1. どうして 電池を ぜんぶ つかわないの?
1. スマホは使い切るのに、電気自動車はなぜ「ゆとり」を残すのか
1. 使用範囲の制限 ── 充電85%・放電25%で、使えるのは約60%
電池の せつめいで 有名な サイトに、こんな れいが のっています。電気で 走る 車は、電池を まんたんまで ためず、からっぽにも しない、と。
ためるのは 85パーセントまで。つかうのは 25パーセントが のこるまで。その あいだの 60パーセントだけを つかいます[1]。
たとえば、コップに 水を ふちまで 入れると、はこぶとき こぼれやすいですね。電池も、いっぱいや からっぽの ところが、いちばん つかれる といわれます。ただし これは「ふつうの れい」で、ほんとうの 車の 数字は、車ごとに ちがいます。
では、電池は 何が いちばん にがてなのでしょう。
使う範囲を、あえて狭くする
電池の解説で知られるBattery Universityには、次のような例が書かれています。スマホなどは電池の広い範囲を使いますが、電気自動車のような産業機器は、充電を85%まで、放電を25%までに制限するのが典型的だというのです。使えるのは、85−25で約60%です[1]。
100の電池なら、40は使わずに残す計算です。それでも使えるのは、電池が長持ちするからだと説明されています。同じ資料には、1つのセルの充電電圧を0.10V下げるごとに、充電と放電をくり返せる回数が約2倍になるといわれる、という目安も出ています。ただし、そのぶん一度に使える量は減ります[1]。
これは「例」であって、実際の車の数字ではない
85%と25%は、あくまで典型的な例です。車ごとに実際にどこからどこまで使っているかは、公開されていないことが多く、この記事では示せません。それでも、「電池の性能いっぱいを使わない」という考え方そのものは、電気自動車の守り方の出発点になります。
では、電池は何がいちばん苦手なのでしょうか。
Battery Universityのまとめによれば、スマホは電池の広い範囲を使うのに対し、電気自動車のような産業機器は、典型的には充電を85%まで、放電を25%までに制限して、利用できる量を約60%(85−25)にとどめ、寿命を延ばす[1]。100の電池なら、40は使わずに残す計算だ。
この資料は、1セルの充電電圧を0.10V下げるごとにサイクル寿命が約2倍になるともいわれる、と述べる。ただし、電圧を下げれば取り出せる容量は減る[1]。つまり、寿命と、一度に使える量が、引き換えの関係にある。この「約2倍」は目安にとどまり、電池の種類や条件で変わる点に注意したい。
数字の感じをつかむため、仮に容量100の電池を考える。85%まで充電して25%まで使うなら、取り出せるのは60で、残りの40は予備として電池に残る。「もったいない」のではなく、電池の端の状態を避けるための余白だ。なお、これは考え方を確かめるための仮の計算で、実在の車の数字ではない。
限界も確かめておく。85%・25%は「典型例」で、個々の車種の実際の範囲ではない。車種ごとの使用範囲は非公開のことが多く、この記事では数字を示さない。では、寿命を縮めるものは具体的に何か。次の章では、温度に注目する。
2. 電池が いちばん にがてな ものは なに?
2. 電池が苦手なのは「熱」── 25℃と40℃で、1年後にどれだけ差が出るか
2. 高温と容量低下 ── 満充電で1年保管した場合の25℃と40℃の比較
電池の にがてなものは、あつさです。さっきの サイトに、ひとつの れいが あります。まんたんに した 電池を 1年 おいて おくと、どれだけ ようりょうが へるか、という れいです[1]。
25どで おくと、1年あとに やく 80パーセント。40どで おくと、やく 65パーセントでした。15パーセントも ちがいます。
なつの 車の 中は、とても あつく なりますね。だから 電池は、あつく ならない ように まもる ひつようが あります。ただし この れいは、おいて おいた 電池の はなしで、走って いる 車の へりかたでは ありません。
あつく ならないように、車の 中では だれが 見はって いるのでしょう。
1年置いただけで、15ポイントの差
Battery Universityには、満充電のまま1年保管したときの容量の例があります。25℃で約80%、40℃で約65%です。高い温度は、永久に失われる容量の減りを早める、と説明されています[1]。
差を計算してみます。25℃では100−80で20%、40℃では100−65で35%が失われた計算です。この保管例では、1年後に失われた容量は、40℃のほうが25℃の約1.75倍(35÷20)でした。たった15℃の差でも、1年たつと、この例では大きく開きました。
ただし、これは電池を保管したときの例です。走っている電気自動車で、実際にどれだけ減るかを示す数字ではありません。熱が電池の寿命に関わる、という方向を教えてくれる例として読むのがよさそうです。
熱が大敵だとすると、電池パックの中は、だれかが常に見張っていなければなりません。
Battery Universityは、高温は永久的な容量低下を早めるとして、満充電で1年保管した場合の例を挙げる。25℃では約80%、40℃では約65%の容量が残る[1]。失われた量は20%と35%で、35÷20=1.75から、この保管例では、1年後に失われた容量は40℃のほうが25℃の約1.75倍だった。
この例には条件がある。保管時の値で、走行中のEVの劣化率ではない。電池の種類や満充電という条件でも変わるはずで、一般の車に当てはめることはできない。ただ、前章の「満充電や空に近づけない」考え方と、この章の「高温を避ける」考え方は、どちらも電池を無理な状態にしない、という点でつながっている。
では、電池パックの中では、その「無理な状態」を、だれがどう検知しているのか。
3. 何百この 電池を、だれが 見はっているの?
3. 電池パックの中の「見張り役」は、何を測っているのか
3. 電圧・電流・温度の多重監視 ── セル監視回路、シャント電流センサー、セルバランス
車の 電池は、小さな 電池が たくさん あつまって できて います。この 小さな 電池を「セル」と いいます。
この セルを 見はる 回路が あります。トヨタの bZ4Xでは、電池の 電あつ、電流、ねつを 何じゅうにも 見て、あつく なりそうな ようすを 見つけると、せつめいされて います[2]。
デンソーは、この ために「セルを 見はる 回路」と「電流を はかる 部品」を つくりました。電流を はかる 部品は、はかりまちがいを 前の 半ぶんに へらした そうです[3]。
見はりには、もう ひとつ しごとが あります。セルごとに たまって いる 電気の 多さが ちがうと、そろえます[4]。ただし これは メーカーの せつめいで、すべての 車が 同じ という ことでは ありません。
さて、あつく なりかけたら、どうするのでしょうか。
電圧、電流、温度を同時に測る
電池パックは、小さなセルがたくさん集まってできています。電池管理回路(BMS)は、各セルの電圧と温度などを同時に測り、充電しすぎや使いすぎ(過充電・過放電)を防ぎます[4]。トヨタのbZ4Xでは、電池の電圧・電流・温度を多重に監視して、異常な発熱の兆候を見つけ、過熱を防ぐと説明されています[2]。
デンソーはbZ4X向けに、電圧と温度を測る「セル監視回路」と、電流を測る「シャント電流センサー」を発表しました。電流センサーは、検出の誤差を従来品の半分に減らし、充電時間の短縮に役立つとされています[3]。
セルの「ばらつき」をそろえる
BMSには、もう一つ仕事があります。セルごとに、たまっている電気の量がちがうことがあります。それをそろえる調整(セルバランス)です[4]。
ただし、これらはトヨタとデンソーの発表と、2009年の解説記事にもとづいています。すべての車が同じ仕組みだと言うことはできません。
では、見張り役が「熱くなりそうだ」と知らせたあと、電池はどうやって冷やされるのでしょうか。
電池管理回路(BMS)は、各セルの電圧と、温度などのパラメータを同時に測り、過充電・過放電を防ぐ。セルごとの充電状態のばらつきを調整するセルバランスも担う[4]。ただし、この解説は2009年の記事で、当時の回路ICの紹介が中心だ。現行の車の仕様をそのまま表すものではない。
トヨタはbZ4Xで、電圧・電流・温度を多重に監視し、異常発熱の兆候を検知して過熱を防ぐ、と説明する[2]。デンソーが同車向けに発表した部品は、電圧・温度を測るセル監視回路と、電流を測るシャント電流センサーで、後者は検出誤差を従来品比で半減し、BEVの充電時間短縮に貢献するとされる[3]。シャントは電流を測るための低抵抗の部品だ。電流を正確に測れるほど、充電の攻めどころを見きわめやすくなる、という関係が読み取れる。
これらはメーカーの説明で、全EV共通の仕様ではない。では、監視で熱の兆候を見つけたあと、車はどう熱を逃がしているのか。
4. あつく ならない ために、どう ひやすの?
4. 熱を逃がし、もしもに備える ── 冷やす工夫と、漏れても燃えにくい冷却液
4. 液冷・温調システム・高抵抗の冷却液 ── 熱と安全を守る多層の工夫
電池は、あつく なりすぎないように、ひやす くふうが されて います。車の 会社の せつめいを 見て みましょう。
にっさんの リーフは、「温調システム」を つくりました。水の とおる みちや、ねつを ふせぐ カバーを くふうして、ねつの せいで 電池が よわる のを おさえ、電気の つかいかたの こうりつも よく したと せつめいして います[5]。
トヨタの bZ4Xは、ひやす 水が もれても 火が 出にくい、電気の とおりにくい えきたいを つかいます。ほかにも、あたためる エアコンや、ごみを 入れない 作りかたを つかいました[2]。
こう して、見はる、ひやす、もれても 安全に する、と 何じゅうにも まもって います。
では、これだけ まもって、電池は 何年 もつのでしょうか。
冷却水と断熱で、温度をそろえる
電池パックの温度管理は、パックの温度をちょうどよい範囲に保つこと、セルごとの温度のばらつきを小さくすること、そして熱が暴走する危険を小さくすることも目的だといわれます。くわしくは、次のメーカーの例で見てみましょう。
日産のリーフは、「リチウムイオンバッテリー温調システム」を開発しました。冷却水の流路や、断熱のカバーを工夫し、緻密な温度制御で熱による劣化を抑えて、電費の向上と両立させた、と同社は説明しています[5]。
もしも液が漏れても、火が出にくい
トヨタのbZ4Xは、電池を冷やす冷却液に、電気を通しにくい高抵抗のものを使っています。たとえ液が漏れても、短絡による発火を起こしにくくするためです。ほかに、ヒートポンプ式のエアコンや、不純物が混ざらない製造工程も採用しています[2]。
日本の国土交通省は、電気自動車などの蓄電池の安全基準として、耐火性の試験を行い、爆発しないことなどの要件を加えると発表しました[7]。この発表は古い年のものなので、最新の内容ではありません。
見張る、冷やす、漏れても安全にする。こうして何重にも守って、結局、電池は何年もつと考えればよいのでしょうか。
電池の温度管理は、パックの温度を最適範囲に保つこと、セル間の温度差を小さくすること、熱暴走のリスクを小さくすることも目的だといわれる。以下、メーカーの個別の事例で見ていく。
日産リーフは、冷却水の流路や断熱カバーの工夫と、緻密な温度制御を組み合わせた「温調システム」で、熱による電池劣化の抑制と電費向上を両立させたと説明している[5]。トヨタbZ4Xは、監視に加えて、漏れても短絡で発火しにくい高抵抗の冷却液、ヒートポンプ式エアコン、不純物の混入を避ける製造工程を挙げる[2]。電圧・温度の見張りが「検知」、冷却が「熱の除去」、高抵抗の液と製造工程が「万一への備え」と、役割が分かれている。
日本の国土交通省も、電気自動車等の蓄電池の安全基準に、耐火性の試験を行い爆発しないことなどの要件を追加すると発表した[7]。ただし、これは古い年の発表で、最新の改正内容は読めていないため、ここでは触れない。
では、これほど守った電池は、何年・何kmの使用に耐えたと言えるのか。その物差しは、だれが決めているのか。
5. 電池は、何年 もてば「ごうかく」?
5. 「何年もつか」の物差しは、国連が決めている
5. 国連GTR第22号・メーカー保証・開発目標 ── 3つの数字を区別する
電池が おとろえた かどうかは、どう きめるのでしょう。せかいの くにが あつまる「こくれん」には、きまりが あります。2022年3月に、電気で 走る 車の 電池の「さいていの きじゅん」が きまった、と 会社の かいせつに あります[6]。
5年 または 10万キロの、早い ほうまでは、使える 電気の ぶんが 80パーセント いじょう。8年 または 16万キロの、早い ほうまでは、70パーセント いじょう、という ものです[6]。
にっさんの リーフは、「8年 16万キロ」の ほしょうを つけて います[5]。トヨタは bZ4Xで、「10年後も 90パーセント」を めざす と いいます。ただし、これは 目ひょうで、ほしょうでは ありません。ほしょうは、70パーセントを 10年 または 20万キロです[2]。
16万キロを 8年で わると、1年に 2万キロです。さて、この 数字を、自分でも たしかめて みませんか。
国連が決めた、最低の基準
国連の技術基準GTR第22号(2022年3月9日)は、乗用車などの電気自動車と、プラグインハイブリッド車の電池耐久の最低基準を決めています。計測機器メーカーHORIBAの解説によると、使える電力量の保持率は、5年または10万kmの早いほうまでが80%以上、8年または16万kmの早いほうまでが70%以上です[6]。
10万kmを5年で割ると、1年あたり2万km。16万kmを8年で割っても、同じ2万kmです。基準は、1年に2万kmほど走る前提でも、年数と距離のどちらにも合わせられるようになっています。
基準、保証、目標は別のもの
日産は、リーフのバッテリー容量について「8年 16万km」の保証を設けています[5]。国連の基準の2段目と、年数・距離が同じです。トヨタはbZ4Xで「10年後も電池容量維持率90%」を開発目標に掲げましたが、使い方や環境で変わるもので、保証ではありません。保証は、標準の条件で70%を10年または20万kmとしています[2]。
基準は最低線、保証はメーカーの約束、目標は目指すところ。3つを混ぜると、「90%を保証」のような読みちがいが起きます。保証の年数や距離は、車種や時期で変わります。
国連のGTR第22号(2022年3月9日)は、乗用車等のEV・PHEVの電池耐久について最低基準を定め、使える電力量の保持率(SOCE)を、5年または10万kmの早いほうまで80%以上、8年または16万kmの早いほうまで70%以上とする(HORIBAの解説による)[6]。10万÷5=2万、16万÷8=2万から、どちらも1年あたり2万kmの走行を想定した組み合わせだと読み取れる。ただし、この解説はHORIBAのもので、UNECEの原文は確認していない。
日産はリーフについて、バッテリー容量の保証期間を「8年 160,000km」とする[5]。国連基準の二段目と数字が同じだが、基準が最低線であるのに対し、保証は各社の約束で、別の枠組みだ。トヨタはbZ4Xの開発目標として「10年後に容量維持率90%」を掲げたが、これは保証ではなく、使い方や環境で変わる。保証は標準条件で70%を10年または20万kmとされる[2]。
ここから、3つの数字の区別が見える。最低基準(国連)、保証(メーカーの約束)、開発目標(目指すところ)だ。保証の年数・距離は車種や時期で異なり、別の資料では10年・24万km表記もある。たとえば保持率70%という同じ数字でも、国連基準は8年16万km、トヨタの標準条件は10年20万kmと、年数・距離が異なる。数字を比べるときは、率だけでなく、年数・距離・条件の三つをそろえて読む必要がある。見出しや広告の「90%」「10年」だけを読むと、保証と目標を取りちがえかねない。
6. 数字を 1年あたりに わって みよう
6. 保証の数字を、1年あたりに割ってみる
6. 出口 ── 自分で割り算して確かめる、保証と目標の読み分け
電気で 走る 車の 電池の ほしょうは、お店の パンフレットや、会社の ホームページで 見られます。いちど、「何年」と「何キロ」の 数字を 見つけて みましょう。
見つけたら、「キロ」を「年」で わって みます。1年に 何キロ 走る 前ていか、すぐ 分かります。このとき、ほしょうと 目ひょうが べつの もの だと いう ことも、気に して みて ください。
家の 人と、ふだん 1年に 何キロ ぐらい 走るか、はなして みるのも いいですね。
電気自動車を扱うメーカーのホームページやカタログには、電池の保証が「何年・何km」と書かれています。一つ選んで、年数と距離を見つけてみましょう。
見つけたら、距離を年数で割って、1年あたりの走行距離を出します。リーフの「8年 16万km」なら年2万km、トヨタの標準条件の「10年 20万km」でも年2万kmです。次に、自分の家や身の回りの車が、1年にどれくらい走っているかを聞き、比べてみてください。
もう一つ、広告の「90%」のような数字が、保証なのか、目標なのかも見分けてみましょう。カタログやメーカーの日本語ページから、保証と目標の数字を一つずつ探し、年数・距離・条件を比べてみましょう。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
出典について:電池の解説サイト、メーカーの発表、解説記事、国連基準の解説、国土交通省の発表を使った。何に使ったかは、それぞれの項目の最後に書いている。
- Battery University「BU-808: How to Prolong Lithium-based Batteries」。https://batteryuniversity.com/article/bu-808-how-to-prolong-lithium-based-batteries (使用範囲の制限の例、高温での容量低下の例について。解説サイトの典型例)
- Toyota「bZ4X」発表(英語版ニュースルーム)。https://global.toyota/en/newsroom/toyota/37135919.html (多重監視、冷却液、開発目標と保証について。メーカーの説明)
- Car Watch「デンソー、bZ4X向けの電池管理部品」。https://car.watch.impress.co.jp/docs/news/2054196.html (セル監視回路とシャント電流センサーについて)
- MONOist「HEV/EV用電池パックを管理するBMS回路の設計ポイント」。https://monoist.itmedia.co.jp/mn/articles/0901/01/news009.html (電池管理回路の働きについて。2009年の記事)
- 日産自動車「リーフ リチウムイオンバッテリー長寿命化」。https://www.nissan-global.com/JP/SUSTAINABILITY/SOCIAL/QUALITY/NEW_VEHICLES/LEAF_LITHIUM-ION_BATTERY/ (温調システムと保証期間について。メーカーの説明)
- HORIBA「UN GTR No.22」。https://www.horiba.com/chn/mobility/applications/emissions-performance-and-durability/exhaust-emissions/gtr-no22/ (国連基準の保持率について。解説)
- 国土交通省 報道発表。https://www.mlit.go.jp/report/press/jidosha07_hh_000134.html (蓄電池の安全基準の要件について。古い年の発表)
なおした ところ
更新履歴
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