1. 耳の そばで、どうやって 音が 出るの?
1. 小さな磁石とコイルが、空気を揺らして音にする
1. ダイナミック型の原理 ── 電流が磁界の中で力を受けて、振動板を動かす
ヘッドホンの 中には、小さな 磁石と、ぐるぐる まいた 細い 線(コイル)が 入って います。音の 電気が コイルに 流れると、磁石との あいだに 力が 生まれます[1]。
この 力で コイルが 前後に 動くと、くっついて いる うすい 板も ふるえます。板が 空気を ゆらすと、その ゆれが 耳に とどいて 音に なります[1]。
たとえば、うちわで 小きざみに あおぐと、顔に 風が 当たります。ヘッドホンの 板は、とても 小さな うちわで、空気を 細かく ゆらして いるようなものです。ただし 本当は、風を 送るのでは なく、空気の ゆれが つたわって 音に なります。
この 方式は ダイナミックがたと よばれ、今の ヘッドホンの 多くで 使われて いると いわれます[2]。
では、この 道具は、いつ、どこで 生まれたのでしょう。
ヘッドホンの中を想像すると、何が入っているでしょうか。広く使われているダイナミック型では、磁石と、ボイスコイルと呼ばれる細い線の巻きものが主役です[1]。
電気が力に変わる
音の信号は、ふつう電流の変化として届きます。この電流がコイルを流れると、近くの磁石の磁界との間に力が生まれます。電流と磁界の向きに対して垂直に力が働くという関係で、フレミングの左手の法則として知られています[1]。
コイルは前後に動き、その動きが振動板に伝わります。振動板が空気を押したり引いたりすると、空気の揺れが耳に届いて音になります[1]。
この方式は低い歪みと広い周波数の範囲を両立しやすいとされ、現代のヘッドホンの多くで使われているとされます[2]。
こんなに小さな仕組みを、最初に形にした人たちは、どこで作っていたのでしょうか。
2. 台所で 作った ヘッドホンを、どうして たくさん ほしがる 人が いたの?
2. 電話の受話器から、台所の手作りへ
2. 受話器の応用から、ボールドウィンの台所へ ── 1910年の試作品が求められた理由
ヘッドホンの もとは、電話の 耳に 当てる 部分だと いわれます。耳の 近くで 電気の 信号を 音に する 道具として、はじまりました[2]。
それを、手作りで 実用に 近づけたのが、アメリカ・ユタ州の 発明家 ナサニエル・ボールドウィンです。1910年ごろ、台所で、小さな 音も ひろえる ヘッドセットを 作りました。のちに 海軍に 送ったと いわれます[3]。
むせんの 人が つかって いた どうぐより、ずっと よい と ほめられた そうです[3]。海軍は たくさん ほしがりましたが、台所で 作って いたので、数が 作れません[3]。
送るときは、缶に 入れ、手紙を そえたと つたえられます。1915年には、海軍が 100組を 注文した という 話も あります[4]。
やがて 工場が できて、1922年には、ひるも よるも 3交代で 動き、1日に 150台ほどを 作った と いいます[3]。
今、わたしたちが 使うのは、音楽を 聞く ヘッドホンです。それは、いつ 生まれたのでしょう。
ヘッドホンの起源は電話の技術にさかのぼるとされ、耳元で音声信号を音に戻す受話器が出発点だといわれます[2]。
台所で作った試作品
ユタ州の発明家ナサニエル・ボールドウィンは、1910年の春までに、感度の高い受話器式のヘッドセットの設計を仕上げたとされます。作業場所は自宅の台所でした[3]。
試作品は米海軍に送られ、海軍の無線通信士が使っていた機器より大きく優れていると評価されたと伝えられます[3]。紫のインクの手紙を添えてブリキ缶に入れて送った、という逸話もあります。ただしこれは1つの紹介記事にあるだけなので、そういう話が伝わっている、くらいに読むのがよさそうです[4]。
台所から工場へ
海軍は多くを求め、1915年には100組を注文した、とする資料もあります[4]。台所の手作りでは追いつかず、1922年のボールドウィンの工場は3交代で昼夜動き、1日に約150台のヘッドセットを作ったと伝えられます[3]。
ここまでは通信用が中心でした。では、「音楽を楽しむための」ヘッドホンは、いつ現れたのでしょうか。
ヘッドホンの起源は電話技術にさかのぼるとされ、受話器の応用として耳元で音声信号を再生する装置から始まった[2]。
では、「最初のヘッドホン」とは何を指すのか。受話器が先にあるので、ボールドウィンを「世界初」と断定するのは適切ではなく、実用的な現代型の原型を作った人物の一人として扱うのが妥当だ。ユタ州の発明家ナサニエル・ボールドウィンは1910年の春までに、感度の高い受話器式ヘッドセットを自宅の台所で完成させたと伝えられる[3]。試作品は米海軍に送られ、海軍の無線通信士の使う機器より大きく優れるとの評価を得た[3]。
需要は大きく、台所の手作りでは数が限られた。送付の様子として、試作品を紫インクの手紙とともにブリキ缶に入れたとする逸話と、1915年に海軍が100組を注文したとする記述もあるが、どちらも一つの紹介記事に基づくので「伝えられる」程度にとどめる[4]。生産規模の変化ははっきりしていて、1922年の工場は3交代の昼夜稼働で1日約150台を作ったと報じられた[3]。
ここまでの主な用途は通信だった。では、音楽を「ひとりで聴く」ための専用機は、いつどのように生まれたのか。
3. プレーヤーの おまけが、どうして 人気に なったの?
3. 蓄音機を見せるはずが、主役になった1958年のヘッドホン
3. SP/3(1958年)── 「ひとりで聴く」という発想と、頭の中に音が出る現象
1958年、アメリカの ジョン・コスと マーティン・ランジは、持ち運べる 蓄音機の ステレオの 音を 見せるために、ステレオ用の ヘッドホンを 作りました。ひとりで 聞く 楽しさを 見せる ためでも ありました[5]。
ところが、みせる かいで、その ヘッドホンが 思いがけず 注目を 集めました。プレーヤーそのものより、人気に なったと いいます[5]。
コス社は、このヘッドホンを「世界で はじめての、よい 音の ステレオ用」と 話して います。それまでの ヘッドホンは、むせんなどの れんらくに 使う ものが 中心だった とも いいます[6]。会社の 話なので、そう 言って いる、と 受け取って おきます。
ステレオは、左と 右の 耳に、ちがう 音を とどけます。スピーカー用の 音楽を ヘッドホンで 聞くと、左右が 大きく 分かれて 聞こえ、頭の 中に 音が あるように 感じる ことが あります[2]。
ひとりで 聞ける のは うれしい けれど、まわりが うるさい 場所では どうでしょう。
1958年、ジョン・コスとマーティン・ランジは、ポータブル蓄音機のステレオ音のよさと、「ひとりで聴く」という楽しみを見せるために、ステレオ専用ヘッドホンSP/3を作りました[5]。つまり主役は蓄音機で、ヘッドホンは見せるための道具のはずでした。
ところが展示会で、このヘッドホンは予想外に注目を集め、蓄音機本体より人気になったと伝えられます[5]。
「世界初」は会社の説明
Koss社は、SP/3を世界初のハイファイ・ステレオ用ヘッドホンだと説明しており、それ以前の製品は通信用が中心だったとしています[6]。企業の自己紹介なので、「会社はそう説明している」と読むのが安全です。
頭の中で鳴る音
スピーカー向けの音源をヘッドホンで聴くと、左右の音が極端に分かれ、頭の中で鳴っているように感じることがあります(頭内定位)。スピーカーは両方の耳に両方の音が届くのに対し、ヘッドホンは左右の耳へ別々に音を送るからだと説明されます[2]。
ひとりで聴く楽しさが広まると、次の悩みが出てきます。まわりの音です。
1958年、ジョン・コスとマーティン・ランジは、ポータブル蓄音機のステレオ音のよさと「ひとりで聴く」ことを示すため、ステレオ専用ヘッドホンSP/3を試作した。意図は蓄音機の販売促進であり、ヘッドホンは主役ではなかったが、展示会で予想外の注目を集め、蓄音機本体より人気になったとされる[5]。
Koss社は、SP/3を世界初のハイファイ・ステレオ用ヘッドホンで、それ以前のヘッドホンは通信用途が中心だったと説明している[6]。ただしこれは企業側の主張であり、公的な認定ではない。「世界初」を事実として使うのは避け、「会社はそう説明している」とするのが妥当だ。
ヘッドホンで聴くことの特徴も重要だ。スピーカーは両方の耳に両方のチャンネルの音が届くが、ヘッドホンは左右の耳へ別々の音を直接届ける。そのためスピーカー向けの音源をそのまま聴くと、左右が極端に分かれて聞こえ、頭の中に音があるように感じる(頭内定位)ことがある[2]。
「ひとりで聴く」ことが広まるほど、周囲の音が聴取を邪魔する場面は増える。では、どうやって周囲の音を減らしているのか。
4. まわりの 音を、音で けせるの?
4. 逆向きの波を足して弱める ── 得意な音と、苦手な音
4. アクティブ方式の原理と限界 ── 低く一定の音は弱まり、声は残りやすい理由
ノイズキャンセリングの ヘッドホンには、小さな マイクが 入って います。まわりの うるさい 音を マイクで ひろい、それと ぎゃくの 波の 音を 出して、うるさい 音を 弱めます[7]。
音は 空気の 波です。山と 谷が あるとすると、山と 谷を ぴったり かさねると、平らに なります。ただし 本当は、音を ぜんぶ けすのでは なく、弱めます[8]。
この しくみは、電車や エアコンの ような、ひくくて ずっと つづく 音が とくいです。一方、とつぜんの 音や、人の 会話、クラクション、駅の アナウンスの ような 高めの 音は にがてです[8]。
そこで、耳を ふさぐ 方式(イヤーカップなど)も 大切です。こちらは、人の 声のような 中くらいから 高い 音に よく ききやすく、マイクの 方式と おぎないあいます[9]。
この 方式を ひこうき用に 出した のは、ボーズ社で、1989年と つたえられて います。ひこうき用の ヘッドセットとして 発表された そうです[10]。
ノイズキャンセリングのヘッドホンには、周囲の騒音を拾う内蔵マイクがあります。そのマイクで周囲の音を検知し、その音と反対の波形(逆位相)の音を発生させて、騒音を打ち消す仕組みです[7]。音の波を山と谷に見たとき、山と谷が逆の波を重ねると、お互いに弱め合います。
得意な音と苦手な音
ただし、完全に消すのではなく弱めるのが実際のところです。ソニーの説明では、電車やエアコン、飛行機のエンジン音のような、一定で低い音に効果が高く、突然の音や変動する音には限定的だとされます。高い音に対しても効果が劣ります[8]。人の会話、クラクション、駅のアナウンスが聞こえやすいのは、このためと考えられます。
耳をふさぐ方式と補い合う
一方、イヤーカップやイヤーピースで耳をふさぐ方式(パッシブ)は、人の声やタイピング音のような中から高い音に効果的とされます。マイクを使うアクティブ方式と補い合います[9]。
ボーズ社は1989年に「Aviation Headset X」という航空機用のヘッドセットとして発表しました。開発開始や一般向け発売の年は記事によって異なるので、ここでは1989年だけを使います[10]。
便利な機能は、使い方しだいで、耳に優しいとも限りません。最後に、耳の話をします。
ノイズキャンセリング(アクティブ方式)は、内蔵マイクで周囲の騒音を拾い、それと逆位相の音を発生させて騒音を弱める[7]。音は空気の圧力の波なので、山と谷が逆の波を重ねると弱め合う、という関係を利用している。
この方式には、はっきりした得意不得意がある。ソニーの説明では、定常的な低い周波数のノイズには効果が高く、突発的で変動するノイズや高い周波数のノイズには効果が限定的になる[8]。逆の波をつくるには、騒音を拾ってから音を作って出すまでの時間が必要で、また、完全に消すのではなく「弱める」点にも注意したい。
イヤーカップやイヤーピースで耳をふさぐパッシブ方式は、人の声やタイピング音のような中〜高周波に効果的で、マイクを使う方式と補い合う[9]。つまり、電子的な方式と物理的に耳をふさぐ方式は得意な音がちがい、補い合う関係にある。
この機能は、ボーズ社が1989年に航空機用のアクティブ・ノイズキャンセリング・ヘッドセット「Aviation Headset X」を発表した[10]。開発開始や一般向けの発売の年が資料ごとに食い違うため、ここでは1989年だけを使う。
音を弱めて聞ける快適さは、使い方しだいで耳への負担にもつながる。最後に、聴力の話をする。
5. 耳で たしかめて、耳を やすませよう
5. 手で耳をふさいで確かめる ── 耳をいたわる話も
5. 手もとで確かめられること ── 聴力の資料と、さらに読む資料
てのひらで 両方の 耳を そっと ふさいで みましょう。となりの 部屋の 話し声や、テレビの 音が、小さく なる 感じが するか、きいて みます。耳を ふさぐと 聞こえかたが かわる ことが 分かります。
ヘッドホンを つかう ときは、音の 大きさを 上げすぎないように します。大きな 音を ずっと 聞くと、耳の 中の 有毛細胞が すこしずつ こわれて、難聴に なる ことが あり、一度 なくした 聞こえは もどらないと、国の やくしょの ページに あります[11]。ときどき 耳を やすませる ことが 大切です。
今日できること
手のひらで両方の耳をそっとふさぎ、まわりの音がどう変わるか聞いてみます。人の話し声、テレビの音、冷蔵庫のような低い音で、小さくなり方に違いがあるか、感じ方を比べてみましょう。あくまで感覚の確認で、測定ではありません。
耳を休ませる
大きな音を長く聞き続けると、音を脳に伝える有毛細胞が少しずつ壊れて難聴になることがあり、初期は自覚しにくく、失った聴力は戻らないと、厚生労働省のページで説明されています。音量を上げすぎず、定期的に耳を休ませることが予防として挙げられています[11]。
公式の情報
ノイズキャンセリングの原理や得意な音は、パナソニックやソニーの取扱説明のページに書かれています。
今日できること
手のひらで両耳をふさぎ、低い音(冷蔵庫など)と、声・タイピングのような中〜高めの音で、小さくなり方に違いがあるかを感じて比べる。あくまで感覚の確認であり、測定ではない。
聴力について
厚生労働省の説明では、大きな音を長く聞き続けると有毛細胞が徐々に壊れて難聴になり、初期は自覚しにくく、失った聴力は戻らない。予防は、音量を上げすぎず、定期的に耳を休ませることとされる[11]。
資料を読むなら
- パナソニック、ソニーの取扱説明:ノイズキャンセリングの原理と、効きやすい音・効きにくい音
- KSL「Utah inventions: The birth of the modern headphone」(英語):ボールドウィンの台所と工場の話
- Hi-Fi Hall of Fame「Koss SP/3」(英語):1958年のステレオ専用機の紹介
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
国内外の解説記事、メーカー・公的機関の説明を使った。企業の説明は、その会社の製品や主張についての記述である。
- 週刊アスキー(ヘッドホンの仕組み解説) https://weekly.ascii.jp/elem/000/001/719/1719360/2/ (ダイナミック型の動作)
- Wikipedia日本語版「ヘッドホン」 https://ja.wikipedia.org/wiki/ヘッドホン (ダイナミック型、受話器のルーツ、頭内定位)
- KSL「Utah inventions: The birth of the modern headphone」 https://www.ksl.com/article/news/utah/utah-inventions-the-birth-of-the-modern-headphone/38518915 (ボールドウィンの試作品と工場)
- headphone.shop「Nathaniel Baldwin: the birth of personal audio」 https://headphone.shop/nathaniel-baldwin-the-birth-of-personal-audio/ (送付の逸話と注文の話。伝聞として使用)
- Hi-Fi Hall of Fame「Koss SP/3」 https://hifihalloffame.com/equipment/koss-sp3-stereo-headphones/ (1958年のステレオ専用機)
- Koss Corporation 公式情報 https://kosscorporation.gcs-web.com/node/10671 (会社の説明。「世界初」は会社の主張)
- パナソニック「ノイズキャンセリングの説明」 https://panasonic.jp/life/entertainment/260033.html (逆位相の原理)
- ソニー 取扱説明(NC) https://www.sony.jp/support/walkman/manual/a850s/contents/09/01/01/01.html (得意な音・苦手な音)
- HP/Poly 学習ハブ https://www.hp.com/jp-ja/poly/learning-hub/active-versus-passive-noise-cancellation.html (パッシブとアクティブ)
- PHILE WEB(ボーズ取材記事) https://www.phileweb.com/news/audio/200608/25/6704.html (1989年の航空機用ヘッドセット)
- 厚生労働省「ノイズ難聴」 https://www.mhlw.go.jp/nanntyou/noise.html (大きな音と聴力)
なおした ところ
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