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ここにあるのは、だれかが実際に調べ、考え、作ってきたことを集めたメモです。気になったら、ページの下の「参考にした情報源」から、もとの本や記事、それを生み出した人たちに、直接ふれてみてください。このメモには書ききれないおもしろさが、そこにあります。

トーストは、どうして バターの ほうから おちる ような 気がするの?

トーストはバターの面から落ちるのか ── 机の高さと半回転の研究

バターを塗ったトーストの落下 ── マシューズ(1995年)、イグ・ノーベル賞、実験の食い違い

分野:自然

あさごはんの トーストを、ゆかに おとして しまった。ひろって みると、バターを ぬった ほうが した。そんな ことは ありませんか。

「いつも バターの ほうから おちる」と いう はなしは、むかしから あります。ほんとうに そうなのか、ぶつりがくしゃが しらべた はなしを しょうかいします。

トーストを落とすと、なぜかバターを塗った面が下になる。そんな経験を、多くの人が話のネタにしてきました。

これを気のせいで片づけず、物理学者が計算した研究があります。犯人はバターの重さではなく、机の高さらしい、という話です。ただし、必ずそうなるわけではないところまで、実験の結果を並べながらたどります。

「トーストはバターを塗った面から落ちる」という言い伝えは、物理学者R.A.J.マシューズが1995年に論文で取り上げた[1]。要旨は、机から落ちるトーストは幅広い条件でバター面が下になりやすい、というものである。

この記事では、論文の要旨、解説記事、学校での大規模な実験、テレビ番組の検証を突き合わせ、「なりやすい」と「必ず」の違いを整理する。論文本文は参照できておらず、式や細かい条件には立ち入らない。

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1. 「バターの ほうから おちる」は、むかしから あった?

1. 昔からある冗談

1. 言い伝えの古さ ── 1884年の詩

このはなしは、さいきんの ものでは ないようです。むかしの えいごの しには、「パンは いつも バターの ほうから ゆかに おちる」と いう ぐあいの ことを うたった ものが あります[5]。

いまから 140ねんくらい まえの、1884ねんの しだと いわれます。もっと ふるい ものが あるかどうかは、わかりません。

そんなに むかしから、みんな おなじ ことを かんじて いたのです。

1884年のジェームズ・ペインの詩には、「厚いパンを落としたら、いつもバターを塗った側だった」という意味のくり返しが出てきます[5]。この冗談の古い例の一つとして紹介されています。「最古」かどうかまでは、資料からは言えません。

140年以上前から、人は「よりによってバターの面から」と感じていたことになります。ただ、長く語り継がれてきたことだけでは、実際にバター面が下になりやすいとはいえません。まず、なりやすいとした側の説明を見てみます。

この種の冗談の古い例として、1884年のジェームズ・ペインの詩が挙げられる。パンがいつもバターの面から床に落ちる、という内容である[5]。最古かどうかは資料から判断できない。

140年以上語られてきたことは、傾向が実在する可能性を示すというより、印象に残りやすい出来事だったことを示す面もある(7章)。まず、傾向が実在するとした側の説明を見る。

2. バターが おもいから、なの?

2. 「バターが重いから」ではないらしい

2. 重さ説の否定 ── 回転が足りない

まず おもいつくのは、「バターの ほうが おもいから、した に なる」と いう こたえです。でも、これが おもな りゆうでは ないと、かいせつされて います[2]。

トーストは、つくえの はしを こえると、くるくると まわりはじめます。ところが、まわる はやさが ゆっくりで、ゆかに つくまでに、バターの ほうを うえに もどす ほどは まわれません。

ゆかに ついた とき、たまたま バターの ほうが したに なって いる、と いう わけです。

直感的には、バターの分だけ重い面が下になる、と思いたくなります。しかし解説では、これは主な理由ではないとされています[2]。

トーストは机の端を越えると回りはじめます。ところが回る速さがゆっくりで、床に着くまでに、バター面を再び上に向けるほど回りきれません[2]。着地の向きは、重さより、落ちている間にどれだけ回るかで決まる、という説明です。

「バターが重いから下になる」という説明は、主因ではないとされる。トーストが机の端を越えると回転が始まるが、回転速度が遅く、床に達するまでにバター面を上に戻すほど回れない[2]。

つまり、着地の向きを決めるのは質量の偏りではなく、落下時間と回転速度の関係である。次の章では、落下時間を決める机の高さを見る。

3. つくえの たかさで、まわる かずが かわる?

3. 朝食の机で、約半回転

3. 机の高さと落下中の回転量 ── 約75cmと約3m

ふつうの あさごはんの つくえの たかさから おちると、トーストは はんぶんくらい まわると しょうかいされています[3]。はんぶん まわると、うえに あった バターの めんが した です。

もし バターの ほうを うえに して おりたいなら、ぐるっと 1かい まわらないと いけません。それには、ふつうの つくえより ずっと たかい、3メートルくらいが ひつようだと、けいさんされました[4]。

ふつうの つくえは 75センチくらい。おとなの せより、ずっと たかい つくえが いる ことに なります。

ふつうの朝食のテーブルの高さから落ちると、トーストは落下中に約半回転する、と紹介されています。これは平均的な机の高さでの話です[3]。半分回れば、上を向いていたバター面は下になります。

バター面を上にして着地するには、ぐるりと一回転する必要があります。それには机の高さが約10フィート、つまり約3メートル必要だと述べられています[3]。マシューズの計算でも、必要な高さは約3メートルで、標準的な机の約75センチでは足りないとされています[4]。

3メートルは、おとなの背よりずっと高く、家の天井に近い高さです。二つの資料が近い数字を挙げていますが、どちらも論文の推定値の紹介で、この値が絶対というわけではありません。

平均的な朝食用テーブルの高さでは、落下中のトーストは約半回転し、バター面を下にして着地するとされる。バター面が上になる一回転(360度)には、約10フィート(約3m)の高さが必要とされる[3]。マシューズの見積もりでも、必要な高さは約3mで、標準的な机(約75cm)は足りない[4]。

3mは75cmの4倍にあたる。いずれも論文の推定値を紹介する二次資料であり、条件が変われば数値は変わる。「必ず」ではなく「なりやすい」と読むべき数字である。

4. つくえの たかさから、ひとの せの たかさの ひみつまで

4. 机の高さから基本定数まで、マシューズの説明

4. 机の高さから基本定数まで ── マシューズの議論の連鎖

つくえの たかさは、ひとが つかいやすい ように、ひとの せの たかさに あわせて つくられて います。

だから、ふつうの ひとが つかう つくえから おとすと、トーストは はんぶんくらい まわった ところで ゆかに つきやすいのです。マシューズという ひとは、もっと ふかく かんがえました。ひとの せの たかさの うえかぎには、ぶっしつの できかたに かかわる きまりが かんけいして いて、それが つくえの たかさにも つながると、ろんぶんで のべました[5]。

おおきな はなしに なりましたね。

机の高さは、人が使いやすいように、人の身長に合わせて作られています。だから、人が使う机から落ちるトーストは、約半回転で床に着きやすくなります。

マシューズはここからさらに進んで、人の身長の上限には、原子どうしの結びつきなどを決める基本定数が関係していて、それが机の高さにもつながる、と論じたとされます[5]。結論は、バター面が下になるのは「基本定数のせい」というものでした。少し大きすぎる話のようですが、そう論じたと解説されています。

マシューズの議論は、トーストの回転量が机の高さで決まり、机の高さは人の身長に関係し、人の身長の上限には化学結合などを決める基本定数が関係する、という連鎖になっている[5]。論文の結論は、バター面下の傾向は基本定数に由来する、というものと解説される。

この連鎖は英語版Wikipediaの要約による。

5. まじめな ろんぶんが、どうして しょうを もらったの?

5. 余暇の仕事が、イグ・ノーベル賞に

5. 1995年の論文と1996年のイグ・ノーベル物理学賞

この けんきゅうを した マシューズさんは、つぎの 1996ねんに、イグ・ノーベルしょうを もらいました[6]。ひとを わらわせて、そのあと かんがえさせる けんきゅうに おくられる しょうです。

マシューズさんは、テレビに おもしろい ものが なかった ときに、ひまな じかんに やった しごとだと、はなしたと つたえられて います[6]。

たのしく しらべた ことが、ほんものの ろんぶんに なった のです。

マシューズは1996年、この研究でイグ・ノーベル物理学賞を受けました。マーフィーの法則の研究、とくにトーストがバター面から落ちることが対象でした[6]。イグ・ノーベル賞は、人を笑わせ、そして考えさせる研究に贈られる賞です。

本人は、テレビに面白いものがない夜に、余暇にやった仕事だ、と語ったと報じられています[6]。論文は1995年に、物理の学術誌に載っています[1]。

マシューズは1996年、マーフィーの法則の研究、とくにトーストがバター面から落ちる問題でイグ・ノーベル物理学賞を受けた。イグ・ノーベル賞は、人を笑わせ、考えさせる研究に贈られる[6]。

本人は受賞について、テレビに面白いものがないときに余暇でやった仕事だと語ったと報じられた[6]。論文は1995年にEuropean Journal of Physics 16巻4号に掲載されている[1]。

6. いつも バターの ほうから おちるの?

6. 実験してみると

6. 実測の食い違い ── 学校の実験と番組の検証

2001ねんに、イギリスの こどもたち 1000にんくらいが きょうりょくして、トーストを おとす じっけんを しました。おとした かずは 1まんかいくらいです(しりょうに よって、かずの かきかたは ちがいます)。そのうち 6わりくらいで、バターの ほうが した でした[5]。10かいのうち 6かいくらいです。

ぜんぶ では ありません。バターの ほうが うえに なった ことも、たくさん あったのです。

テレビばんぐみの じっけんでは、たかい ところから おとしたら、けっかが はっきり ちがいませんでした[7]。おとしかたや たかさで、けっかは かわるようです。

2001年には、英国の約1000人の児童が協力して、トーストを約1万回落とす実験をしました(資料により総数の記載が異なります)。バター面が下になったのは約6割です[5]。10回のうち6回ほど。半々よりは多いものの、「ほぼ毎回」とまではいえない数字です。

いっぽう、テレビ番組のMythBustersは、約2階の高さから48回ずつ落としました。印のある面が上になったのは、乾いたトーストで26回(54%)、バター付きで29回(60%)です。この二階建ての高さ、各48回という条件では、差が統計的に有意とはいえず、偶然でも説明できるとされています[7]。

高いところから落とすと回転量が増えるので、机の高さとは前提が変わります。押し方でも結果が変わる、という報告もあります[9]。傾向はあるが、条件しだい、というのが実験から見える姿です。

2001年、英国の児童約1000人が協力した学校の実験では、約1万回の落下のうち約6割がバター面下だった[5]。半々ではないが、「ほぼ必ず」でもない。総落下数は資料により記載が異なり(約1万回とするもの、約21,000回とするもの)、ここでは正確な回数は示さない。

MythBustersは約2階の高さから48回ずつ落とし、印の面が上になったのは乾いたトーストで26回(54%)、バター付きで29回(60%)。この条件(約2階の高さ、各48回)では観測差が有意といえず、偶然でも説明できるとされる[7]。ただし落下高さが大きく、机の高さの条件とは異なる。

押し出し方でも結果が変わり、ゆっくり押すか勢いよく飛ばすかで回転が変わるとされる[9]。回転が足りる条件・足りない条件があるので、「なりやすい」以上の言い方は資料から支えられない。

7. マーフィーの ほうそくって、なに?

7. 「悪いことばかり覚えている」だけかもしれない

7. マーフィーの法則と確証バイアス

「うまく いかない ことは、いつか かならず おこる」と いう かんがえかたを、「マーフィーの ほうそく」と いいます。トーストが バターの ほうから おちるのも、その れいとして よく でて きます。

この ほうそくの もとは、1949ねんごろ、アメリカの ロケットの じっけんで、ぎじゅつしゃの マーフィーさんが かんちがいの はいせんに おこって いった ことば、と いわれます[8]。ただし、ことばの かたちには いろいろな せつが あります。

ところで、じつは うまく いった ときは、あまり おぼえて いません。バターの ほうから おちた ときだけ、「またか」と おぼえて しまう のかも しれません[8]。

マーフィーの法則は、うまくいかないことは起こりうるならいつか起きる、という考え方です。トーストの話は、その代表例としてよく登場します。

由来は、1949年ごろ、米国のエドワーズ空軍基地(当時のムロック)でのロケットそりの実験にさかのぼる、とされます。技術者のエドワード・マーフィーが、配線のミスに腹を立てて言った言葉だといわれ、正確な言い回しには諸説あります[8]。似た考えは、1866年のド・モルガンなど、それ以前にもありました。

もう一つ考えたいのは、人は失敗を覚えやすいことです。うまくいった数え切れない場面は忘れ、バター面から落ちた一回だけを覚えている、という説明があります。こうした「確証バイアス」が、法則のように感じる理由の一つかもしれない、と説明されることがあります[8]。

マーフィーの法則は、1949年ごろエドワーズ空軍基地(当時ムロック)のロケットそり実験で、技術者エドワード・マーフィーが配線ミスに腹を立てて発した言葉に由来するとされる。言葉の正確な形には諸説がある。類似の考えはそれ以前にもあり、1866年のド・モルガンの言葉が例に挙げられる[8]。

こうした「法則」の実感を強める要因として、確証バイアスが仮説として挙げられる。人は失敗に気づきやすく、うまく進んだ無数の場面を見過ごす[8]。トーストに傾向があること(2〜6章)と、印象が強く残ること(本章)は、別々に働いている可能性がある。

自分でも しらべて みたく なったら

自分でも調べてみたくなったら

自分でも調べてみたくなったら

今日できること

トーストの かわりに、かたい あつがみを つかいます。かおの ひとつに、しるしを かきます。しるしを うえに して、いすや ひくい だいの はしから、そっと おします。ゆかは きれいに して、おうちの ひとと いっしょに やりましょう。

おした とき、しるしが うえか したか、10かい かぞえて みます。おす つよさを かえると、どうなるでしょう。かみと トーストは ちがうので、けっかが おなじに なるとは かぎりません。

こうしきの じょうほう

としょかんの ぶつりの ほんや、りかの ほんに、ものが おちる うごきの はなしが あります。

厚紙のカードの片面に印をつけ、印を上にして、机の端からゆっくり押し出してみてください。落ちたあとに印が上か下かを、10回ずつ数えます。押す速さを変える、机より低い台から落とす、と条件を変えて比べます。床はきれいにしておきます。

本物のトーストとは重さも形も違うので、結果は同じにならないかもしれません。それも比べる材料になります。

図書館や資料

物理の入門書や、イグ・ノーベル賞を紹介する本に、この研究の話が載っていることがあります。

厚紙のカードの片面に印をつけ、机の端から押し出して、着地後の印の向きを記録する。押す速さ、はみ出させる量、落とす高さを変え、それぞれ20回程度は試して比べる。トーストとは質量分布が異なるため、結果の直接比較はできない。床を清潔にし、落とす高さは低く保つ。

資料

論文の要旨は英語で公開されている。読めるところだけでも、結論の書き方を確認してみるとよい。論文本文と式は参照できていないので、そこから先は原論文に当たる必要がある。

しらべた もとの じょうほう

参考にした情報源

参考にした情報源と、その使い方

今回は、論文の要旨、解説記事、学校やテレビ番組の実験の報告を突き合わせた。論文本文は参照できていない。

  1. Matthews, R.A.J. "Tumbling toast, Murphy's Law and the fundamental constants" European Journal of Physics 16(4), 1995(IOPscience) https://iopscience.iop.org/article/10.1088/0143-0807/16/4/005 (論文の要旨)
  2. Why does toast often land butter-side down?(BBC Science Focus) https://www.sciencefocus.com/science/why-does-toast-often-land-butter-side-down (回転が足りない仕組み)
  3. Murphy's Toast(A Moment of Science) https://www.ipm.org/show/amomentofscience/2019-09-18/murphys-toast (机の高さと半回転)
  4. The Oikofuge(マシューズ論文の解説) https://oikofuge.com/matthews-tumbling-toast/ (必要な高さ約3m)
  5. Buttered toast phenomenon(Wikipedia英語版) https://en.wikipedia.org/wiki/Buttered_toast_phenomenon (1884年の詩・基本定数・2001年の学校の実験)
  6. Ig Nobel falls for tumbling toast(Deseret News, 1996) https://www.deseret.com/1996/10/5/19269746/ig-nobel-falls-for-tumbling-toast/ (イグ・ノーベル賞・本人の言葉)
  7. Mythbusters and Buttered Toast(Reagle) https://reagle.org/joseph/pelican/technology/mythbusters-and-buttered-toast.html (番組の検証の回数)
  8. Murphy's law(Wikipedia英語版) https://en.wikipedia.org/wiki/Murphy's_law (法則の由来・確証バイアス)
  9. An experiment that solves the world's most important question(Gizmodo) https://gizmodo.com/an-experiment-that-solves-the-worlds-most-important-que-5867322 (押し方で変わるという報告)

なおした ところ

更新履歴

更新履歴(改版の記録)

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