1. おじぎそうを なんかいも おとすと どうなる?
1. 鉢を何百回も落とすと、オジギソウはどうなるのか
1. 繰り返し落下実験 ── 閉じなくなった葉と、振ると閉じる葉
おじぎそうは、さわると はを とじます。では、さわる のでは なく、はちごと ストンと おとしたら、どうなるでしょう。
ある けんきゅうでは、はちを 15センチの たかさから スポンジへ おとしました。5びょうから 10びょうごとに 60かい。それを 1にちに 7かい くりかえしました[3]。
はじめは、おとすたびに はが とじました。でも、くりかえすうちに、とじない ことが ふえて いったと いいます。はちを ふると、また とじました。
どうして とじなく なったのか。それを かんがえる まえに、はが とじる しくみを のぞいて みましょう。
実験では、鉢植えのオジギソウを15cmの高さからスポンジへ落としました。間隔は5〜10秒、60回続けて落とし、それを1日に7セット行いました[3]。計算すると、多い日には1日420回ほど落としたことになります。
最初は、落とすたびに葉が閉じました。ところが繰り返すうちに、落としても閉じなくなったと報告されています。ここで大事なのは、鉢を振ると葉が閉じたことです。閉じる力そのものが尽きたわけではなさそうだ、と考えられました[3]。さらに、28日後に調べ直しても、その反応が残っていたと報告されています。
「落下は無害だ」と学んだのか、それとも動かしすぎて疲れただけなのか。答えを探すには、葉が閉じる体のつくりを知る必要があります。
2. はは どうやって とじるの?
2. 葉を閉じる「関節」は、水の出入りで動く
2. 運動器官(葉枕)の構造と、水の移動による屈曲
おじぎそうの はの つけねには、ふくらんだ ところが あります。ここを、葉枕と いいます[1]。
ここは、みずで うごく ちょうつがいの ようなものです。さわられると、ここに ある さいぼうから みずが おしだされて、しぼみます。そのため、はが ぱたんと おちます[1]。
うごくのは すうびょうです。でも、もとに もどるには 10ぷんから 20ぷんぐらい かかると いわれます[2]。とじるのは はやく、ひらくのは ゆっくりなのです。
オジギソウの葉は、小葉と小葉、小葉と葉柄、葉柄と茎のつけ根に、葉枕という運動器官を持っています。ここが、水の力で曲がる「蝶番」のはたらきをします[1][2]。
触られると、葉枕の細胞からカリウムイオンや塩化物イオンが出ていきます。中と外の濃さの差がくずれるため、細胞の水が押し出されて水圧が下がり、細胞がしぼみます[1]。刺激の後は、葉枕の下側の体積が減り、上側が増えると報告されています。水が下の半分から上の半分へ移るのです[2]。
ここまで数秒。ところが元の位置に戻るには、10〜20分ほどかかります(本によって10〜12分とも約20分とも書かれるため、幅で示します)[2]。閉じるのは速く、開くのは遅い。この差は、あとで論争を読むときのヒントになります。
葉が閉じる場所は、小葉と小葉柄、小葉柄と葉柄、葉柄と茎の各つけ根にある葉枕という運動器官である[1]。刺激が届くと、運動細胞からK⁺とCl⁻が細胞外へ移動し、浸透圧の差がくずれて水が押し出される。その結果、膨圧が下がって細胞がしぼみ、葉が動く[1]。ここでは、葉枕の下側の体積が減って上側が増える、つまり水が下半分から上半分へ移ることで曲がると説明される[2]。
動作は数秒で終わる。だが、元に戻るのには約10〜20分かかる。文献によって10〜12分、約20分と幅があるため、ここでは幅で示す[2]。閉じるのは速く、戻るのは遅い、という非対称は、繰り返し刺激した場合に何が起こるかを考える手がかりになる。
3. さわった ところから、はまで しらせは どう とどくの?
3. 触った合図は、歩くより遅い速さで伝わる
3. 触れた刺激の信号は、どれくらいの速さで伝わるのか
さわった しらせは、でんきと カルシウムの しんごうと なって からだの なかを つたわります[4]。
その はやさは、1びょうに 5ミリメートルぐらいです[4]。あるく はやさより、ずっと ゆっくりです。
しんごうが はの つけねに とどくと、0.1びょうぐらいあとに はが うごきだします[4]。
4. はを とじる ことには、どんな いみが あるの?
4. 葉を閉じると、バッタは食べにくくなる
4. 防御の実験 ── 動かない株はバッタに約2倍食べられた
けんきゅうしゃは、ゲノムへんしゅうと いう ぎじゅつで、おじぎしない おじぎそうを つくりました。しんごうは つたわるのに、はが うごかないのです[4]。
この おじぎしない かぶと ふつうの かぶを、バッタに たべさせて くらべました。おじぎしない かぶは、はの 30パーセントぐらいを たべられました。ふつうの かぶは、15パーセントぐらいです[4]。
おじぎする ほうが、たべられる りょうが はんぶんぐらいに なったのです。バッタが すごした じかんも、みじかく なりました。
研究チームは、葉枕をつくる遺伝子(ELP1B1とELP1B2)をゲノム編集で壊し、「おじぎしないオジギソウ」を作りました。信号は正常に伝わるのに、葉は動きません[4]。
この株と普通の株に、バッタ(オンブバッタの仲間)を放して比べたところ、動かない株は葉の質量の約30.7%を食べられ、普通の株は約15.3%でした。ほぼ2倍の差です。バッタが株にとどまった時間も、動かない株で約143分、普通の株で約80分でした[4]。
報道では、バッタが食べ始めると葉が次々に閉じ、バッタは食べるのをやめて移動したと紹介されています[5]。足場を失うためではないかと考えられていますが、これは推測です。食害がゼロになるわけではなく、およそ半分に減る、というのがこの実験の結果です。
閉じることに、こんなはっきりした意味があるなら、なぜ落とし続けられたときには閉じなくなるのでしょうか。
閉じる意味を検証するため、葉枕を形成する遺伝子ELP1B1とELP1B2をCRISPR-Cas9で破壊した変異体が作られた。この株は運動器官を欠くが、傷への信号伝達は正常に保たれていた[4]。信号の有無と運動の有無を分けられるので、「動くこと」の効果だけを調べられる。
バッタ(オンブバッタの仲間、Atractomorpha lata)に食べさせたところ、変異体は葉の質量の約30.7%、野生型は約15.3%を失った(約2倍)。バッタの滞在時間も変異体で約143分、野生型で約80分だった[4]。動くことで食害が減ることは示されたが、ゼロにはならない。理由として、バッタが足場を失うことなどが報道で挙げられているが、推測の域を出ない[5]。この防御的な意味づけは、落下実験の解釈にも関わる。
5. なれたのか、つかれたのか
5. 「慣れた」のか「疲れた」のか ── 分かれる見方
5. 習慣化説と運動疲労説 ── 何が争点なのか
おとされて とじなく なった おじぎそう。ある けんきゅうしゃは、「もう へいきだと なれた のではないか」と かんがえました。ふると とじたので、ただ つかれた だけでは ない、と いう みかたです[3]。
でも、ちがう いけんも あります。「うごき すぎて つかれた だけでも、せつめいが つく」と いう ものです[6]。
どちらが ただしいのかは、まだ はっきり きまって いません。
落とし続けた実験を行ったグループは、振ると閉じることを根拠に、「落下は危険ではないと慣れた」という見方を示しました[3]。
これに対し、2017年(オンライン公開)にBieglerは、この実験のデータの多くは慣れではなく運動の疲れで説明でき、オジギソウに慣れがあるかどうかは不確かだ、と論じたと紹介されています[6]。
前の章で見たように、この植物の葉は、閉じるのは数秒で速く、戻るのに10〜20分かかります。何度も動かした後に反応が弱まったとき、それが「学んだ」からなのか「体が追いつかなかった」からなのかは、外から見ただけでは決めにくい。そのため見方が分かれているのだと考えられます。
Gaglianoらは、振動で閉じたことから、感覚・運動の疲労ではなく習慣化(非連合学習の一種)と解釈した[3]。これに対しBiegler(2017年にオンライン公開、2018年刊行, Oecologia)は、データの多くは運動疲労で説明でき、オジギソウにおける習慣化の存在は不確かだと論じた[6]。
争点は、「刺激ごとに反応が変わる」ことをどこまで「学習」と呼べるかにある。習慣化と運動疲労は、どちらも「同じ刺激に反応しなくなる」ように見える点が共通する。振動で閉じたという事実は、単純な疲労では説明しにくいと解釈されたが、疲労説の側は、データの多くを疲労で説明できると論じている。
結論は出ていない。ただ、閉じるのが速く戻りが遅いという体のつくり(2章)は、疲労説を検討する際の重要な条件になる。
自分でも しらべて みたく なったら
自分でも調べてみたくなったら
自分でも調べてみたくなったら
おじぎそうが てに はいったら、はを 1まいだけ、そっと ゆびで さわって みましょう。とけいを みて、ひらくまでの じかんを はかります。10ぷんから 20ぷんは かかるかも しれません。
なんども さわったり、はちを おとしたり しては いけません。かぶが よわって しまうからです。
オジギソウが手に入ったら、葉を1枚だけそっと指で触り、閉じてから開くまでの時間を時計ではかってみてください。何分かかるでしょうか。
鉢を落とすなど、株に負担のかかることはしないでください。もう一つ、葉が閉じるまでの数秒と、開くまでの10〜20分をくらべてみてください。「閉じるのは速く、開くのは遅い」ことが、疲れの説明とどうつながるか、自分の言葉で考えてみると面白いでしょう。
観察としては、葉を1枚だけ軽く触り、閉じてから開くまでの時間を計るとよい。文献の10〜20分という幅の中に入るか、株の状態でどう変わるかを見てみる。株に負担をかけるため、繰り返し落下させる追試はしない。
資料としては、Hagiharaら(2022, Nature Communications)、Gaglianoら(2014, Oecologia)、Biegler(2017, Oecologia)が読める。とくにBieglerの論文は、Gaglianoらへの反論なので、あわせて読むと論点が見える。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
本文で使った資料です。
- Mechanical Signaling in the Sensitive Plant Mimosa pudica L. (Plants, 2020) https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7284940 (葉枕の構造・イオンの移動)
- Mimosa pudica pulvinus movement mechanism https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3115350 (水の移動・戻る時間)
- Gagliano et al. (2014) Oecologia https://doi.org/10.1007/s00442-013-2873-7 / 西オーストラリア大学ニュース「Clever plants learn behaviour」(2014) https://news.uwa.edu.au/201404286629/april-2014/clever-plants-learn-behaviour (落下実験の内容)
- Hagihara et al. (2022) Nature Communications https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9663552 (信号の速さ・動かない株・バッタの実験)
- Newswitch「オジギソウ」の報道 https://newswitch.jp/p/39071 (バッタが去った様子の紹介)
- Biegler (2017年オンライン公開, 2018年刊行) Oecologia 186(1), Insufficient evidence for habituation in Mimosa pudica https://doi.org/10.1007/s00442-017-4012-3 (異論の紹介)
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