1. 「おる」と「あむ」は、どう ちがうの?
1. 布のつくり方は2つ ── 交差させる「織る」と、輪をつなぐ「編む」
1. 織物と編物 ── 経糸・緯糸の直角の交差と、ループの連なり
ぬのの つくりかたには、「おる」と「あむ」の 2つが あります。
「おる」は、たての 糸と よこの 糸を、じゅうじに くぐらせて つくります[2]。
「あむ」は、糸で 小さな わっかを つくって、その わっかに つぎの わっかを ひっかけて、つないで いきます[3]。かみの わかざりを つなぐ ときのように、わっかが つぎつぎ つながって いきます。ただし ほんとうの あみめは、かみの わっかと ちがって、1ぽんの 糸が まがって できた わっかです。
シャツや ジーンズは「おった ぬの」、くつしたや Tシャツは「あんだ ぬの」です。ちがいは、糸の 太さや ざいりょうでは なく、つなぎかたに あります。
布の作り方は、大きく2つあります。
織るのは、たて糸とよこ糸を直角に交差させる方法です[2]。織り方の基本は、平織・綾織・朱子織の3つです。ジーンズに使われるデニムは、綾織の布です。
編むのは、糸で輪(ループ)を作り、その輪に次の輪をひっかけて、つないでいく方法です[3]。紙の輪飾りが1つずつ連なっていく様子に似ています。ただし本当の編み目は、切り離せる輪ではなく、1本の糸が曲がってできた輪です。
シャツやジーンズは織物、靴下やTシャツは編物です。ちがいは、糸の太さや材料ではなく、糸のつなぎ方にあります。綿・ウール・化学繊維といった材料の話は、洋服の素材のメモにあります。
織物は、経糸と緯糸という2組の糸を、直角に交差させてつくる布だ[2]。織り方の基本は平織・綾織・朱子織の3つで[2]、ジーンズのデニムは綾織である(ジーンズのメモ)。
編物は、1本または2本以上の糸で輪(ループ)をつくり、その輪に新しい輪を次々に連ねて布にしたものだ。糸を直線的に交差させない点が、織物との定義上の違いになる[3]。ループが1つずつ連なるという構造は、糸の太さや繊維の種類とは別の、つなぎ方の違いである。
編み方には、手編みをそのまま機械にした緯編と、織物の原理を応用した経編の2系統がある[3]。緯編は、理屈のうえでは1本の糸だけで布全体を編める[4]。手編みのセーターが1本の毛糸から編めるのは、この方式だからだ。
2. あんだ ぬのは、どうして のびるの?
2. 伸びているのは、糸ではなく「輪の形」
2. 編み目が伸びる仕組み ── 糸の長さはほぼそのまま、形と受け渡しが変わる
この けんきゅうで しらべた、1ぽんの 糸で あんだ ぬのは、ひっぱると ぐーんと のびます。でも、のびて いるのは 糸では ありません。糸は、ほとんど のびません[1]。
のびて いるのは、わっかの かたちです。わっかは、まるく まがって います。ひっぱると、まがった ところが ひろがって、ほそ長い かたちに かわります。となりの わっかへ、糸が すこしずつ おくられても いきます[1]。
くねくね まがった みちを ぴんと のばすと、はしから はしまでの きょりが 長く なります。みちの 長さは かわらないのに、です。あみめは、それに にて います。ただし ほんとうの あみめは、みちのように たいらでは なくて、糸が たがいに ひっかかって できた かたちです。
おった ぬのは、たてにも よこにも あまり のびないと いわれます[5]。糸が じゅうじに かさなって、おさえ あって いるからだと 考えられます。
ニットの伸びを調べた物理学者のグループが、2018年に、Physical Review X という雑誌に論文を発表しています[1]。
論文の説明では、糸が伸びるのではなく、編み目の形が変わるのです。編み目の糸は、もともと曲がっています。引っぱると、曲がった部分が大きく形を変えます。しかも、糸が隣の編み目へ送りこまれていきます。編み目のつながり方は変わらないまま、形だけが大きく変わるので、布が大きく伸びます[1]。
織物は縦にも横にもあまり伸びない、と説明されます[5]。糸が交差して押さえ合っているので動きにくい、と考えると分かりやすいでしょう。
ただし、この論文が調べたのは、1本の糸を基本の編み方(天竺)で編んだニットのモデルです。売られている服の布をそのまま測った研究ではありません。
Poincloux らの論文(Physical Review X, 2018)は、編物を、織物と違ってゆるく、非常に伸び、硬さがほとんどない布をつくれるものとして紹介する。そのうえで、マフラーの100%程度の伸びは、糸の伸び(数%)では説明できないと指摘する[1]。ここでの100%は「the order of 100%」、おおよその桁の目安であり、正確な倍率ではない。
論文が示す答えは、編み目の形にある。曲がった編み目は大きく変形でき、しかも糸が隣の編み目へ滑り込める。だから編み目全体のつながり方(位相)を保ったまま、布が大きく伸びる[1]。糸そのものはほとんど伸びず、変わるのは曲がり方と、糸の配分のほうだ。
織物は、縦横の方向にはあまり伸びないと説明される[5]。交差した糸が互いの動きを止めるためと考えられる。
この論文が扱ったのは、1本の糸を天竺(次章)で編んだニットのモデルで、市販の服の生地を測定した研究ではない。すべてのニットに、そのまま当てはめない。
3. Tシャツの ぬのは、どうして はしが くるっと まるまるの?
3. Tシャツの布「天竺」── 端が丸まる性質と、ふしぎな名前
3. 天竺編み(平編み)── 表裏の非対称と、織物に由来する名前
Tシャツの ぬのは、「てんじく」と いう あみかたが おおいです[6]。ぬのを よく 見ると、おもての ほうには、たての すじが ならんで います。うらは、ざらざらして います。
おもてと うらで、糸の とおり かたが ちがいます[4]。だから、てんじくの ぬのは、はしが くるっと まるまりやすいのです。
「てんじく」は、むかし 日本で インドを よんだ 名前です。インドから 来た おった ぬのが「てんじく」と よばれて、その 名前が、あみかたの 名前にも なった、と いわれて います[6]。おった ぬのの 名前が、あんだ ぬのの 名前に なった のです。
Tシャツやセーター、靴下、下着に多い基本の編み方を、天竺編み(平編み)といいます。薄くて、横方向によく伸びます。表側は縦の筋のように目が並び、裏側は粗い見た目です[6]。
この布には、端が丸まる性質があります。上下の端は表側へ、左右の端は裏側へ、強く丸まります。編み目をつなぐ糸が、表側と裏側に偏っているためです[4]。表と裏で糸の通り方が同じではないので、端を巻きこむ力が生まれるわけです。
名前の「天竺」は、昔の日本でインドを指した言葉です。インドから輸入された平織りの綿織物が「天竺」と呼ばれ、それが編み物の業界で、平編みの別名として定着したようです[6]。織物の名前が、編物の名前になったという説です。
Tシャツに多い天竺編みは、ニットの平編み(英語で jersey、stockinette)の別名で、もっとも基本的な編み組織だ。薄く、横方向によく伸びる。表は目が縦に並び、裏は粗く見える[6]。
表と裏は非対称である。この布は、上下の端が表側へ、左右の端が裏側へ、強く丸まる傾向がある。縦の目をつなぐ糸が表側に、横に並ぶ目をつなぐ糸が裏側に偏っているためとされる[4]。端がめくれる現象は、編み目の構造が表裏で対称でないことの表れといえる。
名前の由来は、織物のほうにある。昔の日本でインドを「天竺」と呼び、インドから輸入された平織りの綿織物が「天竺」と称された。この呼び名が、ニット業界で平編みの別名として定着したという説明がある[6]。語源としては推定的な書き方の資料であり、「〜という説」として受け取るのがよい。
4. おった ぬのは、ぜんぜん のびないの?
4. 織物も、斜めには伸びる ── 昔の靴下は織物を斜めに裁って作られた
4. 織物のバイアス方向 ── 中世の「ホーズ」は織物を斜めに裁っていた
おった ぬのは、たてにも よこにも あまり のびません。でも、ななめには すこし のびます[7]。たてと よこの 糸の あいだの かどが ずれて かわる、と 考えると、思いうかべやすいでしょう。
むかしの ヨーロッパの 人たちは、この ことを 使いました。おった ぬのを、わざと ななめに きって、足に ぴったり 合う 長い くつしたのような ふく(ホーズ)を つくって いたのです[8]。
5. くつしたを あむ きかいは、いつ できたの?
5. 編んだ靴下のほうが合った ── 1589年に生まれた編み機
5. 編んだ靴下と最初の編機 ── 1589年、ウィリアム・リーの靴下編み機
それでも、足に いちばん ぴったり 合ったのは、あんだ くつしたでした。はくぶつかんの せつめいでは、あんだ くつしたは、おった ぬので つくった ものより、きごこちが よくて、よく 合って いたと されて います[9]。
その くつしたを あむ さいしょの きかいは、1589ねんに、イギリスの ウィリアム・リーと いう 人が はつめい しました[11]。手で あむ かわりに、きかいが 糸を わっかに して いく しくみです。
脚にぴったり合う靴下は、織物と編物のどちらが得意だったのでしょうか。V&A(ヴィクトリア&アルバート博物館)の説明では、編んだ靴下は、織物で作った靴下より着心地がよく、フィットもよかったとされています[9]。
その編み物を機械にしたのが、イングランドのウィリアム・リーです。ノッティンガムの近くのカルバートンの人で、1589年に靴下編み機(ストッキング・フレーム)を発明しました。最初の機械式の編み機とされています[11]。
V&Aは、編んだ靴下(ストッキング)は、織物で作ったものより着心地がよく、フィットもよかったと述べる[9]。前章のバイアス裁ちのホーズと、編んだ靴下。「脚にぴったり合わせる」という同じねらいを、織物は裁ち方で、編物は構造でかなえた、と読める。
編物の側の記録も古い。確認できる最古級の編み物とされるのは、エジプトのフスタート遺跡(現カイロ)から出た、11世紀ごろの綿の靴下で、年代は資料によって幅がある[4]。なお、3〜5世紀ごろの有名なエジプトの靴下(足指が分かれたもの)は、編物ではなく、針1本で輪をつくるナールビンディングという別の技法で作られている[10]。古い靴下が、すべて編物とはかぎらない。
最初の機械式の編機、靴下編み機(stocking frame)は、1589年にイングランドのウィリアム・リー(ノッティンガム近郊カルバートン)が発明した[11]。
6. くつしたの でんせんは、どうして おきるの?
6. ほどけやすさは、輪でつながっていることの裏返し
6. 伝線 ── 編物がつながっていることの裏返し
あんだ くつしたは、糸が わっかで つながって います。だから、どこかで 糸が きれると、わっかが つぎつぎに ほどけて、たてに すーっと でんせんが はしる ことが あります[12]。
でんせんは、ふつうの くつしたで おきる ことです。でも、かがくの けんきゅうの もんだいにも なって います。2026ねんに、かがくの 人たちが、でんせんが どう つたわるかを しらべた ろんぶんを 出して います[12]。
7. ストレッチの ジーンズは、どうして のびるの?
7. 糸そのものが伸びれば、織物も伸びる ── スパンデックス
7. スパンデックス ── 構造の伸びと、素材の伸びは別の仕組み
のびる ジーンズは、のびる 糸が まざって いる ことが あります[14]。
その 糸は「スパンデックス」と いいます。もとの 長さの 5ばいぐらいまで のびて、また もどります[13]。1950ねんだいの おわりごろに、アメリカの かがくしゃ、ジョセフ・シヴァーズが つくりました。
糸そのものが のびる ざいりょうなら、おった ぬのも のびるように なります。
ここまでは、糸のつなぎ方(構造)が伸びを決める話でした。もうひとつ、糸そのものを、伸びる材料にする方法があります。
スパンデックスは、1950年代の終わりごろ、アメリカのデュポン社の化学者ジョセフ・シヴァーズが発明した繊維です。それまでの重いゴム糸に代わるものとして、ガードルなどの補整下着のために開発されました。もとの長さの約5倍まで伸びて、元に戻ります[13]。綿やポリエステルに少しだけまぜて使われ、織物にもニットにも使われています[14]。
ですから、「織物は伸びない」とは言い切れません。伸びる糸をまぜれば、織物でも伸びる布(ストレッチ生地)になります。伸びる仕組みは2つあります。編み目の形が変わる構造の伸びと、糸そのものが伸びる素材の伸びです。
スパンデックス(spandex)は、デュポン社の化学者ジョセフ・シヴァーズが、1950年代後半に発明した弾性繊維だ(発明年は資料によって1958年、1959年とずれる)。重いゴム糸に代わる素材として、ガードルなどの補整下着向けに開発され、もとの長さの約5倍まで伸びて戻る[13][14]。
綿やポリエステルに少量まぜて使われ、織物にもニットにも入る。糸そのものを伸びる素材にすれば、織物でも伸びる布(ストレッチ生地)になる。2010年には、米国で売られた衣料の約80%にスパンデックスが含まれていたと推定されている[14]。米国・2010年の推定値であり、日本や現在の割合ではない。
整理すると、布が伸びる仕組みは2系統ある。1つは構造で、編み目の形と糸の受け渡し(第2章)、織物の斜め方向の変形(第4章)。もう1つは素材で、糸そのものが伸びること。ストレッチ生地は、織物にもニットにも、後者を足した布だ。
8. ぬのを ひっぱって みよう
8. 自分でも調べてみたくなったら
8. 自分でも調べてみたくなったら
Tシャツと、シャツ(かハンカチ)を、りょうてで もって、そっと ひっぱって みましょう。たて、よこ、ななめ。どの むきが いちばん のびるでしょうか。ちからを いれすぎると ぬのが いたむので、ゆっくり、すこしだけ ひっぱります。
つぎに、Tシャツの おもてと うらを 見くらべます。おもては たての すじ、うらは ざらざら して いるでしょうか。あかるい へやで、よく 見くらべて みましょう。
身のまわりの布を、そっと引き比べてみましょう。Tシャツ、シャツ、靴下、ハンカチ。縦・横・斜めのどの向きが伸びるか、先に予想してから引くと、差がよく分かります。ゆっくり、少しだけ引くのがこつです。
ストレッチのジーンズを持っている人は、タグの素材表示に、伸びる糸の名前が書かれているかを見てみましょう。
明るい部屋で、Tシャツの表と裏、シャツの布の糸の並びを見比べると、輪のつながりと交差のちがいが見えるかもしれません。さらに読みたくなったら、1つめの論文(arXiv:1801.08355)の導入にマフラーの話が出てきます。英語ですが、図から見てもおもしろいでしょう。
しらべた ところ
参考にした情報源
参考にした情報源
出典について:編物の伸びを扱った物理学の論文、織物・編物・スパンデックスの百科事典的な解説、繊維の専門サイトと企業の用語集、博物館の編物の歴史、伝線を扱った論文を突き合わせて使った。何に使ったかは、それぞれの項目の最後に書いている。
- Poincloux, Adda-Bedia, Lechenault "Geometry and Elasticity of a Knitted Fabric", Physical Review X 8, 021075 (2018). https://journals.aps.org/prx/abstract/10.1103/PhysRevX.8.021075 / https://arxiv.org/abs/1801.08355 (糸は数%しか伸びないのにマフラーは100%程度伸びること、編み目の変形と糸の受け渡しによる伸びについて)
- Wikipedia "Weaving". https://en.wikipedia.org/wiki/Weaving (織物の定義と、平織・綾織・朱子織の3つの基本について)
- 繊維サーチ「ニットの知識」。 https://seni-search.jp/knit2.html (編物の定義と、緯編・経編の2系統について)
- Wikipedia "Knitting". https://en.wikipedia.org/wiki/Knitting (1本の糸で編めること、天竺編みの端の丸まり、ほどけと伝線、最古級の編物の靴下について)
- ニッティングバード「織物と編物(ニット)の違いについて」。 https://knittingbird.com/2011/05/23/353/ (織物と編物の伸縮性の一般的な違いについて)
- ファーストリテイリング「天竺編み」(用語集)。 https://www.fastretailing.com/jp/glossary/382.html (天竺編みの特徴と、名前の由来の説について)
- Wikipedia "Grain (textile)". https://en.wikipedia.org/wiki/Grain_(textile) (織物のバイアス方向の伸びと、中世のホーズの裁ち方について)
- Encyclopedia.com "Hosiery, Men's". https://www.encyclopedia.com/fashion/encyclopedias-almanacs-transcripts-and-maps/hosiery-mens (織物をバイアスに裁った長い脚衣について)
- V&A "Knitted underwear". https://www.vam.ac.uk/articles/knitted-underwear (編んだ靴下と織物の靴下の着心地・フィットについて)
- Smithsonian Magazine "1,700-Year-Old Sock Spins Yarn About Ancient Egyptian Fashion". https://www.smithsonianmag.com/smartnews-history-archaeology/1700-year-old-sock-spins-yarn-about-ancient-egyptian-fashion-180970501/ (古いエジプトの靴下とナールビンディングについて)
- V&A "The history of hand knitting". https://www.vam.ac.uk/articles/the-history-of-hand-knitting (1589年の靴下編み機とウィリアム・リーについて)
- "Laddering of a knitted fabric: a topology-induced failure" (arXiv:2604.20580, 2026). https://arxiv.org/abs/2604.20580 (伝線が、切れた糸や落ちた目から伝わる現象として研究されていることについて)
- National Inventors Hall of Fame "Joseph C. Shivers, Jr.". https://www.invent.org/inductees/joseph-c-shivers-jr (スパンデックスの発明者と、約5倍の伸びについて)
- Wikipedia "Spandex". https://en.wikipedia.org/wiki/Spandex (スパンデックスの使われ方と、2010年の米国での割合の推定について)
なおした ところ
更新履歴
更新履歴(改版の記録)
- 初版を公開。
このサイトでは、公開した記事の本文は原則として書き直しません。誤りが見つかったときや、内容が古くなったときだけ手を入れ、その理由をこの欄に残します。