1. きえた じは、どこへ いったの?
1. 消えた字のインキは、紙に残っている
1. 「消す」のではなく「無色にする」インキ
ふつうの えんぴつは、けしごむで こすると、じが けずれて、けしカスが でます。
こすると きえる ボールペンは、ちがいます。けしカスは でません。じの いろが、すうっと 見えなく なるのです[1]。
ペンの インクが、かみから とれた わけでは ありません。とうめいに なって、そこに のこって いる、と いう ことです。では、いろは、どうやって きえるのでしょう。
2. けしごむで こすっても、きえないのは、なぜ?
2. ふつうの消しゴムでは消えない理由
2. 60℃という条件と、専用ラバー
この ペンの おしりには、ゴムの ような ぶぶんが ついて います。これで こすると、じが きえます[1]。
こすると、ゴムと かみの あいだで ねつが でます。この ねつが 60ど いじょうに なると、いろが きえはじめます[3]。
ふつうの けしごむでは、この ねつが、たりないと、パイロットの こども むけの ページは せつめいして います[3]。
60どは、おふろの おゆより あつい おんどです。
では、その ねつで、インクの なかでは、なにが おきて いるのでしょう。
3. ねつで、いろが きえる ひみつは?
3. 熱でインキの中の成分が組み替わる
3. マイクロカプセルの中の3成分
ペンの インクは、とても ちいさな カプセルに はいって います。カプセルの なかには、3つの ざいりょうが あります[1]。
ふだんは、「いろの もと」と「いろを だす もの」が くっついて います。だから、いろが 見えます。
ねつが くわわると、「いろを けす もの」が はたらきます。「いろを だす もの」が、そちらへ いって しまうので、いろの もとだけが のこり、いろが 見えなく なります[2]。
あつまって いた ともだちが、ほかの ともだちに よばれて はなれて いく ような ものです。ただし ほんとうは、ざいりょうの はなしなので、ともだちの ように 気もちは ありません。
このインキの色の素は、目に見えないほど小さなカプセル(マイクロカプセル)に入っています。中には3種類の成分があります[1]。
字を書いたときは、「色のもと」と、それを発色させる成分が結びついていて、色が見えています。ここへ60℃以上になると、色を消す成分が働き、発色させる成分と結びつきます。すると、色のもとは1つだけになり、色が見えなくなります[2]。
温度によって、成分の組み合わせが入れ替わります。この入れ替わりは、温度が下がると逆向きにも起こります。
その話は、次の章で取りあげます。
インキはマイクロカプセルに封入され、内部には3種類の成分が含まれる[1]。PILOTの解説によると、書いた状態では、色のもとになる成分と発色させる成分が結合して色が見える。60℃以上の熱が加わると、「消す成分」が活性化して発色させる成分と結合し、色のもと単独の状態になって色が見えなくなる[2]。
これらは、化学の分野ではロイコ染料・顕色剤・変色温度調整剤と呼ばれるタイプの成分として説明されることがある。ただし、成分名の対応は本記事で確かめた資料の範囲では、PILOTの解説ページに直接書かれていたものではない。
この結合の組み替えは、温度の下がる方向にも起こる。では、消えた色は、冷やすとどうなるのか。
4. れいとうこに いれると、じが もどるって ほんとう?
4. 冷やすと、消えた字が戻ることがある
4. 可逆性 ── −20℃前後で色が戻る条件
ねつで きえた いろは、ひやす と もどります。おおよそ、マイナス10ど いかで もどりはじめ、マイナス20ど ぐらいで、すっかり もどると いわれます[3]。
いえの れいとうこでも、ひやしかた しだいで もどる ことが あります。パイロットは、ねつで きえて しまった とき、れいとうしつに ひとばん いじょう いれて、おへやの おんどに 2〜3じかん おく ほうほうを あんない して います[4]。
ただし、かならず もどる わけでは ありません。とても たかい ねつや、つよい 日の ひかりで、インクが こわれて しまうと、もどりません[4]。
大事な ものを つかう ときは、この ほうほうに たよらない ように しましょう。
熱で消えた色は、冷やすと戻ります。パイロットの解説では、およそ−10℃以下で色が戻り始め、−20℃前後で完全に戻るとされています[3]。家庭用の冷凍庫でも、冷え方によっては戻ることがあります。
実際、熱で消えてしまった字については、冷凍室に一晩以上入れ、取り出して室温で2〜3時間おいてから、試し書きで確かめる方法が公式FAQに載っています[4]。
ただし、確実ではありません。極端な高温や強い紫外線でインキそのものが壊れたときは、戻りません。また、専用ラバーでこすって消した字は、完全には戻らない、という但し書きもあります[4]。
戻ることがある、という性質は、便利さと同時に、使い方の注意にもつながります。
この色の変化は、温度によって逆向きにも進む。PILOTの資料によれば、60℃以上で消え始めて65℃で無色となり、−10℃以下で色が戻り始めて、−20℃前後で完全に戻る[3]。家庭用の冷凍庫でも、冷え方によっては消えた字が戻ることがある。
FAQは、高温にさらされて意図せず消えた場合の手当てとして、冷凍室に一晩以上入れ、室温に2〜3時間置いてから試し書きする手順を示す[4]。ただし、確実ではない。極端な高温や強い紫外線でインキ自体が壊れた場合は戻らない。また、専用ラバーで擦って消した筆跡は、完全には戻らないという但し書きがFAQにある[4]。
消えても、インキそのものは紙の上に残っている。だから戻ることがある、という説明になる。
5. だれが、こんな インクを かんがえたの?
5. 紅葉を見た研究者の、1970年の思いつき
5. 1970年の着想 ── メタモカラー誕生まで
1970ねんの あき、パイロットの けんきゅうしゃが、もみじを 見て おもいました。「ひとばんで いろが かわる もみじの ような ことを、しけんかんの なかで、できないか」と[5]。
やく1ねん あとに、おんどで いろが かわる もとに なる しくみが 見つかりました。1972ねんには とっきょを だしました[5]。
この インクは 「メタモカラー」と なまえが つきました。「へんしん」と いう いみの ことばが もとに なって います[5]。
でも、この インクで できたのは、ボールペンでは ありませんでした。
始まりは1970年の秋でした。パイロットの研究者が紅葉を見て、「一夜のうちに色が変わる紅葉のような変化を、試験管の中でできないだろうか」と考えた、と開発ストーリーは伝えています[5]。
約1年後に、温度で色が変わる基本の原理が見つかり、1972年に特許が出されました。インキは「メタモカラー」と名づけられます。「変身」という意味の言葉に由来するそうです[5]。
ここで気になるのは、筆記具としてのフリクションが世に出たのは、それから30年以上あとだ、という点です。なぜ、そんなに時間がかかったのでしょうか。
開発ストーリーによると、温度で色が変わるインキの出発点は、1970年秋、パイロットの研究者が紅葉を見て、一夜で色が変わるような変化を試験管の中で再現したいと考えたことにある[5]。約1年後に基本原理が見つかり、1972年に特許が出願された。名称は、変態を意味する語に由来するメタモカラーとされた[5]。
なお、時期の書き方は資料によって揺れる。PILOTのFAQなど別の資料には、基本原理の開発・発見を「1975年」とする記載もあり、着想・特許出願・完成の時期は分けて考える必要がある。本記事では、開発ストーリーに沿って1970年着想、1972年特許出願と書く。
着想からフリクションボールの発売(2006年に欧州、2007年に日本)までは、30年以上ある[8]。では、その間の何が障害だったのか。
6. どうして、すぐに ペンに ならなかったの?
6. ペン先に入れるには、カプセルが大きすぎた
6. カプセルが大きく、ペン先を通らなかった
メタモカラーは、さいしょ、いろが かわる コップや おもちゃに つかわれました[5]。
ボールペンに できなかった わけは、カプセルの おおきさです。ボールペンの ペンさきは とても せまいので、カプセルは ペンさきを とおる おおきさに しなければ なりません。1マイクロメートルは、1ミリの 1000ぶんの 1です。
ところが、その ころの カプセルは、10〜15マイクロメートルも ありました[5]。ペンさきを とおる おおきさまで、ちいさく する ひつようが ありました。
ちいさくすると、カプセルの まくは うすくなり、やぶれやすく なって しまいます。2001ねんに、2〜3マイクロメートルまで ちいさくできました。2002ねんには、ねつで いろが かわる ペンの しさくが できました[5]。
メタモカラーは、はじめは色が変わるコップや玩具などに使われました[5]。ボールペンに使えなかった理由は、色素の入ったカプセルの大きさにあったと説明されています。
当時のカプセルは10〜15マイクロメートル(1マイクロメートルは1ミリの1000分の1)あり、ペン先を通る大きさまで小さくする必要がありました。ところが、カプセルは小さくするほど膜が薄くなり、破れやすくなります[5]。
2001年に2〜3マイクロメートルまで小さくでき、2002年に、摩擦熱で色を変える試作のペンが完成しました[5]。
試作はできました。それでも、まだ「消せるボールペン」にはなっていません。その先を開いたのは、意外なひとことでした。
7. 「けす」から「とうめいにする」へ、なにが かわったの?
7. 「消す」から「透明にする」へ ── ヨーロッパからの一言が道を開いた
7. 発想の転換と温度幅の拡大 ── 2002〜2007年
2002ねん、ヨーロッパの ひとが、こんな ことを いったと つたえられて います。「いろを とうめいに できるなら、じを けせると いう ことだ」[6]。
フランスでは、まんねんひつを つかう ならわしが あり、かきまちがえると、すくなくとも 3ぼんの ペンが いると いわれました[6]。
つぎの もんだいは、ねつの はば でした。むかしの インクは、ふつうの くらしの なかでも いろが かわって しまう ものでした。2004ねんに、マイナス20ど から 65ど まで、85どの はばに ひろげる ことが できました[6]。
そして 2006ねんに ヨーロッパで、2007ねんに にほんで、フリクションボールが うりだされました[8]。
転機は2002年でした。ヨーロッパのマーケティング担当者が、「色を透明にできるなら、それは筆跡を消せるということだ」と指摘したと、開発ストーリーは伝えています[6]。色が変わることに使い道を探していた開発者に、「消す」という別の見方が届いた場面です。
ヨーロッパでは書き間違えたときの悩みがありました。フランスの学校では万年筆を使う習慣があり、書き間違えると、少なくとも3本のペンが必要だった、と説明されています[6]。
もう1つの課題は、温度の幅でした。生活の中でうっかり色が消えないよう、しかも子どもでも摩擦熱で楽に消せるよう、2004年に温度の幅を−20〜65℃の85℃に広げることに成功しました[6]。その後、2006年1月にヨーロッパで先行発売され、日本ではおよそ1年後の2007年に発売されました[8]。
2002年、ヨーロッパのマーケティング担当者が「色を透明にできるなら、筆跡を消せるということだ」と指摘したことが、消せるボールペンの起点になったと開発ストーリーは伝える[6]。色が変わる現象を、「色の変化」ではなく「筆跡が消える」という機能の側から見直した点に、発想の転換がある。背景として、フランスには万年筆を使う習慣があり、書き間違えの修正に少なくとも3本のペンを要した、とされる。
次の課題は、温度領域の設計だった。日常で意図せず消えず、しかも摩擦熱で簡単に消せるためには、消色温度と復色温度の間を広く取る必要がある。温度幅は85℃(−20〜65℃)まで広げられた。これにより条件が満たされたとされる[6]。時期は、開発ストーリーでは2004年の出来事として語られる。なお、開発の過程で1000種類以上の化合物が作られたという記述は二次資料のみで確認できるため、ここでは採らない。
フリクションボールは2006年1月に欧州で先行発売され、日本では約1年後の2007年に発売された[8]。着想から数えて、およそ36年かかったことになる。
8. だいじな ものに つかって、だいじょうぶ?
8. 消えてはいけない書類には、どうする?
8. 熱で消えるという弱点と、その現在の対策
ねつで きえる ということは、あつい ところでも きえて しまう、と いう ことです。ちょくしゃ 日こうや、ねつを だす きかいの ちかく、あつい のみものの ちかくでは、60どを こえる ことが あります[7]。
だから パイロットは、しょうしょや あてなの ように、きえては こまる ものには、つかわない よう ちゅういして います[7]。
ねつが 60どを こえない ところに しまえば、ほかの インクと おなじくらい、ながく もつそうです。ただし、しがいせんでは、ほかの インクと おなじで、すこしずつ うすく なります[9]。
2026ねん3がつには、けせる インクと、けせない インクを 1ぽんに いれた ペンが うりだされました[10]。
熱で消えるということは、暑い場所でも消えることがある、ということです。パイロットは、意図せず消えたときは、直射日光や熱を出す機器、熱い飲み物の近くなどで、60℃以上になった可能性がある、と説明しています。また、証書類や宛名書きなど、消えては困るものには使わないよう注意しています[7]。
60℃を超えない場所で保管すれば、ほかの染料系ゲルインキと同じ程度の長期保存はできるそうです。ただし、紫外線では、ほかのインキと同じように少しずつ薄くなります[9]。
消せるインキは書き直しに便利ですが、熱で消えるため、消えてはいけない書類には使えません。この性質を使い分ける工夫の1つが、2026年3月に発売された「フリクションボールスイッチ」です。消せるインキと、消えない油性インキが1本に入っていて、公文書や宛名書きにも使い分けられます[10]。
色の消える原理が熱である以上、熱で意図せず消える可能性は避けられない。PILOTのFAQは、意図せず消えた場合、直射日光・熱を出す機器・熱い飲み物などの近くで60℃以上になった可能性があるとし、証書類や宛名など消えてはいけない用途には使わないよう注意している[7]。60℃を超えないように保存すれば、他の染料系ゲルインキと同程度の長期保存が可能だが、紫外線では徐々に薄くなる[9]。
弱点を、用途の使い分けで補う製品も出ている。2026年3月発売の「フリクションボールスイッチ」は、消せるフリクションインキと消えない油性インキを1本に載せ、公文書や宛名書きにも使い分けられるとされる[10]。PILOTは、シリーズの世界累計販売が2006年の欧州先行発売から20年で50億本に達したと発表している[10]。
消えるインキは、使える場面と使えない場面がある道具として広まった、ともいえる。
自分でも しらべて みたく なったら
自分でも調べてみたくなったら
自分でも調べてみたくなったら
今日できること
おうちに ある こすると きえる ペンで、かみの すみに、じを かいて みましょう。おしりの ゴムで こすって、けしカスが でない ことを 見て みます。こすった あとの ゴムと かみは、すこし あたたかく なって います。
だいじな ものには かかない ように します。
出かけてできること
ぶんぼうぐ うりばで、ペンの パッケージを 見て みましょう。「60ど」など、おんどの ことが かいて あるかも しれません。
こうしきの 情報
パイロットの ホームページには、ペンの ひみつや、つくった ひとの おはなしが のって います。
今日できること
家にある「こすると消えるペン」で、いらない紙の端に字を書き、ペンの端のラバーでこすってみます。消しカスが出ないこと、こすった場所が少し温かくなることを確かめてみてください。大事な書類や宛名には使わないようにします。
出かけてできること
文具店で、消せるペンの種類や、パッケージの注意書きを見比べてみます。温度に関する説明があるか、探してみるのもよさそうです。
公式情報
パイロットのホームページには、「よくあるご質問」と、開発の話を読める記事があります。この記事の数字の元になっているので、読み比べてみてください。
今日できること
手元の消せるペンで、不要な紙の端に書いて専用ラバーで擦り、消しカスが出ないことを確かめる。あわせて、消せるペンと普通のペンで紙に書いた線の見え方を比べ、専用ラバーでこすった場所に手を近づけて温かさも確かめる。証書類や宛名などには使わない。
出かけてできること
文具店で、フリクションシリーズの種類と、パッケージの温度に関する注意書きを確認する。
公式情報
PILOTの「よくあるご質問」と開発ストーリー(前編・後編)を、出典の一覧から読める。数字の元は、この一覧の資料にある。読み比べてみるとよい。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
今回は、PILOTの公式ページ(よくあるご質問・解説記事・開発ストーリー・プレスリリース)を、インキの仕組み・開発の経緯・使う際の注意に分けて参照した。
- PILOT「フリクションとは何ですか?」 https://www.pilot.co.jp/support/frixion/frixion_1.html (インキの仕組み・消色温度)
- PILOT かく、がスキ「色が消えるのはなぜ?」 https://www.pilot.co.jp/media/knowledge/002.html (成分の組み替えの説明)
- PILOT museum「消せるボールペンの色が消えるのはなぜ?」 https://www.pilot.co.jp/promotion/museum/ball-pen/trivia_03.html (温度の範囲・消しゴムで消えない理由)
- PILOT よくあるご質問「高温下に放置…もとに戻す方法は?」 https://www.pilot.co.jp/support/frixion/1334578774407.html (冷凍室で戻す方法と注意)
- PILOT かく、を読む 開発ストーリー前編 https://www.pilot.co.jp/media/story/013.html (1970年の着想・カプセルの大きさ)
- PILOT かく、を読む 開発ストーリー後編 https://www.pilot.co.jp/media/story/014.html (発想の転換・温度幅の拡大)
- PILOT よくあるご質問「自然に消えることはありますか?」 https://www.pilot.co.jp/support/frixion/1297051945965.html (意図せず消える場合と使い方の注意)
- PILOT プロジェクトストーリー https://pilot.co.jp/employment/project/index.html (発売の時期)
- PILOT よくあるご質問「長期保存可能ですか?」 https://www.pilot.co.jp/support/frixion/1297051945910.html (保存の温度と紫外線)
- PILOT プレスリリース(2026年2月10日) https://www.pilot.co.jp/press_release/2026/02/10/content_19.html (累計販売数・フリクションボールスイッチ)
なおした ところ
更新履歴
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