1. 40さいの たんじょうびに きゅうに みえなくなるの?
1. 老眼は40歳の誕生日に急に始まるのか
1. 調節力は10代から下がる:必要な幅との関係
ほんを よんで いたら、きゅうに もじが ぼやけた。そんな はなしを ききます。でも 老眼は、ある日とつぜん はじまる わけでは ないようです[2]。
ピントを かえる ちからは、こどもの ころから ずっと さがって いきます。154人の けんきゅうでは、10だいで ちかくの ほうは 7センチくらいまで ピントが あいました。20だいは 9センチ、40だいは 18センチです[1]。はかりかたで すうじは かわります。
ほんを よむ ときの きょりは、40センチくらい。ちからが さがっても、ひつような ぶんには よゆうが あるので、さいしょは きが つきません[2]。
おこづかいを すこしずつ つかって いくと、ある日 ほしい ものの ねだんに たりなく なります。それに にています。ただし おこづかいと ちがって、めの ちからは ひとりずつ へりかたが ちがいます。
朝起きたら急に本の字がぼやけた、という話をよく聞きます。ところが老眼は、ある日突然始まるわけではないと説明されています[2]。ピントを変える力(調節力)は、子どもの後半から着実に下がり続けます。
154人を調べた研究では、平均の調節力は10代が14.67D、20代が11.13D、40代が5.53Dでした。1÷D(m)で近くでピントが合う距離のめやすを出すと、約7cm、約9cm、約18cmです[1]。測り方で値は変わります。
近くを見るのに必要な調節力は、距離の逆数で決まります。本を40cmで読むなら2.5D、33cmなら約3Dです[2]。若いうちは力に余裕があるため、下がり始めても気づきません。下がっていく力が、必要な幅に近づいたころに「あれ?」と感じる、と考えられます。
では、資料に書かれている「何歳から」は、なぜ少しずつちがうのでしょうか。
老視は、40歳で突然始まる現象ではない。Charman(2008)の総説に基づく整理では、調節力は子どもの後半から着実に低下し、調節の速さや正確さは40歳ごろまでほとんど衰えない。40歳ごろに、近くの作業に必要な幅を下回る、というのが基本の構図である[2]。
実測値はどうか。154人を押し上げ法で測った研究(Park ら、2019)では、平均の調節力は10代14.67D、20代11.13D、40代5.53Dだった。近点を1÷D(m)で換算すると約7cm、約9cm、約18cmとなる[1]。ただし、測定法が違えば値も変わる。
では、なぜ若いうちは困らないのか。必要な調節力は距離の逆数で決まり、40cmで2.5D、33cmで約3Dである[2]。力に余裕があるうちは低下に気づかず、余裕が小さくなった時点で初めて自覚される。したがって「いつ気づくか」は、調節力の低下の速さと、普段の作業距離の両方で決まると考えられる。この考え方は、次章で見る年齢のばらつきの理解にも役立つ。
2. ろうがんに きが つく とし は、ほんに よって ちがうの?
2. 老眼に気づく年齢が資料でちがうのはなぜか
2. 老視の自覚年齢の幅:「40代」「40歳過ぎ」「45歳以降」
しらべて みると、ろうがんに きが つく とし の こたえが、すこしずつ ちがいます。
にほんの 眼科の がっかいは、40だいくらいから、ちかくを みる ときに めが つかれたり します、と せつめいして います[3]。アメリカの がっかいは、40さいを すぎると きが つき はじめる と かいて います[4]。アメリカの こうてきな けんきゅうじょは、たいてい 45さい いこうと いいます[5]。
これは、ピントの ちからが ちょうど その としに なると きゅうに へる、と いう いみでは なさそうです。「ひつような ぶんを したまわる」ところは ひとりずつ ちがうから、と かんがえられます。
そして、としを とると、だれでも ちかくに ピントを あわせる ちからが よわく なって いくと かかれて います[5]。めずらしい ことでは ありません。
老眼に気づく年齢を調べると、資料ごとに少しずつ書き方がちがいます。日本眼科学会は、調節力が加齢とともに衰え、40代くらいから近くを見る作業で目が疲れるなどの不快感を感じ始めると説明しています[3]。米国眼科学会は、40歳を過ぎると水晶体がかたくなり、気づき始めると書きます[4]。米国国立眼病研究所は、年をとれば誰でもなり、たいてい45歳以降だとしています[5]。
40代、40歳過ぎ、45歳以降。これは、調節力がその年齢でぴたりと変わるという意味ではないと考えられます。前の章で見たように、「気づく」のは、下がり続けた力が必要な幅を下回ったときです。必要な幅は作業の距離で決まるので、気づく年齢にも幅が出ます。
誰にでもいつか来る変化です。
では、力が下がるのは、目のどこが変わるからなのでしょうか。
老視の自覚年齢の記述は、資料により異なる。日本眼科学会は、調節力は加齢とともに衰え、40代くらいから近くを見る作業で眼の疲れなどの不快感が出ると説明する[3]。米国眼科学会(AAO)は40歳を過ぎると水晶体がかたくなると述べ[4]、米国国立眼病研究所(NEI)は「誰もが年とともに老視になる。たいてい45歳以降」としている[5]。
この差は、機関ごとの基準の違いというより、前章の構図から理解できる。調節力は10代から連続的に下がっており、「気づく年齢」は、必要な調節力(作業距離の逆数)を下回る時点で決まる。線を引く位置や見る距離が違えば、年齢も違って見える。ここは資料から読み取れる範囲での推論であり、各機関がそう説明しているわけではない。
3. ちかくが みえにくいのは、筋肉が よわるから?
3. 近くが見えにくくなる主な原因は、水晶体のかたさ
3. 水晶体の加齢変化:取り出した水晶体の実験と、かたくなる過程
ちからが さがるのは、めを うごかす 筋肉が よわるからでしょうか。ピントを かえる ちからが さがるのは、すいしょうたいが かたちを かえにくく なることが、おもな わけだと かんがえられて います。
めの なかには、水晶体と いう レンズが あります。ピントを あわせる ときは、この レンズが かたちを かえます。としを とると、この レンズが かたちを かえにくく なる、と カナダの だいがくの けんきゅうしつは せつめい して います[6]。
こんな じっけんが あります。ひとの めから とりだした レンズを、きかいで ひっぱります。わかい レンズは ピントを あわせる ときに ちかい かわりかたを しました。ところが、としを とった レンズは、ほとんど かわらなかった と しょうかい されて います[7]。
しかも この レンズは、いっしょう あつく なり つづけると いわれます[7]。やわらかい ゴムの ボールが、すこしずつ かたく なる ところを おもって みましょう。ただし、ほんとうの レンズは ゴムでは なく、とうめいな たんぱくしつで できています。
ピントを変える力が下がるのは、目を動かす筋肉が弱るからでしょうか。いま有力なのは、水晶体の変化が主な原因だという説明です。ウォータールー大学の研究室は、近くが見えなくなるのは、年をとった水晶体が形を変えにくくなる、水晶体の加齢変化の結果だと説明しています[6]。
これを支える実験があります。取り出したヒトの水晶体を、機械的に引っぱるのです。若い水晶体はピントを合わせるときに近い光学的な変化を示しましたが、高齢の水晶体は、調節による変化を示さなかったと紹介されています[7]。体の中から取り出してもかたさが残るので、筋肉の力だけの問題ではない、という見方が成り立ちます。
水晶体は、一生のあいだ少しずつ厚みを増し続けるといわれます。ある研究者は、調節の低下は18歳ごろから始まりうると述べています[7]。10代から力が下がるという、最初の章の話とつながります。
では、原因は水晶体だけなのでしょうか。
老視の主な原因は、水晶体の加齢変化とされる[6]。決定的な証拠の1つが、Glasser と Campbell による、摘出したヒトの水晶体を機械的に引っぱる実験である。若い水晶体では調節に近い光学的変化が見られたが、高齢の水晶体では調節による変化は起こらなかった。ただし、この実験の原論文(1998〜1999年)は確認しておらず、Review of Optometry(2002)の紹介による[7]。
水晶体は生涯にわたり前後方向に厚みを増し続ける。Koretz は、調節の低下が18歳ごろから始まりうると述べている[7]。分子レベルでは、水晶体の不溶性タンパク質(クリスタリン)が凝集して架橋し、核硬化と呼ばれる過程で柔軟性が失われると説明される[10]。
以上から、かたさの増大が調節低下の中心と考えられる。しかし、これだけで全てを説明できるかは別の問題である。
4. げんいんは、レンズだけ なの?
4. 原因は水晶体だけとは言い切れない
4. 毛様体・水晶体嚢の関与:研究者間の議論
ところが、げんいんは レンズだけ、と いいきれない という はなしも あります。
ある けんきゅうしゃは、レンズと それを つつむ ふくろの へんかに くわえて、毛様体の うごきの おとろえも あると いいます[7]。
ヒトと サルの めを しらべた 2013ねんの けんきゅうも あります。ピントを あわせる ちからは、としだけを みるより、レンズが あつく なる ぶんと、きんにくが やすんで いる ときの あつみを くみあわせたほうが、よく あてられました[8]。
めの なかの どこが、どれくらい かんけい するのか。けんきゅうしゃの あいだでも、まだ はなしあいが つづいて います。
水晶体だけが原因とは言い切れない、という研究もあります。カウフマンは、水晶体と、それを包む水晶体嚢の変化に加えて、毛様体の動きが低下することもあり、結合組織のかたさが制限の要因かもしれないと述べています[7]。
2013年の研究(ヒトとアカゲザル)では、調節の大きさを、年齢だけで予測するより、調節で水晶体が厚くなる量と、毛様体筋が休んでいるときの厚みの組み合わせで予測したほうが、よく当たったと報告されました[8]。水晶体のほかに、筋肉やそれを支える側の変化も関わっている、という見方です。
水晶体、水晶体嚢、毛様体のどれがどのくらい関わるのかは、研究者のあいだで議論が続いています。「主な原因は水晶体のかたさ」とは言えても、「水晶体だけ」とは言い切れません。
ところで、始まる年齢は、住む場所によっても変わるといわれます。
水晶体の変化を主因とみる立場は有力だが、唯一の原因とは言えない。Kaufman は、水晶体と水晶体嚢の変化に加え、毛様体の動きの低下もあり、結合組織の硬さが調節を制限する要因かもしれないと述べる[7]。
Croft ら(2013)は、ヒトとアカゲザルの研究で、調節力が年齢だけでなく、「調節時の水晶体の厚みの増加量」と「毛様体筋の休止時の厚み」の組み合わせでより良く予測されたと報告した[8]。これは、水晶体以外(筋肉・小帯側)の変化も寄与することを示唆する。
寄与の割合は研究者間で議論が続いており、ここでは「水晶体のかたさが主因とされるが、他の要素も関わる」という整理にとどめる。次に、始まる年齢の地域差を見る。
5. あつい ところの 人は はやいって ほんとう?
5. 老眼に気づく年齢と温度の関係:暑い土地ほど早いという研究
5. 始まる年齢のばらつきと温度:Weale の報告
せかいの いろいろな ところで しらべると、ろうがんが はじまる とし には、おおきな ばらつきが ありました。イギリスの けんきゅうしゃ ウィールは、かんけいが ふかそうなのは、きたか みなみか では なく、まわりの おんど だと かんがえました[9]。
のちに かかれた かいせつ でも、あたたかい くにの ほうが、おんたいの くにより ずっと はやく おこる けいこうが ある、と いわれて います[9]。
ウィールは、水晶体が からだの そとがわに ちかい ところに ある ことが、りゆう かも しれないと かんがえました。ただし、「おんどが げんいんだと しょうめい された」わけでは ありません。いまの ところ、そう かんがえられる、という ところまでです。
老眼に気づく年齢は、世界の場所によってもばらつきがあります。英国のウィールは、1981年の報告で、老視の始まる年齢には世界各地で大きなばらつきがあり、緯度よりも環境の温度のほうが決め手に見えると述べました[9]。
なぜ温度なのでしょうか。ウィールは、水晶体が体の表面に近いところにあることが、理由として考えられると述べています。また、1999年の解説でも、暖かい国のほうが温帯よりずっと早く起こる傾向があると書かれています[9]。
この差を知っておくと、「何歳から」という数字は、ある条件のもとでの目安なのだと分かります。ただし温度が原因だと証明されたわけではなく、そう考えられる、という段階です。
始まる年齢には地域差がある。Weale(1981)は、世界各地で老視の開始年齢に大きなばらつきがあり、緯度よりも環境の温度のほうが決め手と見られると報告した。そして、水晶体が体の表面に十分近いため、温度の影響を受けうることがその説明として考えられると述べた[9]。1999年の解説でも、暖かい国のほうが温帯よりずっと早く起こる傾向があると書かれている[9]。
資料から言えるのは、暖かい地域ほど早い傾向がある、という方向までで、温度が原因と証明されたわけではない。
前章までの内容と合わせると、老視の開始時期は、水晶体のかたさ(主因)、必要な調節力(作業距離)、環境の温度など、複数の条件の重なりで決まって見える、と整理できる。
6. じぶんでも しらべてみたい とき
6. 自分でも調べてみたくなったら
6. さらに調べるために
きょう できること:じぶんの 「もじが ぼやけはじめる きょり」を はかって みましょう。ちいさな もじの ほんを うでを のばして もち、かたほうの めを てのひらで かくします。ほんを ゆっくり かおに ちかづけて、もじが ぼやけた ところで とめます。そこから めまでを じょうぎで はかります。
めを むりに ほそめたり、ちかづけすぎたり しません。つかれたら すぐ やめます。1かいで けっかを きめず、べつの 日にも やって みましょう。かずが ひとに よって ちがうのは、ふつうの ことです。
めの ことで きに なる ことが あったら、おうちの 人と 眼科に そうだん してください。
今日できること:自分の「字がぼやけ始める距離」を測ってみましょう。同じ本・同じ明るさで、小さな字の本を腕をのばして持ち、片目を手のひらで隠します。本をゆっくり顔に近づけ、字がぼやけ始めたところで止めて、目からの距離を定規で測ります。
目を無理に細めたり、近づけすぎたりせず、疲れたらすぐやめます。1回で決めつけず、別の日にもやってみましょう。この方法は目安で、病院の検査とは測り方がちがいます。気になることがあれば、おうちの人と眼科に相談してください。
もっと知りたくなったら:日本眼科学会のサイトに、老視(老眼)の説明があります。
近点(ぼやけ始めるまで近づけられる距離)を、小さな字の本と定規で測る方法がある。同じ本・同じ明るさで日を変えて数回測り、目安として見る。片目を隠し、本をゆっくり近づけて、字がぼやけ始めた距離を測る。調節力は1÷近点距離(m)で概算できる(10cmなら約10D)。ただし、押し上げ法などの正式な測定とは値が異なる。無理に近づけず、疲れたら中止すること。
原典に当たるなら、日本眼科学会の解説(一般向け)、Charman(2008)の総説、Weale(1981、英国眼科学誌)が読みやすい。Weale 1981 は、始まる年齢の地域差と温度の関係を、原文で確かめられる。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
老視の英語資料は、公的機関・大学研究室・学術誌のページを使った。一部の内容は二次紹介に基づく。
- Park SM ほか 調節力の年代別の測定(PLoS One、2019) https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6879161/ (年代ごとの調節力の平均)
- Charman WN「The eye in focus: accommodation and presbyopia」Clinical and Experimental Optometry(2008) https://doi.org/10.1111/j.1444-0938.2008.00256.x (調節力の低下と必要な幅)
- 日本眼科学会「老視(老眼)」 https://www.nichigan.or.jp/public/disease/name.html?pdid=36 (老視の説明と始まる年齢)
- American Academy of Ophthalmology「What Is Presbyopia?」 https://www.aao.org/eye-health/diseases/what-is-presbyopia (40歳過ぎの水晶体)
- National Eye Institute「Presbyopia」 https://www.nei.nih.gov/learn-about-eye-health/eye-conditions-and-diseases/presbyopia (誰もがなる、45歳以降)
- University of Waterloo, Campbell Labs「Presbyopia」 https://uwaterloo.ca/campbell-labs/node/14 (水晶体の加齢変化)
- Review of Optometry「Presbyopia: New Insight Into an Age-Old Problem」(2002) https://www.reviewofoptometry.com/article/presbyopia-new-insight-into-an-age-old-problem (摘出水晶体の実験、複数の要因)
- Croft ほか「Extralenticular and lenticular aspects of accommodation and presbyopia in human versus monkey eyes」IOVS(2013) https://www.ophth.wisc.edu/blog/2013/07/26/extralenticular-and-lenticular-aspects-of-accommodation-and-presbyopia-in-human-versus-monkey-eyes/ (調節力を予測する要素)
- Weale RA 老視の開始年齢と温度の報告(British Journal of Ophthalmology、1981。1999年の Community Eye Health の解説も参照) https://bjo.bmj.com/content/65/12/869 (始まる年齢と温度)
- Wikipedia「Presbyopia」 https://en.wikipedia.org/wiki/Presbyopia (世界の人数の推計、水晶体のタンパク質。二次資料)
なおした ところ
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