1. はっぴょうの まえに、どうして しんぞうが なるの?
1. 発表の前に心臓が鳴るのは、体のどんな準備なのか
1. 交感神経とアドレナリン ── 「いざ」に備える指令
みんなの まえで はっぴょうする 時、しんぞうが ドキドキして、手に あせを かいた ことは ありませんか。
これは、体が「いざ」と いう ときの じゅんびを して いる しるしです。「じりつしんけい」の うちの ひとつ、「こうかんしんけい」が、体の ようすを ととのえます[1]。
こうかんしんけいの はたらきが たかまると、ふくじんと いう ところから、アドレナリンと いう ものが 血に でて いきます[3]。
では、しんぞう いがいの ところは、どうなって いるのでしょう。
みんなの前で発表する直前、心臓がドキドキして、手のひらが湿ってきた経験はないでしょうか。
これは、自律神経のうち交感神経が、ストレスの多い場面や緊急事態に体の状態を整えているからだと説明されています。この反応は「闘争・逃走反応」とも呼ばれます[1]。
交感神経の作用が高まると、副腎の髄質からアドレナリンというホルモンが分泌され、血糖量の上昇や心拍数の増加などが起こります[3]。ノルアドレナリンも働きます。神経の情報伝達物質として交感神経の活動を高め、副腎髄質から出るときは、主に血圧の上昇と基礎代謝率の増加をもたらすとされています[4]。
心臓が鳴るのは、その一部にすぎません。では、体のほかの場所では何が起きているのでしょうか。
発表の直前に心拍が上がり、手のひらが湿る。この反応は、自律神経のうち交感神経が、ストレスの多い状況や緊急事態に体の状態を整える働き(闘争・逃走反応)として説明される[1]。
交感神経の作用が高まると副腎髄質からアドレナリンが分泌され、血糖量の上昇や心拍数の増加を起こす[3]。ノルアドレナリンには2つの顔がある。交感神経の情報伝達物質として放出されると交感神経の活動を高め、副腎髄質ホルモンとして放出されると、主に血圧上昇と基礎代謝率の増加をもたらす。激しい感情や強い肉体作業でストレスを感じたときに放出される[4]。
つまり、神経による速い指令と、ホルモンによる全身への伝達が並んで働いている。では、この指令は具体的にどの器官に届くのか。
2. しんぞうの ほかに、体の どこが かわるの?
2. 心臓のほかに、体のどこが「いざ」に備えるのか
2. 交感神経の作用 ── 循環・呼吸・代謝の促進と消化の抑制
こうかんしんけいが はたらくと、しんぞうは はやく、つよく うごきます。いきを する 道も ひろがって、空気を すいこみやすく なります[1]。
かんぞうに ためて ある エネルギーも、たくさん でて きます。手の ひらには あせも でます[1]。
いっぽうで、たべ物を こなす はたらきは おさえられます。いのちを まもる ために すぐ いらない はたらきは、あとまわしに なるのです[2]。
この「おなかの うごきが とまる」ことに、はじめに 気づいた 人は、だれなのでしょう。
3. 「いざ」の じゅんびに 気づいた 人は だれ?
3. 動物のおなかの動きが止まった ── キャノンの観察
3. キャノンの緊急反応説(1915年)── 消化の停止と瞳孔散大
1915ねん、アメリカの ハーバード大がくの かがくしゃ、ウォルター・キャノンが、この ことを 1さつの 本に まとめました[5]。
キャノンは、どうぶつが つよく こうふん すると、おなかの うごきが ぜんぶ ちかい かたちで とまる、と かきました。エックスせんで どうぶつの おなかの うごきを しらべて いた とき、きゅうに とまった のが きっかけ だと いわれます[5]。
ほかにも、目の まんなかの くろい ところが ひろがる ことなど、たくさんの へんかを 見つけました[5]。
「いざ」と いう ときには、体じゅうが いっしょに かわるのです。でも、ずっと そのままだと、体は つかれて しまいます。
1915年、ハーバード大学の生理学者ウォルター・キャノンは、著書『Bodily Changes in Pain, Hunger, Fear and Rage(痛み・空腹・恐れ・怒りにともなう体の変化)』で、強い興奮のとき、動物の交感神経系とアドレナリンが体を緊急事態に備えさせるという考えをまとめました[5]。
その中で、強い興奮のあいだは、消化管のほぼ全体の動きが完全に止まると書いています。きっかけは、X線で動物の胃腸の動きを調べているとき、動物が興奮すると動きが止まったことだったと伝えられています[5]。
ほかにも、アドレナリンの作用で瞳孔が広がることなど、緊急時の体の変化を記しました[5]。
体じゅうが、いっせいに準備に入る。でも、ずっと準備のままでは体がもちません。準備を終えるとき、体の中では何が起きるのでしょうか。
1915年、ハーバード大学の生理学者ウォルター・キャノンは『Bodily Changes in Pain, Hunger, Fear and Rage』で、強い興奮の際に、交感神経系とアドレナリンが動物の体を緊急事態に備えさせるという見方を示した。心拍・呼吸・血糖の上昇や血流の再配分を観察している[5]。
特に、強い興奮のあいだは消化管のほぼ全体の運動が完全に止まると書いた。きっかけはX線による胃腸の運動観察で、動物の興奮とともに動きが止まったことだとされるが、この逸話は二次資料の記述である[5]。また、アドレナリンが瞳孔を広げることにもふれた。当時のアドレナリンの英名は adrenin である[5]。
ただし、キャノンの対象は動物であり、この考えがそのまま人の緊張に当てはまると断定はできない。全身が連動して準備に入るなら、その反応はどう収まるのか。
4. じゅんびの あとは、どうやって おちつくの?
4. 準備が終わったあと、体を落ち着かせるのは何か
4. 副交感神経による拮抗と、HPA軸という別の経路
こうかんしんけいと 反対の はたらきを する 「ふくこうかんしんけい」が あります。しんぞうの うごきや 血あつを さげ、たべ物を こなす はたらきを うながします[1]。
2つは、多くの ところで 反対の はたらきを します。ただし、すべての ところで ぎゃくでは ありません[1]。
そして、体には もう ひとつ、ゆっくり はたらく ストレスの みちも あります。あたまの 中から 合図が でて、コルチゾールと いう ものが つくられます[6]。
ドキドキは、体の 大きな しくみの ひとつ です。では、その ドキドキを、心の もちようで かえられるのでしょうか。
副交感神経は、心拍数や血圧を下げ、消化管を刺激して消化や排泄を促します。交感神経と副交感神経は、多くの器官で反対の働きをします。ただし、すべての器官で正反対というわけではありません[1]。
ストレスへの反応には、もう一本の経路もあります。脳の視床下部からCRHという物質が出て、下垂体のACTH分泌を促し、ACTHが副腎皮質にコルチゾールを作らせます。この流れは、視床下部・下垂体・副腎の頭文字をとって「HPA軸」と呼ばれます。コルチゾールは、グルコースの産生を高め、炎症を抑えます[6]。
この経路は、神経とアドレナリンの反応より遅れて働くものとして説明されることが多いようです[6]。
反応の中身が分かったところで、次の問いです。ドキドキそのものは同じでも、それを「わくわく」と読みかえたら、結果は変わるのでしょうか。
副交感神経は心拍数と血圧を下げ、消化管を刺激して消化と排泄を促す。交感神経と多くの器官で拮抗的に働くが、すべての器官で正反対というわけではなく、汗腺などに例外がある[1]。
ストレス反応にはもう一本の経路がある。視床下部のCRHが下垂体のACTH分泌を促し、ACTHが副腎皮質にコルチゾールを作らせる(HPA軸)。コルチゾールはグルコース産生を高め、炎症を抑える[6]。神経とアドレナリンの反応より遅れて働く経路として説明されることが多い。
速い神経・ホルモンの反応と、遅れて働くHPA軸が重なって体の状態が決まる。では、この生理的な反応そのものは同じでも、本人がそれをどう解釈するかで、成績は変わるのか。
5. 「わくわく」と いうと、ほんとうに てんすうが かわるの?
5. 「不安」を「わくわく」と言いかえたカラオケの実験
5. Brooks(2014年)── 不安の再評価とカラオケの採点
ブルックスさんの けんきゅうで、113人の 大学生が カラオケを しました。うたう まえに、ある 人は「わくわくして いる」と いいました。ある 人は「ふあんだ」と いいました[8]。
ほうどうで しょうかいされた すうじでは、ゲームきの さいてんで、「わくわく」の 人たちは やく80%、「ふあん」の 人たちは やく53% でした。おちついて いた 人たち などは やく69% です[8]。
ブルックスさんは、ふあんも わくわくも、しんぞうが はやく なる ところは おなじだと せつめい します。ふあんを おちつきに かえるより、わくわくに よみかえる ほうが かんたんだと いいます[9]。
ただし、これは 大学生の けんきゅうです。子どもにも おなじ ことが おきるかは、この けんきゅうでは わかりません。
ブルックスの2014年の研究では、不安を「わくわく」と言いかえた人は、落ち着こうとした人より、わくわくした気持ちが強くなり、成績も良かったと報告されています。カラオケの実験(113人)では、歌う前に「わくわくしている」と言った群が約80%、「落ち着く」「怒り」「悲しみ」と言った群が約69%、「不安」と言った群が約53%の得点でした[8]。得点はゲーム機の採点で、歌のうまさそのものではありません。
ブルックスは、不安も興奮も「心拍が高まる高い覚醒」という点では同じで、不安を落ち着きに変えるより、興奮に読みかえるほうが移りやすいと説明しています。数学テスト(188人)では「わくわくしよう」と読んだ群が約8%高い得点、スピーチ(140人)でも「わくわくしている」群のほうが長く、説得力があると評価されました[9]。
これらの数字は報道などで紹介されたもので、対象は大学生や成人です。小・中学生に同じ効果があるかは、資料がありません。
もうひとつ、別の研究者が、入試の前という本物の場面で試した研究もあります。
Brooks(2014年)の実験では、不安を「わくわく」と言いかえた人は、落ち着こうとした人よりわくわくを強く感じ、成績も良かった。カラオケ(113人)では、歌う前に「わくわくしている」群が約80%、落ち着く・怒り・悲しみの群が約69%、「不安」群が約53%の得点だった[8]。得点はゲーム機の採点であり、歌の上手さではない。約80%と約53%の差は約27ポイントである。
Brooksは、不安も興奮も心拍が高まる高い覚醒を伴う点で同じだと説明する。落ち着きへの切りかえより、興奮への読みかえのほうが移りやすいという。数学テスト(188人)では「わくわくしよう」と読んだ群が約8%高得点で、スピーチ(140人)でも、「わくわくしている」群のほうが長く説得力があると評価された[9]。
ただし、数字は報道・大学発表を紹介した二次資料に基づく。原論文の要旨で確かめる必要がある。対象も大学生・成人で、小・中学生に同じ効果があるかは分かっていない。
では、実験室の外、本物のテストでも同じことが起きるのか。
6. ほんばんの テストでも、おなじ ことが おきるの?
6. 本物の大学院入試の前でも、「興奮は力になる」と伝えると点数が変わった
6. Jamieson et al.(2010年)── GRE受験者の再評価と唾液アミラーゼ
ジェイミソンさんたちは、アメリカの 大学いんの にゅうしを うける 人たちに、「体の こうふんは、せいせきを あげる ことが ある」と つたえました[7]。
すると、だえきの 中の ある ものが ふえました。これは、こうかんしんけいが はたらく めやすの ひとつ です。そして、すうがくの れんしゅうの てんすうが、つたえられなかった 人たちより たかかった のです。1〜3か月あとの ほんばんでも、すうがくの てんすうが たかかった そうです[7]。
ただし、すうがくだけの けっかです。ドキドキが いつも ちからに なると いう ことでは ありません。
「ドキドキ」は、体が じゅんびを して いる しるしでも あります。
ジェイミソンらの2010年の研究では、アメリカの大学院入試(GRE)を受ける人に「体の興奮は成績を上げる」と伝えました。すると、交感神経の活動の指標である唾液のアルファアミラーゼが有意に増え、GREの数学の練習で、何も伝えられなかった人より高い得点でした。1〜3か月後の本番の数学の得点も高かったと報告されています[7]。
この研究の対象は大学院を目指す大人で、結果は数学の部分だけです。「ドキドキは必ず力になる」という意味ではありません。
それでも、体の反応そのものをなくそうとするより、「今、体が準備している」と受け止める道がありそうです。
Jamiesonらの実験(2010年)では、GRE(米国の大学院入試)の受験者に「体の興奮は成績を上げる」と伝える再評価の操作をした。その群は交感神経活動の指標である唾液のアルファアミラーゼ(sAA)が有意に増え、GRE数学の練習で対照群より高得点だった。1〜3か月後の本番の数学得点も高かった[7]。
数学のみの結果で、言語分野で差が出たかは示されていない。一般化は控える。そして、対象は大人であり、小・中学生への効果を示す資料もない。
2つの研究に共通するのは、ドキドキをなくす方向ではなく、体の反応は変えずに、その意味づけを変えた点だ。「準備している」という読みかえの効果は、ここまでの資料からは、そのように読める。
自分でも しらべて みたく なったら
自分でも調べてみたくなったら
自分でも調べてみたくなったら
今日できること
つぎに ドキドキした 時、どこが どう なって いるか、見て みましょう。まず 手くびか くびに ゆびを あてて、10びょうかん、みゃくを かぞえて みます。それを 6ばいすると、1ぷんかんの みゃくの かずに なります。あせや おなかの かんじも 見て みてください。
出かけてできること
としょかんで、「からだの しくみ」の 本を さがして みましょう。「じりつしんけい」の ところに、この はなしが かいて あるかも しれません。
こうしきの 情報
MSDマニュアルの かていばんに、じりつしんけいの せつめいが あります。
今日できること
発表や音読の前後に、手首か首で10秒間の脈を数えてみましょう。6倍すると1分間の脈拍になります。前より速いかどうかとあわせて、手のひらの汗やおなかの感じも観察してみてください。
出かけてできること
図書館で、自律神経やストレスの本を探してみましょう。交感神経と副交感神経の図が載っているはずです。
公式情報
MSDマニュアル家庭版の「自律神経系の概要」と、厚生労働省e-ヘルスネットの用語辞典が読めます。
今日できること
緊張する場面の前後で、10秒間の脈拍を数えて6倍し、1分間の脈拍を出す。汗や胃腸の感じも記録し、第2章の変化と重なるかを見る。
出かけてできること
図書館で、自律神経・ストレスの解説書を探し、交感神経・副交感神経の作用表を読み比べる。
公式情報
MSDマニュアル(家庭版・プロフェッショナル版)、厚生労働省e-ヘルスネット、Cannon(1915)の原書(Project Gutenberg、英語)、Jamieson et al.(2010)のHarvard DASH掲載ページを読み、原論文の要旨と結果を確かめてみるのもよい。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
本文の参照番号と対応しています。
- MSDマニュアル家庭版「自律神経系の概要」 https://www.msdmanuals.com/ja-jp/home/09-脳-脊髄-末梢神経の病気/自律神経疾患/自律神経系の概要 (交感・副交感神経の働き)
- MSDマニュアル プロフェッショナル版「自律神経系の概要」 https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional/07-神経疾患/自律神経系/自律神経系の概要 (消化の抑制)
- コトバンク「アドレナリン」 https://kotobank.jp/word/アドレナリン (副腎髄質と分泌)
- 厚生労働省 e-ヘルスネット「ノルアドレナリン」 https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/dictionary/heart/yk-047.html (ノルアドレナリンの2つの役割)
- Walter B. Cannon, Bodily Changes in Pain, Hunger, Fear and Rage (1915), Project Gutenberg https://www.gutenberg.org/ebooks/73932 (キャノンの観察。英語)
- Chronic Stress and Autoimmunity (PMC) https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC12563903/ (HPA軸とコルチゾール。英語)
- Jamieson et al. (2010), Journal of Experimental Social Psychology 46(1):208-212, Harvard DASH https://dash.harvard.edu/handle/1/4214916 (GRE受験者の実験。英語)
- Brooks (2014), Journal of Experimental Psychology: General の報道紹介, Medical News Today https://www.medicalnewstoday.com/articles/270641/ (カラオケ実験の数字。二次資料・英語)
- Innovations Report(Harvard Business Schoolの発表の紹介) https://innovations-report.com/?p=239312 (数学テスト・スピーチの結果。二次資料・英語)
なおした ところ
更新履歴
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