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ここに書いてあることは、誰かが実際に手を動かして調べ、考え、作り上げてきたものを拾い集めています。専門の本や論文、作品、そしてそれを生み出した人たち。気になったことがあれば、ぜひそのおおもとに直接ふれてみてください。このメモには書ききれない熱を、感じてもらえると思います。

ちいさい カードに どうして たくさん 入るの? こわれたら データは どうなるの?

SDカードは、なぜあんなに小さいのにたくさん保存できるのか ── こわれたときのデータのゆくえ

データはどこまで詰めこめるのか ── NAND型フラッシュメモリの微細化と、壊れたときのゆくえ

分野:技術

USBメモリを コンピューターに さしても、なにも でて こない ことが あります。

なん日か まえまで ひらけて いた しゃしんや ぶんしょうが、きゅうに とりだせなく なる ことが あるのです。なかみは ほんとうに きえて しまったのでしょうか。それとも、どこかに のこって いるのでしょうか。SDカードや USBメモリの なかには、ちいさな ぶひんが 入って います。その ぶひんを ちいさく して、なんまいも かさねる ぎじゅつが すすんだ から、つめの さきほどの おおきさに、たくさんの データが 入る ように なりました。この メモでは、その ひみつと、こわれた とき なにが おきるのか、きえた データが もどる ときと もどらない ときを しらべます。

「USBメモリをさしても、何も出てこない」――そんな経験をしたことがある人もいるでしょう。数日前まで開けていたファイルが、急に取り出せなくなることがあります。

中の写真や書類は、本当に消えてしまったのでしょうか。それとも、どこかにまだ残っているのでしょうか。SDカードやUSBメモリ、SSDの中には、NAND型フラッシュメモリという部品が入っています[1]。爪の先ほどの大きさに、これほど大量のデータを詰めこめるのは、この部品を小さくし、さらに積み重ねる技術が進んだからです。このメモでは、その技術の歴史と、記録が壊れたときに何が起きているのか、消えたデータを取り戻せる場合とできない場合を調べます。

USBメモリをパソコンに差しても、何の反応もないことがある。数日前まで確かに開けていたファイルが、突然取り出せなくなる。

中の写真や書類は、本当に消えてしまったのか、それとも別の場所にまだ残っているのか、外から見ただけでは分からない。SDカードやUSBメモリ、SSDの中身は、NAND型フラッシュメモリと呼ばれる部品であり[1]、爪の先ほどの大きさに大量のデータを詰めこめるのは、この部品を小さくし、さらに積み重ねる技術が進んだからだ。このメモでは、その微細化の歴史と、記録媒体が壊れたときに何が起きているのか、消えたはずのデータを取り戻せる場合とできない場合を、開発した企業の技術資料などからたどる。

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1. ある日、USBメモリが うごかなく なる

1. ある日、USBメモリが読めなくなる

1. ある日、USBメモリが読めなくなる

SDカードや USBメモリ、SSDの なかには、電子でんしを とじこめて おける ちいさな 「へや」が、ものすごい かずだけ ならんで います。この へやを フラッシュメモリと いいます[1]。

この へやを ちいさく すればするほど、おなじ おおきさの カードに、もっと たくさんの へやを ならべられます。つめの さきほどの カードに、かぞくの しゃしんが なんまんまいも 入るのは、この へやを ちいさく する ぎじゅつが すすんだ からです。

けれど、へやが こわれる ことも あります。カードを さしても うごかなく なったり、「フォーマットして ください」と でたり する ことが あるのです。この メモでは、まず へやを ちいさく する ぎじゅつ、つぎに こわれかたと、きえた データの ゆくえを じゅんに しらべます。

SDカードやUSBメモリ、SSDの中には、電子を閉じこめておける小さな「部屋」が、数えきれないほど並んでいます。この部屋の集まりをNAND型フラッシュメモリと呼びます[1]。

この部屋を小さくすればするほど、同じ大きさのカードに、もっとたくさんの部屋を並べられます。爪の先ほどのカードに家族の写真が何万枚も入るのは、この部屋を小さくし、さらに積み重ねる技術が進んだからです。

けれど、部屋が壊れることもあります。カードを差しても動かなくなったり、「フォーマットしてください」と表示されたりすることがあります。このメモでは、まず部屋を小さくする技術を、次に壊れ方と、消えたデータのゆくえを順にたどります。

SDカードやUSBメモリ、SSDの中には、電子を閉じこめておける小さな「部屋」(セル)が、格子状に何十億個も並んでいる。1つのセルは、絶縁体で囲まれた膜を持ち、そこに電子を注入するか抜くかで「0」と「1」を表す。電源を切っても電子はとどまるため、データは消えない[1]。

この部屋を小さくすればするほど、同じ面積により多くの部屋を並べられ、容量が増える。爪の先ほどのカード1枚に、家族の写真を何万枚も入れられるのは、この部屋を小さくし、さらに積み重ねる技術が進んだからだ。

だが、小さくするほど、壊れ方も複雑になった。以下では、まず部屋を小さくする技術を、次に壊れ方と、消えたデータのゆくえをたどる。

2. でんきの つぶを とじこめる へや

2. 電子を閉じこめる部屋のしくみ

2. 電子を閉じこめる部屋 ── 舛岡富士雄とNAND型フラッシュ

フラッシュメモリの 1つの へやは、まわりを かべ(ぜつえんたい)で かこまれて います。この かべの なかに 電子でんしという、とても ちいさな つぶを、入れたり だしたり する ことで、「0」と 「1」の どちらかを あらわします[1]。でんきを けしても、へやの なかの 電子は そのまま のこるので、データは きえません。

この しくみを かんがえたのは、東芝とうしばの 舛岡ますおか富士雄ふじおです。1980年に、でんきの ちからで かきかえられる メモリを かんがえました。それを もっと やすく たくさん つくれる ように した「NAND(なんど)がた」の しくみは、1987年に、せかいの がっかいで はっぴょうされました[1]。

フラッシュメモリの1つの部屋は、まわりを絶縁体という壁で囲まれています。この壁の中に「電子」という、とても小さな粒を入れたり出したりすることで、「0」と「1」のどちらかを表します[1]。電源を切っても、部屋の中の電子はそのまま残るので、データは消えません。

この仕組みを考えたのは、東芝の技術者舛岡ますおか富士雄ふじおです。1980年に、電気の力で書きかえられるメモリーを発明しました。読み出しの回路を簡単にしたNOR型は1984年に、さらに、もっと安く大量に作れるようにしたNAND型の仕組みは1987年に、国際的な電子デバイスの学会(IEDM)で発表されました[1]。

その後、1つの部屋に記録できる情報も増えていきました。最初は「0」か「1」かの1ビットだけでしたが、1998年にNECが2ビットのチップを実証し、2009年に東芝とサンディスクが4ビットのチップを発表し、2010年にサムスンが3ビットの方式を量産し始めています[1]。ただし、詰めこむビット数を増やすほど、部屋の中で読み分けなければならない電気の強さの段階が増え、わずかなずれも読みまちがいにつながりやすくなり、書きかえに耐えられる回数も減っていきます[1]。

フラッシュメモリの1つのセルは、絶縁体で囲まれた「電荷を蓄える膜」を持つ。ここに電子を注入すれば「0」、電子を抜けば「1」を表す。電源を切っても電子はそこにとどまるため、データは消えない[2]。

この仕組みを考えたのは、東芝の技術者舛岡ますおか富士雄ふじおである。1980年に、電気的に書きかえられるメモリーを発明した。読み出し回路を簡略化したNOR型は1984年に、さらに安く大量生産できるようにしたNAND型のしくみは1987年に、国際電子デバイス会議(IEDM)で発表している[1][3]。

1つのセルに「0」か「1」の1ビットだけを記録する方式(SLC)から出発し、その後、同じセルの中の電子の量を細かく読み分ける方式が登場した。1998年にNECが2ビット(80Mbitのチップで実証)、2009年に東芝とサンディスクが4ビットのチップを発表し、2010年にサムスンが3ビットの方式を量産し始めている[1]。ただし、詰めこむビット数を増やすほど、セル内で区別しなければならない電圧の段階が増え、わずかな電圧のずれも読みまちがいにつながりやすくなる。書きかえに耐えられる回数(寿命)も、ビット数を増やすほど短くなる[1]。

3. へやを ちいさく すると、こまる ことも おきる

3. 小さくすればするほど、壁がうすくなる

3. 小さくする技術と、平面がぶつかった壁

へやを ちいさく すれば、おなじ ひろさに もっと たくさん ならべられます。でも、ちいさく しすぎると こまった ことが おきます。となりの へやとの かべが うすく なって、とじこめて おきたい 電子が、となりへ もれだして しまう ことが あるのです[5]。

キオクシア(むかしの 東芝とうしばの フラッシュメモリの ぶもんが できた かいしゃ)は、たいらな ままで へやを ちいさく する やりかたは、1つの へやが 16ナノメートル(1ミリの 6まんぶんの 1くらい)を きった あたりで、かべが うすく なりすぎて むずかしく なった、と せつめいして います[4][5]。

部屋を小さくすれば、同じ広さにもっとたくさん並べられます。しかし、小さくしすぎると困ったことが起きます。となりの部屋との壁が薄くなり、閉じこめておきたい電子が、となりの部屋へもれ出してしまうことがあるのです[5]。

キオクシア(かつて東芝のフラッシュメモリ部門だった会社)は、平面のまま部屋を小さくするやり方が、1つの部屋がおよそ16ナノメートル(1ミリメートルの6万分の1ほど)を切ったあたりで難しくなった、と説明しています[4][5]。壁が薄くなりすぎて、電子を安定してとどめておけなくなったのです。

壁そのものにも負担がかかります。電子を出し入れするたびに、壁には強い電圧がかかり、それが少しずつ壁の中の結びつきを壊して、絶縁の力を弱めていきます[1]。部屋を小さくして電子の出し入れをより細かく制御しようとするほど、この負担の影響を受けやすくなりました。

セル1個を小さくすればするほど、同じ面積により多くのセルを並べられ、容量が増える。回路の最小の寸法はナノメートル(10億分の1メートル)単位で語られるようになり、2000年代から2010年代にかけて、数十ナノメートルから20ナノメートルを切る水準まで縮んでいった。

だが、平面のまま小さくすることには限界があった。セル同士の間隔が狭くなると、本来1つのセルに閉じこめておきたい電子が、隣のセルへ漏れ出しやすくなり、意図しない電流が流れて、読み書きが不安定になる[5]。キオクシア(かつて東芝のフラッシュメモリ部門だった会社)は、平面のNAND型フラッシュの微細化が、およそ16ナノメートルで頭打ちになったと説明している[4][5]。

電圧を扱う側にも壁がある。セルは、電子を出し入れするとき、絶縁膜に強い電圧をかけている。この電圧が長く働くと、絶縁膜の中の原子どうしの結びつきが少しずつ壊れ、絶縁の性能が落ちていく[1]。セルを小さくして電子の出入りをより繊細に制御しようとするほど、この劣化の影響を受けやすくなる。

4. たいらを あきらめて、うえに かさねる

4. 平らをあきらめて、上に積み重ねる

4. 平面から立体へ ── 3D NANDという発想の転換

たいらな ままでは ちいさく しにくく なった ので、ぎじゅつしゃたちは べつの ほうほうを かんがえました。よこに ならべる かわりに、たてに なんまいも かさねる のです。これを「3D(すりーでぃー) NAND」と いいます[4]。

サムスンと いう かいしゃは、2013年に 24まい かさねた ものを うりだしました。キオクシアは、その あと 2015年に 48まい、2018年に 96まい、2020年に 112まい、2022年に 162まい、2023年3月には 200まい いじょう かさねる ことに せいこうして います[5]。マンションを たかく して、たくさんの 人が すめる ように するのと にて います。

平らなままでは小さくしにくくなったので、技術者たちは別の方法を考えました。横に並べる代わりに、縦に何層も積み重ねるのです。これを「3D NAND」と呼びます。東芝は2007年に、この積み重ねる構想を発表しました[4]。

実用化したのはサムスンで、2013年に24層のV-NANDを量産しました[4]。キオクシア(かつて東芝のフラッシュメモリ部門だった会社)は、その後、2015年に48層、2018年に96層、2020年に112層、2022年に162層と積み重ねる層を増やし、2023年3月には200層を超える積層を実現しています[5]。板状の電極と絶縁体を何層にも積み上げてから、垂直に穴を開けて電荷を蓄える膜と電極を通し、一度の工程ですべての層にセルを作る、という作り方です[5]。

マンションを高くして、より多くの人が住めるようにするのと似ています。ただし本当は、高く積むほど、垂直に開ける穴をまっすぐ均一に加工する難しさも増します。「小さくする」から「積み上げる」へと戦略を変えても、新しい難しさに向き合っていることになります。

平面での微細化が壁にぶつかると、東芝は2007年、セルを横に並べる代わりに縦に何層も積み重ねる「3D NAND」の構想を発表した[4]。板状の電極と絶縁体を何層にも積み上げてから、垂直に穴を開けて電荷を蓄える膜と電極を通し、一度の工程ですべての層にセルを作る、という製法だ[5]。

実用化したのはサムスンで、2013年に24層のV-NANDを量産した[4]。キオクシア(かつて東芝のフラッシュメモリ部門だった会社)は、その後2015年に48層、2018年に96層、2020年に112層、2022年に162層と積層数を増やし、2023年3月には200層を超える積層を実現している[5]。2015年の48層から数えると、8年で4倍以上に積み上がった計算になる。

キオクシア(旧東芝メモリ)のBiCS FLASHの積層数の移り変わり
年積み重ねた層の数
2015年48層
2018年96層
2020年112層
2022年162層
2023年3月200層超

積む層を増やすほど、垂直に開ける穴をまっすぐ均一に加工する難しさが増す。「小さくする」から「積み上げる」へと戦略を変えても、微細化とは別の技術的な難しさに向き合うことになった。

5. つかうほど すりへり、ほうって おいても きえていく

5. 使うほどすりへり、放っておいても消えていく

5. 書きこみの限界と、時間による劣化

へやは、電子を 入れたり だしたり する たびに、かべに すこしずつ ふたんが かかります。おなじ ばしょを なんども まげた クリップが、いつか おれて しまう ように、なんども つかった へやは、あたらしい データを かきこめなく なって いきます。

かきこみの かいすうを つかいきって いなくても、じかんが たてば、しぜんに データは うすれて いきます。とじこめて いた 電子が、かべから すこしずつ もれだす からです。ぎょうかいの めやすでは、じゅみょうの おわりに ちかづいた SSDを、でんげんを 入れずに あつい ばしょに おいて おくと、1年ほどで データが きえはじめる ことが あるそうです[7]。「フラッシュメモリだから なん十年でも あんしん」とは いいきれません[8]。

部屋は、電子を入れたり出したりするたびに、壁に少しずつ負担がかかります。同じ場所を何度も曲げたクリップが、いつか折れてしまうのと同じように、何度も使った部屋は、新しいデータを書きこめなくなっていきます[6]。

例えば2018年に発売されたサムスンの1TBのSSD「970 EVO」は、寿命の目安として「600TBW」(合計600テラバイトぶんの書きこみに耐える)という数値を示しています。1TBの容量に対して600TBWですから、単純に容量で割ると、ドライブ全体を書きかえられる回数は、およそ600回にあたります[7]。

書きこみ回数を使い切っていなくても、時間がたてば自然にデータは薄れていきます。閉じこめていた電子が、壁からわずかずつもれ出すためです。業界の目安(JEDECという団体の規格)では、寿命の終わりに近づいたSSDを、電源を入れずに高い温度の場所に置いた場合、業務用は3か月、家庭用は1年ほどでデータが失われ始めるとされています[7]。業務用のほうが短いのは意外に見えますが、書きこみに強くする設計にすると、そのぶんデータを長く保つ力が犠牲になりやすい、というトレードオフがあるためだと言われています。ただし、この理由じたいは、ここで使った出典には書かれていません。デジタルの記録の保存を研究する人たちも、フラッシュメモリは最後に使ってから1年ほどで(温度によりますが)データを失い始めることがある、と述べています[8]。寿命に余裕があり、常温で保管していれば、この期間よりずっと長くもつのがふつうですが、「フラッシュメモリだから何十年でも安心」と言い切れる根拠にはなりません。

セルは、電子を出し入れするたびに絶縁膜にわずかな負担がかかる。この負担が積み重なると絶縁膜が劣化し、そのセルは新しいデータを書きこめなくなる。同じ場所を何度も曲げた針金が、いずれ折れてしまう金属疲労に似ている[6]。

例えば2018年発売のサムスンの1TB SSD「970 EVO」は、寿命の目安として600TBW(合計600テラバイトぶんの書きこみに耐える)という数値を示す。1TBの容量に対して600TBWということは、単純に容量で割ると、ドライブ全体を書きかえられる回数(P/Eサイクル)がおよそ600回に相当する計算になる[7]。

書きこみ回数を使い切っていなくても、時間がたてば自然にデータは薄れていく。閉じこめていた電子が絶縁膜からわずかずつ漏れ出す(リーク)ためだ。業界の目安(JEDECの規格)では、書きこみの寿命を使い切ったSSDを電源を入れずに高温の場所へ置いた場合、業務用は3か月、民生用は1年ほどでデータが失われ始めるとされている[7]。業務用のほうが期間が短いのは意外に見えるが、書きこみへの強さ(耐久性)を高める設計は、データを長く保つ力(保持力)を犠牲にしやすいというトレードオフがあるためだと言われている。ただし、この理由そのものは、ここで使った出典には書かれていない。デジタル資料の長期保存を扱う分野でも、フラッシュメモリは最後に使ってからおよそ1年、保管温度によってはそれより早く、データを失い始めることがあると指摘されている[8]。逆に言えば、寿命に余裕があり常温で保管していれば、この期間よりずっと長くもつのが通常だが、「フラッシュメモリだから何十年でも安心」と言い切れる根拠にはならない。

6. こわれるのは、へやだけでは ない

6. 壊れるのは、部屋だけではない

6. 壊れるのはセルだけではない ── コントローラーとコネクタ

SDカードや USBメモリの なかには、電子を とじこめる へやだけでなく、それを あんないする ちいさな ぶひんも 入って います。この ぶひんは、どの へやに かきこむか、こわれかけた へやを さけて べつの へやに かきこむか、などを きめる やくめを します。とつぜん コンピューターが みとめなく なる こしょうの おおくは、この あんない やくの ぶひんの ふぐあいで おきると されて います[6]。

USBメモリの さしこみぐちにも じゅみょうが あります。きまりでは、さしぬきを 1,500回くらい くりかえすと、きんぞくの ぶぶんが すり へって しまう ことが かんがえられて います[6]。なかの データが ぶじでも、さしこみぐちが こわれれば、よみだせなく なって しまいます。

SDカードやUSBメモリの中には、電子を閉じこめる部屋だけでなく、それを指図する小さな半導体「コントローラー」も入っています。どの部屋に書きこむか、傷んだ部屋を避けて別の部屋に書きこむかなどを決める、案内役の部品です。突然パソコンが認識しなくなる故障の多くは、部屋そのものではなく、このコントローラー側の不具合や製造のばらつきで起きるとされています[6]。

USBメモリの差込口そのものにも寿命があります。規格上は、抜き差しを1,500回ほど繰り返すと、コネクタの金属部分がすり減って接触が悪くなることが想定されています[6]。中のデータが無事でも、差込口が壊れれば読み出せなくなります。

つまり、記録媒体が「壊れる」ときには、(1)部屋そのものが寿命で書きこめなくなる、(2)コントローラーが故障して読み書きの指図ができなくなる、(3)コネクタなど物理的な部分が壊れる、という少なくとも3つの壊れ方が混ざっています。同じ「読めなくなった」でも、原因によって、この先で何ができるかが変わってきます。

SDカードやUSBメモリの中には、NAND型フラッシュのチップ本体だけでなく、それを制御する小さな半導体「コントローラー」も載っている。読み書きの指示を出したり、劣化したセルを避けて別のセルに書きこみを振り分けたり(ウェアレベリング)する、司令塔の役割を果たす部品だ。突然パソコンが認識しなくなる故障の多くは、フラッシュのセルそのものではなく、このコントローラー側の不具合や製造不良で起きるとされる[6]。

USBメモリの差込口そのものにも寿命があり、規格上は抜き差しを1,500回ほど繰り返すと、コネクタの金属部分がすり減って接触不良を起こすことが想定されている[6]。中のデータが無事でも、差込口が壊れれば読み出せなくなる。

つまり、記録媒体が「壊れる」ときには、(1)フラッシュのセル自体が寿命で書きこめなくなる、(2)コントローラーが故障して読み書きの指示ができなくなる、(3)コネクタなど物理的な部分が壊れる、という少なくとも3つの壊れ方が混ざっている。同じ「読めなくなった」という症状でも、原因によって、その先で何ができるかが変わる。

7. きえた データの ゆくえ

7. 消したはずが残っている、残っているはずが消えている

7. 消したはずが残っている、残っているはずが消えている

パソコンの ハードディスクで ファイルを「けす」を おしても、じつは なかみは そのまま のこって いる ことが おおいです。コンピューターが けすのは、「ここに ファイルが あります」という めじるしだけで、あたらしい データで うわがきされるまで、とくべつな そふとで よみだせる ことが あります[9]。この はなしは、べつの メモ(けした しゃしんは、どこへ いくのか)で くわしく しらべました。ここでは、きえた・きえないの はなしに つづけて、きかいが こわれた ときに なにが おきるかを 見ます。

ところが SDカードや USBメモリでは、じじょうが ちがいます。けした ばしょを、コンピューターの がわが すぐに けして つぎの かきこみに そなえて しまう しくみが あるのです。この データを けす さぎょうは、すうふんの うちに おわって しまう ことが あり、けした あと しばらく すると、そふとでも もとに もどせなく なって いる ことが あります[7]。ハードディスクでは のこりやすい ものが、SDカードでは はやく きえて しまう、という ぎゃくてんが おきて いる わけです。

いっぽう、けしたのでは なく、あんないやくの ぶひんの こしょうで よみだせなく なった ときは べつです。へや じたいは ぶじな ことが あり、せんもんの ぎょうしゃが、きばんから ちいさな ぶひんだけを とりはずして、せんようの きかいに つなぎ、なおに よみだす ことが あります[11]。ただし、この やりかたは ねつを つかう ため、なかの ぶひんを こわして しまう きけんも あり、けいけんを つんだ ひとで なければ、かえって データを ぜんぶ うしなう おそれが あります[11]。

ハードディスクでファイルを「削除」しても、実はディスクの中にデータそのものは残っていることが多くあります。パソコンが消すのは「ここにファイルがある」という目印(ポインタ)だけで、新しいデータで上書きされるまで、専用のソフトで読み出せることがあります[9]。この点は、別のメモ(消した写真は、どこへ行くのか)でくわしく調べました。ここでは、その続きとして、記録媒体そのものが壊れたときに何が起きるかを見ていきます。

ところが、SSDやUSBメモリでは事情がちがいます。「TRIM」という仕組みが働いていると、パソコンが「この場所はもう使っていない」とドライブに伝え、ドライブは背後で、その場所を消去して次の書きこみに備えます。この消去は数分のうちに実行されることがあり、削除した直後ならまだ読み出せても、少し時間がたつと、ソフトでは元に戻せなくなっていることがあります[7]。ウェアレベリングという仕組みも、いつ書きかえられたデータがどこに残っているかを分かりにくくします[10]。ハードディスクでは残りやすいものが、SSDでは早く消えてしまう、という逆転が起きているのです。

一方、削除ではなく、コントローラーの故障で読み出せなくなった場合は話が別です。フラッシュのチップ自体は無事なことがあり、専門の業者が、基板からチップだけを取り外し(「チップオフ」と呼ばれる方法)、専用の読み取り装置に直接つないでデータを読み出すことがあります[11]。ただし、この方法には、熱でチップの中の水分が急にふくらんで部品が壊れる「ポップコーン現象」などの危険があり、経験を積んだ専門の作業でなければ、かえってチップを壊してデータを完全に失うおそれがあります[11]。

さらに、近年のSSDの多くは、書きこむ前にデータを自動で暗号にしています(自己暗号化ドライブ)。この場合、暗号を解く鍵はコントローラーの中だけに保管されていることが多く、コントローラーが壊れて鍵が失われると、たとえチップオフでチップ自体を読み出せても、出てくるのは意味の分からない記号の並びだけ、ということが起こりえます[12]。

ハードディスク(HDD)でファイルを「削除」しても、実はディスクの中にデータの実体はそのまま残っていることが多い。OSが消すのは、「ここにファイルがある」という目印(ポインタ)だけで、新しいデータで上書きされるまで、専用のソフトで読み出せる場合がある[9]。この点は、別のメモ(消した写真は、どこへ行くのか)で詳しく調べた。ここでは、その続きとして、記録媒体そのものが壊れたときに何が起きるかを見ていく。

ところがSSDやUSBメモリでは事情が違う。TRIMという仕組みが有効になっていると、OSが「この場所はもう使っていない」とドライブ側に伝え、ドライブは背後で、その場所を消去して次の書きこみに備える。この消去は数分のうちに実行されることがあり、削除した直後ならまだ読み出せても、少し時間が経つと、ソフトウェアでは元に戻せなくなっていることがある[7]。ウェアレベリング(書きこみ先を分散させる仕組み)も、削除の前後でデータがどのセルに移動しているかを分かりにくくする[10]。HDDでは残りやすいものが、SSDでは早く消える、という逆転が起きているわけだ。

一方で、削除ではなく、コントローラーの故障で読み出せなくなった場合は別の話になる。フラッシュのチップ自体は無事なことがあり、専門の業者が、基板からチップを取り外し(「チップオフ」と呼ばれる方法)、専用の読み取り装置に直接つないでデータを読み出すことがある[11]。ただし、この方法には、熱でチップ内部の水分が急激に膨張して部品が壊れる「ポップコーン現象」などの危険があり、経験を積んだ専門の作業でなければ、かえってチップを壊してデータを完全に失う恐れがある[11]。

さらに、近年のSSDの多くは、書きこむ前にデータを自動で暗号化している(自己暗号化ドライブ)。この場合、鍵はコントローラーの中だけに保管されていることが多く、コントローラーが壊れて鍵が失われると、たとえチップオフでチップ自体を読み出せても、出てくるのは意味の分からない暗号化されたデータの並びだけ、ということが起こりうる[12]。

8. じぶんで しらべて みよう

8. 自分でも調べてみたくなったら

8. 自分でも調べてみたくなったら

かみの ノートに かいた もじを けしゴムで けすと、うすく あとが のこって いて、あとで よめる ことが あります。でも SDカードでは、けした ばしょに すぐ べつの データを うわがき して しまう ことが あるので、あとから よめなく なる ことが あるのです。

おうちの 人に、USBメモリや SDカードが こわれて こまった はなしを きいて みましょう。だいじな しゃしんや どうがを、1つの きき だけでなく、べつの ばしょ(べつの カードや、インターネットの ほぞんサービスなど)にも コピーして いるか、いっしょに はなして みると、この メモで しらべた「きえる じょうけん」が、じぶんの くらしの どこに あてはまるか、みえて きます。

このメモで見てきたように、フラッシュメモリは「消えないはずのものが、条件次第で消える」道具です。デジタルの記録の保存に関わる人たちの間では、1つの記録媒体を永久に信頼するのではなく、劣化する前に新しい媒体やファイル形式へ定期的に複製し直す「マイグレーション」という考え方が使われています[8]。

家族に、USBメモリやSDカードが壊れて困った経験がないか、聞いてみるのも面白いでしょう。大事な写真や動画を、1つの機器だけでなく、別の場所(別のカードやインターネットの保存サービスなど)にもコピーしているかどうかを話し合ってみると、このメモで見た「消える条件」が、自分の生活のどこに当てはまるかが見えてきます。

フラッシュメモリの層の数の記録は、今も更新され続けています。キオクシアなど各社の技術情報のページ[5]を、数年後にもう一度のぞいてみると、このメモの数字がどれだけ古くなっているかが分かるはずです。

このメモで見てきたように、フラッシュメモリは「消えないはずのものが、条件次第で消える」道具である。デジタル資料の保存を担う人たちの間では、1つの記録媒体を永久に信頼するのではなく、劣化する前に新しい媒体やファイル形式へ定期的に複製し直す「マイグレーション」という考え方が使われている[8]。

手元でできることとしては、家族に、USBメモリやSDカードが壊れて困った経験がないかを聞いてみるのも面白い。大事な写真や動画を、1つの機器だけでなく、別の場所(別のカードやクラウドサービスなど)にもコピーしているかどうかを話し合ってみると、このメモで見た「消える条件」が、自分の生活のどこに当てはまるかが見えてくる。

フラッシュメモリの層数の記録は、今も更新され続けている。キオクシアなど各社の技術情報のページ[5]を、数年後にもう一度のぞいてみると、この記事の数字がどれだけ古くなっているかが分かるはずだ。

しらべた ところ

参考にした情報源

参考にした情報源

出典について:フラッシュメモリを開発した企業(キオクシア)の技術情報ページと、Wikipedia(英語版・日本語版)を使いました。会社の技術情報ページは、その会社の製品を基にした説明です。Wikipediaは、その版が示す数字や説明が、ほかの資料と食いちがうことがあります。

  1. Wikipedia「Flash memory」(英語版)。 https://en.wikipedia.org/wiki/Flash_memory (電子を閉じこめる仕組み、舛岡富士雄による発明の年、多値セル(2〜4ビット)の実用化年、絶縁膜が劣化する理由に使った)
  2. キオクシア「NAND型フラッシュメモリとは」。 https://www.kioxia.com/en-jp/rd/technology/nand-flash.html (電荷を蓄える膜に電子を出し入れして0と1を記録する仕組み、電源を切ってもデータが残ることの説明に使った、開発企業の技術情報ページ)
  3. Wikipedia「舛岡富士雄」(日本語版)。 https://ja.wikipedia.org/wiki/舛岡富士雄 (名前の読み、東芝での発明の経緯の確認に使った)
  4. Wikipedia「3D NAND」(英語版)。 https://en.wikipedia.org/wiki/3D_NAND (平面NANDの微細化が壁にぶつかった理由、東芝が2007年に3D NANDを発表したこと、サムスンが2013年に24層を量産したことに使った)
  5. キオクシア「3次元フラッシュメモリ『BiCS FLASH』とは」。 https://www.kioxia.com/en-jp/rd/technology/bics-flash.html (平面の微細化が16ナノメートルほどで難しくなった理由、板状の電極を積み上げて穴を開ける製法、2015〜2023年の積層数の推移に使った、開発企業の技術情報ページ)
  6. Wikipedia「USB flash drive」(英語版)。 https://en.wikipedia.org/wiki/USB_flash_drive (コントローラーの製造不良による故障、書きこみを繰り返したセルが金属疲労に似た形で書きこめなくなること、コネクタの抜き差し1,500回という耐久の目安に使った)
  7. Wikipedia「Solid-state drive」(英語版)。 https://en.wikipedia.org/wiki/Solid-state_drive (サムスン970 EVOの600TBWという耐久の目安、寿命末期のSSDが電源を切ると業務用3か月・民生用1年ほどでデータを失い始めるというJEDEC規格に基づく記述、TRIMによる消去の仕組みに使った)
  8. Wikipedia「Digital preservation」(英語版)。 https://en.wikipedia.org/wiki/Digital_preservation (フラッシュメモリが最後の使用から1年ほどでデータを失い始めることがあるという記述、記録を新しい媒体に複製し直す「マイグレーション」という考え方に使った)
  9. Wikipedia「Data recovery」(英語版)。 https://en.wikipedia.org/wiki/Data_recovery (ハードディスクで削除したデータが、上書きされるまで残ることがあるという説明に使った)
  10. Wikipedia「Data remanence」(英語版)。 https://en.wikipedia.org/wiki/Data_remanence (ウェアレベリングが、削除前後のデータの場所を分かりにくくすることの説明に使った)
  11. Wikipedia「Mobile device forensics」(英語版)。 https://en.wikipedia.org/wiki/Mobile_device_forensics (基板からチップを取り外して直接読み出す「チップオフ」という方法と、熱による破損の危険性の説明に使った)
  12. Wikipedia「Self-encrypting drive」(英語版)。 https://en.wikipedia.org/wiki/Self-encrypting_drive (自己暗号化ドライブで、鍵が失われると暗号化されたデータが読めなくなることの説明に使った)

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