1. ぶらさがって いて、なぜ つかれないの?
1. ぶら下がりっぱなしでも、なぜ疲れないのか
1. 静止しているとき、筋はほとんど働いていない
てつぼうに ぶらさがると、すぐに うでが つかれますよね。ナマケモノは、えだの したに ぶらさがって ひとやすみ します。
ある けんきゅうでは、筋肉が うごく ときに でる でんきを はかって、ミユビナマケモノ 6とうの まえあしを しらべました[1]。ぶらさがって じっと して いる ときは、しらべた 8この 筋肉は どれも ほとんど はたらいて いませんでした。あるく ときや のぼる ときは、はたらきが ふえました[1]。
ただし、しらべたのは まえあしだけです。からだ ぜんぶの 筋肉が やすんで いる、という ことでは ありません。
では、ちからを いれずに、どうやって からだを ささえて いるのでしょう。
鉄棒にぶら下がると、人間の腕はすぐに疲れます。ナマケモノは、枝の下側に手足の指を引っかけ、体重を「引っぱられる力」で支える姿勢で暮らします。このとき指を曲げる筋肉には、力と疲れにくさが必要なはずですが、体全体の筋肉の量は、ほかの木の上で暮らす哺乳類より少ないと報告されています[1]。
筋肉が動くときの電気信号をはかる実験(筋電図)では、ミユビナマケモノ6頭の前足の8つの筋肉が、ぶら下がって止まっている間はどれもほとんど活動していませんでした。歩くときや登るときは、活動が大きくなりました[1]。
調べたのは前足の筋肉だけなので、全身の筋肉が働かないとまでは言えません。それでも、止まっているだけなら筋肉にあまり頼らない、という手がかりにはなります。では、体重はどこで受けているのでしょうか。
2. からだを ささえて いるのは 筋肉? 腱?
2. 体を支えるのは、筋肉より腱かもしれない
2. 指の屈筋腱がウマの支持靭帯に似ている
ヒントは、うまの あしに あります。うまは、たって いる とき、あまり ちからを いれずに からだを ささえて いると いわれます。
ナマケモノの ゆびを まげる 腱を しらべたら、うまの あしを ささえる じんたい(ほねと ほねを つなぐ ひも)と、ひっぱる ちからへの つよさなどが よく にて いました[2]。そこで けんきゅうした ひとたちは、筋肉を あまり つかわずに、腱で ささえて いる かもしれない、と かんがえました[2]。
ただし、これは かせつです。「つめが かってに ロックして、しんでも おちない」と いった はなしは、ここでは かきません。
もちろん 筋肉も だいじです。あしの 筋肉は、ゆびや ひざを まげる ほうが、のばす ほうより おもく、からだを ささえる しゅやくと みられて います[3]。
フタユビナマケモノの まえあしの ゆびを まげる 筋肉は、あわせて たいじゅうの 2ばい ぐらいの ちからを だせると すいていされて います[4]。にぎる ちからが とても つよい、という ことです。
ヒントはウマの脚にあります。ウマは立っているとき、あまり筋肉に力を入れなくても体を支えられるといわれ、それを助けているのが、脚の靭帯です。
ナマケモノの指を曲げる腱を調べると、引っぱり強さが低いなどの性質が、このウマの靭帯とよく似ていました。論文は、ナマケモノも腱を使って、筋肉にあまり頼らずに体重を受け止めている可能性があると考えています[2]。これは仮説と材料の類似からの推論で、「爪が勝手にロックして、死んでも落ちない」といった仕組みが証明されたわけではありません。
もちろん、筋肉も主役の一人です。ミユビナマケモノの後ろ足では、指や膝を曲げる筋肉が、伸ばす筋肉より重く、断面積も大きいことが分かりました。論文は、これらが体を支える中心だろうと述べています[3]。スミソニアン国立動物園も、筋肉の多くは腕にあると説明しています[10]。
握る力も並外れています。フタユビナマケモノの前足で、指を曲げる筋肉が出せる最大の力は体重の約2.2倍と推定されています。生きた個体で測った値ではなく、筋肉の大きさなどからの推定です[4]。腱と筋肉の役割分担で、あの姿勢が成り立っているのでしょう。
筋に頼らないとすれば、体重を受けるのは腱などの結合組織かもしれない。ミユビナマケモノの指の屈筋腱は、引っぱり強さが低く、直立するウマ(有蹄類)の支持靭帯と類似した性質を示した[2]。この結果から論文は、ナマケモノが有蹄類の脚に機能的に似た腱の「懸垂装置」をもち、枝の下で体重を大部分受動的に支えている可能性を述べる[2]。ただし、これは仮説の検証結果と材料の類似からの推論であり、ロック機構が示されたわけではない。
とはいえ、筋が不要になったのではない。ミユビナマケモノの後肢筋では屈筋が伸筋より重量も生理学的断面積も大きく、膝と指の屈筋が懸垂を支える主役とみられる。論文は、遅い動き・遅筋の使い方と合わせて、省エネの一要素と位置づける[3]。スミソニアン国立動物園も、筋量の多くは腕にあると説明する[10]。
握力も大きい。フタユビナマケモノ(Hoffmann's two-toed sloth)の前肢では、指の屈筋が合わせて体重の約2.2倍の最大力を出せると推定され、著者らは握力が非常に強いと評価する[4]。これは筋の大きさなどから求めた推定値で、生体の実測ではない。フタユビはミユビより枝にぶら下がる頻度が高い点も、この結果と符合する[4]。
3. なまけて いるのでは なく、ちからを ためて いる
3. 怠けているのではなく、エネルギーを節約している
3. 低い代謝・体温・消化が、懸垂の暮らしを必要にする
ナマケモノと いう なまえから、なまけ者と おもう ひとも います。でも、けんきゅうした ひとたちは、そう みては いません。
ナマケモノは、からだの はたらきが ゆっくりで、たいおんも ひくく、たべものが からだを とおる のも おそい どうぶつです。その ため、ちからを ちょっと ずつしか つかえません。ほとんど ぶらさがって くらす のは、その ためだと、腱の けんきゅうの ろんぶんは のべて います[2]。
ミユビナマケモノが つかう エネルギーは、ある ほうこくでは 1にち 460キロジュール、およそ 110キロカロリーでした。やきいも 1こ ぶんぐらいです[6]。ただし これは いちれいで、からだの おおきさで かわります。
たべた はっぱが からだを とおりぬける のに、さいだい 1か月ほど かかると いう しょうかいも あります[9]。
ぶらさがって じっと して いるのは、なまけて いる のでは なく、はたらく ちからを ためる くふうだと かんがえられます。
ナマケモノという名前のせいで、怠け者のイメージがあります。しかし研究者は、そうは見ていません。腱の論文は、代謝が低く、体温が低く、食べ物が体を通る速さも遅いことが合わさって、エネルギーを節約する必要が極端に大きいと述べます。そのため、ほぼ枝にぶら下がる暮らしになっているという説明です[2]。
ミユビナマケモノは、野外で1日に使うエネルギーが、記録されたどの哺乳類より低いと報告されています[5]。その低さは、基礎代謝を下げただけでなく、体温の調節と動きの少なさの工夫によるものだそうです[5]。大学の発表は、1日のエネルギーを約460キロジュール(約110キロカロリー)と紹介しています。焼きいも1個ぶんぐらいです[6]。個体や体重で変わる、一つの例です。
食べた葉が体を通り抜けるのには、最大で1か月ほどかかるといわれます[9]。葉を食べて木の上で暮らす哺乳類は、栄養のやりくりに強く縛られます。種類が増えにくいことも、そのせいだろうと論文は考えています[5]。
ぶら下がって動かない時間は、怠けではなく、少ないエネルギーで暮らすための工夫と見るのが自然です。ところが、そんなナマケモノが、週に1回だけ、わざわざ地面に降ります。
ぶら下がって過ごすのは、怠惰ではなく、エネルギー収支から見た必然とも読める。腱の論文は、ナマケモノが懸垂にほぼ依存し走れないのは、低い代謝率・低い体温・遅い消化が重なって、エネルギー節約の必要が極端に大きいためだと前置きする[2]。
実際、ミユビナマケモノの野外代謝率(FMR)は162 kJ/日×体重(kg)^0.734で、記録された哺乳類の中で最も低い。この低さは基礎代謝の低下だけでなく、体温調節(体温の変動が大きい)と行動の節約によるとされる[5]。数値は体重で補正した式の係数である。大学の発表は、別の報告として1日約460 kJ(約110 kcal)を紹介し、焼きいも1個ぶんに当たると述べる[6]。個体差がある一例だ。
消化も遅い。食物が消化管を通る時間は最大で約1か月といわれるが[9]、種・条件で幅がある。論文は、樹上で葉を食べる哺乳類が栄養エネルギーに強く制約され、種の多様化が乏しいことの説明になると考える[5]。では、ここまで動きを切りつめた動物が、あえて危険を冒して木を降りるのは、なぜか。
4. しゅうに 1かいだけ、なぜ きを おりるの?
4. 省エネの暮らしなのに、週に1回だけ木から降りる
4. 週1回の下降は、危険でエネルギーもかかる行動である
ミユビナマケモノは、しゅうに 1かい、きを おりて うんちを します[7]。
じめんは、きの うえより あぶない ところです。おりる のには エネルギーも かかります[7]。
2014ねんの ろんぶんは、この こうどうを、あぶなくて エネルギーも かかる こうどうだと しょうかいして います[7]。
えだの うえで しても よさそうなのに。ナマケモノは、なぜ わざわざ おりるのでしょうか。
ミユビナマケモノは、週に1回、木を降りて排泄します。2014年の論文は、この行動を、危険でエネルギーもかかるものとして紹介しました[7]。
枝の上なら、安全な高さで済ませられそうです。それなのに、動きをここまで切りつめたこの動物が、わざわざ地上に降ります。地上が危ない場所であることは、論文も「危険」と述べています。ただし、どれくらい襲われやすいかを示す数字は、ここでは使いません。
降りる理由として、論文が考えたのは、ナマケモノの毛の中で暮らす、小さな生きものたちでした。
ミユビナマケモノは週に1回、木を降りて排泄する。この行動について、2014年の論文は「危険で、エネルギーを要し、それまで説明できなかった」と述べる[7]。ナマケモノは、ここまで省エネに徹する動物だ。それが、なぜ枝の上で済ませず、地上に降りるのか。
地上で襲われやすいことは、論文の要旨でも「risky」と書かれるにとどまり、割合などの数字は示されていない。したがって、リスクの大きさは本稿では量で語らず、「危険を伴う行動」としておく。論文が着目したのは、毛の中に住む生物の集団だった。
5. けの なかの ガと も、ふしぎな つながり
5. 毛の中の蛾と藻、降りる理由の有力な説
5. 蛾・窒素・藻の循環:下降を説明する仮説
ミユビナマケモノの けには、ガが たくさん すんで います。けの なかには、藻も たくさん はえて います[7]。
ガは、ナマケモノが じめんに した うんちに たまごを うみます。たまごから かえった ガは、とんで ナマケモノの けに もどって きます[7][8]。
ガが おおい けでは、ちっそも 藻も おおく なって いました。ナマケモノは、その 藻を たべて いました。藻は しょうかしやすく、あぶらが おおい ものでした[7]。
そこで ろんぶんは、しゅうに 1かい おりて ガを うんちの ところへ はこぶ のは、けの なかの「藻の にわ」を たもつ ためかも しれない、と かんがえました。これは かせつです。藻が ごはんの たしに なる ことも、すいそくで、しょうめいは されて いません[7]。
ほかにも りゆうが あるかも しれず、けんきゅうは つづいて います。
ミユビナマケモノの毛には、蛾がたくさんいます。毛の中には、無機窒素と藻も多く、フタユビナマケモノより多いことが分かりました[7]。
蛾は、ナマケモノが地上にした糞に卵を産み、羽化すると飛んで毛に戻ってきます[7][8]。蛾が多い毛では、窒素も藻も多くなっていました。蛾が藻の成長を助けている可能性があります。ナマケモノは、その藻を食べていました。藻は消化しやすく、脂質が豊富でした[7]。
そこで論文は、ナマケモノが降りて排泄するのは、蛾を産卵場所へ運び、この「藻の庭」を保つためではないか、という仮説を示しました[7]。藻が食事の補いになる点も推定で、証明済みではありません。
降りる理由は、ほかにも議論されています。その一つとして、毛の中の蛾と藻を結びつける、この仮説があります。
その手がかりが、毛の中にあった。ミユビナマケモノの毛にはフタユビより多くの蛾がおり、無機窒素と藻も多い。蛾は糞に産卵し、羽化した成虫が毛に戻る[7][8]。蛾が多い毛では窒素も藻も多く、蛾が藻の成長を助ける可能性がある。ナマケモノはその藻を食べ、藻は消化しやすく脂質に富んでいた[7]。
論文はここから、ナマケモノが降りて排泄することで、蛾を産卵場所へ運び、毛の「藻の庭」を維持しているという仮説を示した[7]。この循環が下降で保たれる、という部分は論文が示した仮説である。また、藻が栄養の補いになるという部分は「presumably」つきの推定で、証明済みではない。また、降りる理由には縄張りのにおい付けなどの別説も議論されており、断定はできない。
フタユビは毛の蛾も藻も少なく、ミユビよりぶら下がる頻度が高い[7][4]。同じ熱帯雨林にすむ二属でも、暮らし方と毛の中の世界は違うようだ。
自分でも しらべて みたく なったら
自分でも調べてみたくなったら
自分でも調べてみたくなったら
いえで できる こと
おとなと いっしょに、こうえんの てつぼうに ぶらさがって、なんびょう もつか かぞえて みましょう。あしが じめんに つく たかさの てつぼうで、おとなが そばに いる ときだけに します。てつぼうが ないときは、ナマケモノの しゃしんや えを みて、どんな しせいか みるだけでも だいじょうぶです。ぶらさがるのが たいへんだと わかると、ナマケモノの ふしぎが もっと おもしろく なります。
でかけて できる こと
ナマケモノが いる どうぶつえんに いったら、あしの ゆびの かたちや、えだへの ぶらさがり かた、けの ようすを、じっくり みて ください。ナマケモノは どのくらい うごかずに いるでしょうか。
家でできること
大人といっしょに、公園の鉄棒にぶら下がって、何秒もつか数えてみましょう。足が地面につく高さの鉄棒で、大人がそばにいるときだけにします。鉄棒がなければ、ナマケモノの写真や絵で、ぶら下がる姿勢を見るだけでもかまいません。ぶら下がり続けるのが大変だと分かると、ナマケモノの不思議がもっと面白くなります。
出かけてできること
ナマケモノのいる動物園では、手足の指の形や、枝へのぶら下がり方、毛のようすをじっくり観察してみてください。どのくらい動かずにいるかを、時計で測るのもよさそうです。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
本文の主張は、下の資料を突き合わせて確かめました。
- Keep calm and hang on: EMG activity in extensors and flexors of the three-toed sloth. J Exp Biol (2020). https://doi.org/10.1242/jeb.218370 (ぶら下がり姿勢と筋電図、筋肉量)
- A Horse of a Different Color? Integr Org Biol (2020). https://doi.org/10.1093/iob/obaa032 (腱の性質とウマの靭帯との類似、節約の必要)
- Pelvic limb muscle architecture in three-toed sloths. J Anat (2023). https://doi.org/10.1111/joa.13884 (後ろ足の屈筋と伸筋)
- Hoffmann's two-toed sloth II. J Anat (2026). https://doi.org/10.1111/joa.70120 (フタユビの握力の推定)
- Pauli et al. Field metabolic rates of sloths. Am Nat (2016). https://doi.org/10.1086/687032 (1日のエネルギー、体温調節と動きの節約)
- University of Wisconsin-Madison News: sloth energetics. https://news.wisc.edu/?p=28803 (1日約460キロジュールの紹介)
- Pauli et al. Why do sloths poop on the ground? Proc R Soc B (2014). https://doi.org/10.1098/rspb.2013.3006 (週1回の下降、蛾と藻の仮説)
- Scientific American: Why sloths leave the trees to defecate. https://www.scientificamerican.com/article/why-sloths-leave-the-trees-to-defecate (蛾と藻の報道)
- Smithsonian Tropical Research Institute: Life in slow motion. https://striresearch.si.edu/rainforest/how_animals_adapt/life-in-slow-motion/ (食べ物が体を通る時間)
- Smithsonian's National Zoo: How to care for sloths. https://nationalzoo.si.edu/animals/news/how-care-sloths (筋肉の多くは腕にある)
なおした ところ
更新履歴
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