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ここに書いてあることは、誰かが実際に手を動かして調べ、考え、作り上げてきたものを拾い集めています。専門の本や論文、作品、そしてそれを生み出した人たち。気になったことがあれば、ぜひそのおおもとに直接ふれてみてください。このメモには書ききれない熱を、感じてもらえると思います。

バターと マーガリンは、なにが ちがうの? ── 牛にゅうの あぶらと、かためた あぶら

バターとマーガリンは、何がちがうのでしょうか ── 牛乳の脂肪と、固めた油の話

バターとマーガリンは何が違うのか ── 牛乳の脂肪と固められた油、水素添加、色をめぐる州法の騒動

分野:技術

200グラムの バターを つくるには、しぼった ままの 牛にゅうが 4リットルより 少し おおく いります。1リットルの パックで 4ほん と ちょっとです[1]。

パンに ぬる ものには、もう ひとつ、マーガリンが あります。バターと マーガリンは、なにが ちがうのでしょう。

バター200gを作るには、しぼったままの牛乳(生乳)が約4.2〜4.4Lいります。1Lの牛乳パックなら、4本と少しです[1]。

パンに塗る黄色いものには、もう1つ、マーガリンがあります。バターとは何がちがうのでしょうか。原料と作り方を比べ、油が固まるしくみをのぞき、フランスの化学者の思いつきに会い、最後はアメリカの州が「色」を法律で決めた騒動までたどり着きます。

バター200gを作るのに、生乳が約4.2〜4.4L要る。1L入りの牛乳パックにして、4本強だ[1]。

パンに塗る黄色いものには、マーガリンもある。両者の違いを、法令と規格の定義、作り方、油が固まる分子の形、水素添加の歴史、19世紀の代用品募集から生まれたマーガリンの由来、そして色をめぐるアメリカの州法の騒動へと、複数の資料を突き合わせて調べた。

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1. バターは、牛にゅうの なにから できるの?

1. 牛乳の「あぶら」だけを集める ── バターができるまで

1. バターの定義と製法 ── 脂肪粒を練圧し、水中油滴から油中水滴へ

バターは、牛にゅうを そのまま かためた ものでは ありません。牛にゅうの 中の「あぶら」だけを あつめて、ねった ものです[2]。

まず、牛にゅうから あぶらの おおい ところを あつめて、クリームを つくります。これを よく ひやして、はげしく かきまぜると、あぶらの つぶが くっついて、まめくらいの かたまりに なります[1]。

ふしぎな ことが おきて います。クリームは、水の 中に あぶらの つぶが ういた すがたです。かきまぜて いくと、これが ひっくりかえって、あぶらの 中に 水の つぶが ちらばった すがたに かわります[3]。マヨネーズは 水の 中に あぶらが ちらばって いるので、バターは その ぎゃくです[4]。マヨネーズの メモも どうぞ。

日本の法令では、バターは、生乳などから得られた脂肪の粒を練圧れんあつしたもの、つまり集めて練ったものと決められています。乳脂肪分は80%以上、水分は17%以下です[2]。牛乳をそのまま固めたものではなく、牛乳の中の脂肪を取り出して作ったもの、ということです。

作り方はこうです。乳脂肪が35〜40%ほどのクリームを、10℃以下で激しくかき混ぜます。すると、脂肪のつぶ(脂肪球)を包んでいた膜のたんぱく質がはがれ、つぶどうしがくっついて、大豆ぐらいの大きさのバター粒になります[1]。この粒を集めて練ると、バターです。

量にも驚きます。200gのバターに、生乳が約4.2〜4.4Lいります。1kgに直すと約21〜22Lです(4.2÷0.2=21、4.4÷0.2=22の計算)[1]。

この間に、脂肪のようすはひっくり返っています。クリームは水の中に脂肪のつぶが散らばった形ですが、バターは脂肪の中に水のつぶが散らばった形です[3]。日本油化学会の資料は、生クリームとマヨネーズを前者(水の中に油:O/W型)、バターとマーガリンを後者(油の中に水:W/O型)に整理しています[4]。乳化そのものの話は、マヨネーズのメモにあります。

厚生省令(乳及び乳製品の成分規格等に関する命令)は、バターを、生乳・牛乳などから得られた脂肪粒を練圧れんあつしたものと定める。成分規格は、乳脂肪分80.0%以上、水分17.0%以下だ[2]。

製法は、乳脂肪35〜40%に調整したクリームを、10℃以下で激しく攪拌かくはんする。脂肪球を包む膜のたんぱく質が外れて脂肪球が凝集し、大豆ほどの大きさのバター粒ができる[1]。粒を集めて練る工程が、練圧にあたる。

ここで、乳脂肪の状態が入れ替わる。撹拌前のクリームは水中油滴型(O/W)で、バターは油中水滴型(W/O)だ。日本乳業協会はこれを相転換と説明し、練りは、できた状態を安定させる作業だとする[3]。マヨネーズや生クリームはO/W型、バターとマーガリンはW/O型に分類される[4]。乳化の一般論はマヨネーズのメモに譲り、ここでは「向きが逆になる」点だけを押さえておく。

原料の量は、200gのバターに生乳約4.2〜4.4Lだ。1kgあたりでは約21〜22Lになる(4.2÷0.2=21、4.4÷0.2=22)[1]。「牛乳1Lからバター200g」ではなく、1L入りの牛乳パック4本強にあたる。

2. 牛にゅうは 白いのに、バターは どうして 黄色いの?

2. 白い牛乳から、黄色いバターが生まれるわけ

2. 牛乳の白さとバターの黄色 ── 脂肪球の膜とカロテン

牛にゅうは まっ白です。ところが、バターは 黄色い。どうしてでしょう。

牛にゅうの あぶらは、小さな つぶに なって、うすい まくに つつまれて います。この つぶが 光を あちこちに はねかえすので、牛にゅうは 白く 見えます。バターを つくる ときに まくが やぶれると、あぶらの もとの 黄色が 出て きます[5]。

黄色の もとは、牛が 食べる 草に ある カロテンです。夏に 青い 草を たくさん 食べた 牛の バターは 色が こく、冬に ほし草を 食べると うすく なります[5]。バターの 黄色は、季節きせつで かわる、もともとの 色です。

では、バターの かわりに つくられた マーガリンは、なに色だったのでしょう。それは 6の おはなしで。

牛乳が白いのは、脂肪のつぶが膜に包まれて、光を散らすからです。バターにする工程で膜が破れると、乳脂肪がもともともっている黄色が現れます[5]。

その黄色のもとは、牛が食べる草に多いカロテンです。夏に青草をたくさん食べた牛のバターは黄色が濃く、冬に干し草を食べると薄くなります[5]。バターの黄色は、季節で変わる、もともとの色です。

この黄色は、6章でもう一度出てきます。

牛乳が白いのは、脂肪球が膜に包まれて光を散乱させるためだ。バターにする過程で膜が破れると、乳脂肪本来の黄色が現れる[5]。

黄色の元は、牛が食べる青草に豊富なカロテンで、夏に青草を多く食べた牛のバターは色が濃く、冬に乾草を食べると薄くなる[5]。バターの黄色は、季節で変わる自然の色でもある。この「色」が、6章の主題になる。

3. マーガリンは、なにから できて いるの?

3. マーガリンは「植物の油だけ」ではない

3. JASの定義 ── 油脂80%以上、乳脂肪40%未満、水分17.0%以下

マーガリンは、あぶらに 水を まぜて、ひやして かためた ものです[6]。バターは 牛にゅうの あぶらですが、マーガリンは いろいろな あぶらを つかいます。日本マーガリン工業会の せつめいでは、大豆や なたね、コーンなどの しょくぶつの あぶらが 6わり ちょっと。ほかに、さかなの あぶらや、ぶたや 牛の あぶらも つかわれます[7]。

じつは、マーガリンにも 牛にゅうの せいぶんが 入る ことが あります。きまりでは、牛にゅうの あぶらが 4わり みまんなら、入って いても よい ことに なって います[6]。ですから「バターは 牛にゅう、マーガリンは しょくぶつ」と きっぱり わけると、すこし ちがいます。

つくりかたも ちがいます。バターは、よく ひやした クリームを かきまぜます。マーガリンは、あぶらに 水を くわえて、50〜60どの あたたかさで まぜて から、きゅうに ひやしながら ねって かためます[8]。

マーガリンは、日本農林規格(JAS)で、乳脂肪を含まない、または乳脂肪を主な原料としない食用油脂に水などを加えて乳化し、急に冷やしながら練り合わせたもの、と決められています。油脂は80%以上です[6]。

数字だけ見ると、バターにそっくりです。バターは乳脂肪80%以上・水分17%以下、マーガリンは油脂80%以上・水分17%以下。ちがいは、その油脂がどこから来るかにあります。

原料は、日本マーガリン工業会の説明では、大豆油・なたね油・コーン油・パーム油などの植物油が60%強で、ほかに魚の油や、国産の豚脂・牛脂も使われます[7]。しかもJASは、乳脂肪が40%未満なら、乳製品を原料に使ってよいとしています[6]。「バターは乳、マーガリンは植物」と二つに分けると、規格の実際とは少しずれます。

油脂が80%に満たないものは、ファットスプレッドと呼ばれます。果物やチョコレート、ナッツのペーストなどで風味をつけたものも、この仲間に入ります[6]。

作り方も対照的です。バターは冷やしたクリームをかき混ぜますが、マーガリンは、油に水の部分を加えて50〜60℃でかき混ぜて乳化し、そのあと急いで冷やしながら練り合わせて固めます[8]。

マーガリン類の日本農林規格(JAS)は、マーガリンを、乳脂肪を含まない、または乳脂肪を主原料としない食用油脂に水等を加えて乳化し、急冷練り合わせをした、油脂含有率80%以上のものと定義する。乳脂肪含有率は40%未満、水分は17.0%以下。原材料には食用油脂のほか、乳及び乳製品、食塩、カゼイン及び植物性たん白、砂糖類、香辛料が挙がる[6]。

数字だけを並べると、バター(乳脂肪分80.0%以上、水分17.0%以下)とマーガリン(油脂80%以上、水分17.0%以下)はよく似ている。違いは、その油脂の出どころと作り方にある。

油脂含有率が80%未満のものはファットスプレッドに分類され、果実、チョコレート、ナッツ類のペーストなどの風味原料を加えたものも含まれる[6]。

原料油脂について、日本マーガリン工業会は、大豆油・なたね油・コーン油・パーム油などの植物油が60%強を占め、ほかに魚油や国産の豚脂・牛脂が使われると説明する[7]。JASが乳脂肪40%未満の乳製品を認めていることとあわせると、「バターは乳、マーガリンは植物」という二分法は、規格の実際とずれる。

工程も対照的だ。バターは10℃以下のクリームを攪拌するが、マーガリンは原料油脂に水相を加えて50〜60℃で攪拌・乳化し、急速に冷やしながら練り合わせて固める[8]。JASの定義にも「急冷練り合わせ」が入っている。

4. マーガリンは、牛の まねから はじまったの?

4. ナポレオン3世の懸賞と、「牛のまね」から始まったマーガリン

4. メージュ=ムーリエの特許(1869年)と「マルガリン酸」という名前

むかし、フランスの 皇帝こうていナポレオン3世は、海ぐんの ふねや、まずしい 人たちの ために、やすくて ながもちする バターの かわりを さがして いました。1860年代の ことと つたえられて います[9][10]。

これに こたえた 一人が、フランスの かがくしゃ メージュ=ムーリエさんです。かれは、こう かんがえました。「牛は、あまり 食べられない ときでも、牛にゅうの あぶらを だす。なら、牛にゅうの あぶらは、からだの あぶらから できる はずだ」。そこで、牛の あぶらに、牛の いぶくろや 乳房にゅうぼうの そしきを まぜて、牛の からだの 中で おきる ことを まねしようと しました[10][9]。これは その ころの 考えで、いまの かがくの せつめいと おなじとは かぎりません。

1869ねんに とっきょを とった この あぶらは、「マーガリン」と よばれます[11]。名前は、「しんじゅ」を いみする ギリシャ語に ちなんだ「マルガリン酸さん」という あぶらの なかまから きて います。ところが あとで、この「マルガリン酸さん」は、べつべつの 2つの あぶらが まざった ものだと わかりました[12]。「しんじゅ」の 名前の ものが、まざりものだったのです。

日本には、明治めいじの なかごろに 入って、はじめは「じんぞうバター」と よばれたそうです。「マーガリン」と よぶように なったのは、1950ねんだいの はじめと いわれます[13]。

ところで、牛の あぶらは 室温で かたい ものです。いまの マーガリンは、しょくぶつの あぶらが 中心です。水みたいな 油を、どう かためるのでしょう。

1860年代、フランスの皇帝ナポレオン3世は、海軍や庶民のために、安くて長持ちするバターの代用品を懸賞で募ったと伝えられます。ただし、懸賞が出された年は、資料によって1866年とも1869年とも書かれていて、そろっていません[9][10]。

この課題に取り組んだ一人が、フランスの化学者メージュ=ムーリエです。彼はこう考えました。牛は十分に食べられないときにも乳の脂肪を出す。ならば乳脂肪は、体の脂肪から作られるはずだ。そこで牛脂を刻み、動物の胃や、牛の乳房の組織などと混ぜて、牛の体の中で起きていることを再現しようとしました[10][9]。これは当時の推測で、現在の理解と同じとはいえません。

1869年、彼はフランスで、動物由来の脂肪の処理についての特許を取りました。原料は牛脂と脱脂乳などです[11]。

「マーガリン」という名前は、19世紀のはじめに見つかった「マルガリン酸」に由来し、ギリシャ語で真珠を意味することばにちなんでいます。ところが1853年に、この物質は実はパルミチン酸とステアリン酸という2つの脂肪酸の混ざったものだと示されました[12]。真珠にちなんだ名前の物質が、混ぜ物だったわけです。

日本には明治の中ごろに入り、はじめは「人造バター」と呼ばれました。「マーガリン」という呼び名になったのは、1950年代のはじめとされます[13]。雪印メグミルクは、1968年に発売したやわらかいタイプの「ネオソフト」のころに、パンとマーガリンの朝食が定着したと説明しています[14]。

さて、最初のマーガリンは牛脂が原料でした。牛脂は室温で固いのに、いまの原料は植物油が中心です。液体の油を、どうやって固めるのでしょうか。

1869年、フランスの化学者メージュ=ムーリエは、動物起源の脂肪の処理に関するフランス特許(第86,489号)を取得した。原料は牛脂と脱脂乳などだ[11]。

背景に、ナポレオン3世が海軍や庶民のために安くて日持ちするバターの代用品を懸賞で募ったことがあるとされる。ただし懸賞の年は、資料によって1866年とも1869年とも書かれ、そろっていない[9][10]。

着想は、「牛は十分に食べられないときにも乳脂肪を出す。だから乳脂肪は体の脂肪から作られるはずだ」というものだった。牛脂を刻み、動物の胃や牛の乳房の組織などと混ぜて、牛の体内の変換を再現しようとした[10][9]。これは当時の推測で、現在の理解と同じとは書けない。

名前は、19世紀の初めにシュヴルールが動物脂から見つけた「マルガリン酸」に由来する。ギリシャ語で真珠を意味する語にちなむ。1853年にハインツが、これはパルミチン酸とステアリン酸の混合物だと示した。いまマルガリン酸と呼ばれるのは炭素17個の別の脂肪酸で、反すう動物の脂肪や乳脂肪にごく微量ある[12]。

特許の権利はオランダのユルゲンス社(のちのユニリーバの一部)に売られ、米国特許は1873年に出た(第146,012号)[9]。

日本へは明治の中ごろに入り、当初は「人造バター」と呼ばれた。「マーガリン」への呼称変更は1950年代のはじめとされる[13]。雪印メグミルクは、1968年に発売したソフトタイプの「ネオソフト」のころに、パンとマーガリンの朝食が定着したと説明している[14]。

最初の原料は牛脂だったが、いまの原料油脂は植物油が60%強を占める[7]。室温で固い牛脂から、液体の植物油へ。液体の油を固める仕組みが、次の章の主題だ。

5. 水みたいな 油が、どうして かたまるの?

5. 液体の油を固める ── 分子の形と水素添加

5. 脂肪酸の形と融点、水素添加(1901年)、いまの固め方

油が かたいか やわらかいかは、油を つくって いる 小さな つぶの「かたち」で きまります。この つぶは、ほそながい かたちを して います。まっすぐな えんぴつは、はこに ぎゅっと つまります。まがった 木の えだは、すきまだらけです。油も おなじで、つぶが まっすぐなら かたまりやすく、まがって いると かたまりにくい のです[15]。ただし ほんとうの つぶは 目に 見えず、えんぴつや 木の えだとは ちがう ものです。

そこで、水そ という 小さな ものを くっつけて、かたまりやすい かたちに する 方ほうが あります。「水素添加すいそてんか」と いって、1901ねんに ドイツの ノルマンさんが はじめて 実けんしました[16]。水そで 重く なって かたまる わけでは なく、つぶの かたちが かわるのです[17]。

いまは、水そを つかわない かためかたも あります。あぶらの つなぎかたを くみかえたり、とける 温度の ちがいで あぶらを わけたり します[18]。

油の正体は、脂肪酸という細長い分子が集まったものです。この脂肪酸の形によって、室温で液体になるか、固体になるかが決まります。

たとえば、ステアリン酸は途中に折れ曲がりのもとになる「二重結合」がなく、固体がとけ始める温度(融点)は約69℃です。オレイン酸は二重結合が1つで、融点は約13〜16℃です[19]。まっすぐな鉛筆は箱にぎっしり詰まりますが、曲がった枝はすき間だらけになります。分子の形も、そんなふうに詰まりやすさを左右する、というイメージです。ただし本物の分子は目に見えず、鉛筆や枝とはちがうものです。

もっと不思議なのは、同じ原子でできているのに、形だけが違う場合です。二重結合のまわりの向きで、「シス型」は折れ曲がり、「トランス型」はまっすぐに近い形になります。オレイン酸(シス型)は融点が約13℃、同じ組成のエライジン酸(トランス型)は約43℃と、30℃も差があります[15]。

液体の油を固める方法の一つが、水素添加です。二重結合に水素をつけて二重結合の数を減らすと、固まりやすい脂肪酸の割合が増えます。この過程で、トランス型ができることがあります[17]。油が水素で「重く」なるのではなく、分子の形が変わって、固まりやすくなるのです。

この技術を最初に実験したのは、ドイツのノルマンです。1901年2月27日にオレイン酸で実験し、1902年に特許を出しました。1909年にイギリスのウォリントンで大規模に工業化され、1914年には世界に20を超える工場がありました[16]。

いまは、水素添加だけが固める方法ではありません。脂肪酸の付き方を組み替える「エステル交換」や、融点の差で油を分ける「分別」でも固さを調整できます。日本のメーカーは、部分的に水素添加した油脂をなるべく使わない方向に移っている、と農林水産省は紹介しています[18]。

油脂の固さは、構成する脂肪酸の形で決まる。融点で比べると、飽和脂肪酸のステアリン酸(炭素18)は69.3℃、二重結合が1つのオレイン酸は13.4℃または16.3℃と、資料で幅がある[19]。二重結合の向きも関わる。シス型は折れ曲がり、トランス型はまっすぐに近い。同じ分子構成のオレイン酸(シス)とエライジン酸(トランス)で、融点は約13℃と約43℃と、30℃も違う[15]。

脂肪酸の種類と融点
脂肪酸二重結合融点(℃)
ステアリン酸なし(飽和)約69
オレイン酸1つ(シス型)約13〜16
エライジン酸1つ(トランス型)約43

水素添加は、液体の油の不飽和脂肪酸の二重結合に水素を付けて数を減らし、飽和脂肪酸の割合を増やして固くする加工だ。この過程でトランス脂肪酸ができることがある[17]。

年代は、ノルマンが1901年2月27日にオレイン酸をニッケル触媒で水素化する最初の実験を行い、1902年に特許を出願した。先行するサバティエの研究(1899年)は、揮発しにくい液体には使えなかった。1909年に英国ウォリントンのクロスフィールド社で大規模に工業化され、1914年には世界に20超の工場があった[16]。

ただし、いまのマーガリンが水素添加で固められているとは限らない。脂肪酸の付き方を組み替えるエステル交換や、融点の差で分ける分別でも固さは調整でき、日本のメーカーは部分水素添加油脂をなるべく使わない方向に移っている[18]。

バターの側にも触れておく。乳脂肪には400種類以上の脂肪酸があり、主に約20種でできている。酪酸など短い脂肪酸が、牛乳・乳製品に特徴的だ[20]。また牛や羊では、胃の中の微生物の働きでトランス脂肪酸ができるため、乳製品や牛肉・羊肉にも微量が天然に含まれる[17]。トランス型の分子は、人工物だけにあるものではない。健康面の評価は、このメモでは扱わない。

6. マーガリンは、なに色に して よかったの?

6. 黄色は禁止の州、ピンクを求めた州 ── アメリカの色の騒動

6. 州法と色 ── ニューハンプシャーのピンク、ウィスコンシンの黄色禁止(1895〜1967年)

バターの 黄色は、牛が 食べる 草の 色でした。では、マーガリンの 色は、だれが きめるのでしょう。むかしの アメリカでは、色を 法律ほうりつで きめようと した ところが ありました。

ニューハンプシャー州には、マーガリンの なかまは「ピンク色」でないと うっては いけない、という 法律ほうりつが ありました。1898年5月23日に、アメリカの さいこうさいばんしょが、この 法律ほうりつは じじつ上、うる ことを ゆるさない のと おなじだと して、しりぞけました[21]。

ウィスコンシン州では、1895年に 黄色い マーガリンを つくる ことも うる ことも できなく なりました。この 色の きんしが なくなったのは、1967年です。72ねんも あとの ことです。そのあいだ、白い マーガリンに 黄色い 色の ふくろを 手で まぜて つかった 人も いたそうです。となりの イリノイ州まで かいに いった 人の はなしも、とうじの きじや 話に のこって います[22]。

いまも ウィスコンシン州では、レストランが 色つきの マーガリンを バターの かわりに 出すのは、おきゃくさんが たのんだ ときだけと 決められて いる、と 2023ねんの きじは つたえて います[22]。

バターの黄色は、牛が食べる草の色でした。では、マーガリンの色は、だれが決めるのでしょうか。昔のアメリカでは、法律で色を決めようとした州がありました。

ニューハンプシャー州には、バターの代用品のマーガリンは「ピンク色」でなければ売ってはいけない、という州法がありました。1898年5月23日、連邦最高裁判所は、この州法は事実上の販売禁止にあたるとして退けました[21]。

ウィスコンシン州は、1895年に黄色いマーガリンの製造と販売を禁じ、黄色の禁止がなくなったのは1967年です。72年も続いたことになります。そのあいだ、白いマーガリンに黄色い色素の袋を手でもみ混ぜて使った人もいました。隣のイリノイ州まで買いに行った例も、当時の証言や報道に残っています[22]。

2023年の記事によれば、いまもウィスコンシン州法では、飲食店が色つきのマーガリンをバターの代わりに出すのは、客が注文した場合を除いて禁止されています[22]。

1898年5月23日、米連邦最高裁は、ニューハンプシャー州の「オレオマーガリンの代用品はピンク色でなければならない」という州法を、事実上の販売禁止にあたるとして退けた(Collins v. New Hampshire, 171 U.S. 30)[21]。

ウィスコンシン州は、Wisconsin Watchの記事によれば、1895年に黄色いマーガリンの製造・販売を禁じ、1967年に黄色の禁止をなくした(マーガリン全般の解禁ではなく、色の禁止の撤廃である)。72年間だ。規制の始まりを1881年とする資料もあり、年の書き方は分かれる。禁止のあいだ、買い手は白いマーガリンに黄色い色素の袋を手で混ぜ込んで使った、という住民の証言がある。隣のイリノイ州まで買いに行った例も、報道に残っている[22]。

2023年の同記事は、現行のウィスコンシン州法で、飲食店が色つきのマーガリンをバターの代わりに出すことは、客が注文した場合を除いて禁止されていると伝える[22]。

7. 牛にゅうが あるのに、バターが たりなくなるの?

7. バター不足で見えた、生乳の使い道の順番

7. 2014年のバター不足と、生乳の「需給調整弁」

2014ねんの あきから ふゆに かけて、日本では、おみせで バターが すくなく なりました[23]。農林水産省のうりんすいさんしょうは、その前の 年の あつい 夏の えいきょうや、牛の かずが へって いた ことで、牛にゅうの もとの 生にゅうが へった こと、そして、たりなく なるかもと 思った 人が、うちで つかう ぶんを おおく かった ことを、りゆうに あげて います[23]。

生にゅうは いたみやすいので、まず いちばん あたらしさが たいせつな 牛にゅうや 生クリームに つかわれます。あまった ぶんが、ながく もつ バターや、ほかの ミルクせいひんに なります[23]。

この じゅんばんだと、生にゅうが へった ときに、バターに まわる ぶんは へりやすい、と かんがえられます。これは、このメモの 読みかたです。1の おはなしで、バター1こに 牛にゅうパック 4ほん いじょう つかう ことを 思いだして ください。

2014年の秋から年末にかけて、日本では店頭でバターが品薄になりました[23]。農林水産省は、前年の猛暑の影響や乳牛の頭数の減少で生乳の生産が減ったこと、供給が不安になって家庭用の購入が増えたことを、理由にあげています[23]。

この説明には、生乳の使い道の順番が出てきます。生乳は傷みやすいので、まず鮮度がいちばん求められる牛乳や生クリームなどに回され、最後に、保存のきくバターや脱脂粉乳だっしふんにゅうになります。バターは生乳の「需給調整弁」の役目をしている、と省は説明しています[23]。

この順番だと、生乳が減ったとき、最後のバターに回る分が減りやすい、と考えられます。これはこのメモの読みです。1章で見たように、バター200gには1Lの牛乳パック4本強の生乳がいります。

2014年秋から年末にかけ、日本の店頭でバターが品薄になった。農林水産省は、2013年の猛暑の影響と乳牛の頭数減少で生乳の生産が減ったこと、供給不安から家庭用の購入が増えたことを理由に挙げた[23]。

同じ資料が、生乳の使い道の順番を説明する。生乳は非常に傷みやすいため、まず最も鮮度が求められる牛乳や生クリームに加工され、最後に保存性の高いバターや脱脂粉乳に加工される。バターは、生乳の需給調整弁の役割を果たしている[23]。

この順序では、生乳が減ったとき、最後のバターに回る分が減りやすいと読める。これは資料の主張ではなく、このメモの解釈だ。1章の数字(バター200gに生乳約4.2〜4.4L)も、この読み方と矛盾しない。

8. バターと マーガリンの 箱を 見くらべて みよう

8. 自分でも調べてみたくなったら

8. 自分でも調べてみたくなったら

おうちの 人と いっしょに、冷蔵庫れいぞうこに バターと マーガリンが あれば、はこや ふたの「原材料名げんざいりょうめい」を 見くらべて みましょう。マーガリンに 牛にゅうの せいぶんの ことばが 書いて ある ことも あります。「ファットスプレッド」と いう 名前の ものが 見つかったら、あぶらの りょうが 8わり みまんの なかまです。

なければ、おみせの たなを 見る だけでも だいじょうぶです。

バターとマーガリンの違いは、家の冷蔵庫と、台所でできる実験で確かめられます。

  1. 冷蔵庫や店の棚で、バターとマーガリンの箱の「原材料名」を見比べます。マーガリンの原材料に乳製品が書かれているか、油脂は何が並んでいるかを探します。「ファットスプレッド」と書かれた商品があれば、油脂が80%より少ない仲間です。
  2. 牛乳アレルギーがなく、大人といっしょにできるなら、家でバターを作る方法があります。条件は、パックの表示で「種類別」がクリームのものをよく冷やして使うこと、ふた付きの清潔な容器を使うこと、の2つです。容器に入れて、音がしなくなるまで激しく振ります。植物性脂肪などが入ったものは使えない、と出典は説明しています。作ったバターは、その日のうちに食べきるよう注意されています[24]。

原典を読むなら、JASの本文には、80%、40%、17%の数字が並んでいます[6]。

いちばん手軽なのは、店頭の原材料表示を見比べることだ。バター、マーガリン、ファットスプレッドと表示された商品を並べて、JASの油脂含有率80%という境目や、マーガリンの原材料に乳及び乳製品が並ぶ商品があるかを、照らし合わせられる。

手を動かすなら、家庭でのバター作りがある。よく冷やした種類別クリーム(植物性脂肪や乳化剤入りの「乳等を主要原料とする食品」は不可)を蓋付きの清潔な容器に入れ、音がしなくなるまで激しく振る。作ったバターは当日中に食べきるよう、タカナシ乳業の案内は注意している[24]。牛乳アレルギーの人には勧められない。植物性のクリームでは作れないのは、1章のとおり、バターが乳脂肪の粒を集めたものだからだ。

一次資料に当たるなら、JASの本文[6]と、ニューハンプシャー州法の判決文[21]がある。同じマーガリンに、規格は数字で、州法は色で、条件をつけている。

しらべた ところ

参考にした情報源

参考にした情報源

出典について:厚生省令、農林水産省、Jミルク、日本乳業協会、日本マーガリン工業会、日本油化学会は、公的機関や業界団体の資料です。ほかに、海外の研究団体・図書館・大学の解説、裁判所の判決文、報道や企業の記事を使いました。

  1. Jミルク「バターの製造方法」(findNew)。 https://www.j-milk.jp/findnew/chapter3/0402.html (バターの製法と、生乳の必要量)
  2. 厚生省令「乳及び乳製品の成分規格等に関する命令」。 https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=78333000&dataType=0&pageNo=1 (バターの定義と成分規格)
  3. 日本乳業協会「乳と乳製品のQ&A」バターの製造。 https://nyukyou.jp/dairyqa/2107_031_429/ (クリームからバターになるときの、脂肪の状態の入れ替わり)
  4. 日本油化学会 オレオサイエンスフェア「マヨネーズやマーガリンはどのように作る?」。 http://jocs.jp/OSfair/pdf/oleo_B.pdf (水の中の油(O/W)と油の中の水(W/O)の分類)
  5. 日本乳業協会「乳と乳製品のQ&A」バターの色。 https://nyukyou.jp/dairyqa/2107_096_396/ (牛乳の白さ、バターの黄色とカロテン)
  6. 農林水産省「マーガリン類の日本農林規格」。 https://www.maff.go.jp/j/jas/jas_kikaku/pdf/kikaku_11_maaga_160224.pdf (マーガリンとファットスプレッドの定義、数値の基準)
  7. 日本マーガリン工業会「マーガリンってなに」。 https://j-margarine.com/kiso/what/ (マーガリンの原料油脂)
  8. 日本マーガリン工業会「マーガリンができるまで」。 https://j-margarine.com/kiso/flow/ (マーガリンの工程)
  9. AOCS「Hippolyte Mège (1817-1880)」。 https://www.aocs.org/resource/hippolyte-mege-1817-1880/ (メージュ=ムーリエの懸賞、着想、特許の権利)
  10. McGill Office for Science and Society「How did Margarine Come About?」。 https://www.mcgill.ca/oss/article/nutrition-history/how-did-margarine-come-about (牛の乳脂肪についての彼の考えと、最初の作り方)
  11. Hagley Library「This week marks a milestone in food history」。 https://www.hagley.org/research/news/hagley-vault/week-marks-milestone-food-history (1869年のフランス特許)
  12. Wikipedia「Margaric acid」。 https://en.wikipedia.org/wiki/Margaric_acid (マーガリンの名前の由来)
  13. ITmedia の記事(マーガリンの日本での呼び名)。 https://www.itmedia.co.jp/makoto/articles/1502/24/news020_3.html (「人造バター」という呼び名と、呼び名の変更)
  14. 雪印メグミルク「マーガリン誕生秘話」。 https://www.meg-snow.com/fun/academy/margarine/story/ (ソフトタイプの発売と朝食の広がり(企業自身の説明))
  15. 農林水産省「トランス脂肪酸とは」。 https://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/trans_fat/t_kihon/trans_fat.html (シス型とトランス型の形と融点)
  16. AOCS「Wilhelm Normann (1870-1939)」。 https://www.aocs.org/resource/wilhelm-normann-(1870-1939) (水素添加の最初の実験と工業化の年)
  17. 農林水産省「すぐにわかるトランス脂肪酸」。 https://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/trans_fat/t_wakaru/ (水素添加のしくみ、反すう動物の脂肪)
  18. 農林水産省「食品中のトランス脂肪酸の低減」。 https://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/trans_fat/t_torikumi/red.html (エステル交換・分別など、水素添加以外の方法)
  19. PubChem(ステアリン酸・オレイン酸の融点)。 https://pubchem.ncbi.nlm.nih.gov/rest/pug_view/data/compound/5281/JSON?heading=Melting+Point (融点の数値)
  20. 明治の食育「バターの栄養」。 https://www.meiji.co.jp/meiji-shokuiku/know/lovable-milk/butter/nutrition/ (乳脂肪の脂肪酸の種類)
  21. Collins v. New Hampshire, 171 U.S. 30 (1898)(FindLaw)。 https://caselaw.findlaw.com/court/us-supreme-court/171/30.html (ピンク色の州法についての連邦最高裁の判決)
  22. Wisconsin Watch の記事(2023年3月。ウィスコンシン州の飲食店とマーガリンの規制)。 https://wisconsinwatch.org/2023/03/is-it-illegal-for-wisconsin-restaurants-to-replace-butter-with-margarine-unless-a-customer-requests-it/ (黄色いマーガリンの規制と、現在の州法)
    あわせて、Wisconsin Public Radio「I can't believe it's not yellow: A peek at Wisconsin's quirky margarine laws」(黄色い色素を混ぜた話や、イリノイ州側で買った話)。 https://www.wpr.org/justice/i-cant-believe-its-not-yellow-peek-wisconsins-quirky-margarine-laws
    Wisconsin Legislative Reference Bureau のオレオマーガリン立法についての報告(1965年3月)。 https://static.staterevenue.org/pdf/WI%20Developments%20in%20Oleomargarine%20Legislation%20March%201965.pdf
  23. 農林水産省「バター不足に関するQ&A」(平成27年10月)。 https://www.maff.go.jp/j/chikusan/gyunyu/pdf/butterqa.pdf (2014年のバター不足の理由と、生乳の使い道の順番)
  24. タカナシ乳業「手作りバター」。 https://www.takanashi-milk.co.jp/manabi/waku-waku-recipes/handmade-butter (家庭でのバター作りの手順と注意)

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