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ここに書いてあることは、誰かが実際に手を動かして調べ、考え、作り上げてきたものを拾い集めています。専門の本や論文、作品、そしてそれを生み出した人たち。気になったことがあれば、ぜひそのおおもとに直接ふれてみてください。このメモには書ききれない熱を、感じてもらえると思います。

みずを はじく ふくが、あとで ぬれちゃうのは なぜ?

水を弾く服が、いつか濡れてしまうわけ ── 撥水と防水のちがい

撥水は、なぜ落ちてしまうのか ── 防水との違いと、水を弾くしくみ

分野:技術

雨の 日、あたらしい レインコートに 雨が あたると、水は まるい 玉に なって、つるりと ながれて いきます。でも、同じ ふくを 1年、2年と きて いると、ある日、玉に ならずに、じわっと ぬれて くる ことが あります。ふくに あなが あいたわけでも、ぬい目が ほころびたわけでも ありません。なにが かわったのでしょうか。

その ヒントは、「撥水はっすい」と「防水ぼうすい」と いう、にて いるけど ちがう 二つの ことばに あります。この メモでは、その ちがいを、しらべた 記事や ろんぶんを てがかりに、たどって いきます。

買ったばかりのレインコートに雨が当たると、水は表面で丸い玉になり、つるりと流れ落ちます。ところが、同じ服を1年、2年と着ていると、ある日、玉にならずに生地がじわりと湿ってくることがあります。生地に穴が開いたわけでも、縫い目がほころんだわけでもありません。何が変わったのでしょうか。

答えの手がかりは、「撥水」と「防水」という、似ているようで違う二つの言葉にあります。撥水は水を玉にして弾くはたらきで、防水は水をまったく通さないことです。同じ「水に強い」という言葉でも、しくみは別物なのです。

このメモは、撥水・防水を説明した企業サイトの記事、接触角の定義を説明する記事、JIS規格の試験基準、GORE-TEX公式の説明、そしてはすの葉の撥水構造を報告した論文の解説などを手がかりに、この違いをたどります。

買ったばかりのレインウェアに雨が当たると、水は服の上で丸い玉になり、つるりと転がり落ちる。ところが、同じ服を1年、2年と着ていると、ある日、玉にならず生地がじわりと湿ってくることがある。生地に穴が開いたわけでも、縫い目がほころんだわけでもない。何が変わったのだろうか。

答えの手がかりは、「撥水」と「防水」という、似ているようで違う二つの言葉にある。撥水加工は水を玉にして弾くはたらきで、防水は水をまったく通さない構造だ。同じ「水に強い」という言葉でも、しくみは別物になる。

このメモは、撥水・防水の解説記事(フロロテック、Columbia公式)、接触角の定義を説明するEBINAXの記事、JIS規格の耐水圧試験、GORE-TEX公式の説明、そしてはすの葉の撥水構造を報告した論文の解説などを手がかりに、この違いをたどる。

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1. みずを とおさないのと、みずを はじくのは、ちがうの?

1. 「水を弾く」と「水を通さない」は、別の話

1. 防水と撥水 ── 遮断と表面現象という別の仕組み

雨の 日、レインコートに 雨が あたると、水が まるい 玉に なって、つるりと ながれ おちます。これは 撥水はっすいと いう ちからです。水を はじいて いるだけで、ふくの 中まで 水が しみない かどうかは、また べつの ことです[2]。

防水ぼうすいと いうのは、水を まるごと とおさない ことです。ふくの 中まで、水が ぜんぜん 入って こない ことを いいます[1]。だから、水が 玉に なって ながれ おちて いても、その ふくが「防水ぼうすい」なのかは、まだ わかりません。

「撥水」と「防水」は、どちらも「水に強い」という意味で使われがちですが、仕組みがまったく違います。防水とは、水をまるごと通さないことです。生地の内側まで水が入ってこない状態を指します[1]。

一方、撥水はっすいとは、生地の表面についた水を、丸い玉のまま弾いて転がり落とす性質のことです[2]。防水は生地の内側で判断されるのに対し、撥水は生地の表面だけで起きていることです。だから、表面で水がきれいに玉になっていても、生地そのものは水を吸ってしまうことがあります。

強い雨に長い時間当たったり、何年も着つづけたりすると、撥水加工の生地でも、内側まで水がしみることがあります。「玉になって弾いているから大丈夫」とは言えないのです。次の章では、この「弾く力」の強さを測る物差しを見ていきます。

「防水」と「撥水」は、日常ではほぼ同じ意味で使われがちだが、それぞれの定義は違う。防水ぼうすい性とは、水を完全に遮断し、内部へ一切通さない性質のことで、水に強い性質の中でも高いレベルの保護を指す[1]。一方、撥水はっすい性とは、生地の表面についた水を球状のまま「弾く」性質で、水滴が転がり落ちること自体を指す[2]。

この違いは、生地の「内側」に注目するかどうかで分かれる。防水は生地の内側に水が浸透しないことが基準になる。撥水は生地の表面で何が起きるかだけを表すので、表面で水を弾いていても、生地そのものは水を吸いやすいままということがあり得る。実際、撥水加工がされた生地でも、強い雨や長時間の使用では、生地の内部まで水が入り込むことがある。「撥水された生地は水を通さない」という思い込みは、この時点で誤りだとわかる。

つまり、レインウェアの表面で水が玉になって転がるのを見ても、それは「撥水」が保たれている証拠であって、「防水」されているかどうかとは別の話になる。次の章では、この「弾く力」の強さを、どうやって数値にして比べるのかを見ていく。

2. みずの たまの かたちで わかる、はじく つよさ

2. 水玉の形が教えてくれる、弾く強さの物差し

2. 接触角という物差し ── 表面のエネルギーが決める

水を どのくらい はじくかは、水の 玉の かたちを 見ると わかります。玉が まるく、ぷっくり もりあがって いるほど、はじく ちからが つよいのです。この かたちを、すうじで あらわす ものさしを「接触角せっしょくかく」と いいます[3]。

テフロンと いう つるつるした ものは、水を すごく はじきます。なぜかと いうと、この ものは、水を「くっつけたい」と いう きもちが とても よわいからです。水は、じぶん どうしで くっつきあう ほうが すきなので、はじかれた ように 玉に なって しまうのです[4]。

水を弾く強さは、見た目だけでなく、数字で測ることができます。水滴と、水滴が乗っている面との間にできる角度を「接触角せっしょくかく」といいます。この角度が90度より大きいと撥水性があるとされ、150度を超えると「超撥水性」と呼ばれます[3]。角度が大きいほど、水滴はコロンとした丸い形になります。

この角度を決めているのは、材料の表面が持つ「エネルギー」の高さです。テフロン™という材料は、表面のエネルギーがとても低いことで知られています。表面のエネルギーが低いというのは、水を引き寄せる力が弱いということです。水は自分自身どうしで引き合う力のほうが強くなるので、面に広がるより丸くまとまろうとします。その結果、テフロン™の表面では接触角が100度を超えます[4]。

「水を強く押し返す力がはたらくから、水を弾く」と考えたくなりますが、実際は逆です。面が水を引き寄せる力が弱いからこそ、水が自分自身でまとまり、弾かれたように見えるのです。

撥水の強さは、見た目の印象だけで語られがちだが、実際には数値で測ることができる。水滴と、その水滴が乗っている面との間にできる角度を「接触角せっしょくかく」と呼ぶ。この角度が90度より大きければ撥水性があるとされ、110度より大きく150度より小さければ「高撥水性」、150度を超えれば「超撥水性」に分類される[3]。角度が大きいほど、水滴は丸く盛り上がった形になり、面との接触が少なくなる。

この角度を決めているのは、材料の表面が持つエネルギーの高さだ。フッ素樹脂(テフロン™・PTFE)は、表面の自由エネルギーが非常に低い材料として知られている。表面のエネルギーが低いということは、その表面が液体の分子を引き寄せる力が弱いということだ。水分子どうしが引き合う力のほうが強く働くので、水は面に張りつくより、自分自身でまとまって球状になろうとする。その結果、PTFEの表面では接触角が100度以上になる[4]。

「撥水は、水を弾く力が働くから起きる」と考えたくなるが、実際には逆だ。面が水を引き寄せる力が弱いからこそ、水が自分自身でまとまり、弾かれたように見えるだけである。この「引き合う力の弱さ」という視点は、次の章で撥水加工が弱くなっていく理由を理解する土台になる。

3. なぜ、つかって いると はじかなく なるの?

3. 撥水加工が、使うと弱くなるわけ

3. 撥水加工の劣化と回復、そして性能と環境配慮の両立

撥水はっすいを した ふくには、目に 見えないくらい 小さい 毛の ような ものが、たくさん たって います。この 毛が、水を はじいて くれます。でも、こすったり、よごれたりすると、この 毛が ねて しまい、水を はじく ちからが よわく なって いきます[5]。

おもしろい ことに、これは もとに もどる ことが あります。ねつを あたえると、ねて しまった 毛が また たちあがる ことが あるのです。かんそうきや アイロンの ねつで、はじく ちからが もどる ことが あると いわれて います[5]。

ふつうの 服の 撥水はっすいは、5かい せんたく しても、はじく ちからが 8わりくらい のこって いれば、じょうずな ほうだと されます。とざんなど、ながく つかう 服は、なんかいも せんたく しても、はじく ちからが のこるように つくられて います[2]。

撥水加工がされた生地には、無数の突起が、細かい毛のようにびっしり立った膜がつくられています。この毛が水を弾く力のもとです。ところが、着ているうちに、こすれたり汚れたりすることで、この毛が寝てしまうことがあります。毛が寝ると、水を弾く力が弱くなっていきます[5]。生地がすり減ってしまったわけではなく、目に見えない毛の向きが変わってしまうのです。

面白いのは、これが元に戻ることがある点です。熱を加えると、寝てしまった毛がまた立ち上がることがあります。乾燥機やアイロン、ドライヤーの熱で、撥水の効果が復活することがあるといわれています[5]。「一度弱くなった撥水は、二度と戻らない」というのは思いこみのようです。

ただし、加工そのものがずっと持つわけではありません。ふつうの衣料品の撥水加工は、洗濯5回ほどで性能が80%残っていれば「優秀」とされます。登山用など長く使うことを想定した服の撥水加工は、10回から50回洗濯しても8割ほどの性能を保つことが求められます[2]。

この加工には、長い間、フッ素の化合物が使われてきました。撥水性能が高い種類ほど自然界で分解されにくく、体や環境にたまりやすいことが分かってきたため、国際的な条約にもとづいて規制されており[6]、分解されやすい種類へ切り替える動きが進んでいます。切り替えても、これまでとほぼ同じ性能を保てる例も出てきました[7]。

撥水加工がされた生地には、無数の突起が、まるで細かい毛のように直立した膜がつくられている。この毛が水を弾く力を生んでいるのだが、着ているうちに、摩擦や汚れによって、この毛が寝てしまうことがある。毛が寝ると、水を弾く力そのものが弱まっていく[5]。生地がすり減って無くなったわけではなく、目に見えない毛の向きが変わってしまうことが原因だ。

面白いのは、この状態が元に戻ることがある点だ。熱を加えることで、寝てしまった毛がまた立ち上がることがある。乾燥機やアイロン、ドライヤーの熱で、撥水性能が回復するという報告がある[5]。「一度落ちた撥水は、二度と戻らない」というのは誤解ということになる。

とはいえ、加工そのものが永遠に持つわけではない。一般的な衣料品向けの撥水加工は、洗濯5回程度で性能が80%残っていれば「優秀」とされる基準がある。一方、登山などのアウトドア用品に求められる耐久撥水は、10回から50回洗濯しても8割程度の性能を保つことが求められる[2]。同じ「撥水」という言葉でも、求められる耐久性は用途によって大きく違う。

この撥水加工には、長年フッ素化合物が使われてきた。中でも炭素が8個つながった「C8系」(PFOA・PFOS)は、性能が高い一方、自然の中でほとんど分解されず、体や環境に蓄積しやすいことが分かってきた。PFOSとPFOAは「残留性有機汚染物質(POPs)」として、ストックホルム条約にもとづき国際的に規制される物質になっている[6]。そこで、炭素の数が少ない「C6系」などの化合物へ切り替える動きが進んでいる。切り替えにあたっては性能の低下が心配されたが、ファーストリテイリングの代替事例では、C6系でも長鎖のC8系とほぼ同等のはっ水性能を実現できたと報告されている[7]。環境への配慮と性能の高さは、必ずしも対立するとは限らない。

4. はすの 葉が、みずを ぜんぶ はじく わけ

4. はすの葉のとびきりの撥水力 ── 二重構造のひみつ

4. ロータス効果 ── 二重構造とキャシー・バクスター状態

はすの 葉に 水を かけると、水は まるい 玉の まま のこり、少し かたを むけるだけで、コロコロと ながれ おちて いきます。この ふしぎな しくみが くわしく わかったのは、1997年、ドイツの 人たちが、とても 小さい ものまで 見える どうぐを つかって、葉を くわしく しらべた ときでした[8]。

はすの 葉の おもてには、目に 見えないくらい 小さな つぶつぶが、たくさん ならんで います。そして、その つぶつぶの うえにも、もっと 小さな つぶが のって います。この「小さい でこぼこの うえに、もっと 小さい でこぼこが ある」という つくりの おかげで、水の 玉は 葉に ほとんど くっつかず、まるく なって います[8]。

つるつるした ものの ほうが 水を はじきそうな 気が しますが、じつは はんたいです。でこぼこが こまかいほど、その あいだに くうきが とじこめられて、水の 玉は つぶつぶの 先っぽと くうきの うえに、ふわりと のって いる だけに なるのです[10]。

はすの葉に水をかけると、水は葉の上でほとんど球のままとどまり、少し傾けるだけでコロコロと転がり落ちていきます。この現象は昔から知られていましたが、その仕組みが科学的に詳しく説明されたのは1997年のことです。ドイツの研究者たちが、とても小さいものまで見える顕微鏡を使って葉の表面を観察し、水を弾くだけでなく汚れも一緒に運んで落とす「自己洗浄」の仕組みを明らかにしました[8]。

はすの葉の表面には、マイクロメートル単位というごく細かい突起が、無数に並んでいます[9]。さらに、その突起の表面には、もっと小さなワックスの結晶が乗っています。この「大きいでこぼこの上に、もっと小さいでこぼこがある」という二重構造のおかげで、はすの葉の接触角は162度に達します[8]。水滴が葉にふれている面積は、表面のごく一部にすぎません[10]。

表面がなめらかなほど水を弾くと思うかもしれませんが、実際は逆です。でこぼこが細かいほど、その谷に空気が閉じこめられ、水滴は突起の先っぽと空気の上にふわりと乗るような形になります。この「空気を抱えこんで浮かぶ」仕組みのおかげで、はすの葉は超撥水性を手に入れています[10]。

はすの葉に水をかけると、水は葉の上でほとんど球のまま留まり、少し傾けるだけでコロコロと転がり落ちていく。この現象は古くから知られていたが、仕組みが科学的に詳しく説明されたのは1997年のことだ。ドイツの研究者たちが、走査型電子顕微鏡を使ってはすの葉の表面を観察し、自己洗浄の仕組みを明らかにした論文を発表した。この論文は植物学の専門誌の歴史の中でも最も引用された論文の一つとなり、2023年7月時点で5,162件の後続の研究に引用されている[8]。

はすの葉の表面には、マイクロメートル単位の細かい突起が無数に並んでいる[9]。その突起の表面には、さらに小さいナノメートル単位のワックスの結晶が乗っている。この「大きい凹凸の上に、もっと小さい凹凸がある」という二重構造によって、はすの葉の接触角は162度に達する[8]。水滴が実際にふれている面積は、葉の表面のごく一部にすぎない[10]。

なぜ、接している面積がこんなに小さくなるのか。表面の凹凸が細かすぎると、水滴はその谷まで入りこめず、谷には空気が閉じこめられたままになる。水滴は、無数の突起の先端と、閉じこめられた空気の上に支えられる。この状態を「キャシー・バクスター状態」と呼ぶ[10]。表面がなめらかであるほど水を弾くと考えたくなるが、実際は逆で、凹凸が細かいほど空気を抱えこみ、撥水性が高まる。

なお、はすの葉の接触角は、ウェブ上では170度と紹介されることも多いが、原論文の著者自身が測定した数値は162度なので、本メモではその数字を採用している。仕組みが科学的に広く知られるようになったのは、1997年のこの論文からである。

5. あせは とおすのに、あめは とおさない まく

5. 汗は通すのに雨は通さない、ふしぎな膜

5. ゴアテックスの膜 ── 選択的透過性と「ウェットアウト」

ほんとうに 水を とおさない まくを つかった ふくの ひとつが、ゴアテックスです。この まくには、1インチ しかない 小さな しかくの 中に、目に 見えない くらい 小さな あなが、90おくこも あいて います[11]。

この あなの 大きさが、ひみつです。あなは、雨つぶより 2まんばい 小さいので、雨は とおりません。でも、あせが かわいて 空気に とけた、もっと ずっと 小さな つぶは、あなより 小さいので、とおりぬけて いきます[11]。雨は とおさず、あせだけ にがす、という ふくです。

さいしょの といに もどりましょう。この ふくを 雨の 中で 長く 着て いると、中が じっとり する ことが あります。でも、それは、水を とおさない まくが こわれた わけでは ない ことが 多いのです。ふくの いちばん 外の ぶぶんに かけた 撥水はっすいが よわく なると、外の ぶぶんが 水を すって しまい、あせが にげにくく なるのです[12]。

本当の意味で「防水」を実現している代表的な素材が、ゴアテックスです。ゴアテックスの中心には、生地とは別に重ねられた薄い膜があり、その1インチ四方(切手より少し大きいくらいの大きさ)に、目に見えないほど小さな穴が90億個も空いています[11]。

この穴の大きさが、防水と、汗をにがすことを同時に成り立たせるかなめです。穴は、雨の水つぶよりも2万倍小さく、汗がかわいてできる、目に見えないほど小さなつぶ(水蒸気)よりは700倍大きいのです[11]。雨つぶは大きすぎて穴を通れず、汗のつぶは小さいので、穴を通って外へ逃げていきます。

ここで、記事のはじめに出した問いに戻りましょう。ゴアテックスの服を雨の中で長く着ていると、内側がじっとり湿ってくることがあります。これは、防水の膜そのものが壊れたからとは限りません。生地のいちばん外側にかけられた撥水加工が弱くなると、生地の表面が水を吸って水の膜ができてしまいます。この状態を「ウェットアウト」といいます。ウェットアウトが起きると、内側の防水膜は無事でも、汗の水蒸気が外まで抜けにくくなり、蒸れてしまうのです[12]。「服が濡れて重くなった」と感じるときは、防水が壊れたのではなく、撥水が弱くなったことが原因のときが多いのです。

本当の「防水」を実現している代表例が、ゴアテックスという素材だ。ゴアテックスの中心にあるのは、生地とは別に重ねられた薄い膜(メンブレン)で、その1平方インチの中に、目に見えないほど微細な孔が90億個も空いている[11]。

この孔の大きさが、防水と透湿を同時に成り立たせるかなめになっている。孔は、雨の水滴よりも2万倍小さく、汗が蒸発してできる水蒸気の分子よりは700倍大きい[11]。つまり、雨粒は大きすぎて孔を通り抜けられず、内側で発生した水蒸気は小さいので孔を抜けて外に逃げていく。液体の水は防ぎながら、気体になった汗だけを外へ通す、という選択的なふるまいが、この孔の大きさの違いから生まれている。

ここで、記事の最初に立てた問いに戻る。ゴアテックスを使った服が、雨の中で長く着ていると、内側がじっとりと湿ってくることがある。これは、防水の膜そのものが壊れたからではないことが多い。表地にかけられた撥水加工が弱くなると、生地の表面が水を吸って水の膜ができてしまう。この状態を「ウェットアウト」と呼ぶ。ウェットアウトが起きると、内側の防水膜は無事なのに、水蒸気が生地の外まで抜けにくくなり、汗の逃げ場がなくなって蒸れてしまう[12]。「服が濡れて重くなった」と感じるとき、それは防水の失敗ではなく、撥水の失敗であることが多いのだ。

6. どのくらい 水に 強いか、しらべる テストが ある

6. 「どれくらい水に強いか」を測る、決まったテスト

6. JIS L1092の耐水圧試験・はっ水度試験と、各社が示す用途目安のばらつき

日本には、生地が どのくらい 水に つよいかを しらべる、きまった テストが あります。

水を とおすか どうかを しらべる テストでは、生地の 下から 水の たかさを ゆっくり 上げて いき、生地の うらから 水が しみだした ときの 水の たかさを、その 生地の「耐水圧たいすいあつ」として しるします[13]。数が 大きいほど、水に つよいと いう ことです。

はじく ちからを しらべる テストでは、生地を ななめに して、水を たっぷり かけて、その あとの 生地の ぬれかたを、きめられた 見本と くらべて てんを つけます[13]。

ふつうの レインコートは、この「耐水圧たいすいあつ」の 数が 2,000くらいで じゅうぶんですが、とざんに つかう ふくには、10,000から 20,000いじょうの、もっと つよい すうじが もとめられます[2]。「小雨は なんミリ、大雨は なんミリまで へいき」と いう ラベルの すうじは、会社に よって ばらばらです[14]。これは 国が きめた ルールでは なく、それぞれの 会社が 目じるしとして きめて いる すうじだからです。

防水・撥水の強さは、感覚だけで語られているわけではありません。日本には、JIS L1092という、生地の防水性・撥水性を調べるための決まった試験があります。

防水性を調べる「耐水圧試験」では、生地の下から水の高さを600mm/分ほどの速さで上げていき、生地の裏側の3か所から水がにじみ出た瞬間の水の高さを、その生地の「耐水圧たいすいあつ」として記録します[13]。数字が大きいほど、高い水の圧力まで耐えられるということです。

撥水性を調べる「はっ水度試験」では、45度に傾けた生地に250mLの水をふらせ、余分な水滴を落としたあとの生地の様子を、決まった見本と見比べて等級をつけます[13]。

この数字は、実際の使い方につながっています。ふつうの雨具は耐水圧2,000mmほどで十分ですが、登山用のアウトドアウェアには、10,000mmから20,000mm以上という、はるかに高い耐水圧が求められます[2]。ただし、「小雨は何mm、大雨は何mmまで耐えられればよいか」というラベルの目安は、想定する使い方によって大きく異なります。同じ資料でも、小雨や小雪をしのぐ程度なら5,000mm、スキーやゴルフなら10,000mm、登山なら20,000mm以上と、使い方によって4倍の差があります[14]。これは、JISのような世界共通の基準ではなく、各社が自分たちで示している目安にすぎません。

防水・撥水の強さは、感覚だけで語られているわけではない。日本には、JIS L1092という、生地の防水性・撥水性を測るための規格試験がある。

防水性を測る「耐水圧試験(静水圧法)」では、生地の下から水位を600mm/分±30mm/分の速さで上げていき、生地の裏側の3か所から水がにじみ出た瞬間の水位を、その生地の「耐水圧たいすいあつ」として記録する[13]。数字が大きいほど、より高い水圧まで耐えられるということだ。

撥水性を測る「はっ水度試験(スプレー試験)」では、45度に傾けた生地に250mLの水を降らせ、余分な水滴を落としたあとの生地の見た目を、決まった比較見本と照らし合わせて等級をつける[13]。

これらの数値は、実際の使い方に結びついている。ふつうの雨具は耐水圧2,000mmほどあれば十分だが、登山用のアウトドアウェアには、10,000mmから20,000mm以上という、はるかに高い耐水圧が求められる[2]。ただし、「小雨は何mm、大雨は何mmまで耐えられればよいか」というラベルの目安は、想定する使い方によって大きく異なる。同じ資料でも、小雨や小雪をしのぐ程度なら5,000mm、スキーやゴルフなら10,000mm、登山なら20,000mm以上と、使い方によって4倍の差がある[14]。これはJISのような統一基準ではなく、各社が独自に示す目安にすぎない。数字を見るときは、「何を基準にした数字か」を確かめる必要がある。

7. じぶんでも しらべて みたく なったら

7. 自分でも調べてみたくなったら

7. 自分でも調べてみたくなったら

やってみよう。クッキングシートや、食品用の ラップ、かさの きじ、つかいふるした タオルなど、はじく つよさが ちがいそうな ものを あつめて みましょう。それぞれに スプーンで 水を 1てき のせて、玉の まま のこるか、ぺたっと 広がって しまうかを 見くらべて みましょう。

  • 玉が たかく もりあがって いる ものほど、水を はじく ちからが つよいと かんがえられます。ただし ほんとうは、きちんと はかるには とくべつな どうぐが いるので、見た めの いんしょうとは すこし ちがいます。
  • ぬれた ところは、ふいて おきましょう。

もし、家に レインコートや かさが あったら、ラベルに「耐水圧たいすいあつ」と いう すうじが 書いて あるか、さがして みましょう。

やってみたいこと。家にある、水を弾く強さが違うものを何枚か集めて比べてみましょう。クッキングシート、食品用ラップ、傘やレインコートの生地、使い古したタオルなどです。それぞれにストローやスプーンで水を1滴のせて、玉のまま残るか、平らに広がるかを見比べてみます。玉が高く盛り上がっているものほど、水を弾く力が強いと考えられます。ただし本当は、正確な接触角を測るには専用の装置が必要で、目で見た印象とは少し違います。水でぬれた場所はふいておきましょう。

資料を読んでみたい。

  • フロロテックの解説記事[1]。撥水性・耐水性・防水性の定義の違いがまとまっている。
  • GORE-TEX公式ブログ[11]。膜の穴の数と大きさが、写真つきで説明されている。

考えてみたい問い。家にある雨具やアウトドア用品のラベルを見て、耐水圧の数字が書かれているか探してみましょう。見つかったら、その数字が2,000mm・10,000mm・20,000mmのどれに近いか、その道具がどんな場所で使われることを想定しているかを考えてみましょう。

やってみたいこと。台所や身近にある、はじく力が違いそうなものを何枚か集めて比べてみる。クッキングシート、食品用ラップ、傘やレインコートの生地、使い古したタオル。それぞれにストローやスプーンで水を1滴のせて、玉のまま残るか、平らに広がってしまうかを見比べてみる。玉が高く盛り上がっているものほど、接触角が大きい、つまり撥水性が高いと考えられる。ただし本当は、正確な接触角を測るには専用の装置が必要で、目で見た印象は厳密な数値とは違う。水でぬれた場所はふいておく。

資料を読み比べてみたい。

  • フロロテックの解説記事[1]。撥水性・耐水性・防水性の定義の違いが整理されている。
  • GORE-TEX公式ブログ[11]。膜の孔の数と大きさについて、写真付きで説明されている。
  • はすの葉の自己洗浄効果を報告した論文の解説(PMC)ほか[8]。二重構造と接触角162度についての記述がある。

考えてみたい問い。家にある雨具やアウトドア用品のラベルを見て、耐水圧の数字が書かれているか探してみる。書かれていたら、その数字が2,000mm・10,000mm・20,000mmのどれに近いか、また、その道具が実際にどんな場所で使われることを想定しているかを考えてみる。

しらべた ところ

参考にした情報源

参考にした情報源

出典について:撥水・防水を扱う企業サイトの解説記事、JIS試験の説明、GORE-TEX公式ブログ、環境省・繊維業界の資料、学術論文の解説記事を使った。何に使ったかを、それぞれの項目の最後に書いている。

  1. フロロテック「撥水性とは?耐水や防水との違いや水を弾く仕組み・原理、性能やメリットを解説」。 https://www.fluorotech.co.jp/column/waterrepellent.html (防水性の定義について)
  2. Columbia公式「撥水と防水の違い」。 https://www.columbiasports.co.jp/shop/withoutdoor/maintenance-waterproof/ (撥水性の定義、撥水加工の洗濯耐久基準、耐水圧の使用目安について)
  3. EBINAX株式会社「撥水性の定義について教えて下さい」。 https://ebinadk.com/hassuisei (接触角による撥水性の分類について)
  4. 吉田SKT「テフロン™フッ素樹脂が撥水性/撥油性に優れる理由とは」。 https://www.y-skt.co.jp/magazine/coating/teflon_repel/ (表面自由エネルギーと撥水の関係について)
  5. benque「撥水性が弱くなった時の復活方法」。 https://benque.jp/blogs/benque-style/water-repellency-restored (撥水加工の劣化のしくみと、熱による回復について)
  6. 環境省「PFASに対する総合戦略検討専門家会議 資料」。 https://www.env.go.jp/content/000185566.pdf (PFOS・PFOAの国際的な規制について)
  7. ファーストリテイリング「フッ素系はっ水加工剤(C6)のPFCフリー物質への代替事例」。 https://www.fastretailing.com/jp/sustainability/environment/pdf/pfc_jp.pdf (短鎖PFCと長鎖PFCの性能比較について)
  8. 「The Barthlott effect」(PMC収録の解説論文)。 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC10753341/ (はすの葉の自己洗浄の発見の経緯、被引用数について)
    Neinhuis, C. & Barthlott, W.「Superhydrophobicity in perfection: the outstanding properties of the lotus leaf」(Beilstein Journal of Nanotechnology)。 https://www.beilstein-journals.org/bjnano/articles/2/19 (はすの葉の接触角162度の実測値について)
  9. ジオマテック「植物から発見されたロータス効果」。 https://www.geomatec.co.jp/column/lotus-effect.html (はすの葉の突起の大きさについて)
  10. フリー百科事典『ウィキペディア』「超撥水」。 https://ja.wikipedia.org/wiki/超撥水 (キャシー・バクスター状態の説明について)
  11. GORE-TEX公式ブログ「The GORE-TEX Membrane: What it is, how it works and why you need it」。 https://www.gore-tex.com/blog/the-gore-tex-membrane-what-it-is-how-it-works-and-why-you-need-it (膜の孔の数・大きさと、選択的に水蒸気だけを通すしくみについて)
  12. GORE-TEX公式ブログ「Restore the DWR of Your Raingear」。 https://www.gore-tex.com/blog/restore-durable-water-repellency-raingear (表地の撥水切れによる「ウェットアウト」のしくみについて)
  13. 一般財団法人ボーケン品質評価機構「防水性試験(JIS L 1092)」。 https://www.boken.or.jp/find_tests/functionality/1241/ (耐水圧試験・はっ水度試験の内容について)
  14. ウェザーニュース「雨具選びで知っておきたい『耐水圧』と『透湿性』」。 https://weathernews.jp/s/topics/201906/210125/ (耐水圧ラベルの目安が資料によって異なることについて)

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