1. 火は 自分で 上に いって いるの?
1. 炎を「下向き」にした実演:ファラデーが見せたこと
1. 炎の向きは燃え方で決まるのか:ファラデーの実演が示した空気の流れ
むかし、イギリスに ファラデーと いう 学者が いました。1848ねんの クリスマスの 時期に、おうりつの けんきゅうじょで、ろうそくの 話を しました[1]。
ファラデーは、ろうそくの 火が 高く のびて いるのは、上へ むかう 空気の 流れに 引っぱられて いるからだ、と せつめいしました。
しかも、空気の 流れる 向きを かえて、火を 下の ほうへ ながして みせました。ちいさな えんとつの 中へ、火を 下向きに ながしたのです。
火の 向きを きめて いたのは、もえ方より、空気の 流れ。では、その 流れは、どうして 上へ むかうのでしょう。
1848年のクリスマスの時期、ファラデーは王立研究所で、ろうそくをテーマに講演しました。その第1回の中で、ろうそくの炎が高くのびて見えるのは、上へ向かう空気の流れに引きのばされているからだ、と説明しています[1]。
ファラデーは、その流れの向きを変えることで、炎を小さな煙突の中へ下向きに流してみせました。炎の向きは、炎が上を目指しているからではなく、まわりの空気の流れで決まる、という見せ方です[1]。
ただし、実演の道具の細かい仕組みは、この記事では扱いません。ここで大切なのは、炎の形が空気の流れしだいで変わる、という点です。では、その流れはなぜ上向きなのでしょうか。
炎が上へ尖るのは、炎自身が上へ向かう性質を持つからなのか。ファラデーは1848年のクリスマス講演(王立研究所)で、この見方を実演で退けた。ろうそくの炎が高くのびて見えるのは、上向きの空気の流れに引きのばされた結果だという説明である[1]。
決め手は、流れの向きを変えると炎の向きも変わる、という実験である。ファラデーは流れの向きを変えて、炎を小さな煙突の中へ下向きに通してみせた[1]。炎の向きを決めているのは燃え方そのものではなく、周囲の空気の動きだ、ということになる。この記事は実演の装置の細部までは追わず、原文に書かれた主張の骨組みだけを使う。
残る問いは、地上ではなぜその流れがいつも上向きなのか、である。
2. 空気は、あたたまると 軽く なるの?
2. 熱い空気は軽くなって、地上では浮かび上がる
2. 空気の密度は温度でどう変わるか:浮力が上昇気流を生む理由
水の 中の あわを おもい出して ください。あわは、まわりの 水より 軽いので、上へ のぼって いきます。
空気にも、にた ところが あります。空気は、おなじ 圧力で おなじ 大きさで くらべると、あたたかい ほうが 軽く なります。ある 表では、20℃の 空気を 1と すると、100℃の 空気は 0.79、つまり 2わりほど 軽く なります[4]。
ろうそくの 火の そばで あたためられた 空気は まわりの 空気より 軽いので、地上では 上へ のぼって いきます[2]。
上へ のぼった ぶんだけ、下の ほうには つめたい 空気が 入って きます。この 空気は、もえるのに いる 酸素も はこんで きます[3]。
この 空気の 流れが、火を 上へ ひっぱって、なみだの しずくの ような 形に します[2]。ただし 本当の 空気は 目に 見えないので、あわの ように 目で おう ことは できません。
同じ圧力なら、空気は温度が高いほど、同じ体積あたりの重さ(密度)が小さくなります。1気圧の乾燥した空気の密度は、20℃で1.204 kg/m³、100℃で0.9467 kg/m³、500℃で0.4567 kg/m³という表の値があります[4]。計算すると、100℃の空気は20℃の空気のおよそ79%、500℃の空気は約38%です。500℃は、炎の中の温度を表す数字ではなく、表にある値の一つです。
炎で熱せられた空気は軽くなり、同じ体積のまわりの空気より密度が小さくなります。重力のある地上では、その差による浮力で上がります。これが、炎の熱が作る上昇気流です。この気流が炎を引きのばして、見慣れた形にします[2]。
上昇気流には、もう一つの働きがあります。炎の根もとで熱い空気が上がると、そのぶん冷たくて重い空気が引きこまれ、酸素も一緒に運ばれてきます。地上の涙形の炎は、こうした流れの結果です[3]。
NASAも、重力のはたらきで起こる浮力対流が、ろうそくの炎を涙形にしていると説明しています[5]。上へのびる形の元は、炎でなく、重さのある地上の空気にあった、ということです。
では、その流れはなぜ上向きなのか。理由は、同じ圧力のもとで空気の密度が温度で変わることにある。ある資料の表では、1気圧の乾燥空気の密度は20℃で1.204、100℃で0.9467、500℃で0.4567 kg/m³である[4]。比を計算すると、100℃の空気は20℃の約79%、500℃の空気は約38%になる。ただし500℃は表の値であり、炎の中の実際の空気の温度ではない。
炎で熱せられた空気は、周囲の空気より密度が小さい。重力のある地上では、その差による浮力で上昇する。これが上昇気流で、炎の熱が作るこの気流が、炎を見慣れた形に引きのばす[2]。
さらに、根もとで熱い空気が上がると、その空気の抜けたぶんを埋めるように、冷たくて密度の大きい空気が重力に引かれて流れこみ、酸素も運ばれる[3]。NASAは、重力による浮力対流が炎を涙形にし、さらにすすを炎の先まで運んで黄色く光らせる、と説明している[5]。つまり地上の炎の形と色は、浮力による対流の産物である。
この論理が正しいなら、重力による浮力がない場所では、炎は別の姿になるはずだ。実際にそうなのか。
3. 宇宙の ろうそくの 火は、どんな 形?
3. 宇宙ステーションで、炎が丸く青くなった
3. 微小重力では、炎が球形になり、青く見える
宇宙ステーションでは、物の 重さが ほとんど はたらきません。この ような ようすを、無重力に ちかいと いいます。そこでは、あたたかい 空気が 軽くても、上へ のぼる 力が とても 弱く なります。
NASAの じっけんでは、宇宙の ろうそくの 火が、まるくて、すすが なく、青い 色に なる れいが しょうかいされて います[5]。
2023ねんには、中国の 宇宙ステーションで、ろうそくの 火が ほぼ 丸い 形に なる ようすが、生ちゅうけいされました。あたたかい 空気が 動かないからだ、と せつめいされたそうです[8]。
ろうそくでは ありませんが、国際宇宙ステーションの 実験でも、小さな 燃料の つぶが、丸い 火に なって もえました。2014ねんの NASAの えいぞうです[6]。
宇宙ステーションの中では、重さのはたらきがほとんどなくなります(微小重力)。すると、熱い空気が浮力で上がる動きが、ほとんど起こりません。NASAの説明では、地上の涙形で黄色い炎に対して、微小重力の実験の炎は球形で、すすがなく、青い例が紹介されています[5]。
映像でも確かめられています。NASAが公開した国際宇宙ステーションの実験映像(FLEX-2、2014年)では、燃料の小さな液滴が球形の炎になって燃えました。浮力がないので、炎は涙形にならず、円形になる、という説明が添えられています[6]。
2023年には、中国の宇宙ステーションで、宇宙飛行士がろうそくの炎がほぼ球形になる様子を生中継しました。中継では、重さの差が生じないため、温かい空気が動かない、と説明されたそうです[8]。
1996年にミール宇宙ステーションで行われたNASAの実験でも、炎は半球状の青いうすい色になった、と日本の記事が紹介しています。ただしこれは二次資料の紹介なので、「とされる」にとどめます[7]。
なぜ青くなるのか。炎が地上より弱くなるからでしょうか。
重力による浮力対流が炎の形と色を決めているのなら、微小重力では炎は別の姿になるはずだ。NASAの説明は、その予想と合う。地上では浮力対流が炎を涙形にし、すすを炎の先へ運んで黄色く光らせる。微小重力の実験では、炎が球形で、すすがなく、青い例が紹介されている[5]。
映像の例もある。国際宇宙ステーションのFLEX-2実験を撮った2014年のNASAの映像では、小さな燃料液滴が球形の炎で燃えた。ここでも、浮力がないために炎が涙形ではなく円形になる、と説明されている[6]。
中国の宇宙ステーションでは、2023年に宇宙飛行士が、ろうそくの炎がほぼ球形になる様子を生中継した。日本語の紹介記事によれば、重さの差が生じないので温かい空気が動かない、という説明が添えられた[8]。
1996年のミール宇宙ステーションの実験では、炎が半球状で青く、うすい色だったと、日本のウェブ記事が伝えている。この例は二次資料の紹介で、NASAの原典は今回使っていないため、補助的な一例にとどめる[7]。
形は説明できた。残るのは、なぜ色が青く、すすが出ないのか、である。
4. 青くて ゆっくり もえるのは、どうして?
4. 空気が流れこまない炎は、ゆっくり、低い温度で燃える
4. 拡散だけで酸素を受け取る炎:ゆっくり燃え、温度も低い
地上の 火は、上へ のぼる 空気の 流れが、まわりの 空気を 下から どんどん はこんで きます。
宇宙では 上へ のぼる 流れが ほとんど ありません。酸素は、空気の 中を ゆっくり 動いて いる つぶが、たまたま 火に ぶつかる ことで とどきます[3]。
ですから 火は ゆっくり もえて、温度も ひくく なると いわれます[3]。ミールの 実験でも、火は うすい 色で、ゆっくり もえたと いわれます[7]。
火の 形は、ほのおの せいではなく、空気の 流れで きまって いたのです。
地上の炎は、上昇気流が下から新しい空気を運んでくるので、酸素が途切れません。宇宙ステーションでは、浮力による上昇気流がほとんど起きません。ミール宇宙ステーションの実験を紹介した記事では、酸素は炎の根もとから常に供給されなくなり、ゆっくりした拡散で届く、と説明されています[7]。
天文の記事も同じ見方で、宇宙の火は、まわりをただよう酸素分子が、たまたま炎にぶつかることで養われる、と書いています。そのため、炎はゆっくり燃え、温度も低くなる、と説明しています[3]。
こうしてみると、炎の形、色、燃える速さは、炎の材料だけでなく、空気がどう流れてくるかで変わる、と分かります。上へのびる地上の炎は、重力の中で暮らす私たちが見慣れた形だったのです。
色がちがうのはなぜか。炎が球形だと、浮力対流が起きないため、炎へ酸素を運ぶのは空気中の分子の拡散だけになる。ミール宇宙ステーションの実験の紹介記事は、上昇気流が起きないので炎の下部へ酸素が常に供給されなくなり、拡散で酸素が供給される、と説明している[7]。
天文雑誌の解説も、宇宙の火は周囲の酸素分子がたまたま炎に当たることで養われ、そのためゆっくり燃えて温度も低くなる、と述べる[3]。
地上の炎と宇宙の炎を比べると、燃料と酸素は同じでも、酸素の届き方がちがう。地上では対流が、新しい空気を絶えず根もとへ送る。微小重力では、拡散が空気を運ぶ唯一の経路になる。そのため、炎の形・色・速さが変わる。
逆に言えば、地上の炎が上へ尖って黄色いのは、重力が作る浮力対流の結果であり、炎の本質的な性質とは限らない。炎の形は、燃料と空気の出会い方の記録なのである。
5. ろうそくや ゆげで、空気の 動きを 見てみよう
5. 空気の流れを探してみる:炎が教えてくれること
5. 炎の形から空気の流れを読む:原典と次の問い
火は 大人に つけて もらい、かならず 大人と いっしょに、少し はなれて 見て ください。
たんじょう日の ケーキの ろうそくなどで、火が 上に のびて いる ところを 見られます。火が ゆれる ときは、まわりの 空気が 動いて いるしるしです。
火が なくても、できる ことが あります。あつい お茶や スープの ゆげが、どちらへ むかうか 見て みましょう。目に 見えない 空気の 流れが、ゆげの 動きで すこし わかります。やけどには 気を つけて。
宇宙の 青い 玉の 火は、いつか 見たいですね。
火は大人につけてもらい、そばでは必ず大人と一緒に、少しはなれて見てください。誕生日ケーキのろうそくなどで、炎が上にのびる様子を観察できます。炎が揺れるときは、まわりの空気が動いている合図です。
火を使わなくても、熱いお茶やスープの湯気がどちらへ向かうかを見るだけで、あたためられた空気の動きを想像できます。やけどには注意してください。
炎の姿が空気の流れで変わるのなら、弱い風が吹くところでは、炎はどう変わるのでしょうか。
身近な炎でも、形は空気の流れの記録として読める。誕生日ケーキのろうそくなど安全な場面で、火は大人につけてもらい、大人と一緒に、少し離れて観察できる。炎が揺れるのは、周囲の空気が動いているしるしである。火を使わずに、熱い飲み物の湯気の向きを見るだけでも、あたためられた空気の動きを想像できる。やけどには十分に注意すること。
原典を読みたいなら、ファラデーの講演はProject Gutenbergで英語の原文が公開されており、第1回(Lecture I)に炎が引きのばされる話と下向きの実演が出てくる[1]。宇宙の炎の映像は、NASAのウェブページ([5]、[6])で見られる。
身近なところから始めるなら、ろうそくの炎や湯気の向きが、部屋のわずかな風でどう変わるかを見るとよい。炎が揺れる向きや湯気の流れから、目に見えない空気の動きを読み取る練習になる。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
本文で使った資料です。二次資料(解説記事)は、原典で確かめられる範囲を補う目的で使っています。
- Faraday, The Chemical History of a Candle, Lecture I(Project Gutenberg) https://www.gutenberg.org/cache/epub/14474/pg14474.txt (炎が上向きの空気の流れに引きのばされるという説明と、炎を下向きにした実演)
- Royal Society of Chemistry, The chemistry of candles https://edu.rsc.org/feature/the-chemistry-of-candles/3007566.article (炎の熱が作る上昇気流が炎を引きのばすこと)
- Astronomy.com, Great balls of fire: how flames behave in space https://www.astronomy.com/science/great-balls-of-fire-how-flames-behave-in-space/ (冷たい空気の流入と酸素の運び、宇宙の炎の拡散と温度の目安)
- Engineering ToolBox, Air density vs temperature https://engineeringtoolbox.com/air-density-specific-weight-d_600.html (1気圧の乾燥空気の密度の温度による変化)
- NASA, Candle Flame – 1g vs Microgravity https://www.nasa.gov/image-article/candle-flame-1g-vs-microgravity/ (地上の涙形の炎と微小重力の球形の炎の比較)
- NASA Scientific Visualization Studio, Spherical Flames https://svs.gsfc.nasa.gov/11640 (国際宇宙ステーションのFLEX-2実験の映像)
- GIGAZINE, NASA実験の紹介(ミール宇宙ステーションのろうそく) https://gigazine.net/news/20061012_candle_flames (1996年のミール実験の紹介。二次資料)
- ナゾロジー, 中国宇宙ステーションの実験紹介 https://nazology.kusuguru.co.jp/archives/135647 (2023年の生中継。二次資料)
なおした ところ
更新履歴
更新履歴(改版の記録)
- 初版を公開。
- 安全のための注意書きを直した(5章のろうそくの観察)。理由: 火は子どもがつけず、大人につけてもらうと分かるようにするため。
- 中学生向けの題名を、日常の疑問が先に来る形に見直した。
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