1. 1日に 2回、海に なったり りくに なったり
1. 1日に2回、海になったり陸になったりする場所
1. 干潟とは何か ── 過酷なのに生きものが多い理由
海の 水は、1日に 2回 ずつ、 みちたり 引いたり します。
水が 引いた とき、海の そこが 出て きて、 広い どろの 野原の ように なる ところが あります。 これを 干潟と いいます。
しばらく すると、また 水が みちて きて、 その 野原は 海に もどります。
つまり ひがたは、海でも あり、りくでも ある ふしぎな 場しょです。
歩くと ぬかるんで、くつが どろだらけに なります。 「きたない ところ」と 思う 人も いるかも しれません。
でも、その どろの 中には、 たくさんの 生きものが すんで います。 そして、その 生きものたちが とても 大じな しごとを して いるのです。
海の水は、1日におよそ2回、満ちたり引いたりします。 月と太陽の引力で、海面が上下するからです。
潮が引いたとき、海の底が水の上に出てくる場所があります。 広い泥や砂の平地が現れます。これが 干潟 です。 そして数時間後には、また海に沈みます。
1日に2回、海になったり陸になったりする土地。 そんな場所は、ほかにあまりありません。
そこにいる生きもの
干潟には、独特の顔ぶれが暮らしています。
- アサリなどの貝
- カニ(ハサミを振るシオマネキなど)
- ゴカイのなかま(前の記事で書いた多毛類)
- ハゼなどの魚
- そして、それを食べに来る鳥
暮らしにくい場所のはずです。 数時間ごとに水につかったり干上がったり、 夏は熱く、冬は冷たく、塩分も変わる。
それでも、ここにはものすごい数の生きものが集まっています。 理由は次の章で見ますが、ひとことで言えば 食べものが豊富だからです。
干潟は、潮の満ち引きによって、 水没と干出(干上がること)を繰り返す平坦な砂泥底のことです。 潮汐は月と太陽の引力によって起こり、多くの場所で1日におよそ2回、満潮と干潮が訪れます。
海洋でも陸地でもない、その中間の環境。 この「どっちつかず」であることが、干潟の性質をほぼ決めています。
過酷な環境
干潟にすむ生物は、次のような変動にさらされます。
- 乾燥と冠水:数時間ごとに空気中と水中を行き来する
- 温度:干出時は直射日光で高温に、冬は低温になる
- 塩分:河口部では雨や川の水で塩分が大きく変わる
- 酸素:泥の内部は酸素がほとんどない(嫌気的)
ふつうに考えれば、生きにくい場所です。 それにもかかわらず、干潟の単位面積あたりの生物量は、 海の中でもきわめて高い部類に入ります。
なぜ生きものが多いのか
鍵は有機物の供給です。
- 川が上流から栄養分と有機物を運んでくる
- 浅いので、太陽の光が底まで届き、植物プランクトンや藻類が育つ
- 潮の動きが、それらを絶えずかき混ぜて運ぶ
つまり干潟は、栄養が集まり、光も届き、かき混ぜられ続ける場所です。 食べものが多ければ、それを食べる生きものが増え、 さらにそれを食べる生きものが集まります。 過酷さと引き換えに、餌が豊富な土地だということです。
2. 日本は その 3分の1を うめ立てた
2. 日本は、その3分の1を埋め立てた
2. 失われた面積 ── 82,621haの3分の1
ここで、少し かなしい 話を します。
日本には、むかし もっと たくさんの ひがたが ありました。
でも、その 多くが なくなって しまいました。 いちばん 大きな 理ゆうは うめ立てです。
うめ立てると いうのは、 海に 土や すなを 入れて、 りくに して しまう ことです。
そこに 工場や 家や 道ろが つくられました。
どれくらい へったと 思いますか。
しらべた けっかに よると、 80年 ほど 前と くらべて、 3分の1 いじょうが なくなって いました。
東京の 近くの 海では、もっと へって います。 この ページを 書いて いる 人が すんで いる 東京の まちの 多くも、 じつは むかし 海だった ところです。
ここで、あまり楽しくない話をします。 日本の干潟は、この80年ほどで大きく減りました。
数字で見る
環境省の調査によると、1945年の時点で、日本全国に 82,621ヘクタールの干潟がありました。 ところが1979年までに、そのうち約35%が失われていました[1]。 いちばん大きな原因は埋め立てですが、それだけではありません。
82,621ヘクタールというのは、東京23区の面積よりも広いくらいです。 その3分の1以上が、30年ほどで消えたことになります。
東京湾はもっと激しい
東京湾では、変化がさらに極端でした。 明治時代の後半にはおよそ136平方キロメートルあった干潟が、 1983年には10平方キロメートルにまで減ったと報告されています[2]。
10分の1以下です。
埋め立てというのは、海に土や砂を入れて陸地にすることです。 そこに工場や港、住宅や道路が作られました。 いま東京湾ぞいを歩いていて「ここは昔、海だった」という場所は、 めずらしくありません。
このサイトを書いている管理人は東京都中央区に住んでいます。 この区の土地の多くも、埋め立てでできたものです。 ヒキガエルの記事で 「まとまった自然の水辺がない」と書いたのは、こういう背景があります。
日本の干潟面積は、20世紀後半に大きく減少しました。
環境省の資料によれば、1945年(昭和20年)時点の全国の干潟面積は 82,621ヘクタール。 1979年(昭和54年)までに、そのうち約35%が消滅しています[1]。
東京湾の減少幅は、全国平均よりはるかに大きいものでした。 都市に近く、平坦で浅い場所ほど埋め立てやすかったからです。
なぜ干潟が埋め立てられたのか
干潟は、埋め立てる側から見ると条件がそろっていました。
- 浅い:深い海を埋めるより、はるかに少ない土砂で済む
- 都市に近い:湾の奥は、そのまま大都市の隣にある
- 平坦:造成しやすく、大きな区画を取りやすい
- 所有関係がはっきりしない:陸地のように地権者がいるわけではない
そして当時、干潟は「役に立たない土地」と見なされていました。 農地にもならず、家も建たず、船も通れない浅瀬。 埋め立てて工場用地や港湾にするほうが価値がある、という判断です。
高度経済成長期には、工業用地と住宅地の需要が急速に伸びました。 その受け皿として、湾岸の浅い海が選ばれたわけです。 当時の判断を今の基準で断罪しても意味はありませんが、 何が起きたかを正確に知っておくことには意味があります。 では、そのとき失われたものは何だったのか。次の章から見ていきます。
3. しごと① 水を きれいに する
3. 干潟の仕事① 水をきれいにする
3. 機能① 水質浄化 ── 濾過・撹拌・持ち出し
ひがたは、じつは 海の 水を きれいに して います。
どうやって でしょう。
まず、アサリなどの 貝です。 貝は 口から 水を すいこんで、 その 中の 小さな つぶを 食べます。 そして きれいに なった 水を 出します。
3センチくらいの アサリが 1こで、 1時間に 1リットルの 水を きれいに できると 言われて います。
牛にゅうパック 1本ぶんです。 それが 何万びき、何十万びきと いるのです。
そして、どろの 中には ゴカイの なかまが いて、 あなを ほって 空気を 通して います。 すると 小さな 生きものが はたらいて、 よごれを 小さく して くれます。
ひがたは、大きな 水を きれいに する きかいの ような ものなのです。
干潟のいちばん有名な働きが、水をきれいにすることです。 どうやっているのか、順に見ていきます。
貝が水をこす
アサリのような二枚貝は、水を吸いこんで、 その中に浮かんでいる植物プランクトンや小さな粒を食べます。 そして、こしとったあとの水を吐き出します。
その量が、けっこうすごい。 3cmほどの親アサリで、条件がよければ1時間におよそ1リットルの海水をこすと言われます[3]。
牛乳パック1本ぶんです。それが1匹あたり、1時間で。 干潟には、その貝が数えきれないほどいます。
ゴカイが泥を耕す
もうひとつが、泥の中の働きです。 前の記事で書いたように、 ゴカイのなかまが泥に穴を掘り、そこへ海水と酸素が入りこみます。
酸素が届くと、泥の中の微生物が活発になり、 たまった有機物(生きものの死がいやフンなど)を分解してくれます。
合わせて「浄化装置」になる
つまり干潟では、
- 川から流れてきた汚れ(有機物)が入ってくる
- 貝がこしとり、生きものが食べる
- 泥の中の微生物が分解する
- その生きものを鳥や魚が食べて、外へ持ち出す
という流れができます。 汚れが生きものの体を通って形を変え、系の外へ出ていくのです。
干潟を埋め立てるということは、この装置を止めるということでもありました。
干潟の機能としてよく挙げられるのが水質浄化です。 複数の過程が組み合わさって働いています。
① 濾過食者による除去
アサリなどの二枚貝は濾過食者で、水中の植物プランクトンや懸濁物を こしとって摂食します。 殻長3cm程度の親アサリで、条件がよければ1時間あたり約1リットルを濾過するとされます[3]。
個体数を掛け合わせると、干潟全体の濾過量は相当な規模になります。 水中に浮いている有機物を、固体(貝の体)に変換して水から抜く働きです。
② 底生生物による撹拌と、微生物の分解
多毛類などの底生動物が巣穴を掘ることで、 堆積物の内部へ海水と酸素が供給されます(生物撹拌)。 これにより、微生物による好気的分解や脱窒が進みます[4]。
脱窒は特に重要です。富栄養化の原因となる窒素化合物を 窒素ガスに変えて大気へ戻す、つまり系の外へ本当に抜いてしまう働きだからです。
③ 生物による持ち出し
干潟で育った貝や魚を人が獲り、渡り鳥が食べて飛び去る。 これも、有機物を系の外へ運び出す経路になります。
干潟が水をきれいにする、という表現はよく使われますが、 無制限に汚れを処理できる装置ではありません。 処理能力を超える負荷がかかれば、酸素が足りなくなって 底生生物が死に、かえって状態が悪化します。 実際、内湾では夏に貧酸素水塊が発生する問題が続いています。 干潟は万能の浄化装置ではなく、 ある範囲の負荷を処理できる生態系だと理解するのが正確です。
4. しごと② わたり鳥の ごはん場
4. 干潟の仕事② 渡り鳥のガソリンスタンド
4. 機能② 渡り鳥の中継地 ── ボトルネックという構造
春と 秋、ひがたには たくさんの 鳥が やって きます。
長い くちばしで どろを つついて、 中の 生きものを 食べて います。
この 鳥たちは、とても 遠くから 来ます。 そして、また 遠くへ 行きます。 南の あたたかい 国と、北の さむい 国の あいだを、 毎年 行ったり 来たり して いるのです。
何千キロも とぶので、とちゅうで ごはんを 食べて 体力を つける ひつようが あります。
そのための 場しょが、ひがたです。
車で 遠くへ 行く とき、 とちゅうで ガソリンを 入れますね。 ひがたは、鳥に とっての ガソリンスタンドなのです。
もし その スタンドが なくなったら、どうなるでしょう。 鳥は 次の 場しょまで とべなく なって しまいます。
春と秋、干潟には長いくちばしの鳥が集まります。 シギやチドリのなかまです。泥をつついて、中の生きものを探しています。
この鳥たちは、その場所で一年を過ごすわけではありません。 北の繁殖地と、南の越冬地のあいだを、毎年往復している渡り鳥です。 距離は何千キロにもなります。
途中で降りられないと、渡れない
長距離を飛ぶには、途中で降りて食べ、体力を回復する必要があります。 その中継地が干潟です。
日本の干潟は、この渡りの経路にあたっています。 たとえば有明海にあるラムサール条約の登録湿地では、 秋から春にかけてシギ・チドリ類が飛来し、 東アジアにおける重要な渡りの中継地・越冬地になっていると 環境省の資料に説明されています[5]。
ガソリンスタンドがなくなると
車で遠くへ行くとき、途中でガソリンを入れます。 スタンドが1つ減っても、次まで走れるなら困りません。 けれど、続けて何軒も閉まっていたら、たどりつけなくなります。
渡り鳥にとっての干潟は、これと同じです。 1か所を埋め立てるということは、そのルート全体に効いてくる。 日本の干潟が減ると、日本にいない季節の鳥にも影響が及びます。
国を越えて移動する生きものは、 どこか1つの国だけでは守れません。次の章で出てくる国際的な取り決めは、 そのために作られました。
干潟は、渡り鳥にとっての中継地として決定的に重要です。
シギ・チドリ類の多くは、北半球高緯度の繁殖地と、 南半球や熱帯の越冬地のあいだを長距離移動します。 この経路はフライウェイと呼ばれ、 日本を含む東アジアの沿岸はその主要なルートにあたります。
環境省の資料では、有明海北西岸にあるラムサール条約登録湿地の泥干潟について、 秋から春にかけてズグロカモメやチュウシャクシギなどのシギ・チドリ類が飛来し、 東アジア地域における重要な渡りの中継地および越冬地となっている、 と説明されています[5]。 有明海全体が一様にそうだ、という意味ではありません。
中継地が持つ意味
渡り鳥は、飛行のために体重の大部分を脂肪として蓄え、 それを燃やしながら移動します。 中継地では、短期間で集中的に採餌し、失った体重を回復させます。
ここに、生態学でよく議論される性質があります。
- 中継地は、経路上に点在している
- 各個体は、次の中継地まで届く分の燃料しか積めない
- したがって、1か所の消失が、経路全体の成立を脅かす
これは「ボトルネック」と呼ばれる構造です。 全体の量ではなく、いちばん細い場所が上限を決めます。 干潟の面積が全国で35%減ったという数字は、 鳥の側から見れば「途中の給油所が3分の1閉まった」に近い意味を持ちます。
渡り鳥は国境を無視して移動します。 日本で守っても、経路上の別の国で干潟が失われれば、飛来数は減ります。 逆も同じです。 一国だけでは完結しない保全の問題であり、 国際的な枠組みが必要になる理由がここにあります。
5. しごと③ 魚の ゆりかご
5. 干潟の仕事③ 魚のゆりかご、人の漁場
5. 機能③ 成育場と漁場 ── 生態系サービス
ひがたは、魚に とっても 大じな 場しょです。
生まれたばかりの 小さな 魚は、 大きな 魚に 食べられて しまいます。
でも ひがたは 浅いので、 大きな 魚は 入って これません。 しかも、食べものが たくさん あります。
だから 小さな 魚は、 ここで 大きく なってから 海へ 出て いきます。
つまり ひがたは、魚の ゆりかごです。
そして 人も、ここで しごとを して います。 アサリを とったり、のりを そだてたり。
しおひがりを した ことが ある 人も いるでしょう。 あれも、ひがたが ある からこそ できる あそびです。
もうひとつ、干潟には大事な役割があります。 小さな魚が育つ場所になっていることです。
浅いことが、守りになる
生まれたばかりの魚(稚魚)にとって、いちばんの脅威は大きな魚です。 ところが干潟は浅いので、大型の魚が入ってきにくい場所があります。
そのうえ、食べものが豊富です。 敵が来にくくて、餌が多い。稚魚にとって、これ以上ない条件です。
だから多くの魚や、エビ・カニのなかまの一部が、 子どものころを干潟やその周辺の浅場で過ごし、 ある程度育ってから沖へ出ていきます。 こういう場所を 「海のゆりかご」 と呼ぶことがあります。
人の仕事の場でもある
干潟は、漁業の場でもあります。アサリを獲り、ノリを育てる。 有明海の干潟のひとつでは、ゴカイ類や貝類が多く生息し、 ノリの養殖やアサリ漁が行われていると 環境省の資料に書かれています[5]。
潮干狩りも、干潟があるからできる遊びです。
つまり干潟の価値は、「自然が大事だから」だけではありません。 魚が育ち、貝が獲れ、水がきれいになる。 そこで暮らす人の生活と、直接つながっています。
干潟と浅海域は、多くの魚類にとって成育場として機能します。
成育場としての条件
- 捕食者からの逃避:水深が浅く、大型魚が侵入しにくい
- 餌の豊富さ:底生生物、プランクトンが高密度で存在する
- 構造の複雑さ:泥、砂、アマモ場などが隠れ場所になる
稚魚期の死亡率は非常に高く、この時期をどこで過ごせるかが 個体群の大きさを左右します。 干潟や浅海域が「海のゆりかご」と呼ばれるのは、この段階を支えているからです。
漁業との関係
干潟は直接的な漁場でもあります。 有明海の干潟のひとつでは、ゴカイ類や貝類など多様な生物が生息し、 ノリ養殖やアサリ漁が行われています[5]。
ここで重要なのは、干潟の価値が経済的にも計上できるという点です。
- 漁獲(直接の収入)
- 水質浄化(下水処理の代替として考えれば費用に換算できる)
- 稚魚の供給(沖合の漁業を支える)
- 親水空間、教育の場
こうした働きを 生態系サービス と呼びます。 埋め立てが進んだ時代、干潟はこれらの価値が計算されないまま 「未利用地」として扱われました。 価値の測り方が変われば、判断も変わりうる。 いま干潟の再生が議論されるのは、この見方が広がったことが大きいと言えます。
6. のこった ところと、これから
6. 残ったところと、これから
6. 三番瀬、ラムサール条約、ワイズユース
へって しまった ひがたですが、 のこって いる ところも あります。
東京の 近くにも、まだ あります。 三番瀬と いう ところが その ひとつです。 千葉県の 海に 広がって いて、 アサリや カニや カレイが すんで います。
いま、こうした 場しょを まもろう と いう うごきが あります。
ぬまや ひがたの ような 水べを 大じに しよう、と いう 世界の やくそくも あります。 条約と いいます。
おもしろいのは、その やくそくが 「さわらないで まもる」だけでは ない ことです。
じょうずに つかいながら まもる。 そういう 考え方なのです。
しおひがりを する ことも、 じつは その ひとつ かも しれませんね。
減ってしまった干潟ですが、残っている場所もあります。
三番瀬
東京湾の奥に 三番瀬(さんばんぜ) があります。 浦安市、市川市、船橋市、習志野市の沿岸に広がる、 約1,800ヘクタールの干潟・浅海域です (干潮のときに水深5mより浅い範囲。前に出た東京湾の10km2は 干潟だけの面積なので、そのまま比べられません)。 アサリ、カニ、カレイなど多様な生物を育て、 水質浄化の機能を持っていると説明されています[6]。
東京湾の干潟が10分の1以下になったなかで、残った貴重な場所です。
「使いながら守る」という考え方
湿地を守るための国際的な取り決めに ラムサール条約 があります。 1971年2月2日、イランのラムサールという町で採択されました[7]。
この条約で面白いのは、目指しているのが 「人を立ち入らせずに保存する」ことではない点です。 条約は、湿地の保全とあわせて ワイズユース(賢明な利用) を進めることを目的にしています[7]。
つまり、使いながら守る。 漁をして、潮干狩りをして、観察に行って、それでも壊さない使い方を探す。
はじめは水鳥の生息地としての役割に重点が置かれていましたが、 各国の取り組みが進むなかで、 湿地の生態系が果たすさまざまな役割が広く認められるようになってきました[7]。
失われた面積は戻りませんが、残された干潟と、その扱い方をめぐる議論は続いています。
三番瀬
東京湾最奥部に位置する 三番瀬 は、 浦安市・市川市・船橋市・習志野市の沿岸に広がる約1,800haの干潟・浅海域です (干潮時に水深5m以浅の範囲を指します。第2章の東京湾10km2は 干潟のみの面積なので、定義が異なります)。 アサリ、カニ、カレイなど多様な生物が生息し、 水質浄化機能を持つとされています[6]。
この海域は、かつて埋め立て計画の対象になった経緯があり、 その扱いをめぐって長く議論が続いてきた場所でもあります。
ラムサール条約とワイズユース
湿地の保全に関する国際的な枠組みが ラムサール条約です。 正式名称は「特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約」で、 1971年2月2日にイランのラムサールで採択されました[7]。
この条約の特徴は、保全と並んで ワイズユース(賢明な利用)を掲げている点にあります[7]。
背景には、湿地が人の暮らしと切り離せないという認識があります。 漁業、農業、水の供給、レクリエーション。 人を締め出す保全は、地域の理解を得にくく、長続きしません。 利用を認めたうえで、持続する形を探るという設計です。
また、条約の採択当初は国境を越えて移動する水鳥の生息地としての機能に 重点が置かれていましたが、各国の取組が進むなかで、 さまざまな湿地生態系が果たす役割の重要性が 広く認められるようになっています[7]。
残された干潟をどうするかに加えて、 失われた干潟を再生できるかという議論もあります。 埋め立て地の一部を掘り戻す、人工干潟を造る、といった試みです。 ただし、生きものの顔ぶれや泥の性質は長い時間をかけて作られたもので、 形を似せれば同じ働きが戻るとは限りません。 この点は、今も評価が分かれています。
じぶんでも やって みる
7. 自分でも行ってみたくなったら
7. 自分でも行ってみたくなったら
ひがたは、行けば だれでも 見られます。
- しおの 時こくを しらべる。 「しおみひょう」で 調べると、 水が いちばん 引く 時間が わかります。 その 2時間 くらい 前に 行くと ちょうど いいです。
- どろの 上を よく 見る。 小さな あなが たくさん あります。 カニの あなか、貝の あなか、ゴカイの あなか。
- じっと まって みる。 少し 動かずに いると、 かくれて いた カニが 出て きます。
長ぐつを はいて、大人と いっしょに 行きましょう。 しおが みちて くる 時間には、 かならず もどって ください。
干潟は、行けば誰でも見られます。入場料もいりません。
- 潮見表を調べる。「潮見表」「タイドグラフ」で検索すると、 その日の干潮の時刻が分かります。干潮の1〜2時間前に着くのがおすすめです。
- 泥の表面を観察する。穴の大きさ、形、まわりに積まれた砂。 穴の主によって痕跡がちがいます。
- 動かずに待つ。人が近づくとカニは隠れます。 5分ほどじっとしていると、いっせいに出てきます。
- 鳥を見る。春と秋なら、渡りの途中のシギやチドリがいるかもしれません。 くちばしの長さがそれぞれ違うのは、狙っている深さが違うからです。
長靴で行くこと、大人と一緒に行くこと。 そして潮が満ちてくる時刻を必ず確認すること。 干潟は平らなので、満ちてくると足元まで一気に水が来ます。
関連する記事
- 釣りエサの正体は、海底を耕す生きものだった(泥の中で働く生きものの話)
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干潟は、観察のハードルが低い割に、見えるものが多い場所です。
行くときの準備
- 潮見表で干潮時刻を確認する。干潮の前後2時間が観察に適する
- 満潮に転じる時刻も同時に確認する(これが安全のかなめ)
- 長靴か、濡れてよい靴。泥は思ったより深い
- 保護区や立入制限の有無を、事前に自治体のサイトで確認する
見るとよいもの
- 穴の形:直径、縁の盛り上がり、周囲の糞塊。主によって違う
- ゾーンの違い:陸に近い側と沖側で、いる生きものが変わる。 干出時間の長さが効いている
- 鳥のくちばし:長さと形の違いが、そのまま採餌する深さの違いになる。 同じ場所を分け合う仕組み(ニッチ分割)が見える
調べる入口
- 環境省 生物多様性センター「干潟・藻場・サンゴ礁調査」(全国の面積データ)
- 環境省「ラムサール条約と条約湿地」
- お住まいの都道府県・市町村の環境部門(地域の干潟の調査報告)
考えてみると面白いこと
- 「役に立たない土地」という評価は、どういう物差しから出てきたのか
- 生態系サービスを金額に換算する方法には、どんな弱点があるか
- 人工干潟は、天然の干潟の代わりになるのか。何をもって「なった」と言えるのか
- 渡り鳥のように国をまたぐ生きものを守るには、どんな仕組みが要るか
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
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- 環境省「干潟・藻場・サンゴの減少 干潟面積の推移」(PDF) 資料PDF / 生物多様性センター 干潟・藻場・サンゴ礁調査 (1945年の全国干潟面積 82,621ha と、1979年までの減少)
- 国立環境研究所「環境儀 No.03」コラム「干潟・浅海域と開発について」 https://www.nies.go.jp/kanko/kankyogi/03/07.html (東京湾の干潟面積の変化)
- 兵庫県農林水産技術総合センター「アサリの餌って何? 干潟の浄化パワーはすごい!」 解説ページ (アサリ1個体あたりの濾過量の目安)
- 佐藤正典「干潟における多毛類の多様性」(鹿児島大学、PDF) 論文PDF (巣穴による好気的分解と脱窒の促進)
- 環境省「日本の条約湿地」 https://www.env.go.jp/nature/ramsar/conv/RamsarSites_in_Japan.html (有明海の泥干潟が東アジアの渡りの中継地・越冬地であること、ノリ養殖やアサリ漁)
- 船橋市「三番瀬とラムサール条約について」 https://www.city.funabashi.lg.jp/machi/kankyou/010/p070354.html (三番瀬の位置、面積約1,800ha、生息する生物と水質浄化機能)
- 環境省「ラムサール条約と条約湿地」 https://www.env.go.jp/nature/ramsar/conv/ (1971年の採択、ワイズユース、条約が扱う範囲の広がり)
- この記事の姉妹編:釣りエサの正体は、海底を耕す生きものだった / アオイソメはどこから来るのか
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