1. ひろげた はねは、ふるえて いるの?
1. 広げた羽は、止まっているのではなかった
1. クジャクは尾羽をこすりつけて、飾り羽を平均25.6Hzで震わせる
くじゃくの オスが、メスの まえで はねを おうぎのように ひろげます。じっと して いるように 見えて、じつは ちいさく ふるえて いる ときが あります。
オスは、しっぽの はねを、ひろげた かざりばねに こすりつけます。すると はねが、1びょうに 25かいほど ぶるぶるします[2]。1かいは、1びょうの 25ぶんの 1ほどの みじかい 時間です。
この 数は、アメリカの カリフォルニア州の くじゃくを 2015ねんに はかった へいきんです。くじゃくに よって、すこしずつ ちがいます[2]。
クジャクのオスは、メスの前で飾り羽を扇のように広げます。じっと立っているように見えても、羽が小刻みに震えていることがあります。
この動きは、尾羽を飾り羽にこすりつけて起こしています。アメリカのカリフォルニア州にいる半野生のクジャクを2015年3月に測った研究では、震えは平均25.6Hz、つまり1秒に約26回でした[2]。1回あたりは、1秒の約25分の1です。
この数字は平均で、個体によって差があります。飾り羽が長いオスほど、震えがやや速かったことも報告されています[2]。羽は、共振に近い状態で震えているとされます[2]。共振とは、物が揺れやすい速さに合わせて力を加えると、大きく揺れる現象です。
広げた飾り羽は、ただ静止して見せているのではない。オスは尾羽を飾り羽にこすりつけ、羽全体を震わせる。この行動はtrain-rattlingと呼ばれ、カリフォルニア州の半野生のクジャクを2015年3月に測定した研究では、振動数は平均25.6Hzだった[2]。1秒に約26回、周期にすれば約0.04秒(1÷25.6)である。
25.6Hzは平均で、個体差がある。飾り羽の長い個体ほど、やや高い振動数で震えた。論文は、飾り羽が共振に近い状態で震えていると述べる[2]。共振とは、物体の固有の揺れやすさに近い速さで力を加えると、揺れ幅が大きくなる現象だ。尾羽をこする速さが、羽の揺れやすい速さに合っているなら、小さな力で大きな動きが得られる。ただし、測定は一つの集団・一つの季節のもので、ほかの場所のクジャクでも同じ値になるかは、この資料からは言えない。
2. めだまの もようは、どうして うごかないの?
2. 震えているのに、目玉模様はほとんど動かない
2. 目玉模様の中心は最大約1.7mm、まわりの羽枝は約9.6mm動く
ひろげた はねには、目の ような まるい もようが たくさん あります。はねが ふるえて いるなら、もようも ぶるぶる するはずです。
ところが、はかって みると ふしぎでした。目の もようの まんなかは、いちばん 動いた ときでも 1.7ミリほど。まわりの はねは、9.6ミリほど 動きました[2]。
これは 5ばいから 6ばいの ちがいです。もようは ほぼ じっと して、まわりが きらきら ゆれる ように なります。ただし、メスに これが きくのかは、これからの しらべです[2]。
3. きらきらした 色は、どこから くるの?
3. 羽の色は、色素だけでなく「構造」でつくられる
3. 羽の色は、小羽枝の皮質にある2次元フォトニック結晶(構造色)が生む
ミドリクジャクの はねでは、あおや みどりは、えのぐを ぬった ような 色では ない と いわれます。
はねの こまかい ぶぶんの なかには、とても ちいさな ぼうが きれいに ならんで います。この ぼうの あいだの ひろさが かわると、見える 色も かわります[1]。
シャボンだまの 色も、うすい まくの あつさで かわって 見えます。にた ところが ありますが、しくみは べつの ものです。
震える羽のまわりがきらめいて見えるのは、羽の色が、色のついた粉のようなものだけでできているのではないからです。
クジャクの羽は、羽枝から細かい小羽枝が出ています。その小羽枝の表面近く(皮質)には、メラニンでできた細い棒が、ケラチンというたんぱく質の中に規則正しく並んでいます。この規則的な並びが2次元のフォトニック結晶になり、光を強めあう色を決めます[1]。このような色を構造色といいます。
棒の間隔を変えると、見える色が変わります。層の数を減らすと、いくつかの色が混ざった色になります[1]。色素の働きがないとまでは言えませんが、色を決めるのは主に構造だと論文は述べています。
きらめく背景の色は、どこから来るのか。クジャクの飾り羽の色は、羽枝から出る小羽枝の皮質にある構造が生む。皮質には、メラニンの棒がケラチンの中に並んだ2次元フォトニック結晶があり、この構造が色を決める[1]。
2003年の研究は、色の違う小羽枝を比べて、棒の間隔を変えると色が変わり、層の数を減らすと混ざった色になることを示した[1]。つまり、色素で塗り分けるのではなく、同じ素材の並べ方で色を変えている。論文は、色を決める主役が皮質の周期構造だと述べている。
前の章の動きと合わせると、周辺の羽枝がよく動き、その羽枝が構造色を持つため、動くたびに見える色が変わる、という見方が成り立つ。ただし、この組み合わせがメスにどう見えるかは、この資料では扱われていない。
4. メスの あたまの はねは、ふるえに あうの?
4. メスの頭の冠羽は、オスの震えと同じ速さで揺れやすい
4. メスの冠羽は26〜28Hzで共振し、オスの震えを感じ取る可能性がある
メスの あたまにも、ちいさな はねの かんむりが あります。かんむりのような はねを「かんう」と いいます。
この かんうは、1びょうに 26〜28かいほどで、いちばん ゆれやすい ことが わかりました。オスの ふるわせる はやさと、ほとんど かさなります[3]。
はねの ねもとには、ふるえを かんじる ための ぶぶんが ある かもしれない と、かんがえられて います。ただし、ほんとうに かんじているのかは、まだ たしかめられて いません[3]。
では、この震えを、メスはどう受け取るのでしょうか。手がかりは、メスの頭にあります。
クジャクの頭には、冠羽という小さな羽の冠があります。冠羽が揺れやすい速さを調べると、26〜28Hzでした。メスの平均は28.1Hz、オスの平均は26.3Hzです。オスが羽を震わせる25〜28Hzと、ほぼ重なります[3]。
冠羽の根元には、ヘルベスト小体という感覚器をもつ糸状羽があります。羽には、飛ぶときや触れたときに、揺れを感じる働きがあります。そのため、冠羽がオスの震えを感じ取っているかもしれない、と論じられています[3]。ただし、感じ取ると実証されたわけではなく、仕組みとして合っているという段階です。
羽の震えが、メスの頭で受け止められているとしたらどうか。冠羽の共振を調べた研究では、冠羽は26〜28Hzで共振し、メスの平均は28.1Hz、オスの平均は26.3Hzだった[3]。オスの羽震わせの25〜28Hzとほぼ重なっている。
冠羽の根元にはヘルベスト小体をもつ糸状羽があり、羽は飛行や触覚で刺激を検出する振動触覚センサーとして働く、と論文は述べる。そのため、社会的な誇示行動の刺激も検出するのではないかと示唆している[3]。重なった周波数と感覚器の存在は、仮説と矛盾しない。しかし、メスの冠羽がオスの震えで実際に揺れ、それが選択に影響することまで示した結果ではなく、感じ取る可能性を論じた段階だ。
もし震えがメスに届くなら、メスの選び方に、羽の目玉の数より震えが関わっていてもおかしくない。実際の観察は、どうだったのだろう。
5. それで、メスは なにを 見て えらぶの?
5. メスは何を決め手に選ぶのか ── 研究の結果は割れている
5. メスが目玉の数・震え・視線のどれで選ぶかは、研究ごとに結果が食いちがう
メスが なにを 見て えらぶのかは、しらべた 人に よって、こたえが ちがいます。
日本の くじゃくを 7ねん 見た けんきゅうでは、ふつうの 数の ちがいでは、目の もようが おおい オスが えらばれる しょうこは ありませんでした。その けんきゅうでは、よく ふるわせる オスの せいこうが おおく 見られました[4]。
ほかの しらべでは、メスの 目の うごきを はかりました。メスは、オスの あしと、はねの 下の ほうを 長く 見ました[6]。
だから「かざりばねは いみが ない」とは いえません。いまの ところは、いろいろな ことが ためされて いる ところです。
メスは、いったい何を見て選んでいるのでしょうか。調べた研究ごとに、答えは少しずつちがいます。
日本の半野生の群れを7年間観察した研究では、メスが目玉の数や左右の対称性、羽の長さで、より立派なオスを選ぶ証拠は見つかりませんでした。成功していたのは、よく震えるオスでした[4]。研究者は、メスが羽以外の手がかりで選んでいる可能性が高いと結論しました[4]。
一方、目玉模様を一部切り取る実験をやり直した研究では、目玉を約20個減らして138個未満にしたオスは、交尾が少なくなりました[8]。ただし、自然な範囲での目玉の数の差と成功には、関係が出ませんでした[5]。メスにアイトラッカーをつけた実験(12羽)では、メスは脚と飾り羽の下側を最も長く見て、頭や広げた羽の上側はほとんど見ませんでした[6]。
初期の観察では、ある群れの10羽のオスで目玉が多いほどメスが選びました。その研究者本人も、日本の研究で同じ関係が出ていないと認めています[7]。いまの結果は、飾り羽が無意味だということではなく、一つの集団ごとの結果が割れている、ということです。
震えの速さと冠羽が合うなら、メスは何を決め手にオスを選ぶのか。実際の観察は、結果が割れている。
日本の半野生のインドクジャクを7年間観察した研究は、メスが目玉の数・左右対称性・長さで、より立派なオスを選ぶ証拠はなく、よく震えるオスが成功していたと報告した[4]。著者らは、飾り羽が普遍的なメス選びの対象とは言えず、オス間の差が小さいこと、体調を確実に映すとも言えないことを挙げ、メスは飾り羽以外の手がかりで選んでいる可能性が高いと結論した[4]。
一方、目玉模様を一部切り取る実験のやり直しでは、約20個減らして138個未満にしたオスの交尾が少なかった[8]。ただし自然な個体差の範囲では、目玉の数と成功に関係が出ず、メスはごく少ないオスを避け、他の手がかりも使う可能性がある(最大数は成鳥で約165〜170個。個数の差は羽の折れや抜けで生じる)[5]。12羽のメスにアイトラッカーをつけた実験では、メスは脚と飾り羽の下側を最も長く見て、頭や上側はほとんど見ず、羽震わせなど動きにも注意が向いた[6]。ただし近くで見た場面の結果で、目玉が無意味とは言えない。
目玉の数が多いほど選ばれるという初期の観察は、ある群れの10羽のオスについての結果で、のちに4つの繁殖場に広げられた。その研究者自身が、日本の研究で同じ関係が出ず、再現されていないと認めている[7]。色、震え、目玉の数のどれが決め手かは、研究ごとに結果が異なり、決着していない。
6. じょうぎで ふるえの はやさを 見て みよう
6. 定規で「揺れやすい速さ」を確かめる
6. 定規で、長さによる揺れやすさの違いを体験してみる
ものには、ゆれやすい はやさが あります。じょうぎで たしかめて みましょう。
つくえの はしから、プラスチックの じょうぎを 少し 出して、おさえます。出した ぶぶんの 先を はじくと、ぶるぶると ふるえて、音が します。
こんどは、出す 長さを 2ばいに して はじきます。ふるえる はやさは、どう かわりましたか。音の たかさも きいて みてください。
はじいた とき、じょうぎが ゆびに ぶつからないよう 気を つけてください。くじゃくの かんうと じょうぎは ちがう ものですが、「ものによって ゆれやすい はやさが きまっている」ことは、おなじです。
定規を使うと、「ものには揺れやすい速さがある」ことを体験できます。
机の端から、プラスチックの定規を少し出して、手でしっかり押さえます。出ている部分の先をはじくと、ぶるぶる震えて音が出ます。次に、出す長さを変えてはじいてみてください。長いほどゆっくり、短いほどすばやく震えるのが、目と耳で分かります。
はじいたとき、定規が指に当たらないよう気をつけてください。クジャクの冠羽と定規は別のものですが、長さや形によって揺れやすい速さが決まるという点は同じです。
英語の論文を読みたい人向けの補足です。日本語では、オスの震えにメスの冠羽が反応することを紹介したナゾロジーの記事[9]があり、その元の論文は[2][3]です。
共振の感覚は、定規で体験できる。机の端から定規を出して押さえ、先をはじく。出す長さを変えると、震える速さと音の高さが変わる。長いほど遅く、短いほど速い。定規で体験できるのは、長さによる揺れやすさの違いだ。冠羽の26〜28Hzは、別の方法で測った値である[3]。定規と羽は材質も構造も異なるので、体験は考え方の類推にとどまる。はじくときは、定規が指に当たらないように注意すること。
資料としては、羽の震えと目玉の変位は出典[2]、冠羽の共振は出典[3]、メスの選び方の観察と実験は出典[4]〜[7]、構造色は出典[1]が一次または報告にあたる。英語の論文だが、図や表の数字は、本文の数字の確かめに使える。日本語では、ナゾロジーの紹介記事がある[9]。
決め手が何かは、研究ごとに結果が割れたままだ。目玉の数なのか、震えなのか、羽の動きや色なのか。どれか一つでなく、複数が組み合わさる可能性も残る。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
出典について:論文・大学の解説・報道を使った。何に使ったかは、それぞれの項目の最後に書いている。
- Zi et al. 2003, PNAS "Coloration strategies in peacock feathers". https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC240659 (羽の色を決める構造について)
- Dakin et al. 2016, PLoS ONE "Biomechanics of the peacock's display". https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4847759 (羽震わせの振動数と、目玉模様の動きについて)
- Kane, Van Beveren, Dakin 2018, PLoS ONE "Biomechanics of the peafowl's crest". https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6261573/ (冠羽の共振について)
- 総合研究大学院大学 学術情報リポジトリ Takahashi et al. 2008. https://ir.soken.ac.jp/records/3817 (日本の半野生の群れでの7年間の観察について)
- ScienceDaily "Dakin & Montgomerie 2011" の紹介記事。https://www.sciencedaily.com/releases/2011/04/110427131926.htm (目玉模様を減らす実験のやり直しについて。報道)
- パデュー大学 生物科学科の解説(Yorzinski et al. 2013 の紹介)。https://www.bio.purdue.edu/news/articles/2014/my-eyespots-are-up-here-expert-says-peacocks-legs-lower-feathers-and-dance-attract-most-attention-during-courtship.html (メスの視線の実験について。大学の解説)
- Reflections on Papers Past "Petrie interview". https://reflectionsonpaperspast.com/?p=103 (初期の観察と、再現されていない点について。インタビュー)
- Dakin & Montgomerie 2011, Animal Behaviour "Peahens prefer peacocks displaying more eyespots, but rarely". https://doi.org/10.1016/j.anbehav.2011.03.016 (目玉模様を減らす実験の原論文)
- ナゾロジー「クジャクの求愛の振動」。https://nazology.kusuguru.co.jp/archives/13603 (日本語で読める紹介記事。報道)
なおした ところ
更新履歴
更新履歴(改版の記録)
- 初版を公開。
- 中学生向けの題名を、日常の疑問が先に来る形に見直した。
このサイトでは、公開した記事の本文は原則として書き直しません。誤りが見つかったときや、内容が古くなったときだけ手を入れ、その理由をこの欄に残します。