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ここに書いてあることは、誰かが実際に手を動かして調べ、考え、作り上げてきたものを拾い集めています。専門の本や論文、作品、そしてそれを生み出した人たち。気になったことがあれば、ぜひそのおおもとに直接ふれてみてください。このメモには書ききれない熱を、感じてもらえると思います。

飛行機ひこうきの じかんは、いきと かえりで ちがうの?

行きと帰りで飛行時間が違うのはなぜか ── 空の強い西風、偏西風とジェット気流

偏西風とジェット気流 ── 対地速度の足し算、温度差と自転、1924年の高層気象台の観測

分野:自然

2020ねん2がつ、ニューヨークから ロンドンへ むかった 飛行機ひこうきが、4じかん56ぷんで つきました。この 道すじを とぶ 飛行機ひこうきの、それまでの きろくより みじかい じかんでした[1][2]。

この 飛行機ひこうきは、音より はやい とくべつな 飛行機ひこうきでは ありません。おきゃくさんを のせて はこぶ、ふつうの 飛行機ひこうきです。それなのに なぜ、そんなに はやく つけたのでしょう。ひみつは、空の たかい ところを ふく 風に あります。日本の 飛行機ひこうきの、いきと かえりの ちがいも、その 風から 考えます。さいごは、100ねん いじょう 前に、その 風を はかった 日本の 人の お話です。

2020年2月、ニューヨークからロンドンへ向かった旅客機が、4時間56分で着陸しました。この道すじを飛ぶ亜音速機の、それまでの記録より短い時間でした[1][2]。

この飛行機は、音より速く飛べる特別な飛行機ではなく、亜音速機(音の速さより遅い飛行機)の旅客機です。それなのに、なぜそんなに早く着いたのでしょうか。答えは、上空を吹く強い西風にあります。日本の飛行機の行きと帰りの差、風が西から吹く理由(温度差と地球の自転)、冬の日本の上空の強風、そして1924年に日本で気球を使ってこの風を測っていた人の話まで、複数の資料を突き合わせてたどります。

2020年2月8〜9日、ニューヨークからロンドンへ向かったブリティッシュ・エアウェイズの747-400が4時間56分で到着し、亜音速機の同区間の記録を更新した。それまでの記録は、2018年1月にノルウェー航空の787が出した5時間13分。最大の対地速度は約1,328 km/hに達した[1][2]。

ただし、この旅客機自身の速さ(対気速度)は約909 km/hだったという[1]。差の約420 km/hは、上空の西風、つまり偏西風とジェット気流が足した分だ。行きと帰りで飛行時間が違う理由、なぜ西風なのか(温度差と自転)、冬の日本上空の強さ、そして1924年に日本の高層気象台が気球でこの風を測っていた話を、気象庁・航空気象台・学会誌などの資料を突き合わせて追う。

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1. 飛行機ひこうきの はやさに、風が たされるの?

1. 飛行機の速さに、風の速さが足される

1. 対地速度 = 対気速度 + 追い風 ── 2020年2月の記録便

飛行機ひこうきが 1じかんに すすむ きょりは、ふたつの はやさの たしざんで きまります。ひとつは、飛行機ひこうきが じぶんの ちからで 空気の 中を すすむ はやさ。もうひとつは、空気そのものの うごき、つまり 風です。

さっきの 飛行機ひこうきは、じぶんの ちからでは 1じかんに 909キロメートルぐらい でした。ところが、じめんから 見ると、いちばん はやい ときに 1じかんに 1300キロメートル あまりも 出ていました[1]。ふえた ぶんは、うしろから ふく 風、おいかぜです。いちばん つよい ところで、1じかんに 418キロメートルぐらいの 風だったと みつもられています[1]。本当は 風が ななめから ふく ことも あるので、ここでは 飛行機ひこうきの すすむ むきの 風だけを かんがえて います。

おいかぜの 日に じてんしゃで こぐと、ぐんぐん すすみますね。それと おなじです。ただし 本当は、飛行機ひこうきを すすめて いるのは ペダルでは なく エンジンで、風は その ぶんに たされて いるだけです。

この 風は、ジェット気流きりゅうと よばれる、空の とても 強い 風です[2]。

飛行機の速さには、2種類あります。空気の中を進む飛行機自身の速さ(対気速度)と、地面から見た速さ(対地速度)です。空気が止まっていれば同じですが、空気が動いていると、ずれます。追い風なら、対地速度は対気速度に風の速さを足したものになります。

記録便の飛行機自身の速さは、時速約909キロメートルでした。ところが、地面から見た最大の速さは時速約1,328キロメートルに達しました。この速さが出ていたのは、約24分間です[1]。差の分、およそ時速418キロメートルが、追い風として足されたと見積もられています[1]。実際には飛行の向きと風向きの間に角度があるため、ここでは進行方向の風の成分だけで考えています。

ここで、区間全体の平均も計算してみます。距離を約5,550キロメートル、時間を4時間56分(約4.93時間)とすると、平均は時速約1,130キロメートルです。最大の速さが出ていたのは一部の時間だけなので、平均はそれより低くなります。

この強い風は、強いジェット気流に乗ったものだと報じられています[2]。おいかぜの日に自転車をこぐと、ぐんぐん進むのと同じことが、空の上で起きたわけです。ただし本当は、飛行機はエンジンで進み、風は速さに足されるだけです。

この風は、いつも吹いているのでしょうか。日本の飛行機でも、同じ足し算は起きているのでしょうか。

飛行機の速さには、空気に対する速さ(対気速度)と、地面に対する速さ(対地速度)がある。空気が地面に対して動いていれば、両者はずれ、追い風なら 対地速度 = 対気速度 + 風速 になる。ただし実際には飛行の向きと風向きの間に角度があるため、この式の「風速」は、進行方向の風の成分として考えている。

2020年2月の記録便について、EarthDate は次のように書く。機体の対気速度は565 mph(約909 km/h)で、最大の対地速度825 mph(約1,327 km/h)は約24分間続いた[1]。Wikipedia は最大の対地速度を1,328 km/hと書く[2](1 mph = 1.609 km/h の換算の丸めの差。825 × 1.609 ≒ 1,327.5)。差の約260 mph(約418 km/h)が、追い風の分と見積もられている[1]。565 + 260 = 825 で、数字は合う。ただし同ページには別の風速の観測値もあるので、追い風の最大値は「およそ」にとどめる。

825 mph は最大値で、区間の平均ではない。距離を約5,550 km(3,451マイル)として 5,550 ÷ 4.93 を計算すると、平均は約1,130 km/h。「亜音速機」の記録なのに1,000 km/hを超えるのは、この数字が対地速度だからで、対気速度は約909 km/hのままだ。

Wikipedia は、この便が強いジェット気流に乗ったと書く[2]。では、この風は何なのか。

2. 日本の 飛行機ひこうきも、いきと かえりで ちがうの?

2. 日本でも違う ── 東京〜福岡、成田〜ニューヨーク

2. 東行きと西行きの所要時間 ── 東京〜福岡、成田〜ニューヨーク、羽田〜ホノルル

おおきな うみを わたる ときだけでは ありません。日本の 中でも、ちがいが あるようです。

ある 子ども向けの ずかんには、こんな れいが のっています。東京から ふくおかへ 行く 飛行機ひこうきは、およそ 2じかん。ふくおかから 東京へ 帰ると、およそ 1じかん半です。30ぷん、みじかくなります[3]。

ほかにも、成田なりたから ニューヨークへ 行くのに およそ 13じかん、ニューヨークから 成田なりたへ 帰るのに およそ 14じかん、という 紹介しょうかいが あります[4]。

どちらも、東へ むかう ほうが みじかいのです。ただし どちらも 「およそ」の ちがいで、便びんに よって かわります。

子ども向けの図鑑のコラムに、東京〜福岡の例があります。東京発福岡行きがおよそ2時間、福岡発東京行きがおよそ1時間半で、30分短くなります[3]。2時間に対して30分なので、4分の1です。

もう少し長い距離も見てみましょう。成田からニューヨークへ向かう便がおよそ13時間、ニューヨークから成田へ帰る便がおよそ14時間、と紹介されています[4]。羽田〜ホノルルでは、東行きのほうが1時間30分ほど早いといいます[5]。

同じ気象協会の解説には、羽田〜那覇は夏場でも、那覇から羽田へ向かうほうが約10分早い、ともあります[5]。これらはどれも目安で、便や季節によって変わります。

共通しているのは、東へ向かうほうが早いことです。行きと帰りで、何が違うのでしょうか。

子ども向けの図鑑のコラムは、東京〜福岡で東京発がおよそ2時間、福岡発がおよそ1時間半、30分の差という例を挙げる[3]。国際線では、成田〜ニューヨークが成田発でおよそ13時間、ニューヨーク発でおよそ14時間と紹介される[4]。日本気象協会の解説は、羽田〜ホノルルで東行きが1時間30分ほど早く、羽田〜那覇でも夏場に那覇発が約10分早いと書く[5]。どの数字も「およそ」の目安で、便・季節・経路によって変わる。

JAL の記事には、パイロットの談話として、冬に西へ向かうときは向かい風で対地速度が時速500 km程度にとどまることもあり、東へ向かうときは時速900 km、ときには1,000 km近くまで出る、とある[6]。区間は原文に書かれていないので、一例として読むにとどめる。

この談話の2つの数字は、別々の場面の極端な例として語られたもので、同じ条件の往復ではない。それを承知で、「同じ機体が同じ風で往復した」と仮定した思考実験をしてみる。対地速度 = 対気速度 ± 風速 で、500 = A − w、900 = A + w とすると、A(対気速度)は700 km/h、w(風)は200 km/h、つまり約55 m/sになる。差の400 km/hは、風速の2倍だ。この55 m/sは、後の章の「冬に50〜100 m/s」の範囲に入る。ただしこれは仮の計算で、実際の便の風速ではない。区間も季節も原文にない。

東行きが早い。では、その原因は地球の自転なのか。

3. 地球が 回っているから、なの?

3. 「自転のせい」ではない ── 空気も飛行機も、いっしょに回っている

3. 自転そのものは原因ではない ── 大気の共回転

「地球は 西から 東へ 回っている。だから 東へ 行く ほうが はやいのでは?」と 思う 人が 多いかも しれません。じつは、それが ちがいます。

地面も、空気も、飛行機ひこうきも、いっしょに 東へ 運ばれて いるからです。だから、地球が 回って いる ことだけでは、いきと かえりの ちがいは でません[7]。

はしって いる 電車の 中で、ボールを 上に なげても、ボールは 手に もどってきます。ボールも 電車と いっしょに うごいて いるからです。それと にています。ただし 本当は、電車は まっすぐ はしり、地球は 丸く 回っています。

ちがいを つくって いるのは、空気そのものが 地面に たいして うごいて いる こと、つまり 風です。

「地球は西から東へ回っているから、東へ飛ぶと早いのでは」と考える人は多いようです。けれども、自転そのものは、飛行時間の差の直接の原因ではありません。地面も、空気も、飛行機も、自転で同じ速さで東へ運ばれているので、それだけでは差が出ないと説明されています[7]。

走る電車の中でボールを真上に投げても、手に戻ってきます。ボールも電車と一緒に動いているからです。空気と飛行機も、地球と一緒に動いています。ただし本当は、電車は直線で走り、地球は丸く回っているので、電車のたとえは細かいところが少し違います。

差を生んでいるのは、地面に対して動いている空気、つまり風です。この風の成り立ちには、自転が関わっています。次の章で、温度差との組み合わせを見ます。

よくある説明に、「地球が自転するので、東へ向かう飛行機は速い(または遅い)」というものがある。この説明は誤りだと、飛行機の東西の差を解説する個人サイトは指摘する。大気は地球と一緒に回っており、地面も地表の空気も飛行機も、自転で同じ速さで運ばれている。だから、自転だけでは対地速度に差は出ない[7]。

差を生むのは、地面に対する空気の動き、つまり風だ。上空の平均的な風が西風であることが、東行きに有利、西行きに不利という非対称を作る。自転が無関係というわけではなく、次章のとおり、西風の向きの成立に自転が関わっている。「自転で東へ運ばれるから速い」という説明と、「自転が風の向きをつくる」という説明は、別のことだ。

4. 西風は、どうして 西から ふくの?

4. 温度差と自転が、西風をつくる

4. 温度差と自転 ── 中緯度上空が西風になる仕組み

この 風の 名前は、へんせいふうです。「西から ふく 風」の ことです。地球の まわりを、西から 東へ ふいて います。じめんの 近くでは なく、空の 高いところで ふきます[8]。

もとに なって いるのは 2つです。ひとつは、赤道の あたりは あたたかく、北極ほっきょくの あたりは つめたい、という ちがい。もうひとつは、地球が 回って いる こと。あたたかい ところと つめたい ところの ちがいを へらそうと、空気が うごきます。その うごきが、地球が 回って いる せいで 曲がり、赤道と 北極ほっきょくの あいだの あたりでは 西風に なります[8][9]。

回る ものの 上に いる 人には、まっすぐ 進む ものが 曲がって 見えます。それと にています。ただし 本当は、地球は 丸いので、曲がりかたは 場所に よって ちがいます。

この 風は、たかい ところほど、つよく なります[10]。

この風は偏西風と呼ばれます。西から東へ、地球のまわりを吹く風で、地上ではなく上空で観測されます[8]。赤道近くの東風は貿易風で、偏西風と対になります[8]。

気象庁の説明では、原因は温度差と地球の自転です。赤道付近は暖かく、極付近は冷たい。この差を小さくするように空気が大きく動き、それが地球の回転の影響を受けて、中緯度では西風になります[9]。

自転の影響は、北半球では動く空気が進む向きの右へ曲がる、と説明されることが多くあります[4]。南から北へ向かう空気が右へ曲がると、東向きの成分が生まれます。ただし本当は、「空気が地球に置いていかれるから西風になる」のではありません。空気は地球と一緒に回っています。

もうひとつ大事なのは高さです。温度差が大きいほど、高いところほど西風が強くなり、対流圏の上のほうで最も強くなります[10]。ジェット気流の強風軸が、通常およそ10キロメートルの上空にあることと、つながる話です[11]。

気象庁の気象白書は、低緯度と高緯度の気温差を解消するように大規模な大気の運動が起き、それが地球の回転の影響を受けて中緯度では西風になる、と説明する[9]。気象庁のこども向けQ&Aも、原因は温度差と自転で、偏西風は地上でなく上空で観測され、赤道付近の東風(貿易風)と対になると答えている[8]。原因は「自転だけ」でも「温度差だけ」でもなく、両方だ。

自転の効果は、赤道側から極側へ向かう流れが、北半球では進行方向の右へ曲がって東向きの成分を持つ、と説明されることが多い[4]。ただし、大気が地球に置いていかれるという意味ではない。前章のとおり、大気は地球とともに回っている。厳密には、コリオリの力(自転による見かけの力)と気圧傾度力(気圧の差が空気を押す力)がつり合って吹く風(地衡風)と、次の温度風の関係を組み合わせて理解する。

温度風の関係では、北半球の中緯度で赤道側が暖かく極側が冷たいとき、高度とともに西風が強まる。対流圏では赤道が最も暖かく極が冷たいので、温度風はほぼどこでも西向きで、ほぼ対流圏界面で最も強くなる[10]。気象白書も、上層の特に強い部分がジェット気流で、対流圏界面付近で最大になると書く[9]。ただし「温度風」は、高さの違う2点の風の差を表す量の名前で、実際に吹いている風そのものではない[10]。

5. 日本の 上は、どのくらい 強いの?

5. 冬の日本の上空は、世界でも指折りの強風

5. 偏西風とジェット気流の定義、冬の日本上空、天気が西から変わる理由

空の 高いところを ふく 大きな 西風が へんせいふう。その 中でも、とくに 強い ところが、ジェットきりゅうです[11]。空に ある、ほそ ながい 風の おびの ようなもので、ながさは 数千キロ、はばは 数百キロ、あつさは 数キロです[12]。

冬の 強い ときには、1びょうに 50〜100メートルも 進みます[11]。25メートルの プールの 2つから 4つぶんが、1びょうで すぎて いく はやさです。1じかんに すると、180〜360キロメートルです。

この 風は、冬の 日本の 上で、世界でも いちばん つよい あたりの ひとつに なります[12]。さむい 冬ほど、あたたかい ところとの ちがいが 大きいので、強い 風に なります[5]。

雲や 天気が 西から 東へ うつる ことが 多いのも、この 風の せいです[14]。ただし、雲は 雲の ある 高さの 風で うごくので、ぜんぶが 西から とは かぎりません[15]。

飛行機ひこうきが とぶ 高さは 9〜12キロメートルで、ジェットきりゅうの 高さと だいたい おなじです[5]。東へ 行く ときは 風に のって、西へ 行く ときは 風の つよい ところを よけて とぶ ことも あります[16]。

偏西風は、地球規模で、極を中心に西から東へ吹く帯状の風です。そのうち、上層の特に風が強い部分がジェット気流です[11]。偏西風とジェット気流は別のものではなく、ジェット気流は偏西風の中の強い部分です。

ジェット気流は、対流圏の上部にあり、強い風の軸は通常およそ10キロメートルの高さです。冬には、秒速50〜100メートル(時速180〜360キロメートル)に達することがあります[11]。羽田空港の航空気象台の解説では、長さ数千キロメートル、幅数百キロメートル、深さ数キロメートルの強い西風で、秒速100メートルを超えることも珍しくない、とあります[12]。どちらも冬の強いときの値で、いつもこの速さではありません。

日本付近には主に2種類のジェット気流が現れ、冬には日本上空で近づいて合流します。その結果、日本上空はアメリカ東海岸と並んで、世界でも最も西風の強い場所になります[12]。東京大学の解説は、冬は下層の北西季節風で寒気が南へ下がり、それに合わせてジェット気流も南へ下がって、世界で最も強いジェット気流になる、と表現しています[13]。

日本の上空でほぼ1年中強い西風が吹いているため、雲や天気は西から東へ動くことが多くなります[14]。ただし、雲は雲のある高さの風で動くので、東から西へ動く雲もあります[15]。

旅客機の飛ぶ高さは約9〜12キロメートルで、ジェット気流の高さと重なります[5]。西から東へ向かう飛行機は、風に乗って燃料と時間を大きく節約でき、逆向きのときは風を避けて、最短でない経路をとることもあります[12][16]。

偏西風は、赤道付近と極地方の下層を除く対流圏を、極を中心に西から東へ吹く地球規模の帯状の風で、そのうち上層の風の強い部分がジェット気流である[11]。ジェット気流は対流圏上部から圏界面(対流圏と成層圏の境目)付近の狭い領域に集中し、強風軸は通常約10 kmにあり、冬は50〜100 m/s(180〜360 km/h)に達することがある[11]。羽田空港のWEATHER TOPICSは、長さ数千km、幅数百km、深さ数kmで、100 m/sを超えることも珍しくないと書く[12]。表現は資料で違うが、どちらも冬の強いときの値であり、平均ではない。

日本付近では、寒帯前線ジェット気流(Jp)と亜熱帯ジェット気流(Js)が主に現れる。冬は日本上空で両者が合流するほど接近し、アメリカ東海岸と並んで世界でも最も西風の強い場所になる[12]。東京大学の解説は、冬は下層の北西季節風による寒気の南下に伴ってJpも南下しJsと合流し、全球で最も強いジェット気流を形成する、と書く[13]。日本語版Wikipediaには、夏の日本付近は冬の半分程度に弱まるという記述がある[16]。冬に強い理由は、南北の温度差が大きいことだ[5]。

気象庁のこども向けQ&Aは、日本上空にほぼ1年中強い西風が吹いているので、雲も西から東へ動くと説明する[14]。ただし別のQ&Aは、雲は雲のある高さの風で動くと述べている[15]。おおまかな天気が西から東へ移ることが多い、というのが正確な言い方だ。

航空機の巡航高度は約9〜12 km(30,000〜40,000フィートは約9,144〜12,192 m)で、ジェット気流の高さに重なる[5]。西から東へ向かう便は乗ることで燃料と所要時間を大幅に短縮でき[12]、逆向きは気流を避ける必要があるため、最短経路から迂回することもある[16]。一方、ジェット核の極側、圏界面付近、前線付近は晴天乱気流が起きやすい箇所とされる[12]。偏西風は南北に蛇行し、大きく蛇行すると強い寒気が南下することがある[17]。

6. この 風を、はじめに はかった 人は だれ?

6. 1924年、気球で西風を測った大石和三郎

6. 大石和三郎と高層気象台 ── 1924年12月の観測と、1926年の報告

いまから 100ねん いじょう 前、日本の 茨城県いばらきけんの 館野たてのと いう ところに、高層気象台こうそうきしょうだいが ありました。その 台長だいちょうの 大石和三郎おおいしわさぶろうさんは、風船を とばして、空の 上の 風を はかりました[18]。

1924ねんの 12がつ、9キロメートルぐらいの 高さで、1びょうに 70メートルぐらいの 西風を みつけました[19]。

その かんそくは、1926ねんに、エスペラントと いう 国と 国の あいだで 使う ことを めざして つくられた ことばで、世界へ 発表されました。でも その ころは、「ジェットきりゅう」と いう 名前も 考えも まだ ありませんでした。世界では、あまり しられませんでした[18]。

その ころ、世界の 人には ほとんど 知られなかった、と つたえられて います[18]。でも、名前が つく 前から、日本の 空の 上には、この 風が ふいて いたのです。

ジェット気流という名前が世界で使われるようになる前に、日本で上空の西風を測った人がいます。1920年に設立された高層気象台(茨城県の館野、現在のつくば市)の初代台長、大石和三郎です[18]。

大石は、測風気球(風で流される気球の動きから上空の風を調べる気球)を使いました。1924年12月、高度およそ9キロメートルで、風速およそ70メートルの西風を観測しています[19]。時速に直すと約250キロメートルです。この値を72メートルとする資料もあります。

その結果は、1926年の『高層気象台報告』第1号に、エスペラント語で載せられました。エスペラントは、国どうしの共通語をめざして作られた言語です。しかし当時は、「ジェット気流」という名前も概念もなく、世界では反響がなかったと伝えられています[18]。

なぜ届かなかったのかを、言語だけで説明するのは難しいようです[19]。日本の上空では、名前がつく前から、この強い西風が吹いていました。

高層気象台は1920年に、茨城県筑波郡小野川村館野(現在のつくば市)で設立され、大石和三郎が初代台長を務めた[18]。観測地は館野である。

気象学会誌『天気』2014年10月号の解説によれば、1924年12月、測風気球により高度9 km付近で約70 m/sの西風が観測された[19]。ブログなどの二次資料には72 m/sという値もあり、資料で幅がある。72 m/sは約259 km/hだ。

結果は1926年刊行の『高層気象台報告』第1号でエスペラント語により公表されたが、当時は「ジェット気流」の命名も概念もなく、世界の反響はなかった[18]。発表年を1925年とする記述もあるが、ここでは日本語版Wikipediaと学会誌解説の年表に合う1926年を採る。エスペラントは、国際共通語をめざして作られた言語である。

なぜ世界に届かなかったのかは、エスペラント語だったことだけでは説明しきれないとされる[19]。「日本人が世界で初めて発見した」と断定はせず、名前がつく前に、日本で観測されていた、と読むにとどめる。

7. じぶんでも たしかめて みたく なったら

7. 自分でも調べてみたくなったら

7. 自分でも調べてみたくなったら

ちずで、東京と ふくおかを さがして みましょう。東京から ふくおかへ、ゆびで なぞって みます。ゆびは、東へ すすんで いますか、西へ すすんで いますか。かえりは どちらでしょう。

おうちの 人と、東へ 行く 飛行機ひこうきと、西へ 行く 飛行機ひこうきの じかんを、ならべて しらべて みても いいですね。

  • 時刻表を使って、東京〜福岡のように、東西に長い国内線の所要時間を、行きと帰りで並べてみましょう。差は何分になるでしょうか。外国への便は、時差を引いて計算してください。
  • 南北にほぼ並ぶ路線では、行きと帰りの差はどうなるでしょうか。予想を立ててから、時刻表で確かめてみましょう。
  • この記事では、冬の日本上空が世界でも指折りの強風だと書きました。羽田空港の航空気象台の資料[12]を読んで、日本の上空に現れる2種類のジェット気流の名前を調べてみましょう。
  1. 羽田空港 WEATHER TOPICS 第18号[12]を読み、寒帯前線ジェット気流(Jp)と亜熱帯ジェット気流(Js)の違い、日本付近での現れ方を、原文で確かめる。
  2. 2章のJALパイロットの例(500 km/hと900 km/h)を、「同じ条件の往復だったと仮定した」うえで対気速度と風速に分ける計算(700 km/hと200 km/h)を、自分でやり直す。その風速約55 m/sが、冬の50〜100 m/sという範囲に入るかを確かめ、風速と時速の換算(×3.6)も確認する。
  3. 国内線と国際線の時刻表で、同じ区間の往復の所要時間を並べる。国際線は現地時間なので時差を引く。東西に長い路線と南北に近い路線とで、差がどう違うか予想して、確かめる。
  4. 『天気』2014年10月号[19]を原文で読み、大石和三郎の観測の年月・高度・風速、報告の年(1925年か1926年か)を、自分の目で確かめる。

しらべた ところ

参考にした情報源

参考にした情報源

出典について:気象庁の用語集・白書・こども向けQ&A、羽田空港の航空気象台の資料、東京大学の解説、学会誌の解説、航空会社・気象協会・図鑑・新聞系の解説、百科事典的な解説などを突き合わせて使った。何に使ったかは、それぞれの項目の最後に書いている。

  1. EarthDate "Riding the Jet Streak" (University of Texas at Austin, McDonald Observatory). https://www.earthdate.org/episodes/riding-the-jet-streak (2020年の記録便の対気速度、対地速度、追い風の見積もりについて)
  2. Wikipedia "Storm Ciara"(英語版). https://en.wikipedia.org/wiki/Storm_Ciara (記録便の飛行時間、それまでの記録、最大の対地速度について)
  3. 講談社の動く図鑑MOVE「飛行機の行きと帰りの時間はどうしてちがうの?」. https://cocreco.kodansha.co.jp/move/news/kagaku/column_list_nature_1 (東京〜福岡の所要時間の例について)
  4. 新聞がわかる「行きと帰りの飛行時間が違うのはなぜ?」. https://www.newsgawakaru.com/books-selection/6700/ (成田〜ニューヨークの所要時間、進行方向の右へ曲がる説明について)
  5. 日本気象協会 tenki.jp「空の旅 行きと帰りでかかる時間が違う理由は? 秘密は「偏西風」にあった」. https://tenki.jp/suppl/m_inada/2024/08/11/32496.html (羽田〜ホノルル・那覇の所要時間、飛行高度について)
  6. JAL「フライト時間は季節によって違う!? 旅がもっと楽しくなる飛行機×気象雑学」(OnTrip JAL). https://ontrip.jal.co.jp/jalstyle/17753212 (パイロットの談話にある、西向きと東向きの対地速度について)
  7. 知力空間「「飛行機は、西へ移動した方が速く飛べる」わけではない理由」. https://cucanshozai.com/2017/12/why-isnt-it-faster-to-fly-west.html (自転そのものは飛行時間の差の原因でない、という説明について。個人サイトなので、原理は気象庁の資料と合わせて読んだ)
  8. 気象庁 はれるんランド「偏西風、偏東風って何?」. https://www.jma.go.jp/jma/kids/kids/faq/a3_03.html (偏西風の原因が温度差と自転であること、上空で観測されることについて)
  9. 気象庁 気象白書「大気の構造と流れ」. https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/whitep/1-1-1.html (温度差をなくす運動と地球の回転で、中緯度が西風になることについて)
  10. Wikipedia「温度風」(日本語版). https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B8%A9%E5%BA%A6%E9%A2%A8 (高さとともに西風が強まる関係について)
  11. 気象庁 気象用語「気圧配置 大気の流れ・エルニーニョ・予報手法に関する用語」. https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/yougo_hp/haichi4.html (偏西風とジェット気流の定義、高さと冬の風速について)
  12. 東京航空地方気象台 羽田空港 WEATHER TOPICS 第18号「ジェット気流について」(2012年3月30日). https://www.data.jma.go.jp/haneda-airport/weather_topics/file/rjtt_wt20120330.pdf (ジェット気流の大きさ、冬の日本上空の強さ、航空機への影響について)
  13. 東京大学 大学院理学系研究科 地球惑星科学専攻 ウェブマガジン 第1号. https://www-old.eps.s.u-tokyo.ac.jp/webmagazine/wm001.html (冬の日本上空のジェット気流が強くなる仕組みについて)
  14. 気象庁 はれるんランド「雲はなぜ西から東へ動くの?」. https://www.jma.go.jp/jma/kids/kids/faq/a2_03.html (日本上空の西風と、雲が西から東へ動くことについて)
  15. 気象庁 はれるんランド「雲は西から東へ動くの?」. https://www.jma.go.jp/jma/kids/kids/faq/a2_11.html (雲は雲のある高さの風で動くことについて)
  16. Wikipedia「ジェット気流」(日本語版). https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B8%E3%82%A7%E3%83%83%E3%83%88%E6%B0%97%E6%B5%81 (逆向きの飛行機が気流を避けること、夏に弱まることについて)
  17. 東京大学先端科学技術研究センター 中村・小坂研究室「偏西風とその蛇行」. https://www.atmos.rcast.u-tokyo.ac.jp/nakamura_lab/research/research2.html (偏西風の蛇行について)
  18. Wikipedia「大石和三郎」(日本語版). https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A7%E7%9F%B3%E5%92%8C%E4%B8%89%E9%83%8E (高層気象台、1926年のエスペラント語による報告について)
  19. 日本気象学会『天気』2014年10月号「気象観測史的に見た高層気象台におけるジェット気流の発見」. https://www.metsoc.jp/tenki/pdf/2014/2014_10_0003.pdf (1924年12月の観測について)

なおした ところ

更新履歴

更新履歴(改版の記録)

  •  1章に、「対地速度=対気速度+風」の足し算は、飛行の向きと風向きの角度を考えず、進行方向の風の成分だけで考えた簡略化であることを一文で補った(3レベルとも)。「飛行機の速さに風の速さを足すと、常にその和になる」と読めてしまうのを避けるため。
  •  初版を公開。

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