1. どのくらい ぴったり なの?
1. 大ピラミッドの向きのずれは、100メートル先で約9センチ未満
1. 平均3分角未満という方位精度 ── 古代の方位決定に残された手がかりの少なさ
北から ずれて いる 大きさは、「3分角(ふんかく)」、つまり 1度の 20分の1 より 小さい と いわれます[1]。1度は、とても 小さな 角度です。その 20分の1 ですから、さらに 小さく なります。
もし ずれが ちょうど その 角度だと して、100メートル まっすぐ 歩いて よこに ずれるのは、9センチ ぐらい。これは この 記事で 計算した 数です。ほんとうの ずれは それより 小さい ので、そんなに 小さな ずれで、北が 合って いるのです。
でも、どうやって 北を きめたのか、その やり方を 書いた 文書や 絵は、のこって いません[1]。だから 研究者は、ずれ方から 考えて きました。
角度の単位を、距離にしてみる
ピラミッドの方位は古王国時代のものがとても正確で、中でも最も正確なのがクフ王の大ピラミッドです。四辺が真北からずれる量は、平均で3分角より小さいと報告されています[1]。分角は1度の60分の1で、3分角は1度の20分の1です。別の紹介では「4分角よりよい」と書かれています[2]。
これを距離に直してみます。1度の20分の1は約0.05度です。ずれが3分角ちょうどだと仮定すると、100メートル先で横にずれる長さは、100×tan0.05度で約8.7センチ。実際の平均は3分角より小さいので、8.7センチが上限の目安になります(この記事での計算です)。
作り方の記録は残っていない
ところが、この時代の方位決めを書いた文書や図は、ありません。そのため議論は、ずっと後の時代の資料や、できあがりの精度から考えることになります[1]。では、ずれの大きさ以外に、手がかりはないのでしょうか。
方位の精度は、古王国のピラミッドの中でクフ王の大ピラミッドが最も高く、四辺の真北からのずれは平均3分角未満とされる(Spence 2000)[1]。分角は1度の60分の1で、3分角は1度の20分の1にあたる。Dashは「4分角より良い」と表現している[2]。
角度を距離に直すと、3分角(0.05度)に相当する角度は100m先で約8.7cmの横ずれにあたる(tan0.05°×100mの筆者計算)。平均が3分角未満なので、これは上限の目安である。この精度が、星・太陽のどちらの観測でも原理的に達成できるのかが、論点になる。
ただし、この時代にはピラミッドの方位決定を直接示す文書や図がない。議論はずっと後の時代の文書や図、あるいはできあがった建物の精度の考察に頼ってきた[1]。手がかりの1つが、ずれの変化のしかただった。
2. あとの 王の ピラミッドは どうなの?
2. クフ王のあとは、ずれが大きくなっていく
2. 精度の「ピーク」── クフ王以後に方位精度が下がるという傾向
クフ王の あとの 王の ピラミッドは、北との ずれが だんだん 大きく なって いきます[1]。たとえば カフラー王の ピラミッドは、6分ぐらい ずれると いわれます[5]。
クフ王の ピラミッドは、いちばん よく 合った ところ でした。
もし いつも おなじ かんたんな やり方が あったなら、あとの 王でも 同じ ように 合いそうです。この ことから、スペンスと いう 研究者は、ずっと 同じ やり方を くりかえし つかえた わけでは ないのかも しれない、と 考えました[1]。
3. 星で 北を きめた、という せつ
3. 2つの星を糸で見て、北を決めたのか
3. 周極星と歳差 ── Spence説とBelmonte説
今の 北きょく星のような、北に ある 目じるしの 星は、その ころ ありませんでした[1]。そこで スペンスは、北の 空の 2つの 星に ちゅうもくしました。
2つの 星が、まっすぐ たてに ならぶ しゅんかんが あります。そのとき、おもりを つけた 糸を 星に かさねて 見ると、糸の 下が 北の 向きに なる、という 考えです[1]。
星の ならぶ 向きは、年を おうごとに 少しずつ うごきます。だから、ピラミッドの ずれから、いつ ころ 作りはじめたかも 考えられる、と スペンスは 言いました[1]。
べつの 研究者は、ちがう 星を つかった 考えを 出して います。星で きめたと する せつは、一つでは ありません[3]。
おもり付きの糸と、2つの周極星
当時は、今の北極星のように北を示す星がありませんでした。そこでスペンスは、北の空で一晩中沈まずに回る2つの星、こぐま座のコカブとおおぐま座のミザールに注目しました。この2つが北の地平線の上で縦に並ぶ瞬間に、おもりをつけた糸を重ねて見れば、その向きが真北になる、という提案です[1]。
地球の軸はゆっくり向きを変えるため(歳差)、2つの星が縦に並ぶ向きも時代とともに動きます。スペンスは、ピラミッドごとのずれの変化から、大ピラミッドの着工年を前後5年ほどの幅で推定できるとしました[1]。
別の星を使う案
カナリア天体物理研究所のベルモンテは、スペンス説を検討して、別の案を出しました。おおぐま座の2つの星が真南の線を通る瞬間を観測して、当時の北極星だったトゥバンの位置を求める方法です。この方法なら、方位は紀元前2562年ごろ、つまりクフ王の治世の初めにあたり、スペンスのような年代の修正はいらない、といいます[3]。同じ「星説」でも、研究者によって方法が違います。
当時は北極星のように極を示す星が無かった。ではどう真北を決めたのか。Spenceは、北の空の周極星コカブ(こぐま座)とミザール(おおぐま座)が北の地平線の上で鉛直にそろう瞬間に、錘(おもり)つきの糸で2星を結べば、その方向は真北になるとした[1]。
2星の並ぶ向きは歳差のために時代とともに変わる。そのため、ピラミッド群の方位のずれの変化から、大ピラミッドの着工年を±5年程度で推定できる、というのがSpenceの主張である[1]。ただしこれは提案された仮説で、批判もある。
Belmonteは、おおぐま座のPhecda(フェクダ)とMegrez(メグレズ)の子午線通過を観測してトゥバン(りゅう座α星、当時の北極星)の位置を求める別案を示した。この方法だと大ピラミッドの方位は紀元前2562年ごろ、クフ王の治世の初めを示し、Spenceが行ったような年代の修正が要らない[3]。星説の中にも、複数の方法が並んでいる。
4. 太ようの かげで きめた、という せつ
4. 棒の影の先に印をつけると、東西の線が引ける
4. グノモン(影の棒)法 ── Dashの実験と「証拠は無い」という限界
こんどは、星では なくて 太ようの かげを つかう 考えです。じめんに 木の ぼうを 立てて、かげの 先に しるしを つけます[4]。
朝の かげと 夕がたの かげで、ぼうの 根もとから かげの 先までが 同じ 長さに なる 点が 1つずつ あります。この 2つの しるしを 線で むすぶと、東と 西の 線が できます[4]。
グレン・ダッシュさんは、2016年の 秋に、じっさいに ためしました。すると、ピラミッドの ずれと 同じ ぐらいの ぴったりさが 出た そうです[4]。
ただし、むかしの 人が この やり方を つかった しょうこは ありません。できる やり方の 1つ、という ことです[4]。
地面と棒だけでできる実験
太陽の影を使う方法は、地面に棒(ノーモン)を立て、1日のうちに影の先端に何か所か印をつけます。朝と夕方それぞれ、棒の根もとから影の先までが同じ長さになる点に印をつけ、その2つの印を結ぶと、東西の線が出ます[4]。
ダッシュは2016年9月22日の秋分の日に、実際にこの方法を試しました。出た精度はピラミッドの誤差と同じくらいだった、と紹介されています[4]。
できることと、やったことは別
ただし、古代にこの方法を使った証拠はありません。ダッシュ自身も、他の方法でも同じようにできるので、実際に使ったとは言えないとしています[4]。天文雑誌アストロノミーは、研究者の間では「古代の技術者は太陽の動きを使った」という見方が受け入れられていると紹介しますが、星の説もまだ残っています[6]。決着はついていません。
太陽を使う方法は、地面に立てた棒(グノモン)の影の先端を1日に何点か印し、棒の根もとから同じ長さになる2点を結んで東西線を得る(インディアンサークル法)。Dashは2016年9月22日の秋分に実験を行い、ピラミッドの誤差と同程度の精度が出ることを示した[4]。
ただし、これは「可能な方法の1つ」にとどまる。古代にこの方法を使った証拠はなく、ほかの方法でも同じ精度が出せる[4]。Astronomy誌は、古代の技術者が太陽の動きを使ったと研究者は受け入れていると述べる[6]。しかしSpence説やBelmonte説も併存するので、「太陽説で決着」とは言えない。
Khafreの約6分という数値は、Dash論文の紹介による[5]。
5. 三つ星を うつした、という 話は?
5. 「3基はオリオン座の三つ星を写した」という説の弱点
5. オリオン相関説 ── 1989年の提唱と、角度・年代・文書の3つの食いちがい
ギザには、大きな ピラミッドが 3つ ならんで います。この 3つが、オリオンざの 三つ星の ならびを うつした、と いう 話が あります[7]。1989年に ボーヴァルと いう 人が 発表して、1994年の 本で ひろまりました[7]。
この 話は、夜空の 星の ならびと 地上の ピラミッドを むすびつけた せつです。でも、おもに エジプトを 研究する 人たちは、この せつを みとめて いません[7]。
理由の 一つは、角度です。ピラミッドの ならびは 38度ほど。せつが 言う ころの 三つ星は、研究者の 計算で 47〜50度ほどで、合いません[7]。
もう 一つは、時代です。ピラミッドは 今から 4000年より 前の 王の 時代に 作られました。せつの ほうの 年は、それより ずっと 古い ころです[7]。
そうだと 言える しょうこも、書いた 文書も 見つかって いません[6]。
オリオン相関説とは
ギザの3つの大ピラミッドが、オリオン座の三つ星(アルニタク・アルニラム・ミンタカ)を地上に写したものだ、という説があります。1989年にボーヴァルが発表し、1994年の著書で広まりました[7]。夜空の星の並びと地上の配置を結びつけた説です。
主流の研究者が支持しない理由
批判は主に3つあります。1つめは角度です。3基の並びは約38度ですが、説が主張する紀元前10500年ごろの三つ星の向きは、天文学者クルップらの計算で約47〜50度となり、合いません。しかも比べるとき、地図を上下逆にしているという指摘もあります[7]。
2つめは年代です。ギザのピラミッドが作られたのは第4王朝(紀元前3千年紀)で、説が言う年代とは大きく離れます[7]。3つめは、設計したことを示すエジプトの文書も、物的な証拠もないことです。メンカウラー王のピラミッドは、後から付け足したように見えるという点も、説には都合が悪くなります[6]。
大ピラミッドの内部にある細い通気路も、星の方向に向くと唱えられてきました。しかし、おおむね向いているだけで、水平な部分や出口の大きな石があり、星を観察する用途には向かないようです[6]。ただし、通気路の本当の用途は分かっていません。
ボーヴァルは1989年にオリオン相関説を発表し、1994年の著書で広めた。ギザの3大ピラミッドが、オリオンの三つ星を地上に写した地図だという主張である[7]。主流のエジプト学者は、これを支持していない。
批判は3つに分けられる。第一に角度で、ピラミッド列は約38度だが、説が主張する紀元前10500年ごろの三つ星は約47〜50度と食いちがう。地図を上下逆にして比べているという指摘もある。第二に年代で、ギザのピラミッドは第4王朝(紀元前3千年紀)の建築だ[7]。第三に、物的証拠もそのような設計を示す文書も無く、メンカウラー王のピラミッドが後から付け足されたように見える点も指摘される[6]。
大ピラミッド内部の通気路(シャフト)も星に向くとされてきたが、おおむねの方向にとどまり、水平部分や出口の大石があって星の観察には向かない[6]。用途は不明なので、「星に向けた」と断定できない。なお「証拠がない」ことは「でたらめ」とは違い、検証して合わなかった、という意味である。
6. かげで 東と 西を さがして みよう
6. 棒を立てて、自分で東西の線を引いてみる
6. 出口 ── 影の棒を試す手順と、読みたい資料
はれた 日に、大人と いっしょに 外で やって みましょう。じめんに ぼうを 1本 立てます。ぼうが たおれないように、しっかり さします。
朝に、ぼうの かげの 先に しるしを つけます。ぼうの 根もとから しるしまでの 長さを、ひもで はかります。
夕がたに、ぼうの 根もとから かげの 先までが、その ひもの 長さと 同じに なる ところを さがして、しるしを つけます。2つの しるしを 線で むすぶと、東西の 線の できあがりです。
太ようを 直せつ 見ては いけません。ひるまの 外では、ぼうしを かぶって、水も もって いきましょう。
この 線は、どれくらい 正しい でしょうか。日を かえて もう 一回 やって、線が 同じに なるか、くらべて みましょう。
晴れた日に、大人といっしょに校庭や庭で試せます。地面に棒を1本、倒れないように立てます。朝に影の先に印をつけ、棒の根もとから印までの長さをひもで測ります。夕方、棒の根もとから影の先までがそのひもの長さと同じになる場所を探して、2つ目の印をつけます。
2つの印を結べば、東西の線になります。別の日にも同じことをして、線がどれくらい重なるかを比べると、方位を正確に決める難しさが体で分かってきます。
太陽を直接見ないこと、帽子と水分を用意することは守ってください。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
出典について:論文、研究機関や天文雑誌の紹介記事、科学ニュースを使った。何に使ったかは、それぞれの項目の最後に書いている。
- Spence, K. "Ancient Egyptian chronology and the astronomical orientation of pyramids", Nature 408 (2000). https://boinc.sk/sites/default/files/node/2018/08/Spence%202000.pdf (方位の精度、ずれの傾向、星による方位決定の提案、文書が無いことについて)
- Live Science "Great Pyramid near-perfect alignment". https://www.livescience.com/61799-great-pyramid-near-perfect-alignment.html (4分角より良いという精度の表現について)
- カナリア天体物理研究所(IAC)ニュース "New study on the astronomical orientation of the pyramids of Egypt". https://www.iac.es/en/outreach/news/new-study-astronomical-orientation-pyramids-egypt (ベルモンテの別案と紀元前2562年ごろについて)
- ScienceAlert "The secret of the pyramids' perfect alignment might be explained after all". https://www.sciencealert.com/the-secret-of-the-pyramids-perfect-alignment-might-be-explained-after-all (ダッシュの影の実験と、古代に使った証拠が無いことについて)
- Glen Dash のサイト(論文 "Occam's Egyptian Razor" ほか). https://www.glendash.com/archaeology/as-published.html (カフラー王のピラミッドの方位の数値について)
- Astronomy.com "Are the Egyptian pyramids aligned with the stars?". https://www.astronomy.com/science/are-the-egyptian-pyramids-aligned-with-the-stars/ (オリオン説への批判、太陽を使うという見方、通気路について)
- Wikipedia "Orion correlation theory". https://en.wikipedia.org/wiki/Orion_correlation_theory (オリオン相関説の提唱と、角度・年代の批判について)
なおした ところ
更新履歴
更新履歴(改版の記録)
- 初版を公開。
このサイトでは、公開した記事の本文は原則として書き直しません。誤りが見つかったときや、内容が古くなったときだけ手を入れ、その理由をこの欄に残します。