1. けんかの ときに、めだつ 色に?
1. 目立たない緑が、争いの場で黄色になる
1. パンサーカメレオンの縄張り争い ── 目立つ色への変化
パンサーカメレオンの オスは、ふだんは みどり色で、あまり めだちません。ところが、なわばりを あらそう ときには、黄色や だいだい色に かわります。あかい ところは あかるく、青い ところは 白っぽく なります[3]。
この かわり かたは、数分の うちに おきて、また もとに もどります[3]。
かくれる ための 色なら、めだつ 色には ならないはずです。では、なんの ための 色なのでしょう。
ふだんは緑、争いでは黄色
パンサーカメレオンのオスは、ふだんは緑色で目立ちません。ところが、縄張りをめぐって争うときには、黄色やだいだい色に変わります。体の赤い部分は明るくなり、青い部分は白っぽくなると説明されています[3]。
この変化は数分以内に起こり、もとに戻ります[3]。隠れるための色変化なら、わざわざ目立つ色になるのは不思議です。この疑問が、この記事の出発点です。
パンサーカメレオン(Furcifer pardalis)のオスは、通常は緑色で目立たないが、縄張り争いの場面では黄色や橙色に変わる。赤い斑は明るくなり、青は白っぽい色調に退色すると解説されている[3]。変化は数分以内に起こり、可逆的である。
隠蔽が目的なら、目立つ方向への変化は説明しにくい。以下では、色変化の仕組みと目的を分けて見る。
2. ぬりかえて いる わけでは ない?
2. 「色素が広がったり縮んだり」説の限界
2. 従来の色素説と、それでは説明しにくい点
色を かえる と 聞くと、えのぐを ぬりかえる ところを 思いうかべませんか。むかしは、はだの 中の 色の つぶが 広がったり ちぢんだり して かわる、と 考えられて いました[2]。
ところが 2015年の ろんぶんは、それだけでは せつめいしにくい、と のべました[1]。ただし、色の つぶが まったく かんけい ない、という 意味では ありません。
3. 小さな けっしょうの、すきまが かわる
3. 皮膚の中の結晶の間隔が変わる
3. グアニンのナノ結晶の格子間隔と反射光(2015)
2015年、スイスの ジュネーブ大学の 研究チームが、パンサーカメレオンの 色の かわり かたを 発表しました[1]。はだの おもての ちかくに、とても 小さな けっしょうが ならんで いる 細ぼうが あります。
この けっしょうの あいだの きょりが かわると、はね返る 光の 色が かわる、と いう 話です。シャボン玉や CDが にじ色に 見えるのと、にた しくみです。ただし、しくみは 同じでは ありません。
休んで いる ときの けっしょうの あいだは、こうふん した ときより、へいきんで 三わりほど せまく なって います[1]。
もとに もどるのも 数分ほどで、色は かんぜんに もとへ もどります[1]。
虹色素胞の中の結晶
皮膚の表面近くには、虹色素胞という細胞があり、その中にはグアニンという物質のナノ結晶が規則正しく並んでいます。ナノは10億分の1のことで、ナノ結晶は目に見えないほど小さな結晶です。2015年、ジュネーブ大学の研究チームは、パンサーカメレオンの色の変化は、この結晶の並びの間隔を変えることで起こる、と報告しました[1]。
間隔が広がると長い波長へ
光は波の性質をもち、色によって波の長さが違います。結晶の間隔が変わると、強く反射される光の波長がずれます。間隔が広がると、黄色から赤のほうの長い波長がよく反射されます。休んでいるときの皮膚では、興奮したときの皮膚より、結晶どうしの距離が平均で約30%短いと報告されています[1]。
結晶の間隔の広がり方と縮み方だけで、生きているカメレオンで見られる色の行き来は説明できる、と論文は結論しています。変化は数分ほどで、完全に元に戻ります[1]。シャボン玉やCDの虹色と同じ「構造色」の仲間ですが、しくみの細部は同じではありません。
Teyssierらは2015年、パンサーカメレオンの体色変化が、皮膚表層の厚い層にある虹色素胞(iridophore)内の、グアニンのナノ結晶が作る格子の間隔を能動的に調整することで起こると報告した[1]。
休息状態(緑・青系)の皮膚では、結晶間の距離が、興奮状態(黄・橙・白っぽい色)の皮膚に比べ平均で約30%小さい[1]。格子間隔が広がると、反射光は長波長側(黄〜赤)へずれる。論文は、この格子の拡大・縮小だけで、生体で観察される可逆的な色の変化を説明できると結論した[1]。色変化は数分ほどで、完全に元に戻る。
これは色素の移動だけではなく、微細構造による光の反射も関わる構造色である。ただし、間隔をどう変えるかの機構は本稿では扱わず、また、この結果はパンサーカメレオンでの研究であり、全種に同じ仕組みが当てはまるかは未確認である。
4. あつさに よわい からだを まもる?
4. 色を変える層と、熱をためにくい層
4. 表層と深層の虹色素胞 ── 熱との関わり
けっしょうが ならぶ ところは、一つでは ありません。おもての 近くで 色を かえる ところの 下に、もう 一つ、ふかい ところが あると 考えられて います[3]。
この ふかい ところの けっしょうは、もっと 大きくて、目には 見えない 光の 一つを はね返します。あつく なりにくく する はたらきが ある、と 考えられて います[3]。
2008年の 研究では、ドワーフカメレオンは、体温を ととのえる ときなどに、明るさを 大きく かえられる、と いわれます[4]。
5. だれかに、つたえる ための 色
5. 2008年の研究 ── 「合図」のために進化した?
5. ドワーフカメレオン21系統の比較と合図仮説(2008)
2008年、南アフリカに すむ ドワーフカメレオン 21の なかまを しらべた 研究が ありました[4]。すると、まわりの 色が ちがう ほど 色を かえる、と いう わけでは ありませんでした[5]。
むしろ、おどす、けっこん あいてに さそいの 合図を する、といった 目立つ 合図を する なかまほど、色を かえる ちからが 大きかった、と 研究者たちは 考えました[4]。
これは ドワーフカメレオンの 話です。ほかの カメレオンにも すべて あてはまる とは、いえません。
6. まわりに あわせる 色も、あった
6. 2025年 ── 背景に合わせる力も確かめられた
6. 2025年のフラップネックカメレオン実験 ── 背景合わせの部分的な確認
では、まわりに あわせる 力は、ぜんぜん ないのでしょうか。2025年の 研究は、フラップネックカメレオンを、色や もようの ちがう はいけい(うしろの けしき)に おいて しらべました[6]。
くろい はいけいでは 明るさを 合わせ、黄色など 一部の 色にも 合わせる ことが できました。でも、はいけいの もようまでは まねしませんでした[6]。
色を かえる はたらきは、合図、体温、まわりに 合わせる、と いくつも あるようです。どれが おもなのかは、しゅるいや ばめんで ちがう、と 考えられて います。
条件をそろえた実験
2025年、Biology Lettersに報告された研究は、フラップネックカメレオンを、色や模様の違う背景に置いて調べました。カメレオンは背景に合わせて色を変えるという印象は広く知られていますが、実は、条件を整えた実験で確かめた例はまだ少なかった、と論文は書いています[6]。
合わせるものと、合わせないもの
黒い背景では明るさを調整し、黄色などの一部の色にも合わせられました。ただし、背景の模様は再現しませんでした[6]。この研究では、背景に合わせる能力も、社会的合図や体温の調節と並ぶ働きの一つとして位置づけられています。
「隠れるための色ではない」と言い切ることはできません。種によって差があると考えられています。
7. じぶんでも しらべて みよう
7. 自分でも調べてみたくなったら
7. 自分でも調べてみたくなったら
きょう できる こと
CDを、まどの 近くで かたむけて、見る 角度で 色が かわるのを 見て みましょう。にじ色の もようが うごくのを 見る だけで だいじょうぶです。CDが なければ、ここは とばして かまいません。
家に 図かんが あれば、カメレオンの ページを ひらき、色が かわる 場面の 写真が あれば、なにを して いるところか、まわりの ようすも 見て みましょう。
今日できること
CDの表面を、窓の近くで傾けながら、見る角度によって色が変わるようすを観察してみましょう。結晶の間隔で色が変わるカメレオンとは仕組みが同じではありませんが、光の反射で色が見えることの入口になります。
日本語の図鑑や、手元にある映像資料で、カメレオンが色を変える場面を探し、その直前に何があったか(相手が近づいた、日が当たったなど)を見てみるのも面白い調べ方です。
もっと知りたいとき
図書室や家にある日本語の図鑑で、カメレオンの色の説明を読み比べると、どこまで分かっているかが見えてきます。
今日できること
カメレオンの体色変化の映像や図鑑の写真から、変化の直前に何が起きていたか(他個体の接近、日射など)を観察し、合図・体温・背景合わせのどれに近いか、自分で仮説を立てる。
資料を読むなら
Teyssierらの論文(Nature Communications, 2015)は本文が公開されている。結晶の間隔の測定方法と、結論の範囲を確認できる。Stuart-FoxとMoussalliの論文(PLOS Biology, 2008)と、2025年のBiology Lettersの研究は、結論の違いを見比べるとよい。いずれも英語の資料である。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
論文は要旨や解説をもとに内容を確認した。数値は論文の記述にそろえている。
- Teyssier et al. 2015, Nature Communications (パンサーカメレオンの構造色の調整) https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4366488/ (結晶格子の間隔と色変化)
- AFPBB News(2015年3月)「カメレオンの体色変化の仕組み」 https://www.afpbb.com/articles/-/3042151 (従来の色素説の説明)
- The Scientist (2015) How Chameleons Change Colors https://www.the-scientist.com/how-chameleons-change-colors-35803 (縄張り争いの色変化と深い層)
- Stuart-Fox & Moussalli 2008, PLOS Biology https://journals.plos.org/plosbiology/article?id=10.1371%2Fjournal.pbio.0060025 (ドワーフカメレオン21系統と社会的合図)
- ScienceDaily (2008年1月) https://www.sciencedaily.com/releases/2008/01/080129125524.htm (2008年研究の解説)
- Flap-necked chameleons change colour to match their background, Biology Letters 2025 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40765271/ (背景合わせの実験)
なおした ところ
更新履歴
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