このサイトは、ほんの入り口です

ここにあるのは、だれかが実際に調べ、考え、作ってきたことを集めたメモです。気になったら、ページの下の「参考にした情報源」から、もとの本や記事、それを生み出した人たちに、直接ふれてみてください。このメモには書ききれないおもしろさが、そこにあります。

みみの かたちを かえると、おとの うえしたが ききわけにくく なるの?

耳に型をはめると、音の上下が聞き分けにくくなる ── 耳のでこぼこがしている仕事

耳介の形と音の方向知覚 ── 両耳間差が届かない上下・前後を、スペクトル手がかりが補う

分野:からだ

みみの なかに ちいさな かたを いれて、みみの かたちを かえた ひとが います。すると、おとが うえから きこえるのか したから きこえるのか、ききわけにくく なりました。

どうして、みみの かたちで おとの むきが きまるのでしょう。みみの でこぼこが、おとの むきを おしえて くれる ひみつが わかります。かたを はずしたあとも、ふたつの ききかたを つかい わけられた じっけんも あります。

耳の中に小さな型を入れて形を変えると、音が上から来たのか下から来たのかが、すぐには分からなくなる。そんな実験が報告されています[3]。

音が右か左かは、両耳に届くタイミングの差で分かります。では、上下や前後は何で分かるのでしょうか。耳のでこぼこの役目と、型をはめた耳が慣れていく様子が分かります。型を外したあとも、元の聞き方と新しい聞き方を使い分けられた実験があります。

耳介に型(モールド)を入れて形を変えると、音源の上下方向の判断は直後に大きく悪化するが、時間とともに改善する、と成人を対象にした1998年の実験は報告している。型を外したあとも、元の聞き方と新しい聞き方を使い分けられたという[3]。

左右の判断は両耳間の時間差・強度差で説明できるが、両耳から等距離の上下・前後ではその差が生じない。それでも人が方向を聞き分けられる理由と、耳の形を変えた実験、ふくろうの例を重ねて、耳介が担う役割とその限界が分かる。

読み方を切り替えられます。画面の上にある「よみかた」のボタンで、小学校低学年むけ・小学校高学年むけ・中学生むけの3つの書き方に切り替わります。むずかしいと思ったら、いつでもやさしい方に戻ってください。選んだ読み方はブラウザが覚えているので、次に別の記事を開いたときも同じ読み方で始まります。

1. みぎか ひだりかは、どうして わかるの?

1. 右か左かは、どうして分かるのか

1. 左右の判断を支える両耳間の時間差と強度差

めを とじて、みぎの ほうで てを たたいて もらいます。みぎだと、すぐ わかります。

みぎの ほうの おとは、みぎの みみに さきに とどきます。ひだりの みみには、ほんの すこし おくれて とどきます。おくれは 1びょうの 1000ぶんの 1にも なりません[1]。

それに、ひだりの みみは あたまの かげに なります。おとが ちいさく なります。

では、まえから きた おとは、どうでしょう。みぎも ひだりも、おなじ ときに おなじ おおきさで きこえます。

目を閉じて、右のほうで手をたたいてもらうと、音が右から来たことはすぐに分かります。

右前方からの音は、右耳に先に届き、左耳にはわずかに遅れて届きます。その差は1ミリ秒(1000分の1秒)にも満たないのに、人はこれを検出して左右を判断できます。ただし、この手がかりが働くのは、およそ1.5kHz以下の低めの音に限られるそうです[1]。

高い音には別の手がかりがあります。左耳は頭の陰に入り、高い音ほど回りこみにくいため、左右の耳で音の大きさに差ができます。真横からの音では、6kHzで約20デシベルの差ができ、200Hzではほぼゼロと説明されています[1]。

ここまでは、両耳の差が手がかりです。では、正面から来た音はどうでしょう。

右前方の音は右耳に先に届き、左耳には1ミリ秒に満たない遅れで届く。この時間差から左右を判断できるが、有効なのはおよそ1.5kHz以下で、これは頭の大きさと波長の関係、聴神経の時間応答の限界による[1]。なお、この境目の周波数は資料によって幅があるため、目安として読む。

高い音では、強度差が手がかりになる。高い音ほど直進性が強く回折しにくいので、頭の陰に入った耳には音が弱くなって届く。真横からの音では6kHzで約20dB、200Hzではほぼゼロの差が生じる[1]。

では、両耳から等距離にある正面・真上・真後ろの音は、どう区別されるのか。この場合は時間差も強度差もゼロに近い。

2. まえと うえは、なにで わかるの?

2. 正面と真上は、何が区別するのか

2. 両耳間差のない方向を、耳介のスペクトル手がかりが補う

まえと うえと うしろでは、みぎと ひだりの ちがいが ほとんど ありません。それでも、ひとは おとの むきを だいたい わかります。かたほうの みみだけでも わかる ことが あります[1]。

たすけて いるのは、みみの でこぼこです。おとが みみに あたると、はねかえったり、さえぎられたりします。むきが ちがうと、あたりかたも ちがいます。

たとえば、トンネルの かべで はねかえる こえを おもいだして ください。でこぼこの かべだと、こえの ひびきかたが かわります。みみも おなじように、おとの ひびきを むきごとに かえて います。ただし、みみは トンネルよりも ずっと ちいさな ものです。

正面・真上・真後ろのように左右の耳からほぼ等距離にある方向では、時間差も大きさの差も小さくなります。それでも人は、前後や上下をかなり言い当てられます。しかも、片耳だけで聞いても分かることがあります[1]。

助けているのは、耳のでこぼこ(耳介)です。音は耳介で反射したり遮られたりして、来た方向によって音色が複雑に変わります。音色というのは、高さごとの強弱の並び方のことです[1]。

この変化は、波長が短い高い音ほどはっきり出ます。一般に、およそ5〜8kHz以上の帯域の変化が有効な手がかりだと説明されています[1]。耳の大きさと形によって決まる、自分の耳だけの手がかりです。

では、その耳の形を変えたら、どうなるのでしょうか。

左右の耳からほぼ等距離にある方向では、両耳間差が小さくなり、耳介の手がかりが役立つ。音は耳介で反射・遮蔽され、到来方向に応じてスペクトルが複雑に変化する。前後・上下の判断が可能であり、片耳でも成り立つのはこのスペクトル手がかりによる[1]。

耳介の効果は耳の大きさ・形との関係で決まり、波長の短い高い音ほど変化が顕著になる。一般におよそ5〜8kHz以上の帯域が有効だとされる[1]。この特性は頭部伝達関数(HRTF)と呼ばれ、頭と耳介の複雑な反射・回折が生む。正面方向の特性には、強まる帯(ピーク)と弱まる帯(ノッチ)ができる[2]。

この仕組みが正しいなら、耳介の形を変えれば上下の判断が変わるはずだ。それを確かめた実験がある。

3. みみに かたを いれたら どう なった?

3. 耳に型を入れる実験で、何が起きたか

3. 耳介にモールドを入れた2つの実験

けんきゅうの ひとたちが、おとなの ひとの みみに かたを いれました。みみの でこぼこが かわります。

すると、おとの うえしたの きき わけは、いれた すぐ あとに おおきく わるく なりました[3]。

べつの けんきゅうでは、まえと うしろの とりちがえが、7ばいぐらいに ふえました。うえしたの ずれも、2ばいより おおく なりました。でも、みぎ ひだりの きき わけは、ほとんど かわりませんでした[4]。

みぎひだりは りょうみみの ちがい、うえしたは みみの かたち。やくわりが わかれて いるのです。

1998年、耳介に型を入れて形を変える実験が報告されました。協力した成人たちは、型を入れた直後、音の上下方向の聞き分けが大きく悪くなりました[3]。

別の2013年の研究でも、型を入れると、前後の取り違えは約7倍に増え、上下の誤差は2倍を超えました。『7倍』は前後の取り違えの回数、『2倍超』は上下の誤差で、別の数字です[4]。

ここで注目したいのは、型が両耳の手がかり(左右の角度)にはほとんど影響しなかったことです[4]。左右は両耳の差、上下と前後は耳の形という分担が、実験でも見えたことになります。

では、聞き分けができなくなったままなのでしょうか。

Hofman らの実験(1998年、成人)では、耳介にモールドを入れて形を変えると、音の仰角(上下)の判断は直後に大きく劣化した[3]。

Carlile と Blackman(2013年)の実験でも、モールドにより前後の取り違えは約7倍に増え、仰角誤差は2倍超になった。一方、モールドは両耳の手がかりによる方位(左右の角度)にはほとんど影響しなかった[4]。前者は回数、後者は誤差の大きさで、指標が異なる点に注意が要る。

この結果は、方位は両耳間差、仰角と前後は耳介のスペクトル手がかりに依拠するという分担を支持する。では、劣化した判断は固定されるのか。

4. かたを いれた みみは、また きき わけられる?

4. 型をはめた耳は、学び直せるのか

4. 新しい耳への学び直しと、元の耳との共存

だいじょうぶです。かたを いれた ままでも、ときが たつと、うえしたの きき わけは よく なって いきました[3]。

もっと ふしぎな ことが あります。かたを はずしても、もとの みみの ときの ききかたが じゃまに なりませんでした。ふたつの ききかたを つかい わけられたのです。

どれくらいで なれたのかは、ここでは かきません。ひとの あたまは、あたらしい てがかりを おぼえる ちからを もって いるようです。

型を入れたまま過ごすと、上下の聞き分けは時間とともに改善しました[3]。

さらに、新しい手がかりを学んでも、元の耳での聞き分けは妨げられませんでした。協力した人たちは、型をはめた耳と、はめていない耳の両方の聞き方を使い分けられたと報告されています[3]。

2013年の研究では、この慣れが、見える範囲の中の位置でも外の位置でも同じように進んだと述べられています[4]。一つの研究の報告なので、「見えなくても必ず学べる」とまでは言えませんが、耳の再調整に視覚は欠かせないわけではなさそうです。

耳の形で聞き分ける仕組みは、人間だけのものなのでしょうか。

モールドを入れ続けた被験者は、仰角の判断が時間とともに改善した。新しい手がかりの学習は、元の耳での判断を妨げず、両方の耳形に対する判断が併存した[3]。学習にかかった期間は、参照した抄録からは分からない。

Carlile と Blackman は、新しいスペクトル手がかりへの順応が、視野の内側の位置でも外側でも同様に起こったとする[4]。ただし1つの研究の報告で、視覚情報なしで完全に再調整できるとまでは言えない。

耳介の形を手がかりに使うのは、ヒトだけなのか。方向の聞き分けが得意な動物として、ふくろうの例がある。

5. ふくろうの みみは どう なって いる?

5. ふくろうは、耳の形も位置も左右でちがう

5. メンフクロウの非対称な耳と、音の地図

ふくろうは、まっくらな ところでも、えものを つかまえます。おとだけで、むきを あてるのです。

メンフクロウの のうには、おとの いちの ちずが あると、しらべた ひとたちが います。よこの むきと うえしたの むきが、ちずに なって いるそうです[5]。

この ふくろうは、みぎと ひだりの みみの ばしょと かたちが ちがいます。わざと ずらして あるような かたちです[6]。

暗闇で獲物をつかまえるふくろうは、音だけで位置を当てます。この能力に注目した研究から、メンフクロウの中脳に、音の位置の地図があることが示されました。水平方向と上下方向の、2次元の地図です。この研究はグルーバー神経科学賞の対象にもなりました[5]。

メンフクロウは、左右の耳の位置と形が非対称です。従来の説明では、時間差が水平方向、大きさの差が上下方向の手がかりとされました[6]。

ただし、これは単純化した説明です。2017年の研究で、時間差があいまいなときは、大きさの差が水平方向の判断にも使われることが分かりました[6]。

ふくろうの聴覚の研究は、暗闇で獲物を捕らえる能力が出発点だった。メンフクロウの中脳に、水平方向と上下方向の2次元からなる聴覚空間の地図があると示した研究は、グルーバー神経科学賞の対象になった[5]。

この鳥は左右の耳の位置と形が非対称で、従来のモデルでは、時間差が水平方向、強度差が上下方向の手がかりとされた[6]。

ただしこれは単純化である。Kettler ら(2017年)は、時間差があいまいなとき、強度差が水平方向の判断にも使われることを示した[6]。分担は、思っていたより柔軟だ。

6. みみの かたちは、ひとり ひとり ちがうの?

6. 耳の形は、人によってちがう

6. 個人差と加齢 ── 耳の大きさが手がかりを動かす

みみの かたちは、ひとり ひとり すこしずつ ちがいます。だから、おとが みみで かわる かわりかたも、ひとに よって ちがいます[2]。

おとなに なって みみが おおきく なると、てがかりも かわります。ぜんぶ、じぶんの みみに あわせて おぼえて いるのです。

頭と耳介の形は人によって違うので、音の変化のしかた(頭部伝達関数)も人によって違います。ピーク(強まる帯)とノッチ(弱まる帯)の成り立ちは、耳介の形のシミュレーションで調べられています[2]。

耳は年齢とともに大きくなり、高齢者では子どもより約25%大きいと報告されています。それに合わせて、ノッチは低い周波数のほうへ動きます[1]。大きな耳ほどよく聞き分けるとは言えず、あくまで報告の一つです。

人の耳は、成長にあわせて手がかりを学び直し続けているのかもしれません。型の実験は、その力を目に見える形にしたものといえます。

HRTFは頭と耳介の形を反映するので、個人ごとに異なる。ピークとノッチの成因は耳介形状のシミュレーションで調べられている[2]。

加齢で耳の大きさや耳甲介は大きくなり、高齢者では子どもより約25%大きい。ノッチは低周波側へ動き、仰角の判断が向上するという報告があるが、高い音の聴力低下を補うほどではないようだ[1]。

個人差と加齢で手がかりが動く以上、耳の形を変えた実験の学び直しは、特殊な例というより、成長や加齢を通じて起きていることの延長ではないか。ただしこれは資料から読み取れる推測にとどまる。

自分でも しらべて みよう

自分でも調べてみたくなったら

自分でも調べてみたくなったら

めを とじて、おうちの ひとに ちょっと はなれた ところから、すずを ならして もらいます。みぎ、ひだり、まえ、うしろ、うえの じゅんで ならして もらい、どこか あてて みましょう。みみの ちかくでは ならさない やくそくです。

つぎに、てを みみの うしろに あてて、おなじ ことを して みます。きこえかたが かわった きが するか、たしかめて みましょう。かわる かどうかは、ひとに よります。

目を閉じて、家族に、少し離れた場所から鈴やスプーンの音を、右・左・前・後ろ・上の順に鳴らしてもらいます。どの方向か、当ててみます。音は小さめにして、耳に近づけすぎないようにしてください。

手を耳の後ろにあてて同じことをして、当たりやすさが変わるか確かめてみるのもよいでしょう。変わるかどうかは人それぞれです。

耳介の仕組みをもっと知りたい人は、出典の倉片憲治さんの解説が、日本語で読める入口になります。

日本語で読めるのは、倉片憲治「音の方向知覚とその加齢変化」(日本音響学会誌)と、NICT情報通信研究機構の季報。型の実験の原典は Hofman ら(Nature Neuroscience, 1998)と Carlile と Blackman(JARO, 2013)。

身近な確かめ方としては、目を閉じて家族に音を鳴らしてもらい、方向を当てる。耳の後ろに手を当てて、当たりやすさが変わるかを比べる方法もある。変化の有無には個人差があるはずで、効果を断定しない。

しらべた もとの じょうほう

参考にした情報源

参考にした情報源と、その使い方

本文で使った資料です。型の実験や海外の論文は、英語の資料です。

  1. 倉片憲治「音の方向知覚とその加齢変化」日本音響学会誌 https://psych.or.jp/wp-content/uploads/2020/04/89-23-24.pdf (両耳間差・耳介の手がかり・加齢)
  2. 武本ほか「個人に適した3次元聴覚再生のための音響シミュレーション技術」NICT情報通信研究機構 季報 Vol.56 https://www.nict.go.jp/publication/shuppan/kihou-journal/kihou-vol56no1_2/0403.pdf (頭部伝達関数の個人差)
  3. Hofman, Van Riswick & Van Opstal (1998) Relearning sound localization with new ears, Nature Neuroscience https://sonicfield.org/library/relearning-sound-localization-with-new-ears (型を入れた耳の学び直し)
  4. Carlile & Blackman (2013) Relearning Auditory Spectral Cues for Locations Inside and Outside the Visual Field, JARO https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3946140 (前後の取り違え・上下の誤差・視野の内外)
  5. Gruber Neuroscience Prize 2005 press release https://gruber.yale.edu/press/2005-gruber-neuroscience-prize-press-release (ふくろうの音の地図)
  6. Kettler, Griebel, Ferger & Wagner (2017) eNeuro 4(6) https://www.eneuro.org/content/4/6/ENEURO.0238-17.2017 (ふくろうの耳の非対称と時間差・強度差)

なおした ところ

更新履歴

更新履歴(改版の記録)

  •  初版を公開。

このサイトでは、公開した記事の本文は原則として書き直しません。誤りが見つかったときや、内容が古くなったときだけ手を入れ、その理由をこの欄に残します。