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セイウチの きばは、なんの ために あるの?

セイウチの牙は、貝を掘る道具ではなさそう ── 見せ合いと、氷に上がる助け

セイウチの牙の役割 ── 「掘る道具」説から、順位の印・氷上での補助へ

分野:生きもの

セイウチの 長い きばは、ほかの セイウチに 見せる ためと、氷に 上がる ための 助けに なって いると 考えられて います。

むかしは、貝を ほる ための ものと 思われて いました。ところが、貝を 食べる ときに きばで ほらない ようだと、いわれて います[4]。では、きばは どんな ふうに はたらいて いるのでしょう。

セイウチの牙は、クマの爪のように貝を掘るための道具だと、長く思われてきました。ところが、貝を食べるところをよく調べると、牙で掘っているようすはなかったといいます[4]。

では、あの長い牙は何のためにあるのでしょうか。ほかのセイウチに見せるためと、氷に上がる助けになっていることが分かります。

セイウチの牙は、長く、クマの爪のように貝を掘る道具だと考えられてきた。ところが、摩耗の跡の分析や飼育下の観察では、牙で掘っている様子は見られず、掘っているのは鼻先だとされる[1]。

掘るためでないなら、牙は何に使われているのか。順位を示す見せ合いと、氷に上がるときの補助という二つの役割について、資料でどこまで言えるのかが分かる。

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1. きばで、貝を ほって いるの?

1. 牙で掘っていなかったとしたら、どう食べるのか

1. 「掘る道具」説は、何を根拠に見直されたか

クマは、つめで 土を ほって たべものを さがします。セイウチの きばも、おなじように 海の そこを ほると、むかしの 人は 思って いました[4]。

でも、セイウチが 貝を 食べる ところを 見ると、ちがいました。はなさきと ひげで 貝を さがします。口から 水を ふいて、砂すなを とばします。そして くちびるで 貝を つつんで、中身を すいだします[4]。

きばは どろの 中を ひきずられて いるだけで、ほって いるのは はなさきの 上の ほうだと されます[1]。ただ、きばが 食べる ことと まったく かんけいないかは、いいきれません。

それなら、きばは なんの ために あるのでしょう。

クマが爪で地面を掘るように、セイウチも牙で海底を掘って貝を探す。昔はそう考えられていたと、アメリカの公共放送PBSの自然番組は紹介しています[4]。

ところが、食べる様子を見ると、手順はちがいました。鼻先とひげで貝を探り当て、口と舌から水を噴き出して砂を吹き飛ばします。そのあと、唇で貝を包むようにして吸い、身や水管を吸い出します[4]。

牙の表面のすり減り方を調べた研究では、牙は海底の泥の中を引きずられているだけで、掘っているのは鼻先の上のふちだと読み取られています。飼育されたセイウチの観察でも、貝を出したのは牙ではなく、口から出す水流でした[1]。ただ、牙が海底をひきずられるので、食事と無関係とまでは言えません。

掘るためでないなら、あれほど目立つ牙は、何のためにあるのでしょうか。

クマの爪のように牙で貝を掘る、という見方は長く広まっていた[4]。ところが、実際の採食は吸引が中心だと報告されている。鼻先とひげで貝を探り、口と舌から水を噴いて砂を飛ばし、唇で貝を包んで吸い、身や水管を吸い出す、という手順だ[4]。

この見直しの根拠は二つある。一つは、牙の摩耗の跡だ。Wikipediaは、Ray ら(2006)の分析が、牙は堆積物の中を引きずられているだけで、掘削は鼻先の上縁が担うことを示す、と紹介している。もう一つは、飼育下の観察で、貝を出したのが牙ではなく口からの水流だった点だ[1]。ただし、Ray らの原論文には当たれておらず、Wikipediaの記述(検索結果の抜粋を含む)に基づく。牙が海底をこするので、食事に一切関係しないとまでは言えない。

掘る道具でないなら、牙の役割は別に探す必要がある。

2. きばは、たたかわずに かつ ための もの?

2. 牙は、戦わずに順位を決める「見せ道具」

2. 牙の主な役割は、社会的な「見せ合い」という見方

セイウチの きばは、上あごの 歯です。オスにも メスにも あります。長さは いちばん 長い もので 1メートルほど、重さは 5キロ ちょっとに なる ことが あります。これは 上の ほうの 数字で、ふつうは もっと 短いです。ウィキペディアに 書かれて いる ことです[1]。

氷の 上で セイウチが おどろかされると、頭を 高く 上げて、きばを 見せます。すると、きばの 小さい セイウチは、たいてい はなれるか、しずかに なります[2]。

いちばん 強い セイウチは、たいてい きばが いちばん 大きいと 書かれて います。からだの 大きさも かかわります。本気の けんかは、体も きばも おなじくらいの 大きさの どうしに かぎられる ようです[2]。

ミラーさんの 研究では、きばは 貝を ほる ためより、セイウチどうしの じゅんばんを 見せる ために たいせつだと 考えられました。きばの おもな やくめは、おそらく この ような 「見せ合い」だと されて います[3]。

では、きばの ほかの 使い道は ないのでしょうか。

牙は、上あごの犬歯が伸びたもので、オスにもメスにもあります。長さは最大で1メートルほど、重さは5.4キログラムほどに達するとされますが、これは上限の値です。資料によっては70センチほどと幅があり、ふつうはもっと短くなります。オスのほうがやや長く、太い傾向があります。これらはWikipedia(二次資料)の記述にもとづく数値です[1]。

氷の上で驚かされたセイウチは、頭を高く上げて牙を見せます。牙の小さい個体は、たいていその場を離れるか、おとなしくなります。牙を見せ合う行動はよく見られ、最も強い個体が優位に立つとされ、その個体は多くの場合、牙が最大です。本気のけんかは、体も牙も同じくらいの大きさの個体どうしに限られるようです[2]。「最も強い」は、牙だけでなく体の大きさも含む、という点には注意が要ります。

1975年のミラーの研究は、牙が貝を掘る道具であるよりも、順位の印として重要であることを示したと紹介されています。牙の主な役割はおそらく社会的なもので、武器としての役割は二次的だといいます[3]。戦わずに決着がつくなら、けがのリスクをおさえられるのかもしれません。

では、見せる以外の牙の使い道は、ないのでしょうか。

牙は上顎の犬歯で、雌雄ともにある。最大で長さ約1m・重さ約5.4kgに達するとされるが、上限値であり、資料によって70cm程度など幅がある。雄のほうがやや長く太い(Wikipedia経由の数値で、一次資料のFay 1985には当たれていない)[1]。

氷上で驚かされた個体は、頭を高く上げて牙を見せ、牙の小さい個体はたいてい離れるか静かになる。牙の見せ合いはよく行われ、最も強い個体(多くは牙が最大)が優位に立つ。実際に激しく争うのは、体も牙も同じ大きさの個体どうしに限られる、と記述されている[2]。優位を決めるのは牙だけでなく体格でもあり、因果を牙だけに帰すことはできない。

この見方の基礎になった研究が、Miller(1975)の「Walrus ethology. I. The social role of tusks and applications of multidimensional scaling」(Canadian Journal of Zoology 53: 590–613)だ。牙は掘る道具より順位の印として重要であり、牙の主な役割はおそらく社会的なもので、武器としては二次的とされる[3]。ただし「主に」の話で、他の役割を否定するものではない。牙の大きさが雄の繁殖成功に直結することを示す数値的な証拠は、今回の資料では確認できていない。

見せる牙が主役だとして、それだけで説明がつくのか。氷の上での使われ方も見ておく必要がある。

3. 氷の 上では、きばが 手の かわりに なる?

3. 氷に上がるとき、牙は何の役に立つか

3. 氷上での補助と、学名「歯で歩く」の由来

プールの ふちに 手を かけて、体を ひっぱり 上げた ことは ありますか。セイウチも 氷に 上がる とき、きばを 氷に ひっかけて、体を ひきあげるのだと、ウィキペディアに 書かれて います[1]。ただし ほんとうは、手では なく、あごの 上から のびた 歯です。

セイウチの 学名 オドベヌスは、ギリシャの ことばで「歯で あるく」という 意味だと されて います。この すがたから、つけられたようです[1]。

きばは、氷に あなを あけて、そのまま ほりつづける ためにも 使われます[1]。

アラスカの しりょうには、めすが、氷の われめに おちた 子を 助ける ために、あつい 氷を くだいた 話も あります。書いた 人が 見た、ひとつの ばあいです[2]。

プールのふちに手をかけて、体を引き上げる動きを思い浮かべてみてください。セイウチは氷に上がるとき、牙を氷に引っかけて、体を引き上げる助けにするとされます[1]。ただし、手の代わりをしているのは腕ではなく、あごの上から伸びた歯です。

牙は、氷に穴をあけ、その穴を保つためにも使われるといいます。ここまでの氷の話は、Wikipedia(二次資料)の記述で、もとの研究には当たれていません[1]。学名のOdobenus(オドベヌス)は、ギリシャ語で「歯」と「歩く」を合わせた言葉に由来するとされ、牙で体を運ぶ姿から名づけられたようです[1]。

アラスカ州の魚類野生生物局の資料には、研究者が見た一例が書かれています。メスのセイウチが、氷の裂け目に落ちた子を助けるために、厚い氷をつるはしのように砕いたというものです[2]。筆者個人の観察であり、どのセイウチもそうする、という意味ではありません。

ところで、こうして毎日のように使われる牙は、すり減ったり、折れたりしないのでしょうか。

牙は氷に引っかけて体を引き上げる補助に使われるとされ、さらに氷に穴をあけ、その穴を維持するためにも使われる[1]。学名の属名Odobenus(オドベヌス)は、ギリシャ語の「歯」と「歩く」に由来するとされ、牙を使って体を運ぶ様子を指すと説明される(種小名はrosmarus、ロスマルス)[1]。これらはWikipediaが引く一次資料(Fay 1982など)には当たれておらず、二次資料経由の記述だ。

氷の実用に関しては、ADF&G の資料に、筆者が観察した一例がある。雌が氷の裂け目に落ちた仔を助けるため、厚い氷の塊を、つるはしと同じくらいの効果で砕いたという記述だ[2]。個人の観察談であり、一般化はできない。

見せ合いにしても、氷上の補助にしても、牙は毎日のように硬いものに触れる。そのぶん、すり減りや破損も避けられないはずだ。

4. つかいつづけた きばは、どうなるの?

4. 使うほどすり減り、ときには折れる牙

4. 摩耗と破損 ── 解剖標本から見える牙の一生

セイウチの 赤ちゃんは、きばが ない まま 生まれます。でも、はやい うちに はえて きます[1]。

その かわり、つかえば すりへります。日本の 研究では、2さいで なくなった オスの きばは、ぜんたいで 110ミリでした。19さいで なくなった オスの きばは、とても すりへって、見えている ぶぶんが 22から 100ミリでした[6]。これは 2頭だけの はなしで、へいきんでは ありません。

きばは、おれる ことも あります。しらべた セイウチの 歯の ほねが おれて いた ものの うち、およそ 4ぶんの 3が きばでした。ただ、どのくらい おれやすいかは わかりません[5]。

のびて、すりへって、ときには おれる。それでも きばは、見せる ためにも、氷に 上がる ためにも、はたらいて います。

子のセイウチは牙なしで生まれ、早い時期に生えてきます[1]。

そのかわり、使えばすり減ります。日本の解剖研究には、2歳で死んだオスの幼獣の牙が全長110ミリ、19歳で死んだオスの成獣の牙は極度に摩耗して、露出した部分が22〜100ミリだった、という記録があります[6]。標本2頭の値で、平均ではありません。牙の長さは、使うあいだに変わっていくようです。

牙は折れることもあります。野生と飼育のセイウチの歯を調べた研究では、見つかった歯の骨折のうち、およそ4分の3が上あごの犬歯、つまり牙でした[5]。歯全体で骨折があったのは約1.3%で、その約4分の3が牙です。折れた歯の中で牙が多くを占めることは読み取れますが、牙がどのくらいの頻度で折れるかは分かりません。

すり減って、ときには折れる。それでも牙は、見せるためにも、氷に上がるためにも働いています。

子は牙なしで生まれ、早期に萌出する[1]。使えば摩耗するため、長さは年齢や使い方で変わる。日本の解剖研究(中島ほか、1998)では、雄の幼獣(2歳で死亡)の牙は全長110mm、雄の成獣(19歳で死亡)の牙は極度に摩耗し、露出部の長さが22〜100mmだった[6]。標本2頭の記録であり、平均ではない。

破損も起きる。野生と飼育のセイウチの歯を調べたWinerら(2016)では、歯の骨折の約4分の3が上顎犬歯(牙)だった[5]。全歯の約1.3%に骨折があり、その約4分の3が牙、という分母つきの数字だ。折れた歯の中で牙が多くを占めることは読み取れるが、牙が折れる頻度は分からない。

見せ合い、氷上での補助、氷の破砕と、牙の役割は複数ある。牙の主な役割は社会的なものらしい、という見方は、他の役割を否定するものではなく、牙が磨り減りながら複数の場面で使われているという点と両立する。

5. きばの 長さを はかって みよう

5. 牙の長さを実感して、写真で見比べる

5. 出口 ── 上限値を実感する/原典に当たる

1メートルの ものさしか まきじゃくを、ゆかに のばして みます。これが、セイウチの きばの いちばん 長い ときの 長さです。ふつうは もっと 短い ので、じぶんの 手の 長さや 足の 長さとも くらべて みましょう。

ずかんや どうぶつ園の 写真で、セイウチの きばの 大きさと、頭の 上げかたを 見て みましょう。2頭 むかいあう 写真が あれば、きばの 大きさや 頭の 上げかたを 見て、おたがいを どう 見て いるのか、考えて みましょう。

1メートルの定規か巻き尺を、床にのばしてみてください。これが、資料にある牙の長さの上限です。ふつうはこれより短いので、自分の腕や足の長さとも比べてみましょう。

図鑑や動物園の写真で、セイウチの牙の大きさと頭の上げ方を見てみましょう。向かい合う写真があれば、おたがいをどう見ているかも比べられます。牙の大きさと体の大きさ、どちらが優位に関わっているのか、自分なりに考えてみてください。

牙の長さの上限(約1m)を、巻き尺で床に伸ばして実感してみるとよい。資料により70cm程度の幅があるため、種や亜種、個体差を考えながら比べる。

日本語で読める原典としては、日本動物園水族館協会に収録された中島ほか(1998)の形態学的研究[6]がある。Miller(1975)や Ray ら(2006)の原論文は、今回は開けなかった。牙の社会的役割に関する主張は二次資料経由のため、論文そのものに当たって確かめたい。見せ合いと氷上での役割の出典は、末尾の情報源[2][3]に挙げてある。

しらべた もとの じょうほう

参考にした情報源

参考にした情報源と、その使い方

出典について:Wikipedia、アラスカ州魚類野生生物局の資料、AskNature、PBS Nature、Atlas of Science、日本動物園水族館協会の文献を使った。Miller(1975)などの原論文は開けなかったため、二次資料の記述をもとにしている。

  1. Wikipedia「Walrus」。 https://en.wikipedia.org/wiki/Walrus (牙の大きさ、氷に上がる補助、学名の由来、掘る説の見直しについて)
  2. Alaska Department of Fish and Game「Facts about Walrus」。 https://www.adfg.alaska.gov/static/home/library/pdfs/wildlife/research_pdfs/facts_about_walrus.pdf (牙の見せ合いと順位、氷を砕いた一例について)
  3. AskNature「Tusks are multifunctional」。 https://asknature.org/strategy/tusks-are-multifunctional/ (牙の主な役割が社会的とされることについて)
  4. PBS Nature「The Weird Way Walruses Eat with Their Tongue」。 https://www.pbs.org/wnet/nature/the-weird-way-walruses-eat-with-their-tongue/33419/ (貝を吸って食べる様子について)
  5. Atlas of Science「Dental and temporomandibular joint pathology of the walrus」(Winer et al. 2016の解説)。 https://atlasofscience.org/dental-and-temporomandibular-joint-pathology-of-the-walrus/ (歯の骨折のうち牙が占める割合について)
  6. 中島ほか「タイヘイヨウセイウチの形態学的研究」1998、日本動物園水族館協会。 https://jaza.jp/literatures/993 (幼獣と成獣の牙の長さ、摩耗について)

なおした ところ

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