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ここにあるのは、だれかが実際に調べ、考え、作ってきたことを集めたメモです。気になったら、ページの下の「参考にした情報源」から、もとの本や記事、それを生み出した人たちに、直接ふれてみてください。このメモには書ききれないおもしろさが、そこにあります。

まどの ほうへ のびる めは、どこで ひかりを かんじるの?

光を感じる場所と、曲がる場所はちがう ── 植物はどうやって光の方を向くのか

光屈性のしくみ ── ダーウィン親子(1880年)からオーキシンの偏りとフォトトロピン・PIN3まで

分野:生きもの

まどべに おいた はちの めは、いつのまにか まどの ほうへ かたむいて います。ひかりを どこで かんじて、どこが まがるのでしょう。

百五十ねんくらい まえ、ある ふたりが ちいさな ぼうしを かぶせて たしかめました。その あとを、いっしょに たどります。

窓辺の鉢植えが、気づくと窓の方に傾いている。植物は目も脳もないのに、どうして光の方向が分かるのでしょうか。

この問いに、ダーウィン親子は芽ばえの先にキャップをかぶせて挑みました。その後、曲がりの正体を運ぶ物質、光を感じる部品、その物質の運び役へと、答えが少しずつ細かくなっていった道すじを見ていきます。

植物が光の方へ曲がる現象を光屈性という。ダーウィン親子は、光を感じる場所(先端)と曲がる場所(先端より下)が別だと示した[1]。その後、オーキシンの偏り[3]、光受容体フォトトロピン[6][7]、輸送体PIN3[8][9]と、説明は分子の段階まで進んだ。

このメモでは、その道すじを原典や論文の要旨に当たりながらたどり、今も決着していない点[4][5]まで書く。

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1. ぼうしを かぶせると、どう なる?

1. 先端にキャップをかぶせる実験

1. ダーウィン親子の実験 ── 感じる場所と曲がる場所

ダーウィンと その むすこは、くさの めばえに よこから ひかりを あてました。めばえは ひかりの ほうへ まがります。

つぎに、めばえの さきっぽに、ひかりを とおさない ちいさな ぼうしを かぶせて、したの ぶぶんに よこから ひかりを あてる ことも ためしました[1]。さきっぽを きりとった めばえは、ひかりを あてても まがらず、きらなかった めばえは ひかりの ほうへ まがりました[2]。

ふたりは、ひかりを かんじて いるのは さきっぽで、まがるのは その したの ぶぶんだと かんがえました[1]。かんじる ばしょと うごく ばしょが ちがうのです。

たとえば、ろうかの スイッチを おす ばしょと、でんきが つく ばしょが ちがう のと にて います。ただし、めばえの なかの ようすは、スイッチほど はっきり みえません。

ダーウィン親子の問い

チャールズ・ダーウィンと息子のフランシスは、1880年に出した本『植物の運動力』で、カナリアクサヨシやカラスムギの芽ばえを調べた結果を書いています。光を感じるのは芽ばえの先端だけで、曲がるのは先端より下の部分だ、というのが主な内容です[1]。1880年は本が出た年で、実験そのものはそれより前のことです。

小さなキャップ

確かめ方の一つが、先端に光を通さない小さなキャップをかぶせ、下の部分はむき出しにして横から光を当てる方法でした[1]。先端を切る実験も行われ、切った芽ばえは曲がらず、無傷の芽ばえは光の方へ曲がった、とダーウィン書簡プロジェクトの解説にあります[2]。

この本には、キャップ以外の傷の影響を検討する記述もあります[1]。曲がらない理由が「傷ついたから」ではないことを確かめようとしていたことが分かります。

ダーウィン親子は『The Power of Movement in Plants』(1880)で、カナリアクサヨシ(Phalaris)とカラスムギ(Avena)の子葉鞘(しようしょう)を調べ、光を感受するのは最上部のみで、その影響が下部へ伝わって屈曲を起こすと結論した[1]。1880年は刊行年であり、実験は1870年代後半にあたる。

決め手の一つが、光を通さないキャップを先端にかぶせ、下部を露出させたまま横から照射する実験である[1]。先端を切除した個体が屈曲せず、無傷の個体が屈曲した実験は、教育資料でも紹介される[2]。キャップの素材や個々の結果は、本メモでは原典で確かめきれていないので書かない。教材で見られる「約5mmを切る」といった数値は教材の手順であり、ダーウィン本人の値とは限らない。

ダーウィン自身は傷の影響も検討している[1]。この段階ではまだ「何が伝わるのか」は不明で、日本語の解説も「先端から下へ何らかの影響が伝わる」という要約にとどめている[2]。

2. さきっぽから、なにが おりてくる?

2. 先端から「何か」が出ている ── ウェントの寒天片

2. ウェントの寒天ブロック実験とコロドニー・ウェント説

では、さきっぽから したへ、なにが つたわるのでしょう。あとの 人が、これを かんがえました。

ウェントという 人は、めばえの さきっぽを かんてんの かけらに のせて おきました。すると、めばえの ちからの もとが、かんてんに しみだします[3]。

その かんてんを、さきっぽを きった めばえの かたほうだけに のせると、くらい ところでも、そちらへ まがりました。うごきの もとは、ものとして とりだせたのです。この ものは、あとで オーキシンと よばれました。

先端を寒天にのせる

ウェントは、カラスムギの芽ばえの先端を、寒天の小さなかたまりにのせておきました。すると、成長をうながす何かが先端から寒天へしみ出します。先端を切り落とした芽ばえの片側にその寒天をのせると、暗闇の中でも曲がった、と報告されています[3]。この物質が、のちにオーキシンと呼ばれるようになりました。

1927年と1928年

ウェントの寒天片の実験は1928年とされます。ウクライナ出身のコロドニーも、1927年に同じ結論に独立に至っていたので、この考え方はコロドニー・ウェント説と呼ばれます[5]。どちらが先かは資料で微妙に異なることがあり、ここでは「ほぼ同じ時期に別々に」とだけ書いておきます。

ウェントは1920年代(学位論文は1928年)に、カラスムギ子葉鞘の先端を寒天片にのせ、成長を促進する物質を寒天へ拡散させた。この寒天を切除した先端の片側にのせると、暗黒下でも屈曲が生じた[3]。この物質はのちにオーキシンと呼ばれる。

コロドニーが1927年に、ウェントが1928年に、独立に同様の説を提出したとされ、コロドニー・ウェント説と呼ぶ[5]。先後関係は資料により異なりうるので、この点は断定を避ける。ウェントの原論文は機械翻訳調の英訳PDFで読みにくく、本メモでは読み取れた範囲の記述に限って引く。

ウェントは、カラスムギの子葉鞘が赤い光にはほとんど光屈性を示さないことも利用し、赤い光の下で成長を測定した[3]。

3. のびるのは、ひかりの あたる がわ?

3. 意外な答え ── 伸びるのは陰の側

3. オーキシンの側方移動と、陰側の伸長

ひかりの ほうへ まがるのだから、ひかりが あたる がわが のびそうです。ところが、ちがいます。

のびるのは、かげの がわです。かげの がわが よく のびて、くきは ひかりの ほうへ おじぎを するように まがります[4]。

さきっぽで オーキシンが、ひかりの あたる がわから かげの がわへ うつる、と かんがえられて います[4]。ただし、これは いまも しらべが つづいて います。

光が当たる側ではなく

光の方へ曲がるのだから、光が当たる側がよく伸びると思いたくなります。コロドニー・ウェント説の説明は逆です。芽ばえの先端で、オーキシンが光の当たった側から陰の側へ移り、陰の側の細胞がよく伸びることで、全体が光の方へ曲がる、という考え方です[4]。

ウェント自身も寒天片の考察で、片側から光を当てると、先端の下へ運ばれるオーキシンは光の側で陰の側より少なくなる、と述べています[3]。割合の数字は、確認できた資料では読み取れませんでした。「陰の側に多い」という方向だけを、ここでは押さえておきます。

コロドニー・ウェント説は、オーキシンが子葉鞘先端で光照射側から陰側へ移動し、陰側の細胞がよく伸長して屈曲が生じると説明する。日本植物生理学会の解説によれば、現在も主流であり、遺伝学的な支持が多い[4]。

ウェントも、片側照射の際に基部側へ輸送されるオーキシンは光側で陰側より少ないと述べた[3]。光側の量が減って陰側が伸びる、という向きが要点である。光側と陰側の比を示す数値は、確認した資料からは得られなかった。

4. ひかりを かんじる ぶひんは なに?

4. 光を感じる部品を探す ── フォトトロピンの発見

4. nph変異体とフォトトロピン(1995〜1998年)

では、ひかりを うけとる ぶひんは、なんでしょう。それを さがす ために、ひかりの ほうへ まがらない しょくぶつが しらべられました。

そのうち ひとつの ぶひんは、あおい ひかりを うけとる、からだの ざいりょうの ひとつ(たんぱくしつ)だと わかりました。これは フォトトロピンと よばれます[6][7]。

曲がらない突然変異体を探す

1995年、リスカムとブリッグスらは、シロイヌナズナという実験用の植物で、光の方へ曲がらない突然変異体を8系統分けました。nph(非光屈性の胚軸)という名前で、遺伝子の場所は4か所に分かれていました。そのうちNPH1は、青などの光を吸収する光受容体のタンパク質をコードしている可能性がある、と、この時点では推測されていました[6]。光を感じる部品だと実際に示されたのは、次の1998年の研究です。

青い光で反応する部品

1997年にはNPH1の遺伝子配列が報告され、光の感知に関わる領域を持つことが分かりました。1998年には、青い光でNPH1タンパク質が変化を受け、フラビンを結ぶ光受容体だと示されています[7]。この受容体がフォトトロピンです。シロイヌナズナにはphot1とphot2があるとされますが、それぞれの働き方の差については、この記事では数字に踏み込みません。

Liscum & Briggs(1995)は、光屈性を欠く、または著しく弱いシロイヌナズナ突然変異体8系統をnph(nonphototropic hypocotyl)と名づけ、4遺伝子座に分類した。NPH1は青・UV-A・緑を吸収する光受容体のタンパク質をコードする可能性が、この時点では示唆されたにとどまる[6]。光受容体としての実証は後続研究(1998年)による。

NPH1の配列は1997年に報告され、キナーゼ領域とLOV1・LOV2の二つの光感知関連領域をもつと分かった。1998年にはNPH1が青色光でリン酸化され、フラビンモノヌクレオチド(FMN)を結合する光受容体であることが示され、のちにフォトトロピンと呼ばれた[7]。命名の年は本メモの資料では確認しておらず、書かない。

フォトトロピンは青色光による自己リン酸化を通じて光屈性に働く。シロイヌナズナにはphot1とphot2があり、光の強さの範囲が異なるとされるが、数値は原文未確認のため扱わない。

5. オーキシンを はこぶ やくは だれ?

5. オーキシンを運ぶ役 ── PIN3が片側に寄る

5. PIN3の偏在(2002年・2011年)

ひかりを うけとった あと、オーキシンを かげの がわへ はこぶ やくが います。PIN3という たんぱくしつが、その ひとつだと かんがえられて います[8]。

くらい ときは、PIN3は さいぼうの まわりに ひろがって います。ひかりを あてると、かたよる ようです。オーキシンが かげの がわへ むかい、そこが のびる、と ていあんされました[9]。

ただし、これは しょくぶつの ひとつの ぶぶんでの はなしです。ぜんぶの しょくぶつで おなじとは いえません。

運び役の遺伝子

2002年、PIN3はオーキシンを細胞の外へ出す働きに関わる遺伝子で、重力や光への曲がりの際に、オーキシンが片側にたまる仕組みに関わる、と報告されました[8]。

光が運び役の位置を変える

2011年には、シロイヌナズナの胚軸で、暗いところではPIN3が細胞のまわり全体にあるのに、光を当てると、PINOIDという酵素の遺伝子の読み取りが抑えられ、PIN3が細胞の内側の面へ偏る、という研究が出ました。その結果、オーキシンの流れが陰側へ向かい、陰側が伸びて光の方へ曲がるのだろう、と提案されています[9]。論文は「おそらく」という言い方をしており、これは胚軸での知見なので、すべての植物や場所にそのまま当てはまるとは言えません。

Friml et al.(2002)は、オーキシン流出の調節因子であるPIN3の変異が示差成長を変えることから、PIN3が屈性の際のオーキシンの偏りに関わると報告した[8]。

Ding et al.(2011)は、シロイヌナズナ胚軸で、暗所ではPIN3が細胞の全側面に分布するが、照射後は光がPINOID転写を抑制し、PIN3が内側の側面に偏在化すると提案した。これによりオーキシンの流れが陰側へ向かい、伸長と屈曲が生じると推定される(原文はpresumably)[9]。胚軸での知見であり、他の器官・種への一般化は控える。

6. まだ わからない ことは?

6. まだ決着していないこと

6. コロドニー・ウェント説への批判と別仮説

オーキシンが かげの がわに おおいと いう せつめいは、いまも おおすじで うけいれられて います[4]。でも、ぜんぶが とけたわけでは ありません。

ほかにも、ひかりの あたる がわで のびを おさえる ものが ふえる、という かんがえも あります。日本の けんきゅうしゃが ていあんした かんがえです[4]。

まどべの はちを ぐるっと まわして、すうじつ あとに くきが どちらへ まがって いるか みると、じぶんの めで たしかめる たのしみが あります。

批判と、支持の積み重ね

コロドニー・ウェント説は、1980年代の中ごろから、オーキシンの濃度の差だけでは説明しきれないのではないか、という理由などで、批判を受けました。その後、光や重力によるオーキシンの偏りを示す証拠が積み重なり、大筋は支持されています。ただし、ほかのホルモンも関わっていて、説明が完全ではないとされます[5]。

別の仮説

日本の研究者からは、光の側で成長を抑える物質が増えることで光屈性が起こる、という別の仮説も出ています。詳しい研究がさらに必要とされていて、主流はコロドニー・ウェント説です[4]。通説が誤りだと言われているわけではありません。

コロドニー・ウェント説は1980年代中ごろから、オーキシンの濃度差だけでは説明しきれないという点などを理由に、深刻な批判を受けた。その後、光・重力に応じた偏りの証拠が蓄積し、大筋は支持されるが、他のホルモンも関与し、説明は完全でないとされる[5]。

日本の研究者によるブルインスマ・長谷川説は、光側で成長抑制物質が増えて屈曲が起こると考える。さらなる研究が必要とされ、主流はコロドニー・ウェント説である[4]。

自分でも しらべて みたく なったら

自分でも調べてみたくなったら

自分でも調べてみたくなったら

よく ひの あたる まどべの はちを、おなじ ばしょに おいて、くきや はっぱが どちらへ むいて いるか えに かきます。つぎに はちを はんぶん まわして、まわした ひと、すうじつ あとの むきを、それぞれ えに かいて くらべて みましょう。

もっと しりたく なったら、としょかんで「しょくぶつの ひかりへの はんのう」に ついて かいて ある ほんを、おうちの 人と さがして みても いいです。

今日できること:日当たりのよい窓辺の鉢植えを同じ場所に置き、茎や葉がどちらを向いているかをスケッチしてみましょう。鉢を半周回した日と、数日後の向きを記録すれば、向きが変わっていく様子を追えます。「なぜ陰の側が伸びるのか」を考えながら見るのが、この記事の続きになります。

公式情報:日本植物生理学会の「みんなのひろば」は、日本語で光屈性の仮説を紹介しています。図書館で、植物の光への反応をあつかった本を探してみるのもおすすめです。

※植物を育てる場所や薬品を使う実験は、大人と一緒に安全に注意して行ってください。

資料を読むなら、まず日本植物生理学会の「みんなのひろば」の解説[4]が日本語で、二つの仮説を整理している。ダーウィンの原典[1]はプロジェクト・グーテンベルクで公開されており、キャップの実験の記述を直接読める(英語)。

フォトトロピン[6][7]とPIN3[8][9]の論文は、要旨だけでも、遺伝子・変異体・偏在と、話が積み重なっていく様子が分かる。ただし、いずれも一種の実験植物での結果である点を押さえて読みたい。

しらべた もとの じょうほう

参考にした情報源

参考にした情報源と、その使い方

出典について:ダーウィンの原典、ウェントの論文、日本植物生理学会の解説、分子レベルの論文の要旨などを使った。何に使ったかは、それぞれの項目の最後に書いている。

  1. Darwin, C. & Darwin, F. "The Power of Movement in Plants"(1880)Project Gutenberg。https://www.gutenberg.org/cache/epub/5605/pg5605.txt (先端で光を感じ下が曲がること、キャップの実験)
  2. Darwin Correspondence Project「Power of movement in plants」。https://www.darwinproject.ac.uk/learning/universities/getting-know-darwins-science/power-movement-plants (先端を切る実験の要約)
  3. Went, F. W. "Growth Substance and Growth"(英訳PDF)。https://herba.msu.ru/shipunov/school/univ_110/papers/went1927_growth_substance_and_growth_discovery_of_auxin.pdf (寒天片の実験、オーキシンの偏り、赤い光の利用)
  4. 日本植物生理学会 みんなのひろば「光屈性のしくみに関する2つの仮説」。https://jspp.org/hiroba/q_and_a/detail.html?id=916&key=&target= (陰側が伸びる説明と別仮説)
  5. Wikipedia「Cholodny–Went model」。https://en.wikipedia.org/wiki/Cholodny%E2%80%93Went_model (1927・1928年の提案と、批判・支持の経緯)
  6. Liscum, E. & Briggs, W. R. (1995) Plant Cell 7(4):473。https://doi.org/10.1105/tpc.7.4.473 (nph変異体の分離)
  7. Huala et al. (1997)・Christie et al. (1998) Science。https://doi.org/10.1126/science.282.5394.1698 (NPH1の配列と光受容体としての性質)
  8. Friml et al. (2002) Nature 415:806。https://doi.org/10.1038/415806a (PIN3と屈性)
  9. Ding et al. (2011) Nature Cell Biology。https://doi.org/10.1038/ncb2208 (光によるPIN3の偏り)

なおした ところ

更新履歴

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