1. ホログラムじゃ ないの?
1. ホログラムだと思われがちだけど
1. ホログラムとの違い ── 光の屈折で見せる絵
したじきや シールを かたむけると、絵が かわったり うごいたり して 見えます。これは「ホログラム」だと 思われがちですが、じつは ちがいます[1]。
ホログラムは、光を かさねて 立体に 見せる、べつの やりかたです。この シートは、なかに はいっている ちいさな レンズの ちからで、絵を かえて 見せています。では、その レンズとは、いったい どんな ものなのでしょうか。
2. なかに かくれた、かまぼこの れつ
2. レンズの正体は「かまぼこ」の列
2. レンズの構造 ── 円柱レンズと、裏の分断画像
この シートの ひょうめんを、虫眼鏡で のぞいて みると、小さな「かまぼこ」の 形を した でっぱりが、すきまなく ならんでいるのが 見えます[1]。この でっぱり ひとつ ひとつが、小さな レンズに なっています。
レンズの うらがわには、いくつもの 絵を 細長く 切って、じゅんばんに ならべなおした 絵が しかけられています[1]。絵を シャッフルして、細長く 切った ふだを、じゅんばんに ならべなおした ような ものだと 思うと、わかりやすいかもしれません。
3. 虫めがねを うごかすと 見える ところが かわる
3. 見る角度で絵が変わるわけ
3. なぜ角度で画像が切り替わるのか
虫眼鏡を 紙の 上で うごかすと、大きく 見える ところが かわりますね。レンチキュラーの レンズも、それと よく にた ことを しています[1]。
見る 角度を かえると、それぞれの レンズが 大きく 見せる 短冊の 場所が かわります。だから、べつの 絵の 短冊が 目に はいってきて、絵が かわったり、うごいたり して 見えるのです[1]。
4. うごく 絵と、とびだす 絵
4. 2種類の効果 ── 変わる絵と、飛び出す絵
4. 2種類の効果 ── チェンジングと裸眼立体視
この レンズの しくみには、大きく わけて 2つの 見えかたが あります[2]。
ひとつは、かたむけると べつの 絵に かわったり、まるで うごいているように 見えたり する タイプです。もう ひとつは、めがねを かけなくても、絵が とびだして 立体に 見える タイプです。
5. レンズの こまかさ
5. レンズのこまかさを表す「lpi」という単位
5. 解像度の単位lpiと、薄いレンズ
レンズの こまかさは、「1インチ(やく2.5センチ)の なかに、レンズが 何本 ならんでいるか」で あらわします[3]。売られている シートには、18本くらいから 150本くらいまで、いろいろな こまかさが あります。数字が 大きいほど、レンズが こまかいと おぼえておけば じゅうぶんです。
たとえば、小さな カードで よく つかわれる シートは、1インチに 150本も レンズが ならんでいて、レンズ 1本の はばは、けいさんすると たった 0.17ミリぐらいです[3]。シートぜんたいの あつさも 0.26ミリしか なく、1円玉の あつさ(やく1.5ミリ)よりも、ずっと うすいのです。
6. 古い とっきょ
6. 知られている中で最初期の特許
6. 最初期の特許群 ── 1899年から1912年まで
この しくみに かかわる 特許(はつめいの けんり)で、知られている なかで いちばん 古いものは、1899年に アメリカで みとめられました[2]。ただし この ころの しくみは、いまの レンズシートとは すこし ちがう ものでした。
1912年ごろには、アメリカと フランスで、それぞれ べつの 人が、いまの レンズに 近い しくみを かんがえだしています[2]。おなじ 時期に、はなれた 国で にた アイデアが 生まれるのは、めずらしい ことでは ありません。
知られている中でいちばん古い、レンチキュラーに関わる特許は、1898年にジョン・ジェイコブソンがアメリカで出願し、1899年に成立したものです[2]。表面に溝を刻んだ透明な台紙で写真を覆う、という技術でした。
その後1912年、ウォルター・ルドルフ・ヘスという人物が、円柱レンズを並べたセルロイド膜の特許をアメリカで出願しました。同じ年、フランスでもルイ・シェロンが似たしくみの特許を出願しています[2]。離れた国で、ほぼ同時に似た発明が生まれたことになります。
知られている限りで最初のレンチキュラー関連特許は、John Jacobsonが1898年に出願し、1899年5月2日に成立したもの(US624,043)である。これは表面に溝を刻んだ透明な台紙で写真を覆う技術で、現在のレンズシートそのものとは異なる[2]。
1912年には、Walter Rudolf Hessが円柱レンズ状の表面を持つセルロイド膜の特許(US1,128,979)をアメリカで出願し、同年フランスでもLouis Chéronが類似のしくみをフランス特許443,216号として出願している[2]。さらにその数年前の1908年には、物理学者ガブリエル・リップマンが、昆虫の複眼にヒントを得た微小レンズ群を使う「インテグラル・フォトグラフィー」という構想を発表しており、レンチキュラー印刷の概念的な先駆けとされる[2]。リップマンは同じ年にノーベル物理学賞を受賞しているが、これは色を再現する別の写真技術(リップマン乾板)に対するものであり、この構想そのものへの受賞ではない。
7. おかしの おまけにも つかわれた
7. 缶バッジ、Vari-Vue、お菓子のおまけへ
7. 商業生産の始まり ── バッジからおまけ菓子、絵はがきへ
この しくみを つかった 商品を 作る ほうほうの とっきょを、1952年に アメリカの ビクター・アンダーソンという 人が だしました。その 会社が さいしょに 作ったのは、「I Like Ike」と 書かれた、小さな バッジだったと されています[2]。
1950年代から 1970年代には、アメリカの おかしの おまけとして、かたむけると 絵が かわる カードが たくさん 作られました[2]。1966年ごろからは、ウインクする 人の 絵はがきなども うられるように なりました[2]。
この技術を使った、絵が切り替わる表示品を組み立てる方法の特許を、1952年に出願したのが、ヴィクター・アンダーソンという人物と、その会社です。同社の最初の商品は、「I Like Ike」と書かれた、小さな缶バッジだったと記録されています[2]。
1953年には、レンチキュラー製品の代表的なブランドとなる「Vari-Vue」という商標も登録されました[2]。1950年代から70年代にかけては、アメリカのお菓子「クラッカージャック」やシリアル「チェリオス」のおまけとして、傾けると絵が変わるカードが数多く作られ、1966年ごろからはウインクする女性などを描いた絵はがきも複数のメーカーから発売されるようになりました[2]。
商業生産の早い例として挙げられるのは、Victor Andersonとその会社Pictorial Productions社である。1952年3月1日に、切り替わる絵の表示品を組み立てる方法の特許を出願し、1957年12月3日に成立した(US2,815,310)。同社の最初の製品は、1952年5月14日に著作権登録された「I Like Ike」の缶バッジだったとされる[2]。
1953年12月には、レンチキュラー製品の代表的ブランド「Vari-Vue」の商標が登録された[2]。1950年代から70年代にかけて、Vari-Vue社は菓子「クラッカージャック」のおまけとしてチェンジングカードを供給し、シリアル「チェリオス」でも1950年代にレンチキュラーのおまけが使われている。1966年ごろからは、複数のメーカーがウインクする女性や宗教画、動物などを題材にした絵はがきを発売するようになった[2]。
8. 日本で 大はやりした 人形の 目
8. 日本で大流行した「ダッコちゃん」の目
8. 日本での普及 ── ダッコちゃん人形とウインクシール
日本では 1960年に、「ダッコちゃん」という 人形が 大はやりしました。この 人形の 目に、見る 角度で ウインクして 見える シールが つかわれていた、と いわれています[4]。
この ウインクする 目の シールは、おもちゃ 会社「ツクダヤ」が、シールだけでも うっていました。目玉 3こぶんと のりが セットで、80円だったそうです[5]。今の お金で かんがえると、けっこう 高い おかいものだったのかもしれません。
9. にてるけど ちがう しくみ
9. そっくりだけど別の技術、そして今も使われている
9. 類似技術パララックスバリアと、現代への応用
めがねなしで 絵が とびだして 見える しくみには、レンズを つかわない べつの やりかたも あります。すきまの あいた 板を つかう「パララックスバリア」という しくみです[6]。にんてんどうの ゲームき「ニンテンドー3DS」は、この パララックスバリアを つかっています[6]。レンチキュラーとは べつの しくみです。
そして 2024年に うりだされた、顔に つける 新しい きかい「Apple Vision Pro」にも、レンチキュラーの レンズが つかわれています[7]。1950年代の おもちゃや おかしの おまけと おなじ しくみが、さいしんの きかいにも いきているのです。
メガネなしで絵が飛び出して見える方法には、レンズを使わない別の方式もあります。透明な板に細い格子状のすき間を開けた「パララックスバリア」という方式です[6]。任天堂の携帯ゲーム機「ニンテンドー3DS」は、レンチキュラーレンズではなく、このパララックスバリア方式で裸眼立体視を実現しています[6]。見た目の効果は似ていますが、仕組みは別物です。
そして2024年に発売されたゴーグル型のコンピュータ「Apple Vision Pro」にも、レンチキュラーレンズが使われています。外側の画面には3つの層があり、そのひとつがレンチキュラー層で、中にいる人の目を外から立体的に見せる役割を果たしています[7]。1950年代のお菓子のおまけと同じ仕組みが、最新の機器にも生きているのです。
レンズを使わない裸眼立体視の方式に「パララックスバリア」がある。不透明な板に細いスリットを開け、光を部分的に遮ることで左右の眼に違う画像を届ける方式で、レンチキュラーが光の屈折を使うのに対し、パララックスバリアは光の遮蔽を使う点が異なる[6]。
この方式は、Auguste Berthierが先に発表していたが実用化には至らず、Frederic E. Ivesが独立に考案し、1901年に世界初の実働する裸眼立体視画像を作って公開したとされる[6]。任天堂の携帯ゲーム機「ニンテンドー3DS」シリーズは、レンチキュラーレンズではなくこのパララックスバリア方式を採用している[6]。
一方レンチキュラーレンズそのものも、現代の機器に生き続けている。2024年発売のApple Vision Proは、外側の「EyeSight」ディスプレイに3層構造を採用しており、そのうちの1層がレンチキュラー層で、内側にいる人の目を外から立体的に見せる役割を担っている[7]。19世紀末の特許図面から100年以上を経て、同じ原理がゴーグル型端末の中で働いていることになる。
10. じぶんでも たしかめて みたく なったら
10. 自分でも調べてみたくなったら
10. 自分でも調べてみたくなったら
やってみよう。もし 家に、かたむけると 絵が かわる シールや カード、したじきなどが あったら、ゆっくり かたむけて、中の レンズが どんな 絵を 見せているか、たしかめて みましょう。ホログラムだと 思っていた ものが、じつは この しくみだった、と 気づくかもしれません。
えんぴつの キャップなどにも、おなじ しくみが つかわれている ことが あります。見くらべて みると、おもしろい はっけんが あるかもしれません。
もし家に、傾けると絵が変わるシールやカード、下敷きなどがあれば、ゆっくり傾けながら、光にかざして中のレンズの並びを観察してみましょう。ホログラムだと思っていたものが、実はレンズの屈折だったと気づくかもしれません。そのとき、絵が変わるチェンジングタイプなのか、飛び出す立体タイプなのかも、あわせて見分けてみてください。
しくみをもっと知りたくなったら、次の資料が手がかりになります。
やってみたいことがある。傾けると絵が変わるシールやカード、下敷きなどが手元にあれば、ゆっくり傾けて、見える絵がどう変わるかを観察してみたい。ホログラムとの違いを、自分の目で確かめる機会になる。
資料も読み比べてみたい。
- Wikipedia「Lenticular printing」の歴史の節[2]。19世紀末からの特許の変遷が、英語だが年代を追って読める。
- Apple Vision Proの分解記事[7]。最新機器にレンチキュラー層がどう組み込まれているかがわかる。
考えてみたい問いもある。レンチキュラー印刷とパララックスバリアは、見た目の効果が似ていても仕組みが違う。身の回りの裸眼立体視の機器や印刷物が、どちらの方式を使っているか、調べてみるとよい。
しらべた ところ
参考にした情報源
参考にした情報源
出典について:レンズの仕組みを説明した印刷会社の解説サイト、英語版ウィキペディアの「レンチキュラー印刷」の歴史の節、レンズの細かさ(lpi)を説明した印刷会社の資料、日本語版ウィキペディアの「レンチキュラー」と「ダッコちゃん」の項目、裸眼立体視の方式を比較した英語版ウィキペディア、最新のゴーグル型端末の分解記事を使った。何に使ったかを、それぞれの項目の最後に書いている。
- マル・ビ「レンチキュラーとは?印刷や3D効果の仕組み」。 https://www.yosey.co.jp/service/lenti/lenti_mechanism/ (レンズの構造、裏の画像、角度で絵が変わるしくみについて)
- "Lenticular printing" Wikipedia, The Free Encyclopedia. https://en.wikipedia.org/wiki/Lenticular_printing (2種類の効果、初期の特許、商業生産の歴史について)
- 加陽印刷株式会社「レンチキュラー印刷 3D+αの力」。 https://kayo.co.jp/3dplus/types.html (lpiという単位と、市販シートの厚みについて)
- 「レンチキュラー」フリー百科事典『ウィキペディア』。 https://ja.wikipedia.org/wiki/レンチキュラー (ダッコちゃん人形の目に使われたという記述について)
- 「ダッコちゃん」フリー百科事典『ウィキペディア』。 https://ja.wikipedia.org/wiki/ダッコちゃん (ウインクシールの発売日と価格について)
- "Autostereoscopy" Wikipedia, The Free Encyclopedia. https://en.wikipedia.org/wiki/Autostereoscopy (パララックスバリアの仕組みと、ニンテンドー3DSの例について)
- "Apple Vision Pro Teardown Reveals The Secrets Of EyeSight" UploadVR. https://www.uploadvr.com/apple-vision-pro-ifixit-teardown/ (Apple Vision Proのレンチキュラー層について)
なおした ところ
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