1. すじは、しっぱいで 出た ものなの?
1. 線は失敗の跡なのか、作り方から必ず出るものなのか
1. 積層痕は調整の失敗ではなく、造形原理から出る跡である
3Dプリンターで つくった コップや ふたを なでると、よこに ほそい すじが ならんで います。木の 年輪に にています。
この すじは、プリンターが こわれて いるから 出るのでは ありません。3Dプリンターは、とけた プラスチックを うすく 一まい ならべて、その 上に また 一まい…と かさねて かたちを つくります。かさねた 一まいずつの はしが、すじに なって 見えるのです。
すじの ことを、積層痕と いいます。つみ重ねた あとと いう いみです。
大学の けんきゅうでも、この すじは 3Dプリンターの 作品で いちばん こまる ところと されて います。
3Dプリンターの作品を指でなぞると、横向きの細い溝が等間隔に並んでいます。木の年輪を横から見たようです。
これは、プリンターの調子が悪いからではありません。熱でやわらかくした樹脂を細い線にして出し、薄い層を1枚ずつ重ねて形を作る方式(FDM)では、新しい層は、すでにできた層の上に積まれます。層の端が、段になって残るのです。この跡を積層痕と呼びます。早稲田大学の発表は、積層痕を「造形物に原理上必ず発生する」ものと説明しています[1]。
FDMを扱った論文でも、層を重ねるときに生じる凹凸(層溝)が、FDMで作った構造物の最大の課題とされています[2]。つまり、積層痕は「たまに出る不具合」ではなく、この方式を使うかぎり向き合う相手です。
FDM方式の造形物を指でなぞると、層の境目に沿った細い溝が等間隔に並んでいる。溶かした樹脂を細い線として押し出し、薄い層を1枚ずつ積むこの方式では、新しい層は、すでにできた層の上に載る。層の端は、そのまま段として残る。この跡が積層痕である。
早稲田大学の発表は、積層痕を「造形物に原理上必ず発生する」ものと位置づけた[1]。Takagishi と Umezu の論文も、FDM造形物における最大の課題は造形の過程で生じる層溝だと述べている[2]。したがって積層痕は、設定を詰めれば原理的になくせる不具合ではなく、層を重ねるという作り方の帰結であり、できることを前提に大きさを抑える対象になる。
では、なぜ「層を重ねる」と、必ず段が残るのか。平らな壁なら段は目立たないはずだが、そうではない形では事情が変わる。次の章で、その形を見る。
2. ななめや まるい ところは、どうして かいだんに なるの?
2. 斜めの面や丸い面が、階段のようになる理由
2. 斜面や曲面で段差が目立つ理由:層の厚さと面の向き
おもちゃの かいだんを 思いうかべて ください。ななめの おかを、四角い ブロックを つみ重ねて つくると、ブロックの かどが ギザギザの かいだんに なります。
3Dプリンターも おなじです。ほんとうは なめらかな ななめの 面や、まるい ボールの 形を、うすい 一まいずつの 板で つくります。すると、板の はしが かいだんの だんに なります。
ある けんきゅうの かんがえ方では、たいらに ちかい 面ほど、本当の 形との ずれが 大きく なります。まっすぐ 立った かべは、ずれが ちいさく なります。ボールの てっぺんの あたりが ざらつきやすいのは、その ためだと 考えられます。
ただし、これは かんたんにした かんがえ方で、じっさいの ざらざらを ぴたりと あてる ものでは ありません。
まっすぐ立った壁は、層の端だけを考えれば段が小さくて済みます。段が目立つのは、斜めの面や丸い面です。実際の粗さは、層の端のほかの要素にも左右されます。
たとえば、斜めのスロープを、同じ厚さの板を少しずつずらして重ねて作る場面を考えてください。板の端が階段になり、本当のなめらかな斜面との間に、三角形のすき間が残ります。3Dプリンターが丸いボールを作るときも、層という輪切りの板を重ねるので、同じことが起こります。
3Dモデルを印刷用に変換する研究では、この段の高さを、層の厚さと面の向きで表すモデルが使われています。このモデルでは、ほぼ水平な面ほど誤差が大きく、垂直に近い面は小さくなります[5]。ボールの頂上付近や、ゆるい斜面がざらつきやすい理由として、筋が通ります。ただし、これは現象を単純にしたモデルで、実機の表面の粗さそのものではありません。
では、段を小さくするには、層を薄くするしかないのでしょうか。
平らな垂直の壁なら、層は縦にそろって積まれるので、層の端が作る段差は小さい。問題は、斜面と曲面である。本来連続的な面を、一定の厚さの層という離散的な輪切りで近似するため、面と元の形のあいだに、階段状のずれが残る。
3Dモデルを積層造形用に変換する研究(Livesu ら)では、このずれの山の高さが、層の厚さと面の傾きによって決まるモデルで表されている。山の高さは層の厚さを上限とし、面が水平に近いほど上限に近づき、垂直に近いほど小さくなる[5]。頂上付近のなだらかな曲面で階段が目立つ理由と合う。ただしこれは単純化したモデルで、実機の表面粗さを直接予測する式ではない。ノズルから出る樹脂の線の断面形状など、実際の粗さには別の要素も関わる。
このモデルに従えば、層の厚さが段の大きさを決める。ならば、層を薄くするほど表面はなめらかになるはずである。それなら、なぜいつも最薄の設定で印刷しないのか。
3. うすく すれば きえる? じかんは どうなる?
3. 層を薄くすればなめらかになるが、時間がふえる
3. 層を薄くすると何が得られ、何を失うか:時間とノズル径の壁
一まいの あつさは、プリンターに つたえる 「せってい」で 決められます。うすく するほど、すじは 目立ちにくく なります。
でも、うすく すると、同じ 高さを つくるのに ひつような 一まいの 数が ふえます。たとえば、高さ 20ミリの ものを、一まい 0.2ミリで つくると 100まい。0.1ミリなら 200まいです。まい数が 2ばいに なります。時間も 長く なりやすく なります。
プリンターを つくる 会社の せつめいでも、あつい 一まいは 時間が みじかく なる かわりに すじが 目立ち、うすい 一まいは こまかい ところまで 出るが 時間が かかる、と 書かれて います。
もう 一つ、かべが あります。プラスチックを 出す 口の ふとさ(ノズル)が 0.4ミリなら、一まいの あつさは その 8わり より うすく、0.32ミリほどまでに するのが 目安と いわれます。口の ふとさに 近い うすさには、できないのです。
1枚の層の厚さ(積層ピッチ)は、スライサーという準備用のソフトで指定します。FDMでは0.1〜0.5mmの範囲が一般的で、最近は0.1mmより薄い機種もあります。細かくするほどきれいに仕上がりますが、その分時間がかかります[3]。
理由は、層の数を計算するとよく分かります。高さ20mmの物を、1層0.2mmで作ると100層、0.1mmにすると200層です。層の数は2倍になります。印刷時間も長くなりますが、増え方は形や設定で変わります。メーカーのヘルプも、層を厚くすると造形時間が大きく縮むが層が目立ち、0.10mmなど薄くすると細部が出るが時間が延びる、と説明しています[4]。
さらに、薄くするには限界があります。樹脂を押し出す口(ノズル)の太さが、層の薄さの限界の一つになるのです。このメーカーの目安では、層の高さはノズル径の80%未満にします。0.4mmのノズルなら約0.32mmまでです。この80%はこのメーカーの目安で、他社では75%など、少しちがう値が示されることもあります[4]。
FDMでは、時間と口の太さの間で折り合いをつけて、層の薄さを決めることになります。
では、薄くしきれない段は、どうすればよいのでしょうか。
層の厚さ(積層ピッチ)はスライサーで指定する。FDMでは0.1〜0.5mmが一般的で、0.1mm未満の機種もあり。細かいほどきれいだが、その分時間がかかる[3]。
時間がふえる理由は、層の数で見積もれる。高さ20mmの物を層0.2mmで作ると100層、0.1mmなら200層である。層の数は2倍になる。印刷時間も長くなるが、増え方は形や設定で変わる。Prusaの公式ヘルプも、層を高くすると造形時間は大きく短縮されるが層が目立つ、0.10mmなど低くすると細部が出るが時間が延びる、と説明する。また層の高さの調整が変えるのは縦方向の解像度だけで、横方向の解像度は変えない[4]。
薄さには、もう一つの壁がある。ノズル径である。同ヘルプは、層の高さをノズル径の80%未満にするよう勧める。0.4mmのノズルなら約0.32mmまでが目安になる[4]。この数値はメーカーの目安であり、別の割合を示す資料もある。
結局、FDMでは、層を薄くするほど段は小さくなるが、時間とノズル径によって、ゼロまでは下げられない。残った段は、どうするのか。
4. のこった すじは、とかして ならせるの?
4. 残った段を、溶かしてならす研究
4. 残った段をならす:溶剤による平滑化の実験結果
わせだ大学の 先生たちは、ペンの ような そうちを つくりました。ペンの 先から、ざいりょうを とかす くすりを ほんの すこし 出して、でこぼこの 山を とかし、へこんだ ところを うめて ならします。
この ほうほうで、すじは どれくらい へるのでしょうか。じっけんの けっかを 見ると、一まいが 0.3ミリの ものは、表面の でこぼこを あらわす 数字(あらさ)が 95から 10に さがりました。0.2ミリは 65から 10、0.1ミリは 30から 5です。
はじめから 一まいが うすい ものほど、ざらつきは 小さく、ならした あとも 小さく なって います。うすい 一まいずつで つくり、そのうえで ならすと、いちばん なめらかに なります。
ただし、とかす くすりは、ざいりょうに 合う ものを えらぶ ことが たいせつです。これは 一つの けんきゅうの けっかです。
薄くしても残る段を、あとから消す方法もあります。早稲田大学の梅津信二郎准教授らは、ペンの形をした装置から溶剤をごく少量ずつ出し、表面の凸の部分を溶かして凹の部分を埋め、積層痕をならす方法を開発しました[1]。
論文では、層の厚さ別に、ならす前後の粗さ(Rz)が示されています。0.3mmの試験片は、約95から、仕上げを9回行って約10まで下がりました。0.2mmは約65から、6回で約10。0.1mmは約30から、5回で約5です[2](単位は、ここでは扱いません)。
数字を比べると、ならす前の粗さは、0.3mmから0.1mmに薄くしただけで、95から30と、約3分の1になります(95÷30は約3.2)。さらに、ならす回数も9回から5回に減っています。薄い層で作ってから仕上げるのが、いちばんなめらかになる組み合わせです。
ただし、溶剤は材料を溶かす薬品なので、材料ごとに合うものを選ぶ必要があります[2]。これは一つの研究で、すべての材料や形に通じる結果ではありません。
層を薄くしても残る段をあとから消す方法として、早稲田大学の梅津信二郎らは、ペン型の機構から溶剤を必要最小限の量だけ吐出し、表面の凸部を溶かして凹部を埋め、積層痕を平滑化する手法を開発した[1]。
Takagishi と Umezu の論文は、積層ピッチごとの粗さ(Rz)の変化を示している。0.3mmは約95から、9回の処理で約10。0.2mmは約65から6回で約10。0.1mmは約30から5回で約5になった[2]。Rzの単位は、ここでは書かない。比だけを見ても、読み取れることは多い。
第一に、処理前の粗さは、ピッチを0.3mmから0.1mmへ3分の1にすると、約3.2分の1(95÷30)になる。ピッチを薄くすることは、後処理に入る前の時点で、すでに段を小さくしている。第二に、必要な回数が9回から5回に減る。第三に、処理後の値は、0.3mmと0.2mmで同程度の約10に収束している。これは条件を限定した結果なので、他のピッチでも同じ収束が起こるかは分からない。
この手法は、材料を溶かす薬品を用いるため、材料ごとに適した溶剤が異なる[2]。ここまでを合わせると、FDMの表面には、層の薄さ、ノズル径、後処理が関わる。
5. 手で ためして みよう
5. 身のまわりで「重ねて作った面」を比べる
5. 段差を自分の手で確かめ、原典に当たる
きょう できる こと
コピー用紙を 10まい、はしを すこしずつ ずらして かさねて みましょう。ななめの かいだんが できます。ゆびで なぞって、ひっかかる 感じを たしかめます。つぎに、同じ 高さに なるように、うすい 紙の まい数や ずらし方を 合わせて、くらべて みましょう。まい数が ふえると、ひっかかりが 小さく なるのが わかります。
しらべる とき
学校や 図書館に ある 3Dプリンターで つくった ものが あれば、おとなの ひとに 見せて もらい、よこの すじを さがして みましょう。
紙で試す
コピー用紙を10枚、端を少しずつずらして重ね、斜面を作ります。指でなぞると、紙の端が階段のように引っかかります。次に、薄めの紙を、同じ高さになるように枚数やずらし方を調整して重ね、斜面を作って比べてください。段が細かくなり、ひっかかりが小さくなります。層が薄いほど、段は小さくなるという実感がつかめます。
身近な物で探す
学校や図書館、公民館などに3Dプリンターがあるときは、作品を見せてもらい、斜めの面と垂直の面を指でなぞって比べてみましょう。
資料を読むなら
早稲田大学のニュース[1]は日本語で読めます。
手で確かめる
コピー用紙10枚を端をずらして重ねた斜面と、薄めの紙を同じ高さになるよう枚数とずらし方を調整して重ねた斜面を、指でなぞって比べる。層の数がふえるほど段は小さくなるが、厚みがゼロにならない限り、階段であることは変わらない。第3章の層の厚さと段の関係を、手で確かめることになる。
資料を読むなら
早稲田大学のニュース[1]は日本語で読める。論文[2]は英語だが、層の厚さごとの粗さの変化が表で示されている。スライサーの設定と時間の関係は[3]、層の高さとノズル径の目安は[4]、面の向きと段の高さのモデルは[5]にある。3Dプリンターの源流の一つは、1980年に名古屋市工業研究所の小玉秀男が出願した光造形の特許で、光で固まる樹脂を断面ごとに固めて重ねる着想だった[6]。光造形でも、断面ごとに樹脂を固めて層を重ねる考え方が使われた。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
本文で使った資料です。
- 早稲田大学ニュース(梅津研究室・3次元化学溶解仕上げ)2017. https://www.waseda.jp/top/news/49411 (積層痕は原理上できる/溶剤でならす方法)
- Takagishi, K. & Umezu, S. Development of the Improving Process for the 3D Printed Structure. Scientific Reports 7:39852 (2017). https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5215526/ (層溝の課題/ならす前後の粗さ)
- MONOist 3Dプリンタの設定(スライサー). https://monoist.itmedia.co.jp/mn/articles/2010/14/news004_2.html (積層ピッチと時間)
- Prusa Help: Layers and perimeters. https://help.prusa3d.com/en/article/layers-and-perimeters_1748 (層の高さと時間、ノズル径の目安)
- Livesu, M. et al. From 3D Models to 3D Prints (arXiv:1705.03811, 2017). https://arxiv.org/abs/1705.03811 (面の向きと段の高さのモデル)
- MONOist 3Dプリンタ特許の歴史. https://monoist.itmedia.co.jp/mn/articles/1310/25/news053.html (光造形の最初の特許)
なおした ところ
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