1. ひざの 中は、どう なって いるの?
1. 階段をのぼるとき、ひざの中で何が押し合っているのか
1. 荷重のかかる関節と、少量の関節液
かいだんを のぼる ときは、ひざに 体重が ぐっと のります。ひざの 中では、骨の さきに ついた 軟骨どうしが、圧力を うけながら うごきます。
軟骨は、つるんと して、すこし 弾力の ある そしきです[2]。そこに、すきとおった えきが すこし あります。これが 関節液です。
ひざで とれた りょうは、ほんの すこしだと ほうこくされて います[1]。
どうして、こんなに 少ない えきで だいじょうぶなのでしょう。まず、この えきが どこから 来るのかを 見ます。
2. えきは、どこから 来るの?
2. 血しょうをこして、細胞が成分を足す
2. 滑膜:血漿の限外ろ過と、ヒアルロン酸の分泌
関節の 中は、うすい まくで つつまれて います。この まくが、えきの もとです。
血液の 中の 水の ぶぶんを、まくで こして、関節の 中に おくります。こして できた えきに、まくの 細胞が 出す ものが たされます[3]。
たされる ものの ひとつが、ヒアルロンさんです。とても 長い つぶで、まくの 細胞が、たえず 関節の えきへ おくり出して いると せつめいされて います[3]。
この えきは、ヒアルロンさんの 入った とくべつな えきです。この ちがいが、つぎの 話の かぎです。
3. ヒアルロンさんが、すべりを よく する?
3. 水ではなく「粘りのある液」である意味
3. 粘弾性と潤滑 ── ヒアルロン酸とルブリシンの役割分担
水は、さらさらして います。でも、関節の えきは、すこし ねばねば しています。
ヒアルロンさんの 入った えきは、ふつうの 水とは ちがう ながれかたを して、とても すべりを よくすると 書かれて います[3]。
もうひとつ、軟骨の 表面から 出る ルブリシンという ものも、すべりに かかわります[3]。ルブリシンと ヒアルロンさんで、はたらく ばめんが ちがうと せつめいされることが あります[4]。
ただし これは、分かりやすく した せつめいです。ほんとうは、いくつもの 成分が いっしょに はたらいて います。
ヒアルロン酸の水溶液は、ふつうの液体とちがう流れ方(粘弾性)を示し、潤滑剤としてとても優れているとされます。関節液は高分子量のヒアルロン酸を含むため、潤滑に必要な粘りを持つのです[3]。
関節液にはもう1つ、軟骨の表面から出るルブリシン(PRG4)という成分が、0.05〜0.35mg/mL含まれます。軟骨どうしが強く押し合う場面で、潤滑を助けます[3]。
役割分担については、力の強さによって主に働く成分がちがう、と説明する論文があります[4]。ただし単純化された説明で、実際には成分が組み合わさって働きます。摩擦の大きさも測り方で幅があり、0.002ほどの低い値から0.3以上まで報告されています[5]。
滑らかさは分かりました。では、血管のない軟骨は、どうやって栄養を受け取っているのでしょうか。
ヒアルロン酸溶液は、粘りと弾力をあわせ持つ特異な性質(粘弾性)を示し、潤滑性が非常に高い。高分子量のヒアルロン酸を含むことが、関節液の潤滑に必要な粘りを与える[3]。
もう1つの潤滑成分が、軟骨表層に由来するルブリシン(PRG4、0.05〜0.35mg/mL)だ。軟骨どうしが強く押し合う場面で潤滑を助ける[3]。総説では、高荷重時の境界潤滑をルブリシンが、低荷重時の流体潤滑をヒアルロン酸が担うと説明される[4]。ただし、この分担は単純化されたモデルであり、成分は組み合わさって働く。
摩擦係数は、測定条件で0.002程度から0.3以上まで報告があり、幅が大きい[5]。
潤滑の話は、関節液のもう1つの仕事の前置きにすぎない。血管のない軟骨は、栄養をどこから得るのか。
4. 血管の ない 軟骨は、どうやって ごはんを もらう?
4. 血管のない軟骨に、栄養はどう届くのか
4. 無血管組織としての関節軟骨と、関節液を介した栄養供給
からだの 多くの ところでは、血管が 栄養を はこびます。でも、関節の 軟骨には、血管が ありません。
そのかわりに、関節の えきが 軟骨に 栄養を とどけると せつめいされて います[2]。ふつうの 動物では、栄養を おもに 関節の えきから もらうと 考えられて います[6]。
うごかす ことも、かかわると 考えられて います。軟骨に 力が かかったり ぬけたり すると、えきが 軟骨の 中に 出入りして、栄養や いらない ものの やりとりが すすむ、と せつめいされます[7]。
ただし、これは ひとつの 研究の 考えです。「うごけば ぜったい じょうぶに なる」とは いえません。
まとめると、えきの ねばねばは すべりを たすけ、えきと 軟骨の 行き来は ごはんの やりとりに かかわる、と されます。
関節軟骨には血管がありません。成熟した動物では、栄養を主に関節液からの拡散で受け取ると説明されます。この方式のため、生きた軟骨の厚さは数ミリに限られる、という見方もあります[6]。動物の研究を含むので、ヒトにまったく同じとは言い切れません。
滑膜の細胞がつくる液は、軟骨に栄養を届けるだけでなく、摩擦もさらに減らすとされます[2]。
動きも関わるようです。関節に力がかかったり抜けたりすると、圧力の変化で液が軟骨に出入りし、栄養や老廃物のやり取りが進むと説明されます[7]。運動が軟骨を丈夫にするといった約束としては、読まないでください。
整理すると、液の粘りは潤滑を助け、液と軟骨の間の行き来は栄養の受け渡しに関わる、とされます。1つの液が、2つの場面で役に立っているのです。
関節軟骨は無血管で、細胞は存在し代謝も活発だ。成熟した動物では、栄養を主に関節液からの拡散に頼るとされ、この様式が生存可能な軟骨の厚さを数mmに制限するという[6]。動物研究の記述を含み、ヒトへの完全な一般化は避けたい。
滑膜細胞が産生する液は、軟骨に栄養を供給するとともに摩擦をさらに軽減する[2]。
運動との関係では、周期的な荷重によって関節液が軟骨内を出入りし、栄養・老廃物の交換が進むと説明される[7]。運動が軟骨を丈夫にするという医療的な保証としては扱わない。
整理すると、液の粘性は潤滑を助け、液と軟骨の間の物質の行き来は栄養の受け渡しに関わるとされる。1つの液が2つの場面で働く点が特徴といえる。では、この液が変化するとき、何が起きるのか。
5. えきの 中に、ほかにも 何か あるの?
5. 液が変わるときと、指の関節が鳴る音
5. 病態での変化と、関節液中の微小気泡
関節液の 中には、ごく 小さな あわが できることが あると いう 研究が あります。関節が ポキッと なる 音と かかわると 考えられて います[8]。
この 音の 話は、べつの 記事で くわしく 書いて います。ゆびが ポキッと なるのは なぜ?を 見て ください。
ヒアルロン酸は、関節の病気の研究でも注目されています。変形性関節症では、軟骨でヒアルロン酸が低分子化するなどの変化が起きると報告され、関節液のヒアルロン酸の変化が研究で調べられているといいます[9]。ここでは、関節液の役割を知る背景として触れるだけで、治療については書きません。
一方、指の関節が鳴る音にも、関節液が関わる可能性が研究されています。関節の動きで液の圧力が変化し、液中の微細な気泡が崩壊することが関係するとされます[8]。音の話は、別の記事で詳しく書いています。指の関節が鳴るのは、なぜ?
変形性関節症では、軟骨でヒアルロン酸の低分子化などが起きるとされ、関節液中のヒアルロン酸の変化が研究で調べられている[9]。本稿は、関節液の役割を理解する背景として言及するにとどめ、診療は扱わない。
指の関節音についても、関節の動きで関節液の圧力が変化し、微細な気泡が崩壊することが関与するとされる研究がある[8]。詳細は指の関節が鳴る音の記事を参照されたい。
6. ひざを うごかして、「すべり」を かんじよう
6. 手と水で、粘りのちがいを感じてみる
6. 出口 ── 粘りを手で比べる/日本語の資料で確かめる
りょうての てのひらを かるく あわせて、やさしく こすって みます。つぎに、みずで ぬらして こすります。さいごに、すこしの せっけんを みずに とかした もので こすって みます。
どれが すべりやすいか、くらべて みましょう。これは、関節液の じっけんでは ありません。「ぬるぬる、ねばねばが すべりを かえる」ことを、ちょっと かんじる あそびです。
てで かんじた ちがいを、おもいだして みましょう。ぬるぬるの ちがいで、すべりかたが かわりましたか。
手のひらを軽く合わせてやさしくこすり、次に水でぬらして、最後に少量の石けんを水に溶かしたものでこすってみてください。すべりやすさは、どう変わるでしょうか。
これは関節液の実験ではなく、「ぬるぬる、ねばねばがすべりを変える」ことを手で感じる遊びです。ヒアルロン酸のような長い分子が関わる本物の仕組みは、もっと複雑です。
体験のあとは、日本語で読めるMSDマニュアル家庭版の「関節」[2]で、軟骨や滑液のことを確かめてみてください。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
出典について:関節液の成分や役割は、総説論文とMSDマニュアル家庭版、日本語の解説を突き合わせた。一部(正常量、摩擦係数、運動と栄養)は検索抜粋のみで、本文で強さを弱めて書いた。
- 関節液の解説(Ropesらの値を引く日本語文献)。 https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.11477/mf.1542909229 (膝で採れる正常な関節液の量について)
- MSDマニュアル家庭版「関節」。 https://www.msdmanuals.com/ja-jp/home/08-骨-関節-筋肉の病気/筋骨格系の生物学/関節 (軟骨の性質と、滑液が栄養と潤滑にかかわることについて)
- Hyaluronan and synovial joint: function, distribution and healing. Interdiscip Toxicol, 2013. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3967437/ (血しょうのろ過、ヒアルロン酸とルブリシンの量と粘りについて)
- Knee Surg Sports Traumatol Arthrosc, 2012(ルブリシンとヒアルロン酸の役割分担)。 https://link.springer.com/article/10.1007/s00167-012-1977-7 (高荷重・低荷重での潤滑の分担の説明について。検索抜粋で確認)
- 関節潤滑の総説(摩擦係数)。 https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC2622427 (摩擦係数の幅について。検索抜粋で確認)
- 関節軟骨の栄養に関する総説(PMC3717153)。 https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3717153/ (軟骨に血管がないことと、栄養の届き方について。検索抜粋で確認)
- Influence of cyclic loading on the nutrition of articular cartilage. Ann Rheum Dis, 1990. https://ard.bmj.com/content/49/7/536 (動きと軟骨の栄養の関係について。題名と検索抜粋のみ確認)
- Nature Asia ハイライト(指の関節音の数理モデル研究)。 https://www.natureasia.com/ja-jp/phys-sci/research/12435 (関節液中の気泡と関節音について)
- 橋本ら「ヒアルロン酸の抗酸化作用」臨床整形外科 42(4), 2007. http://imis.igaku-shoin.co.jp/contents/journal/05570433/42/4/1408101020/ (変形性関節症とヒアルロン酸の背景について)
なおした ところ
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