1. 王さまの 柱は、なにを して いる?
1. 立っているのに、屋根を支えていない柱
1. 真束(キングポスト)は引張で働く
古い たてものの 屋根の 下を 見あげると、まん中に 1本、柱が 立って いる ことが あります。いちばん 上の とがった ところから、まっすぐ 下へ のびて います。
「屋根の おもさを 下で うけて いる 柱」と おもいたく なります。でも この 柱は、下に ある 水平な はりを、上から ぶらさげる しごとを して いると いわれます[3]。
ぶらんこを、木の 上の えだから ひもで つるのと にて います。ただし ほんとうの 屋根では、ひもの かわりに 木の 柱で、おもい はりを つって います。
この 柱は、日本語で 「しんづか」と いいます[1]。では、つる しごとなら、柱は どんな ふうに くまれて いるのでしょう。
古い建物の屋根裏をのぞくと、頂点から真ん中へ、1本の柱がまっすぐ下りていることがあります。これがキングポストで、日本語の辞典では真束と呼ばれます[1]。
柱と聞くと、屋根の重さを下から受けていそうです。ところが解説では、この束は引っ張られる力(張力)で働き、頂点から下の梁(陸梁)を吊り上げて支えるとされています[3]。立っているように見えて、実際には「吊る」役目です。
木の枝から吊ったぶらんこを思い浮かべると近いでしょう。ひもは、重さに引かれて張っているだけです。屋根の束は木の柱ですが、この場合は同じように引っ張られる側で働きます。
では、吊る役目の部材は、屋根全体の中でどう組まれているのでしょうか。
2. つると、はりは ほそくて いいの?
2. トラスでは、下の梁を細い材にできる
2. 洋小屋の部材に働く力と、和小屋との断面のちがい
屋根の 木ぐみは、三角形が 大もとです。三角形は ゆがみに くい かたちだからです。
北海道の 研究所の せつめいでは、ななめの 木は おされ、下の はりと、つる 柱は ひっぱられます[2]。この くみ方だと、木が まがる ちからを ちいさく できるので、下の はりは ほそい 木で すむそうです。
むかしからの 日本の 屋根の くみ方では、はりに まがる ちからが かかります。そのため、ふとい 木が いります[2]。
では、「つる 柱」を 1本から 2本に ふやすと、どうなるのでしょう。
3. 柱を 2本に すると、まん中が あく
3. 束を2本に分けると、中央に四角い空きができる
3. 対束(クイーンポスト)の形と、広いスパンへの使われ方
「女王さまの 柱」は、ちがう かたちです。柱は 屋根の いちばん 上までは とどきません。屋根の 下の ほうに、左右に 1本ずつ、合わせて 2本 立ちます[4]。
2本の 柱の 上の ほうは、水平な 木で つなぎます。すると、まん中に 四角い すきまが できます[4]。
この かたちは、キングポストよりも 広い 屋根に つかわれます[5]。そのぶん、下の はりを 2か所で ささえられます。
でも、この かたちには、ひとの 名前が ついた べつの よび名も あるそうです。
クイーンポストは、キングポストとは配置が違います。束は屋根の頂点までは届かず、トラスの下側に左右1本ずつ置かれ、斜材(主垂木)に支えられます。2本の束の上端は水平な梁(ストレイナー)でつながれ、トラスの中央に四角い空きができます[4]。
この形は、単純なキングポストより広いスパンに使われる、と説明されています[5]。吊る束が2本あるので、下の梁を2か所で受けもつことになります。
イタリアでは、この形がパッラーディオ(ルネサンス期の建築家)にちなんで「パラディアーナ」とも呼ばれるそうです。では、この形は彼が考えたのでしょうか。
日本の辞典では、真束を用いる洋小屋をキングポスト、真束を用いず、中央から左右に等距離を隔てて束を置く形式を、対束(クイーンポスト)小屋組みと呼ぶ[1]。
配置の違いは次のとおりだ。クイーンポストの束は頂点には届かず、トラスの下側に左右2本立って斜材(主垂木)に支えられる。2本の束の上端は水平材(ストレイナー)でつながれ、トラスの中央に四角い空きができる[4]。
この形は、単純なキングポストより広いスパンのために使われる[5]。吊る束が2本あるので、陸梁を2か所で受けもつことになる。
イタリアでは、この形がパッラーディオの多用にちなんで「パラディアーナ」とも呼ばれる。ただし、形そのものは彼より前からあったとされる[5]。では、こうした形はいつごろからあるのか。
4. 王さまと 女王さまの 屋根は、いつから あるの?
4. 名前に人名のつく形でも、発明者は分からない
4. パラディアーナの名と、ヨーロッパでの使われ方
パッラーディオは、イタリアの たてものを つくる 人です。この 人が たくさん 使ったので、クイーンポストの 屋根は 「パラディアーナ」とも よばれます。でも、かたちは この 人より 前から ありました[5]。
キングポストの 屋根は、ローマの 時代の たてものや、むかしの 教会、大きな なやでも つかわれたと いわれます[3]。
いま のこって いる いちばん 古い ものは、エジプトの 修道院の 屋根と いわれ、548年から 565年の あいだに つくられたとされます[6]。およそ 1500年 前です。
では、この 古い かたちは、日本には いつ 来たのでしょう。
パラディアーナという呼び名はありますが、パッラーディオがこの形を発明したわけではありません。彼が多用したので名前が付き、形はそれ以前からあったとされます[5]。
キングポストの屋根は、ローマ時代の建物や、中世の教区教会、納屋などで使われてきました[3]。現存する世界最古のキングポストトラスは、エジプトのシナイ半島にある聖カタリナ修道院(548〜565年に建造)にあるとされます[6]。ただし、この年は修道院の建造期間で、屋根の年そのものとは言い切れません。
英国の例では、19世紀初めまでに、中世の側桁式の屋根が、束が引張で働くキングポストやクイーンポストのトラスに置きかわりました[3]。世界の話ではなく、あくまで英国での流れです。
では、この形は日本にどうやって入ってきたのでしょうか。
パラディアーナの名はパッラーディオの多用に由来するが、発明者ではない。形はそれ以前からあったとされ、名前と起源を結びつけて読まないほうがよい[5]。
キングポストの屋根は、ローマ時代の建物、中世の教区教会、納屋などの木造小屋組で使われた[3]。現存最古のキングポストトラスは、エジプト・シナイ半島の聖カタリナ修道院(548〜565年に建造)にあるとされるが、これは二次資料(Feilden 2003を引くもの)による記述で、年は建造期間であり屋根の年と断定はできない[6]。
英国の例では、19世紀初めまでに、中世の側桁式の屋根が、束が引張で働くキングポストやクイーンポストのトラスに置きかわった[3]。これは英国の話で、世界一般にはしない。
ヨーロッパで長く使われた形が、日本の建物に現れるのはいつか。次に、明治の産業建築を見る。
5. とみおか せいしじょうの 大きな 部屋は、どんな 屋根?
5. 明治の富岡製糸場に、王様の屋根が使われた
5. 旧富岡製糸場の繰糸所とキングポストトラス
日本で この 形が 見られる 場所の 1つが、群馬県の とみおか せいしじょうです。1872年に 動きはじめた、糸を つくる 工場です[7]。
糸を ひく 作業を する 部屋は、長さが 140メートルも あります。これは たてものの 長さで、屋根の 木ぐみ 1つの 長さでは ありません。
この 部屋は、キングポストの 屋根、高い 天じょう、鉄の わくの ガラスの まどで、明るくて 大きな 空間に なって いると、国の しりょうは 書いて います[7]。
フランスの 人に ならって つくられました。これは フランスの ぎじゅつを 日本に 入れた しるしです[7]。
ひろい 部屋を つくる ために、屋根は えらばれたのでしょうか。
群馬県の旧富岡製糸場は、明治5年(1872年)に操業を始めた官営の製糸工場です。生糸をつくる作業場にあたる繰糸所は、キングポストトラスの小屋組、高い天井、鉄製ガラス窓によって明るい大空間をつくっています。桁行は140メートルと長大です[7]。
140メートルは建物の長さ(桁行)で、トラス1本が渡しているスパンではありません。数字を取りちがえないようにしたいところです。
この建物は、フランス人のブリュナの指導のもと、横須賀造船所の技師バスティアンが図面を作成したと説明されています。この小屋組は、西洋、とくにフランスの技術の導入を示すものとされます[7]。「日本で最初」と言われるわけではありません。
内部の空間を広く使いたいときにトラスが選ばれることは、北海道の農業用建物の試験でも書かれています[2]。では、この形は今も使われているのでしょうか。
旧富岡製糸場の繰糸所は、明治5年(1872年)の操業開始で、キングポストトラスの小屋組、高い天井、鉄製ガラス窓により明るい大空間を実現している。桁行は140mと長大である[7]。
140mは建物の長さ(桁行)で、トラス1本のスパンではない。数字を、梁間方向の広さと取りちがえてはいけない。
図面は、ブリュナの企画指導のもと、横須賀造船所の技師バスティアンが作成したとされる。この小屋組は、西洋、とくにフランスの技術導入を示すとされる[7]。ただし、この資料は「日本初」とは述べておらず、そのように書くことはできない。
内部空間を有効に生かすためにトラスを用いる、という考え方は、北海道の農業用建物(間口9.0m、奥行10.8m)の耐力試験でも示されている。ただし、その建物の型がキングかクイーンかは資料に書かれていない[2]。
では、この形は明治の工場だけのものか。現在の試験や標準を見る。
6. いまの 日本でも、キングポストは 使われて いるの?
6. 木造校舎の標準に準じた、キングポストの強度試験
6. JIS A 3301とキングポストトラスの実大強度試験
鳥取県の 林業の 研究所では、木で つくった 学校の たてものの きまりに あわせた、キングポストの 屋根の しけんを して います。2024年度の ほうこくに 書かれて います[8]。
はりには、スギの 木を つかいます。まん中の 柱と、柱が つなぐ ところ 2か所を、いっしょに おして 強さを しらべます[8]。
つまり 「木で つくる 学校」の きまりに あわせた キングポストが、しけんの あいてに なって います。いま たって いる 学校が みんな そうだと いう ことでは ありません。
鳥取県林業試験場の令和6年度の報告では、JIS A 3301「木造校舎の構造設計標準」に準じたキングポストトラスの実大強度試験が行われています。陸梁にはスギの材を使い、真束と束材の接合部2か所を同時に荷重する、3点荷重の方式です[8]。
この報告から分かるのは、標準に準じたキングポストトラスが試験の対象になっていることまでです。今の校舎がキングポストだらけという意味ではありません。
吊る束で梁を持ち上げる形は、古い建物の中だけでなく、スギの強度を確かめる現在の試験にも使われています。では、自分の身の回りでは、どんな屋根の下に「王様」や「女王様」がいるのでしょうか。
鳥取県林業試験場の令和6年度業務報告には、JIS A 3301「木造校舎の構造設計標準」に準じたキングポストトラスの実大強度試験が載っている。陸梁にスギ材を使い、真束と束材接合部の2か所を同時に載荷する3点荷重方式で行われた[8]。
資料から言えるのは、標準に準じたキングポストトラスが試験の対象になっていることまでだ。現在の校舎の多くがキングポストだとは言えない。
明治の官営工場の繰糸所と、現在のスギ材の強度試験。時代の離れた2つの場面に、同じキングポストの名が出てくる。
では、自分の身の回りで、この形はどう探せるのか。
7. 屋根の 下を 見あげて みよう
7. 見上げる屋根の下に、柱は1本か、2本か
7. 出口 ── 屋根の下を観察する/原典に当たる
体育館や 駅など、天じょうが 高い 場所に 行ったら、見あげて みましょう。ただし 歩きながらは やめて、立ちどまって から 見ます。
屋根の 下に 木の 柱が 見えたら、1本か、2本かを かぞえて みます。まん中に 1本 あれば 「王さま」かも しれません。2本で 水平な 木が つながって いたら 「女王さま」です。どちらも 見えないことも あります。
とみおか せいしじょうの 中は、国の サイトで 写真が 見られます[7]。
体育館や駅、古い校舎など、天井が高く、屋根の下の骨組みが見える場所に行ったら、立ち止まって見上げてみましょう。真ん中に1本の束が下がっていればキングポスト、左右に2本で上が水平な材でつながれていればクイーンポストの形です。どちらにも当てはまらない形も多くあります。
家の近くで見つからなければ、文化遺産オンラインで旧富岡製糸場の繰糸所の写真を探し、屋根の下の骨組みを見るのもよいでしょう[7]。
探すときは、屋根の重さを「受けている」のか「吊っている」のかを考えながら見ると、柱の見え方が変わります。
屋根の下の骨組みが見える体育館、駅舎、古い校舎などで、束の本数と、頂点まで届くかどうかを見る。頂点から真ん中に下りる1本ならキングポスト、頂点に届かず左右に2本あり、上端が水平材でつながれていればクイーンポストの形になる。ほかの形のトラスも多い。
原典に当たるなら、文化遺産オンラインの旧富岡製糸場の解説[7]、林産試だより1984年12月号[2]、鳥取県林業試験場の令和6年度業務報告[8]が日本語で読める。コトバンクの日本大百科全書の「小屋組み」[1]は、和小屋・洋小屋の用語を確かめるのに向く。
読み比べるとよい問いは、「吊る束が2本に増えると、陸梁にはどんな力がかかるのか」。この記事の資料では、そこまで細かくは述べられていない。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
出典について:辞典(コトバンク)、北海道立林産試験場の「林産試だより」、解説記事(King post/Post (structural)/Timber roof truss/聖カタリナ修道院)、文化遺産オンライン、鳥取県林業試験場の業務報告を使いました。
- 日本大百科全書「小屋組み」(コトバンク)。 https://kotobank.jp/word/小屋組み (洋小屋・和小屋の構造、真束と対束の用語)
- 北海道立林産試験場「林産試だより」1984年12月号。 https://www.hro.or.jp/upload/9484/19029065001.pdf (トラスの部材に働く力、和小屋との断面の違い、農業用建物の試験)
- Wikipedia "King post". https://en.wikipedia.org/wiki/King_post (キングポストが引張で働くこと、ヨーロッパでの使われ方)
- Wikipedia "Post (structural)". https://en.wikipedia.org/wiki/Post_(structural) (クイーンポストの配置と中央の空き)
- Wikipedia "Timber roof truss". https://en.wikipedia.org/wiki/Timber_roof_truss (クイーンポストが広いスパンに使われること、パラディアーナ)
- Wikipedia "Saint Catherine's Monastery". https://en.wikipedia.org/wiki/Saint_Catherine%27s_Monastery (現存最古とされるキングポストトラスについての記述)
- 文化遺産オンライン「旧富岡製糸場 繰糸所」。 https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/124804 (繰糸所の小屋組、桁行、指導者と図面)
- 鳥取県林業試験場「令和6年度業務報告」。 https://www.pref.tottori.lg.jp/secure/1396234/13.pdf (JIS A 3301に準じたキングポストトラスの強度試験)
なおした ところ
更新履歴
更新履歴(改版の記録)
- 初版を公開。
このサイトでは、公開した記事の本文は原則として書き直しません。誤りが見つかったときや、内容が古くなったときだけ手を入れ、その理由をこの欄に残します。