ところを しらべて いて、 「ぎんがの 動きが 速すぎる」と 気づいたのです。
そして、目に 見えない ものが たくさん ある はずだ、と 考えました。
ところが、そのころは だれも まじめに 聞いて くれませんでした。
正しい ことを 言っても、 すぐには みとめられない ことが あります。 この 考えが みんなに みとめられるまで、 40年 ちかくかかりました。
じつは、この問題に気づいた人は、もっと前にいました。
1933年、フリッツ・ツビッキーという天文学者が、 「かみのけ座銀河団」という、たくさんの銀河が集まった場所を調べていました。
そこで彼は、銀河たちの動きが速すぎることに気づきます。 見えている光の量から見積もった重さでは、 この速さで動く銀河たちをまとめておけない。 放っておけば、銀河団はバラバラに散ってしまうはずでした。
そこで彼は、目に見えない物質があるのだと考え、 ドイツ語で「dunkle Materie(暗黒物質)」と呼びました。
それでも、広まらなかった
この指摘は、当時ほとんど注目されませんでした。 観測に使う距離の目安にまだ不確かさがあったこと、 ひとつの銀河団だけの話だったこと、 そして何より、あまりにも突飛な主張だったことが理由だと言われます。
この考えが本気で受け入れられるまでには、40年近くかかります。 そのきっかけを作ったのが、次の章の人です。
科学では、正しい主張が自動的に受け入れられるわけではありません。 他の人が確かめられる形で示せたときに、初めて動きます。 ツビッキーの指摘が広まらなかったのは、間違っていたからではなく、 まだ決定的な観測がそろっていなかったからでした。
最初の指摘は1933年にさかのぼります。 フリッツ・ツビッキーは、かみのけ座銀河団に属する銀河の 速度分散(銀河それぞれの速度のばらつき)を測定しました。
ビリアル定理という関係を使うと、速度分散から系全体の質量を推定できます。 その値は、光度から見積もった質量よりはるかに大きく、 彼はこの差を説明するために、光を出さない物質の存在を提案しました。 ドイツ語で dunkle Materie(暗黒物質)と呼んでいます[1]。
なぜ広まらなかったのか
- 当時の距離の尺度に不確かさがあり、推定値の信頼性が問われた
- 単一の銀河団の解析にとどまり、他の系での確認が難しかった
- 「見えない物質が大半を占める」という主張のインパクトが大きすぎた
科学において、ひとつの示唆的な観測は、それだけでは通説を動かしません。 独立した複数の系で、同じ結論が再現されることが必要です。 その条件が整うのは、1970年代に入ってからでした。
3. ルービンさんと、新しい きかい
3. ヴェラ・ルービンと、新しい分光器
3. ルービンとフォード ── 回転曲線の測定
1960年代の おわり。 ヴェラ・ルービンと いう 天文学者が、 ケント・フォードと いう 人と いっしょに、 ぎんがの 星の 動きを しらべて いました。
フォードさんは、星の 光を くわしく 調べる あたらしい きかいを 作った 人です。 その きかいの おかげで、 いままで 分からなかった ことが 分かるように なりました。
二人は、となりの 大きな ぎんが (アンドロメダぎんが)の 星の 動きを、 ていねいに はかりました。
そして 見つけたのが、あの ふしぎな けっかです。 外がわの 星も、速く まわって いた。
しかも、ほかの ぎんがを しらべても、 同じ ことが おきて いました。 1つや 2つの まちがいでは ないのです。
その状況を変える観測を積み重ねたのが、ヴェラ・ルービン(1928〜2016)です。
1965年、彼女はカーネギー研究所の地磁気部門に職を得ます。 そこで出会ったのが ケント・フォード。 遠くの天体の光を集めて分析する、新しい分光器を作っていた人でした[2]。
この装置が優秀でした。それまで測れなかった、 銀河の暗い外側の部分まで、星やガスの動きを測れるようになったのです。
アンドロメダ銀河を測る
二人はまず、お隣の大きな銀河、アンドロメダ銀河(M31)を選びました。 中心から外側まで、少しずつ位置をずらしながら、 そこにある星やガスがどのくらいの速さで回っているかを測っていきます。
1970年、二人はその結果を発表します[2]。 回転曲線は、外側でも下がりませんでした。
さらに二人は、次々に別の銀河を測っていきました。 数十個の銀河を調べても、同じことが起きていました。 1つの銀河のまぐれではなかったのです。
状況を変える観測を積み重ねたのが ヴェラ・ルービン(1928〜2016)と ケント・フォードです。
1965年、ルービンはカーネギー研究所の地磁気部門(DTM)に着任し、 そこで新型の分光器を開発していたフォードと組みました[2]。 この装置は、イメージ管を用いて微弱な光を効率よく検出でき、 銀河の外縁部という、それまで手が届かなかった領域の スペクトル観測を可能にしました。
測定の方法
原理はドップラー効果です。近づく天体からの光は波長が短く(青く)、 遠ざかる天体からの光は波長が長く(赤く)なります。
銀河を横から見たとき、回転によって片側は近づき、反対側は遠ざかります。 スペクトル線の波長のずれを位置ごとに測れば、 その場所の回転速度が分かる、というわけです。
1970年、ルービンとフォードはアンドロメダ銀河(M31)の回転曲線を発表しました[2]。 外縁部でも回転速度は落ちず、ほぼ平坦でした。
重要なのは、二人がここで止まらなかったことです。 その後、数十個の渦巻銀河について同様の測定を積み重ね、 フラットな回転曲線が1つの銀河に限った話ではないことを示しました。 例外ではなく、広く見られる性質だと分かったのです。
必要な質量を見積もると、見えている星やガスの 数倍から10倍程度の質量が、球状に広がって銀河を包んでいることになります。 この見えない構造を ダークマターハロー といいます。
4. ちがう 方ほうでも 同じ 答え
4. ほかの方法でも、同じ答えが出た
4. 独立した複数の証拠
「見えない ものが ある」と 言われても、 すぐには しんじられませんね。
そこで けんきゅうしゃたちは、 まったく ちがう 方ほうでも しらべました。
そのひとつが、光の 曲がりです。
重い ものの そばを 通る 光は、すこし 曲がります。 だから、遠くの ぎんがの 光が とちゅうで 曲げられて、 へんな かたちに 見える ことが あります。
その 曲がりぐあいを しらべると、 「そこに どれくらい 重い ものが あるか」が 分かります。
しらべて みると、やっぱり 見えて いる ものより ずっと 重かったのです。
ちがう 方ほうで しらべても 同じ 答えが 出る。 だから、けんきゅうしゃたちは 「たぶん ほんとうだ」と 考えて います。
「見えないものがある」という話は、それだけでは信じにくいものです。 そこで研究者は、まったく別の方法でも確かめました。 結果は、どの方法も「見えない質量がある」と考えると うまく説明できる、というものでした。
| 調べ方 | 何を見るか |
|---|---|
| 銀河の回転 | 外側の星が速すぎる |
| 重力レンズ | 手前の天体の重力で、奥の銀河の光が曲がる。その曲がり方から重さが分かる |
| 銀河団の熱いガス | X線で見える高温ガスが逃げずにとどまっている。それを引きとめる重さが必要 |
| 宇宙のいちばん古い光(CMB) | そのむらの模様から、宇宙の中身の割合が計算できる |
| 宇宙の大きな構造 | 銀河の分布のでき方が、暗黒物質を入れないと説明できない |
強い証拠のひとつ
「弾丸銀河団」と呼ばれる場所があります。 2つの銀河団が正面衝突した現場です。
衝突のとき、ガスどうしはぶつかって減速し、まん中に取り残されました。 ところが、重力レンズで測った重さの中心は、ガスとは別の場所にありました。 ガスをすり抜けて、そのまま進んでしまったものがあるのです。
「重さはあるのに、ほとんど何ともぶつからないもの」。 これは、暗黒物質の性質そのものです。
ちがう方法で、同じ答えが出るか。 これは科学でいちばん大事な確かめ方です。 1つの方法だと、装置の癖や計算の間違いかもしれません。 まったく別の原理の測定でも一致したとき、初めて信じられるようになります。
回転曲線だけでは、他の説明(測定の系統誤差、重力理論の修正など)を排除できません。 そのため、独立した複数の観測が重要になります。
| 手法 | 原理 | 分かること |
|---|---|---|
| 回転曲線 | ドップラー効果で回転速度を測る | 銀河スケールの質量分布 |
| 重力レンズ | 質量による光の経路の曲がり | 光を出さない質量の分布そのもの |
| 銀河団のX線ガス | 高温ガスの温度と分布から、束縛に必要な質量を求める | 銀河団スケールの総質量 |
| CMBの温度ゆらぎ | 音響振動のパターンを解析 | 宇宙全体でのバリオン/暗黒物質/暗黒エネルギーの比率 |
| 大規模構造 | 銀河分布の統計とシミュレーションの比較 | 構造形成に必要な物質の性質(冷たい暗黒物質) |
弾丸銀河団
特に強い証拠とされるのが、弾丸銀河団(Bullet Cluster)です。 2つの銀河団が衝突した系で、次のことが観測されました。
- X線で見える高温ガス(通常物質の大半)は、衝突で減速し中央に取り残されている
- 重力レンズ効果から求めた質量の中心は、そのガスからずれた位置にある
つまり、質量の大部分は衝突してもほとんど相互作用せず、すり抜けて進んだことになります。 これは「重力は及ぼすが、電磁的にはほとんど相互作用しない物質」という 暗黒物質の性質と整合します。
重力理論の修正だけでこの分離を説明するのは難しく、 暗黒物質の存在を支持する代表的な観測として挙げられます[1]。
割合
プランク衛星などの観測から、宇宙のエネルギー内訳はおおよそ次のようになります。
- 通常の物質(バリオン):約5%
- 暗黒物質:約27%
- 暗黒エネルギー:約68%
物質だけで見れば、暗黒物質は通常物質のおよそ5倍です。 わたしたちが知っている物質のほうが、宇宙では少数派だということになります。
5. で、なんなの?
5. で、正体は何なのか
5. 候補と、探索の現在地
では、その 見えない ものは いったい 何なのでしょう。
じつは、まだ わかって いません。
いろいろな 考えが あります。
- まだ 見つかって いない、あたらしい つぶ
- とても 小さな ブラックホール
- じつは 重力の きまりの ほうが ちがう
いま、世界じゅうの けんきゅうしゃが、 地下 ふかくに つくった へやの 中で、 その つぶが 通るのを まって います。
なぜ 地下かと いうと、 ほかの ものが じゃまを しないように する ためです。
でも、いまの ところ まだ つかまえられて いません。
じつは この きじを 書く 少し 前、 「もしかしたら つかまえたかも」と いう しらせが ありました。 でも、たった 1回 だけの ことなので、 まだ たしかとは 言えません。 もう すこし まって みる ひつようが あります。
では、その正体は何なのでしょうか。
正直に書きます。まだ分かっていません。 「ある」ことは何通りもの方法で確かめられているのに、 「何であるか」は誰も答えられていないのです。
候補
- まだ知られていない粒子:ふつうの物質とほとんど反応しない、重い粒子。有力な候補とされてきました
- もっと軽い粒子:別の理論から予想される、とても軽い粒子
- 小さなブラックホール:宇宙の初期にできた、小さくて古いブラックホール
- 重力の法則そのものが違う:見えない物質があるのではなく、大きなスケールでは重力の式が変わる、という考え
地下で待つ
世界中で、暗黒物質の粒子を捕まえる実験が行われています。 場所は、鉱山の中やトンネルの奥など、地下深くです。
理由は、じゃまものを減らすため。 地上には宇宙線や自然の放射線が飛びかっていて、 ごくまれな信号が埋もれてしまいます。 地面が分厚い屋根になってくれるわけです。
こうした実験は何十年も続いていますが、 いまのところ、確実な検出には至っていません。
ただし、この記事を書いている直前に動きがありました。 2026年9月1日、アメリカの地下で動いている LZ(ラックス・ゼプリン) という実験が、 説明のつかない反応を1回だけ観測したと発表したのです[4]。
研究チームは「暗黒物質を見つけた」とは言っていません。 たった1回の出来事では、偶然かもしれないからです。 実験はこのあとも数年にわたってデータを取り続けます。 同じことがもう一度起きて確からしさが増すのか、 それとも見落としていた別の原因で説明がついてしまうのか。 そこで決まります。
長く探して見つからなかったものに、ようやく引っかかりが出た。 けれど、まだ何とも言えない。ちょうどそういう時期です。
見つからないことも、じつは情報です。 「もしこういう粒子なら、この実験で見えたはずだ」と言えるので、 候補の範囲がどんどん狭まっていきます。
存在の証拠は積み上がっている一方で、正体は未確定です。 主な候補を整理します。
| 候補 | 考え方 | 状況 |
|---|---|---|
| WIMP(弱い相互作用をする重い粒子) | 素粒子物理の理論から予想される、質量の大きい未知粒子 | 長く本命とされたが、地下実験で未検出。探索範囲が狭まっている |
| アクシオン | 別の問題を解くために導入された、非常に軽い粒子 | 専用の実験が進行中 |
| 原始ブラックホール | 宇宙初期に形成された小質量のブラックホール | 重力レンズの観測などから、多くの質量域が制限されている |
| 修正重力理論(MONDなど) | 暗黒物質ではなく、重力則そのものを修正する | 銀河の回転曲線は説明できるが、銀河団や弾丸銀河団、CMBの説明が難しい |
直接探索という方法
代表的なのが、地下深くに置いた検出器で、 暗黒物質粒子が原子核に当たったときのごく小さな反跳を捉える試みです。
地下に置く理由は、宇宙線などの背景事象を減らすためです。 地上では毎秒大量の粒子が降り注いでいて、 年に数回起きるかどうかの信号は埋もれてしまいます。
液体キセノンを使った大型の検出器などで探索が続いていますが、 確定的な直接検出の報告はまだありません。
2026年9月の報告
この記事を書く直前、注目すべき発表がありました。 アメリカのサウスダコタ州の地下で稼働する液体キセノン検出器 LZ(LUX-ZEPLIN)が、2026年9月1日、 既知の背景事象では説明がつかない反跳事象を1件観測したと報告したのです[4]。
- 統計的な有意性は 2.6σ。発見の基準とされる5σには遠く及ばない
- 観測されたのは1事象のみ。偶然の可能性を排除できない
- 研究チーム自身「暗黒物質を見たとは主張しない」という立場
- 実験はこのあともデータを取り続ける。追加のデータで有意性が上がるか、 背景事象として説明がつくかで判断される
扱いには注意が必要です。素粒子物理の歴史には、 数σの「兆し」が、統計を増やすと消えていった例がいくつもあります。 いまの段階でできるのは、「面白い引っかかりが出た。続報を待つ」までです。
見つからないことの意味
未検出は失敗ではありません。 「この質量と相互作用の強さの組み合わせなら、この装置で見えたはず」と言えるため、 候補のパラメータ空間が着実に削られていくからです。
もっとも、WIMPの探索範囲が狭まるにつれ、 アクシオンなど別の候補や、暗黒物質どうしが相互作用するモデルにも 関心が移りつつあります。この分野は、いまも仮説の段階です。
6. 名前が 空に のこった
6. 名前が空に残った
6. ルービン天文台とLSST
ヴェラ・ルービンは、2016年に なく なりました。
いま、チリと いう 国に、 ルービン天文台と いう とても 大きな 天文台が あります。
ルービンさんの 名前が ついた 天文台です。
この 天文台は、2026年の 6月から、 10年 かけて 空を 見つづける しごとを 始めました。
毎ばん 空を さつえいして、 何かが かわって いないかを しらべます。
そして、その しごとの ひとつが、 暗黒物しつを しらべる ことです。
見えない ものを 見つけた 人の 名前が、 その 見えない ものを さがす 天文台に ついて いる。 すてきな 話だと 思います。
ヴェラ・ルービンは2016年に亡くなりました。
彼女は暗黒物質の存在を示す観測を残しましたが、 ノーベル賞は受けていません。そのことは、しばしば議論になります。
空に残った名前
いま、チリに ベラ・C・ルービン天文台 という大きな天文台があります。 彼女の名前がついた望遠鏡です。
この天文台は、2026年の6月末から、 10年かけて空を繰り返し撮影しつづける観測を始めました (公式の発表では6月30日開始)。 毎晩、広い範囲の空を撮影し、前の晩と比べて何かが変わっていないかを調べます。
そして、この計画の大きな目的のひとつが 暗黒物質と暗黒エネルギーの研究です。 何十億もの銀河の形のゆがみ方を統計的に調べることで、 暗黒物質の分布を地図にしていきます。
見えないものの存在を最初に示した人の名前が、 いま、その見えないものを探している望遠鏡についています。
ヴェラ・ルービンは2016年に亡くなりました。 暗黒物質の存在を示す観測的証拠を築いた研究者の一人でありながら、 ノーベル賞を受賞していません。この点は、 科学における評価のあり方を考える題材としてしばしば取り上げられます。
ベラ・C・ルービン天文台
チリにある NSF-DOE ベラ・C・ルービン天文台 は、彼女の名を冠した施設です。 2026年6月末から、10年間にわたる大規模なサーベイ観測 (Legacy Survey of Space and Time, LSST)を開始しました (公式発表では6月30日開始。資料によって6月29日とするものもあります)[5]。
この計画の主要な目的のひとつが、暗黒物質と暗黒エネルギーの研究です。 手法の中心は弱い重力レンズで、 膨大な数の銀河の形のわずかなゆがみを統計的に解析し、 視線方向に沿った質量の分布を再構成します。
個々の銀河のゆがみは小さすぎて測れませんが、 何十億個も集めれば統計的に取り出せます。 見えないものの地図を、見える銀河のゆがみから作るという方法です。
ルービン天文台は、当初「大型シノプティック・サーベイ望遠鏡」という 装置名で呼ばれていました。2019年に彼女の名を冠することが決まっています。 見えないものの存在を示した人の名前が、 その見えないものを探す望遠鏡についた、ということになります。
じぶんでも やって みる
7. 自分でも調べてみたくなったら
7. 自分でも調べてみたくなったら
見えない ものを しらべる やり方は、 みなさんも つかえます。
- はこの 中に 何かを 入れて、ふたを して、 ふって みて ください。 音や おもさで、中みを あてられますか。
- ボールを ひもに つけて、ぐるぐる 回して みて ください (まわりに 気を つけて)。 速く 回すほど、ひもを 強く 引っぱらないと いけません。 ぎんがでも、同じ ことが おきて います。
見えなくても、 まわりの ようすから 分かる ことが ある。 それが、この お話の いちばん 大じな ところです。
「見えないものを、まわりのふるまいから調べる」。 この考え方は、身近なところでも試せます。
- 箱に何かを入れてふたをし、振ってみる。 音、重さ、動き方から中身を推理する。 これは天文学者がやっていることと、原理は同じです。
- ひもにボールをつけて回してみる(まわりに注意)。 速く回すほど、ひもを強く引かないといけません。 銀河の外側の星が速いなら、それだけ強い重力が必要になります。
もっと知りたいときは
- 宇宙のはじまりと、ブラックホールのふしぎ(この記事の親記事です)
- ベラ・C・ルービン天文台(観測の様子や公開画像)
- 国立天文台(日本語での解説)
この記事の芯は、直接観測できない対象を、どう科学の対象にするかという手続きです。 同じ構造は、他の分野にもあります。
調べ方の型
- 予測と観測のずれを見つける(回転曲線が予想と合わない)
- 説明の候補を列挙する(未知の物質か、法則の修正か、測定誤差か)
- 候補ごとに、別の観測での違いを予言する
- 独立した手法で確かめる(重力レンズ、X線、CMB、弾丸銀河団)
- それでも残った謎を、正直に残す(正体は未確定)
調べる入口
考えてみると面白いこと
- 「未知の物質を足す」と「法則を修正する」。科学史では、どちらが当たった例が多いか(海王星とバルカンの話を調べてみる)
- 検出できないことが続いたとき、その仮説はいつ捨てるべきか
- ノーベル賞に選ばれなかった業績を、どう評価すればよいか
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
この記事は、下にあげた公開情報をもとに書いています。文章や図を無断で転載してはいません。用語の定義など、短く引用した部分は、どこから引いたかを示しています。 この分野は現在も研究が進んでいるため、数値や状況は変わります。 リンク先の内容や、リンク先で起きたことについて、当サイトは責任を負いません。
英語の出典について:arXiv は論文の草稿を公開するサイト、マックス・プランク協会はドイツの研究機関、Berkeley Lab は米国エネルギー省の研究所、米国エネルギー省は科学政策を担当する政府機関、ベラ・C・ルービン天文台は米国の天文観測施設です。
- G. Bertone and D. Hooper, “A History of Dark Matter” arXiv:1605.04909 (ツビッキーの提案から現在までの研究史、証拠の整理)
- Max-Planck-Gesellschaft, “Vera Rubin: pioneer of dark matter” https://www.mpg.de/24915532/vera-rubin-pioneer-of-dark-matter (1965年のカーネギー研究所着任、ケント・フォードとの共同研究、1970年のM31の回転曲線、パロマー天文台での観測)
- NSF-DOE ベラ・C・ルービン天文台「Vera Rubin」 https://rubinobservatory.org/about/vera-rubin (経歴、当時の研究環境、観測した銀河の数)
- Berkeley Lab「LZ Sees Surprising Result in Search for Dark Matter」(2026年9月1日) https://newscenter.lbl.gov/2026/09/01/lz-sees-surprising-result-in-search-for-dark-matter/ / 米国エネルギー省 同内容の発表 (説明のつかない1事象、2.6σ、発見ではないという位置づけ、観測の継続)
- NSF-DOE ベラ・C・ルービン天文台 https://rubinobservatory.org/ (LSSTの開始時期と観測の目的)
- この記事の姉妹編:宇宙のはじまりと、ブラックホールのふしぎ / アインシュタイン / ブラックホールは熱い
なおした ところ
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