1. あせで ひやすのは、どんな 生きもの?
1. 犬は息で、人は汗で ── 熱の逃がし方は動物でちがう
1. 犬は息、人は汗 ── 動物の体温調節と、人の汗腺の多さ
いぬの からだで、あせが でるのは、あしの うらだけです。ひやす はたらきは、ちいさい と いわれて います。いぬは、はあはあ いきを したり、よだれを だしたり して、ねつを にがします[2]。
馬と、サルの なかまと 人は ちがいます。はだから でた あせが かわく ことで、からだを ひやします。なかでも 人は、あせを だす ところが、とても おおいのです。ハーバードだいがくなどの けんきゅうで、人は チンパンジーや、マカクと いう サルの およそ 10ばい だと わかりました[3]。
どうして 人だけ ふえたのでしょう。ながい きょりを はしる ために ふえた、と いう せつが あります。ただし、いつ ふえたのかは、まだ わかって いません[4]。
犬には、冷やせるほどの汗は出ません。犬の汗腺は足の裏にだけあり、体を冷やすはたらきは小さいのです。獣医学の資料は、犬が余分な熱を逃がす主な方法は、はあはあという呼吸(パンティング)とよだれだと説明しています[2]。同じ資料は、皮膚からの汗の蒸発が体を冷やす主な方法になっているのは、馬と霊長類だと書いています。
人はその側です。人の皮膚には、エクリン汗腺という汗を出す腺が、全身でおよそ200万〜400万個あるとされます[1]。ハーバード大学などの研究者たちは、マカク、チンパンジー、ヒトの皮膚で、エクリン汗腺の密度を測りました。ヒトは平均で、チンパンジーやマカクの約10倍でした。チンパンジーとマカクの密度は、意外なほど似ていました[3]。調べたのは3種ですが、研究者たちは、汗腺の密度が増えたのは人の系統だけだったと考えています。
なぜ増えたのでしょうか。有力な説の1つは、長い距離を走る能力です。2004年の論文で、ブランブルとリーバーマンは、持久走の能力は約200万年前のホモ属に現れたと論じ、熱を逃がす特徴として、汗腺の増加や体毛の減少を挙げました。ただし、こうした皮膚の特徴がいつ進化したのかは分からない、と論文自身が書いています[4]。
犬の汗腺(アトリキアル腺、以前の「エクリン腺」に当たるもの)は足の裏にだけあり、体温調節での役割は小さい。MSDマニュアル(獣医学)は、犬が余分な熱を逃がす主な方法を、パンティング(はあはあという呼吸)とよだれだと説明する。同じ資料は、皮膚からの汗の蒸発が体を冷やす主な手段になっているのは、馬と霊長類だと述べる[2]。
人はその側にいる。ヒトのエクリン汗腺は、全身でおよそ200万〜400万個とされる[1]。Kamberovらは、マカク、チンパンジー、ヒトの皮膚5か所で、汗腺と毛包の密度を測った。ヒトの毛包の密度はチンパンジーに近く、マカクより低かった。一方、エクリン汗腺の密度は、ヒトが平均でチンパンジーやマカクの約10倍で、チンパンジーとマカクは非常によく似ていた。著者らは、ヒトの系統でだけ汗腺の密度が増えたと解釈している[3]。比べたのは3種だ。
なぜ増えたのか。BrambleとLiebermanは2004年の論文で、持久走の能力はホモ属で約200万年前に現れたと論じ、放熱のための派生的な特徴として、エクリン汗腺の増加と体毛の減少を挙げた。ただしこの論文は、これらの非骨格の特徴がいつ進化したのかは分からない、とも書いている[4]。「走るために汗腺が増えた」は有力な説の1つで、決着した話ではない。
2. あせは、どうして ひやして くれるの?
2. 汗が体を冷やすのは、乾くとき
2. 汗が冷やすしくみ ── 蒸発熱と、蒸発しない汗
あせが でた ばかりの とき、あせは、からだと おなじくらい あたたかいのです。ひやすのは、あせが かわく ときです。水が かわいて、目に 見えない 水じょうきに なる とき、まわりの ねつを もって いくからです。
だから、はだの 上で かわかなかった あせは、あまり ひやして くれません。ながれおちて しまう あせも あります。そういう あせには、「ききめの ない あせ」と いう なまえまで あるのです[5]。
それでは、あせを かわかなく して しまう ものは、なんでしょう。
出たばかりの汗は、体温に近い温度です。冷やすのは、皮膚の上で水が水蒸気に変わるときです。このとき、水は周りから熱を奪います。汗1グラムが蒸発するときに持っていく熱は約2.4キロジュール(2426ジュール)で、水580グラムの温度を1℃下げられる量にあたります[1]。少しの汗でも、蒸発すればたくさんの熱を運び出せるのです。
体には熱の逃がし方が2つあります。1つは、皮膚の血流を増やして、空気に熱を渡す方法です。もう1つが、汗を出して蒸発させる方法です[5]。熱は温度の高いほうから低いほうへ流れるので、気温が体の表面の温度に近づくと、空気に熱を渡す方法では熱が逃げにくくなります。そのぶん、汗の蒸発の出番が大きくなります。
ただし、出た汗がすべて蒸発するわけではありません。一部は蒸発せずに流れ落ちる、と生理学の総説は書いています。湿度が高いなど、汗が効率よく使われない状況では、必要な蒸発量に見合うよりも多くの汗が要ります[1]。蒸発しにくい服を着たときに増える、皮膚にとどまったり流れ落ちたりする汗は、「無効発汗」と呼ばれています[5]。では、汗の蒸発を邪魔するのは何でしょうか。
汗は体温に近い温度で出てくるので、出た時点ではほとんど冷やさない。冷やすのは、皮膚の上で水が水蒸気になる(蒸発する)ときの蒸発熱だ。Bakerの総説は、汗の蒸発熱を、蒸発した汗1kgあたり580kcal(1gあたり2426J)としている[1]。水1gの温度を1℃上げるのに約4.2Jが要るので、汗1gの蒸発で奪われる熱は、水約580gを1℃冷やす量に当たる(この換算は、水の比熱からの計算)。
熱の逃がし方は2系統ある。日本生気象学会の指針は、皮膚血流の増加による大気への熱伝導(非蒸散性熱放散)と、発汗とそれに続く汗の気化による熱放散(蒸散性熱放散)を挙げる。どちらも、暑さにさらされると無意識に起こる自律性の体温調節反応だ[5]。熱は温度の高いほうから低いほうへ流れるので、気温が皮膚の温度に近づくほど、空気に熱を渡す前者は働きにくくなり、蒸散性の放熱の割合が大きくなる。
ただし、汗がすべて蒸発するわけではない。Bakerは、汗の一部は蒸発せずに滴り落ちるため、湿度の高い環境のように汗の効率が低い条件では、蒸発の必要量から計算した量より多い発汗が要ることがある、と書く[1]。指針も、汗が蒸発しにくい衣服では、皮膚にとどまったり流れ落ちたりする「無効発汗」が増えると述べる[5]。汗の蒸発を左右する最大の要因が、空気の湿り気だ。
3. しっけが たかいと、どうして あつく なるの?
3. 湿度が高いと暑い ── 濡れた温度計は汗のまねをする
3. 湿度 ── 湿球温度計は「汗の蒸発」を測っている
お天気を しらべる ところには、わざと ぬらした ガーゼを まいた おんどけいが あります。ぬれた ほうは、かわいた ほうより ひくい おんどを しめします。ガーゼの 水が かわく とき、ねつを もって いくからです[6]。
空気が かわいて いる ほど、ぬれた おんどけいは ひくく なります。しっけが 100%の とき、水は かわかないので、2ほんは おなじ おんどを しめします。
これが、あせと おなじ ことです。しっけの たかい 日は、あせが かわきにくく、からだから ねつが にげにくく なります。おなじ きおんでも、むしむしする 日の ほうが あつく かんじるのは、そのためです。
天気を調べる場所には、わざと濡らしたガーゼを巻いた温度計があります。乾湿計という道具で、2本の温度計のうち1本の先にガーゼを巻いて濡らします。ガーゼの水が蒸発するとき、熱を奪うので、濡れたほう(湿球)は乾いたほう(乾球)より低い値を示します[6]。
空気が乾いているほど蒸発は進み、2本の差は大きくなります。相対湿度が100%だと水は蒸発せず、差はゼロです[6]。環境省は、この湿球温度を「皮膚の汗が蒸発する時に感じる涼しさ度合い」を表すものと説明しています[7]。濡れた温度計は、汗をかいた皮膚のまねなのです。
だから、気温が同じでも、湿度が高い日は体から熱が逃げにくくなります。環境省のページも、湿度が高い場所では汗が蒸発しにくいので、体から空気へ熱を出す力が減る、と説明しています[8]。普通の気温は、乾いた温度計の値です。汗が乾くかどうかは、気温だけでは分かりません。
気象観測には、わざと濡らす温度計がある。乾湿計は、2本の温度計の一方の感温部に、水で湿らせたガーゼを巻く。ガーゼの水が蒸発するときに気化熱が奪われるので、湿球は乾球より低い値を示す[6]。空気が乾いているほど蒸発が進み、2本の差は大きくなる。相対湿度が100%なら水は蒸発せず、湿球と乾球は同じ値になる[6]。
環境省の暑さ指数のページは、この湿球温度を「皮膚の汗が蒸発する時に感じる涼しさ度合い」を表すものとしている[7]。つまり湿球は、汗をかいた皮膚の疑似的な再現になっている。乾球は、普通の温度計でそのまま測る気温だ。
湿度が高いと暑い、という感覚には、ここに理由がある。同じ気温でも、湿度が高い場所では汗が蒸発しにくく、身体から空気へ熱を出す力が減る、と環境省のページは説明する[8]。気温は乾球の値で、汗の蒸発のしやすさは反映しない。湿度と日ざしまで入れた物差しが、あとで見る暑さ指数だ。その前に、汗をかきつづけると体の中で何が起きるのかを見る。
4. あせを かきすぎると、からだの なかで なにが おきるの?
4. しょっぱい汗と、熱中症で体の中に起きること
4. 汗の塩分と熱中症 ── 水分・塩分・血流の悪循環
あせが しょっぱい わけから いきましょう。あせを つくる ところでは、さいしょ、しおを ふくんだ 水が できます。それが 出口へ むかう くだを とおる あいだに、しおの ほとんどは、からだに もどされます。でも、たくさん、はやく でる ときは、もどしきれません。のこった しおが、あせの しょっぱさです[1]。
あせを かきつづけると、水と しおが へって いきます。熱中症は、あつい ところで、からだの 水と しおの バランスが くずれたり、ねつを にがす しくみが うまく はたらかなく なったり して おこる びょうきの、ぜんぶの なまえです[9]。
あせの もとは 水です。あせが 出ると、そのぶん、からだの 水が へります。しおも いっしょに 出て いきます。からだの 水が へりすぎると、ねつを にがす はたらきが よわく なります。水が たりなく なる ことが、熱中症の もとの ひとつと 考えられて いる のは、そのためです。
ぐあいが わるい ときや、熱中症かも しれない ときは、すぐ おとなに つたえて ください。びょういんの 先生や、おとなの 人の いう ことに したがいましょう。
汗がしょっぱいのは、体が塩を取り戻しきれないからです。汗をつくる腺の奥では、最初に、血の液体部分(血しょう)とほぼ同じ濃さの液ができます。それが出口へ向かう管を通るあいだに、ナトリウムと塩化物イオンの多くが体に回収され、皮膚に出るときには薄まっています。ところが、汗がたくさん出て流れが速くなると、回収が間に合わなくなり、塩分が濃くなります。前腕の測定では、汗の量が増えると、汗のナトリウム濃度が1リットルあたり19ミリモルから59ミリモルへ上がった例がまとめられています[1]。
熱中症は、高温多湿な環境で、体内の水分と塩分のバランスが崩れたり、循環や体温を調節するしくみが働かなくなったりして起こる障害の総称です[9]。日本生気象学会の指針は、こう説明しています。暑さで皮膚の血流が増えると、脳などに回る血液が減ります。大量の汗で脱水も進みます。水分が補われないと、皮膚の血流や汗の出方を抑える反応が起き、体温調節が不十分になって体温が上がり、脱水も進むという悪循環に陥ります[5]。
熱中症は、症状の重さで、熱失神、熱けいれん、熱疲労、熱射病の4つに分けられます[9]。いちばん重い熱射病は、体温(特に脳の温度)が40℃以上に上がり、意識障害や、汗が止まることもある状態になるものです[5]。同じ指針は、水分が補われて脱水が進まなければ、皮膚の血流や汗が十分に働き続けるので、脱水を防ぐことが予防の大事な点になる、と説明します。熱けいれんについては、たくさん汗をかいたあとに、真水や塩分の低い飲み物だけを補うと、血液中の塩分濃度が下がってけいれんにつながることがある、とされています。汗と一緒に、水だけでなく塩分も出ていくからです。
このメモは、しくみを調べた個人のメモで、医療の助言ではありません。具合が悪いときや、熱中症かもしれないときは、医療機関や公的な案内に従ってください。
汗が塩辛いのは、汗腺の管での塩の回収が完全ではないからだ。Bakerの総説によれば、汗腺の分泌部で作られる一次汗は血漿とほぼ等張で、それが導管を流れるあいだにNa⁺とCl⁻の大部分が再吸収され、皮膚に出る汗は低張になる。汗の量が増えて流れが速くなると回収が追いつかず、汗のNa濃度は上がる。前腕の測定では、発汗量が増えるにつれて汗のNa濃度が19から59mmol/Lに上がった例がある。全身の汗のNa濃度は、およそ20〜80mmol/Lの幅で報告されている[1]。
熱中症は、高温多湿な環境下で、体内の水分と塩分(ナトリウムなど)のバランスが崩れたり、循環調節や体温調節などの重要な調整機能が破綻したりして発症する障害の総称だ[9]。日本生気象学会の指針は、発症のしくみをこう説明する。過度な暑さで皮膚血流が増えると、脳や重要臓器に分布する中心血液量が減る。大量の発汗は脱水を起こす。水分補給がないと脱水は急速に進み、皮膚血流と発汗を抑える反応が出て体温調節が不十分になり、体温がさらに上がって、中心血液量の減少や脱水も進む悪循環になる[5]。
病型は、熱失神、熱けいれん、熱疲労、熱射病の4つに分けられる[9]。指針によれば、熱疲労は大量の発汗による水分・塩分の喪失と循環血液量の減少が中核の病態で、体温が40℃を超えることはない。それがさらに進み、熱放散の要である皮膚血管拡張と発汗の両方が抑えられて体温(特に脳温)が40℃以上に上がり、意識障害や発汗停止を来たしたものが熱射病だ(運動時の熱射病では、発汗が続くこともある)[5]。
水分補給が熱中症の予防に結びつけられるのは、汗の材料である水分が補われれば、皮膚血流と発汗が十分に働き続けるからだ。指針は熱けいれんについて、たくさん汗をかいたあとに真水や塩分濃度の低い飲料だけを補うと、血液中の塩分濃度が低下してけいれんにつながりうる、と説明している。汗には、水だけでなく塩分も含まれるためだ[5]。
このメモは、しくみを調べた個人のメモで、医療の助言ではない。具合が悪いときや、熱中症が疑われるときは、医療機関や公的な案内に従ってほしい。
5. よるでも、ねっちゅうしょうに なるの?
5. 夜の暑さ ── 寝ているあいだも汗は出ている
5. 夜の暑さ ── 熱帯夜、建物に残る熱、睡眠中の発汗、住居での搬送
よるの さいていの きおんが 25ど いじょうの よるを、「熱帯夜」と いいます[10]。
ひるまに あたためられた たてものは、ねつを ためて いて、よるに なると すこしずつ はなします。しかも、人は ねて いる あいだも、あせを かきます[5]。しっけが たかい まま だと、ひるまと おなじ りゆうで、あせが かわきにくく なります。
しょうぼうちょうの しらべでは、2025年の 5月から 9月に、ねっちゅうしょうで きゅうきゅうしゃで はこばれた 人は、100,510人でした。いちばん おおかった ばしょは、じたく など 人の すむ ところで、38,292人(100人の うち 38人ぐらい)でした[11]。ねっちゅうしょうは、そとだけで おきる ものでは ないのです。
気象庁は、夜間の最低気温が25℃以上のことを「熱帯夜」と呼んでいます[10]。
日本生気象学会の指針によると、人は睡眠中にも汗をかきます。就寝前や起床時などに水分が必要なのは、そのためです。コンクリート造など熱容量の大きい建物は、日中にためた熱を、夜、外の気温が下がるにつれて少しずつ放出します。近年は都市部で熱帯夜が続くので、睡眠中は冷房のタイマー停止設定を勧めない、とも書かれています[5]。夜に湿度が高いままなら、昼と同じ理由で、汗は乾きにくくなります。
消防庁の統計にも、家の中の暑さが出ています。2025年5〜9月に、熱中症で救急搬送された人は100,510人で、2008年に調べ始めてから最も多くなりました。発生場所別では、住居が38,292人(38.1%)でいちばん多く、次が道路の19,773人(19.7%)でした[11]。これは夜だけの数字ではなく、時間帯の内訳は載っていません。それでも、熱中症は日ざしの下の出来事だけではないことが分かります。
熱帯夜は、気象庁の用語で、夜間の最低気温が25℃以上のことをいう[10]。夜に熱中症が起こりうる理由は、資料からは3つ読み取れる。
第1に、汗は寝ている間にも出る。日本生気象学会の指針は、睡眠時や入浴時にも発汗するため、就寝前・起床時・入浴前後にコップ1杯(約200mL)の水分が必要だと述べる。第2に、建物の熱が残る。指針は、コンクリート造など熱容量の大きい建物では、日中に蓄積された熱が夜間の外気温低下とともに徐々に放熱される、と書く。第3に、湿度が高いままなら、昼と同じ理由で汗が蒸発しにくい(これは前の章の理屈からの推論)。指針は、近年の都市部では熱帯夜が続くため、睡眠時に冷房のタイマー停止設定は推奨しない、としている[5]。
消防庁の集計では、令和7年(2025年)5〜9月の熱中症による救急搬送は100,510人で、調査開始の平成20年以降で最多だった。発生場所は、住居が38,292人(38.1%)で最も多く、道路19,773人(19.7%)、公衆(屋外)12,175人(12.1%)、仕事場(道路工事現場・工場・作業所等)10,559人(10.5%)と続く[11]。この資料には時間帯別の内訳がないので、夜の発生数は分からない。ただ、住居が最多という事実は、熱中症が屋外の日ざしの下だけの問題ではないことを示している。
6. あつさは、きおん だけで きめて いるの?
6. 暑さ指数(WBGT)── 気温のほかに、湿度と日ざしを入れた物差し
6. 暑さ指数(WBGT)と熱中症警戒アラート ── 湿球7・黒球2・乾球1
いいえ、きおんだけでは ありません。熱中症を ふせぐ ために つかう「あつさ指数」は、きおんと、しっけと、日ざし(まわりから くる ねつ)の 3つを いれた ものです[8]。
なかでも、しっけを あらわす ぬれた おんどけいの わりあいが、いちばん おおきいのです。あせが かわくか どうかが、それだけ たいせつだからです。日なたと 日かげで あつさが ちがう のも、日ざしが 入って いる からです。
あつさ指数が たかい と いわれた 日は、「ねっちゅうしょう けいかい アラート」が でます。33 いじょうの ときです。35 いじょうに なると、もっと きびしい「とくべつ けいかい アラート」が でます[12]。
暑さ指数(WBGT)は、熱中症を予防するために1954年にアメリカで提案された指標です。人の体の熱のやりとりに関わりが大きい、湿度、日射や地面・建物からの熱(輻射熱)、気温の3つを入れています。単位は気温と同じ℃ですが、気温とは別のものです[8]。
屋外で日ざしがあるときは、湿球温度を7、黒球温度を2、乾球温度(気温)を1の割合で足します。屋内など日ざしがないときは、湿球7、黒球3です[7]。黒球温度は、黒く塗った銅の中空の球に温度計を入れて、直射日光を受けた状態での球の中の温度を測ったものです。日なたと日陰で暑さがちがうのは、この黒球の値が変わるからです(木の日陰を測った話は木はどうやって街を冷やすのかで扱っています)。湿球の割合がいちばん大きいのは、湿度が高いと汗が蒸発しにくくなるためです[8]。環境省は、暑さ指数が28を超えると熱中症の患者が著しく増える、としています。
熱中症警戒アラートは、ある地域のどれか1つの観測地点で、翌日か当日の日最高暑さ指数が33以上になると予測されたときに、環境省と気象庁が共同で発表します。2024年4月24日からは、その上の「熱中症特別警戒アラート」も始まりました。都道府県内のすべての地点(法令で決められた一部の地点は除きます)で、翌日の日最高暑さ指数が35以上と予測されるときに出ます。どちらも気温ではなく、暑さ指数を使います[12]。
暑さ指数(WBGT:湿球黒球温度)は、熱中症予防を目的に1954年にアメリカで提案された指標だ。人体の熱収支に影響する、湿度、日射・輻射など周辺の熱環境、気温の3つを取り入れている。単位は気温と同じ℃だが、気温そのものではない[8]。
算出式は、屋外(日射あり)がWBGT=0.7×湿球温度+0.2×黒球温度+0.1×乾球温度、屋内(日射なし)がWBGT=0.7×湿球温度+0.3×黒球温度。湿球は水で湿らせたガーゼで、乾球は通常の温度計で、黒球は黒く塗装した空洞の銅製球に温度計を入れて測る。黒球温度は、直射日光にさらされた状態での球の中の平衡温度だ[7]。日なたと日陰で暑さがちがうのは、日陰では直射日光が当たらず、黒球温度が下がるからだ(街路樹の日陰の測定は木はどうやって街を冷やすのかを参照)。湿球の割合が7と大きいのは、湿度が高いと汗が蒸発しにくく、身体から空気へ熱を放出する力が減るためだと、環境省のページは説明する[8]。同じ資料は、暑さ指数が28を超えると熱中症患者が著しく増加することも示している。
熱中症警戒アラートは、環境省が気象庁と共同で発表する。府県予報区等内の暑さ指数情報提供地点のいずれかで、翌日または当日の日最高暑さ指数が33に達すると予測される場合が基準だ。2024年4月24日からは、それより一段上の熱中症特別警戒アラートの運用も始まった(気候変動適応法第19条第1項に基づき、環境大臣が発表する)。都道府県内のすべての暑さ指数情報提供地点(気候変動適応法施行規則の別表に掲げる地点を除く)で、翌日の日最高暑さ指数が35に達すると予測される場合に発表される[12]。令和8年度の運用期間は4月22日から10月21日までだ。基準に使われるのは気温ではなく暑さ指数で、湿度と日射が組み込まれている。
7. 「もうしょび」の うえに、あたらしい なまえが できたの?
7. 気温の呼び名 ── 夏日、真夏日、猛暑日、そして酷暑日
7. 気温の呼び名 ── 猛暑日の上に「酷暑日」が加わった
その 日の いちばん たかい きおんが、25ど いじょうの 日は「夏日」、30ど いじょうの 日は「真夏日」、35ど いじょうの 日は「猛暑日」です。40ど いじょうの 日には、なまえが ありませんでした[10]。
そこで きしょうちょうが、2026ねんの 2月から 3月に、みんなの 意見を ききました。48まん人ちかくが こたえ、いちばん おおかった「酷暑日」に きまりました[13]。「サウナ日」と いう あんも あったそうです。
この なまえは、きおんだけで きまります。あつさ指数は しっけと 日ざしも 入って います。ものさしは、ふたつ あるのです。
気象庁の用語では、日最高気温が25℃以上の日を夏日、30℃以上を真夏日、35℃以上を猛暑日といいます[10]。40℃以上の日には、決まった名前がありませんでした。
そこで気象庁は、2026年2月27日から3月29日にアンケートを行い、13の候補から選んでもらいました。回答は合計478,296件でした。酷暑日が202,954票でいちばん多く、次が超猛暑日の65,896票でした。有識者からも、社会的になじみがあり日本語として適切だという意見が多く、4月17日に「酷暑日」と決まりました。「その他」の案には、「サウナ日」「自宅待機日」「沸騰日」などもあったそうです。日本気象協会は、2022年から独自に同じ言葉を使っていました[13]。
気象庁は、名前をつけて、顕著な高温への警戒を効果的に呼びかけたいとしています。ただし、これらの呼び名は最高気温だけで決まります。熱中症警戒アラートに使う暑さ指数には、湿度と日ざしも入っています。物差しは2つあり、体の側では、汗が乾くかどうかが大きく関わっています。
気象庁の用語では、日最高気温が25℃以上の日を夏日、30℃以上を真夏日、35℃以上を猛暑日という。夜間の最低気温が25℃以上なら熱帯夜だ[10]。40℃以上の日には、決まった名称がなかった。
気象庁は、近年、40℃を超える気温が毎年のように観測されることを受けて、2026年2月27日から3月29日にホームページでアンケートを実施した。総回答数は478,296。13の候補のうち、「酷暑日」が202,954票で最多、次が「超猛暑日」の65,896票だった。有識者からも、社会的になじみがあり日本語としても適切という意見が多く、2026年4月17日に、最高気温40℃以上の日の名称を「酷暑日」とすると発表した。今後、気象庁の発信する情報などで利用する。日本気象協会が、2022年から独自に同じ意味で使っていた言葉でもある。「その他」の意見には、「サウナ日」「自宅待機日」「沸騰日」なども寄せられたという[13]。
これらの呼び名は、最高気温だけで決まる。熱中症警戒アラートの基準が暑さ指数(湿度・日射・気温)であるのとは、物差しがちがう。気温の呼び名は暑さの目印として覚えやすい。ただ、体の中で汗が乾くかどうかは、湿度と日ざしにも左右される。
8. うちで、ぬれた おんどけいを つくって みよう
8. 濡れた温度計を作ってみる
8. 湿球温度計を自作して、資料を読む
へやに ある おんどけい(ガラスの ものでも、りょうりに つかう ものでも いい)を つかいます。まず、そのまま おんどを よみます。つぎに、おんどを はかる ところに、うすい ぬの(ガーゼや ティッシュ ペーパー)を まいて、水で しめらせます。水が たれない くらいに します。せんぷうきの よわい 風を あてて、3ぷん ぐらい まってから、また よみます。
ぬらした ほうが ひくく なるはずです。ちがいは、かわいた 日には おおきく、あめの 日や、おふろの あとの せんめんじょ では ちいさく なるはずです。その ちがいの 大きさが、あせの かわきやすさの ちがいです。
すいぎんの おんどけいや、からだの ねつを はかる たいおんけいは つかわないで ください。ガラスの おんどけいは、われないよう つくえの 上で あつかって ください。あつい 日の そとや、うんどうしながらの じっけんは しないで ください。
濡れた温度計は、家で作れます。部屋にある温度計(アルコール温度計でも、料理用のデジタル温度計でもよい)の温度を、まずそのまま読みます。次に、温度を測る先の部分に薄い布(ガーゼやティッシュペーパー)を巻いて、水で湿らせます。水が垂れない程度にします。扇風機の弱い風を当てて、3分ほど待ってから、もう一度読みます。
濡らしたほうが低くなるはずです。差は、乾いた日は大きく、雨の日や風呂上がりの脱衣所では小さくなるはずです。本物の乾湿計ほど正確ではありませんが、その差の変わり方が、汗の乾きやすさの変わり方です。
水銀の入った温度計や、体温を測る体温計は使わないでください。ガラスの温度計は、割れないよう机の上で扱ってください。暑い日の屋外や、運動しながらの実験は行わないでください。
資料を読むなら、環境省の「暑さ指数(WBGT)について学ぼう」に、3つの温度と7・2・1の割合の説明があります[8]。消防庁の搬送状況の資料には、発生場所別の表があります[11]。汗の塩分や汗腺の話は、Bakerの総説(英語)の該当する節で読めます[1]。
湿球温度計は、家でも作れる。部屋の温度計(アルコール温度計でも、料理用のデジタル温度計でもよい)でまず値を読み、次に感温部にガーゼやティッシュペーパーを巻いて水で湿らせ(垂れない程度)、扇風機の弱い風を当てて3分ほど待ってから、もう一度読む。乾球と湿球の差が、乾いた日には大きく、雨の日や風呂上がりの脱衣所では小さくなるはずだ。本物の乾湿計ほど正確ではないが、差の変わり方が、汗の蒸発のしやすさの変わり方に対応する。
水銀の入った温度計や、体温計は使わない。ガラスの温度計は割れないよう机の上で扱う。暑い日の屋外や、運動しながらの実験は行わない。
資料を読むなら、環境省の「暑さ指数(WBGT)について学ぼう」(3つの温度と7・2・1の割合)[8]、気象庁の報道発表(酷暑日のアンケート結果の別紙)[13]、消防庁の搬送状況(発生場所別の表)[11]、そしてBakerの総説の汗の組成の節[1]が入り口になる。気温、暑さ指数、汗の3つを別々の物差しとして並べてみると、天気予報の見え方が変わるかもしれない。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
このメモは、下にあげた公開情報をもとに書いています。文章や図を無断で転載してはいません。もっと正確に知りたいときは、必ず下の出典にあたってください。リンク先の内容や、リンク先で起きたことについて、当サイトは責任を負いません。
- Baker, L. B. (2019) “Physiology of sweat gland function: The roles of sweating and sweat composition in human health”. Temperature 6(3): 211-259. https://doi.org/10.1080/23328940.2019.1632145 https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6773238 (エクリン汗腺の数、汗の蒸発熱、蒸発しない汗、汗の塩分と汗の量の関係)
- MSDマニュアル(獣医学)「The Integumentary System in Animals」と「Structure of the Skin in Dogs(犬の皮膚の構造)」。 https://www.merckvetmanual.com/integumentary-system/integumentary-system-introduction/the-integumentary-system-in-animals https://www.merckvetmanual.com/dog-owners/skin-disorders-of-dogs/structure-of-the-skin-in-dogs (犬の汗腺は足の裏にあり冷やす役割は小さいこと、犬はパンティングとよだれで熱を逃がすこと、汗の蒸発が主な冷却手段なのは馬と霊長類であること)
- Kamberov, Y. G., Guhan, S. M., DeMarchis, A., Jiang, J., Wright, S. S., Morgan, B. A., Sabeti, P. C., Tabin, C. J., Lieberman, D. E. “Comparative evidence for the independent evolution of hair and sweat gland traits in primates”. bioRxiv preprint (2018), doi:10.1101/430454。同じ題名の論文が Journal of Human Evolution(2018年12月)に載っている。 https://www.biorxiv.org/content/10.1101/430454v1 (マカク・チンパンジー・ヒトの皮膚で、ヒトのエクリン汗腺の密度が平均約10倍。要旨)
- Bramble, D. M., Lieberman, D. E. (2004) “Endurance running and the evolution of Homo”. Nature 432: 345-352. https://doi.org/10.1038/nature03052 (持久走とホモ属の進化の仮説、放熱の特徴としての汗腺と体毛。要旨と本文の該当箇所)
- 日本生気象学会「日常生活における熱中症予防指針 Ver.4」(2022年5月23日)。 https://seikishou.jp/cms/wp-content/uploads/20220523-v4.pdf (体温調節の2系統、熱中症の発症のしくみと病型、無効発汗、睡眠中の発汗、建物の熱、水分・塩分補給)
- 第一科学「乾湿計」(湿度の測り方の解説)と、国立国会図書館 レファレンス協同データベース「濡らしたガーゼを用いて湿度を測る湿度計(乾湿計)の原理についてわかる資料はあるか。」。 https://www.daiichi-kagaku.co.jp/situdo/note/arekore04/ https://crd.ndl.go.jp/reference/detail?page=ref_view&id=1000104125 (湿球が乾球より低い理由、湿度と温度差の関係、相対湿度100%のとき)
- 環境省 熱中症予防情報サイト「暑さ指数(WBGT)の詳しい説明」。 https://www.wbgt.env.go.jp/doc_observation.php (屋外・屋内の算出式、湿球・黒球・乾球の測り方)
- 環境省 熱中症予防情報サイト「暑さ指数(WBGT)について学ぼう」と「暑さ指数(WBGT)について」。 https://www.wbgt.env.go.jp/wbgt_lp.php https://www.wbgt.env.go.jp/wbgt.php (3つの要素、湿度と汗の蒸発、7・2・1の割合、暑さ指数28以上で患者が急増すること)
- 厚生労働省「職場における熱中症予防情報」。 https://neccyusho.mhlw.go.jp/heatstroke/ (熱中症の定義、4つの病型)
- 気象庁「気温に関する用語」。 https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/yougo_hp/kion.html (夏日・真夏日・猛暑日・酷暑日・熱帯夜の定義)
- 消防庁「令和7年(5月~9月)の熱中症による救急搬送状況」(2025年10月29日)。 https://www.fdma.go.jp/disaster/heatstroke/items/r7/heatstroke_nenpou_r7.pdf (搬送人員の総数、発生場所別の人数と割合)
- 環境省「『熱中症特別警戒アラート』等の運用を開始します」と「令和8年度熱中症特別警戒アラート及び熱中症警戒アラートの運用を開始します」。 https://www.env.go.jp/press/press_03083.html https://www.env.go.jp/press/press_04076.html (警戒アラート33・特別警戒アラート35の基準、2024年4月24日の運用開始、令和8年度の運用期間)
- 気象庁 報道発表「最高気温が40℃以上の日の名称を『酷暑日』に決定」(2026年4月17日)。 https://www.jma.go.jp/jma/press/2604/17a/20260417_40degree_name.pdf (アンケートの期間・回答数・得票、決定の理由、日本気象協会が2022年から使っていたこと)
なおした ところ
更新履歴
更新履歴(改版の記録)
- 初版を公開。
このサイトでは、公開した記事の本文は原則として書き直しません。誤りが見つかったときや、内容が古くなったときだけ手を入れ、その理由をこの欄に残します。