1. ひがしむきと にしむきは、なぜ ちがう たかさ?
1. 東向きと西向きの飛行機は、なぜちがう高さを飛ぶのか
1. 東向きと西向きで、なぜ巡航高度の数字の偶奇が分かれるのか
たかい ビルを 思いうかべて ください。ひがしへ いく 飛行機は 3かい、5かい、7かいを つかい、にしへ いく 飛行機は 4かい、6かいを つかう、という きまりが あったらどうでしょう。すれちがう 飛行機が ぶつかりません。
空にも、にた きまりが あります。ひがし むきは 奇数、にし むきは 偶数の 高さを つかう、という 目安です。たとえば、ひがしへ 行く 飛行機が 35000フィート(FL350、およそ 1万700メートル)なら、にしへ 行く 飛行機は 36000フィート(FL360)を とびます。
この 高さの 数字は、「FL350」のように 書きます。じめんからの 高さでは なく、気圧を もとに した 数字です。
ただし 本当は、方角が 地図の ひがし・にしと ぴったり おなじ という わけでは ありません。国や ルートで れいがい も あります。
空には、飛行機どうしがぶつからないよう、見えない決まりがあります。その一つが、向きによって使う高さを分ける方法です。国際民間航空機関(ICAO)の巡航高度表では、磁針路(磁石で測った進む向き)が000〜179度、つまりおおまかに東向きの飛行は奇数のレベル、180〜359度の西向きは偶数のレベルを使います[1]。
高さは「フライトレベル(FL)」で表します。標準の海面気圧(約1013hPa)に高度計を合わせたときの気圧高度を、100フィート単位で書いた数字で、FL350なら約35,000フィートです。地面からの実際の高さではなく、気圧にもとづく数字です[1]。
たとえば東向きがFL350なら、西向きはFL360です。向かい合う2機は、少なくとも1,000フィート(約300メートル)の上下のすき間をとれます。ただし「東向き」は地図上の方角ではなく磁針路で決まり、国や航路によって例外や別の方式もあります[1]。
では、そもそもなぜ、そんなに高い所を飛ぶのでしょうか。
巡航高度は、フライトレベル(FL)で指定される。FLは、標準の海面気圧(約1013hPa)に高度計を合わせたときの気圧高度を、100フィート単位で表した数字であり、FL350は約35,000フィートに当たる。地面からの実際の高さではなく、気圧にもとづくため、天気で気圧が変わっても、同じ空域の飛行機は同じ基準で高さをそろえられる[1]。
では、向かい合う便どうしの安全はどう確保するのか。ICAOの巡航高度表にもとづく方式では、磁針路000〜179度の飛行には奇数、180〜359度には偶数の千フィート(たとえばFL250やFL270は東向き)を割り当てる。こうして、反対向きの便は、少なくとも1,000フィート(約300メートル)の上下間隔を持つ[1]。ここで注意すべきは、基準が地図上の方角ではなく磁針路であること、また国や航路ごとに別の方式や例外があることだ。日本の個別の運用は、この資料からは断定できない。
この決まりは、飛行機が「どの高さを使うか」を分けるだけで、「なぜその高さか」は説明しない。ではなぜ旅客機は、そもそも10,000メートル前後もの高い所を選ぶのか。次の章でその理由を見る。
2. どうして そんなに たかい ところを とぶの?
2. 高い所を飛ぶと、なぜ得をするのか
2. 高い所を飛ぶと何が得なのか:薄い空気と燃費
こたえは、空気が うすいからです。空気の こさは、高く なるほど へります。めやすとして、たとえば 高さ10キロメートルでは、海の 近くの 4ぶんの 1ほどです。
うすい 空気の 中では、手で 風を かきわけるように 飛行機を おす ちからが 小さくて すみます。その ぶん、燃料を ふやさずに 進めます。
ある けんきゅうでは、アメリカの 国内線 257びんを しらべました。高さと 速さを うまく えらぶと、とんでいる あいだの ねんりょうを さいだい 3.5パーセント へらせた そうです。そのうち 高さの ぶんは 1.5パーセントほどでした。ただし これは アメリカ国内の 1日分での 見つもりです。
答えの中心は、空気の薄さです。空気の密度は高くなるほど減り、5キロメートル上がるごとに約半分になって、高度10キロメートルでは海面付近の約4分の1になると説明されています[2](これは目安の数字です)。
薄い空気の中では、飛行機にかかる空気の抵抗が小さくなります。そのぶん、同じ速さで飛ぶために使う燃料が少なくてすみます。ただし、翼が機体を支える力(揚力)を出すには、薄い空気ほど速く飛ばなければなりません[2]。「高いほど空気が薄くて得」と「速く飛ぶ必要が出てくる」の兼ね合いで、燃費のよい高さが決まります。
この「高さの工夫」の効果を数字で見た研究があります。MITの研究チームは、米国の国内線257便(1日分)を調べ、速度と高度を最適化すると、巡航中の燃料を最大で約3.5%減らせると見積もりました。内訳は、速度の最適化が約2.4%、高度の最適化が約1.5%です[3]。高さだけでは1.5%と小さく見えますが、毎日大量の便が飛ぶことを考えると、小さな割合でも積み重なります。ただし、これは米国内の1日分の便での推定で、世界共通の数字ではありません。
では、高ければ高いほど良いのでしょうか。
第一の理由は、空気の密度である。空気の密度は高さとともに減り、およそ5キロメートルごとに半分になって、高度10キロメートルでは海面の約4分の1となる[2](概算)。密度が小さいほど抵抗が小さく、同じ速度を保つための推力、つまり燃料が少なくてすむ。ところが、翼が同じ重さを支える揚力を出すには、薄い空気ほど速度を上げなければならない[2]。したがって、旅客機の「最適な高度」は、抵抗が減る利益と、速く飛ぶ必要という不利益の釣り合うあたりに現れる。
この高度の効果を、定量的に見積もった研究がある。MITの研究は、米国内の257便(1日分)の巡航を対象に、速度と高度の最適化で巡航燃料を最大約3.5%減らせると推定した。内訳は、速度の最適化が約2.4%、高度の最適化が約1.5%である[3]。高度だけでは1.5%程度にとどまるが、これは「いまの飛び方がすでに、かなり最適に近い」ことの裏返しとも読める。もっとも、米国内の1日分という条件での推定であり、他の路線や機種に当てはまる保証はない。最適高度は、機体の重さや気象などの条件でも変わる。
この得には、機体の側から見た限りがある。高く上がり続けることはできるのか。
3. もっと たかく とべば、もっと とく?
3. 高ければ高いほど良いわけではない理由
3. 上がれる高さには限りがある:余裕を残して飛ぶ理由
もっと 高く 上がれば、空気は もっと うすく なります。でも、うすすぎると こまった ことが 起きます。
ひとつは、エンジンが 出せる ちからが へる ことです。もうひとつは、おそすぎても はやすぎても だめに なる 「ちょうど よい 速さ」の はばが、ぐっと せまく なる ことです。おそいと 飛行機は ふわっと 落ちそうに なり、はやすぎると 空気の 流れが みだれます。
高い 所ほど、この はばが 小さくなると いう せつめいが あります。そこで 飛行機は、上がれる 高さの てまえに、よゆうを のこして とびます。
高く上がるほど空気が薄くなるので、困ったことも起きます。一般向けの解説では、高い所ほどエンジンの出せる力に余裕がなくなり、さらに「これ以上遅いと失速する速さ」と「これ以上速いと音速に近づいて機体が揺れる速さ」の差が小さくなる、と説明されています[4]。
速さの許される幅がせまくなると、操縦の余裕がなくなります。そのため旅客機は、上がれる限界のぎりぎりではなく、手前に余裕を残した高さを選びます。これは一般的な説明で、機種ごとの正確な数字ではありません。
こうして、「高いほど得」という力と、「高すぎると余裕がなくなる」という力のあいだに、ちょうどよい高さの範囲ができます。しかもその範囲は、固定ではありません。飛んでいる間に動くのです。
高さには上限がある。高所ほど空気は薄く、エンジンが出せる推力にも余裕がなくなる。さらに、失速速度と、音速に近づく速度の差が縮む[4]。つまり、飛んでよい速度の幅が狭くなる。ここでは一般向けの解説にとどめ、機種ごとの数値は扱わない。
旅客機は、この限界に近づきすぎないよう、定められた余裕を残して飛ぶ[4]。したがって巡航高度は、燃費に有利な「高さの下限側」と、余裕を保つ「上限側」にはさまれた範囲で選ばれる。最適高度の具体的な値は、機種・重さ・気象などで変わる。
しかもこの範囲は、一定ではない。旅客機は飛行中に燃料を消費し、軽くなる。軽くなれば、必要な揚力が減り、範囲が上へ動く。この動きが、次の章の階段状の上昇を生む。
4. ねんりょうが へると、なぜ かいだんの ように 上がるの?
4. 軽くなると高さが上がる:階段状に上昇する長距離便
4. 燃料の消費と最適高度の上昇:ステップクライム
長い きょりを とぶ 飛行機は、はじめは ねんりょうを たくさん つんで いて おもたいです。とんで いる うちに ねんりょうが へって、からだが かるく なります。
かるく なると、とくに なる 高さが 上がります。そこで 飛行機は、とちゅうで 1000フィート、2000フィートと 少しずつ 上がります。これを ステップクライム(階段のぼり)と いいます。
ほんとうは、なめらかに ずっと 上がりつづけるのが いちばん よいのですが、まわりに 飛行機が たくさん いる 空では あぶなく なります。そこで、かんせいかんから 「上がって いい」と ゆるしを もらってから、階段の ように 一だんずつ 上がります。
旅の最初の旅客機は、燃料を満載して重い状態です。飛ぶうちに燃料が減ると機体は軽くなり、燃費のよい高さ(最適高度)が上がります。そこで長距離便は、一定の高さで飛び続けず、1,000フィート、2,000フィート、ときには4,000フィートなど、航路の決まりに合わせた幅で上がっていきます。これをステップクライムと呼びます[5]。
理屈の上では、なめらかに上がり続ける飛び方が最も効率的です。しかし、混んだ空域では、ほかの飛行機に割り当てられた高さがあるため、現実的ではありません。パイロットは、管制の承認を得て、階段のように一段ずつ上がります[5]。
つまり巡航高度は、空に出たときの一度きりの決定ではなく、重さが減るにつれて更新されていく数字です。誰がその許可を出すのでしょうか。
燃料は、飛行中に消費され続ける。機体が軽くなると、燃費のよい高度(最適高度)が上がる。そのため長距離便は、離陸直後に決めた高度を最後まで保たず、1,000、2,000、あるいは4,000フィートなど、航路の高度規則に応じた幅で、許可を得て上昇する。これをステップクライムという[5]。
理想は、なめらかな連続上昇である。ところが、割り当てられた高度が重なり合う混雑空域では、連続的に高度を変える飛行機は、周囲の便との間隔を保つ上で扱いにくい。そのため、管制の承認を得て段階的に上がる方式が現実的になる[5]。最適化の理想と、安全を保つ運用との折り合いが、階段という形で現れているわけだ。
この上昇の許可は誰が出すのか。それは、第1章の奇数・偶数の割り当てと、どうつながっているのか。
5. ぜんぶ だれが きめて いるの? せまく できるのは なぜ?
5. 高さを割り当てる管制官と、間隔をせばめる技術
5. 管制による高度割り当てと、間隔短縮(RVSM)の条件
飛行機が とぶ 高さは、パイロットが ひとりで きめる のでは ありません。まわりの 飛行機の ようすを 見ている かんせいかんが 「この 高さを とんで ください」と しじを 出します。この しじの 高さを 守ることが、きほんです。
その しじの 中でも、ひがし・にしの きまりが 生きて います。
むかしは、上と 下の 飛行機を 2000フィート(およそ 600メートル)あけて いました。高い 所では、高さを はかる きかいの まちがいが 大きく なるからです。そのご、きかいが よく なって、1990年代に 1000フィートまで 小さく できるように なりました。日本でも 2005年に 取り入れられたと いわれます。すると、同じ 空に 入れる 飛行機の 数が ふえました。
巡航高度は、パイロットだけの判断ではありません。日本の管制では、管制官が出す「指定高度」を守ることが基本とされています[6]。奇数・偶数の決まりも、こうした指示のなかで生きています。
高いところの上下の間隔は、かつて2,000フィートでした。高い所ほど、気圧で高さを測る高度計の精度が落ちるためです。間隔を1,000フィートに縮めるには、高度計や自動操縦の精度を上げる必要があり、それが1990年代に十分なところまで来たと説明されています[7]。
こうしてできたのが、RVSM(短縮垂直間隔)です。FL290〜FL410の範囲で、上下の間隔を2,000から1,000フィートに縮め、同じ空域に入れる機数を増やします[7]。日本でも2005年に導入され、国の審査要領は、RVSM空域をFL290からFL410で垂直の管制間隔を1,000フィートにした空域または航路と定めています[8]。
技術が進み、管制が使える高さの間隔も細かくなりました。
巡航高度の割り当ては、管制の仕事である。日本の管制方式では、管制官が出す「指定高度」を守ることが基本とされる[6]。第1章の奇数・偶数や、第4章の階段上昇も、この指示のもとで運用される。
では、同じ空域にもっと多くの便を入れるには何が要るか。高所では、気圧で高さを測る高度計の精度が落ちるため、上下の間隔を2,000フィートに保っていた。これを縮めるには高度計や自動操縦の精度向上が必要で、1990年代に十分な水準になったと説明される[7](年代は二次資料にもとづく大まかな値)。
このように上下の間隔を縮める仕組みがRVSM(短縮垂直間隔)である。FL290〜FL410で、標準の上下間隔を2,000フィートから1,000フィートに縮め、同じ空域に入れる機数を増やす[7]。日本では2005年に導入され、国の審査要領は、RVSM空域を「FL290からFL410までで垂直の管制間隔を1,000フィートに設定した空域または航路」と定める[8]。つまり、1,000フィートというすき間は、高度計の精度と許可基準という二つの条件が整って、はじめて使える。
巡航高度は、燃費、上昇限界、向きの割り当て、管制の間隔という四つの条件が重なる所に決まる。この見えない階段を、自分の目で確かめる方法はあるのか。
6. 空を 見上げて みよう
6. 見えない階段を、空で探す
6. 高度の数字を、観察と原典で確かめる
きょう できる こと
くもりの ない 日に、空を 見上げて みましょう。高い 空を とぶ 飛行機が、白い すじ(ひこうきぐも)を ひいて いるかも しれません。どちらへ むかって いるか、方角を かくにんして、紙に 書いて みます。しばらく 見ていると、おなじ 方向へ 行く 飛行機が くり返し 通るのが 分かるかも しれません。
ただし 太陽を ちょくせつ 見ては いけません。目を いためます。
よんで みよう
おとなの ひとと いっしょに、「フライトレベル」を しらべて みましょう。
空で試す
晴れた日に、空を見上げてみましょう。高い空に飛行機雲が見えたら、どちらへ進んでいるかを方位磁石で確かめ、メモしておきます。同じ向きへ進む飛行機がよく通る道すじが見つかるかもしれません。地上からは飛行機の高さやFLは分からないので、記録するのは向きだけです。ただし、太陽を直接見ないよう注意してください。目を傷めます。
数字で確かめる
1,000フィートは約305メートル、FL290は約8,800メートル、FL410は約12,500メートルです。この間は約12,000フィートあります。1,000フィートずつに区切ると、すき間はいくつできるでしょう。計算してみましょう(答えは12個です)。
資料を読むなら
RVSMの導入経緯は、国土交通省のRVSM航行の許可基準及び審査要領[8]で確かめられます。
観察と計算
晴れた日に飛行機雲の進む向きを方位磁石で確かめ、東寄りか西寄りかを記録してみる。同じ向きに進む飛行機が見つかる日もあるかもしれない(地上からは高度やFLは分からず、記録できるのは向きだけである。太陽を直接見ないこと)。また、FL290は約8,800m、FL410は約12,500mであり、RVSMの範囲に1,000フィート刻みのすき間がいくつできるかを数えると、12個になる。
資料を読むなら
フライトレベルとその割り当ては英語版Wikipediaの「Flight level」[1]、RVSMは「Reduced vertical separation minima」[7]、階段上昇は「Step climb」[5]にまとまっている。燃料の削減効果はMITの論文[3]、日本のRVSM空域の定義は国土交通省の審査要領[8]が一次資料に近い。WikipediaはICAOの表などを要約した二次資料なので、国ごとの正式な高度表は各国の航空当局の資料で読み比べるとよい。この記事では日本固有の巡航高度表の例外や、最適高度の定量的な算出式は扱っていない。そこが、次に調べる入り口になる。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
本文で使った資料です。
- Wikipedia: Flight level. https://en.wikipedia.org/wiki/Flight_level (フライトレベルと奇数・偶数の割り当て)
- NASA Goddard: Flight (Stargazers). https://pwg.gsfc.nasa.gov/stargaze/Sflight2.htm (高さと空気の密度)
- MIT DSpace: Estimation of Potential Aircraft Fuel Burn Reduction in Cruise Via Speed and Altitude Optimization Strategies. https://dspace.mit.edu/handle/1721.1/62196 (速度・高度の最適化による燃料削減の見積もり)
- Fly Away Simulation: Why airliners cruise at high altitudes. https://flyawaysimulation.com/ask/answers/why-airliners-cruise-high-altitudes/ (高度の上限に近づくと余裕が減る、一般向け解説)
- Wikipedia: Step climb. https://en.wikipedia.org/wiki/Step_climb (階段状の上昇)
- 日本航空管制技術交流会 ATSシンポジウム資料. https://atcaj.or.jp/wp-content/uploads/2021/11/2021_ATS_Symposium_5.pdf (指定高度と管制方式基準)
- Wikipedia: Reduced vertical separation minima. https://en.wikipedia.org/wiki/Reduced_vertical_separation_minima (RVSMと高度計の精度)
- 国土交通省 RVSM航行の許可基準及び審査要領. https://www.mlit.go.jp/notice/noticedata/pdf/201704/00005564.pdf (日本のRVSM空域の定義)
なおした ところ
更新履歴
更新履歴(改版の記録)
- 初版を公開。
このサイトでは、公開した記事の本文は原則として書き直しません。誤りが見つかったときや、内容が古くなったときだけ手を入れ、その理由をこの欄に残します。