1. つきへ いった コンピュータと、4ドルの いたを くらべると?
1. アポロ誘導コンピュータと4ドルの基板を、数字で並べてみる
1. AGCとRP2040の仕様値の比 ── RAM約66倍・クロック約65倍
つきへ いった アポロの コンピュータは、クロック(うごく はやさの めやす)が 2.048メガヘルツ、メモリは やく 4キロバイトでした[1][2]。おもさの めやすは やく 32キログラムです[1]。
ラズベリーパイ ピコという いたの チップ(RP2040)は、クロックが さいだい 133メガヘルツ、メモリは 264キロバイトです[3]。この いたは「4ドルから」と しょうかいされて います[4]。
メモリは 264÷4で 66ばい、クロックは 133÷2.048で やく 65ばいです。ただし、これは 数字の くらべっこで、66ばい はやい という いみでは ありません。コンピュータの つくりが ちがうからです。
ピコの チップは、ほんとうは どんな ものなのでしょう。
RAMは約66倍、クロックは約65倍
月へ行ったアポロ誘導コンピュータ(AGC)は、クロックが2.048MHz、RAMにあたる書き換えできるメモリが2048ワードでした。1ワードが16ビットなので、約4キロバイトになります。読み出し専用のメモリは36,864ワードで、約72キロバイトです。質量は約32kgありました[1][2]。
一方、Raspberry Pi PicoのチップRP2040は、クロックが最大133MHz、チップの中のSRAMは264キロバイトです[3]。基板は公式ページで「4ドルから」と案内されています[4]。
数字を割ると、RAMは264÷4で66倍、クロックは133÷2.048で約65倍です。ただしこの比は、仕様の数字どうしを並べただけです。命令の種類や1回に扱うビットの数が違うので、「66倍速い」とは言えません。また、RP2040のクロックは最大値です。
この基板の主役は何か
基板に載っているRP2040は、マイクロコントローラと呼ばれる種類のチップです。パソコンのチップとは、何が違うのでしょうか。
AGCは、クロック2.048MHz、RAM2048ワード(1ワード16ビットなので約4KB)、ROM36,864ワード(約72KB)、質量約32kgという構成だった[1][2]。これに対し、Raspberry Pi PicoのRP2040は、デュアルコアのArm Cortex-M0+で最大133MHz、オンチップSRAMは264kBである[3]。基板にはさらに2MBのフラッシュメモリが載り、「4ドルから」と案内されている[4]。
数値の比は、RAMが264÷4=66倍、クロックが133÷2.048≒65倍になる。プログラムの置き場も、AGCのROM約72KBに対して、Picoのフラッシュは2MB(2,048KB)で約28倍になる。ただし、これらは仕様値どうしの比にすぎない。命令の種類もビット幅も違うので、性能の比として読むことはできない。RP2040のクロックは最大値であり、価格も時期や版で変わる。
それでも、月へ行く機械にあった規模が、手のひらの基板に収まっているのは確かだ。ではこのRP2040は、普通のパソコンのチップと何が違うのか。
2. ちいさな チップの なかには、なにが はいって いるの?
2. 1つのチップに、頭脳・メモ・出入り口がまとまっている
2. 1つのICに入っているもの ── CPU・ROM・RAM・GPIO
この ちいさな コンピュータを「マイクロコントローラ」、ちぢめて「マイコン」と いいます。1つの チップに、おもな ものが ぜんぶ はいって います[5][6]。
ひとりで なんでも する、ちいさな おみせを おもいうかべて みましょう。おみせの ひとが、かんがえる CPU(ずのう)です。かべの はりがみが ROM、てもとの メモちょうが RAMです。まどぐちが、ほかの きかいと やりとりする「にゅうしゅつりょく」の ぶぶんです。
ただし、これは たとえです。ほんとうの マイコンは、おみせでは なく、でんきで うごく ちいさな チップです。
ラズベリーパイ ピコの チップには、ほかの きかいに つなぐ ピンが 30ぽん あります[3]。この ピンに ブザーや ライトを つなぐと、プログラムどおりに うごかせます。
こんな チップは、いつ、なんの ために つくられたのでしょう。
パソコンより軽い仕事のために
マイクロコントローラ(MCU)は、CPU、ROM(読み出し専用のメモリ)、RAM(書き換えできるメモリ)という基本の部品を、1つのICにまとめたものです。おもちゃや電子レンジの制御のような、あまり重くない仕事に使われます[5]。洗濯機や電話にも使われていると説明されています[6]。
ひとりで何でもこなす小さなお店にたとえると、店員がCPU、壁の貼り紙がROM、手元のメモ帳がRAMです。ほかの機械とやり取りする窓口が、入出力のピンです。もちろんたとえで、実際は電気で動くチップです。
外へつながるピン
RP2040には、外へつなげる汎用の入出力ピン(GPIO)が30本あり、そのうち4本はアナログ入力にも使えます[3]。ピンにブザーやライトをつなぎ、プログラムで鳴らしたり光らせたりするのが、マイコンの基本の使い方です。
では、こうしたチップは、いつ、何のために作られたのでしょうか。
マイクロコントローラ(MCU)は、マイクロプロセッサ(MPU)と同じ種類の基本要素であるCPU・ROM・RAMを1つのICにまとめたもので、おもちゃや電子レンジの制御のような、比較的軽い仕事に向く[5]。洗濯機・電子レンジ・電話などの機器に使われているとも説明される[6]。
外とのやり取りを受け持つのがGPIO(汎用の入出力ピン)で、RP2040には30本あり、うち4本はアナログ入力として使える[3]。ピンの先にブザーやライトをつなぎ、プログラムで制御する形になる。小さな店にたとえるなら、店員がCPU、貼り紙がROM、メモ帳がRAM、窓口がGPIOにあたるが、これは理解のためのたとえにすぎない。
では、なぜこの形のチップが生まれたのか。出発点は、電卓の中にあった。
3. でんたくの チップから、マイコンは うまれたの?
3. 電卓用の1チップ設計から、汎用のマイコンが生まれた
3. 1971年の電卓用設計と1974年のTMS1000 ── 設計の年と発表の年を分けて読む
もとに なったのは、アメリカの テキサス・インスツルメンツ(TI)が 1971ねんに つくった、でんたく用の 1つの チップの せっけいです[5]。つくった ひとの なまえは、ゲイリー・ブーンさんと マイケル・コクランさんです。
その せっけいを もとに、1974ねんに「TMS1000」という マイコンの なかまが はっぴょうされました[5]。でんたく だけで なく、いろいろな ものに つかえる ように した ものです。
ねだんは、たくさん かうと 1こ 2ドルでした[5]。
2ドルの チップは、どんな ところで はたらいたのでしょう。
設計は1971年、発表は1974年
きっかけは電卓でした。アメリカのテキサス・インスツルメンツ(TI)で、ゲイリー・ブーンさんとマイケル・コクランさんが1971年に設計した電卓用の1チップ(TMS1802)が土台になりました。そこから、電卓以外にも使える4ビットのマイコンの一族「TMS1000」が、1974年に発表されました[5]。
「世界初のマイコン」の年は、資料によって1971年とも1974年ともされます。設計の年と、汎用品として発表された年を分けて読むと、食い違いの理由が分かります。
1個2ドルという値段
TMS1000は、大量に買うと1個2ドルでした[5]。それほど安い値段が、次の章で見る使われ方の広がりにつながります。
4. マイコンは、どんな ところに かくれて いるの?
4. おもちゃにも家電にも、プログラムで動くチップがいる
4. 2ドルのTMS1000から車のECUまで ── 使われ方の広がりと数の読み方
TMS1000は、ぼうはんブザーや、ガレージの とびらを あける そうち、ゲーム、おもちゃに つかわれました[5]。「スピーク・アンド・スペル」という おしゃべりの おもちゃにも はいって いました。これで、デジタルの でんしぶひんが、ふつうの ひとの みぢかな ものに なったと いわれます[5]。
いまも、せんたくきや でんしレンジの なかで、マイコンが はたらいて いると せつめいされて います[6]。
くるまにも たくさん はいって います。2012ねんの しりょうでは、1だいの くるまに、うごきを きめる そうち(ECU)が 100こ いじょう あると いわれて います[7]。ただし、ECUは マイコン1こと おなじでは ありません。いまの くるまの かずは、くるまに よって ちがいます。
ふつうの ひとが つかえる ねだんに なった マイコンは、まなぶ ひとにも とどいたのでしょうか。
おしゃべりのおもちゃから防犯ブザーまで
TMS1000は、防犯ブザー、ガレージドアの開閉器、ゲーム、そして「Speak and Spell」のようなおもちゃに使われました。デジタル電子回路を、一般の人の身近なものにしたと説明されています[5]。今も、洗濯機や電子レンジの中で、マイコンが動いていると説明されています[6]。
1台の車には100個以上のECU
自動車にも入っています。2012年に公表されたIPAの資料の報道では、1台の自動車に載る車載コンピュータ(ECU)は100個以上、ソフトウェアは約1,000万行とされます[7]。ただし、ECUは1個がマイコン1個とは限りません。数字は2012年の資料で「言われる」とされたもので、今の車種にそのまま当てはまるとは限りません。
安くなったマイコンは、使う側にも届くのでしょうか。
TMS1000は、防犯ブザー、ガレージドアの開閉器、ゲーム、そして「Speak and Spell」などのおもちゃに使われ、デジタル電子回路を一般の人の身近なものにしたとされる[5]。1個2ドルという値段が、おもちゃのような小さな製品に組みこむ余地を作ったと読める。洗濯機・電子レンジ・電話といった機器でも使われると説明される[6]。
自動車では、1台に載る車載コンピュータ(ECU、電子制御装置)が100個以上、ソフトウェアが約1,000万行と言われる(IPAテクニカルウォッチ第8回、2012年)[7]。ただしECUはマイコン1個と同じ意味ではなく、数字も2012年の資料に基づく。今の車種に当てはめて断定することはできない。
ここまでは、部品の側から見た話である。では、こうしたチップを使う側、つまり学ぶ人や作る人の側には、いつ届いたのか。
5. まなぶ ひとの ための ボードは、どうして うまれたの?
5. 学生が買える値段をめざして、Arduinoは生まれた
5. Arduino(2005年・イブレア)── 約100ドルの壁と、約30ドルの目標
2005ねん、イタリアの イブレアという まちの デザインの がっこう(IDII)で、がくせいが つかえる やすい でんしこうさくの ボードが うまれました。アルドゥイーノです[8]。
そのころの マイコンの ボードは、いたと ぶひんで やく 100ドルも しました[8]。がくせいには たかい ねだんです。そこで、ピザやさんで ごはんを 1かい たべる くらいの ねだん、やく 30ドルを めざしました[8]。これは せっけいの もくひょうで、じっさいの ねだんは かわります。
アルドゥイーノは「だれでも でんしこうさくと デジタルの ぎじゅつに てが とどく ように」することを、もくてきに かかげて います[9]。
約100ドルの壁
2005年、イタリアのInteraction Design Institute Ivrea(IDII)で、学生が使える安い電子工作ボードとして、Arduinoが生まれました[8]。
当時、既存のマイコンボード(BASIC Stamp)は、基板と基本の部品を合わせて約100ドルしました。学生には高い買い物です。そこで目標は、ピザ屋で食事を1回するくらいの値段、約30ドルに置かれました[8]。約30ドルは設計の目標で、実際の販売価格はその後も変わります。
だれにでも手が届くように
Arduinoは、学生・愛好家・芸術家・プログラマー・専門家が使えるオープンソースの電子機器とソフトウェアです。「だれでも電子工作とデジタル技術に手が届く」ことを使命に掲げています[9]。
では、身近なマイコンに、私たちも出会えるのでしょうか。
Arduinoは2005年、イタリアのInteraction Design Institute Ivrea(IDII)で、学生が使える安い電子工作ボードとして生まれた[8]。当時の既存ボード(BASIC Stamp)は基板と基本の部品で約100ドルしたため、学生の手には届きにくかった。そこで目標は「ピザ屋の食事1回ぶん」、約30ドルに置かれた[8]。約30ドルは設計の目標であり、実際の販売価格とは別である。
Arduinoは自らを、学生・愛好家・芸術家・プログラマー・専門家が使うオープンソースの電子機器とソフトウェアと位置づけ、使命は「アクセスしやすい電子機器とデジタル技術で、誰もが暮らしを良くできるようにすること」としている[9]。
1970年代に2ドルのチップが家電やおもちゃの中へ入り、2005年には学ぶ人のためのボードが約30ドルを目標に作られた。次は、手元の身近な道具のどこに、こうしたチップがいるのかを探してみたい。
6. いえの なかで、ちいさな コンピュータを さがして みよう
6. 家の中の「ボタンを押すと動く道具」を探してみよう
6. 出口 ── 家の中の道具を観察し、資料を読みに行く
おうちの なかで、ボタンを おすと うごく どうぐを さがして みましょう。でんしレンジ、せんたくき、おもちゃなどです。なかに ちいさな コンピュータが はいって いそうな ものに、しるしを つけて みます。
ただし、どうぐは ひらきません。ぶんかいすると、けがや こわれる もとに なります。ボタンを おして うごきを みるだけに しましょう。
しるしを つけた どうぐが、どんな ばんごうの チップで うごくのかは、そとからは わかりません。おうちの ひとと「これは どうやって うごくのかな」と はなして みてください。
家の中で、ボタンを押すと動く道具を探してみましょう。電子レンジ、洗濯機、おもちゃなどです。中に小さなコンピュータが入っていそうなものに印をつけます。
ただし、道具は開けません。分解すると、けがや故障の原因になります。外から見て、ボタンを押したときの動きを観察するだけにします。
中のチップの種類は、外からは分かりません。家の人と「これはどうやって動くのだろう」と話してみてください。もっと知りたくなったら、図書館で電子工作の本を探してみるのもよい方法です。
家の中で、ボタンを押すと動く道具を探し、中にマイコンが入っていそうなものに印をつけてみる。ただし分解はしない。外から見えるのは、ボタンへの反応と動きだけで、チップの種類までは分からない。
資料を読むなら、マイコンの定義と1974年のTMS1000はComputer History Museum[5]、RP2040の仕様はRaspberry Piの公式文書[3]、Arduinoの誕生の経緯はIEEE Spectrum[8]が原典に近い。いずれも英語だが、数字と条件がそのまま書かれている。日本語だけで済ませるなら、AGCとRP2040の数字を自分で割り算し直すのもよい。家の電子レンジや洗濯機で、ボタンを押してから動きだすまでの順番を書き出すと、プログラムで動く機械の流れが見えてくる。
古い資料の数字を今に当てはめないよう、年と条件も書きとめておきたい。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
出典について:博物館の資料、Raspberry Piの公式文書、Arduinoの公式ページ、IEEE Spectrumの記事を使った。何に使ったかは、それぞれの項目の最後に書いている。
- Apollo Guidance Computer(Wikipedia)。https://en.wikipedia.org/wiki/Apollo_Guidance_Computer (AGCのクロック・メモリ・重さについて。二次資料)
- arXiv「A Brief Analysis of the Apollo Guidance Computer」。https://arxiv.org/abs/2201.08230 (AGCのROMとRAMの容量について)
- Raspberry Pi Documentation「RP2040」。https://www.raspberrypi.com/documentation/microcontrollers/silicon.html (RP2040のクロック・SRAM・入出力ピンについて)
- Raspberry Pi「Raspberry Pi Pico」。https://www.raspberrypi.com/products/raspberry-pi-pico/ (「4ドルから」の価格案内と、フラッシュメモリについて)
- Computer History Museum「General-Purpose Microcontroller Family is Announced」。http://www.computerhistory.org/siliconengine/general-purpose-microcontroller-family-is-announced/ (マイコンの定義、TMS1000の生い立ちと使われ方について)
- Microcontroller(Wikipedia)。https://en.wikipedia.org/wiki/Microcontroller (マイコンの説明と、洗濯機などでの使用について。二次資料)
- ScanNetSecurity「IPAテクニカルウォッチ第8回」の報道(2012年5月31日)。https://scan.netsecurity.ne.jp/article/2012/05/31/29144.html (車載コンピュータ(ECU)の数について。二次資料)
- IEEE Spectrum「The Making of Arduino」。https://spectrum.ieee.org/the-making-of-arduino (Arduinoが生まれた経緯と、価格の目標について)
- Arduino「About us」。https://www.arduino.cc/en/about (Arduinoの使命について)
なおした ところ
更新履歴
更新履歴(改版の記録)
- 初版を公開。
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