1. 「ドクン」は、1回じゃ ないの?
1. 1回の「ドクン」は、2つの音でできている
1. 1回の拍動に聞こえる、2つの短い音
「ドクン」を、よく 聞いて みましょう。ゆっくり 聞くと、「ド」と「トン」の ように、すこし ちがう 2つの 音が 近くに ならんで いると いわれます[2]。
この 2つの 音は、心臓の 筋肉が ぎゅっと 動く 音では ありません。心臓の 中に ある、弁という とびらのような ものが しまる 音だと、医学の 資料には 書かれて います[1]。
とびらが しまる 音ですから、1回の 「ドクン」の 中で、とびらが 2回 しまって いる ことに なります。では、心臓の 中の とびらは、どこに、いくつ あるのでしょう。
2. 心臓の 中には、4つの とびらが ある
2. 心臓の中の4つの弁は、血の逆流を止める扉
2. 4つの弁の配置:流れを一方向に保つ仕組み
心臓は、血液を からだじゅうに おくり出す ポンプです。そして 心臓の 中には、弁が 4つ あります[5]。
弁は、血の 流れる むきを 1つに そろえる、一方通行の とびらです。むきを まちがえて 血が もどろうとすると、ぱたんと しまって、逆流を ふせぎます[5]。
おもしろい ことに、血が 流れて いる あいだ、とびらは しずかです。いきおいよく しまる ときに、はじめて 音が 出る、と せつめいされて います[3]。
では、「ド」と「トン」は、どの とびらの 音なのでしょう。
4つの弁とその位置
心臓には4つの弁があります。右の心房と心室の間にある三尖弁、右の心室の出口にある肺動脈弁、左の心房と心室の間にある僧帽弁、左の心室の出口にある大動脈弁です[5]。どれも、血が逆に戻るのを防ぎ、流れを一方向に保っています。
これらは、はたらきによって2組に分けて考えられます。心房と心室の間にある2つは「房室弁」、心室の出口にある2つは「半月弁」と呼ばれます[2]。
弁は、閉まるときに音を出す
英語の資料には、弁は血液が流れている間は静かで、勢いよく閉じるときに音を出す、という説明があります[3]。扉は、開いているときではなく、閉まる瞬間に音を立てるわけです。
では、2組の弁は、それぞれ「ド」と「トン」のどちらに当たるのでしょうか。
心臓には4つの弁がある。三尖弁(右心房と右心室の間)、肺動脈弁(右心室の出口)、僧帽弁(左心房と左心室の間)、大動脈弁(左心室の出口)で、いずれも逆流を防ぎ、血流を一方向に保つ[5]。心房と心室の間にある三尖弁・僧帽弁は房室弁、心室の出口にある肺動脈弁・大動脈弁は半月弁と総称される[2]。ここで挙げた名称と位置は、複数の解説で一致している。
弁の音については、Loyola大学の生理学教材が、「弁は血液が流れている間は静かで、勢いよく閉じるときに音を出す」という趣旨の説明をしている[3]。重要なのは、音が出るのは弁が「開く」ときではなく、「閉じる」ときだという点である。
開閉の順序を考えると、房室弁と半月弁は同時には閉じない。そのため、1回の拍動のなかで、閉鎖音が時間差をもって2回起こりうる。では、この2回は、拍動のどの時点にあたるのか。
3. 「ド」は どの とびら?「トン」は?
3. I音は房室弁、II音は半月弁が閉じる音
3. I音とII音の対応:収縮期の始まりと拡張期の始まり
「ド」の 音は、心臓が 血を おし出そうと ちぢみはじめる ときに、心臓の 入り口に ある とびらが しまる 音です[2]。入り口の とびらが しまるので、血が 後ろへ もどらずに すみます。
つぎに、心臓が ひろがりはじめる ときに、出口の とびらが しまります。これが「トン」の 音です[2]。
「ド」は すこし 重く、「トン」は かるく 聞こえると いわれます。ただし これは 聞こえ方の ひとつの れいです。
つまり 「ドクン」は、入り口の とびらと、出口の とびらが、じゅんばんに しまる 音の ならびです。
I音とII音の見つけ方
1つ目の音をI音、2つ目の音をII音と呼びます。I音は、心室が縮み始めるときに、房室弁(主に僧帽弁)が閉じる音です。三尖弁が閉じる成分が混じることもあるとされます[1]。
II音は、心室が広がり始めるときに、半月弁(大動脈弁と肺動脈弁)が閉じる音です。通常は、大動脈弁のほうが肺動脈弁より先に閉じるとされています[1]。
どちらがI音かを見分ける方法
首の脈(頸動脈)に触れながら音を聞くと、脈が立ち上がるのと同時に聞こえる音がI音だ、という見分け方が看護の教材で紹介されています[2]。血液が体へ送り出されるのと、I音が鳴るのとが、ほぼ同時だからと考えられます。
健康な大人で聞こえるのは、通常はこの2つの音です。それなら、この音を人が聞こうとした最初の道具は、どうやって生まれたのでしょうか。
MSDマニュアルによれば、I音は収縮期(心室が縮み始める時期)の始まりに生じ、主に僧帽弁の閉鎖による。三尖弁の閉鎖成分を含むこともある[1]。II音は拡張期(心室が広がり始める時期)の始まりに、大動脈弁と肺動脈弁の閉鎖によって生じ、通常は大動脈弁の閉鎖が肺動脈弁より先である[1]。つまり、I音は房室弁の閉鎖音、II音は半月弁の閉鎖音という対応になる[2]。
このように、心室が縮み始めると内圧が上がり、房室弁が閉じて血液の心房への逆流を止める。続いて心室が広がり始めると、出口の半月弁が閉じて、いったん送り出した血液が戻るのを止める。音は、血流の向きを守る2か所の弁が、それぞれ別の時点で閉じることに対応している。Healioの教材も、I音は主に僧帽弁成分が大きく、II音は大動脈弁成分が主だと説明する[4]。
見分け方としては、頸動脈の脈の立ち上がりと同時に聞こえる音がI音である、という方法が看護教材に載っている[2]。ただし、これは教材上の見分け方であり、自分で試すときは首を強く押さえてはいけない。
健康な成人で通常聞こえるのはこのI音とII音で、III音・IV音は「過剰心音」として別に分類される[1]。ここまでの説明は、聴診という技術の上に成り立っている。この聴診は、どう始まったのか。
4. 聞く 道具は、紙を 丸める ことから はじまった
4. 紙を丸めて胸に当てたことが、聴診器の始まりといわれる
4. 1816年のラエンネック:紙の筒から木の聴診器へ
むかし、医者は みてもらう 人の 胸に 耳を じかに 当てて、音を 聞いて いました。
1816年、フランスの 医者 ラエンネックが、紙を くるくる 丸めて 筒に して、胸に 当てて みたと つたえられて います[8]。すると、耳を 当てるより、音が はっきり 聞こえたのです。
そこで ラエンネックは、木で 筒を つくりました。これが 聴診器の はじまりと されて います[7]。
耳を 当てるだけでなく、そっと 筒を 使う ことで、心臓の 「ド」と「トン」を もっと よく 聞けるように なったのです。
耳を直接当てていた時代
聴診器が生まれる前、医者は患者の胸に耳を直接当てて、体の中の音を聞いていました。
紙の筒がひらめきになった
1816年、フランスの医師ルネ・ラエンネック(1781〜1826)が、聴診器を発明したとされています[7]。きっかけは、紙を筒のように丸めて胸に当てたところ、音がはっきり伝わることに気づいたことだと伝えられています[8]。その後、木で筒を作ったとされます。
ラエンネックは、1819年に、この方法を使った診察を「間接聴診法」としてまとめて出版しました[8]。患者の特徴など、きっかけの細かな場面は資料によって異なるため、ここでは紙を丸めた話だけを紹介します。
音をはっきり聞けるようになると、2つの音が弁の閉まる音だという考えも確かめやすくなります。ところが、音の出方については、見方が1つに決まっていないという話もあります。
聴診器は、1816年にフランス人医師ルネ・ラエンネック(1781〜1826)が、木製の筒型のものを発明したのが始まりとされる[7]。きっかけは、紙を筒状に丸めて胸に当てたところ、音が耳にはっきり伝わることに気づいたことだと伝えられ、その後に木で筒を作ったとされる[8]。
ラエンネックは1819年に『間接聴診法』(De l'auscultation médiate)を公刊した[8]。直接耳を胸に当てるのではなく、筒を介する「間接」の聴診であることが名前の由来である。患者の描写は資料によって異なるため、場面の詳細は採らない。
重要なのは、この道具のおかげで、心音を「聞こえた」で終わらせず、時期や強さをそろえて比べられるようになった点である。弁の閉鎖音という説明も、こうした聴診の積み重ねの上で整理されてきたと読める。ただし、「弁が閉じる音」という理解が確定した唯一の説明かどうかは、別の問題である。
5. 息を すうと、「トン」が 2つに 分かれる
5. 息を吸うと、「トン」が2つに分かれて聞こえる
5. II音の生理的分裂:呼吸と肺動脈弁の閉鎖時期
おもしろい ことが あります。大きく 息を すうと、「トン」の 音が、2つに 分かれて 聞こえる ことが あるのです[4]。
「トン」は、出口の とびらの 音でしたね。出口には、左と 右に 1つずつ とびらが あります。ふだんは 左が 先に、すこし おくれて 右が しまります[1]。
息を すうと、右の とびらが しまる のが もっと おくれます。それで、2つの 音が はなれて 聞こえるのです。これは、多くの 人に ある ことと されて います[4]。
出口の弁は、同時には閉じない
II音は大動脈弁と肺動脈弁が閉じる音ですが、2つは完全に同時ではなく、大動脈弁のほうが先に閉じます[1]。その差は、英語の資料では約60ミリ秒(0.06秒)とされています[3]。
息を吸うと差が広がる
息を吸うと、右の心臓へ戻る血液が増え、肺動脈弁の閉じる時期がさらに遅れます。そのため、II音が2つに分かれて聞こえることがあり、この「生理的分裂」は約90%の人にみられると紹介されています[4]。病気の印ではなく、ふつうの体の働きとして説明されています。
ここまでで、「ドクン」の正体は弁の閉まる音という説明が出そろいました。しかし、音がどう生まれるかには、もう1つの見方もあります。
II音は、大動脈弁と肺動脈弁の閉鎖音であり、通常は大動脈弁が先に閉じる[1]。この時間差は、Loyola大学の教材では約60ミリ秒(0.06秒)とされる[3]。0.06秒は、ふつう1つの音として聞こえるほど短い。
ところが、吸気時には右心への静脈還流が増え、右心室が血液を送り出し終えるまでの時間が延びて、肺動脈弁の閉鎖がさらに遅れる[4]。その結果、II音が2成分に分かれて聞こえる。これは生理的分裂と呼ばれ、約90%の人でみられるとされる[4]。約90%は出典の数字であり、年齢や状態で変わりうる。この分裂は呼吸に伴う正常な変動として説明されており、病気の判断とは別の話である。
この例は、弁の閉鎖が血流量と結びついていることを示す。弁の音は、弁の形だけでなく、血液の動きの量と時期に左右される。では、音を生む主役は、弁そのものなのか、血液なのか。
6. 音を 出して いるのは、とびらだけ?
6. 音の主は弁か、血液か:説明には見方の違いがある
6. 音源をめぐる見方:弁の接触か、血液の急な減速か
「ドクン」は、とびらが しまる 音と 書かれて いる 資料が 多く あります。
でも、音が どう 出るかには、べつの 見方も あります。しまる ときに、心ぞうの 中の 血の ながれが きゅうに おそく なる ことが、音の もとだと 考える けんきゅうも、しょうかいされて います[6]。
とびらの 動きと、血の 流れは、いっしょに 起こります。だから、どちらが 主役なのか、見方が 分かれる のは ふしぎでは ありません。どちらでも、とびらの はたらきが 大切な ことは、かわりません。
古典的な説明
心音の説明は、古くは、弁の閉鎖や、弁・心臓の壁・血液の振動によって音が生じる、とされてきました[6]。
もう1つの見方
一方で、心エコーと心音図を使った研究から、音源は弁どうしの接触ではなく、心室の中などの血液の流れが急にブレーキをかけられること(減速)だ、という見方も紹介されています[6]。この研究の元の文章は、この記事を書いた時点では全文を確かめられていないため、ここでは「見方の違いがある」とだけ紹介します。
どちらの見方でも、弁が閉じるタイミングと音が対応していることは共通しています。弁は、血液の流れを変える役割をしています。違うのは、音がどの部分から出ると考えるか、という点です。
心音の発生機序の説明は一様ではない。古典的には、弁の閉鎖、弁・心臓壁・血液の振動が音を生むとされてきた。一方、1976年のBMJの投書に基づく紹介では、心エコーと心音図を併用した研究から、音源は弁どうしの接触ではなく、心室内の血液の流れ(血液のまとまり)の急な減速だとする見方が示されている[6]。
この見方は、弁の機能を否定するものではない。弁が閉じる時点で血液の流れが止められ、その急な減速が、心臓壁や血液を振動させて音になる、という説明と整合しうる。したがって、「弁の閉鎖音」という表現は、音が弁の閉じる時刻に対応することを指す言い方であり、音の発生部位まで決めたものではないと読める。
BMJの原文は取得できず、検索結果の要約に基づく紹介である点に注意が要る。そのため、本稿はこの見方の詳細には踏み込まず、「見方が分かれる部分が教材と研究で併存する」という範囲にとどめる。確かなのは、I音・II音がそれぞれ弁の閉鎖時期と対応する短い音であること[1]と、音の出方の説明が研究の中で議論されてきたことである。
7. 紙の 筒で、「ド・トン」を 聞いて みよう
7. 紙の筒で、家族の「ド・トン」を聞いてみる
7. 聴診の再現と、原典への道すじ
画用紙を くるくる 丸めて、筒を 作ります。ラエンネックが ためしたと つたえられる、紙の 筒です。
家族に しずかに すわって もらい、胸の 左がわに 筒の 先を 当てます。反対がわの 口に 耳を 当てて、しばらく 聞いて みましょう。
「ド・トン」「ド・トン」と、2つずつ 聞こえるか、数えて みます。耳を 当てただけの ときと、聞こえ方が かわるかも しれません。
ぎゅっと 強く おしつけず、そっと 当てて くださいね。
紙の筒で試す
画用紙などを丸めて筒を作り、家族の胸にそっと当てて、反対の口に耳を当ててみましょう。強く押しつけず、静かな部屋で試します。聞こえる音が「ド・トン」の2つの組になっているかを、数えてみてください。耳を直接当てたときと、聞こえ方が変わるかを比べるのもおすすめです。
音がはっきりしないときは、無理に聞こうとせず、やめて大丈夫です。聞こえ方は人や場所によって違い、この遊びで体の状態を判断することはできません。
原典をのぞいてみる
出典欄にある医学の解説や看護の教材は、日本語で読めます。1819年に出版された『間接聴診法』という書名を手がかりに、聴診器の誕生をもっと調べることもできます。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
本文は、ここにある資料の内容を、自分の言葉で言いかえたものです。名称・数値・年は、資料によって細部が異なることがあります。病気の判断や診断には使えません。
- MSDマニュアル プロフェッショナル版「心臓の聴診」 https://www.msdmanuals.com/ja-jp/ (I音・II音と弁の対応、心音と心雑音の区別)
- カンゴルー「心音の聴診」 http://www.kango-roo.com/learning/7245/ (「ド」「トン」の聞こえ方、I音の見分け方)
- Loyola University Chicago, Physiology of heart sounds https://www.meddean.luc.edu/lumen/meded/medicine/pulmonar/pd/step39cb.htm (弁が閉じるときに音が出る、大動脈弁と肺動脈弁の時間差)
- Healio, Heart Sounds Topic Review https://www.healio.com/cardiology/learn-the-heart/cardiology-review/topic-reviews/heart-sounds (II音の生理的分裂)
- カンゴルー「心臓の弁」 https://www.kango-roo.com/learning/2226/ (4つの弁の名称と位置。複数の解説で一致)
- BMJ 1976, 2(6044) の投書 https://www.bmj.com/content/2/6044/1091.2.full.pdf (音源の見方の違い。要約を通した紹介)
- カンゴルー「聴診器がもたらした200年」 https://www.kango-roo.com/learning/3738/ (1816年の聴診器の発明)
- University of Pittsburgh HSLS, Laennec and His Breakthrough Invention https://info.hsls.pitt.edu/updatereport/?p=16445 (紙の筒の逸話、1819年の著書)
なおした ところ
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