1. ほんが よめるほど うくのは、ひとが かるいから?
1. 本が読めるほど浮くのは、人が軽くなるから?
1. 「本が読める湖」は、何が特別なのか
死海の ゆうめいな しゃしんは、ひとが みずの うえに ねそべって、ほんを よんで いる ところです。まるで、ベッドに いるようです。
これを みると、「死海に はいると、からだが かるく なるのかな」と おもいます。でも、からだの おもさは かわりません。ちがうのは、まわりの みずの おもさです。
その ことを たしかめる ために、まず ふつうの うみで、ひとが どうなるかを みて みましょう。
死海の写真といえば、人が水面に寝そべって新聞や本を読んでいる場面が有名です。日本語の百科事典にも、「湖面に浮かんで本が読める」湖として知られる、と書かれています[7]。
あの写真を見ると、死海に入ると体が軽くなるように思えます。けれども、体の重さは場所が変わっても変わりません。ちがうのは、まわりの水の密度(重さ)です。
それを確かめるために、まず死海ではないふつうの海で、人がどうなるかを見てみましょう。
死海の水面で本を広げて読む姿は、この湖の象徴として知られる[7]。この光景から「死海では体が軽くなる」と考えたくなるが、体の質量は場所が変わっても同じで、ちがうのはまわりの水の密度である。
では、その水は何がちがうのか。比較の基準として、まず死海ではない通常の海で、人体がどのように浮き沈みするかを確認する。
2. ふつうの うみでは、ひとは うくの? しずむの?
2. ふつうの海で、人は浮くのか沈むのか
2. 普通の海での人体 ── 息の量で決まる比重と、アルキメデスの原理
着衣泳(きたままで およぐ れんしゅう)の しりょうに、こんな ことが 書いて あります。からだの おもさを、おなじ かさの みずと くらべると、いきを すった ときは 0.98ほど、はいた ときは 1.03ほどだ そうです[3]。
1より ちいさければ みずに うき、1より おおきければ しずみます。つまり、いきを すって いれば うき、はけば しずむのです。
ここで はたらくのが 浮力です。ものを みずに いれると、おしのけた みずと おなじ おもさの ちからで、うえに おし上げられます[4]。
いきを すった ひとは、ほとんど みずと おなじ おもさです。だから、うみでは、からだの ほとんどが みずに しずんで うきます。
着衣泳を教える資料には、人体の比重は息を吸った状態で0.98程度、吐いた状態で1.03程度と書かれています[3]。比重とは、同じ体積の水と比べた重さの比のことです。1より小さければ水に浮き、大きければ沈みます。息を吸っていれば浮き、吐けば沈むというわけです。
浮き沈みを決めているのが、浮力です。アルキメデスの原理によると、水などの液体に体を入れたとき、体は押しのけた液体の重さと同じ大きさの力で上へ押し上げられます[4]。
体の重さのほうが、押しのけた水の重さより小さければ浮きます。息を吸った体は水とほぼ同じ重さなので、ふつうの海でも、体の大部分を沈めたまま浮くことになります。
ちなみに、アルキメデスが風呂で王冠の謎をひらめいたという話は有名ですが、原理そのものの発見とは別の話です。この話が最初に出てくる本は、本人の約200年後のもので、信頼性には疑問があると紹介されています[4]。
着衣泳の指導資料によれば、人体の比重は息を吸った状態で0.98程度、吐いた状態で1.03程度で、吸えば浮き吐けば沈む[3]。比重は同体積の水との重さの比なので、1を境に浮き沈みが分かれる。つまり人体の比重は、息の量しだいで、水と同じくらいにも、少し大きくもなる。
この境目を決めるのが浮力である。アルキメデスの原理は、流体にひたした物体は押しのけた流体の重さに等しい浮力を受ける、というものだ[4]。物体の重さが押しのけた分の水の重さを下回るとき、その物体は水面に浮く。
なお、浴槽でひらめいたという金の王冠の逸話は浮力の原理そのものの発見とは別で、最初の出典はヴィトルヴィウスの記述、つまり本人の約200年後にあたり、信頼性に疑問が呈されている[4]。この記事では、逸話ではなく原理のほうだけを使う。
ここから、次の問いが出てくる。人体の重さが変わらないなら、死海で起きるのは水の側の変化のはずだ。その水はどれほど重いのか。
3. 死海の みずは、うみの みずより どれだけ おもいの?
3. 死海の水は、海水よりどれくらい重いのか
3. 実測された死海の水の密度 ── 海水との差と、塩分の幅
死海の みずには、塩が たくさん とけて います。うみの みずは、1キログラムに 塩が 35グラムほど です。死海は 1リットルに 340グラムほど、うみの 10ばいちかくも あります[1][2]。
その ぶん、みずは おもく なります。おなじ 1リットルで くらべると、うみの みずは 1.02キログラム あまり、死海の みずは 1.24キログラムです[2][9]。
ペットボトルで いうと、ふつうの うみの みずより、1.5リットルの ぶんで 300グラムほど おもい ことに なります。
おもい みずの ほうが、おなじ かさでも、ものを ささえる ちからが つよく なります。
死海の水には、塩がたくさん溶けています。海水は1kgに約35gの塩分を含み、死海の水は1Lに約340gの塩が溶けた状態で調べられています[1][2]。おおよそ、海水の10倍近い濃さです。ただし、死海の塩分は資料によって幅があり、採る場所や年、定義でも変わるようです。
水の重さを表す密度で見ると、海水はおよそ1.023〜1.028 g/cm³、死海の水は論文で測られた原水で1.241 kg/L、つまり約1.24 g/cm³です[2][9]。同じ1Lなら、海水は約1.025kg、死海の水は約1.24kgで、死海の水のほうが約2割重いことになります。
1.5Lのペットボトルに入れたとき、海水と死海の水では、300gほどの差が出る計算です(1.24−1.025=約0.2、これに1500mLをかけた値)。
なお、死海の水は、ふつうの海とは塩の成分のちがいもあります。そのため、密度は塩分の割合だけでは決まらない可能性があります。ここでは、「塩がたくさん溶けて水が重い」ことだけを事実として使います。
浮く条件を水の側から見ると、問題は水の密度である。死海の水は溶存塩が約340g/Lで、実験に使われた原水の密度は1.241 kg/Lと報告されている[2]。海水は1kgに約35gの塩分、密度はおよそ1.023〜1.028 g/cm³とされ[9][8]、死海の水は海水の10倍近い塩を含み、同体積で約2割重い。
塩分の値そのものは資料で幅があり、34%前後とするもの[1]のほか、もっと低く書くものもある。採取した年・深さ・定義が異なるためと考えられ、この記事では「およそ3分の1」の程度にとどめる。
注意点もある。死海の水は通常の海水と塩の成分がちがい、塩化マグネシウムなどが多いといわれる。したがって、密度は塩分の割合だけでは決まらない可能性があり、「塩が多いほど重い」以上のことは、ここでは主張しない。
では、この2割の差は、人体にとってどれほどの意味を持つのか。密度比から計算できる。
4. からだは、みずの うえに どれだけ でるの?
4. 体は水の上にどれだけ出るのか ── 計算してみる
4. 密度比から求める水上部分 ── 海で約4%、死海で約21%という目安
うかんだ とき、からだの どれだけが みずの なかに あるかは、「からだの おもさ ÷ みずの おもさ」で わかります。
いきを すった からだ(0.98)を うみの みず(1.025ほど)に うかべると、みずの なかに 96%ほど。みずの うえに でるのは、4%ほどです。
死海の みず(1.24)では、みずの なかは 79%ほど。うえに でるのは、21%ほどです。
ふつうの うみの、5ばいちかくです。だから、からだが たかく うかび、ほんを よむ すがたが できるのだと かんがえられます。
これは けいさんで だした めやすで、からだの かたちや、かおや はいの いちで かわります。
浮かんだとき、体積の何割が水に沈むかは、「体の密度÷水の密度」で計算できます。これは、押しのけた水の重さと体の重さが釣り合うところで浮く、という考えからです。
息を吸った体(0.98)を海水(約1.025)に浮かべると、0.98÷1.025で約0.96、つまり体の約96%が水中にあり、水面に出るのは約4%です。死海の水(1.24)では、0.98÷1.24で約0.79、水中が約79%で、水面上に約21%出ます。
水面上の部分が、海の約4%から約21%に増える、つまり5倍前後になります。「体が水の上に高く出る」感覚は、この差から来ていると考えられます。
息を吐いた体(1.03)は、海水(約1.025)では沈む側ですが、死海の水では1.03÷1.24で約0.83、水中が約83%で、それでも浮く側に残る計算です。
ただし、これは密度比から出した理論上の目安で、実測値ではありません。頭や肺の位置、体つきによって、実際の浮き方は変わります。
浮かんだ物体では、体積のうち水中にある割合は「物体の密度÷液体の密度」で表される。押しのけた液体の重さが物体の重さに等しくなる位置で釣り合うためである。
これに、息を吸った体の比重0.98[3]、海水の密度約1.025、死海の水の密度1.24[2]を入れてみる。海水では0.98÷1.025=0.956で水中約96%、水上約4%。死海では0.98÷1.24=0.790で水中約79%、水上約21%となり、水上部分は約5倍になる。
同じ計算を、息を吐いた体(1.03)にあてると、海水では1.03÷1.025=約1.005で1をわずかに上回り、沈む側にある。ところが死海では1.03÷1.24=約0.83で、なお約17%が水面上に出る計算になる。
この値はあくまで、人体を一様な密度の物体とみなした理論上の目安であり、実測ではない。頭部や肺の位置、体脂肪の量など体つきで変わる。
ここまでで浮く理由は説明できた。残る疑問は、なぜ死海の水だけがそれほど重くなったのか、である。
5. 死海には、なぜ こんなに 塩が たまったの?
5. なぜ死海だけ、こんなに塩がたまったのか ── 出口のない湖
5. 塩が濃くなった理由 ── 流れ出る川がなく、水は主に蒸発で失われる湖
死海には、ヨルダン川という かわが ながれこんで います。けれども、ながれ出る かわは ありません[5]。
みずが でて いく おもな みちは、蒸発です。みずが ぐんぐん じょうはつすると、とけて いた 塩は のこります[5]。
おふろの ゆが へって、ゆの ふちに ざらざらが のこるのと、にて います。それが、ながい あいだ つづいたのです。
そして、この しおからい みずの なかでは、さかななどは ほとんど みられず、ごく ちいさな びせいぶつが いると されます[1]。「死海」という なまえの わけです。
6. うかべる みずうみは、いま どうなって いるの?
6. 浮かべる湖の水面は、いまどうなっているのか
6. 下がり続ける水面 ── ヨルダン川の水の減少、鉱物の採取、湖岸の陥没穴
死海の みずうみの たかさは、うみの たかさより、およそ 430メートルも ひくい ところに あります。りくの うえで、いちばん ひくい ところです[7]。
その みずうみの みずが、ちかごろ、まいとし 1メートルほど さがって いると いわれます[6]。みずうみの ひろさも、1960ねんだいの 1000へいほうキロメートルほどから、2016ねんには 605へいほうキロメートルほどに ちいさく なりました[7]。
わけの ひとつは、ながれこむ ヨルダン川の みずが、1960ねんだいから、はたけの みずとして つかわれて、へった ことです。もうひとつは、みずうみから とれる ミネラルを つかう しごとだと されます[6]。
みずが へると、みずうみの きしには、おおきな あなが あくことも あります。
死海の水面は、海面より約430m低く、陸の上で最も低い場所にあります(2019年に−433m)[7]。標高は年によって変わり、資料によって値にも幅があるため、年をつけて書いています。
この水面は、近年、平均で年に約1m低下しているといわれます[6]。湖の面積も、1960年代の約1000km²から2016年には約605km²に縮んでいます[7]。
理由は主に二つです。一つは、ヨルダン川の水が1960年代から灌漑(畑への給水)に使われて減ったこと。もう一つは、湖の水から鉱物(カリなど)を採取していることです。水位低下の約3割は鉱物の採取が原因、という地質学者の推定も紹介されています[6][5]。
湖の水が引いた湖岸では、1980年代以降、陥没穴が最大で約5,000個できたとも伝えられます。地下の塩の層に淡水がしみこんで崩れるためだとされています[6]。本が読めるほど浮く湖は、いまも姿を変え続けています。
浮力を生む高密度の水は、出口のない湖という条件に支えられていた。その条件は、入ってくる水の量に敏感であるということでもある。
湖面は海面より約430m低く、2019年には−433mと記されている[7]。標高は年で値が変わるため、年を添えて示す。水面は近年、平均で年約1m低下しているとされ[6](資料によっては年約3フィートとする)、面積も1960年代の約1000km²から2016年の約605km²へ縮小した[7]。
要因として挙げられるのは、ヨルダン川の水が1960年代から灌漑で減ったことと、カリなど鉱物の採取である。地質学者の推定として、水位低下の約3割が鉱物採取に由来するという数字も紹介されている[6]。1970年に−395mだった水面が2006年に−418mまで22m下がったという記述もある[6]。
湖岸では、1980年代以降に陥没穴が最大で約5,000個現れたとされ、塩の地下層に淡水がしみて崩れることが原因とされる[6]。
死海の「浮く」性質は、塩・出口のない地形・水量の均衡が保たれてはじめて成り立つ。だから、水面の低下は、この湖の姿そのものの問題として報じられている。
自分でも しらべて みたく なったら
自分でも調べてみたくなったら
自分でも調べてみたくなったら
きょう できること:コップに みずを いれ、塩を すこしずつ とかして、たまごが うくか しずむか みて みましょう。塩を ふやすと どう かわるでしょう。おとなの ひとと いっしょに やって ください。
これは 死海の みずを つくる ことでは ありません。「おもい みずは ものを うかせる」ことを みる だけです。
しりょうを よむなら:ちいきの としょかんで、うみと みずうみの ちがいを のせた ほんを さがして みましょう。
今日できること:コップの水に塩を少しずつ溶かし、生卵を入れて、浮くか沈むか、塩を増やすとどう変わるかを見てみましょう。大人と一緒にやってください。
これは死海の水を再現する実験ではなく、「重い水は物を浮かせやすい」という一点を見るためのものです。塩をどれだけ入れたかも、メモに残すと比べやすくなります。
調べるなら:地図で、死海の位置とヨルダン川、そして水面が下がっている場所を見比べると、出口のない湖の形がイメージしやすくなります。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
数値は資料によって幅があるため、本文では「約」「およそ」を使い、年をつけて書いています。
- Wikipedia (English) "Dead Sea". https://en.wikipedia.org/wiki/Dead_Sea (塩分の濃さと、大きな生物がすめないことについて)
- Aquatic Geochemistry 24:121-135 (2018) "Variation of the Chemistry of the Dead Sea Brine as Consequence of the Decreasing Water Level". https://www.literature.wolkersdorfer.info/literature/Variation of the Chemistry of the Dead Sea Brine as Consequence of the Decreasing Water Level.pdf (死海の水の塩の量と密度の測定値)
- 鈴鹿市「着衣泳」資料(PDF). https://www.city.suzuka.lg.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/001/858/tyakuie.pdf (息の量による人体の比重について)
- McGill Office for Science and Society, "Is it true Archimedes formulated his famous principle based on an observation he made when he immersed himself…". https://www.mcgill.ca/oss/ (アルキメデスの原理と王冠の逸話について)
- New World Encyclopedia "Dead Sea". https://newworldencyclopedia.org/entry/Dead_Sea (出口のない湖と、蒸発で塩が残ることについて)
- NBC News, "Sinkholes threaten Israel's Dead Sea tourist trade". https://www.nbcnews.com/news/world/sinkholes-threaten-israels-dead-sea-tourist-trade-n392461 (水面の低下、鉱物採取、陥没穴について)
- Wikipedia「死海」. https://ja.wikipedia.org/wiki/死海 (「本が読める湖」と呼ばれること、湖面の高さと面積について)
- Weblio辞書「SEAWATER」. https://www.weblio.jp/content/SEAWATER (海水の密度と塩分の目安について。数値はおよその値)
- NOAA Repository, 海水の密度に関する資料(PDF). https://repository.library.noaa.gov/view/noaa/36039/noaa_36039_DS1.pdf (海水の密度の標準値1.025と範囲1.023〜1.028について)
なおした ところ
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