1. きりくちは、なにを おぼえて いるの?
1. 折れ口を「地図」のように読むとは、どういうことか
1. 破面は破壊過程の記録 ── 何が読み取れるのか
おれた きんぞくを、よく 見て みましょう。きりくちには、ざらざらした ところや、つるつるした ところが あります。
この きりくちの ようすを しらべる ほうほうが あります。どんな ふうに こわれたか、どこから こわれはじめたか、ひびが どちらへ すすんだかが わかる ことが あると いいます[1]。
むかしの ほうこくでも、きりくちの もようは ちずのようだと かかれて います[2]。では、どんな もようが、どんな こわれかたの しるしなのでしょう。
折れた部品の断面を、じっくり見たことはありますか。ざらざらした部分、つるつるした部分、線のような模様。折れ口の模様は、飾りではなく、壊れ方の記録です。
大阪産業技術研究所の技術シートは、破面を調べると、壊れ方(破壊の様式)、壊れ始めた場所(開始点)、亀裂が進んだ向きが分かると説明しています[1]。1970年の労働省産業安全研究所の報告も、折れた部品の断面には地形図のような模様があり、壊れる前の出来事を示すことが多いと述べています[2]。
地図のような模様なら、読み方があるはずです。まずは、金属が「伸びて」壊れたときの顔から見てみましょう。
破面解析は、破断面の特徴から破壊様式・破壊の開始点・亀裂の進展方向を読み取る手法で、破壊過程の記録が破断面に残るという考えに立つ。大阪産業技術研究所(ORIST)の技術シートは、これを事故調査の第一歩となる作業と位置づけている[1]。
同じ見方は古くからあった。1970年の産業安全研究所の報告(RIIS-RR-19-3)は、破断部品の破面には地形図に相当するマーキングがあり、破壊に先立つ出来事の経緯を示すことが多いと述べ、電子顕微鏡で破面を見る手法を electron fractography と呼んでいる[2]。では、地形図の「等高線」に当たる模様は、破壊様式ごとにどう違うのか。まず、大きく変形してから壊れる延性破壊から見る。
2. のびて おれた めんは、どんな かお?
2. ぐにゃっと伸びて折れた面は、どんな顔をしているか
2. 延性破壊 ── 鈍い灰白色とディンプル
ごむのように びよーんと のびて、くびれて ちぎれる ことを、えんせいはかいと いいます[1]。
この きりくちは、にぶい はいいろっぽい しろに 見えます。そして、とても ちいさく 見ると、えくぼのような くぼみが、めんいっぱいに ならんで います。この くぼみを ディンプルと よびます。
くぼみは、のびる ときに できた ちいさな あなが、つながって できたものです[3]。くぼみの おおきさは、どれだけ のびたかで かわります。
では、のびないで、ぱきっと われたら、どんな かおに なるのでしょう。
針金を両手で持って引っぱり続けると、まず細くくびれ、最後にちぎれます。このように、伸びやくびれなど大きな変形を伴って壊れることを、延性破壊といいます[1]。
延性破壊の破面は、肉眼ではにぶい灰白色に見えます。ところが、電子顕微鏡で拡大すると、ディンプルと呼ばれる凹凸の連続模様が面全体を埋めています[1]。
ディンプルは、力を受けて金属が変形していくうちに、中に混じる小さな粒を核にして微小な空洞ができ、それがつながって生まれるものです[3]。ディンプルの大きさや深さは、材料がどれだけ変形したかで変わります[1]。ディンプルの破面は、粘りのある材料が大きく変形して壊れたことを示します[3]。
では、ほとんど伸びずに、一気に割れた場合はどうなるのでしょうか。
3. ぱきっと われた めんには、なにが 見える?
3. 一気に割れた面に、山形や川の模様が出るのはなぜか
3. 脆性破壊 ── シェブロンパターンとリバーパターン
ほとんど のびずに、とても はやく ひびが すすんで われる ことを、ぜいせいはかいと いいます[1]。
この きりくちは、ぎんいろに きらきら ひかって 見える ことが あります。そして、やまの かたちの せんや、まんなかから ひろがる すじが 見えます。この せんは、ひびが すすんだ むきを おしえて くれます[1]。
もっと ちいさく 見ると、かわの ながれのような もようが 見えます。きんぞくは、きまった むきの めんで われやすく、いくつもの めんに またがると だんが できます。ひびが すすむと、その だんが あつまって、かわのように 見えるのです[3]。
ところで、おなじ きんぞくでも、いつも おなじ かおで こわれるのでしょうか。
脆性破壊は、ほとんど変形せず、かなりの速さで亀裂が伝わる壊れ方です。破面は、キラキラした銀白色に光って見えます。肉眼でも、山形(シェブロン)や、中心から広がる放射状の模様が見え、亀裂が進んだ向きを示します[1]。
拡大すると、川の流れのような模様(リバーパターン)が見えます。金属の中の結晶は、決まった面でぱきっと割れる性質があります。亀裂がいくつもの割れる面にまたがると段ができ、亀裂が進むにつれてその段が合流して、川のような筋になります[3]。
支流が集まって本流になる川の地図のように、段が集まる向きが、亀裂の来た方向を指します。それでは、同じ金属が、条件によって2つの顔を見せることはあるのでしょうか。
4. おなじ きんぞくでも、かおが かわるの?
4. 同じ金属が、温度しだいで別の顔を見せることはあるか
4. 試験温度と破面 ── 遷移温度の前後
1970ねんの ほうこくに、おもしろい しけんが のって います。きんぞくに いきおいよく ちからを くわえて おる しけんです[2]。
しけんを する おんどを かえると、きりくちの もようが かわりました。ひくい おんどでは、かわの ような もよう。たかい おんどでは、えくぼの ような もよう。そのあいだの おんどでは、りょうほうが 見られました[2]。
ただし、これは すべての きんぞくに あてはまる ことでは ありません。いろいろな きんぞくの なかで、ちゅうてつだけは、はっきりした とくちょうが でませんでした。
1970年の産業安全研究所の報告に、温度を変えて金属を折る試験が出てきます。衝撃を加えて試験片を折るシャルピー衝撃試験で、純鉄・炭素鋼・ステンレス鋼・鋳鉄を調べたものです[2]。
この報告によると、延性から脆性に変わる境目の温度(遷移温度)より低い温度では、割れた面にリバーパターンが現れました。遷移温度より高い温度では、ディンプルが現れ、その間の温度では両方が見られたといいます[2]。
つまり、同じ材料でも、冷えると川の顔に、あたたかいとえくぼの顔になることがあるということです。ただし、鋳鉄では、壊れ方ごとの特徴が出ませんでした[2]。どの金属にもそのまま当てはまる決まりではありません。
ここまでは、一度の大きな力で壊れる話でした。では、小さな力が何度もかかって折れた面は、どう見えるのでしょうか。
5. なんども まげて おれた めんは、どう 見える?
5. 何度も曲げて折れた面の「貝殻模様」は、何を表すのか
5. 疲労破面 ── ビーチマークと、本数が回数ではない理由
クリップを なんども まげのばしすると、さいごに おれます。ちいさな ちからでも、くりかえし かかると、すこしずつ ひびが すすんで おれる ことが あります。これを ひろうはかいと いいます[1]。
ひろうはかいの きりくちは、のびた ようすが あまり 見えず、ぱきっと われた ように 見えます。でも、とても ちいさく 見ると、じつは すごく かたちが かわって います[1]。
めに 見える もようの ひとつが、ビーチマークです。かいがらのような ようすの すじで、こわれはじめた ところと、ひびの すすんだ むきが わかります[1]。
この すじ 1ぽんは、まげた 1かいでは ありません。ちからが とまったり かわったりした じきを はさんで すすんだ あとだと いわれます[4]。
小さな力でも、何度も繰り返しかかると、亀裂が少しずつ進んで折れることがあります。これが疲労破壊です。機械構造物の破損の7〜8割は疲労破壊だといわれています[1]。
疲労破面は、肉眼では伸びやくびれがほとんどなく、脆性破壊のように見えます。しかし、電子顕微鏡で見ると、実際には大きな塑性変形を伴っています[1]。見た目と中身が、ちがうのです。
肉眼で見える目印が、貝殻のような模様(ビーチマーク)です。この模様から、壊れ始めた場所と亀裂が進んだ向きが分かります[1]。ほかにも、複数の応力集中箇所を示すラチェットマークや、起点を示すフィッシュアイなどがあります[1]。
ここで注意したいのは、ビーチマークの線の1本が、力が1回かかった印ではないことです。荷重が止まった時期や変わった時期をはさんで亀裂が進んだ跡が、三日月形の線として見えるといわれています[4]。木の年輪のように、線の数から回数を数えられるわけではありません。では、1回に1本の縞は、どこにあるのでしょうか。
疲労破壊は、繰り返し荷重のもとで亀裂が徐々に進む破壊で、機械構造物の破損の7〜8割を占めるといわれる[1]。疲労破面は、外観では伸びやネッキングが目立たず脆性的に見えるが、ミクロ的には著しい塑性変形を伴う[1]。肉眼の印象とミクロの実態が食いちがう点に、読み誤りの余地がある。
マクロの特徴はビーチマーク(貝殻模様)で、破壊の開始部位と亀裂の進展方向が分かる。ほかに、複数の応力集中箇所を示すラチェットマークや、起点を示すフィッシュアイがある[1]。
ただし、ビーチマーク1本が荷重1回に対応するわけではない。これは、荷重の停止や変化をはさんだ亀裂進展の跡を表す三日月形の線で、肉眼で見える[4]。では、1サイクルに1本の縞とは何か。次章で述べる。
6. 1かいに 1ぽんの すじは、どうやって 見るの?
6. 1回に1本の縞は、どうやって見るのか
6. ストライエーションとマクロ・ミクロ併用
ちからが 1かい かかるごとに 1ぽん できると かんがえられて いる すじを、ストライエーションと いいます。ひびの すすむ むきに たいして、まっすぐ ならびます[5]。かたちの にた ほかの もようも あるので、ぜんぶが そうとは かぎりません。
この すじは、めでは 見えません。でんしけんびきょうと いう、とても おおきく 見える どうぐで 見ます。でんしけんびきょうは、ピントが あう ふかさが ひろいので、でこぼこの めんを 見るのに むいて いると、1970ねんの ほうこくは かいて います[2]。
すじの あいだの ひろさは、かかった ちからの おおきさと かんけいが あります。ちからが おおきいと、ひろく なる ことが ありました[2]。
1回に1本の縞は、ストライエーションと呼ばれます。疲労亀裂の進んだ部分にでき、亀裂の進む向きに垂直に並びます。多くの場合、荷重の1サイクルに1本ずつできると考えられています[5]。形の似た別の模様もあるので、縞があれば必ず回数と合うわけではありません。
肉眼では見えないので、走査電子顕微鏡で見ます。電子顕微鏡は、ピントの合う奥行きが大きく、倍率の幅も広いので、でこぼこした破面を調べるのに向いていると、1970年の報告は述べています[2]。
その報告の試験では、粘りのある材料の疲労破面にストライエーションが見られ、一定の力のもとでは間隔が場所ごとにほぼそろいました。力が大きいほど間隔は広がる傾向があり、疲労限度に近い力では縞は細かくなりました[2]。
ただし、どの金属でも同じように見えるわけではありません。材料や条件によって、観察されやすさは変わります[5]。こうして、肉眼のマクロ観察と電子顕微鏡のミクロ観察を組み合わせて、破面を読みます[1]。
ストライエーションは、疲労亀裂の進展部に現れる縞模様で、亀裂の進展方向に垂直に並び、多くの場合、荷重1サイクルに1本が対応すると考えられている[5]。ビーチマークと異なり、電子顕微鏡で観察する微細な模様である。縞の間隔は作用する力の大きさと関係する。材料や条件によって観察されやすさは異なる[5]。なお、ストライエーション状の模様でも、応力サイクルと対応しない別物があるので注意が要る。
RIIS-RR-19-3 は、延性材料の高サイクル疲労破面にストライエーションを観察し、一定の応力では間隔が局所的にそろい、応力が大きいほど間隔が広がる傾向を示し、疲労限度に近い応力では縞が細かかったと報告する[2]。この報告は、電子顕微鏡の焦点深度が大きく倍率範囲が広い点が破面観察に適するとも述べる[2]。
では、現場ではこれらをどう使い分けるのか。ORISTは、肉眼・ルーペ・低倍率の実体顕微鏡によるマクロ解析と、走査電子顕微鏡によるミクロ解析を通常は併用するとしている。マクロ観察は現場で簡単にでき、延性と脆性の区別やビーチマークによる疲労の判断ができる場合があるが、破壊様式を明確にするにはミクロ観察が必要である[1]。
7. もようを たどって、はじまりの ばしょへ もどれる?
7. 模様をたどると、本当に壊れ始めた場所に戻れるのか
7. 起点と進行順序の読み取り ── 橋の支承の調査例
ひろうはかいの ひびは、きんぞくの ひょうめんから はじまる ことが おおいと いわれます[3]。
はしの ささえに つかう ぶひんを しらべた れいでは、こわれた ぶぶんの きりくちの ビーチマークと、かわの もようから、ひょうめんの ほうから すこしずつ われ、さいごに ぱきっと われたと かんがえられました[3]。
もようを たどると、こわれた じゅんばんを かんがえる てがかりに なります。
自分でも しらべて みたく なったら
自分でも調べてみたくなったら
自分でも調べてみたくなったら
今日できること
おうちの ひとと いっしょに、クリップを なんども まげのばしして、おって みましょう。おれる まで なんかい かかったか、かぞえます。おれた さきは とぶ ことが あるので、めを まもり、てを きらないように します。
おれた きりくちを、ルーペで 見て みます。なにか 見えても 見えなくても、いろや かたちを えに かいて みましょう。
出かけてできること
かがくかんの ひとや、りかの せんせいに、おれた きんぞくの きりくちを 見せて もらえないか、きいて みましょう。
こうしきの じょうほう
おおさか さんぎょう ぎじゅつ けんきゅうしょの ホームページに、「きんぞくざいりょうの はめん かいせき」の ぎじゅつシートが のって います。
今日できること
おうちの人と一緒に、クリップを折れるまで曲げ伸ばししてみましょう。折れるまでの回数を数えます。折れた先が飛ぶことがあるので、目を守り、手を切らないように気をつけます。
折れ口をルーペで見て、色や形をスケッチします。貝殻模様が見えるかどうかは決まっていません。見えなくても、色や凹凸を記録してみます。起点や進んだ向きを知るには、専門的な観察が必要です。
出かけてできること
科学館や学校の理科の先生に、折れた金属の断面を見せてもらえないか、聞いてみましょう。場所によって、見られるかどうかは変わります。
公式情報
大阪産業技術研究所の技術シート「金属材料の破面解析」に、破面の見方がまとめられています。1970年の産業安全研究所の報告(RIIS-RR-19-3)は、英語の要旨と図が中心です。
今日できること
クリップを折れるまで曲げ伸ばしし(目を保護し、大人と一緒に行う)、回数を記録する。折れ口をルーペで観察し、色・凹凸・表面からの進み方を描く。ビーチマーク級の模様が見えるとは限らないため、見えなかった場合も記録して比べるとよい。
出かけてできること
科学館や学校の教員に、折れた金属の断面を見せてもらえるか尋ねる。
公式情報
大阪産業技術研究所の技術シート No.98046「金属材料の破面解析」と、産業安全研究所研究報告 RIIS-RR-19-3(1970年)を読み、延性・脆性・疲労の記述を、本記事の整理と突き合わせてみるのもよい。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
破面の特徴と観察方法は大阪産業技術研究所の技術シートと熊本県掲載の調査資料に、温度の試験と電子顕微鏡の話は1970年の産業安全研究所の報告に、ストライエーションと貝殻模様の補足は解説ページに依拠した。
- 大阪産業技術研究所(ORIST)技術シート No.98046「金属材料の破面解析」 https://www.orist.jp/technicalsheet/98046.pdf (破面解析の考え方・延性/脆性/疲労の特徴・マクロとミクロ)
- 産業安全研究所研究報告 RIIS-RR-19-3(1970年11月) https://www.jniosh.johas.go.jp/publication/doc/rr/RR-19-3.pdf (温度による破面の変化・ストライエーションの間隔・電子顕微鏡)
- 支承の損傷調査 2.5 破断面の観察調査(熊本県掲載の資料) https://www.pref.kumamoto.jp/uploaded/attachment/276330.pdf (ディンプルとリバーパターンのでき方・橋の調査例)
- Engineerfix「What Fracture Surfaces Reveal」 https://engineerfix.com/what-fracture-surfaces-reveal-the-basics-of-fractography/ (ビーチマークの意味)
- Wikipedia「Striation (fatigue)」 https://en.wikipedia.org/wiki/Striation_(fatigue) (ストライエーションの定義・出やすい金属)
なおした ところ
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