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ここにあるのは、だれかが実際に調べ、考え、作ってきたことを集めたメモです。気になったら、ページの下の「参考にした情報源」から、もとの本や記事、それを生み出した人たちに、直接ふれてみてください。このメモには書ききれないおもしろさが、そこにあります。

じしゃくは、さわって いない 鉄を、どうして ひっぱれるの?

磁石は、触れていない鉄をどうして引けるのか ── 十分離れた2つの磁石は、距離2倍で力が約16分の1

磁力はなぜ離れた物体に働くのか ── ファラデーの鉄粉、マクスウェルの場、距離の4乗則

分野:自然

じしゃくを 2ばい とおくに おくと、2つの じしゃくの 力は、およそ 16ぶんの 1 まで よわく なります(じしゃくの 大きさより ずっと はなれた ときの 話です)。

どうして、そんなに きゅうに よわく なるのでしょう。さわって いない 鉄が ひっぱられる ふしぎと いっしょに、その わけが 分かります。

2つの棒磁石を、磁石の長さよりずっと離れた位置から、さらに2倍離すと、働き合う力はおよそ16分の1になります。3倍離せば81分の1です。ふつうの「距離に反比例」より、はるかに急な弱まり方です。

では、触れてもいない鉄が動くとき、2つの物体の間では何が起きているのでしょうか。昔の人の考え方、ファラデーの鉄粉の実験、マクスウェルの「場」から、この急な弱まり方まで分かります。

磁石どうしの力は、磁石の長さより十分離れた範囲では、距離rの−4乗に比例する[7]。距離が2倍になると2⁴=16倍弱くなる計算で、3倍なら81分の1、10倍なら1万分の1だ。ただし近い範囲には当てはまらない。

なぜこれほど急に弱まるのか。その理由は、「力は離れた物体に直接届く」という見方から、「力の姿は空間そのものにある」という見方へ移った歴史と、つながっている。ファラデーの実験、マクスウェルの定義、距離との関係までを読むと分かる。

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1. さわって いないのに、どうして うごくの?

1. 触れていないのに動く力を、どう考えるか

1. 接触のない力 ── 遠隔作用と近接作用という2つの見方

つくえの 上に 鉄の クリップを おきます。じしゃくを ゆっくり ちかづけると、さわる まえに、クリップが すっと うごきます。

ふしぎですね。じしゃくと クリップの あいだには、なにも ないように 見えます。

むかしの 人は、2とおりに 考えました。ひとつは、「力が はなれた ところへ、じかに とどく」という 考え方。もうひとつは、「あいだの 空間に、力を つたえる なにかが ある」という 考え方です[1]。

この 2つの 考え方の ちがいから、じしゃくの まわりの 空間を 調べる 話へ 進みます。

机の上の鉄のクリップに、磁石をゆっくり近づけます。触れる前に、クリップがすっと動きます。磁石とクリップの間には、何も見えません。

この「触れていないのに働く力」には、昔から2つの見方がありました。力は離れた所へ直接届くという見方を遠隔作用、物体の間にある媒質や「場」の変化を次々に伝わって届くという見方を近接作用といいます[1]。

実験から示唆を受けて、近接作用を考えた最初の人とされるのが、ファラデーです[1]。ファラデーは何を見て、そう考えたのでしょうか。

鉄片が磁石に引かれるとき、両者の間に物質の橋はない。この事実をどう理解するかについて、物理学は2つの考え方を持っていた。力が離れた物体へ直接及ぶとする遠隔作用と、物体間の媒質あるいは場の物理的変化を介して伝わるとする近接作用である[1]。

辞典類の記述では、実験の示唆から近接作用を考えた最初の人はファラデーとされる[1]。では、ファラデーは何を根拠に、「間」に注目したのか。その手がかりは、1枚の紙と鉄粉にあった。なお、遠隔作用の側に誰が立っていたかを人名で割り振るのは単純化になるので、ここでは考え方の名前として扱う。

2. 鉄の こなが えがいた 線

2. 紙に鉄粉をまくと、見えてきた線

2. 鉄粉が示す線 ── ファラデーのろう引きの紙と1851年の図

ファラデーは、イギリスの 科学者です。かれは、うすい ろうを ぬった 紙の 下に じしゃくを おいて、上から 鉄の こなを ふりかけました。

すると、こなは じしゃくの まわりで、なみのような 線の もようを つくりました[3]。

ファラデーは、この もように 目を つけました。この もようから、じしゃくの まわりの 空間にも はたらきが あるのではないか、と 考えました。1851ねんには、こなの もようを ノートに はって のこして います[2]。

ファラデーは、薄くとかしたろうを紙に塗り、その上に鉄粉をそっとふりかけて、磁石のまわりの線を見せる実験をしました[3]。磁石を紙の下に置くと、鉄粉は磁石の両端から広がるように並び、なめらかな曲線の模様になります。

ファラデーはこの線を「磁力線」と呼び、鉄粉や小さな磁針の並び方が、その大まかな道すじを示すと説明しました[2]。1851年には、鉄粉の図を実験ノートに貼って残しています[2]。

磁石に触れていない所にも、模様ができるのです。磁石の「そば」の空間は、何もない空っぽではないのかもしれません。しかし、この線は本当に空間にあるのでしょうか。

ファラデーが磁力線を見せた方法は、王立研究所が所蔵する資料によれば、紙に薄くとかしたろうを塗り、その上に鉄粉をふりかけるものだった[3]。鉄粉は、磁石のまわりで滑らかな線に並ぶ。磁石を紙の下に置けば、触れていない鉄粉まで動く点が重要だ。

1852年の論文で、ファラデーは磁力線を、鉄粉や小さな磁針の並びが大まかに示す線として説明している[2]。1851年には鉄粉の図を実験ノートに貼っている。つまり彼は、磁石の形と、まわりの空間に生じる線の形を、図として手元に残していた。

ここで気をつけたいのは、鉄粉の線と磁力線を同じものと決めつけないことだ。鉄粉は磁場の様子を見せる道具で、線そのものが空中に実在する物体という意味ではない。ファラデー自身も、この線が物理的な実在かどうかを、次の論文で問いとして扱っている。

3. 線は ほんもの? 「ば」という 考え方

3. 磁力線は本物か ── ファラデーの問いとマクスウェルの「場」

3. 線は実在するのか ── 1852年の問いと、1864年の「電磁場」の定義

ファラデーは、1852ねんの ろんぶんで 大きな 問いを 出しました。じしゃくの 力は、はなれた ところへ じかに とどくのか。それとも、あいだに 力を つたえる はたらきが あるのか[2]。

この 問いを 数学で あらわそうと したのが、マクスウェルです。1864ねん、かれは 電気や じしゃくの はたらく 空間を 「ば」と よんで、その はたらきを 「ば」という 考え方と 式で あらわしました[4]。

たとえば、みずうみに 石を 入れると、水めんに なみが できます。石の 力は、水を つたって ひろがります。「ば」は、空間の ほうの、そんな ようすの ことです。ただし ほんとうの 「ば」は、水と ちがって、目に 見えません。

1852年の論文でファラデーは、磁気がどこまで「離れた所へ直接働く作用」なのか、それとも間にある物理的な働きを介して力が伝わる性質をもつのか、と問いました[2]。磁力線が物理的に実在するかどうかが、当時の問いだったのです。

この問いを数学で説明しようとしたのがマクスウェルです。1864年12月8日に王立協会で「電磁場の動力学的理論」を読み上げ、電磁場を、電気や磁気を帯びた物体を含み、そのまわりを取りまく空間の部分と定義し、その働きを「場」の考え方と式で表しました[4]。

磁力線は、磁場の向きと強さを表す曲線という見方があります。空中に実体のある紐が出ているわけではなく、空間のそれぞれの場所に、力の向きと大きさが決まっている、と考えるのです。池に石を落とすと水面に波が広がるように、空間の性質が力を運ぶ、と思えば近いでしょう。ただし本当の場は、水と違って目に見えません。

1852年の論文でファラデーは、磁気が「離れた所への作用」としてどこまで説明できるのか、あるいは他の力のように、力の伝達を間の何かに頼る性質を持つのかを、問いとして立てた[2]。ここで彼が確信を述べているのではなく、磁力線に物理的な実在があるかを問題にしている点に注意したい。

この問いを、場の物理として形にしたのがマクスウェルだ。1864年12月8日に王立協会で「電磁場の動力学的理論」を読み上げた(10月27日受理)。論文は電磁場を、電気的・磁気的な状態にある物体を含み、それを取りまく空間の部分と定義する[4]。つまり、磁石と鉄だけを見る考え方から、磁石を取りまく空間の状態も考える見方へ移った。

この見方では、磁力線は空間の各点での磁場の向きと強さを表す曲線とみなせる。鉄粉の模様は、その様子を目に見える形にしたものだ。鉄粉の線は、磁場の様子を図にしたもので、空中にある物体という意味ではない。場が実在するか、数学上の道具かという哲学的な論争には踏みこまない。

4. 2ばい はなすと、力は 16ぶんの 1

4. 離すと力が急に弱まるのはなぜか

4. 磁場は距離の3乗、2つの磁石の力は4乗で弱まる

では、じしゃくを とおざけると、力は どうなるでしょう。ここでは、2つの ぼうじしゃくの 話です。2つの じしゃくの あいだの 力は、じしゃくの 大きさより ずっと はなれた ところで、きょりが 2ばいに なると、およそ 16ぶんの 1 に なります[7]。3ばいなら 81ぶんの 1 です。

ふつうの 光は、2ばい はなれると、およそ 4ぶんの 1 の あかるさです。じしゃくは、それより ずっと きゅうに よわく なります。

だから、じしゃくは ちかづけると ぐっと ひっぱり、すこし はなすと ほとんど 力が なくなって しまうのです。

ただし この 数は、じしゃくが はなれて いる ときの 話です。くっつくほど ちかい ときは、この 通りには なりません。

ここからは、2つの棒磁石を、N極とS極が並んだ1組の磁石(磁気双極子)とみなし、磁石の長さより十分離した場合の話です。クリップのような鉄を引く力とは、分けて考えます。磁石のまわりの磁場の強さと、2つの磁石の間の力とでは、弱まり方がちがいます。

磁石がまわりの空間につくる磁場の強さは、距離の3乗にほぼ反比例して弱まります[6]。コンパスと磁石を使えば、磁針のふれの角の正接(tanθ)と距離の関係として、簡単な実験で調べられ、精度は10%程度とされています[6]。

2つの磁石の間に働く力は、磁石の長さよりずっと離れた範囲で、距離の4乗に反比例します[7]。距離が2倍になると、力は2の4乗分の1、つまり16分の1です。3倍なら81分の1になります。

電灯の光は、距離が2倍になると約4分の1に暗くなります。磁石の力はそれより急に弱まります。近づけると強く引くのに、少し離すとほとんど感じなくなるのは、この弱まり方のためです。ただし、この関係は磁石が近い範囲では成り立ちません。

以下は、2つの棒磁石を磁気双極子(N極・S極の対)とみなし、磁石の長さより十分離した場合の話で、クリップなど鉄片を引く力とは分けて考える。磁場の強さと力は、別の弱まり方をする。

双極子がつくる磁場の強さは、距離の3乗に反比例して弱まる。児玉の報告は、コンパスと磁石で、磁針のずれの角θのtanθと距離を対数グラフにとると、傾きがほぼ3の直線になることを、精度10%程度で示す簡単な実験として紹介している[6]。

では、2つの磁石の間の力はどうか。東京大学の講義の解答は、磁極間の4つの力を足して展開し、距離rが磁石の長さlよりずっと大きいとき(r≫l)、力がrの−4乗に比例することを示す[7]。片方の磁石がつくる磁場が距離で弱まり、しかもその磁場の場所による変わり方が、もう一方の磁石に働く力を決める。このため、磁場の3乗より、力のほうが一段急になる。この筋道は、2つの資料の結果が合うことから組み立てた説明である。

2⁴=16なので、2倍で16分の1、3倍で81分の1、10倍で1万分の1になる。この計算はr≫lの条件つきで、磁石に近い範囲では当てはまらない。距離のわずかな差で力が大きく変わる点は、磁石が「近づけたときだけ強く働く」ことの数値的な裏づけになっている。

5. 「ば」は、光も はこんで いた

5. 場は、光まで運んでいた

5. 場の理論のその先 ── 電磁波の予言と1888年のヘルツの実験

マクスウェルの 考えは、じしゃくの 話だけでは おわりませんでした。かれは、電気と じしゃくの 「ば」が なみと なって つたわると 考えました。そして、その なみが 光だと 考えたのです[4]。

この 予言は、1888ねんに ヘルツが じっけんで たしかめました[5]。

じしゃくの まわりの 空間の ようすを 考えた ことが、光の しょうたいを 知る ことにも つながったのです。

マクスウェルは、同じ論文で、光そのものが、電磁場を波の形で伝わる電磁的な乱れだと述べました[4]。電場と磁場が波として伝わる現象を予言し、それが光だと考えたのです。

この予言は、1888年にヘルツが実験で確かめました[5]。磁石が鉄を引くという身近な現象を考えるうちに、場という見方が生まれ、それが光や電波の説明につながっていったことになります。

磁石のまわりの空間を考える見方は、光を電磁場の波として説明する考えにもつながりました。

マクスウェルは1864年の論文で、光を電磁場を伝わる電磁的な波の乱れとして位置づけた[4]。電場と磁場が波として伝わると予言し、それが光だと考えた点が核心だ。この予言は、24年後の1888年に、ヘルツが実験で確かめた[5]。

磁石が触れずに鉄を引くという身近な現象が、近接作用の考え方を呼び、場という概念を生み、さらに場の波が光や電波であるという予言にまで届いた。距離に応じた力の弱まり方も、場の形から計算で出せる。

なお、場が変化を伝える速さや、磁力を粒子のやりとりで説明する量子論の話は、この記事で使った資料の範囲を超えるため、扱わない。

6. じしゃくと ほういじしんで ためして みよう

6. 磁石と方位磁石で、離れると弱まる様子を見る

6. 出口 ── 距離の弱まり方を、自分の手で確かめる道すじと原典

おうちに じしゃくと ほういじしんが あれば、ためせます。

ほういじしんを テーブルに おきます。じしゃくを すこし はなして おくと、はりが うごきます。じしゃくを、うしろへ 少しずつ さげて いきます。

はじめの 2ばいの きょりに、おなじ むきで はなすと、はりの うごきは、どう かわるでしょうか。さげるほど、はりは もとの むきに もどって いきます。

じしゃくは、パソコンや カードの 近くに おかないで ください。こわれる ことが あります。

家に磁石と方位磁石があれば、距離と針のふれの関係を観察できます。机の上に方位磁石を置き、針が止まったら、磁石を少し離した位置に置きます。針が磁石のほうへ向きを変えます。

磁石を後ろへ少しずつ下げながら、定規で距離を測り、針のふれをノートに書きます。距離を変えるたびに、針がどれくらい動くかを比べてみましょう。磁石の向きは毎回そろえます。離すほど、針は地球の北を向く元の向きに近づいていきます。

磁石は、パソコン・スマートフォン・キャッシュカードなどの近くに置かないでください。壊れたり、情報が消えたりすることがあります。

近い所では針が大きく動き、少し離すと急に動かなくなる様子を、自分の目で見てください。クリップを引く強さを、距離を変えて試すのもよい観察です。

自分で確かめるなら、方位磁石と棒磁石を使い、磁石を方位磁石から一定の距離に置いて針のふれの角度θを測る。距離を変えて測り、tanθ(ふれ角そのものではなく、その正接)と距離を対数グラフにとる。点がほぼ直線に並び、傾きが約−3になれば、磁場が距離の3乗に反比例することと合う。児玉の報告では、精度は10%程度とされる[6]。この実験が調べるのは磁場であり、2つの磁石の間の力の4乗則ではない。近い範囲では成り立たないため、磁石の長さの数倍以上離して測る。地磁気の影響も針にかかるので、磁石を置く向きを毎回そろえ、何度か測って平均をとるとよい。磁石は電子機器やカード類から離して扱うこと。

原典を読むなら、ファラデーの1852年の論文[2]と、マクスウェルの1864年の論文[4]が出発点になる。2つを続けて読むと、「力線は実在するのか」という問いが、どのように「場」の定義へ変わっていくかが分かる。

しらべた もとの じょうほう

参考にした情報源

参考にした情報源と、その使い方

本文の事実は、次の資料から使いました。各資料の使った範囲は、番号のあとに書いています。

  1. コトバンク「近接作用」(デジタル大辞泉・日本大百科全書) https://kotobank.jp/word/%E8%BF%91%E6%8E%A5%E4%BD%9C%E7%94%A8-54283 (遠隔作用と近接作用の定義)
  2. Faraday, On the Physical Character of the Lines of Magnetic Force (Phil. Mag. 1852) https://commons.princeton.edu/josephhenry/wp-content/uploads/sites/71/2023/06/On_the_Physical_Character_of_the_Lines_o.pdf (磁力線の問いと、鉄粉・磁針の並び)
  3. 王立研究所(The Royal Institution)「Michael Faraday's iron filings」 https://www.rigb.org/explore-science/explore/collection/michael-faradays-iron-filings (ろうを塗った紙と鉄粉の方法)
  4. Maxwell, A Dynamical Theory of the Electromagnetic Field (Wikisource) https://en.wikisource.org/wiki/A_Dynamical_Theory_of_the_Electromagnetic_Field/Part_I (電磁場の定義と、光が電磁的な波であるという主張)
  5. ブルーバックス(現代ビジネス)「マクスウェルが光の電磁波説を発表」 https://gendai.media/articles/-/58743 (電磁波の予言と1888年のヘルツの確認)
  6. 児玉一人(高知大)日本地球惑星科学連合2009 要旨 E113-010 https://www2.jpgu.org/meeting/2009/program/session/pdf/E113/E113-010.pdf (磁気双極子の磁場と距離の関係の簡単な実験)
  7. 東京大学 講義の宿題と解答(12月19日分) https://www.resceu.s.u-tokyo.ac.jp/~submm/lecture/H20/Assignment_1219.pdf (2つの磁気双極子の間の力が距離の−4乗に比例すること)

なおした ところ

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