1. パッドと スマホの あいだには、なにが ある?
1. 間に何もないのに、電力は何を介して移るのか
1. 送電コイルと受電コイルの間にあるもの
スマホを じゅうでんパッドに おくと、まもなく じゅうでんが はじまります。パッドと スマホの あいだに、コードは ありません。
パッドの 中にも、スマホの 中にも、「コイル」が 入って います。コイルは、どうせんを ぐるぐると まいた ものです[4]。
2つの コイルの あいだに あるのは、空気だけです。そこを 通るのは、「じかい」と いう、じしゃくの ちからの ひろがりです。
でも、じしゃくの ちからが あるだけで、電気が うまれるのでしょうか。ここに、200ねんくらい 前の じっけんの ヒントが あります。
スマホを充電パッドに置くと、コードがなくても充電が始まります。パッドの中にも、スマホの中にも、導線を巻いたコイルが入っています。パッド側が送電コイル、スマホ側が受電コイルです[4]。
2つのコイルの間にあるのは空気です。電力は、送電コイルがまわりに作る磁界(磁石の力が及ぶ範囲)を介して移ると説明されます。Qiでは、この磁界が周期的に変わり続けています。
ただ、磁界があるだけで電気が生まれるわけではありません。ここに、約200年前の実験の答えがあります。
Qiでは、送電コイルに交流を流して交流の磁界を作り、受電コイルにファラデーの法則で電圧を生じさせる[4]。コイルの間にあるのは空気で、電力は磁界を介して移る。
ただし、磁界が存在するだけで受電コイルに電圧が生じるのではない。必要なのは磁界の「変化」で、それを最初に示したのが1831年の実験だった。
2. ファラデーの はりは、つなぐ ときだけ うごいた
2. 電池をつないでいる間、針は動かなかった
2. 1831年の実験 ── 電流が変化する瞬間にだけ現れた誘導電流
1831ねん、ファラデーと いう 人が、てつの わに どうせんを まいた ものを つくりました。わの かたほうの コイルは 電池に、もう かたほうは 電気を はかる きかいに つなぎました[1]。
電池を つないだ その とき、はかる きかいの はりが ぴくっと うごきました。電気は、電池に つないで いない ほうの コイルにも 出たのです[1]。
ふしぎなのは、そのあとです。電池を つなぎ つづけて いる あいだは、はりは うごきません。うごくのは、つなぐ ときと、切る ときです[3]。
コイルを 通る じかいが かわる ときだけ、電気が うまれます。コイルに 電気が うまれる この しくみを「でんじゆうどう」と いいます[2]。
では、パッドの 上の スマホは、電池を つないだり 切ったり して いるのでしょうか。
鉄の輪に巻いた2つのコイル
1831年8月29日、ファラデーは直径6インチ(約15センチ)の鉄の輪に、銅線のコイルを巻きました。片方のコイルは電池に、もう片方は検流計(弱い電流を調べる器具)につなぎます。電池をつなぐ瞬間、電池につながっていない側のコイルで、検流計の針が動きました[1]。
変わる瞬間だけ、電気が生まれる
電流が流れ続けているあいだは、検流計の針は動きません。針が動くのは、つないだ瞬間と切った瞬間だけです[1][3]。
これが電磁誘導です。コイルを通る磁界が変化すると、コイルに電圧(誘導起電力)が生まれます。ファラデーの法則では、電圧の大きさは磁界の変化の速さに比例します[2]。
この装置は、最初の変圧器(トランス)といわれます[3]。ワイヤレス充電は、鉄の輪の代わりに空気をはさんだ変圧器と考えると、イメージしやすくなります(これは筆者のたとえです)。
では、パッドの上のスマホは、電池をつないだり切ったりしているのでしょうか。
ファラデーは1831年8月29日、直径6インチ(約15cm)の鉄の輪に銅線のコイルを巻き、一方を電池、他方を検流計につないだ。電流が流れ始める瞬間、もう一方の回路の検流計に一時的な電流が現れた[1]。電流が定常的に流れている間は針が動かず、つなぐ瞬間と切る瞬間に動く点が要点である[3]。
この現象が電磁誘導で、コイルを貫く磁束が変化すると誘導起電力が生じる。ファラデーの法則によれば、起電力の大きさは磁束の変化の割合に比例する[2]。つまり、静かな磁界は電気を生まず、速く変わる磁界ほど大きな電圧を生む。ただしこの解釈は、辞典の要約にもとづく。
この装置は世界初の変圧器といわれる[3]。空気をはさんで送受電コイルを向かい合わせるワイヤレス充電は、これを鉄心なしで使う形と説明できるが、この対比は書き手の整理であり、出典の文ではない。
すると疑問が残る。パッドの上のスマホは、電池のつなぎ切りを繰り返しているのだろうか。
3. 1びょうに 10まんかいも、「かわる」を つくりつづける
3. 交流で磁界を毎秒10万〜20万周期で変え続ける
3. 交流による連続的な変化 ── Qiの周波数と、規格をつくった団体
パッドの 中では、電池の つなぎ切りの かわりに、「こうりゅう」の 電気を 使います。こうりゅうは、電気の むきが、すごい はやさで 行ったり 来たり する 電気です。
むきが かわる たびに、じかいも かわります。ワイヤレスじゅうでんの きまり「Qi(チー)」では、この ゆれの ひとまわりが、1びょうに およそ 10まんから 20まん回くりかえされます[4]。
ブランコを 1どだけ おすと、ゆれは すぐ 止まります。ずっと ゆらすには、なんども おす ひつようが あります。それに にた ことを、コイルが して います。ただし ほんとうは、おす のではなく、電気の むきが かわって います。
Qiは、2008ねんに できた「ワイヤレスパワーコンソーシアム」という なかまの 会が つくりました。Qiは 「気」に ちなむ という はなしも あります[5]。
電池のつなぎ切りの代わりに、交流を流す
交流は、電流の向きが行ったり来たりする電気です。向きが変わるたびに磁界も変わるので、電池のつなぎ切りをしなくても、変化が続きます。
Qiの周波数は、およそ100〜200キロヘルツです[4]。1秒間に約10万〜20万周期の変化をくり返します。周波数を高くすると磁界の変化は速くなります。この変化を使って、受電コイルに電圧を生じさせます。実際の電圧や電力は、コイルや回路の設計にも左右されます。
Qiをつくった団体
Qi(チー)は、ワイヤレスパワーコンソーシアム(WPC)が作った、誰でも使える規格です[4]。WPCは2008年12月17日に設立され、創設メンバーはフィリップスや三洋など8社でした。規格の公開は2010年8月です[5]。
ただし、コイルの間で電力が移る距離には限りがあります。Qiの有効な距離は最大約4センチです[4]。
静かな磁界は電圧を生まないので、ワイヤレス充電は送電コイルに交流を流し、磁界を絶えず変化させる。Qiの周波数はおよそ100〜200kHzで、資料により87〜205kHzや105〜205kHzなど幅がある[4]。100kHzなら毎秒10万周期の変化になり、周波数が高いほど磁界の変化は速くなる。実際の電圧や電力はコイルや回路の設計にも左右される。
Qiは、無線電力コンソーシアム(WPC)が作ったオープンな誘導方式の規格だ[4]。WPCは2008年12月17日に設立され、創設メンバーはフルトン・イノベーション、コンビニエントパワー、ロジテック、フィリップス、三洋、深圳桑菲通信、ナショナルセミコンダクター、テキサス・インスツルメンツの8社。規格の公開は2010年8月である[5]。名称のQiは「チー」と読み、中国語の「気」に由来するという説明が資料にある[5]。
ただし有効な距離は最大約4cmとされる[4]。距離が短いのはなぜか、位置がずれるとどうなるかは次の章で扱う。
4. ずれたり、金ぞくが あると どうなる?
4. ずれると弱くなり、金属があると熱くなる ── だから磁石で合わせる
4. 誘導方式の限界と対策 ── 位置ずれ・異物検出・Qi2の磁石
パッドの 上で、スマホを ずらして おいたら、どうでしょう。コイルの いちが ずれると、電気は とどきにくくなります[7]。
また、パッドの ちかくに 金ぞくが あると、その 金ぞくにも 電気が うまれて、あつくなる ことが あります。だから Qiには、金ぞくを 見つける しくみが あります[4]。
そこで 新しい きまり「Qi2(チーツー)」は、じしゃくを 使います。じしゃくで スマホを ぴたっと 合わせて、さいだい 15ワットの じゅうでんが できます[6]。
でも、もっと はなれても、少し ずれても だいじょうぶな やりかたは ないのでしょうか。
位置がずれると効率が落ちる
電磁誘導方式は、送電コイルと受電コイルの位置をきちんと合わせる必要があり、届く距離も極端に短いとされます[7]。パッドの上でスマホを少しずらすだけでも、影響が出ます。
金属が熱くなるのを防ぐ
コイルの近くの金属にも、磁界の変化で電流が生まれ、金属が熱くなることがあります。IH調理器と同じ考え方です。Qiには、送電器の近くの金属を見つけて熱くなるのを防ぐ機能があり、2012年のバージョン1.1で入りました[4]。
磁石で位置をそろえる
位置ずれの弱点に、Qi2は磁石で合わせる発想で応えています。MagSafeをもとにした磁石での位置合わせ(Magnetic Power Profile)を取り入れ、最大15ワットの充電に対応します[6]。
では、磁石がなくても、もっと離れていても電気を送る方法はないのでしょうか。
電磁誘導方式は、送電側コイルの交流磁界を受電側コイルに通して電流を作る方式で、位置合わせが必要なうえ、伝送距離が極端に短い[7]。そのため、スマホの置き場所が少しずれるだけでも効率が落ちる。
もう一つの問題は、磁界の変化が金属にも電流を生む点だ。送電器の近くにある金属が熱くなるのを防ぐため、Qiには異物検出機能があり、バージョン1.1(2012年)で導入された[4]。IH調理器の原理の延長にある。
位置ずれには、Qi2が対応する。MagSafeをもとにした磁石による位置合わせ(Magnetic Power Profile)を取り入れ、最大15Wの充電に対応する[6]。ただし、Qi2の公開時期は資料により食いちがうため、年月は示さない。
この章の数値と対策は、2つのコイルが近いことを前提にしている。距離そのものを伸ばす方法はあるのか。
5. 2メートル はなれた 電球が 光った
5. 共振を使うと、約2メートル先の電球が光った
5. 磁界共振 ── MITの2007年の実験(約2m・60W・効率約4割)
2007ねん、アメリカの MITという 大学の 先生たちが、じっけんを しました。同じ ゆれの はやさに した 2つの どうの コイルを つかい、やく2メートル はなれた 60ワットの 電球を 光らせました[8]。
ひみつは「きょうしん」です。ブランコを、ゆれる はやさに 合わせて おすと、大きく ゆれます。それと 同じで、同じ はやさで ゆれる もの どうしは、エネルギーを やり取りしやすいのです[8]。
あとの 発表では、コイルの 間に 6人が 立っても、電球は 光りました。電気は、じしゃくの ちからで おくるので、まわりの ものには あまり えいきょうしません[9][8]。
ただし、これは じっけんしつの 数字です。ふだんの スマホが、2メートルで じゅうでん できる という 意味では ありません。
同じ周波数どうしが、電気をやりとりする
MITのソルヤチッチ教授らは2007年、共振周波数が同じ2つの銅コイルを使って、約2メートル離れた60ワットの電球を光らせました[8]。共振とは、ブランコをちょうどよいリズムで押すと大きく揺れるのと似て、同じ周波数のもの同士がエネルギーを効率よくやりとりする性質です[8]。
磁界共振方式は、電磁誘導方式にコンデンサを加えて共振回路にしたもので、位置が少しずれても伝えられるとされます[7]。
人が間に立っても光った
2014年のMITの記事では、6人の研究者がコイルの間に立っても、電球は光りました。効率は約45%でした[9]。身のまわりのほとんどの物は磁界と弱くしか作用しないため、周囲への影響が抑えられる、と説明されています[8]。
2007年の実験の効率は、論文の要旨では約4割です。日常のスマホ充電が2メートルで届く意味ではありません。
MITのSoljačićらは2007年、共振周波数が等しい2つの銅コイルで、約2m離れた60Wの電球を点灯させた。同じ共振周波数の物体どうしが効率よくエネルギーを交換する性質を利用する[8]。磁界共振方式は、電磁誘導方式のコイルにコンデンサを加えた共振回路で、位置が多少ずれても伝送でき、伝送距離は実験条件や方式により変わる[7]。
効率は、2007年の実験を報告した論文の要旨では約40%、2014年のMIT記事では約45%(6人がコイルの間に立った実験)と、資料ごとに異なる値が示されている[9]。2014年の記事は、6人の研究者がコイルの間に立っても電球が点灯したと述べる[9]。磁界を使う利点は、大半の物質が磁界とごく弱くしか作用せず、周囲の物への影響が抑えられる点にある[8]。
2mは実験値であり、日常のスマホ充電の距離ではない。実験の効率が4割台にとどまる点も、実用化の課題を示す。一方で電線なしの送電は、それより前から追われてきた夢でもあった。
6. 電線の ない せかいは、むかしから ゆめだった
6. 電線をなくす夢は、100年以上前にも追われていた
6. テスラの世界無線システム ── 資金がとだえた夢と、いまの充電
電線なしで 電気を おくる ゆめは、むかしの 人も 見て いました。テスラという 人は、電気や 知らせを 世界じゅうへ おくる 大きな とうを、1901ねんに たて はじめました[10]。
でも、お金を 出して いた 人が、かねもうけに なるか うたがい、お金が とだえました。1906ねんごろには、ほぼ 止まって います。とうは 1917ねんに とりこわされました[10]。
いま、わたしたちは スマホを パッドに おくだけで、小さな 「電線の ない せかい」を 使って います。
電線なしで電気と情報を世界に送る「世界無線システム」を、テスラは構想しました。1901年にウォーデンクリフ・タワーの建設を始め、J.P.モルガンが資金を出しました[10]。
しかし、モルガンが事業として成り立つか疑いを持ち、資金がとだえます。1906年ごろにはこの計画は実質的に終わり、塔は1917年にスクラップとして解体されました[10]。方式が悪かったと決まったわけではなく、資金と事業性の問題が大きかった、と資料は伝えています。
それから約120年。私たちは、机の上の小さな距離で、電線のない世界の一部を使っています。
テスラは電線なしで電気と情報を世界に送る「世界無線システム」を構想し、1901年にウォーデンクリフ・タワーの建設を始めた。J.P.モルガンが資金を出したが、事業性に疑いを持たれて資金がとだえ、1906年ごろに実質的に終わった。塔は1917年にスクラップとして解体された[10]。
この計画が終わった理由として、資料は方式の優劣ではなく資金と事業性の問題を挙げる。約120年後、Qiやその改良は、机の上の数cmで、電線のない送電を日常にしている。
7. おうちの じゅうでんだいで コイルを さがそう
7. 身のまわりの充電台で、コイルの向きを想像する
7. 出口 ── 観察の入口と、資料の読みどころ
おうちに ワイヤレスじゅうでんの だいが あれば、おうちの 人と いっしょに 見て みましょう。はこや せつめいしょに「Qi」と 書いて あるか、さがして みます。
スマホを、じゅうでんだいの まんなかから 少し ずらして おいて、じゅうでんの マークが 出るか 見て みます。ずらす 大きさで、かわるか どうか、見るだけです。
おうちに ない ときは、お店で 見かけた ときに、箱や せつめいしょを 見て みてください。もっと 知りたく なったら、日本語で 読める EE Times Japanの 記事[7]を 大人と いっしょに 読んで みましょう。
ワイヤレス充電台が家にあれば、箱や説明書に「Qi」と書いてあるかを探してみましょう。スマホを充電台の中心から少しずらして置き、充電が始まるか、充電中の表示が出るかを観察します。見るだけの観察で、無理に何度も試す必要はありません。
家にない場合は、店で見かけたときに箱を見て、Qi2やMagSafeの表示があるか探してみてください。
もっと読みたくなったら、日本語で読めるEE Times Japanの解説[7]で、電磁誘導方式と磁界共振方式の違いをたどってみてください。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
出典について:学会の記事、大学の発表、規格団体に関する解説、企業や記念館の資料を使った。何に使ったかは、それぞれの項目の最後に書いている。
- APS News「This Month in Physics History」(2001年8月、ファラデーの電磁誘導)。https://www.aps.org/apsnews/2001/08/faraday-electromagnetism (1831年の実験の装置と結果について)
- コトバンク「ファラデーの法則」。https://kotobank.jp/word/ファラデーの法則 (電磁誘導とファラデーの法則の説明について。辞典の要約)
- Copper.org「Faraday's Famous Ten Days」。https://archive.copper.org/education/history/60centuries/electrical/faradays.php (つなぐ・切る瞬間に針が動くこと、最初の変圧器といわれることについて)
- Wikipedia「Qi (standard)」。https://en.wikipedia.org/wiki/Qi_(standard) (Qiの原理、周波数、距離、異物検出について。二次資料)
- Wikipedia「Wireless Power Consortium」。https://en.wikipedia.org/wiki/Wireless_Power_Consortium (WPCの設立とQiの公開年、読み方について。二次資料)
- ベルキン「Qi2ワイヤレス充電とは」。https://www.belkin.com/jp/clp-what-is-qi2-wireless-charging-blog.html (Qi2の磁石による位置合わせと最大15Wについて。企業の解説)
- EE Times Japan「ワイヤレス電力伝送の基本原理」。https://eetimes.itmedia.co.jp/ee/articles/2203/07/news028.html (電磁誘導方式と磁界共振方式の違いについて)
- MIT News「Wireless power」(2007年)。https://news.mit.edu/2007/wireless-0607 (2007年の共振実験、約2mと60Wの電球について)
- MIT News(2014年)。https://news.mit.edu/2014/making-wire-free-future-0710 (6人がコイルの間に立った実験と効率について)
- Tesla Science Center「Tesla's Wireless Power」。https://teslasciencecenter.org/teslas-wireless-power/ (テスラの世界無線システムについて)
なおした ところ
更新履歴
更新履歴(改版の記録)
- 初版を公開。
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